「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
277076
ホーム
|
日記
|
プロフィール
【フォローする】
【ログイン】
山さんの刑事部屋
ノブレス・サボタージュ
姫蔓 緋夜子(ひめつる ひよこ)(二一)
女性。大学生。令嬢。
捩花 寧音(ねじばな ねおん)(二一)
男性。フリーター。庶民。
片喰 魁(かたばみ かい)(三二)
男性。CEO。成り上がり。
海蘭(ほいらん)(三二)
女性。運転手兼執事。使用人。
姫蔓 秀麿(ひめつる ひでまろ)(四九)
男性。緋夜子の父親。富豪。
●大衆居酒屋・午後
歩道に面したオープンな店構え。
年季の入った長机が所狭しと並ぶ。
ビールケースを利用した椅子。
店内に一般客の姿は見られない。
一番奥に設えられたVIP席。
店の雰囲気にそぐわない一組の男女。
姫蔓緋夜子。
ホッケをナイフとフォークで食す。
片喰魁。
生牡蠣をアテに白ワインを味わう。
入口をガードする黒服SPたち。
ビニールカーテンに『本日貸切』。
*****
舌の上でテイスティングする魁。
魁「やっぱり生牡蠣には一周回ってシャブリ
だね。あえて赤とか言う奴もいるけど」
緋夜子「・・・・・・」
魁「一度試したんだけど全然ダメ。鉄臭いの
何のって。思わず吐き出しちゃった」
緋夜子「・・・・・・」
魁「結局、選ぶべきは王道なんだな。馬なら
鹿毛、株なら半導体か通信。奇をてらう奴
は大抵ろくな目に合わない」
緋夜子「・・・・・・」
魁「そうそう馬と言えば。やっぱり買うこと
にしたよ。いや、迷ったけどさ。サムライ
ワンダラーの血統はやっぱり魅力でしょ」
緋夜子「・・・・・・」
黙々とホッケの解体を続ける緋夜子。
魁「・・・お気に召さなかった? こういう
庶民の店、一度行ってみたいって」
緋夜子「別に怒ってなどいませんわ」
ナプキンで唇を拭いて。
緋夜子「そのままお続けになって」
店の外で何やら押し問答。
制止を振り切って入ってくる男。
捩花寧音。
サイクルウェア、デリバリーバッグ。
VIP席を遠慮なく通り過ぎて。
魁「ちょっと君、何勝手に・・・マスター、
他の客は入れるなってあれほど」
厨房から顔を出す大将。
大将「デリバリーは受け付けてるんでね」
寧音にビニール袋を渡して。
大将「ご苦労さん。汁物だから気をつけて」
寧音「了解っす」
バッグの中、固定できるように工夫。
袋を丁寧に格納してバッグを背負う。
寧音「店の味、きっちりお届けするっす」
寧音、帰り道もVIP席をスルー。
見下した表情の魁。
寧音を追う緋夜子の視線。
SPを尻目に出ていく寧音。
魁「ごめん、興醒めしたよね。何だアイツ、
無礼だし汗くさいし・・・」
やにわに立ち上がる緋夜子。
魁「どうしたの緋夜子さん」
緋夜子「食後のエクササイズですわ」
緋夜子、大将にスマイル&会釈。
●車道・午後
路肩を走る寧音のクロスバイク。
人にも料理にも優しい安定走行。
鼻歌は『Don't Stop Me Now』。
後方から接近するセンチュリー。
寧音に並走するように速度を落とす。
後部座席の窓に緋夜子の姿。
緋夜子「そこのあなた」
寧音、一瞬視線を向けるがすぐ戻す。
緋夜子「お望みでしたら送って差し上げても
よろしくってよ」
表情も変えずに漕ぎ続ける寧音。
緋夜子「聞こえてらっしゃらないの」
漕ぎ続ける寧音。
緋夜子、トラメガを持ち出す。
緋夜子「遠慮せずお乗りなさい。今日みたい
な暑い日にそんな・・・」
寧音、増幅ボイスにも耳を貸さず。
滑らかに加速。
緋夜子「(運転手に)海蘭、離されないで」
センチュリー、ブレーキ。
緋夜子「ちょっと。見失いますわよ」
信号、今しも黄色から赤へ。
遠ざかる寧音の後ろ姿。
●住宅街・午後
一軒家のドアが閉じる。
軽く頭を下げて背を向ける寧音。
家の前に止めたクロスバイク。
その傍にいつの間にかセンチュリー。
車外に佇む緋夜子と海蘭。
海蘭、緋夜子に日傘を差しかけて。
緋夜子、グラスを優美に捧げ持って。
ハーブを添えたスムージー。
緋夜子「キウイとバナナは熱中症予防に最適
ですの。このドリンクにはどちらも入って
いましてよ。さ、グイっと」
緋夜子の前を横切る寧音。
クロスバイクに歩み寄って。
ホルダーのスポドリを一気飲み。
そして顧みることもなく出発。
そのままのポーズで放置される主従。
緋夜子、ひくつく唇をストローへ。
海蘭「参りましょうお嬢様。紫外線がお体に
障ります」
●踏切・夕
閉じた遮断器、溜まった車列。
腕木の前で踏切待ちの寧音。
両方向とも灯りっぱなしの矢印。
寧音、スマホのマップを確認。
目的地は踏切を渡って五百メートル。
配達予定時刻まで五分を切っている。
天を仰ぐ寧音。
暮れ始めた空を横切るヘリコプター。
その時、スマホが着信。
登録されていない携帯番号から。
少しためらうが電話をとる。
緋夜子(声)「お困りのようですわね」
*****
上空、ヘリコプター機内。
操縦席に海蘭。
