第四章



2人で初めて行った映画は何だったか覚えてない。
映画が終わってアロハタワーにあるメキシカン料理のお店に行った。

それが私の初めてのメキシカン料理の体験だったからよく覚えている。

タコス、ブリトー。
どれもが初めてのテイストだった。
2人ともこの日は何だか緊張していたような気がする。

迷ったあげく思い切って気持ちを確かめた。
と言っても、やっと口から出た言葉は、

「Aさんは付き合っている人はいないのですか?」

わざとらしすぎて、顔から火が出そうな質問だったと思う。
彼女がいたらこんな所で私と2人で食事したり、
毎週私達と時間を過す訳もないのに。

でも、これだけ聞くのことが精一杯だった私。(._.)

Aさんは困ったような顔をして言いました。
「いるけど…。」

( ̄□ ̄;) えっ!地獄に落ちた気分がした。

「君が僕のガールフレンドだとずっと思っていたけど
違うよね?」 と、恥ずかしそうなAさん。

一度は地獄に落ちた気分の私は立ち直るのに少し
時間がかかったけど、声を振り絞って言いました。

「私はあなたのガールフレンドだと思います。」

晴れて付き合いだした私たちは美しいハワイで2人きりの
デートを重ねるはずだったのに。
何故かほとんど毎回Bさんがデートについてきた。(=_=;)

“でもBさんがあの時私に声をかけてくれなければ、
今の私達はいなかったんだ!我慢しよう。”
そう思って文句は言いませんでした。

Bさんが来ない日でも他の男友達がいつも一緒にデートに
ついてきて何故だか清い交際がそれから半年も続いた。

結婚してわかったことだけど彼は頼まれると断れない性格で、
誘われると絶対断らない。
面倒見のいい彼にはものすごい数の男友達がいたのです。

ゲイからレズからストレート、多人種にわたっての彼の友人達。
付き合い始めてから色んな友達を紹介してもらった。
同時に人種に偏見をもたず、誰とでもフランクに付き合える彼だからこそ、
彼にとって未知の国から来た私ともうまくいくんじゃないかと感じた。

そして、

彼と付き合いだした事と、英語の上達に焦りを感じていた私は
後半年、留学期間を伸ばした。
でも、仕事は辞めなかった。
なんとかあと半年休ませてもらえるように頼んだ。

けれど貯金も残り少なくなり、
おまけにその頃、急に学生ビザの取得が厳しくなり
それ以上のビザを延長する事が難しくなりました。

後、数ヶ月で私が日本に帰る日が近づいてくる。
おまけに運悪く、彼も仕事でアメリカ本土へ
4ヶ月も行く事になりました。

そんな頃、2人でこれから先の事を話し合ったのです。

その頃の私は、結婚するのは、
この人しかいないのかも?と強く感じていました。

そこまで私が感じたのは初めての事だった。
過去日本でプロポーズをされたことが3度あった。
2度は親に、「娘さんをください」まで進んだ。
最後の恋愛では結婚式場を予約した。

それでも、結婚が近づいてくると自信がなくて逃げ出していた
私がいた。

でも、今回は違う。
この人となら結婚してもうまくやっていけると強く感じた。

何年誰と付き合っても感じたことがなかった強い気持ちです。

彼のすべてから滲み出る優しさ。
私にだけじゃなく、周囲の人すべてに優しい彼。
人に好かれてリーダーシップがある彼。
仕事に賭ける意気込みも真面目で将来有望な青年だと思った。

でも、私から結婚を考えて欲しいなどとは、言えませんでした。
彼は22歳の若さだったし、
両親の離婚にトラウマを持っていて、
以前、「結婚は怖いよ。」という言葉を彼の口から聞いた事が
あったのです。

それになによりも私たちの交際期間が短すぎる。
結婚なんて話は早すぎる。

本当なら、もっとゆっくりと付き合いを続けていたかった。
だけど私には時間がない。

ビザも取れないし、お金もない。
仕事も続けるかどうか決める時期にきている。
親は私の帰りを今か今かと待っている。

でも、彼ほどに私が結婚したいと思える男性が
果たして私の人生にこの先現れるのだろうか?
2人が付き合った時間なんて問題じゃない?

遠距離恋愛の自信はなかった。
自分の性格は自分が1番良く知っている。
帰国すれば身近な相手ときっと付き合ってしまうと思った。

それに30歳になる前に結婚したかった私は
遠距離などしている時間はないと思った。

帰国か結婚しか私には選択はないのではないか?
色んな想いで心の中は破裂しそうに一杯だった。

いちかばちか…

私は賭けをしました。
別れを覚悟で、彼に私の気持ちを話しました。
1年にも満たない付き合いで馬鹿げているとは思った。
でも私には残された時間も心の余裕もなかった。

正直、日本に一度帰って
またハワイに戻ってくる事も出来たのかもしれない。
でも、それはしてはいけないと思いました。

彼が来年カリフォル二アに転勤になる事も知っていたし、
彼女の身分では、そこまで彼について行くことも出来ない。

今、彼も私と同じ気持ちでいてくれないのなら、
私達には縁がなかったのかもしれない。
そう思うことにしました。

そして私は、彼に話しました。
彼は私のビザの事情もお金の事情も何も知らなかったから、
そこからゆっくりと説明をした。

Aさんがアメリカ本土からハワイに戻る時には
既に私は日本に帰国した後で、私はハワイにはいないという事。
お金も残り少なく、ビザも取れないのでその後はアメリカに戻って来ない事。

「結婚 」という言葉を私は出さなかったけれど、
「結婚」しか選択はないことは彼もわかっていたと思う。

(あなたは何て答えるの?)

心臓の鼓動が自分の耳に届くほど緊張した中で
私は自分に問いかけた。

第五章へ

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: