ぶらぶら野郎 Daydream Stroller



藪柑子 無蕾(やぶらこうじ ぶらい)
     ・・・男性。白昼の散歩者。





●公園・白昼
   睨み合う豆柴とヨークシャーテリア。
   低い唸り、一触即発状態。
   リードを握る飼主たちは冷汗。
   ふと耳を立てて同じ方向を向く二匹。
   ぶらぶら通りかかる藪柑子無蕾。
   ぞろりとした着流し姿。
   印象に残りにくい顔立ち。
   藪柑子を追うように首を回す犬たち。
   次の瞬間、一斉に吠え立てる。
   慌ててリードを引く飼主たち。
   動じることなく歩み去る藪柑子。
   吠え疲れた犬たちの目が合う。
   両雄の顔に浮かぶ親愛の情。
   やがてお互いの顔をなめ始める。
   飼主たち、首を傾げながら照れ笑い。

●通学路・白昼
   学校帰りの中学生男女。
   幼馴染み以上カップル未満の雰囲気。
   微妙な距離感、弾まない会話。
   女子、単語帳に目を落とす。
   男子、手相に目を落とす。
   隣を気にしながらも気のないふり。
   対面から藪柑子がぶらぶらと。
   二人の間を無遠慮に割ってすれ違う。
   単語帳を落としそうになる女子。
   キャッチして女子に返す男子。
   至近距離で見つめ合う瞳。
   単語帳を媒介にして触れ合う手。
   歩き出す二人、自然に手をつないで。

●タイトル

●アーケード・白昼
   カプセルトイショップの前。
   通路に面した筐体に屈み込むオタク。
   傍らには紙袋満載のダブリ。
   オタク、祈るように硬貨を投入。
   背後をぶらり横切る藪柑子。
   オタクのリュックにドンと衝撃。
   揺れる筐体、シャッフルされる中身。
   振り向くがもう誰もいない。
   気を取り直して回されるハンドル。
   出てきたカプセルを手にオタク昇天。

●アーケード・白昼
   ホビーショップ前の大行列。
   枚数制限有りのシール販売。
   中ほどに並んでいる家族連れ。
   母親と小学生とベビーカーの赤ん坊。
   ママ友とのお喋りに夢中な母親。
   ポイポイと靴下を脱ぎ捨てる赤ん坊。
   母親は全く気づいていない。
   ぶらっとやってくる藪柑子。
   その足が落ちていた空缶を蹴飛ばす。
   ベビーカーの足元に転がる空缶。
   驚いてベビーカーを引く母親。
   地面に落ちている靴下に気づく。

●住宅街・白昼
   焼けつく陽射し、路上には陽炎。
   猫の子一匹いない町並み。
   汗もかかずぶらつく藪柑子。
   とあるコーポの入口。
   植栽に座り込んでいる老婆。
   シルバーカーのハンドルに凭れて。
   見るからにしんどそうな様子。
   藪柑子、一顧だにせず通過。
   弾みで踏まれそうになる瀕死の蝉。
   蝉、ぎょっとするような断末魔。
   何事かと開いた二階の窓。
   そこへ飛び込んでくる蝉。
   パニクる二階のオッチャン。
   何とか追い出し窓を閉めようとして。
   植栽の老婆が目に入る。

●住宅街・白昼
   色のない空に響く鴉の鳴き声。
   日傘をさして歩く女子高生。
   肘までの白い手袋が眩しく映える。
   女子高生の頭上、電線に鴉。
   今にも飛び立ちそうな体勢。
   女子高生をすっと追い抜く影。
   藪柑子、涼しい顔でぶーらぶら。
   鴉、狙いを藪柑子に変更。
   後頭部目がけて急降下。
   女子高生の目の前にフン爆撃。
   間一髪で日傘は無事。
   鴉の蹴りをノールックで躱す藪柑子。

●バス通り・白昼
   桜並木のバス通り。
   停留所の手前をぶらぶら歩む藪柑子。
   藪柑子を追い越して停まるバス。
   後扉を開けて乗車待ち。
   そのまま行き過ぎる藪柑子。
   舌打ちしてバスを出す運転手。
   目の前で信号が赤に変わる。
   運転手、再び舌打ち。
   交差点の先で何かが裂ける音。
   桜の老木が道路を塞ぐように倒れる。

●駅前・白昼
   聴衆を前に演説中の政治家。
   厳ついSPが周囲を警戒中。
   道路を挟んだ歩道に一人の青年。
   思いつめた表情で鞄の中に手。
   そこから数十メートル離れて。
   藪柑子、ぶらり乱横断。
   急ブレーキを踏むごみ収集車。
   怒鳴ろうとした時には姿はない。
   後続車からパッシング。
   釈然としない顔で動き出す収集車。
   数十メートル進んでまたブレーキ。
   車道の真ん中で固まっている青年。
   駅前に向かって突撃の途上。
   収集車、怒号とクラクション。
   一瞬だけ注意を払うSP。
   その隙に演説が終わる。
   視界の隅で拍手に送られる政治家。
   青年、気勢をそがれてへたり込む。

●オフィス街・白昼
   通り雨で濡れた舗道。
   オフィスビルから出てくる就活女子。
   肩を落として俯き加減。
   スマホを出そうとして段差に躓く。
   ぶちまけられるバッグの中身。
   屈み込んで一つ一つ拾ううちに。
   こらえきれずこぼれ落ちる涙。
   お守りを手に肩を震わせる。
   目の前の水溜りを無造作に踏む草履。
   飛沫を避ける就活女子。
   顔を上げて涙目で睨もうとするが。
   視界にはスーツ姿の社畜ばかり。
   ふと、その先に誘われる視線。
   無機質なビルの谷間にかかる虹。

●長屋・午後
   日の当たらない貧乏長屋の一間。
   畳の上で口を開けて眠る藪柑子。
   『キング』と『新青年』を枕に。
   着流しの前をだらしなく乱して。
   呆け顔を乱暴に往復するハタキ。
   藪柑子、嫌々目を覚ます。
   鬼の形相で見下ろす割烹着姿の母親。
   慌てる様子もなく起き上がる藪柑子。
   母親の口から機関銃のごとき罵倒。
   外を指さしてしきりに何か命じる。
   返事代わりの大あくび。
   たちまちハタキの柄が尻を打つ。

●大通り・午後
   りゅうせい節を輪になって歌う女児。
   土埃を立てて縄跳びをする男児。
   野次馬を引き連れたチンドン屋。
   薬屋の人体模型の前にできた人垣。
   そんな通りをやってくる藪柑子。
   全てに無関心な顔でぶらぶらと。
   適当に結んだ帯の前で抱えた鍋。
   水の中で白い豆腐が揺れている。
   藪柑子を追い越してゆく荷馬車。
   荷馬車の進路にうずくまる野良犬。
   対面から歩いてくる巡査とモガ。
   藪柑子、豆腐を見つめながら。
藪柑子「しょーもねぇ、しょーもねぇ、ほん
 っとになぁ・・・」
   その時、唐突に浪人が現れる。
   ボサボサの総髪、一本差しの太刀。
   懐手でぶらりぶらり。
   行きがけに踏まれる野良犬の尻尾。
   狂ったように吠える犬。
   棹立ちになって嘶く馬。
   荷馬車から次々と転がり落ちる米俵。
   藪柑子、咄嗟に俵から身を躱す。
   豆腐の鍋を空中に放り出して。
   兜のように巡査の頭に被さる鍋。
   豆腐まみれで怒りに震える巡査。
   必死に笑いをこらえるモガ。
   藪柑子、棒立ちで困惑。
   騒ぎをよそに遠ざかってゆく浪人。
   ぶらーりぶらり陽炎に揺れて。





                   了

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