後部席に緋夜子、ヘッドセット装備。
緋夜子「今、鉄道会社に確認いたしました。
優にニ十分は開かないそうですわ。本当に
間のお悪いこと」
大渋滞を悠々と見下ろして。
先頭にポツリと寧音のヘルメット。
緋夜子「ピックアップ差し上げてもよろしい
のですけれど、生憎とここでは降下もまま
なりませんの」
緋夜子、手元のタブレットを操作。
緋夜子「でも安心なさって。五分後、上下線
を止めて差し上げます。ただし一分間だけ
ですから急いで・・・何をなさいますの」
眼下の寧音、自転車から降りようと。
*****
線路柵の傍に自転車を停める寧音。
チェーンでしっかり固定。
バッグを背負ったまま走り出す。
すぐそこの橋上駅舎を目指して。
*****
駅の階段を下りてくる寧音。
汗を拭いながら息も絶え絶え。
柵の傍で佇む緋夜子。
クロスバイクのサドルに手をかけて。
少し離れたところに海蘭。
撤去作業員にペコペコ頭を下げて。
寧音の足が鈍る。
緋夜子「番をしておりましたの。危うく撤去
されるところでしたのよ」
寧音「・・・・・・」
緋夜子「何かおっしゃることは?」
寧音「・・・どうも」
屈み込んでチェーンを外す。
見下ろす緋夜子、満更でもない表情。
緋夜子「お役に立ったのなら何よりですわ」
寧音「・・・・・・」
寧音、自転車にまたがる。
緋夜子「それにしてもご熱心ですこと。この
一時間で三軒も。もうすこし余裕を持って
働かれてもよいのではなくて?」
寧音、スマホを一瞥。
不審げに緋夜子と見比べる。
緋夜子「番号ですか。不思議に思われるのも
無理はございませんわ。ですが姫蔓の情報
収集力をもってすれば・・・」
寧音「あの・・・」
緋夜子「はい?」
寧音「そろそろやめてもらえるっすか」
緋夜子「え」
寧音「普通に邪魔だし・・・怖いんで」
緋夜子を置いて走り出す寧音。
解放されて戻ってくる海蘭。
わなわな震える緋夜子を見て。
海蘭「申し上げましたよ。こんなやり方では
通じないって」
遮断機が開く。
●姫蔓家・コンピュータールーム・夜
壁面に無数のディスプレイ。
ゲーミングチェアに緋夜子。
清楚なナイトガウン姿。
ハーブティー片手に画面を見つめる。
画面上、様々な場面・角度の寧音。
走行中、受け渡し中、食事休憩中。
基本は鉄仮面、中に一つだけ笑顔。
料理を客に手渡している瞬間。
緋夜子「・・・どうしてですの」
タッチパッドを苛立たしげに叩く指。
最大化される寧音の笑顔。
緋夜子「忘れたとは言わせませんわ」
●同・庭園・午前
庭園内に造られた馬場。
乗馬服姿の緋夜子、手綱を引いて。
おとなしく付き従う葦毛のポニー。
馬場の出口に立ちふさがる海蘭。
緋夜子「おどきなさい」
首を横に振る海蘭。
緋夜子「あの方を振り向かせるにはこれしか
ございませんの」
海蘭「いけません」
緋夜子「馬だって道路を走れますのよ。私、
ちゃんと調べましたもの」
ポニー、ぶるるんと鼻を鳴らす。
海蘭「承知しております。ですが・・・」
緋夜子「私が乗れるのはこの子だけ。選択の
余地はございません」
海蘭「お嬢様・・・」
すっと脇にどく海蘭。
背後に電動アシスト自転車。
海蘭「練習いたしましょう」
●商店街・昼
ファストフード店の前。
寧音、スマホを見つめて待機中。
配達依頼が入る。
申込ボタンを押そうとするが。
その前に受付終了の表示。
気配を感じて顔を上げる。
ママチャリ、目の前でブレーキ。
乗っているのは緋夜子。
オーダーメイドのサイクルウェア。
体が小さく見えるデリバリーバッグ。
頬を上気させて肩で息。
駐輪し、優雅な足取りで店内へ。
寧音、呆然。
*****
店から出てくる緋夜子。
寧音、再びスマホとにらめっこ。
緋夜子「ごめんあそばせ」
自転車にまたがって走り去る。
何だか危なっかしい走行。
目を上げてチラリと見る寧音。
●車道・昼
路肩を走る緋夜子のママチャリ。
亀の速度、たまにぶれるハンドル。
横をビュンビュン追い抜くトラック。
余裕のない緋夜子の表情。
後方からゆっくりついてくるバイク。
黒のカタナ、黒いライダースーツ。
シールドの奥に心配そうな海蘭の瞳。
●姫蔓家・庭園・午前(回想)
広大な馬場。
調教師に引かれたサラブレッド。
ふと、耳を立てて。
緋夜子「およけになってー」
荒ぶる馬、なだめる調教師。
高速通過する電動アシスト自転車。
海蘭「お嬢様、ブレーキ、ブレーキ!」
必死に走って追いかけてくる海蘭。
*****
緋夜子、芝生の上で大の字。
荒い息に胸を上下させて。
生垣に突っ込んでいる自転車。
引っ張り出そうとする海蘭。
緋夜子「こ、この自転車、わ、私の手には負
えませんわ・・・は、速すぎて・・・」
海蘭、やっとのことでサルベージ。
海蘭「他もご用意しておりますが・・・」
ずらりと並んだ多種多様な自転車。
●車道・昼(現在に戻る)
揺れるバッグを見つめる海蘭。
海蘭「(遅すぎるのも、それはそれで問題なの
ですが・・・)」
追い越したSUV、自転車に幅寄せ。
海蘭「あっ」
