『美酒』




手首にナイフを押し当てて
切れるか切れぬか確かめる。
薄皮一枚軽く削ぎ
うっすら滲んだ血をなめる。
それは 狂気故か
それは 真理の為か
全てはいつしか無となって
風に舞い散る塵となる。
今日か明日か明後日か
無くしたものが増えてゆき
欲しいものも増えてゆき
気付けば欲望のどん底で
はいずりもがく私が一人。
切れぬナイフの刃を当てて
手の皮の引きつる音を聞く
肌に当たりチリリと引きつるその音は
まるでオーケストラの序幕のように響き
錆びて冷たくも無いナイフの刃に
そっと唇をはわせれば
口に残るのは錆びたナイフの味だけではなく
狂気という土台に
己の血というスパイスを付け加えた
まるで美酒。




© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: