はるのひの気まぐれ通り雨

はるのひの気まぐれ通り雨

藤掛廣幸



岐阜県出身。愛知県立芸術大学卒業、同大学院修士課程修了。

1977年に、世界三大コンクールのひとつであるエリザベート王妃国際音楽コンクール作曲部門で、日本人として初めてグランプリを受賞。国内でも数々の作曲コンクールで受賞歴がある。

フルートの世界的プレイヤーであるジェームズ・ゴールウェイとは3枚の共演アルバムを出しており、その1枚目である『妖精の森』(英語タイトル:The Enchanted Forest )は、全米ビルボード誌「クラシカル・クロスオーヴァー部門」で5カ月連続ベスト10入りした。また、イ・ムジチ合奏団とオーボエの世界的名手ハインツ・ホリガーによるアルバム「日本の四季」では、全12曲のアレンジを担当、編曲者としても高い評価を得た。

マンドリン界とも関わりが深く、多数のマンドリン合奏用作品がある。シンセサイザーとコンピューターを組み合わせた「ソロ・オーケストラ」で、自作のオペラ、ミュージカル、バレエ音楽などの演奏を行い、「ソロ・オーケストラ」コンサートも各地で行っている。


マンドリン曲

●メルヒェンNo.1&2

中川りえこさんという童話作家のおはなしに、「ももいろのきりん」というのがあります。るるこちゃんという女の子が、お母さんにもらった大きな紙でキリンを作り、キリカという名前をつけます。キリカは紙製なので、雨にあたると、ぬれてぐったりしてしまうけれど、お日さまに(せんたくばさみではさんで)ほすと、又元気になるのです。るる子とキリカは、ある時、むこうにみえるきれいな山へでかけます。その山の木には、クレヨンがいっぱいなっており、いろんな動物が住んでいます。るることキリカはみんなと仲良くなりましたが、オレンジグマとうい悪いクマがいてみんなをいじめるので、キリカはクマをやっつけます。クマも改心して、みんなの楽しいクレヨン山になります。帰る時、みんながくれた魔法の画用紙は書いたものはみんなほんものになってしまうのです。るるこがクレヨンで、キリカの大きな家や、いす、ベッド、台所などを書くとみんなほんものになってしまうのです。るるこ、キリカ、そしてクレヨン山の動物たちもみんなもうすでにもも色にそまりかけた夕やけ空の光の中にとけ込んでゆきます。

このような子供の夢の世界のお話をもとに子供達のために作曲したのが、ミュージカル「もも色のキリン」でメルヒェンの原曲です。(原曲は児童合唱、ナレーション、オーケストラ)その中から4曲選んでマンドリンオーケストラのための組曲にアレンジしたのが、このメルヒェンNo.1です。残りの曲の中から5曲選んでメルヒェンNo.2になりました。


●パストラルファンタジー

この作品は、1975年6月から7月にかけて作曲、8月23日に初演された。
作曲中には、イメージの中に、緑・・・初夏のみずみずしい新緑があった。
曲名の由来は、牧歌的な第一部のテーマがこの曲の抒情の核となっているため。
自由に聞いて下されば良いのだが、興味のある人の為に、全体の構成等を参考までにかかげると、大きくわけて、最初の牧歌的なアンダンテ、フーガに始まる第二部、そしてパストラーレテーマの感動的な再現、そしてコーダ。

静かに現れるテーマの、特徴的な2度の下行音形。(E→D)これが、細胞分裂して、体が作られていくように、この曲全体の最も大切な構成要素となっている。
最初にも述べたように、これらはあくまで裏話であって、この曲は、そんなことには関係なく、聴く人の自由なファンタジーをふくらませてゆけばよいのであって、欲を言えば、何らか、精神的に豊かなものを、聞く人にもたらすようなことがあれば、作曲者にとって最大の喜びである。


●じょんがら

以前から、マンドリンの“トレモロによって、うたを歌う”ということに、少なからぬ抵抗感があり、マンドリンという楽器本来の機能に基づいた曲を書いてみたいと思っていました。そんな折、高橋竹山の津軽三味線の演奏に接し、昔からのスタイルの単なる保存などというものではなく、まぎれもなく、現代に生きている音楽、脈々と流れる血をもった音楽を感じて、とても感激しました。三味線そのものとマンドリンとは、全然別のものだけれど、打楽器的な発音原理に共通点を見い出して、ジャズに於けるアドリブの要素を加味して、出来上がったのがこの曲である。もちろん、これは三味線でもなく、ジャズでもなく、明らかに“マンドリンオーケストラの為の曲”である。

ここで、“伝統”というものに対して一言……、伝統とか伝統芸能とかいうものは、大切に保存するべき“骨とう品”というような類いのものでは決してなく、現代の我々の生活の中に力強く生き続けている“血”……。それは、いわゆる伝統芸能を生み出し、様々な文化を続けている原動力、それこそまぎれもない我々の財産たるべき“伝統”ではなかろうか。

音楽や絵画、建築それに文字に至るまで、昔から日本人は様々なものを貪欲に吸収して、今日の文化を築き上げてきた。音楽の分野だけを見ても、ジャズやロック、ポピュラーもクラシックもすべて受け入れて生活している現代の我々は、それらの中からより力強い“生きた、血のかよった”音楽文化を生み出していくべきではなかろうか……。それが本当の意味で、伝統を継承していくことになるのではないか……、そんな風に感じる今日この頃である。


●詩的二章

I.Andantino espressivo
II.Allegro con anima

この曲は、中条雅二氏の詩による“うた”が基になっている。詩の持つ、優しいメルヒェンの世界をふくらませていったもので、二楽章よりなっている。
第1章は、たっぷりとマンドリンオーケストラの美しい音色を聞かせ、第2章は対称的に、マンドリン・ギター等の打楽器的要素も加味され、リズミックなお祭りの楽しい雰囲気が作られている。
尚、この曲は、マンドリン協奏曲という形でも、またうたの入った形でも、演奏できるように書かれている。


●グランドシャコンヌ(1980年・神戸大マンドリンクラブ初演)

シャコンヌとは、バロック音楽時代の音楽形式の一つで、一つのテーマが次々と変奏されていく変奏曲形式である。
この曲は、中世の教会調旋法的なハーモニーによる8小節のテーマをもとに、次々と変奏されて全体が一つの曲を形つくるという方法で作曲されている。特にこのテーマの和声進行は作曲者自身も大変気に入っているもので、これは変奏とともにスケールの大きい音の空間を形成している。
この曲は、わが国マンドリン界において最もよく演奏される曲の一つとして人気を博している。

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