●住宅街・昼
集合住宅の玄関先。
ビニール袋を持って憮然とする男。
袋の中、ひしゃげた大量のバーガー。
男の前で小さくなっている緋夜子。
電柱の陰で気を揉む海蘭。
●姫蔓家・バスルーム・夜
髪をタオルでまとめた緋夜子。
巨大な浴槽に足から入ろうとする。
膝のすり傷が湯に触れて歪む顔。
左の二の腕にも青い打撲痕。
それでも思いきって肩までつかる。
緋夜子「戦いは始まったばかりですわ」
浴槽の縁に腕を預けて顎を乗せる。
●同・トレーニングルーム・朝
無心でエアロバイクをこぐ緋夜子。
滴る汗も気に留めず。
BGM『Bicycle Race』。
●同・食堂・朝
豪勢な朝食のテーブル。
フォークを片手に固まる姫蔓秀麿。
向かいの席の緋夜子。
パン、サラダ、ポーチドエッグ。
ヨーグルト、豆乳、フルーツ盛り。
大量のメニューを小気味よく摂取。
あっという間にきれいになる食器。
秀麿「今朝はまるで豪傑だな。牛を一頭でも
たいらげそうな勢いじゃないか」
ナプキンで唇を拭く緋夜子。
緋夜子「嫌ですわお父様、さすがに一頭は。
でもタンパク質が少々足りませんわね」
緋夜子、卓上ベルを鳴らす。
緋夜子「ベーコンをいただけますかしら」
父のフォークから逃げるプチトマト。
●同・ベッドルーム・午前
緋夜子の身支度モンタージュ。
戦化粧のように日焼け止めを塗る。
スポブラの上からデオスプレー。
ポニーテールに結わえた髪。
きっちり着込んだサイクルウェア。
ヘルメット、グローブ、サングラス。
畳んだデリバリーバッグを小脇に。
●同・廊下・午前
フル装備の緋夜子、人目を忍んで。
曲がり角で秀麿と鉢合わせそうに。
海蘭「旦那様、来週の晩餐会ですが・・・」
海蘭が足止めする間に緋夜子脱出。
●街・午前~夕
緋夜子のミッションモンタージュ。
少し安定してきたママチャリ。
道に迷ってスマホをぐるぐる。
同じ番地が続く家並に目を白黒。
玄関から飛び出した小型犬に凌辱。
複数の依頼、迷ってるうちに全滅。
バッグに収まらない容器に悪戦苦闘。
ピックアップする店を間違えて叱責。
喉を潤そうと傾けた水筒はカラ。
自販機の電子決済にてんやわんや。
クラクション、チャイム、イヤミ。
通知音、ポテトの揚がる音、舌打ち。
疲労困憊でうずくまる緋夜子。
●名門女子大学・キャンパス・午後
並んで歩いてくるご令嬢たち。
それぞれに日傘を差して。
中心の緋夜子、にこやかにお喋り。
隣の学友、何かに気づく。
学友「・・・お怪我なさいましたの?」
緋夜子、足を無意識に庇って。
学友「歩き方が・・・」
緋夜子「あら、ちょっとした筋肉痛ですわ。
それと就寝中に足がつって」
学友「何か新しいお稽古ごとでも?」
●姫蔓家・ベッドルーム・夜
緋夜子、ベッドにうつ伏せ寝。
シーツ越しにマッサージする海蘭。
緋夜子「あーそこ、そこですわ。あーいい」
海蘭「・・・おいたわしい」
海蘭の手が震える。
海蘭「こんなにボロボロに・・・」
緋夜子「心根が優しいのね、海蘭は」
海蘭「私が至らないせいです」
緋夜子「胸を痛める必要はありませんのよ」
海蘭「ですが・・・」
緋夜子「これも勲章。もっとも私はまだ何も
成し遂げていないけれど」
腕に顎を乗せて前を向く緋夜子。
緋夜子「あの方との差、何としてでも埋めて
御覧に入れますわ」
●街・午前~夕
ミッションモンタージュPart2。
颯爽と駆けるママチャリ。
緋夜子、客とメッセージやり取り。
迷わず玄関先到着、笑顔で受け渡し。
飛びかかる小型犬をちゅ~るで迎撃。
犬とも飼主ともすっかり仲良しに。
複数依頼をまとめてピックアップ。
商品をサブバッグに手際よく分散。
最適ルートを独自算出。
後回しの客には抜かりなくフォロー。
自販機の電子決済もお手のもの。
ルーレットが当たって二本ゲット。
道端で喉を潤しているところに寧音。
余ったスポドリを差し出す緋夜子。
スルーされて寂しそうに微笑む。
*****
寧音、暫く走らせてからブレーキ。
振り向くと遠くに見える緋夜子。
視線に気づかずリラックスして。
●姫蔓家・応接間・夜
ソファに体を預ける緋夜子。
夢見るような瞳、心ここにあらず。
遠くから紗のかかった秀麿の声。
秀麿(声)「緋夜子」
緋夜子「・・・・・・」
秀麿(声)「聞いてるのか」
緋夜子「・・・・・・」
手首に触れる手、我に返る緋夜子。
秀麿が心配そうに見下ろしている。
秀麿「緋夜子・・・」
緋夜子「あ、はい、晩餐会の挨拶ですわね」
秀麿「その話はもう済んだじゃないか」
緋夜子「・・・そうでしたかしら」
秀麿「お前らしくない。どうしたんだ」
緋夜子、控えめにあくび。
緋夜子「昨夜熟睡できなかったようですの。
きっとおかしな夢のせいね」
秀麿「ならいいんだが。近頃妙に疲れている
ように見える」
緋夜子「きわめて健康ですわ。でも、今夜は
早めに休ませていただきます」
秀麿「ああ、そうしなさい」
緋夜子「ご心配をおかけして・・・」
秀麿「それが親の仕事だよ」
秀麿の手から離れる緋夜子の手。
