「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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山さんの刑事部屋
俺以外全部炎上
爽天 カケル(二二)男性。タレント。
瑞島 ミナミ(二五)女性。マネージャー。
等々力(四三)女性。シュトゥルム社長。
勅使河原(五六)男性。徳俵興業社長。
●ラブホテル・外・深夜
帽子を目深にかぶった爽天カケル。
出口から現れて用心深く周囲を窺う。
やがて安心したように背後に合図。
遅れて姿を現す若い女性。
帽子にサングラス、マスク姿。
二人が肩を並べた瞬間、フラッシュ。
駆け寄る週刊誌記者とカメラマン。
記者A「東雲クルルさんですよね。少しだけ
お話よろしいですか」
カケルを無視して女性に集中砲火。
お零れの光に浮かぶカケルの阿呆面。
●タイトル『俺以外全部炎上』
●〈シュトゥルム〉・社長室・午前
ベンチャー風・意識高い系社長室。
デスクで眉間に皺の等々力。
正面に立たされているカケル。
その隣で縮こまる瑞島ミナミ。
等々力「この業界で生き残る上で、最も重要
なモノが何か分かる?」
カケル、ミナミに無言の圧力。
ミナミ「あ、はい、重要なのは・・・」
等々力「カケル、キミに聞いてるんだけど」
カケル「・・・コネ、とか?」
等々力、溜息。
等々力「コネなんて後から勝手についてくる
モノなの。圧倒的なパワーさえあれば」
カケル&ミナミ「パワー?」
等々力「そう。事務所の力。タレントの力。
つまりは『格』とでも言うべきモノ。大方
ポッと出の小娘と思って気軽に手を出した
んでしょうけど、業界大手が戦略的に売り
出そうとして既に数億は突っ込んでる金の
卵よ。キミとは『格』が違いすぎる」
次第に青ざめるカケル。
カケル「それこそあっちの事務所のパワーで
簡単に揉み消せるんじゃ・・・」
等々力、名刺を矯めつ眇めつ。
等々力「相手が悪いのよ。〈真実〉さんには
タブーって概念が無いからね。必ず出る」
ミナミ「そうなったら爽天くんは・・・」
等々力「『格』を考えたら自ずと分かるはず」
うなだれる二人。
等々力「木曜日までに辞世の句でもひねって
おきなさい。私も他人事じゃないけど」
●同・休憩スペース・午前
自販機前のソファにカケル。
髪を掻きむしって悶々。
カケル「あの時の俺を殴って止めたい。なに
見え見えの地雷踏んじゃってんだよ」
自販機にスマホタッチするミナミ。
ミナミ「それ後悔ですか。それとも反省?」
カケル「・・・反省、一応は」
ミナミ「そもそも、爽天くんは思慮に欠ける
点が多すぎます。本当に反省してます?」
カケル「してるって。しつこいな」
缶を放るミナミ、受けるカケル。
ミナミ「じゃあギリギリまで足掻かなきゃ。
お互い後がないんですから」
カケル、無糖コーヒーを眺めて。
カケル「俺、微糖しか飲まないんだよね」
ミナミ「そういうトコですよ」
●〈徳俵興業〉・前・午後
ビルからすごすごと退散するミナミ。
警備員の憐れみの視線を背に。
さりげなく合流するカケル。
カケル「いい風吹いてきた?」
ミナミ「この顔見て分かりません?」
眼鏡の下に濃いクマ。
カケル「からっ風かな」
ミナミ「かまいたちですよ言葉の。もう心が
ズタズタ・・・」
カケル「とりあえずお茶でも・・・」
カケルの手を払うミナミ。
ミナミ「しばらく一人にしてください。訴訟
までチラつかされて私もう・・・」
肩を落として歩み去るミナミ。
なすすべなく見送るカケル。
カケル「訴訟・・・マジかよ」
●歩道・夕
あてどもなくさまようカケル。
すれ違う無関心な人波。
煙草に火をつけるために立ち止まる。
オイル切れでライターがつかない。
ふと歩道脇に誘われる視線。
狭い石段が上に伸びている。
●神社・夕
石段の上の鳥居をくぐるカケル。
猫の額ほどの境内に古びた本殿。
