「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
264768
ホーム
|
日記
|
プロフィール
【フォローする】
【ログイン】
山さんの刑事部屋
Hacha!2
ハチャ・・・性別不明。正体不明の殺人鬼。
茶葉 ルミ・・・女性。県警捜査第一課主任。
蟹江・・・男性。茶葉の部下。
呉井・・・男性。同。
砂田 慧・・・女性。小説家。
●駅・ロータリー・朝
駅に到着する路線バス。
吐き出される通勤通学客。
みな無表情で駅舎の階段へ。
上り口横で佇む若いサラリーマン。
スマホ動画にニヤケながら喫煙。
まき散らす煙が辺り一面に漂う。
通り過ぎる人々の顰め顔。
階段の上方まで蔓延していく煙。
落ちた影に気づく若リーマン。
目の前に立っている中年リーマン。
気弱そうな顔を引きつらせて。
何か言いたげに震える口元。
若リーマン「なに?」
中年リーマン「ここダメな所だから・・・」
煙草と相手を見比べる若リーマン。
若リーマン「これ? もう終わる終わる」
中年リーマン「そういう問題じゃ・・・ほら
皆さん迷惑してるし・・・」
若リーマンのニヤケが消える。
若リーマン「みなさん? 皆さんってどこの
誰ですか? どなたか僕に迷惑してます?
ねえ? ねえっ?」
通り過ぎる人々に威嚇の大声。
目を合わさず早足になる他の客。
吸いかけ煙草を弾き飛ばす若リーマン。
火がついたまま中年リーマンの胸元へ。
若リーマン「オッサン、人の朝のルーティン
邪魔してんじゃねえ・・・」
途中で凍りつく悪態。
中年リーマンの居た場所に巨大な影。
構えた禍々しい斧を横薙ぎに。
鈍い音と共に転がる毛の生えた西瓜。
頭を失っても立っている若リーマン。
切株状の頸部から細々と漂う煙。
遅れて鮮血の噴水。
一瞬の沈黙の後に迸る悲鳴。
転がっている若リーマンの生首。
その眼窩に突っ込まれる吸殻。
開いた口腔にズームアップ。
飛び出すアメコミ風擬音。
二つの『Hacha!』が激突して『Hacha!2』に。
●書店・午後
レジカウンターの前に血だまり。
被せられたグレーシートの膨らみ。
せわしなく立ち働く鑑識課員たち。
屈み込んでシートを捲り上げる茶葉。
茶葉「うわ、なんだこれ」
不快感と好奇心の入り混じった表情。
後ろから覗き込む蟹江。
蟹江「例の外国人クレーマーです。一帯の店
で難癖つけまくってた奴ですよ」
茶葉「それは分かってんだよ。どっちが前で
どっちが後ろかってハナシ」
蟹江「どうも、上顎と下顎を力任せに引き裂
いたらしくて、そのあと舌と声帯を・・・
ああ、これ耳ですね」
手袋でクチャクチャ掻き回す。
茶葉「まるでガキの癇癪だな。身元は?」
蟹江「呉井に所持品を当たらせてます」
茶葉「呉井? 使えるのか?」
蟹江「朝飯抜きだったのが幸いしました」
茶葉「アイツ一遍『ゴア・ゴア・ガールズ』
あたりで鍛えてやらないとな。ホシは?」
蟹江「確保済みです、が・・・」
口ごもる蟹江、厳つい顔に困惑の色。
●A署・取調室・午後
机を挟んで刑事と若い女性書店員。
赤黒い汚れに覆われた書店制服。
●同・隣室・午後
マジックミラーから取調室を覗く茶葉。
俯いて震える書店員の姿。
茶葉「私をコケにする気か」
隣の蟹江を睨みつける。
蟹江「そんな・・・」
茶葉「だったらどういう茶番だ? え?」
硝子面を掌で叩く茶葉。
ビクッとミラーの方を見る書店員。
茶葉「二メートル近いムキムキの退役軍人を
あのネーチャンが素手で三枚おろしにした
ってか。それが本当ならガイシャの母国は
今すぐにでも三顧の礼をもって軍に迎える
べきだな」
蟹江「主任、声が大き・・・」
茶葉「目撃者は何て言ってるんだ」
蟹江「誰も彼も極度に混乱してまして・・・
でも事件発生時、一番近くにいたのが彼女
なのは確かです」
茶葉「レジ前なら防カメがあるだろ」
ますます深まる蟹江の困惑。
●同・会議室・午後
モニターに映し出される店内風景。
激昂してカウンターを叩く被害者。
カウンターの内側で縮こまる店員。
遠巻きに見ている他の客たち。
助太刀に駆け寄ってくる別の店員。
突如、画面内の動きが止まる。
ブロックノイズ混じりにブレる映像。
一瞬の黒味を挟んで、既に惨劇の後。
モニターを見つめる茶葉。
茶葉「蟹江」
蟹江「未編集ですよ」
茶葉「言われなくても分かってる」
茶葉の横顔を見ている蟹江。
蟹江「なんでちょっと嬉しそうなんですか」
イキイキと輝く茶葉の表情。
茶葉「地道な仕事も続けてはみるもんだな。
忘れた頃に悪くないヤマにぶち当たる」
蟹江「それ不謹慎じゃ・・・」
茶葉「彼女の押収物が見たい。取って来い。
いや、まどろっこしいな。私が行こう」
茶葉、返事を待たず部屋を飛び出す。
あたふたと後を追う蟹江。
消し忘れた映像の中で続くパニック。
●同・証拠保管庫・午後
机に広げられた書店員の持ち物。
ほとんどが年頃の女性らしい品。
興味なさげに手に取っては戻す茶葉。
最後に手にした一冊の文庫本。
マイカバーを外して表紙を確認。
茶葉「これはこれは」
蟹江「同僚の証言によると、マル被は極めて
心優しい性格。控えめで奥ゆかしく気弱で
自分の血を見るのも苦手。結婚するには、
いや、息子の嫁に迎えるにはこれ以上ない
ような女性ですよ」
茶葉「いつの時代の価値観だよ」
蟹江「主任とは真逆ですね」
茶葉「黙れ。これ見て同じことが言えるか」
毒々しい表紙を見せつける茶葉。
顔をしかめる蟹江。
蟹江「ホラー小説・・・ですか」
茶葉「鬼畜グログロ殺人鬼モノだ。そういや
ちょうど実写映画もやってたな」
蟹江、ますます渋面。
蟹江「まさか、観に行かれたんですか」
茶葉「行けないんだよ忙しすぎて。とにかく
お嬢ちゃんは私と同好の士ってこった」
文庫本を机に戻す茶葉。
茶葉「で、肝心の瞬間を見た奴は?」
蟹江「同じ同僚ですが、急につんざくような
金属音が頭の中に響いて気が遠くなった。
意識がはっきりした時には全て終わった後
で、血に染まった彼女が立ち尽くしていた
そうです。ただ・・・」
茶葉「もったいぶるな」
蟹江「いや、さすがにこれを信じるのは」
茶葉「お前が決めることじゃない」
蟹江、無理やり唾を飲み込む。
蟹江「見たそうです。彼女が一瞬だけ巨人に
変貌するのを」
保管庫に飛び込んでくる呉井。
呉井「こんな所で何やってんすか。探したん
ですよ主任!」
夢見顔で振り向く茶葉。
茶葉「何だお前か。NISAで貯蓄溶かした
みたいな顔してどうした」
呉井「ひどいなあ。こっちは朝昼抜きで駆け
ずり回ってるっていうのに」
蟹江「どうせあんなもん見た後で何も食えん
くせに。それより用件は?」
呉井「別の所轄から応援要請です。うちの班
で何とかしろって係長が」
茶葉「本屋のヤマで手一杯だと伝えろ。暇な
連中はいくらでもいるだろ」
呉井「それが・・・今朝から妙にバタついて
るんすよ・・・」
茶葉「チッ」
押収物を散らかしたまま動く茶葉。
蟹江「これどうするんですか」
茶葉「どうせ戻るからそのままにしとけ」
●覆面パトカー車内・午後
運転する呉井、茶葉と蟹江は後部。
茶葉、沈思黙考。
蟹江「あの、主任・・・」
茶葉「少し黙っててくれ」
蟹江と呉井、ミラー越しにヤレヤレ。
心なしかサイレンが耳につく街なか。
警察官の姿も目立つ。
ひっきりなしに喚く警察無線。
茶葉「・・・巨人」
蟹江「はい?」
茶葉「三日前の駅のヤマ」
蟹江「ああ、首狩リーマン」
茶葉「アレの目撃者も同じこと言ってたぞ。
一瞬、斧を持った大男が見えたって」
後ろに顔を向ける呉井。
呉井「あのホシ、平凡なオッチャンすよね。
資料見たけど大男って感じじゃ・・・」
蟹江「おい、よそ見するな」
呉井「ウス・・・」
茶葉「しかも現場から斧は発見されなかった。
その他の凶器もだ」
思わず身震いする蟹江。
隣の茶葉、ニヤリ。
茶葉「怖いのか」
蟹江「物理法則の通用しない輩は苦手で」
茶葉「ザルドスみたいな顔して、案外可愛い
とこあるんだな」
後ろに顔を向ける呉井。
呉井「血ドバドバ系以外なら俺平気っすよ。
学生時代も肝試し行きまくってましたし」
運転席の背もたれを蹴る蟹江。
蟹江「いいから前を向け」
呉井「ウス・・・」
●横断歩道~覆面パトカー車内・夕
規制線の内側。
転がったハイブリッド車の残骸。
丸められたティッシュのよう。
その背後に多重追突の車たち。
反対車線には無傷のトラック。
横断歩道の手前で停車して。
*****
歩道に座り込んだ男子小学生。
肩を抱いて落ち着かせる婦警。
腰を落として話を聞こうとする呉井。
*****
少し離れた覆面パトの車内。
後部座席に茶葉とトラック運転手。
屈強な運ちゃんが怯えきって。
ネクター缶を差し出す茶葉。
戸惑いつつも受け取る運転手。
茶葉「ゆっくりでいいですよ」
運ちゃん「小学生が渡りたそうにしてたんで
俺、止まったんですね。けど対向車がガン
無視で飛ばしやがるもんだから・・・」
●横断歩道・午後(回想)
トラックのフロントガラス越し。
止まる気のない対向車の流れ。
横断歩道手前で立ち尽くす男子小学生。
軽くクラクションを鳴らす運ちゃん。
すれ違いざま対向車から罵声。
一瞬、車の流れが途切れて。
渡り始める小学生。
奥から減速せず迫るハイブリッド車。
運ちゃん「あっ、バカ!」
悲鳴のようなホーン。
棒立ちになる小学生。
その時、耳を突き刺すような金属音。
頭を抱えて苦しむ運ちゃん。
次の瞬間、顔を上げて呆然。
横断歩道に仁王立つ薄汚れた大男。
素手でハイブリッド車を止めている。
煙を上げて空回る前輪。
大男、車体を軽々と持ち上げて。
そのまま地面に叩きつける。
運転手の断末魔ごと潰される運転席。
運ちゃんの瞳に映る惨劇の一部始終。
●覆面パトカー車内・夕
缶を握り締めた手に落ちる涙。
茶葉「どうぞ、ぐいっと」
運ちゃん「・・・何でコレなんですか」
茶葉「ネクターの語源は神の酒、不死の生命
の源。元気がない時は効きますよ」
半信半疑で口をつける運ちゃん。
すぐに喉を鳴らして飲み始める。
運転席に乗り込む蟹江。
蟹江「子供は呉井に任せましょう。どうやら
気に入られたみたいで」
窓から見える呉井の姿。
小学生といっせーのーで遊んでいる。
茶葉「ここは駅前と同じ管轄だったな」
蟹江「ええ」
茶葉「このまま署までお送りします。ご面倒
ですが調書作成にご協力を」