指の黒い汚れが目に入って。
秀麿「緋夜子・・・」
緋夜子「はい?」
秀麿「いや、何でもない。ゆっくりお休み」
緋夜子「おやすみなさい、お父様」
娘の後ろ姿をじっと見送る父。
●同・廊下・夜
ベッドルームに向かう緋夜子。
指の汚れを見つめて頬を染める。
●坂道・午後(以下回想)
坂の麓に自転車を停めた緋夜子。
ペダルの辺りに屈み込んで苦い顔。
緋夜子「これは想定外でした」
外れてダルダルになったチェーン。
グローブのまま直そうとするが。
うまく指が動かず四苦八苦。
思いきってグローブを外す緋夜子。
たちまち指が油に染まる。
緋夜子「誰かさんみたいに依怙地ですのね。
上等ですわ」
*****
下り坂の途中。
路駐ワゴンの陰に隠れた海蘭。
緋夜子の奮戦をもどかしげに窺う。
今にも駆け寄りたそうな表情で。
海蘭の横を通過する一陣の風。
*****
もう一歩の所で外れるチェーン。
緋夜子、クソデカ溜息。
背後で自転車のブレーキ音。
誰かが近寄る気配。
寧音「素手っすか。大胆っすね」
振り返る緋夜子、覗き込む寧音。
至近距離で目が合う二人。
緋夜子「あ・・・」
寧音「コツがあるんすよ」
隣に屈み込む寧音。
自然と横にずれる緋夜子。
寧音、取り出した軍手をはめて。
魔法のようにチェーンを引っかける。
タイヤを回して一丁上がり。
寧音「で?」
緋夜子「は?」
寧音「何か言うことは?」
緋夜子「・・・どうも、ですわ」
屈んだまま顔を膝に埋める。
●公園・午後
手洗い場で汚れた手を洗う緋夜子。
落ちる気配のない黒い油。
蛇口の傍に携帯用ハンドソープ。
寧音「それ以上はカスカスになるだけっす」
緋夜子「・・・・・・」(ゴシゴシ)
寧音「クレンジング持ってないんすか」
緋夜子「・・・・・・」(ゴシゴシ)
寧音「あの」
緋夜子「・・・・・・」(ゴシゴシ)
寧音「ひとつ聞いてもいいっすか」
緋夜子、蛇口を捻って水を止める。
寧音「どういうつもりでデリやってんすか」
緋夜子「・・・・・・」
寧音「お金に困ってるようには見えないっす
けど、もし冷やかしなら・・・」
ハンカチで手を拭く緋夜子。
緋夜子「私が」
寧音「え」
緋夜子「私があなたを超えた時、教えて差し
上げますわ」
ハンドソープを寧音に返す緋夜子。
会釈して脱兎のごとく走り去る。
●ホテル・晩餐会場・夜(現在に戻る)
国内外の賓客で盛会の会場。
立食テーブルの間を飛び回る緋夜子。
艶やかなドレス、満面の笑顔。
ホステスの役目を立派に務め上げて。
ドレスの襟元から覗く日焼け痕。
視線を奪われるが誰も触れない。
少し離れて見守る秀麿。
慈しみと戸惑いの入り混じった表情。
*****
若い女性に囲まれてご満悦の魁。
魁「それで石油王は何て言ったと思う?」
得意げに聴衆の顔を見渡して。
魁「たとえ神様にだってワシのパイプライン
はカットさせんぞ!」
ぽつぽつと追従笑い。
背後から魁に囁きかける給仕。
秀麿の方を指し示す。
魁、にやけ顔で秀麿の元へ。
魁「最高のパーティーですね。どこを見ても
本物と一流ばかり。流石はお義父さんだ」
秀麿「もう婿気取りかね」
魁「やだな、あまり苛めないでくださいよ」
秀麿「まあいい、ちょっと・・・」
耳打ちされた魁、真剣な表情に。
魁「・・・僕にお任せください」
*****
庭に面したバルコニー。
手摺りにもたれる緋夜子。
人目を気にせずスマホを操作。
寧音のデリバリーステータスが表示。
月の配達件数、お客様満足度、等々。
続けて緋夜子のステータス。
どの項目も少しずつ劣っている。
緋夜子「もっと効率を上げなくては。それに
サービスのクオリティも・・・」
客の好奇の目と囁きにも気づかず。
*****
バルコニーに踏み入る魁。
遠慮してその場を離れる客たち。
その言葉の断片が魁の耳を刺す。
客(声)「これだからメイドの娘は・・・」
振り返る魁、既に誰もいない。
何もなかった顔で緋夜子の隣へ。
魁「一杯付き合ってよ」
シャンパングラスを手摺りに。
見向きもしない緋夜子。
緋夜子「ご遠慮しますわ」
魁「いいじゃない、少し酔うくらい」
緋夜子「この美味しい風で十分です」
緋夜子の髪を梳かすように夜風。
気高い横顔に見入る魁。
魁「・・・考えてくれた?」
緋夜子「?」
魁「旅行のこと。もう大学も休みでしょ」
緋夜子「私、こう見えて多忙ですのよ」
魁「マリンスポーツでも始めたの?」
視線、緋夜子のうなじへ。
魁「小麦色の肌も嫌いじゃないけど・・・」
緋夜子の肩に回そうとする手。
魁「君には似合わないかな」
鰻のようにすり抜ける緋夜子。
緋夜子「お好みに合わず残念ですわ。ご旅行
は誰か他の方をお誘いになって」
魁「そりゃないよ。君の趣味に合わせて計画
したんだから。バールベック、モヘンジョ
ダロ、アショカ・ピラー。世界ふしぎ発見
の旅って趣向。どう? そそられない?」
緋夜子「商談と接待のついででしょう」
魁「いや、それはタイミングが偶々・・・」
緋夜子「・・・・・・」
魁「・・・仕事熱心なのは罪かな」
