H@CHIMAKI  COMP@NY

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第10話「雨降る夏祭り」


と紅子はいつもの調子で出店に群がる雑踏の中に走っていった。
傘差さなくていいのか?

空を見ると星も望めぬ曇り空(と言っても夜だから曇っているのかよく分からないが)朝よりは、ひどくないが夏祭りにしては最悪の天気だった。

金魚柄の浴衣をヒラヒラと見せながら雑踏をかきわけていく紅子が妙にうれしそうだった。

「あれ・・・・?蒼井は?」

「バンガローに薬取りに行った」
横でイカ焼きを食べながら南が答えた。

薬か・・・・。今日は妙に苦しそうだったからな・・・。
俺は、それがとてつもなく不安に思えた。

「風太は・・・・そこらへんにいるか。南、紅子頼む。俺は蒼井を連れてくるから、なんか嫌な予感がする。」
「分かった」
と同じく紅い金魚柄の浴衣を着て、少し照れてるような南はうなずいた。

そういって、俺は雑踏の中を進んだ。




「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
5分ほど走るといつもの林の道のところまで来ていた。
雨は強さを増していた。

と。前から傘を差して歩く蒼井が右目に見えた。

「東・・・・さん?」
蒼井は、きょとんとした顔で俺を見た。
「薬取りに行った、って聞いたから少し心配で・・・。」
「あ、ありがとうございます・・・・。」
蒼井は、空色の浴衣着ていた、澄み切った蒼色だった。
「行こう。もうすぐ、盆踊りだ。」
「はい!」
そういって蒼井は、笑った。

「あの・・・・。」
林の途中で蒼井が話しかけてきた。
「ん?なに?」
「あ、あの・・・。東さんは紅子ちゃんのことが好きなんですか?」
「えっ。・・・・・。」
こりゃ困った。なんて言えばいいだろう・・・。
「んーと・・・・。好きっていうのが普通なのかな・・・。」
「?」
蒼井は首をかしげた。
「俺は・・・喜の感情が欠乏してるからさ・・・。正直・・・よくわかんないんだ・・・。でも・・・。」
「でも?」
「大切な人だと思うよ。だって家族だろ?紅子も南も風太も、そして・・・蒼井もな。」
かぁー。恥ずかしいこと言ったな今・・・・。

蒼井は、肩をすくませて照れていた。
「うれしいです・・・。今までそんなふうに言われたことなかったから・・・。」
「え?」
「私・・・。ピアニストになるのが夢だったんです・・。お母さんやお父さんも応援してくれてました・・・。小さいときから練習して・・・。でも・・・。」

そういって、蒼井は無理やり微笑んだ。

「でも。病気になってから。見離されちゃいました。」

悲しげで奥底に感情を閉じ込めるような笑いだった。

「蒼井・・・・。」

俺は手を伸ばしていた。

刹那。派手な轟音とともに俺はなにかに押し潰されるような力を体全身で感じた。
それは蒼井も同じことだったろう。

木がなぎ倒されたのが右目に映った。

左目がかろうじて見た最後の光景は微笑む蒼井の手を握る自分の傷ついた左腕だった。

それは一瞬の出来事だった。俺の目の前から光が無くなったのは。


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