殊勝に頷く運ちゃん。
茶葉「それと・・・無駄かもしれませんが、
一応ドラレコの提出も」
●B署・会議室・夜
首狩リーマン事件捜査本部。
捜査員はあらかた出払っている。
机の所々で仮眠する刑事たち。
ホワイトボードに貼られた写真。
顔を近づけて凝視する茶葉と蟹江。
茶葉「見ろ、ここ」
蟹江「首狩リーマンの所持品ですね」
茶葉「キャッシュレスとは無縁だな」
財布の横に広げられた品々。
僅かな紙幣、細かい硬貨。
大量のポイントカードとレシート。
その中に映画の半券。
茶葉「ビンゴだ」
●覆面パトカー車内・夜
地下駐車場に停めた覆面パト。
運転席に蟹江。
まるごとソーセージを食っている。
後部席に茶葉。
ウィダーインゼリーを啜っている。
蟹江「ドラレコ、やっぱり駄目でしたね」
茶葉「肖像権にうるさいヤツだ。●●ニーズ
かよ」
蟹江「黒塗りになるどころか時間そのものが
消し飛んでましたけどね」
コーヒー牛乳でパンを流し込む。
蟹江「それはそうと本気ですか。あの映画が
鍵だなんて」
茶葉「むしろ、それしか共通項がない」
蟹江「偶然じゃないですかね」
茶葉「大男はどうなる。証言突き合わせたら
映画の殺人鬼と瓜二つだったぞ」
蟹江「そこは・・・集団幻覚、とか?」
茶葉「じゃあ、何もないのに小三が素手で車
をスクラップにしたって言うのか」
黙り込む蟹江。
茶葉のスマホが鳴る。
茶葉「どうだ、話は聞けたか」
ふと何かを思いつく蟹江。
茶葉「よくやった。一休みしていいぞ」
通話を終える茶葉。
蟹江「百歩譲ってですよ、あの映画がホシに
何らかの影響を与えていたとして、小学生
は観られませんよね。R15指定ですし。
まだ上映中だからソフトも配信も無い」
スマホを操作して蟹江に示す茶葉。
茶葉「呉井が聞き出してくれた。ここで観た
そうだ」
スマホの画面、怪しげな動画サイト。
茶葉「流出モノだ。ガキでも簡単に行き着く。
サイバー対策課のケツを叩かなきゃな」
●シネコン・ロビー・午前
閑散としたロビー。
ポップコーンを抱えた茶葉。
トイレから戻ってくる呉井。
心なしか顔色が悪い。
茶葉「さすがに平日の昼前は空いてるな」
呉井「勘弁してくださいよ、何で俺なんすか。
蟹江さんでいいじゃないすか」
涙目で訴える呉井。
茶葉「アイツには他の仕事を任せてる。最近
のヤマに類似の案件がないかどうか。てか、
ここまで来て今さら愚痴るな」
呉井「リング系ならどんと来いなのに」
茶葉「これでも食って機嫌直せ。うまいぞ、
塩キャラメル味」
呉井「遠慮するっす。せっかく前もって全部
出してきたんすから・・・」
開場案内が流れる。
疎らに動く老若男女。
茶葉「楽しみだな」
呉井「仕事っすよね?」
●同・客席・午前
五列目真ん中に座る茶葉と呉井。
二人の前に座る者はいない。
呉井「もうちょっと後ろがよかったんじゃ」
茶葉「この辺が一番観やすいんだ」
呉井「だから仕事・・・」
映画泥棒の映像が始まる。
後方からカップルのイチャイチャ声。
茶葉「・・・ラブホかよ」
*****
スクリーンで繰り広げられる殺戮。
目を覆う呉井、身を乗り出す茶葉。
*****
スクリーン内、迷路を進むヒロイン。
静かな中で響くカップルの会話。
カップル女「もうやだあ」
カップル男「平気へーき、ここ出ねーから。
もうちょい先にメリーゴーランドのシーン
あんだけど、やべーのそこだから」
カップル女「えー、合図してよマジで」
後ろを気にする呉井。
呉井「・・・注意しましょうか」
茶葉「ほっとけ」
後方からガタンという異音。
カップル男「なんだてめえ」
大声に振り向く茶葉と呉井。
数列後ろ、カップルの隣に立つ影。
反射光に朧に照らされたオタク青年。
オタク「あなたの家じゃないんですけど」
カップル男「あ?」
オタク「みんなお金払って・・・」
カップル男「金なら俺らも払ってんだよ!」
険悪な雰囲気にざわつく周りの客。
席を立って出て行く者も。
カップル男「文句あんならテメーが出てけ」
カップル女「そーだそーだ。チー牛はおうち
でオナってろよ」
茶葉が立ち上がろうとした瞬間。
スピーカーから凶悪な金属音。
耐えられずその場に蹲る茶葉たち。
スクリーンで回るメリーゴーランド。
呉井「主任、あれ!」
呉井の指す先。
席から吊り上げられるカップル男。
喉首を大男の手が絞め上げている。
隣で腰を抜かして叫ぶカップル女。
茶葉「出た!」
ポップコーンが宙を舞う。
どこからか取り出した特殊警棒。
座席の背を乗り越えようとする茶葉。
その前に千切れるカップル男の首。
ストンと座席に落ちる胴体。
その手がカップル女の太腿に。
カップル女「△※●♯%~!!!」
女のミニスカの奥から噴出する液体。
僅かな観客が雲の子を散らす。
スクリーンでも殺人鬼が暴れ始めて。
大男、生首をスクリーンへ投擲。
当たった瞬間、スクリーンも血の海に。
続いてカップル女の胸を掴む大男。
カップル女「◎■♭$~!!!」
茶葉「やめろ!」
大男の手首に叩きつけられる警棒。
しかし、その手はびくともしない。
茶葉を横殴りにする大男の腕。
その弾みで布地ごと抉り取られる胸。
カップル女、血泡を吹いて悶絶。
吹っ飛んだ茶葉を受け止める呉井。
