「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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山さんの刑事部屋
春風が強いこんな夜は
青山 杏奈(三六)女性。診療所医師。
山田 善男(四四)男性。やくざ。
渡辺(五五)女性。看護師。
浅川(二一)女性。医療事務員。
カナタ(十七)女性。高校生。
ユメコ(二八)女性。山田の愛人。
●二階・寝室・夜
ガタガタと風に鳴る窓。
ベッドの上で寝返りを打つ青山杏奈。
寝苦しそうに掛け布団を蹴って。
キャミソールの下に潜り込む手。
胸元に汗、唇から荒い息。
剥き出しの太腿を蠢かせ。
階下から風とは違う音。
誰か切迫した様子で扉を叩いている。
杏奈、無視して慰めを続ける。
唐突に止む音。
代わりに聞こえてくる口笛。
風を縫うように『天使のセレナード』。
訝しげに体を起こす杏奈。
●一階・診療所・夜
待合室の灯が点る。
薄着の上から白衣を羽織った杏奈。
警戒しつつ表の扉を開く。
吹き込む春嵐が杏奈の髪をなぶる。
風と共に屋内に倒れ込む山田善男。
慌てて支えた杏奈の手に血。
*****
処置室。
簡易ベッドの上に横たわった山田。
血が溢れ続ける脇腹を押さえて。
鋏を持った杏奈。
杏奈「そのまま押さえててくださいね。貼り
ついてるシャツ切りますよ」
山田「・・・・・・」(苦しそうに頷く)
傷口周りを残して手早く切っていく。
露わになる山田の上半身。
一瞬息を飲む杏奈。
緩みかけた肉体を覆う紋々。
杏奈、すぐに気を取り直して。
杏奈「ちょっと傷口見せてもらいます。手、
そーっと離して」
山田の手の下から湧く血。
杏奈「(舌打ち)」
杏奈、新しいガーゼで傷を圧迫。
杏奈「救急車呼びます。ウチじゃこれ以上は
できないから」
杏奈の腕を掴む山田の手。
杏奈「ちょ・・・」
山田「でかい病院は無しだ」
杏奈「もし内臓まで達してたら・・・」
山田「大丈夫、外れてる」
杏奈「でも出血・・・」
山田「そのうち止まる」
杏奈「素人に何が分かるんですか!」
山田「初めてじゃねえ」
杏奈を見つめる奇妙に澄んだ瞳。
山田「止まったら縫ってくれ」
●同・午前
待合室。
ソファは患者で満杯。
診察室の扉から出てくる老女。
何度も腰を折りながらお礼。
診察室から半身を出す渡辺。
渡辺「エモトさーん、エモトトオルさーん、
診察室へどうぞ」
*****
口の中からの視点。
舌圧子で押さえられた舌がピクピク。
ペンライト片手に覗き込む杏奈。
*****
老人の痩せた胸に聴診器。
杏奈「息吸って、ゆっくり吐いて、はい結構
です。前閉じていいですよ」
老人「どう? 厄介な病気じゃない?」
杏奈「肺の音きれいでしたよ。喉がちょっと
赤いけどインフルもコロナも陰性だったし
たぶん軽い扁桃炎。炎症抑えるお薬出して
おきますね」
老人「ずーっと微熱が下がらないんだけど」
杏奈「この間の解熱剤、まだ残ってます?
八度超えたら飲んでください」
老人「杏奈ちゃん、もうちょっとくらい親身
になってくれたっていいんじゃない?」
杏奈「まだまだ寒暖差が激しいですからね。
寝る時はお布団一枚多くかけてください。
ハイお大事に」
渋々出ていく老人。
杏奈の傍らで渡辺ニマニマ。
渡辺「なかなかお上手になられましたね」
杏奈「そうかな。慣れてきた実感ないけど」
渡辺「次は日脳ワクチンです」
杏奈「いくつ?」
問診票を見る渡辺。
渡辺「三歳の男の子」
杏奈、うへーという顔。
*****
注射針のアップ。
ギャン泣きする男児の顔アップ。
感情をなくした杏奈の顔アップ。
男児、母親の膝の上。
逃れようと必死に身をよじって。
何とか消毒まで済ませる渡辺。
だが注射針を近づける隙はない。
ア●パ●マンの声「ハルトくん」
男児、小休止してキョロキョロ。
ア●パ●マンの声「そっちじゃないよ。上を
見てごらん」
見上げる男児。
天井にア●パ●マンの飛び人形。
男児「あ●ぱ●まん?」
ア●パ●マンの声「そうだよ。ハルトくんは
えらいねえ。ボク、ずっと見てたんだよ。
キミががんばってお注射するところ」
男児「おちゅうしゃやだよ。いたいもん」
ア●パ●マンの声「ハルトくんは強いから、
きっとちょっとしか痛くないよ。おはなし
してる間に終わっちゃう」
男児が気を取られている隙に。
しれっと注射してパッチを貼る杏奈。
ア●パ●マンの声「ほーらもう終わった」
顔を下ろす男児。
視線、腕と杏奈の仏頂面を往復。
思い出したようにギャン泣き再開。
杏奈「今日はお風呂入っていいからね」
●同・夜(回想)
処置室。
局所麻酔注射を用意する杏奈。
ベッドの上から見ている山田。
山田「麻酔はいい」
杏奈「死ぬほど痛いですよ」
山田「頭をシャッキリさせときたいんだ」
杏奈「局部麻酔なのに」
山田「いいって言ってるだろ」
杏奈「後悔しても知らないから」(呟く)
*****
シャツの切れ端を噛み締める山田。
脂汗たらたら、後悔している顔。
傷口を手際よく縫合する杏奈。
杏奈「・・・口笛」
山田「あ?」(布を噛んだ不明瞭な声)
杏奈「どうしてあの曲を?」
山田「今ここでする話か」
杏奈「気が紛れるかと思って」
山田「余計なお世話だ。手を止めるな」
杏奈「・・・・・・」(黙々と縫う)
山田「・・・あんたのお袋さん」
杏奈「え」
山田「好きだったんだよ、あの曲」
杏奈の手が止まる。
山田「おい、早くしろよ」(泣きそうな声)
*****
腹部に包帯を巻いた山田。
ベッドに腰掛けて一服しようとする。
山田の手から奪い去られる煙草。
山田「おい」
杏奈「死にたいの」
山田「一本くらいどうってことねえだろ」
杏奈「どうってことあります」
山田「あぁ?」
杏奈「今は鎮痛剤が効いてるだけ。余り調子
に乗らない方がいいと思うけど」
山田の背後に回った杏奈。
背中の刺青をじっと見つめる。
桜の樹の下で生首を持つ鬼女。
杏奈「安吾じゃあるまいし」(呟く)
山田「あんた、知ってるのか」
杏奈「え、そうなの?」
山田「何だよその驚き方。俺に学があるとは
思わなかったか」
杏奈「別に・・・」
刺青の上に刻まれた古い傷痕。
鬼女の首を横切るように。
杏奈「でも残念。首が切れちゃってる」
山田「そいつは身代わりだ」
杏奈「?」
山田「おかげで俺は死ななくなった」
杏奈「・・・バカみたい」
山田「そういうの大事なんだよ、俺らには」
杏奈「不死身なのは結構だけど、随分とよく
刺されるんですね。意外と弱い?」
山田「野郎には刺されたことねえよ」
杏奈「・・・・・・」
*****
少しくたびれたシャツを羽織る山田。
顔をしかめながら袖を通す。
山田「何から何まで悪いな」
杏奈「ずっと裸ってわけにいかないでしょ。
サイズは?」
山田「許容範囲内だ。男の置き土産か」
杏奈「父の。防虫剤臭いのは気にしないで」
山田、ボタンを半分まで留めて。
山田「人心地ついたら消えるよ。礼はいずれ
ポストにでも」
杏奈「一時間」
山田「?」
杏奈「一時間待つわ。それだけあればどこへ
だって行ける」
杏奈の目の前に詰め寄る山田。
山田「サツか」
杏奈「どう見たってあるから、事件性」
山田「守秘義務は」
杏奈「天秤にかけた結果です」
山田「やめとけ」
杏奈「は?」
山田「後で困るのはあんただ」
杏奈「それってどういう・・・」
山田「お袋さんから何も聞いてねえのか」
杏奈の目を覗き込む山田。
毅然とした瞳に戸惑いの影。
山田「・・・まあ、そうだろうな。わざわざ
言うわけねえか」
●同・午後(現在に戻る)
スタッフルーム。
小さなテーブルを囲む杏奈と渡辺。
渡辺、コーヒーを淹れている。
受付から入ってくる浅川。
浅川「お疲れさまでーす」
渡辺「お疲れ。ドーナツあるわよ」
浅川「やったぁ。エンゼルフレンチ予約♪」
渡辺「手洗いうがい!」
浅川「やばっ」(座りかけて)
浅川、洗面所へ。
呆れ顔の渡辺。
渡辺「スタッフがそんな心構えだと患者さん
に響かないよ、いくら感染予防訴えても」
浅川「スミマセン・・・」
おずおずと杏奈の向かいに掛ける。
浅川の視線、ドーナツの箱から杏奈。
杏奈「何?」
浅川「先生はどれにします?」
杏奈「余ったのをいただくわ」
浅川「好きなのとかないんですか」
杏奈「別に」
浅川「あ、これとか美味しいですよ。モチっ
としてて」
杏奈「どうぞお構いなく」
渡辺「先生」
杏奈に湯気の立つコーヒーカップ。
杏奈「ありがとう」
渡辺「夜はもう少し落ち着くといいですね」
ブラックのまま飲む杏奈。
杏奈「そうね。医者は暇な方がいい」
幸せそうにドーナツを食べる浅川。
ふと杏奈の顔を見て。
浅川「先生、ファンデ変えました?」
杏奈「?」
渡辺「そういうトコだけすぐ気が回る」
浅川「えへへ」
杏奈「別に変えてないけど」
渡辺「しかもハズレ」
浅川「え、でもほら、いつもより血色いいっ
ていうか、若々しいっていうか・・・」
杏奈「・・・・・・」
ぷいっと椅子を回して背を向ける。
浅川「あっ、もしかして・・・」
杏奈の前に回り込もうとする浅川。
椅子を回して逃げる杏奈。
ドーナツ持ったまま追いすがる浅川。
渡辺「こらっ、ぽろぽろ落ちてる」
浅川「あれー? あれれー?」
杏奈「・・・・・・」(クルクル)
●同・夜(回想)
処置室。
山田の前に立ちふさがる杏奈。
山田「どけよ」
強引に通り抜けようとする山田。
一歩も退かない杏奈。
山田「カウントダウン始まってんだろ」
杏奈、レッサーパンダのように威嚇。
山田、思わず後ずさり。
杏奈「気が変わりました」
山田「ハァ?」
杏奈「このまま行かせるわけにはいかない」
山田「おま、何言って・・・」
杏奈「術後経過」
山田「?」
杏奈「安定するまで責任持たせて」
山田「・・・イカレてるぜ、先生」
杏奈「きっと遺伝ね」
●三階・子供部屋・明け方(回想)
開かれる窓。