彩りのない空間に南天の実が映える。
カケル「神頼みは最終手段だよなあ・・・」
無意識にポケットを探る手。
カケル「痛っ」
十円玉と開いた安全ピン。
思い直して別のポケットも探る。
皺くちゃの千円札が一枚。
カケル「今晩のメシ代・・・」
悩んだ末に千円札を伸ばす。
指先の血が紙幣の端に付く。
カケル「奮発するからいっちょ頼むぞ」
札を賽銭箱へ、適当に柏手を打って。
カケル「何となくすべてがうまく転がって、
どうか無傷でやり過ごせますように」
本殿の屋根でカラスが鳴く。
ギョッとして見上げるカケル。
*****
本殿脇にある黒ずんだ由緒書。
辛うじて読み取れる『難転』の文字。
●テナントビル・前・朝
中に入るのを躊躇しているカケル。
催促するようにスマホが鳴る。
等々力「遅い。一分以内に来なさい」
●〈シュトゥルム〉・社長室・朝
リズムの狂ったノック。
恐る恐る入室するカケル。
デスクに等々力、その前にミナミ。
カケル「あの、もう出てるっすよね?」
等々力「まだ見てないの?」
カケル「見たら確定しちゃいそうで。イヤ、
見なかったら見なかったで何か変わるって
わけでもないっすけど・・・」
無言で歩み寄るミナミ。
スマホを無理やりカケルの眼前に。
カケル、腹をくくって焦点を合わす。
カケル「え・・・」
仰々しいネット記事の見出し。
『東雲クルル 衝撃の八股発覚!』
ミナミ「実際は九股ですけどね。爽天くんは
計算にすら入ってません」
等々力「やはり『格』が違ったわね。大した
お嬢さんだわ」
カラカラと笑う等々力。
等々力「名前が挙がった八人は大物ばかり。
誰かさんにはよっぽどニュースバリューが
無かったみたい」
ミナミ「命拾いしましたね」
解放されたような笑顔のミナミ。
カケルもようやく安心して笑う。
カケル「マジびびった。社会的に死んだかと
思ったわ・・・」
ミナミ「もう慢心は無しですよ。今回は運が
良かっただけなんですから」
等々力「今後は瑞島のお小言も鬱陶しがらず
に聞かなきゃダメよ」
カケル「社長・・・」
ふとカケルの笑いが引く。
カケル「彼女、どうなるんすか」
等々力「さあ・・・このままフェードアウト
するか、でもあの子のことだから炎上すら
糧にして甦っちゃうかもね、そのうち」
カケル「・・・・・・」(神妙な面持ち)
●高級居酒屋・個室・夜
紅く緩んだカケルの酩酊顔。
男性タレントとグラドルの懇親会。
この後の展開を予告する放埓な空気。
モデルB「ムリムリ、もう一滴も飲めねー」
グラドルC「ダッサ。取材とかでアウトロー
アピってる割にシャバすぎじゃね。ほれ、
チョイ残し♪ チョイ残し♪」(注ぐ)
モデルB「足してんじゃねーよ」
グラドルD「アイにょん飲みすぎだってば。
てか乳出るから」(服を直してやる)
グラドルC「にゃん」(桃色声)
俳優E「けどさ、カケルって持ってるよな」
カケル「?」
俳優E「2.5のオーデ。ライバルが勝手に
コケてくれたおかげでメイン取れるとか」
カケル「まあね」
モデルB「持ってるってレベルじゃねーぞ。
コイツ、藁人形とかやってんじゃね?」
カケル「ハハッ、よもやよもや」
ウザ絡みされて愛想笑い。
グラドルF「いつやんの? ウチ観に行った
げるからさ、招待席ヨロ」
太腿をすり寄せられてカケル困惑。
●ダンススタジオ・午後(回想)
激しいダンスレッスン。
汗を流す若い男たちの中にカケル。
必死だが常にワンテンポ遅れて。
ダンス教師G「ストップ!」
バリシニコフ似の教師の怒声。
ダンス教師G「8番! モタモタしないで!
他の子の邪魔!」
カケル「・・・すいません」(ゼエゼエ)
ダンス教師G「Bメロからワンモア。ハイ、
ワントゥー・・・」
主題曲に乗せて繰り返されるダンス。
ダンス教師G「ストップストップ!」
参加者たちの目、一斉にカケルへ。
ダンス教師G「8番! もういい、出て!」
カケル「・・・・・・」(棒立ち)
ダンス教師G「遅い、小さい、キレもない!