掌中の肉塊を喰い始める大男。
もう一度躍りかかる茶葉。
大男の脳天めがけて振り下ろす警棒。
次の瞬間、大男がオタクに戻る。
警棒をもろに食らって砕ける頭頂。
崩れ落ちるオタク、蒼褪める茶葉。
●同・ロビー・午後
担架で運ばれていく三体の遺体。
それを悄然と見送る茶葉。
震える手で飴の袋を開けようとして。
床に落ちた飴を溜息と共にポケットに。
所轄の刑事と話している呉井。
茶葉の様子に気づいて傍に歩み寄る。
呉井「・・・大丈夫っすよ」
茶葉「大丈夫じゃない。無辜の一般市民を殺
めてしまった」
呉井「アイツは殺人鬼っす」
茶葉「違う」
呉井「違いません!」
ロビーに響く呉井の声。
虚ろな瞳で呉井の顔を見上げる茶葉。
いつになく引き締まった呉井の表情。
呉井「主任は俺が守るっす」
自然に茶葉の肩を抱き寄せる。
●県警・捜査第一課強行犯係・午前
係長の机の上に茶葉の手帳と手錠。
係長「茶葉ルミ巡査部長に無期限の謹慎を申
し渡す。別命あるまで自宅にて待機せよ」
敬礼の後、踵を返す制服姿の茶葉。
●同・女子寮・夜
煌々と明かりの灯ったワンルーム。
つけっぱなしのテレビから笑い声。
茶葉、テーブルに突っ伏して酩酊。
無防備な部屋着姿。
床にまで散乱した酒の空缶。
チャイムが鳴るも呻き声で返すだけ。
無施錠のドアが開く。
遠慮がちに顔を覗かせる蟹江。
蟹江「良かった、生きてて」
茶葉「・・・ここは女子寮だぞ、不審者め」
顔も上げずに呟く茶葉。
蟹江「ちゃんと許可取って入りました。主任
こそ不用心すぎです」
茶葉「それもそうだ。お前みたいな悪人面を
フリーパスで通すなんて。管理人に言って
やらなきゃ・・・」
腑抜ける語尾。
蟹江「まともに食ってないと思ったんで」
スーパーの袋をぶら下げて。
茶葉「いつまで突っ立ってるんだ。さっさと
上がれ。蚊が入る」
*****
ペットボトル水をがぶ飲みする茶葉。
ゴミ袋片手に空缶を拾う蟹江。
蟹江「『ほろよい』で泥酔する人見たの初めて
かも」
茶葉「悪いか」
蟹江「いえ別に・・・」
ゴミ袋をキッチンに押し込んだ蟹江。
手を洗って茶葉の向かいに座る。
蟹江「テレビ、消しましょうか」
茶葉「このままでいい。静かだと落ち着かん。
私はテレビっ子だからな」
個人的な感想を垂れ流す通販番組。
蟹江「例の件、恐らくですが適正な制圧行為
で方がつきそうです」
茶葉「・・・・・・」
蟹江「呉井が頑張りましてね。あの時館内に
いた目撃者を一人一人訪ね歩いて、主任に
有利な証言を集めたんです。アイツ、妙に
張り切っちゃって」
茶葉「・・・・・・」
蟹江「カップルを惨殺したのは人間離れした
殺人鬼だった、ああでもしなきゃその場に
いた人間は皆殺しになっていたと、みんな
口を揃えて話してくれました」
茶葉「・・・まだ残ってるんだ」
蟹江「え」
茶葉「頭を叩き割った時の、頭蓋骨と脳味噌
の混じり合う感触が・・・」
震える手、零れる水。
茶葉「やっぱりキツイな、生の暴力は」
蟹江、茶葉の手首をそっと押さえる。
重なる二人の視線。
蟹江「あの日以降、県内だけでも五件。電車
の車内、銀行、ラーメン店の行列、ジム、
病院。殺害方法は刺殺に撲殺に圧殺。元々
現場にあったダンベル以外の凶器はどこか
へ消失。一人ないし二人を殺したあとホシ
は忘我状態に陥り逮捕時も無抵抗。そして
大男の幻像。何もかも同じです」
テレビに視線を送る茶葉。
一般主婦がクレンジング体験中。
茶葉「その割にはマスコミが静かだな」
蟹江「報道協定ですよ。パニック防止のため
というより、我々もマスコミもまだ事件に
ちゃんと向き合えてないんです。余りにも
荒唐無稽すぎて」
茶葉「SNSは」
蟹江「そっちも不気味なくらい凪いでますよ。
映像に残らん以上、誰かが騒ぎ立てた所で
妄想扱いされるだけでしょう。念のため、
現場に居合わせた人間には例外なく緘口令
が敷かれてますが」
スッと立ち上がる茶葉。
何かを考えながら彷徨を始める。
短パンの太腿から目を逸らす蟹江。
茶葉「映画・・・あの映画は」
蟹江「全員鑑賞済みでした」
茶葉「まずいな、このままじゃ」
蟹江「関係各所に手を回して上映中止に持ち
込む方針です。早ければ一両日中にも」
茶葉の足、止まらない。
茶葉「平時だったら国家権力による検閲には
大反対なんだが・・・今は致し方ないな。
それで止まると思うか」
蟹江「やってみないことには。ただ・・・」
茶葉「何だ」
蟹江「都内のスタジオで続編が撮影中です」
茶葉の足が止まる。
蟹江「明日、俺と呉井で行ってみます」
●撮影所・第四ステージ・午後
組み上げられた廃ホテルのセット。
リハーサル直前の慌ただしい空気。
蟹江と呉井、入口からひょっこり。
二人を止める警備員。
警備員「ちょっと。勝手に入ってきちゃダメ
だって」
警察手帳を示す蟹江。
蟹江「ここの責任者を」
*****
刑事たちの前に立つプロデューサー。
見下した視線が二人を往復。
P「わざわざ●●県警さんがお出ましとは。
何のご用でしょうか。管轄違いなのでは」
蟹江「要請の件、まだお聞きじゃないみたい
ですね」
P「要請というと?」
蟹江「制作中断の」
P「は? 何を言って・・・」