薄明と共に吹き込む風。
仄暗い室内に舞い踊る埃。
反射的に咳き込む山田。
杏奈「病室には不向きだけど」
窓から見下ろす杏奈。
眼下に年季の入った看板。
『青山内科・外科・小児科医院』。
山田、室内をぐるり一望。
時が止まったような女子高生の部屋。
山田「現役ってわけじゃなさそうだな」
杏奈「十八年ぶり。反吐が出そう」
心底嫌そうな杏奈の顔。
杏奈「シーツはきれいなのあるから」
山田「いいのか」
杏奈「?」
山田「引き出しの中とか見られても」
勉強机に寄りかかる山田。
杏奈「見られたくない物はとっくに捨てた」
山田、写真立てを手に取る。
女子高生たちのズッ友写真。
その中でどこか冷めた少女杏奈。
山田「可愛いじゃねえの」
杏奈「その子に言ってあげたら?」
杏奈、窓とカーテンを閉める。
山田、裸のベッドに座る。
山田「座りなよ、先生」
無言でじっと見下ろす杏奈。
山田「今のあんたも十分可愛いぜ」
杏奈「・・・勘違いしないで」
山田「勘違い?」
杏奈「そういうつもりなら傷が増えるわよ」
山田「おお怖。正攻法じゃとても勝てねえ」
杏奈「・・・・・・」
山田「いっそ寝てる間に・・・」
杏奈の手にいつの間にか南京錠。
山田「マジかよ。便所は?」
杏奈「・・・・・・」
山田「その窓からするぞ」
杏奈「やめてよ。看板にかかっちゃう」
山田「そっちの心配かよ・・・」
一瞬崩れる杏奈の鉄仮面。
釣られて山田も頬を緩める。
山田「冗談だよ。監禁だけは勘弁しろ」
●一階・診療所・夜(現在に戻る)
診察室にスポーティーJK(カナタ)。
まくり上げたタンクトップを下ろす。
カナタ「こないだ自己ベスト出たんです」
杏奈「ふーん」
カナタ「十センチも伸びたんですよ」
杏奈「すごいの、それって」
カナタ「やばいです。追い風じゃないし」
杏奈「今年で引退だっけ」
カナタ「ハイ。次のインハイ勝って有終の美
飾りたいなって」
杏奈「燃えてるね。アオハルってやつ?」
カナタ「そんなキラキラしてないですって。
あっちこっち痣だらけ泥だらけだし」
杏奈「それはそれで眩しいけど。そうそう、
膝の具合は?」
カナタ「痛みとかは全然。でも・・・」
杏奈「ん?」
カナタ「ちょっと大きくなってる、かも」
杏奈「やっぱり整形外科で一度診てもらった
方がいいね。紹介状書くから待ってて」
カナタ「杏奈先生じゃダメなんですか」
杏奈「専門外。どうせだし大きな病院で診て
もらいなさい」
カナタ「あの・・・」
杏奈「?」
カナタ「大丈夫ですよね。まだ跳べますよね
私・・・」
杏奈「良性の脂肪腫なら何の問題もないよ。
でも診断するのは私じゃない」
カナタの肩に触れようとして。
手を引っ込め、椅子ごと背を向ける。
PC画面に病院HPを表示。
杏奈「この病院、設備は整ってるから」
●三階・子供部屋・夜
山田、ベッドの上で荒い息。
額に手を当てた杏奈、眉間に皺。
続けて包帯の上から傷に触れる。
杏奈「痛い?」
力なく頷く山田。
杏奈「傷口が熱をもってないから感染症じゃ
ないと思う。たぶん侵襲熱」
山田「・・・何だそりゃ」
杏奈「ダメージから回復しようとしてるの。
体の正常な反応」
山田「・・・死なねえよな」
杏奈「死ぬわけない」
子供をあやすように髪を撫でて。
杏奈「大丈夫、時間が癒してくれる」
山田「職務放棄かよ」
杏奈「寝て起きたら下がってるわ」
山田「こんなに痛くちゃ寝れねえよ」
杏奈「眠るまでいてあげる」
*****
少し落ち着いた様子で眠る山田。
湿ったシャツのボタンを外す杏奈。
起こさないように汗を拭いてやる。
●一階・診療所・昼
スタッフルーム。
テーブルに杏奈と浅川。
情報番組を垂れ流すテレビ。
杏奈、大あくび。
浅川「夜ふかしですか」
杏奈「ん、ちょっと」
浅川「先生でもSNSとか見るんですね」
杏奈「違う違う勉強。ううん、実習かな」
俯く浅川。
杏奈「どうかした?」
浅川「・・・自己嫌悪です」
テレビ、スポットニュース。
暴力団抗争で一人死亡。
都心にサルの親子出没。
杏奈「浅川さんだって頑張ってるじゃない」
浅川「そんなことないですよお」
杏奈「続けてるんでしょ、試験勉強」
浅川「それが私、集中力マジ死んでて」
ニュース、大病院の医療過誤隠蔽。
謝罪会見で頭を下げる幹部連中。
浅川「試験対策動画見てたはずなのにいつの
まにか柴犬チャンネルに・・・先生?」
鬼の形相でテレビを睨んでいる杏奈。
浅川の視線に気づいて表情を崩す。
杏奈「あ、ごめん。何だっけ」
言いながらリモコンで電源オフ。
●三階・子供部屋・夜
ベッドの上に腰かけた山田。
杏奈、縫合箇所の確認。
杏奈「気分はどう?」
山田「まあまあだ。傷は?」
杏奈「至って順調。たいした回復力ね」
新しいガーゼと包帯を手に。
杏奈「ほんとは洗浄した方がいいんだけど。
どう、軽くシャワー浴びる?」
山田「消毒は?」
杏奈「しません」
山田「は? 大丈夫か?」
杏奈「せっかくの自然治癒を邪魔する気?
あの人は消毒してた?」
山田「覚えてねえよ」
杏奈「で、どうする、シャワー」
山田「・・・まだいい」
杏奈「豪傑なんだか繊細なんだか」
山田「・・・・・・」
杏奈「散々粋がってたくせに」
山田「・・・いい気になるなよ」(ドス)
杏奈「そっちこそ」
山田「あ?」
杏奈「許せない、あなたみたいな人」
山田「・・・・・・」
杏奈「健康な体、わざと傷つける連中」
山田「・・・スミのことか」
杏奈「指もでしょ」
山田「揃ってるよ、俺は全部」
両手の指で卑猥な仕草。
杏奈、無視して包帯を巻き直す。
*****
包帯の上から手を当てる杏奈。
杏奈「もう一日じっとしてたら塞がるわ」
山田「・・・ボタン電池」
杏奈「?」
山田「くれよ。暇で死にそうだ」
山田の手に初代た●ごっち。
●一階・診療所・朝~夜
慌ただしい一日のモンタージュ。
常連老人たちの井戸端会議。
おもちゃを手に走り回る子供。
問診票を手に歩き回る渡辺。
渋滞する浅川の会計窓口。
診察の合間に喉を潤す杏奈。
●同・夜
無人の待合室。
ソファを除菌している浅川。
診察室から杏奈が出てくる。
浅川「お疲れさまです!」
杏奈「お疲れ。今日もなかなかハードモード
だったね」
処置室の方に行きかける杏奈。
浅川「先生、三階なんですけど・・・」
杏奈の足が止まる。
杏奈「三階がどうかした?」
浅川「さっき誰かいませんでした?」
診療所前のインサート。
駐輪場にチェーンをかける浅川。
ふと見上げた三階の窓。
カーテンの隙間にぼんやり人影。
視線に気づいたようにすぐ引っ込む。
浅川「たしか空き部屋でしたよね」
杏奈「あ、うん、そうだけど」
浅川「私の勘違いかなあ。一瞬だったから」
考え込む浅川、考えるふりの杏奈。
杏奈「・・・それ、私かも」
浅川「え」
杏奈「定期的に空気入れ換えないと部屋傷む
でしょ。だからさっき・・・」
浅川「なーんだ、びっくりした」
渡辺「何がびっくりしたの」
処置室から渡辺が出てくる。
浅川「オバケだったらどうしようって」
渡辺「こら、不謹慎!」
浅川「だって病院は怪談の宝庫って言うじゃ
ないですか」
渡辺「このクリニックで亡くなった人なんて
ここ三十年で一人もいません」
杏奈「ま、出るとしたら前院長だけど、幸い
苦しまなかったみたいだから」
渡辺「すみません、私まで無神経に」
杏奈「いいわよこれくらいの軽口。堅苦しい
のは苦手」
突然、どこからか陰気なメロディ。
一斉にビクッとする三人。
不安そうに辺りを見回して。
浅川「え・・・やばいこわい・・・」
渡辺「処置室だわ」
踵を返す渡辺、押し留める杏奈。
杏奈「私が見ます」
単身で処置室に入る。
素早く音の出どころを探って。
二つの薬品戸棚の隙間。
明滅している薄い物体。
拾い上げたのはスマートフォン。
『ユメコ』からの着信。
鳴り続ける『極悪坊主』のメロディ。
思わず着信を切断する杏奈。
入口から恐々覗き込む二人。
浅川「・・・先生、ポルターガイスト?」
杏奈、振り返って無理に笑顔。
杏奈「ただのケータイ。患者さんの落とし物
じゃないかな」
渡辺「今お掃除したところなのに・・・」
杏奈「気にしないで、よくあることよ。エア
ポケットみたいなもの」
浅川「あ、私もあります。抽選でゲットした
ライブチケ、部屋の中から消えちゃって」
渡辺「(スルー)それ、どうします?」
杏奈「私が預かっておく。また持主がかけて
くるかもしれない」
白衣のポケットにスマホを滑らせる。
●三階・子供部屋・夜
た●ごっちに夢中の山田。
スーパーの袋を置く杏奈。
杏奈「半額弁当で悪いんだけど」
山田「胃袋は数字なんか気にしねえ」
杏奈「何それ」
山田「溶けちまえば同じさ」
山田の隣に座る杏奈。
杏奈「あまり窓に近づかないでね」
山田「あの子か。気をつけるよ」
杏奈、スマホを袋の横に置く。
山田「置いてきたかと思ってた」
杏奈「ユメコさんって?」
山田「こいつの生産者だ」(傷をポンポン)
杏奈「?」
山田「『私が刺しました』」
杏奈「かかってきたわよ」
山田「出たのか」
杏奈「切っちゃった」
山田「ならいい」
スマホを手にして電源を切る。
杏奈「無視して平気?」
山田「今さら何を? 死にかけたけど今回は
許してあげるよ、ってか」
杏奈「・・・・・・」
山田「向こうが許してなかったらどうする」
杏奈「・・・・・・」
山田「それより見てくれよ」
た●ごっちの画面を示して。
山田「こいつメシ食ってクソして寝るだけ。
マジでいいご身分だよな」
杏奈「そんなこと言って、ちゃんとお世話も
しつけもできてるじゃない」
山田「そうなのか」
杏奈「ほら、たまっちになってる」