フリだってうろ覚えじゃないの! 素人の
盆踊りは私の視界から消えなさい!」
カケル、スタジオの隅へ。
嘲笑や苛立ちを背に受けて。
カケルにタオルを渡すミナミ。
ミナミ「ドンマイです。巻き返しましょ」
カケル「向いてないんだよ、俺」
タオルに顔を埋めて吐き出す。
カケルの後襟を掴むミナミ。
カケル「えっ、何?」(タオルを落とす)
ミナミ「次、みっともない泣きごと言ったら
ぶっ飛ばしますよ・・・」
ミナミの熱く潤んだ眼差し。
●同・夜(回想)
照明を絞ったスタジオ。
たった一人で練習を続けるカケル。
壁際で見守り続けるミナミ。
ミナミのポケットでスマホが振動。
確認したミナミの顔色が変わる。
スマホのニュースサイト。
マトリの捜査で薬物パーティー発覚。
芋づる式に活動自粛のドミノ倒し。
オーディション参加者たちの名前。
スマホ画面にだぶる彼らの悪い顔。
●高級居酒屋・個室・夜(現在に戻る)
カケルの腕に当たる胸の感触。
グラドルF「ねー、カケルンはどうすんの」
カケル「えっ、何が」(我に返って)
モデルB「二次会、イヅルん家でやるけど」
グラドルC「ウワサの地下室? 行く行く」
俳優E「親、いま海外だけどさ、あんまハメ
外さないでくれよな」
グラドルD「アタシ帰る。事務所にうるさく
言われてるし」
モデルB「萎えるわー。で、カケルは?」
カケルの脳内にミナミの声。
ミナミ(声)「どこに罠が潜んでるか分から
ないんですから。君子危うきに近寄らず、
ですよっ」
カケル「・・・俺もやめとく」
グラドルD「じゃ、一緒に帰ろ♪」
モデルB「お前ら、そんなこと言ってどっか
しけこむつもりだろ」
グラドルF「えー、妬けるんですけどー」
グラドルC「〈真実〉砲に気をつけてねー」
グラドルD「だいじょぶ。フェロモン消す」
カケル、お冷やを飲み干す。
●歩道・夜
人通り疎らで街灯も少ない道。
並んで歩くカケルとグラドルD。
談笑しながらも左右に気を配る。
時おり通過するヘッドライトの光。
グラドルD「ところでさ・・・カケルくん、
付き合ってる子・・・いる?」
カケル「・・・・・・」(頬ピク)
グラドルD「いたらいたでいいんだけどね。
もしいないんだったら試しに・・・」
車道に向かって手を挙げるカケル。
背後からちょうど来たタクシー。
グラドルD「え」
カケル「もう遅いから。先乗って」
強引にタクシーに押し込む。
グラドルD「ちょっと待ってよ」
カケル「俺はいいです。行ってください」
扉を閉めて走り出すタクシー。
グラドルD「ボクネンジーン!」
グラドルの叫びが夜に消えてゆく。
カケル「ここって・・・」
しみじみ辺りを見回すカケル。
カケル「お礼参りでもしていくか」
歩道を行きつ戻りつするも。
石段はどこにも見当たらない。
スマホの地図アプリも確認。
カケル「???」
一キロ圏内に神社のマーク無し。
●〈シュトゥルム〉・社長室・午前
PCに向かってご満悦の等々力。
カケル出演舞台への好意的批評。
慌ただしいノックと共にカケル入室。
等々力「我が事務所の未来が来たわね」
カケル「何すか、この仕事」
やにわに企画書をデスクに置く。
等々力「何って、見ての通り恋愛リアリティ
ショーだけど」
カケル「それは俺でも分かります」
等々力「よかった、お利口さんで」
カケル「じゃなくて。俺の活動の方向性って
どうなってるんすか。このまま役者一本で
いくんじゃ・・・」
等々力「甘い!」
一喝に怯むカケル。
等々力「グラブジャムンより大甘。ちょっと
芝居を褒められたからっていい気になるん