蟹江「製作委員会には既に話が行っている筈
ですから遅かれ早かれ現場にも指示がある
と思います。ひとまず撮影は・・・」
P「馬鹿言っちゃいけませんよ。撮影が一日
止まったら金がいくら飛んでいくかご存知
ないでしょ。それとも何ですか、力ずくで
止めるとでも。法的根拠はあるんですか」
蟹江「まあ落ち着いて。これにはよんどころ
ない事情がありまして・・・」
P「何たる横暴だ。これじゃ表現の自由への
挑戦じゃないか」
揉める二人を尻目に歩き出す呉井。
セットをあちこちぶらぶら見学。
照明技師「そこ邪魔」
呉井「あー、スイマセン」
照明部に叱られてセットの片隅へ。
柱に寄りかかろうとして軽さに驚く。
呉井「おっとっと」
傾いた柱を直す呉井の背後。
暗がりに浮かび上がる大男の影。
気配に振り向いた呉井、仰天。
咄嗟に特殊警棒を構える。
慌てて斧を地面に置く大男。
殺人鬼俳優「ちょいちょい、何もしないよ。
俺、役者役者」
呉井「何だよもう・・・」
脱力した呉井、改めて大男を観察。
血糊で汚れた衣装、醜悪な面相。
呉井「はー、よく出来てるなあ。特殊メイク
ってヤツっすか」
殺人鬼俳優「朝から今までかかったからね。
大変なのよコレ。飯も食いに行けないし」
セカンド助監「保田さーん、カメリハお願い
しまーす」
殺人鬼俳優「ほいほい」
呼ばれた方へ行きかける大男。
セカンド助監「斧、斧」
殺人鬼俳優「いけね」
呉井「あ、これっすか」
斧を拾おうとした呉井、重さに怯む。
呉井「意外としっかりしてるんすね」
殺人鬼俳優「アップ用だからね。アクション
用は全然軽いんだよ。ありがとう」
斧を受け取って立ち去る大男。
近くの扉が開いて若手女優が現場入り。
王侯貴族のようにマネ三人を従えて。
呉井の傍を通る時、女優スマイル。
駆け寄る女性サード助監督。
サード助監「おはようございます!」
挨拶を軽く無視する若手女優。
サード助監「あの、先程から殺陣師の先生が
お待ちです」
若手女優「えー、今日アクションだったの。
聞いてないんですけどぉ」
助監には応えず、マネに向かって。
マネージャーA「香盤表に書いてますよ」
若手女優「いちいち見るわけないじゃん」
マネージャーB「昨夜メッセで送りました」
若手女優「バッテリー切れてたから知らない。
ねえ、今日ってスタントでよくない?」
マネージャーC「でも、ここは見せ場だから
自分でやりたいって」
若手女優「痣とか作るのイヤ。綺麗にしとき
たいの。だって今晩久しぶりに・・・」
サード助監「あの、先生が・・・」
サード助監の手を払う若手女優。
スクリプト用紙が宙を舞う。
若手女優「勘違いすんな。アンタ、アタシと
対等に話せる立場じゃないんだ。何か用が
あるならマネージャー通せよ」
そのまま去りかけて振り返る。
紙を拾い集める助監に侮蔑の眼差し。
若手女優「ダッサ」
サード助監の手の甲に涙が一雫。
呉井「これ」
顔を上げた助監の目の前に紙束。
拾った紙を差し出す呉井の笑顔。
呉井「お仕事大変っすね」
サード助監「あ、あ、どうも・・・」
口の中で呟いて紙束をひったくる。
早足で立ち去る小さな背中。
小道具「どいてどいて、通るよー」
台車を押して呉井の横を通過。
バラバラ死体のプロップ満載で。
呉井、うへー顔。
呉井「作り物作り物・・・」
監督「冗談じゃないよ!」
響き渡る声に目を向ける呉井。
蟹江の相手が二人になっている。
*****
Pと監督に詰め寄られている蟹江。
戻ってくる呉井。
呉井「どうしたんすか」
蟹江「どうしたもこうしたも・・・こちらは
監督さんだ」
呉井、監督にペコリ。
監督、呉井をジロリ。
監督「・・・とにかくだね、そんな突拍子も
ない理由で撮影を止めるわけにはいかない
んだよ。もう公開日もハコも決まってる」
呉井「蟹江さん、話しちゃったんすか」
蟹江「どうしようもなかったんだ」
呉井「主任に何て言うんすか」
蟹江「そんなこと気にしてる場合か」
P「いい加減にしなさいよ。まさかお宅ら、
示し合わせて我々をおちょくってるんじゃ」
蟹江「とんでもない。監督、もういちどよく
お考えください。あなたの撮られた映画が
善良な一般市民を次々と狂気に・・・」
監督「ちょっと待った。今上映してる第一作
は僕の仕事じゃないぞ」
蟹江「え」
虚をつかれた蟹江。
P「前作の宅見監督が逝去されたので急遽、
花谷さんに代役をお受け頂いたんです」
監督「呪いだか何だか知らんが、そんなこと
まで僕のせいにしないでくれ。それに代役
だとは思ってないぞ。受けたからには僕の
映画だ。前作に関係なく、僕しか撮れない
傑作に・・・」
若手女優「何すんのよ、クソダサ女!」
セット中央の怒声に集まる注目。
頭から血糊を被った女優、怒髪天。
サード助監、土下座せんばかり。
サード助監「も、申し訳ありません。すぐに
シャワーを・・・」
若手女優「近づくな無能! 無能菌がうつる
だろゴミクズ!」
赦しを乞う手を蹴りつける女優。
その隣でなだめる大男。
殺人鬼俳優「ユズちゃん、穏便に行こうよ。
彼女だってわざとじゃないんだから」
若手女優「だってこれで二度目なんだもん。
この前だってロケバスで・・・」