しょんぼりする魁。
緋夜子、初めて目を合わせる。
緋夜子「いいえ、そうは思いません」
魁「緋夜子さん?」
緋夜子「失礼なことを申しました」
深々と頭を下げる緋夜子。
魁「ちょっと、頭上げて・・・」
他に誰もいないのにアセアセ。
魁「こういうことしちゃいけない、君は」
不思議そうに魁を見る緋夜子。
●姫蔓家・前・朝
門を監視するように停められた車。
そのフロントガラス視点。
姫蔓家の正門が厳かに開く。
姿を現すセンチュリー。
市街地へ向けてハンドルを切る。
ややあって追跡を始める監視車。
●ガレージ・朝
市街地の月極ガレージ。
リモートで開くシャッター。
センチュリーを飲み込んで閉まる。
暫くして再び動くシャッター。
出発する緋夜子のママチャリ。
少し間を置いて発進するカタナ。
監視車、追跡再開。
●商店街・朝
カフェの前で待機する緋夜子。
スマホの謎ツールでステータス確認。
寧音と緋夜子の成績を示すグラフ。
緋夜子の折れ線が寧音に接近。
緋夜子「もう一息ですのに・・・」
自転車のベル、顔を上げる緋夜子。
寧音、片手を上げて挨拶。
緋夜子も無言で会釈。
寧音「モーニング狙い?」
緋夜子「ええまあ。あなたも?」
寧音「この辺ぶらっと流そうかなって」
緋夜子「横取りは御法度ですわよ」
寧音「それ、言えた義理っすか」
言い合いながらも柔らかい雰囲気。
寧音「件数こなして稼ぐのもいいっすけど、
単価でかい注文狙うのもアリっすよ」
緋夜子「あなたの指図は受けませんわ」
寧音「ただの助言っす」
緋夜子「同じことです」
寧音「頑固っすね」
緋夜子「それで勝っても意味はございません
もの」
緋夜子のスマホに通知。
緋夜子「ではごきげんよう」
●オフィス街・昼
ビルの狭間の公園。
勤め人に混じって休憩する緋夜子。
優雅にグラノーラバーを齧る。
スマホに通知。
確認した緋夜子、不敵な笑み。
緋夜子「これはこれは」
●フレンチレストラン・昼
オフィス街裏通りの隠れ家的名店。
ドアベルと共に出てくる緋夜子。
バッグを背負い直して振り返る。
緋夜子「セーフ、ですわ。案外バレないもの
ですのね」
ウキウキで独り言。
メニューボードにデリバリーシール。
緋夜子、ふと寂しげに。
緋夜子「このお店もお変わりになって」
●タワーマンション・昼
五十階建の巨塔を見上げる緋夜子。
胸を張って正面玄関へと歩み出す。
慌てて飛んでくるドアマン。
*****
緋夜子、防災センターで書類記入。
入館証を首にかけてエレベーターへ。
住民用に乗ろうとして制止。
離れた業者用まで歩かされる。
*****
業者用エレベーターの中。
あからさまに無機質な内装。
のろのろと上昇する階数表示。
バッグを胸に抱く緋夜子。
緋夜子「お料理が冷めてしまいますわ」
*****
巨塔を見上げる海蘭。
ヘルメットのシールドを上げて困惑。
海蘭「まさか・・・」
*****
4701号室の前。
ドアに正対する緋夜子。
(ドアモニターの映像インサート)
インターフォンからくぐもった声。
声「中まで運んで。開いてるから」
*****
4701号室の中。
緋夜子、人気のない部屋べやを覗く。
緋夜子「どちらにいらっしゃいますの」
半開きのドアが風圧で閉まる音。
緋夜子、そのドアをノック。
緋夜子「・・・失礼いたします」
恐る恐る室内に足を踏み入れる。
部屋の奥にはキングサイズのベッド。
皺ひとつなくベッドメイクされて。
緋夜子、さらに一歩中へ。
死角から緋夜子の手首を掴む手。
驚いた拍子にバッグが壁にぶつかる。
魁「こぼさないでね、僕のブイヤベース」
爽やかな笑顔と裏腹の握力。
緋夜子「ど、どういうことですの・・・」
魁「あの店、何度も二人で行ったよね」
緋夜子「イヤ、お離しになって・・・」
魁「どんな顔して料理を受け取ったのかな」
緋夜子「・・・・・・」
魁とベッドを往復する緋夜子の視線。
無邪気に首を傾げる魁。
●姫蔓家・廊下・午後
書斎の前で待たされている海蘭。
心乱れて革手袋をもみくちゃに。
●同・書斎・午後
デスクを挟んで父娘の対峙。
プレジデントチェアに秀麿。
応接用チェアに緋夜子。
秀麿の傍らに佇む魁、左頬が紅い。
秀麿「いつまで貝になるつもりかな」
緋夜子「・・・・・・」
秀麿「小さい頃を思い出すよ。菓子や玩具を
どれだけ与えてもお前はいつもそんなふう
だった。固く殻を閉ざして・・・」
緋夜子「・・・・・・」
秀麿「母親には甘えっぱなしだったのに」
緋夜子「お母様は関係ございませんわ」
秀麿「関係あるさ。いま彼女が生きていたら
そんな態度は見せないだろ」
緋夜子「・・・・・・」
秀麿「とりあえず、片喰くんに謝りなさい」
魁「僕は別に・・・誤解されるような状況を
作ったのは事実ですし・・・」
慌ててフォローする魁。
秀麿「緋夜子」
緋夜子「・・・申し訳ありませんでした」
その場で深く頭を下げる。
魁「参ったな・・・」
頬を掻こうとして痛みに跳ねる。
秀麿「じゃじゃ馬が迷惑をかけた」
秀麿も立ち上がって一礼。
