★世界で一番ロマンティックな夜★   LOVE IS ALL

☆第5夜☆




今までの努力さえ、自分の影に消されてしまいそうになる。


このまま、地面を見つめていれば、終われるのに。


諦めさえすれば、楽になれるのに・・。


涙も出ないほどの悔しさが、心の奥をかきむしる。


ふと、首筋に当たる雨。


疲れ切った彼が、上を見上げる。


晴れ渡った午後の空から、なぜか落ちてきた、ひとしずくの雨。


やがて彼は、それが、自分の涙だったことに気付く。


心の雨。


悔しさの、雨。


うつむいた自分に、もう1度、上を見てみろと、言っている。


どんなに頑張っても、届かなかったもの。


どんなにあがいても、手につかめなかったもの。


これからも、つかめるときは、来ないのかもしれない。


もしかすると、苦しいだけで、絶対に手につかめないものなのかもしれない。


もう1度うつむけば、苦しさと決別できる。


見果てぬ夢と、今度こそ、サヨナラできる。


自分の心を覗こうとしても、今は何も見えない。


悔しさだけが心の傷口に染みて、自分の気持ちさえ、分からない・・。


彼は、1度だけ瞬きして、足元の土を蹴り上げた。


足元を見ずに、蹴り上げた。


あざ笑うような青空が、静かに彼を見下ろしてる。


彼の、わずかにひび割れた唇が、小さく動いた。


こんなんじゃ、終われねえ・・


彼は、ゆっくりと、真正面の道を見つめた。


歩くのもやっとの彼が、


もう1度地面を蹴って、


泥だらけの靴で、歩き出していく☆

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