サード助監を突き飛ばすチーフ助監。
チーフ助監「ここは僕に免じてご容赦下さい。
衣装の替えは用意します。二時間休憩入れ
ますからゆっくり気持ちを整えて・・・」
若手女優「えー、やる気なくなっちゃったん
だけどなー」
チーフ助監「そう言わず、ね。今日のケータ
リング、千本屋のフルーツサンドですよ」
若手女優「えっ、そうなの?」
女優にへつらうチーフ助監。
傍らのサード助監に笑顔を向けて。
チーフ助監「使えねえなら、大人しく股だけ
開いてろ。みんな溜まってるからよ」
本人にしか聞こえない囁き声。
サード助監の嗚咽が止まる。
セットを破壊しそうな金属音。
堪らず耳を塞ぐその場の人々。
呉井「蟹江さん、この音・・・」
蟹江「畜生、これか!」
呉井と蟹江の視線の先。
女優の傍に二人の大男。
一人は音に苦しみ、一人は平然。
本物の手に握られた巨大な銛。
頭を抱えて苦悶するチーフ助監。
その後頭部に銛が突き立てられる。
貫通して床に釘づけになる顔面。
殺人鬼、抜こうとするが抜けない。
銛の返しが骨に引っかかって。
首根っこを踏みつける殺人鬼。
そのまま強引に銛を抜く。
メリメリと頭皮を裂く頭蓋骨。
スポンと気持ちよく抜ける銛。
先端に頭蓋骨を刺したまま。
チーフ助監の頭部はペッタンコ。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
真っ先にいなくなる三人のマネ。
女優を庇う殺人鬼俳優。
殺人鬼に簡単に払いのけられて。
放心した女優に迫る爛れた手。
呉井「こっちだ、バケモノ!」
猛烈な勢いで噴出する白煙。
一気に殺人鬼を覆い隠す。
大型消火器を構える呉井。
呉井「蟹江さん、みんなの避難誘導を」
蟹江「一人でいけるか」
呉井「なめないでくださいよ。俺だって黒帯
持ってるんすから」
蟹江「無茶すんなよ」
消火器を引きずって走り出す呉井。
パニックの渦中に飛び込む蟹江。
蟹江「押さないで! 動けない人はみんなで
助け合って! 監督さん何やってるの!」
虚ろな表情で佇む監督。
監督「映画が・・・俺の傑作が・・・」
*****
消火剤をまともに食らった殺人鬼。
乱暴に搔き毟った眼から粘液が滴る。
漸く晴れてきた視界に呉井。
横ざまに振るった消火器が顔面に。
堪らず膝をつく殺人鬼。
呉井「保田さん、彼女を早く!」
薄れる煙の中で女優の手首を掴む手。
殺人鬼俳優の顔を見て、女優絶叫。
殺人鬼俳優「ユズちゃんよく見て、俺だよ」
紅白まだらの顔で叫び続ける女優。
諦めて強引に肩に担ぐ殺人鬼俳優。
その背中を追おうとする殺人鬼。
呉井、再度消火器を振り上げる。
繰り出された銛、砕ける頭蓋骨。
銛の尖端が消火器に刺さっている。
破裂する消火器、吹っ飛ぶ呉井。
●タクシー車内・午後
後部席に茶葉。
スマホの動画を凝視。
映画チャンネルの監督インタビュー。
得々と答える二作目の監督。
インタビュアー「第一作の公開を控える中、
早くも続編の撮影が始まろうとしています。
異例のスケジュールですが難しい面などは
ありますか」
監督「いえ、特には。そもそも監督の交替が
あったのでね。前作をなるべく意識せずに
進めてます。完パケも観てないですし」
インタビュアー「まだご覧になれていないと
いうことですか」
監督「いやいや。社内試写はあったけど行か
なかったの。宅見監督のことはリスペクト
してますが、真似をするつもりはさらさら
ないので。流石に原作には目を通しました
けどね」
インタビュアー「大胆なアプローチですね」
監督「ストーリー的につながってるわけじゃ
ないし、ガラッと変えてもいいって言われ
てる。僕の色を出せたらと思います」
インタビュアー「五年ぶりの劇場作品という
ことで、意気込みも格別なのでは」
監督「このジャンルは自分の原点ですから。
きっと観客の度肝を抜いてみせますよ」
動画を一時停止する茶葉。
シークバーを戻して再び再生。
監督「・・・完パケも観てないですし」
茶葉「どういうことだ・・・」
車窓に目を移す茶葉。
重く澱んだ空と郊外風景。
茶葉「蟹江・・・呉井・・・」
●県警・女子寮・夜(回想)
座る蟹江を見下ろす茶葉。
蟹江「明日、俺と呉井で行ってみます」
茶葉「・・・お前、怖くないのか」
蟹江「え」
茶葉「もし超常現象的なアレだったら」
蟹江、強面を綻ばせる。
蟹江「足が無い奴は呉井に任せますよ。逆に、
ちゃんと殴れる奴なら俺の出番です」
●撮影所・第四ステージ・午後
朦朧とした呉井の視界の中。
横たわっていた殺人鬼が起き上がる。
銛を拾って出口の方へ一歩。
そこへ走り込んでくる蟹江。
殺人鬼の横腹にタックルを仕掛ける。
殺人鬼、一瞬たじろぐが倒れない。
蟹江「呉井、彼女たちを頼む! 外から鍵を
掛けられた!」
呉井の視線、ゆっくりと出口へ。
扉をガンガン叩く殺人鬼俳優。
その傍でへたり込む若手女優。
しがみつく蟹江を片手で剥がす殺人鬼。
そのまま人形のように放り捨てる。
蟹江、床に打ちつけられて沈黙。
*****
俯せに倒れている呉井。
その両手はズタズタに傷ついている。
伸ばした指に触れる斧。
何とか立ち上がって斧を手に。
雄叫びと共に殺人鬼に突進!