ますます恐縮する魁。
●同・廊下・午後
ドアに聞き耳を立てる海蘭。
籠もってよく聞こえない秀麿の声。
突然、緋夜子の大音声。
緋夜子(声)「絶対イヤですわ!」
床に落ちる革手袋。
●同・書斎・夕
デスクの背後の窓が夕映えに染まる。
少しも変わらない人物配置。
疲れ切った表情の秀麿。
気まずそうに本棚を眺める魁。
椅子の中で不動の緋夜子。
緋夜子の頬に涙の乾いた痕。
長い長い沈黙の果て。
秀麿、重い溜息。
秀麿「・・・わかった」
緋夜子と魁、ピクッと反応。
秀麿「お前に課題を与える」
魁「お義父さん・・・」
秀麿、手で魁を制する。
緋夜子「・・・課題とは何ですの」
秀麿「私と勝負しなさい」
緋夜子「勝負?」
秀麿「そうだ、私が客になってお前に配達を
依頼する」
立ち上がって窓に歩み寄る秀麿。
緋夜子に向けられた広い背中。
秀麿「無事届けることができたら、このまま
続けることを許そう」
緋夜子「失敗したら?」
秀麿「言わなくても分かるはずだ」
窓の外で鳴り響く晩鐘。
秀麿「姫蔓家の令嬢にふさわしい振舞いを」
緋夜子の噛みしめた唇がほころぶ。
すっくと立ちあがる緋夜子。
緋夜子「上等ですわ」
●スイーツショップ・午前
店の前に掲示されたタペストリー。
可愛いデザインの洋生菓子。
消費期限30分、型崩れ注意の文言。
自動ドアから出てくる緋夜子。
デリバリー完全装備。
背中のバッグから微かにCO2の煙。
交通量の多い道路に決意の視線。
脳裏によみがえる秀麿の声。
秀麿(声)「条件は二つ。必ずお前自身の手
で届けること」
秀麿(声)「そして、家には頼らないこと」
武者震い、グローブをはめる緋夜子。
歩道のガードレールに腰かけた寧音。
緋夜子に向かってサムズアップ。
緋夜子、うなずく。
父娘の会話、プレイバック。
緋夜子(声)「私からもおひとつ、よろしい
でしょうか」
秀麿(声)「何だね」
緋夜子(声)「無事届けることができたら、
最大級の評価をくださいませ」
力強くスタンドを蹴って。
車道へと走り出すママチャリ。
●車道・朝
順調に路肩を進む緋夜子。
が、次第に詰まり始める車間距離。
前方で渋滞の気配。
さらに路肩には断続的な路駐車。
緋夜子、自転車を歩道へ。
タイル地の地面に揺れるバッグ。
前方にガソリンスタンド。
車道に出ようとするトレーラー。
完全に歩道を塞いでいる。
ハンドルを左に切る緋夜子。
昔ながらの商店街へ。
●商店街・午前
古びながらも活気に溢れた街並み。
買い物客が狭い道を行き交う。
その間を縫うように緋夜子徐行。
スマートウォッチで時間を気にして。
駅前へと抜ける道の先。
待ち受けるような数人の黒服。
秀麿(声)「当然だが妨害はさせてもらう」
気配を感じて振り返る緋夜子。
数機のドローンが追尾してくる。
緋夜子、屋根のある市場の中へ。
低い軒先に当たって一機が墜落。
●市場・午前
薄暗い隘路を突き進む緋夜子。
すれ違いざま迷惑そうに睨むオヤジ。
緋夜子「まことにお騒がせして・・・」
すぐ背後に迫るドローン。
緋夜子、クイックターン。
ドローン、勢い余って生簀にダイブ。
八百屋を挟んで並走する黒服。
T-1000のような走りで先回り。
緋夜子の前で通せんぼ。
急ブレーキをかける緋夜子。
二人の間を八百屋の台車が横切る。
キャベツの箱で隠れる緋夜子の姿。
台車を押しのけようとする黒服。
箱が崩れて散乱するキャベツ。
●駅前・午前
踏切へ向かって突き進む緋夜子。
鳴り始めている警報音。
半ば下りてしまった腕木。
緋夜子、突破を試みるも思い止まる。
車列の先頭でイライラと待機。
彼方から長大な貨物列車が姿を現す。
鈍重な蛇のように通過する数十両。
意を決して方向転換する緋夜子。
自転車のまま駅の階段へ。
●橋上駅舎・午前
階段を上る緋夜子。
必死に自転車を押し上げながら。
改札前のコンコースを駆け抜けて。
反対側の階段を駆け下る。
跳ね馬のような自転車を押さえつつ。
●車道・午前
緋夜子、路肩を立ち漕ぎ。
音もなく横につく赤いカブリオレ。
運転席から呼びかける魁。
魁「緋夜子さん!」
風にかき消されそうな声。
魁「十五分しかない、もう諦めるんだ!」
緋夜子、聞こえないのか無視か。
太腿に鞭打ってペダルを踏み込む。
魁「そのつもりならこっちだって!」
加速して緋夜子を追い越す魁。
路肩を塞ぐように乱暴に車を寄せる。
迷わず歩道に飛び乗る緋夜子。
そのまま公園の入口へ。
サイドミラーで見て減速する魁。
魁「そこまで嫌わなくても・・・」
●公園・午前
遊歩道を疾走する緋夜子。
嬉しそうにじゃれつく散歩中の犬。
緋夜子「また今度遊んで差し上げますわ!」
前方の広場でたむろするバイク集団。
数台が同時にマックスターン。
通れずに困っている老人や親子連れ。
緋夜子、高らかにベル。
ピタッと止まるバイク。
緋夜子に向けられる下卑た視線。
緋夜子「ここは皆さんの憩いの場ですのよ。
地面に円を描くならよそでおやりなさい」
リーダー格、口笛。