じゃない!」
カケル「・・・・・・」
等々力「ねえ、カケル」(微糖声)
立ち上がってデスクを回り込む。
等々力「『格』の話、したわよね。役者一本で
食べていけるのは健さんみたいな一握りの
別格だけなの。今の時代、役者もマルチが
当たり前」
カケルの両肩に後ろから触れて。
等々力「歌うのも、ランウェイを歩くのも、
バラエティでパイまみれになるのだって、
みんな別格になるためのステップ。これも
そう」
カケル越しに企画書を手にとって。
等々力「この番組ね、視聴率以上に再生回数
が伸びてるの。SNSのトレンドでも毎週
上位にランクインしてる。名前を売るには
絶好の戦場だわ」
カケルの耳元に囁く等々力。
等々力「即興芝居だと思って、ね」
カケル、蛇に睨まれたよう。
●孤島・広場~林・夜
焚火を囲む八人の男女。
和気藹々と四方山話中。
監督H「爽天くん、こっちこっち」
手招きされて場を離れるカケル。
カケル「あの、カメラは?」
監督H「回ってない。ちょっと散歩しよう」
カケル「散歩?」
先々歩き始める監督。
慌ててついていくカケル。
広場から離れた暗い林の中。
唐突に立ち止まる監督。
監督H「誰に行くか決めた?」
カケル「いや、まだ・・・」
監督H「気になってる子はいるの?」
カケル「それはまあ・・・」
監督H「誰?」
カケル「水瀬さんっす」
監督H「いいねえ、お誂え向きだ」
カケル「?」
監督H「だったらさ、ガンガン行きなよ」
カケル「はあ」
監督H「全体的に動かなすぎでさ、ちょっと
困ってんだよね」
カケル「でも大丈夫っすかね。水瀬さんって
結構おとなしめだから・・・」
監督H「キミなら行けるって。ああいうのは
押しまくると案外脆いのよ」
カケル「・・・ウス」
監督H「あと美月ちゃんにも粉かけといて」
カケル「は?」
監督H「分かるでしょ。フ・タ・マ・タ」
カケル「・・・・・・」
監督H「女の敵は番組の救世主、ってね」
カケル「俺に悪者になれって?」
監督H「察しがいい。成功するよキミ」
カケル「この番組、ガチが売りっすよね」
監督H「ガチもガチ。一部を除いては」
カケル「・・・・・・」
監督H「ジョーカー混ぜとかないとドラマは
生まれてくれないからね、ウン」
カケル「でも俺のイメージが・・・」
監督H「お宅の社長さんは了承済み。じゃ、
頼んだよ青年」(カケルの肩をポン)
道を引き返す監督。
一人取り残されるカケル。
木立の影の向こうに微かに映える炎。
●同・河原・午前
清流の中に立つ男女。
清楚系モデルに釣りを教えるカケル。
背後から密着するポジションで。
足を滑らせて竿を落とすモデル。
カケル、相手の腰を抱いて支える。
そのまま流れ去ってしまう竿。
モデルI「どうしよ、みんなに何て言う?」
カケル「ヌシとタイマン張って負けた」
モデルI「信じさせる気ないでしょ」
笑い合った後、見つめ合う二人。
●同・浜辺・夜
砂浜に座っているギャル系モデル。
黙って隣に腰を下ろすカケル。
モデルJ「満席ですけどー」
カケル「空席に見えた」
モデルJ「ウチの隣は未来のカレピ予約席」
カケル「俺にも権利あるじゃん」
モデルJ「は? 浮気?」
カケル「いや本気だけど」
モデルJ「じゃあミーナは何? 昼間だって
二人仲良くビショ濡れで・・・」
カケル「あれ見て」(遮るように)
海の上に浮かぶ三日月を指さす。
モデルJ「ただの月じゃね」
カケル「ちっちゃい頃、お月様がどうしても
欲しくて駄々こねたことがあってさ」
モデルJ「へー」
カケル「掴もうとしても掴めないじゃん?
しまいに虫取り網まで引っ張り出して」
モデルJ「いやムリっしょ」
カケル「バカなガキの考えそうなことだろ」
モデルJ「まーな・・・カワイイけど」
カケル「ほんとバカだ俺・・・」
いつしかギャルモの横顔に熱視線。
カケル「今、すぐ近くにこんなキレイな月が
あるのにな」
モデルJ「・・・マジ引くんですけど」
乙女のように頬を染めるギャルモ。
●番組画面
『ナガサレ』のタイトル。
爽やかな主題歌とメンバー紹介。
本編スタート、テント前の修羅場。
号泣するモデルIを慰めるメンバー。
他のメンバーに止められるモデルJ。
モデルJ「離せって。マジ一発シバくから」
開き直った表情のカケル。
リーダー格の若手芸人が胸倉を掴む。
芸人K「・・・最低やな、お前」
*****
ボートで海へと漕ぎ出すカケル。
波打際から見送る者はいない。
遠くの砂浜で戯れる人影。
ビーチバレーを楽しむ元仲間たち。
テロップ『爽天カケル、追放』
●モンタージュ
様々な場所/媒体で視聴する人々。
自宅、学校、職場、カフェ、電車。
テレビ、スマホ、タブレット。
一斉にコメントを打ち始める指。
ネット空間に義憤と悪意が溢れ出す。
『クズ』『キモオス』『勘違い野郎』
『氏ね』『はよ引退』『●●●切れ』
●〈シュトゥルム〉・社長室・午前
弱々しいノック、そっと開く扉。
隙間から覗くカケルのやつれ顔。
等々力「はい、はい、大変申し訳・・・」
悲壮な表情で歩き回る等々力。
電話の向こうの相手に平謝り。
漏れ聞こえる不明瞭なお叱り。
等々力「違約金・・・勿論ごもっともです。
ええ、イメージは最重要資産ですから」
カケルの姿を認めて眼光鋭く。
等々力「詳細が決まり次第ご連絡致します。
ご迷惑ご心配をおかけしてまことに申し訳
ございません。では失礼致します」
電話を切って荒々しく手招き。
等々力「入って待ってなさい」
休みなく次の電話をかけ始める。
等々力「・・・やっと出た。長い会議だった
んですね。いえ、回りくどい弁解は結構。
こちらが問題にしてるのは、当初のお話と
実際の演出がどうしてあんなにかけ離れて
いたのかという・・・」
打って変わって夜叉の形相。
カケル、扉をそっ閉じ。
●同・休憩スペース・午前
ソファにポツンとミナミ。
缶コーヒーを手にうなだれて。
カケル「言いたいこと、あるんじゃない?」
見上げた視線の先にカケル。
ミナミ「・・・サイテー」
カケル「・・・・・・」
ミナミ「って言ってほしかったですか」
カケル「?」
ミナミ「見くびらないでください。腐っても
マネージャーですよ。爽天カケルの人間性
くらい、爪の先までお見通しです」
カケル「ペラッペラだもんな俺。まさに紙」
ミナミ「そういうトコ!」
ビシッと指さされて怯むカケル。
ミナミの表情、ふっと緩む。
ミナミ「あんなこと言ってクルルさんのこと
だって真剣に好きだったんでしょ」
カケル「・・・今さら聞きたい?」
ミナミ「別に。私の中では既に史実なので」
カケル「粘土板に刻まれちゃった系?」
ミナミ「メソポタミアまで遡ったよこの人」
無邪気に笑い合う二人。
ミナミ「カケルくんはバカ・・・失礼、バカ
だけどクズじゃない。私、知ってるから」
カケル「マジ失礼だな。でも・・・ウス」
ミナミ「私が現場にいたら、こんなことには
ならなかったのに・・・」
カケル「ミナミさんの責任じゃないって」
ミナミの隣に腰を下ろすカケル。
肩に触れかけてためらう手。
カケル「そういう番組のルールだったしさ。
マネ同行不可のガチサバイバルって・・・
ったく、何がガチだよ」
カケルの視線、ミナミのコーヒーへ。
カケル「あ、微糖」
ミナミ「えへへ、バレたか。今だけちょっと
甘えモード。でもすぐ立ち直るから」
飲み干し、空缶を握りしめる。
ミナミ「だからカケルくんも負けないで」
カケル「名前」
ミナミ「え」
カケル「カケルくん、って」
ミナミ「あっ、ごめんなさい爽天くん。つい
自然に・・・嫌だった?」
カケルの手がミナミの手を包み込む。
カケル「その方がいいかな」
●繁華街・夕
変装もせずに彷徨するカケル。
立ち止まって煙草を吸おうとするが。
考え直して懐にしまう。
カケル「何がしたいんだ俺・・・」
脳裏にミナミの言葉。
ミナミ(声)「今は歯を食いしばって、何が
聞こえても我慢して。無理して世間の声に
耳を傾けなくてもいいよ。嵐が過ぎるまで
隠れてればいいんだから・・・」
スマホを取り出すも迷う指。
検索ボックスに自分の名前。
カケル「これじゃただのドMじゃん・・・」
虫眼鏡を押そうとする指。
その時、周囲の囁きに気づく。
あちこちから突き刺さる視線。
断片的に聞こえる自分の名前。
カケル「こっちから出てきてやってるんだ。
面と向かってはっきり言えよ」(呟く)
迷いに迷って歩み寄る女子高生。
女子高生L「あの・・・爽天くんですか」
カケル「そうだけど何?」(ぶっきらぼう)
女子高生L「やっぱり!」
いきなり両手でカケルの手を握る。
女子高生L「あの、私ずっと信じてました!
正義は勝つって本当なんですね!」
握った両手をブンブン。
女子高生L「これからも応援し続けます!
がんばってくださいね!」
手を離して友達の元へ駆け戻る。
キャーキャー盛り上がるJKたち。
茫然と立ちつくすカケル。
その傍に音もなく停まる高級車。
ウィンドウがスルスルと下りて。
顔を出す勅使河原。
勅使河原「乗りなさい。騒ぎになる前に」
●高級車・車内・夕
カケルと勅使河原。
後部座席で向かい合わせに座る。
スモークガラスの外は平穏な街並み。
カケル「・・・どうも」(ペコリ)
勅使河原「君と話がしたくてね」
カケル「それってどういう・・・」
勅使河原、秘書に合図。
秘書、タブレットをカケルに回す。
勅使河原「途轍もない運の持ち主だな君は」
タブレットに目を見張るカケル。
センセーショナルなネットニュース。
人気若手芸人の裏アカ発覚。
過激な内容のグループチャット。
チャットメンバーの中に芸人K。
リアリティショーのヤラセ暴露。
カケルに対する人格否定の暴言。
番組メンバーとのヤリチ●自慢。
勅使河原「舌禍とはよく言ったものだ。既に
影響は番組存続の是非にまで及んでるよ。
無論、発言当事者は無期限謹慎。あいつを
劇場からお茶の間へ押し上げるために幾ら
積んだと思ってるんだか」
カケル「あなたは・・・」
勅使河原「徳俵興業の勅使河原。クルルの時
も世話をかけたね」
カケル、真っ青。
カケル「すいません、あの時は俺・・・」
蛙のようにヘコヘコ。
勅使河原「構わんよ。済んだ話さ」
カケル「ですけど・・・」
勅使河原「そもそもクルルの件はこちら側が
加害者だ。いやはや、あれほど肉食だとは
思わなかったよ。飼主の管理不行き届きを
お詫びする」
潔く頭を下げる勅使河原。
カケル「や、やめてください」
勅使河原「そこで提案なんだがね」
ゆるゆると持ち上がる頭。
猛禽の眼差しがカケルを射抜く。
勅使河原「この度の迷惑の埋め合わせとして
君を我が事務所で男にさせてはもらえない
だろうか」
●テナントビル・前・夜
〈シュトゥルム〉の窓、煌々と。
ビルの前に停まる高級車。
カケルに続いて降りてくる勅使河原。
●高級車・車内・夕(回想)
動揺が収まらないカケル。
カケル「それって移籍ってことっすよね?
それじゃ社長へのケジメが・・・」
勅使河原「等々力くん、だったかな。彼女に
対して通すべき筋などあるのかね」
カケル「へっ?」
勅使河原「一度でも彼女は守ってくれたか?