ありったけの力で背中に叩きつける。
無情にも砕け散るバルサ材の斧。
殺人鬼、蚊に刺された程も感じず。
一歩ずつ女優たちに迫ってゆく。
呉井「こっちだ・・・こっちを向け!」
効かない挑発。
呉井の脳裏をよぎる少し前の光景。
サード助監を虐げる女優やチーフの姿。
呉井「・・・おい、役立たず」
殺人鬼の歩みが止まる。
呉井「どんな夢があるのか知らないけどさ、
お前みたいなどんくさい女に映画なんか作
れるもんか。悪いこと言わないから実家に
帰って家事手伝いでもしてな」
ゆっくり呉井に向き直る殺人鬼。
銛を構えて大股に向かってくる。
呉井「・・・あっちか」
殺人鬼の背後に見える床。
落ちているもう一つの斧。
銛の一撃をかいくぐった呉井。
股の間をスライディングで抜けて。
斧を手にして反転、殺人鬼の右脛へ。
意外にもすんなり食い込む刃。
惰性で次の一歩を踏み出す殺人鬼。
皮一枚で繋がった脚が完全に千切れる。
バランスを崩し前方に倒れる殺人鬼。
持っていた銛が自分の顔面を貫く。
呉井の目の前で動かなくなる殺人鬼。
塵となって崩れてゆく銛。
殺人鬼の姿、サード助監に戻る。
助監の上半身を抱き上げる呉井。
まだ少女の面影を残した死に顔。
片目から血を流し、片足を失って。
呉井「ごめんよ・・・」
沈痛な呉井の表情。
*****
全身痛そうに起き上がる蟹江。
助監を抱いたままの呉井が気づく。
呉井「蟹江さん、無事だったんすね!」
蟹江「無事じゃねえって。お前こそ生きてる
なんて奇跡だな」
呉井「へへ、ガンバリました」
蟹江「主任に褒められたい一心だろ」
呉井「わかります?」
蟹江「わかるよ。俺だって・・・」
蟹江の笑顔から煙がブスブス。
呉井「蟹江さん!?」
笑顔のまま炎に包まれる蟹江。
ゆっくり崩れ落ちるその背後に。
火炎放射器を手にした監督。
呉井「な、な、なんてこと・・・」
監督「僕の傑作を台無しにしやがって・・・
こうなったら何もかも全部・・・」
呟きながら殺人鬼に変化してゆく。
火炎放射器のノズル、呉井に向いて。
●タクシー車内・午後
どこからか聞こえるサイレン。
運転手「あれ? 近いな・・・」
茶葉「撮影所は」
運転手「すぐそこです。あっ、煙が!」
住宅街の向こうに立ち昇る黒煙。
運転手「これ以上は進めませんよ」
渋滞の間を駆け抜けてゆく野次馬。
茶葉「ここでいい、ありがとう」
釣りも受け取らず飛び出す茶葉。
●撮影所・前・夕
茶葉、人ごみをかき分けて門の前へ。
門の中から避難するスタッフたち。
入ろうとする茶葉を制止する警備員。
警備員「お嬢さん、ダメだ。火が回ってもう
手がつけられんよ。会社の人かい? それ
だったら・・・」
茶葉「警察だ」
それっぽい皮ケースを一瞬だけ示す。
騙されて敬礼する警備員。
茶葉「通報は?」
警備員「ハイ、消防には。今聞こえてるのが
たぶんそれかと。あと、警察は今から」
茶葉「すぐ電話しろ。殺人映画関係だと言え。
担当部署に繋がるはずだ」
警備員「は、はあ・・・」
警備員を尻目に門内に入る茶葉。
すれ違う関係者の中に異様な二人。
殺人鬼俳優と若手女優。
血糊や消火剤、煤に塗れて気息奄々。
茶葉「殺人鬼! その女から離れろ!」
大声に驚く殺人鬼俳優。
トルクレンチを握った茶葉が鬼の形相。
茶葉「今度こそ生け捕りにしてやる!」
殺人鬼俳優「待った! これメイク! 本物
はアッチ!」
煙の源である第四ステージを指さす。
茶葉「本物だと。やっぱり現れたのか」
殺人鬼俳優「まだ中に刑事さんが・・・早く
しないと・・・」
最後まで聞かずに駆け出す茶葉。
●同・第四ステージ・外・夕
入口から噴き上がる猛煙。
その向うに見える火の海。
セットのホテルが崩壊してゆく。
凄まじい熱風が茶葉を襲う。
中の様子を窺うこともできない。
茶葉「蟹江! 呉井! 返事をしろ!」
紅蓮地獄の中を近づいてくる人影。
茶葉「蟹江? それとも呉井か? 早く出て
こい! 崩れるぞ!」
外に踏み出した生存者。
全身に炎を纏った殺人鬼。
茶葉「貴様!」
殺人鬼、燃えながらよろめき進む。
茶葉の目の前で力尽き、くずおれて。
次第に鎮まる体の炎。
焦げた外皮がボロボロ剥がれ落ちる。
中から現れる監督の歪んだ顔。
消防士「危険です、どいて!」
茶葉の前に出る消防士。
死体に吹きつけられる消火剤。
茶葉「花谷監督・・・」
呆然とする茶葉の背後に続々消防車。
●県警・霊安室・夜
シーツのかかった二つの寝台。
その間に立つ茶葉。
一方の香炉に火のついた煙草を刺す。
茶葉「私の前で遠慮してただろ。心置きなく
吸え」
一方のシーツの膨らみを撫でて。
茶葉「今度夢に出てこい。デートしてやる」
背を向けて部屋から出ていく茶葉。
●同・銃器保管庫・夜
うつらうつらする当直警察官。
足音に気づいて目を覚ます。
窓口の前で止まる影。
当直警察官「茶葉主任? 確か謹慎中だった
のでは・・・」
非常灯に照らされる茶葉の無表情。
●砂田邸・書斎・夜
原稿用紙に万年筆を走らせる砂田慧。
デスク周りを除いて闇に沈む室内。
砂田「もう少し待ってくださいね。この章を
最後まで書いてしまいたいから」
背後の闇からヌッと現れる茶葉。
手にベレッタ92FS。
茶葉「暗い所で読み書きするなってお母さん
に叱られなかったですか」
砂田「叱られましたよ。でもこの方が気分が
乗って筆が進むんです。乱歩みたいに」
答えながらも筆は止めない。
茶葉「乱歩が蝋燭の明かりで書いたって話は
後付けの嘘っぱちですけどね」
砂田「あら、そうなんですか」
くすくす笑う砂田。
永遠の文学少女の雰囲気。
茶葉の表情が厳しさを増す。
茶葉「・・・どうしてあんな事を」
砂田「あんな事?」
茶葉「とぼけないでください。あの悍ましい
殺人鬼を生み出したのはあなたでしょ」
砂田「ああ、ハチャね!」
明るく弾む砂田の声。
砂田「あの子、元気に育ったかしら。ほら、
私この部屋から余り出ないから世間の動き
に疎いんです。時おり心の中で話しかけて
くれるのはいいけど口下手でしょ、要領を
得なくって」