リーダー「嬢ちゃん、えらいイキってんな。
俺らが怖くねーのか」
緋夜子「怖くないわけありませんわ」
リーダー「ならおとなしくすっこんでろよ。
それともナニか、一緒に遊びたいってか」
盛り上がるバイカーたち。
一斉にエンジンをふかす。
顔をしかめる緋夜子。
緋夜子「いい年して放屁のような音で脅かす
しか能がございませんのね」
リーダー「ホウヒ? 何言ってんだ?」
仲間がリーダーに耳打ち。
リーダー、たちまち青筋。
リーダー「お高くとまりやがって。減らず口
にトルクレンチぶちこむぞ」
手で合図するリーダー。
たちまち作られるフォーメーション。
緋夜子の進路を塞ぐ者。
背後に回り込んで退路を断つ者。
緋夜子、クソデカ溜息。
緋夜子「やれやれですわ」
ペダルに足をかける緋夜子。
前方へと一気に加速する。
眼前に迫るバイクのバリケード。
緋夜子、減速する気配も見せない。
激突の寸前。
左右に割れるバリケード。
リーダー「てめえ、何よけてんだよ!」
自分を棚に上げて仲間を責める。
仲間「分割残ってるし・・・」
争いを尻目に悠々走り去る緋夜子。
●坂道・午前
緋夜子、立ち漕ぎで上り坂に挑む。
悲痛な叫びを上げるママチャリ。
何とか頂上に辿り着いた瞬間。
力尽きたように外れるチェーン。
*****
軍手をはめた手が手際よく動く。
あっという間にはまるチェーン。
汚れた軍手で額の汗を拭う緋夜子。
緋夜子「ラストスパートですのよ。あと少し
お付き合いくださいな」
*****
下り坂へと乗り出すママチャリ。
風を切ってぐんぐん加速。
細かく制動をかける緋夜子。
緋夜子「あら?」
突然、ブレーキの抵抗が消える。
切れたブレーキワイヤー。
制御不能の弾丸と化すママチャリ。
坂の麓へ一直線。
咄嗟に片足を地面に下ろす緋夜子。
白煙を上げて削れる靴底。
膝を襲う衝撃に顔を歪めて。
次の瞬間、前輪がタイヤバースト。
*****
坂の麓に横たわったママチャリ。
満身創痍で原型を留めていない。
その隣に寝そべっている緋夜子。
傍らには無傷のデリバリーバッグ。
緋夜子、腕で目を覆っている。
見下ろす海蘭。
海蘭「お怪我は・・・」
緋夜子「平気。でも、この子はもう・・・」
海蘭「ご無事で何よりでした」
緋夜子「身代わりになってくれたのですわ、
きっと」
海蘭「お嬢様・・・」
緋夜子「・・・ここまでのようですわね」
緋夜子の唇が悔しさに歪む。
海蘭「・・・まだです」
緋夜子「え」
海蘭「まだ五分あります」
緋夜子「でも自転車が・・・」
海蘭「私がここまで乗ってきたものをお使い
ください」
緋夜子「でも家に頼るなって・・・」
海蘭「ならば今ここで辞表を書きます」
緋夜子「馬鹿なこと言わないで。それに私、
バイクなんて。だって免許も・・・」
海蘭「でも? だって?」
震える海蘭の声。
海蘭「姫蔓緋夜子の・・・あなたの辞書には
そんな言葉載ってますか、ないでしょ!」
そろそろと腕をどける緋夜子。
逆光を背負った半泣きの海蘭。
その傍らには・・・。
緋夜子の表情がにわかに輝く。
●姫蔓家・玄関・午前
正門から玄関へと続く長い道。
まだ何者の姿も見えない。
玄関前に停められたカブリオレ。
ボンネットに手をついて佇む魁。
開け放たれた門をじっと見つめる。
風が砂埃を巻き上げて。
正門付近は霧に包まれたように。
霧の中から地面を蹴る音。
仄かに浮かび上がるシルエット。
次の瞬間、飛び出す葦毛のポニー。
馬上にはバッグを背負った緋夜子。
脇目もふらず玄関へと向かってくる。
その後を追いかけるような騒音。
次々と砂埃から現れる後続。
バイカー軍団、黒服満載のワゴン。
ドローン、小型犬、ニホンジカ。
パトカー、救急車、消防車。
キッチンカーにマラソンランナー。
なぜかテレビ中継車まで。
先頭の緋夜子、玄関前に到達。
唖然とする魁に手綱を預ける。
緋夜子「この子を頼みましたわ」
返事も待たず玄関に飛び込む緋夜子。
●同・書斎・午前
何やら騒がしい窓の外。
デスクの秀麿、一見落ち着いている。
が、実のところは気が気でない様子。
懐中時計を開いては閉じて。
ノックの音に飛び上がりそうに。
秀麿「・・・どうぞ」
汗だくの緋夜子が入ってくる。
見た目とは裏腹に優美な足取り。
下ろされるデリバリーバッグ。
開けたとたん立ち込める白い煙。
床の上に積み重ねられる緩衝材。
緋夜子、デスクに白い紙箱を置く。
もういちど懐中時計を開く秀麿。
秀麿「三十秒オーバー」
緋夜子の目尻、ピクリ。
秀麿「一分進めてるんだ。癖でね」
(ステータス画面インサート)
(緋夜子のグラフ、寧音を抜き去る)
ぎゅっと拳を握る緋夜子。
秀麿、紙箱をうやうやしく開く。
中にはパンダの形のスイーツ。
キュートな形を完全に保っている。
微かに緩む秀麿の頬。
秀麿「では、頂くとしよう」
スイーツに近づくプラフォーク。
次の瞬間、パンダの片目が崩壊。
●緋夜子の夢
闇の中にスポットライト。
愛らしいフランス人形を照らし出す。
その周りに動物のぬいぐるみたち。
