Heikの狂暴温泉芸者

Heikの狂暴温泉芸者

形式とその受容





目が覚めてみると 私は取り立てて特徴も無き

原っぱの真ん中に立っていた

私の背丈の半分くらいの高さの雑多な草々が

思い思いのまま 茫々と繁茂していた

忘れかけていた 子供の頃の記憶が

 頭の中でかさこそと 音をたてて刺激され

なんだか遠い昔の出来事が この原っぱにも歴史として

刻み込まれているような

そんな考えが 私の大脳に浮かび上がった



 ゆっくりと歩く・・・ そうだ 私はここ最近

「ゆっくりと」歩いたことがなかった

いつも時間に背を押され 腕時計を気にしながら

ざくざくと歩んでいた

 そんな想いが改めて 頭をよぎった



 ゆっくりと歩かねば 気がつかないほどの

山肌には人工的に掘削されたような

穴がぽかんと口をあけていた

その穴は1mほどの高さしかなく

 それは静かに誰かを待っているような

さり気ない人工的な洞窟は 誘いの態様のようだった

 防空壕だった様子さえするが

こんな原っぱに防空壕を掘って

どうしようとする目的だったのだろうか・・・



 身を屈めて その穴に入っていく

中は結構広い空間が待ち受けており

 やはり防空壕ではないのが うかがい知れた

鍾乳洞に人の手が入ったような そんな佇まいだ



 奥へと進んでみる・・・すると左手にひっそりと

昔の円筒形をしたポストが つっ立っていた

もちろん真っ赤に彩色されてはいたのだが

今ではぼろぼろと塗料が剥げ落ちて 赤色というよりも

 赤錆色を呈している

ポストの上部には 下手な字のこんな手書きの

メッセージが書き記されていた



「ここに何かを書いて 投函して下さい」



便箋とボールペンが用意されている

・・・私は何を書こうか しばし逡巡した・・・

そして草色の和紙の薄い便箋に「お母さんごめんなさい」

とだけ 書き記した

 丁寧に三つ折りにして 投函口に そっと滑らした

すると頭の中でピリッと音がして

 偏頭痛の初期症状が発生した



 急いで中を突き進んでゆく・・・

今まで真っ暗だったのに 外界へと出られる

 ささやかな光点が目に映った

 さらに先を急ぐ・・・

すると遠い海鳴りが 聞こえてくるようになってきた

寄せては返す波音がだんだんとはっきりとしてきて

 ついつい足を速める



 やっと外へと出られた すると私の右側から

ひとりのGIが歩み寄ってきた

アメリカの戦闘服をルーズに着込んでいる

 中肉中背のくたびれた男だ

 目の前には広い広い浜辺が広がっていた

ふたりの女子高生っぽい 若い女の子たちが戯れ

そして 遊んでいた

鬼ごっこをしているらしい



“I'LL HAND IT TO YOU.” とだけ私に声をかけ

 私の手にAKl47 アサルト・ライフルを手渡し

 彼は 顎でしゃくって目前の女の子たちを指し示した

私は若干躊躇しながらも ダ・ダ・ダと銃を発砲し

女子高生たちを バラバラの肉塊に変えてしまった

 GIは女の子たちの死体を検分しに行くと

満足げに頷きながらゆっくりと歩き

 視界から消え去っていった



 太陽を私は見上げた

 がんがんと灼熱の日を照り続けている

それは自分がムルソーの生まれ変わりであることに

初めて気づいた瞬間だった

偏頭痛はいっそう激しくなり 私の脳を

ぎりぎりと締めつけ支配しつつあった






二OO八年十一月二十四日

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