山田「いまいちよくわかんねえ」
杏奈「この調子ならまめっちも夢じゃない」
山田「それよりこっちもメシだ」
袋から弁当を取り出して。
山田「先生も付き合えよ」
●二階・ダイニング・夜
テーブルに向かい合う杏奈と山田。
黙々と弁当を食べている。
薄暗い照明、箸を運ぶ音。
山田「辛気くさいホームドラマだな」
杏奈「そう? 私はこれが落ち着く」
山田「音楽とかは?」
杏奈「かけたことないわ」
山田「アレ」
部屋の隅のレコード台を指して。
杏奈「母が亡くなってから触ってない」
山田、席を立ってレコード台へ。
山田「乗せっぱなしじゃねえか」
セットされている盤に針を落とす。
流れ出す『蒼いノクターン』。
山田「歯医者思い出すな。何もないよりマシ
だけど」
席に戻って食事再開。
杏奈「・・・何でやられたの」
山田「?」
杏奈「凶器」
山田「パン切るやつ」
杏奈「なるほど。傷口が汚かったわけだ」
山田「そんなに?」
杏奈「もうギザギザでグチャグチャ」
山田「やめだ、この話は」
カルビ焼きを摘んでしかめっ面。
音楽、『涙のトッカータ』に。
杏奈「じゃあ何の話題がいい?」
山田「あんたの身の上話なんかどうだ」
露骨に嫌な顔をする杏奈。
山田「別嬪さんが台無しだぜ」
杏奈「人に話せる昔話なんてないわ」
山田「一つくらいあるだろ」
杏奈「思い出したくもない」
山田「お袋さんと最後に会ったのは」
杏奈「高校出たとき」
山田「死に目にも会えなかったのか」
杏奈「そんなに悪いなんて知らなかった」
山田「後悔は?」
首を横に振る杏奈。
山田「だったら何で継いだ?」
杏奈「食べるため」
山田「他でも食えるだろ、あんたなら」
杏奈「でかい病院にいたの、私」
山田「やめたのか?」
杏奈「やめたのかやめさせられたのか」
山田「・・・・・・」
杏奈「わからない、どっちでもいい」
山田「・・・・・・」
杏奈「勉強して勉強して上へ行って、最後に
勉強させられた、組織ってヤツを」
自嘲気味に笑う。
杏奈「頭蓋骨開いて大脳新皮質にメス入れた
ところで分からないのよ、人間の正体は」
山田「・・・一緒だな」
杏奈「?」
山田「極道も」
杏奈「(吹き出す)やだ、一緒にしないで」
山田「ややこしいのは一緒だろ」
杏奈「知らないよ、そっちの事情なんて」
音楽、『天使のセレナード』に。
二人の会話が止まる。
しばらく音楽に耳を澄まして。
杏奈「・・・何て曲?」
山田「さあ。ジャケットもねえしな」
杏奈、自分のスマホを取り出す。
音声検索画面起動。
検索結果に杏奈の瞳が揺れる。
答えを求める山田の視線。
杏奈「・・・『天使のセレナード』だって」
再び音楽に聴き入る二人。
●三階・子供部屋・夜
山田の傷の具合を診る杏奈。
杏奈「・・・うん、上出来」
山田「くっついたのか」
杏奈「激しい運動しない限りは大丈夫」
山田「どこから?」
杏奈「?」
山田「どこからが『激しい運動』なんだ」
杏奈「それくらい自分で考えて」
山田「専門家の見解が聞きてえんだよ」
杏奈「切った張ったは自粛すること」
山田「愛の営みは?」
杏奈「血まみれでも愛してくれる相手なら」
山田「当分ソロプレイか」
杏奈「抜糸するまで我慢しなさい」
山田「どのくらい?」
杏奈「十日、かな」
山田「ムショにでもいる気分だぜ」
杏奈「勝手な脱獄は許しませんからね」
山田「(手を挙げて)交談願います!」
杏奈「は?」
山田「塀の中の決まり。話したいってこと」
杏奈「・・・どうぞ」
山田「『交談よし』って言うんだよ」
杏奈「・・・コウダンヨシ」
山田「糸抜くついでにアレも抜いて頂けない
でしょうか先生!」
杏奈、無言でデコピン。
山田「痛ッ。冗談に決まってんだろうが」
杏奈「鉛玉なら『痛ッ』で済まないわよ」
ふと山田の襟元に鼻を近づける杏奈。
山田「臭うか?」
杏奈「烏の行水でいいから入って、お願い」
山田「・・・入ったあとは?」
杏奈「え」
山田「入ったあとは」
杏奈「・・・・・・」
黙って見つめ合う二人。
(シャワーの音、ずり上げ)
●二階・脱衣所・夜
景気よく降り注ぐシャワー。
曇り硝子に透ける山田の肌色。
脱衣かごに着替えと新しい下着。
杏奈、そそくさと後にする。
●二階・書斎・夜
書き物机に向かう杏奈。
卓上顕微鏡を覗きながら手を動かす。
接眼レンズの視野。
鉗子と糸で結紮のトレーニング。
淡々と作られていく結び目。
何度も何度も機械のように繰り返す。
耳に障るシャワーの音。
手先が狂って壊れる結び目。
杏奈、溜息。
*****
書き物机に突っ伏している杏奈。
背後から誰か近づく気配。
覆い被さるように覗き込む影。
杏奈、覚めているが狸寝入り。
視線、息遣い、体温を間近に感じて。
やがて気配が消える。
汗をかいた杏奈の手のひら。
唇から重く切ない息が漏れる。
●一階・診療所・昼
待合室。
腰を折りながら帰っていく老女。
受付で手を振って見送る浅川。
診察室から覗く渡辺。
患者ゼロを確認してUターン。
*****
診察室。
渡辺「これで午前終わりです」
診察デスクでボーっとする杏奈。
渡辺「先生?」
杏奈「あ、はい、お疲れ様でした」
火照ったような杏奈の顔。
渡辺「失礼します」
ずかずかと歩み寄る渡辺。
迷いなく杏奈の額に赤外線体温計。
渡辺「・・・お熱はないですね」
杏奈「え、何? 私ヘンだった?」
渡辺「ええまあ」
杏奈「大丈夫よ。健康チェックはしてるし」
立ち上がりかけてよろける杏奈。
渡辺、すかさず支えて座らせる。
渡辺「ご無理なさってませんか」
杏奈「無理なんて、全然・・・」
弱々しく消え入る語尾。
渡辺「最近やけに忙しかったですもんね」
杏奈「ちょっと仮眠させて。カルテの整理は
後でやるから」
渡辺「先生」
杏奈「?」
渡辺「午後はお休みしましょう」
杏奈「ダメよ、休診はダメ」
渡辺「ナースストップです」
杏奈「予約だっていっぱい・・・」
渡辺「お断りを入れる時間はあります」
杏奈「そんな無責任な・・・地域にとっての
ライフラインなのよ、ここは」
渡辺「今の状態で診ても患者さんのためには
なりません」
杏奈「・・・・・・」
渡辺「浅川さんと手分けしてお電話します。
先生は休んでいてください」
待合室を覗く渡辺。
渡辺「浅川さーん、ちょっと来てー」
浅川(声)「はーい」
*****
段取りを打ち合わせる渡辺と浅川。
膜で隔てたように聞こえる二人の声。
杏奈「・・・ごめんなさい」
椅子の中でずり落ちていく杏奈。
●二階・寝室・午後
服のままベッドに倒れ込む杏奈。
シーツに顔を埋めて嘆息。
杏奈「・・・(聞き取れない呟き)」
風でガタガタ鳴る窓。
杏奈「うるさい・・・」
返事するように窓が鳴る。
杏奈「うるさいなあ・・・」
眠気の沼に沈んでいく杏奈。
●杏奈の夢
大病院、手術室、手術台。
頭蓋骨の窓から覗く桃色の脳髄。
遠巻きに眺める医師や看護師。
一人きりで患者と向き合う杏奈。
レーザーメスを握る手が震える。
術野に電極が近づいた瞬間。
脳髄が生物のように襲いかかる。
顔面を覆う脳髄と格闘する杏奈。
腹を抱えて笑い転げる同僚たち。
*****
診療所、処置室、簡易ベッド。
うつ伏せに横たわった男の死体。
歩み寄る初老の女性医師。
死体の刺青の鬼女の首にメス。
横に走った傷痕を正確になぞる。
開く傷、血は出ない。
真っ赤に色づいてゆく刺青の桜。
片隅で立ちつくす高校生の杏奈。
なすすべなく解剖を見守って。
●二階・寝室・夕
声なき叫びとともに目覚める杏奈。
ベッドに仰向けで汗びっしょり。
思い出したように窓に当たる風。
傾いた陽が殺風景な部屋を染める。
*****
ベッドに人間大の汗染み。
ぞんざいに脱ぎ捨てられた服。
微かに聞こえるシャワーの雨音。
●三階・子供部屋・夕
廊下、黄昏の陰影。
さっぱりした服に着替えた杏奈。
遠慮がちにノック、返答はなし。
杏奈、そろそろとドアを開く。
*****
無人の室内、立ちつくす杏奈。
きれいに整えられたベッド。
大きく開け放たれた窓。
カーテンが風になぶられている。
無意識のうちに窓を閉める杏奈。
背後から神経に障る電子音。
振り返ると目に入る学習机。
杏奈、足早に歩み寄る。
机の上に裏返しのた●ごっち。
恐る恐るひっくり返す杏奈。
画面にはおばけっちとお墓。
●一階・診療所・夕
待合室。
リストを見比べている渡辺と浅川。
白衣を羽織った杏奈が顔を出す。
杏奈「まだいてくれたの」
渡辺「いま済んだところです」
浅川「表に貼り紙も」
杏奈「ありがとう、ご迷惑おかけしました。
今日は二人ともゆっくりしてね」
渡辺「そういう先生こそ。ゆっくりなさる気
ゼロじゃないですか」
杏奈「ちょっとだけ整理。寝たら少しマシに
なったから」
渡辺「ほどほどになさってくださいよ」
杏奈「はい」
渡辺「気に病む必要ないですからね。皆さん
怒るどころか心配してくださって」
杏奈「・・・そうなんだ」
杏奈の目からポロリと涙。
浅川「せんせ・・・」
浅川の尻を軽快に叩く渡辺。
浅川「ひゃっ」
渡辺「さ、とっとと着替えて帰りましょう。
孫ちゃんに桜でも見せてやろうかな」
杏奈「川沿い? もう咲いてるの?」
渡辺「五分咲きくらい。でも風で中途半端に
散るかもしれないし早めにと思って」