まるでボスとその取り巻きのよう。
人形たち、女児の声でおしゃべり。
フランス人形「今度お屋敷にいらっしゃい。
可愛いお馬さんを見せて差し上げますわ」
虎「マジ? うわー、超楽しみ」
熊「●●●ちゃんいいなあ。おもちゃだって
いっぱい買ってもらえるんでしょ」
違う場所を照らすピンスポット。
ひとりぼっちの茶運び人形。
集団に背を向けて会話も意に介さず。
なぜか気にするフランス人形。
*****
スポットライトの下。
取り残されたフランス人形。
離れた所で輪を作るぬいぐるみたち。
ひそひそ話が漏れ聞こえてくる。
虎「●●●ちゃんってさ、お屋敷に住んでる
だけなんだって」
熊「えっ、どういう意味?」
虎「何かお手伝いさんの部屋でぎゅうぎゅう
になって寝てるらしいよ」
熊「それであのしゃべり方? マジウケる」
悪意ある笑い。
じっと耐えているフランス人形。
その前に置かれるトレイ。
茶運び人形が男児の声で話しかける。
茶運び人形「食わないのか、給食」
フランス人形「・・・・・・」
茶運び人形「ちゃんと食わないとあいつらに
勝てないぞ」
フランス人形「放っておいてくださいまし」
茶運び人形「そいつは無理な相談だな」
フランス人形「?」
茶運び人形「だって俺、給食当番だし」
●姫蔓家・寝室・夜
ベッドで目を覚ます緋夜子。
一筋の涙、目尻から耳に流れて。
窓の外は台風のような暴風雨。
逃避するように布団に潜り込む。
枕元のスマホに通知音。
布団の中から手を伸ばす緋夜子。
内側から仄かに明るくなる布団。
*****
ステータス画面。
緋夜子を抜き返した寧音のグラフ。
画面を見つめ続ける緋夜子。
●寧音の部屋・午前
遺跡のようなアパートの一室。
煎餅布団に包まっている寧音。
マスクから覗く顔は真っ赤。
デリバリーアプリを開いたスマホ。
マップが配達員の到着を示している。
調子っぱずれのチャイム。
寧音「置いといてください。熱あるんで」
間髪入れず鬼のような連打。
寧音「置き配でいいって・・・」
寧音、何とか玄関まで這い進む。
軋みながら開く薄いドア。
デリバリースタイルの緋夜子。
湯気の立つビニール袋を提げて。
緋夜子「大盛りチーズ牛丼が喉を通るくらい
なら、心配することもなさそうですわね」
寧音「君、やめたはずじゃ・・・」
緋夜子「ええ、引退しましたわ。お父様との
約束ですもの」
ビニール袋を寧音に押しつける。
緋夜子「一度っきりの特別サービスですわ。
泣いて感謝なさい」
*****
寧音、手を合わせてから箸を割る。
デリバリーバッグを背負う緋夜子。
出て行きかけて立ち止まる。
緋夜子「最後に伺ってもよろしいかしら」
寧音「何すか」(モグモグ)
緋夜子「そこまでして私に負けたくなかった
理由は何ですの? あのような悪天候の中
体まで壊して」
寧音「それは、その・・・」
緋夜子「何ニヤニヤしてますの。気色悪い」
寧音「言わなきゃダメっすか」
緋夜子「はっきりおっしゃって」
照れくさそうにうつむく寧音。
寧音「ちゃんと思い出したかったから。君に
教えてもらう前に」
●タイトル&エンドロール
●教会・午前
バロック様式の大聖堂。
紳士淑女で埋め尽くされた会衆席。
祭壇の前で向かい合う新郎新婦。
魁と緋夜子である。
神父「ソレデハ、チカイノキスヲ」
緋夜子のベールを上げる魁。
魁「・・・ほんとにいいの?」
緋夜子「何がですの」
魁「このまま軍門に下っても」
緋夜子「年貢の納め時は承知してますわ」
潔く目を閉じる緋夜子。
じりじりと近づく魁の唇。
その時、身廊の扉が開け放たれた。
一斉に振り返る参列者。
最前列の秀麿は瞑目して腕組み。
両手を組み合わせて祈る海蘭。
入口に逆光を背負って立つ影。
デリバリースタイルの寧音である。
神父、怒髪天。
神父「ナンデスカアナタハ。オソレオオクモ
カミノミマエデスヨ。だすてぃんほふまん
ゴッコナドゴンゴドウダン・・・」
寧音「デリバリーっす」
神父「ダレモナニモタノンデマセン」
寧音「ピックアップに来たっす」
ドレスの背中をポンと押す手。
緋夜子の足、一歩踏み出す。
BGM『Seven Seas of Rhye』。
●字幕
自転車(と馬)は正しく乗ってね。
了
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
最近観た映画。
ビバリーヒルズ・コップ
(2026-07-30 09:00:06)
【演劇】何か見に行きますか? 行き…
29日に長女と舞台「ハリーポッタ…
(2026-07-27 23:50:33)
宝塚好きな人いませんか?
妹から宝塚のお土産♪
(2026-07-23 12:32:20)
© Rakuten Group, Inc.
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Design
a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: