最果ての世界

最果ての世界

弟王・イディス


    ら、それは憎悪だ。王としての器など、決して持ち合わせてはいな
    いのだから。

     デルクの国を治めるものとして必要なのは、力だ。ラディストを
    統一することに、和平などは必要ない。和平などと甘言を口にする
    王は過去にも未来にも存在しない。
     しかし、兄上は何故そんなものを恥もなく口に出来るのか。私に
    は、全く理解しがたい。

     以前、兄上は『人は憎しみ争うために存在しているのではない』
    と言った。なら、なんのために存在しているのか?私は、人はその
    ために存在しているのだと思っている。
     いつの世でも、憎しみいがみ合い争っている。それは、他人を踏
    み台にし自らを高めて行くためだ。自らを高めない人間など、生き
    ている価値すらないのだ。過去の王たちもそうだっただろう。
     そんな歴代の王たちが見れば、きっとこの国の行く末を嘆くこと
    だろう。こんな腑抜けた兄上に任せて良いものかと。

     しかし、そんな兄上の言葉に賛同するものがいたのだ。それは、
    父上だった。まさか、父上までもそんな戯言を口にするとは意外で
    しかない。一体、いつからこの王族はこんなに落ちぶれてしまった
    のだろうか。
     私は、そんな考えをなんとしても阻止しなければならない。それ
    をどうするか、いつも答えだけを求めていた。
     王の言葉は絶対、その王が間違った行動を起こす前にどうすれば
    良いのか。王さえ、父上と兄上さえいなければ…。
     そう思うと、答えはひどく簡単なものだった。あまりにも簡単な
    ものだけに、それが愉快とすら感じた。そう、簡単であるがゆえに
    確実であるひとつの答え。
     そして、私は答えを実行に移した。その行動も簡単なものだ。父
    上の食事の皿に少しだけ毒を盛るのだ。

     その後は、面白いように思うように事が進んだ。父上は、毒によ
    る中毒で命を落とし。兄上は、そのショックのせいで病に倒れた。
    そうなれば、王族の血を持つ私へとその席が転がり込んで来るのは
    時間の問題でしかない。
     しかし、現実とはそれほどに甘いものではなかった。兄上は、父
    上の死を乗り越え、王位をその手に収めた。父上の成し遂げれなか
    った和平による統一を、成し遂げようと躍起になっていた。
     そして、王位に就くのと同時してパルテアの王女を妃へと迎え入
    れた。彼女の名は、ヴィルヴィーアと言った。

     私は、そんな光景を目の当たりにし初めての恐怖を抱いた。この
    ままでは、王である兄上の言葉が現実と化してしまう。和平などと
    いう解決をしてしまう。パルテアの王女を妃とする、それがそうい
    う意味だと言うのは明らかだ。
     だからと言って、私に何が出来るのだろう。王のみに与えられる
    名も、王としての責任も、美しき妃も、何ひとつ得られない私に。
    父上から、母上から同じように愛されたというのに。弟である、そ
    んな私にはどうすることも出来ないような理由で。どうして、それ
    だけでこんなにも差が出来てしまうのだろうか。

     しかし、私は突然に思った。ならば、兄上も殺してしまえば良い
    ではないか。父上と、同じように。



                答え、それはひどく簡単で確実なもの。
                      邪魔なものは、排除する。
              ただ、それだけのことに過ぎないのだから。

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