家族戦隊ゴニンジャー

家族戦隊ゴニンジャー

同じ夢を見ていた


そうか、今日は日曜日だったんだな・・・ 
と、もう一眠りしようと思って、ギクっとした。
そんなはずはない。彼女とは、昨日別れたはずだ。
僕がいつまでも彼女との結婚を言い出さないので、
痺れを切らした彼女から切り出した話だった。
僕は、彼女と一生一緒に暮らすつもりでいたけれど、まだ入社3年で、
とても彼女を養っていけるほどの収入はない。
無理して一緒になって苦労させるのは、
彼女を愛しているからこそつらかった。
あと3年たてば、何とかプロジェクトの責任者位になれる。
残業も増えるが、収入的には二人の生活を賄いきれるし、
多分彼女は会社を辞める気はないだろうから、
彼女の小遣いや将来の出産費用を貯める余裕も生まれる。
そこまで真剣に将来のことを考えていたのに。
「本当に私を愛してるなら、貧乏生活に我慢してでも、
 一緒に暮らしたいと思ってくれるはずだわ。
 それを『ゆとりある暮らしがしたい』
 なんて大義名分で先延ばしするなんて、結局は一人でいる方が気楽なのよ。
 こんなんじゃ、きっと3年後には私、捨てられてる。
 それだったら、まだ25だもの、他の人とやり直すチャンスも多いうちにサヨナラしましょ」
どうして女というのは、目先の幸せを望むのだろう。
今が幸せならば、将来もきっと幸せなはずだ、なんて夢だよ。
もっと現実的に考えて、しっかりした将来設計を持たなくちゃ、本当の幸せはつかめない。
何故あと3年が待てないのだろう。
一生二人で暮らしたいからこそ、準備が必要なんじゃないか。
けれど、彼女はもう25だ。
女性の適齢期は24,5だと世間が言うから、きっと彼女の家でも結婚の話題が出ているんだろうな。
そういえば、先週の土曜日に、高校時代の友達の結婚式によばれたとか言ってたっけ。
子供が生まれた友達もいるらしいし。
短大を出てから5年もOLしているから、会社でもそろそろ古株になっているんだろうし。
結婚はともかくとしても、婚約くらいはしておいてもよかったかな。
彼女を愛していることだけは、誰にも負けないから。


目が覚めると、彼の腕枕の中だった。
暖かい彼の胸に寄り添い直してもう一眠りしようとして、びっくりした。
そんなはずないわ。
彼とは昨日別れたはずなのに。
彼と知り合ったのは、まだ短大にいた頃。
サークル同士のコンパで意気投合して、二人でデートするようになった。
私は一足先に就職したけれど、彼は学生だったから、
しばらくは結婚の話題も出ないだろうなとは思っていた。
けれど、就職して1,2年もすれば生活も落ち着くし、私も適齢期になるから、
きっと彼が何か言い出してくれると信じていたの。
でも、それは夢だった。
友達がどんどん婚約・結婚して、3歳下の妹さえもが、彼が両親に挨拶に来ている。
さすがにまだ若いので、父が待ったをかけているけれど、
それは順番からして、私に先に決めて欲しいからだと思う。
彼のプライドもあるから、私からプロポーズするわけにもいかないので、
さりげなく友人の話とか、妹の話を持ち出してみていたのだけれど、反応がない。
だから、昨晩、最後の賭けに出てみた。思い切って、別れ話を切り出したの。
「無理して一緒になって苦労して、それでもうまくいけばいいよ。
 でも、そんな生活、お互いに疲れてしまうのが目に見えているじゃないか。
 つまらないことが気に障って、けんかばかり増えて。
 暮らしが軌道に乗る前に、お互いの道が変わっていくなんて、そんなのはイヤだ。
 それでも君が『結婚』という言葉を望むなら、それを口にしてくれる余裕のある男を捜せばいい。
 愛だけじゃ、生きられないよ」
何故男というのは、自分の面子にこだわるのだろう。
一人の女も養っていけない、甲斐性なしの男だと思われるのが、
そんなに恥ずかしいことなのだろうか。
友達と飲みに行くのも少なくなってしまうだろうし、
遊びに行くのもままならなくなるかもしれない。
でも、一緒に暮らすことこそが、自分にとっての幸せだとは思えないのかしら。
けれど、25の男なんて、まだまだ子供なのよね。
一生働いて、妻子を養っていかなくちゃならない立場になる前に、
十分遊んでおきたいかも知れない。
堅実に人生を作り上げていこうとする保守型の性格だし、
会社という組織から外れずに、一歩一歩上がっていかなくちゃならない生活を
強いられているサラリーマンだからこそ、
基礎を固めなくちゃいけないという強迫観念に捕らわれているのかも知れない。
それに、彼の言うとおりお金に余裕がなければ、生活自体に疲れてしまうだろうし。
もう少し、彼のことを待ってあげてもよかったかな。
彼以上に愛せる男性なんて、そうそう見つからないわね。


いつの間にかまた、眠ってしまっていたようだ。
ふと、目を覚ますと、傍らに彼女の気配がない。
驚いて布団を探ってみたが、彼女のいた形跡はなかった。
やはり、夢だったのか。
時計を見ると午前11時を指している。
もう一度、彼女と話をしてみよう。


眩しい光で、目が覚めた。彼の部屋ならば、午前中に日がさすことはないのに・・・ 
と思って辺りを見回すと、見慣れた自分の部屋だった。
そうよね。私が意地を張って帰ってきたんだったわ。
夢だったのよね。
でも、私に彼が必要だから、あんな夢を見たのかも知れない。
とにかく、謝らなくちゃ。
ベッドサイドに置いてある、コードレス電話の子機に手を伸ばした。

彼女の電話番号を登録してあるボタンを押すと、呼び出し音を待った。

彼の電話番号を押そうとして、電話を目の前に持ってくると、着信サインが光った。
思わず通話ボタンを押し、電話に出た。

受話器から、呼び出し音ではなく彼女の声が聞こえてきた。
「偶然ね。私も今、あなたに電話しようと思ってたの」
「君の夢を見たんだ」
「私も、あなたの夢を見たわ」
「結婚しよう、いますぐには無理かも知れないけれど」
「待てるわ。必ず結婚してくれると信じられる」

彼と本当に幸せになりたい、と思うから、自分の夢を押しつけるのはやめよう。
二人で同じ夢を見ることができたのも、
きっとお互いに大切な人だとわかっていたから。
現実にも、同じ夢を持って生きていかなくちゃ。

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