杏奈「そうね、週末は降るみたいだし。浅川
さんも見て帰ったら?」
浅川「あー・・・勉強しなくちゃなので」
渡辺「そっちもほどほどに。息抜きしないと
効率下がるわよ」
顔を見合わせる杏奈と浅川。
二人、笑いをこらえて。
渡辺「何? ニヤニヤして」
浅川「いえ・・・別に・・・」
渡辺「先生まで」
杏奈「彼女、加減分かってるから・・・」
*****
私服姿の二人を見送る杏奈。
鍵をかけずに診察室へ。
*****
スタッフルームに入ってくる杏奈。
首を回しながらイテテと独り言。
ふとテーブルの上の本に気づく。
診療報酬請求事務能力認定の参考書。
杏奈「ほーら、肝腎なもの」
杏奈、柔らかい微笑。
腰を下ろして栄養ドリンク補給。
待合室の方でガタンと音がする。
杏奈「浅川さん?」
開いた戸口に向かって大声で。
杏奈「ここ、忘れてるよ、取りにおいで」
無反応。
参考書を手に立ち上がる杏奈。
*****
待合室。
受付の前に立っているカナタ。
スタッフルームから杏奈。
カナタの姿を認めて不審顔。
杏奈「カナタちゃん」
本を持ったまま数歩歩み寄る。
杏奈「ごめん、今日ちょっとお休み。入口に
貼ってあるの分かりにくかった?」
カナタ「・・・・・・」
引きつっているカナタの顔。
その背後からスプリングコートの女。
カナタの背に柳葉包丁を突きつけて。
杏奈「ちょっと、あなた何して・・・」
女(ユメコ)の口がゆっくり動く。
ユメコ「彼はどこ」
杏奈「彼?」
ユメコ「とぼけないで。知ってるはずよ」
舌足らずな甘い声。
杏奈「待って、落ち着いて話しましょ・・・
とりあえずその子から離れて・・・」
ユメコ「このガキが新しい穴?」
包丁を握る手に力。
カナタの喉からヒッという悲鳴。
ユメコ「当たり?」
杏奈「その子は関係ない・・・」
焦点の合わない目が杏奈を捉える。
杏奈「私、私よ。あの人の相手は私・・・」
ユメコ「山田善男」
杏奈「え」
ユメコ「名前。知らないわけないでしょ!」
一喝に竦み上がる杏奈とカナタ。
ユメコ「そ・れ・と・も、やっぱり嘘?」
再び甘ったるい声。
杏奈「う、嘘じゃないわ。山田さんでしょ。
坂口安吾が好きな・・・」
ユメコ、包丁をカナタの喉へ。
杏奈「やめて! やるなら私にしなさい!」
ユメコ「ヨシオを出して」
杏奈「いないわ」
カナタの首に食い込む包丁。
皮一枚破れて流れる血。
カナタ「杏奈せんせい・・・」
涙がとめどなく溢れる。
杏奈「本当にいないの、信じて・・・」
ユメコ「ダーメ。知ってるんだから」
周囲を見回すユメコ。
ユメコ「ヨシオの血の臭い、いっぱいする。
嫌になるくらい嗅いだから分かるよ」
杏奈「どうして・・・」
ユメコ「そうでもしないとさ、あの人すぐに
どっか行っちゃうんだもん。もうほんと、
盛りのついた野良猫みたい」
杏奈「・・・・・・」
ユメコ「ほんとはね、去勢手術?っていうの
してあげたかったの」
杏奈「・・・・・・」
ユメコ「でも失敗しちゃった。だから今度は
よく切れる包丁用意したんだ。有名な職人
さん、堺の何とかって人の・・・」
素早く走る杏奈の視線。
ソファ、マガジンラック、観葉植物。
突然、ユメコの背後で山田の声。
山田(声)「ユメコ」
カナタごと体の向きを変えるユメコ。
完全に杏奈に背を向けて。
ユメコ「ヨシオ? やっぱりいたのね!」
山田(声)「もうやめようぜ、こんなこと」
ユメコ「どこ? どこなの? ヨシオ!」
山田(声)「悪いのは俺だ。許してくれ」
ユメコ「ほんとにヨシオ? そんなの今まで
言ってくれたことないじゃん。顔見せて、
私にちゃんと顔見せてよ!」
空中で振り回される包丁。
カナタを捕えた腕も緩んでいる。
背後から忍び寄る杏奈。
振り下ろされるポールハンガ―。
カーペットに突き刺さる包丁。
蹲るユメコ、自由になるカナタ。
杏奈「カナタちゃん! 走って!」
カナタ「先生・・・」
一瞬ためらうもしなやかにスタート。
ユメコの手をすり抜けて。
杏奈、包丁に飛びかかる。
紙一重で取り戻すユメコ。
切っ先が杏奈に向けられる。
ユメコ「やってくれるね、おばさん」
包丁を握る手がみるみる腫れあがる。
杏奈「おとなしく帰るなら治療してあげても
いいけど」
迫る刃先、後ずさる杏奈。
杏奈「・・・その気はないようね」
ユメコ「ヨシオ、そのまま隠れてていいよ。
この女ぶっ殺してからゆっくりかくれんぼ
付き合ったげる」
言い終わるやいなやの一突き。
杏奈、咄嗟に拾い上げた参考書。
分厚い本の表紙に食い入る刃。
ユメコ「ふざけやがって!」
身を翻して処置室へ逃げ込む杏奈。
鍵をかけようとするが間に合わない。
追撃するユメコと共になだれ込む。
*****
処置室の死闘。
簡易ベッドや棚にぶつかりながら。
めまぐるしく攻守が入れ替わる。
飛び交うペーパーや医療器具。
床に落ちて割れる薬品。
簡易ベッドに押しつけられる杏奈。
顔面を狙う包丁を必死にかわす。
苦し紛れの蹴りがユメコの鳩尾へ。
反対の壁に激突して倒れ込むユメコ。
杏奈、ステンレスワゴンを滑らせる。
全速でユメコにぶつかるワゴン。
トレーや注射器が上から降り注ぐ。
処置室から走り出ようとする杏奈。
足を掴んで引き倒すユメコ。
包丁を手に這いずりながら迫る。
ユメコのすぐ耳元で山田の声。
山田(声)「ユメコ」
ユメコ「うわー!」
顔の周りで包丁を振り回すユメコ。
半狂乱、虫を追い払うように。
勢いで耳介の一部が切り落とされる。
杏奈、その隙に脱出。
*****
待合室を駆ける杏奈。
白衣の裾をはためかせて。
乱れたソファに躓きながら。
血にまみれて追いかけるユメコ。
鬼女の形相、何度も空を切る包丁。
杏奈の手が出口のノブにかかる。
外に押し開かれるドア。
背後に迫るユメコの凶刃。
ドアから吹き込む一陣の春風。
思わず怯む二人の女。
舞い込む桜の花びら。
ドアの外に立つ人影。
一瞬、山田の姿に見える。
杏奈「山田・・・さん?」
次の瞬間、人影は制服警官に。
杏奈を守るように覆い被さる警官。
他の警官たちがユメコに飛びかかる。
転がる包丁、無念の叫び。
抱きすくめられて動けない杏奈。
赤色灯、花吹雪、野次馬の喧騒。
診療所前に佇んでいるカナタ。
肩から毛布、心配そうなまなざし。
傍らに浅川。
安心させるようにカナタの肩を抱く。
●同・夜
待合室。
混乱した室内、並べ直されたソファ。
カナタの首の傷を治療する杏奈。
杏奈「ごめんね、危ないことに巻き込んで」
カナタ「いえ・・・」
洟をすする音。
カナタ「先生が無事でよかった」
杏奈「カナタちゃんのおかげ」
ガーゼを貼り終えた杏奈。
思わずカナタを抱きしめる。
杏奈「ありがとね・・・」
浅川「いやーびっくりしたなあ。忘れ物取り
に戻ったらカナタちゃんが急に飛び出して
くるんですもん」
ソファの後ろで浅川ニコニコ。
杏奈「浅川さんも。通報感謝してます」
浅川「いえいえ。何かあの女、手当たり次第
この辺のクリニック襲おうとしてたらしい
ですよ。お巡りさんが近くにいてラッキー
でしたね」
杏奈「何が目的だったんだろ」
浅川「さあ。連れてかれる時も何かイミフな
こと喚き散らしてたから・・・」
カナタ「・・・・・・」
チラッと杏奈を見るがすぐに俯く。
渡辺「さあさあ、お次は先生の番ですよ」
両手に消毒薬と綿花を持って登場。
杏奈「私はいいわ。かすり傷だし」
渡辺「何おっしゃてるんですか。ばい菌でも
入ったらそれこそオバケになりますよ」
顔のすり傷にアルコール綿花。
杏奈、顔をしかめる。
杏奈「そうだ。カナタちゃん、今日は?」
顔を上げるカナタ。
カナタ「検査の結果、報告しようと思って」
杏奈「良性だった?」
首を横に振るカナタ、曇る杏奈。
杏奈「そう・・・」
カナタ「でも、発見が早かったからキレイに
取れるって。杏奈先生がいい病院紹介して
くれたから・・・」
杏奈「・・・・・・」
カナタ「だから私、がんばります」
おひさまのような笑顔。
もう一度カナタを抱きしめる杏奈。
杏奈「うん、一緒にがんばろうね」
カナタの髪に桜の花びら。
BGM『天使のセレナード』。
●二階・ダイニング・夜
無人の食卓。
二人分のディナーが並んでいる。
回り続けるレコード。
●三階・子供部屋・夜
勉強机に向かう杏奈。
手の中にはた●ごっち。
今まさに卵が孵ろうとしている。
背後の窓は大きく開かれて。
誰かの帰りを待っているかのよう。
突然吹き込む風、乱れる杏奈の髪。
ベッドに誰か座る気配。
杏奈、振り向きもせず。
杏奈「言ったわよね。脱獄は許さないって」
山田(声)「脱獄じゃない。退院だ」
杏奈「無断退院もルール違反」
山田(声)「だから戻ってきたんだよ」
杏奈「それで?」
山田(声)「糸、抜いてくれ」
杏奈「抜いたらまたどこか行くんでしょ」
山田(声)「行かねえ。ずっといるよ」
杏奈「そ」
微笑む杏奈の唇から山田の声が。
山田(声)「ずっと一緒だ、杏奈」
●二階・ダイニング・夜
レコード台に寄るカメラ。
裏向きに立てかけられたジャケット。
収録曲一覧。
日本語題と原題が併記されている。
『天使のセレナード』の横には。
『La chanson pour Anna』。
了
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