クルルの時も今回も、君は君自身の強運で
逆境を乗り越えたんだ。第一、君を番組の
スケープゴートに差し出したのは彼女自身
ではなかったかな」
カケル「・・・・・・」
車内に重苦しく垂れこめる沈黙。
勅使河原「義理堅さも、あまり度が過ぎると
ただの思考停止だよ」
カケル「・・・わかりました」
唾を飲み込むカケル。
カケル「でも、一つだけ条件があります」
●〈シュトゥルム〉・社長室・夜
デスクに等々力。
スマホを握ったまま突っ伏している。
礼儀正しいノック。
開くドア、決然としたカケルの姿。
続いて勅使河原が入ってくる。
その姿を見た等々力の悟った微笑。
訪問者を飲み込んで閉じるドア。
●同・オフィス・夜
廊下を進む勅使河原とカケル。
一続きのオフィスはほぼ無人。
一箇所だけ明かりの灯ったデスク。
哀しげな表情で二人を見送るミナミ。
一瞬だけ視線を合わせるカケル。
何か言いかけてすぐ逸らす。
●テレビ局・楽屋・午後
カケル、畳の上でスマホと睨めっこ。
居心地悪そうな男性マネージャー。
マネージャーM「爽天さん、そろそろメイク
始めないと入りが・・・」
カケル「社長は?」
マネージャーM「すぐ来られます」
カケル、電話を試みるがかからない。
画面にミナミのアドレス帳。
楽屋に入ってくる勅使河原。
マネージャーM「おはようございます!」
カケル、無言で会釈。
勅使河原「どうしたんだ。ご機嫌斜めだそう
じゃないか」
カケル「二人で話したいんですけど」
勅使河原、マネージャーに目配せ。
そそくさと退出するマネージャー。
勅使河原「さてと、あらたまった話かい」
畳の上に胡坐をかく。
カケル「約束」
勅使河原「?」
カケル「もう二年ですよ」
勅使河原「そうだな。二年の間に随分と立派
になった。大したものだ」
カケル「ごまかさないでください。いつまで
待ったら瑞島さんは来てくれるんですか」
勅使河原「瑞島? ああ、昔のマネージャー
だね」
カケル「移籍する時、約束しましたよね」
勅使河原「覚えてるとも。彼女も一緒に引き
抜く約束だった」
カケル「残務整理があるからってズルズルと
先延ばしにしてたけど、会社自体とっくに
畳んでるんじゃないですか」
勅使河原「確か清算まで済んでるはずだ」
カケル「じゃあ何で・・・」
勅使河原「伝えるのは気が進まないが・・・
まあ仕方ないか・・・」
卓袱台の煙草に手を伸ばす勅使河原。
黙って火をつけるカケル。
吐き出される重い煙。
勅使河原「彼女から断わって来たんだ」
●同・地下駐車場・夜
エレベーターから降りるカケル。
車の方に向かいかけて足を止める。
柱の陰、幽霊のように佇む女性。
カケル「出待ち? ここ立入禁止だけど」
ミナミ「勅使河原社長に入れて頂きました」
全身を現すミナミ。
カケル「ミナミさ・・・」
ミナミ「ご無沙汰しています、爽天さん」
深く静かなお辞儀。
カケル「そんな他人行儀な・・・何度も電話
したんだぞ。なんで出てくれないんだよ」
ミナミ「・・・・・・」
カケル「会社裏切ったの怒ってる?」
ミナミ「・・・・・・」
カケル「俺のこと、嫌いになった?」
ミナミ「・・・・・・」
震えているミナミの肩。
カケル「ミナミさん!」
ミナミ「違うから」(ボソッ)
カケル「え」
ミナミ「あなたとはもう、格が違うから」
顔を上げたミナミ。
我慢しきれずこぼれる涙。
ミナミ「ダメだ私・・・演じきれない」
カケル「ミナミさん・・・」
ミナミ「私のこと気にかけてくれてホントに
嬉しかったよ。キミが伸ばしてくれた手、
掴みたかった。許されるならずっと一緒に
いたかった。でも無理だったの・・・」
カケル「なんで・・・」
ミナミ「社長を見捨てられなかった。キミは
たぶん恨んでるだろうね。でもあの人ね、
言葉はきついけどホントはすごく優しい人
なんだよ。まだまだ小っちゃくて弱い会社
だったから、必死で守ろうとしてただけ」
カケル「・・・・・・」
ミナミ「キミのことも最後まで気にしてた。
あんな番組のせいで泥塗っちゃったって。
新しいステージで成功してほしいって」
カケル「・・・・・・」
ミナミ「祈りが届いたのかな。ううん違う、
きっとキミの努力が実ったんだよね。私が
瞬きしてる間に手の届かない場所まで行っ
ちゃうんだもんなあ・・・ずるいよ」
カケル「・・・・・・」
ミナミ「私なんかにこだわってたら、いつか
きっと後悔する。だから、会うのは今日が
最後、ね」
言い聞かせるように泣き笑い。
カケルの顔もクシャリと歪む。
カケル「後悔なんかしねえよ!」
ミナミを乱暴に抱き寄せるカケル。
ミナミ「やっ、離して・・・・」
カケル「離したらいなくなるだろ!」
さらに腕に力がこもる。
ミナミ「カケルくん・・・痛い・・・」
カケル「あ・・・ごめん・・・」
腕が緩むがミナミは離れない。
身長差の距離で見つめ合う二人。
引力に導かれるように重なる唇。
*****
長い長い口づけ。
突然、眩い光が二人を照らす。
慌てて離れる二人、光源に向く。
ライト付きの配信用ハンディカメラ。
ハイテンションの少年配信者。
配信者N「見ました皆さん? イケメン俳優
爽天カケルのガチキスシーン! それじゃ
このままインタビュー凸ってみよー!」
カケル「ふざけんなてめえ!」
鬼の剣幕で詰め寄ろうとする。
配信者N「おっ、ヤベ。これ逃げた方がいい
パターン? カメラ替えたばっかだし」
言いながら既に逃げ腰。
追おうとするカケルを止める手。
その隙に素早く逃げ去る配信者。
振り返るカケル。
裾を掴んで寂しそうに微笑むミナミ。
カケル「止めないと・・・」
ミナミ「カケルくんはきっと大丈夫」
その時エレベーターの扉が開く。
乗っていたのはマネージャーM。
マネージャーM「あ、いた。また勝手に先に
行って。いつも言ってるじゃないですか。
単独行動は慎んでくださいよ」
すっと裾から離れる指。
カケル「ミナミさん?」
見回すカケル、ミナミの姿はない。
●駐車スペース~SUV車内・夜
路肩に停車中のSUV。
運転席で物思いにふけるカケル。
歩道の会話が途切れ途切れに。
通行人O「見た? カケルのキス」
通行人P「見た。生々しくてやばかった」
通行人O「アタシ、ちょっと濡れたかも」
通行人P「下品な話やめれ」
通行人O「でも相手の女、何者?」
通行人P「なんかストーカーらしいよ。キス
もムリヤリだったって」
通行人O「えー、ゲロヤバ女じゃん」
通行人P「もう住所割れて凸られてる。つべ
見てみ。マスコミも来てるって」
通行人O「マジ? どのチャンネル?」
飛び起きるカケル。
スマホで動画サイトを開く。
みるみる険しくなる表情。
*****
駐車スペースから急発進するSUV。
無鉄砲な合流に響くクラクション。
●車道~SUV車内・夜
信号に捕まるSUV。
運転席でイラつくカケル。
何度も電話をかけるが応答なし。
信号が変わったのにも気づかず。
後続車から催促クラクション。
●マンション・前・夜
群がる配信者、野次馬、マスコミ。
八階の窓にライトの十字砲火。
人ごみの只中に突っ込むSUV。
慌てて避ける人々、飛ぶ悪態。
カケルが現れると歓声に変わる。
突きつけられるカメラやマイク。
無視して突き進むカケル。
オートロックに舌打ち。
インターホンに数字を打ち込む。
後ろから押し寄せる有象無象を一喝。
カケル「すっこんでろ!」
あまりの迫力に静まり返る人々。
カケル「開けてくれ・・・頼む・・・」
インターホン、無情の沈黙。
舗道の方からざわめきが起こる。
一斉に焚かれるフラッシュ。
人々の視線はマンション上階へ。
舗道に戻ろうとするカケル。
人波に阻まれて一歩も動けない。
カケル「通せ! クソッ!」
野次馬Q「アッ、落ちるぞ!」
どよめき、そして悲鳴。
カケルの視界が歪んで暗転する。
遠ざかる意識の隅で。
何か大切なものが壊れてしまう音。
●薄闇の中、目を開くカケル
照明の消えた部屋。
デスクに向かって座っているようだ。
目の前に卓上電話機。
受話器をとって内線ボタンを押す。
カケル「誰かコーヒーを」
●エンドクレジット
●首相官邸・執務室・夜
突然回復する照明。
眩しそうに顔をしかめるカケル。
しつこく受話器に呼びかける。
カケル「コーヒーだ。誰もいないのか」
虚しいホワイトノイズ。
諦めて椅子を立つカケル。
ぶつぶつ文句を言いながら退室。
デスクの上、花瓶に挿した南天。
その実が一つ、ポトリと落ちる。
照明が瞬いて再び消える。
カメラが窓のカーテンに寄る。
外からぼんやりと紅く輝いて。
どこかで断続的に響く爆発音。
タイトル『俺以外全部炎上』
了
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