茶葉「ふざけるのもいい加減にしろ!」
静かな夜を震わせる茶葉の一喝。
ぴたりと止まる砂田の筆先。
茶葉「お前のせいで何人死んだと思ってる。
それだけじゃない。今までゴミのポイ捨て
すらしたことがない模範的市民が手を血で
汚して・・・」
砂田「模範的市民だからこそです」
茶葉「え」
砂田「人を傷つけるくらいなら自分が傷つく
ことを選ぶような人、彼らの中にも他者に
対する怒りや殺意は確実に存在します」
茶葉「・・・・・・」
砂田「私はそれを解放してあげただけ」
茶葉「・・・・・・」
砂田「臨界点まで抑圧された怒りは時として
不特定多数を巻き込むわ。誰でもよかった、
なんて不毛な殺人はもう沢山。そうなる前
にガス抜きをしてあげなくちゃ」
砂田の項に銃口を押しつける茶葉。
茶葉「・・・何様のつもりだ」
砂田「神とでも答えたらご満足? でも残念、
私はただのホラー小説家よ」
万年筆を宙で踊らせるような手つき。
砂田「あなた、警察の人でしょ。どうやって
私までたどり着いたの」
茶葉「最初はあの映画が感染源だと思った。
でも違ってた。本屋の店員、彼女は映画を
まだ観てなかった。他にも観ずに発症した
人がいる。耳の不自由な学生、広場恐怖症
の主婦、それに花谷監督。彼らが共通して
触れたのは、お前の書いた原作小説だ」
砂田「まあ、名探偵みたい」
さらに強く押しつけられる銃口。
砂田「少し手加減してくれません? 私ね、
痣になりやすいの。肌が弱くて」
茶葉「どうすれば止まる?」
砂田「外に出たくない理由もそれ。陽射しが
強いと火傷みたいになっちゃって。まるで
吸血鬼でしょ」
茶葉「お前を殺せばいいのか?」
一瞬、耳が痛いくらいの沈黙。
砂田「・・・知らないわ」
茶葉「しらばっくれるな」
砂田「私に聞かれても困ります」
茶葉「ルールを決めたのはお前だろ!」
茶葉の声、苛立ちが色濃く。
砂田「私は原稿用紙の上でハチャを動かして
いただけ。でもあの子はもう自立したわ。
私がいなくなったらどうなるか、もう母親
でも分からない」
トリガーガードをさまよう茶葉の指。
砂田「あなたも私の読者?」
茶葉「・・・だったら何だ」
砂田「あなたの中にもあの子がいるわ」
周囲の闇が突然茶葉の中に入り込む。
砂田の背後に立っているのはハチャ。
山刀を手に、静かに唸りを上げて。
立ち上がって向かい合う砂田。
砂田「おかえり。お母さんを殺しにきたの」
ハチャの二の腕を優しく撫でる。
砂田「あなたの怒りを感じるわ。私のせいで
大切な人たちを失ったのね。可哀想に」
振り上げようとして迷っている山刀。
砂田「いいのよ、我慢しなくても。私思うの。
スラッシャー映画の効用なんて大嘘だって。
スクリーンの誰かさんの殺戮に自分を投影
した所で何になる? 美食映画を観たって
お腹は膨れないし、ポルノ映画を観たって
・・・わかるでしょ。あなたに必要なのは
カタルシスなんかじゃないわ。怒りの赴く
ままに破壊された肉体、ちゃんと血の臭い
がする生身の暴力よ」
吠えるハチャ、山刀を高々と。
目を閉じる砂田。
殉教者のように両手を広げて。
何も起こらない。
目を開く砂田、山刀を下ろしたハチャ。
砂田「どうしたの、私が憎くないの。あなた
の同僚は無残に焼け死んだんでしょ。仇を
取りにきたのよね・・・」
ハチャ「チ・・・ガウ」
糜爛した唇から漏れる嗄れ声。
ハチャを形作る外皮が一気に崩れる。
そこに立っているのは凛とした茶葉。
真っ直ぐにベレッタを構えて。
砂田「あなたは・・・」
茶葉「私はハチャにはならない」
砂田「・・・じゃあ殺さないの」
茶葉「殺す」
怯えたように一歩下がる砂田。
デスクに尻をぶつけて後退に気づく。
茶葉「怖いのか」
砂田「・・・怖い?」
茶葉「それが正常な反応だ」
外される安全装置。
茶葉「今からお前を殺す。でも怒りは無い。
私は至って冷静だ」
砂田「どうして・・・」
茶葉「このふざけた物語を打ち切るために」
暗転、銃声。
●同・玄関外・夜
無数の探照灯に照らされた玄関。
パトカーの回転灯が彩りを添えて。
瀟洒な庭を埋め尽くす警官隊。
拡声器を持った刑事ががなり立てる。
刑事「茶葉巡査部長、今すぐ人質を解放して
投降しなさい。謹慎中にもかかわらず無断
で拳銃を持ち出した上にこの暴挙。貴官に
まだ公僕としての良心が一欠片でもあるの
なら、武器を捨てて大人しく法の判断に」
乾いた銃声一発、一帯騒然。
所々で囁かれる『突入』の二文字。
刑事「茶葉、血迷うな!」
玄関ドアが開く。
眩しそうに出てくる茶葉。
鼻の下から胸元にかけて返り血。
一斉に向けられる顔のない銃口。
茶葉「あ、タンマ。抵抗なんかしないしない。
これも返すよ、ほれ」
無造作に放り出されたベレッタ。
たちまち殺到する警官隊。
拡声器の刑事が手錠をかける。
刑事「問題児め。遂に年貢の納め時だな」
茶葉「だといいけどね」
引っ立てられる茶葉。
その時、警官隊から畏怖の声。
玄関を突き破るように現れたハチャ。
歪に膨れ上がった巨体。
何本もの腕に様々な武器を持って。
手錠で刑事の腕を絡める茶葉。
刑事を盾にして同時に拳銃を奪う。
そのまま銃口をハチャに向けて。
茶葉「懺悔をするにはまだ早いみたいだ」
茶葉の、不敵な笑み。
了
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
【演劇】何か見に行きますか? 行き…
『大地の子』今、舞台化することの意…
(2026-05-06 23:33:34)
映画あれこれ
大ポスター『サンキュー、チャック』…
(2026-05-06 14:00:05)
アニメ番組視聴録
名探偵プリキュア! 第8話の感想 ~…
(2026-03-27 00:00:16)
© Rakuten Group, Inc.
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Design
a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: