バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

≪イタリア≫駅前での野宿で寒さに耐える!



  AM1:00、イタリアのべネツィアに到着。
 三時間の遅れだ。
 予定では、この町に一泊するらしい。

  バスのガイドが英語とギリシャ語で、説明をし始めた。
    ガイド「今晩は、ここのホテル・VENEZIAで一泊します。ホテルの朝食は、3500リラです。ホテルの料金は各自で支払ってください。バス料金には含まれていませんから。明日の朝は、8:00に集会しますので、そのつもりで・・・・お願いします。」

    乗客 「バスの中にいても良いのか?」
 誰かが聞いた。
    ガイド「バスの中では眠れません。警察がうるさいですから・・・。」

  ガイドはそれだけ言うと、乗客たちをバスから降ろし始めた。
 バスの前半分にいた乗客たちは、もうすでにホテルに吸い込まれようとしている。
 外は真っ暗。
 泊まるホテルさえ眠っている。
 街の機能は完全に停止状態だ。

  バスの後方に座っていた俺も含めて毛唐たちは、高い金を払ってまでホテルで泊まりたくないので、”バスの中で寝かせろ!”と、騒ぎ出し暫くガイドと口論となるが、ガイドである彼女もなかなか気が強くって、英語でなにやら捲し立てて両方とも後へ引きそうもない状態が続く。

  そうしているうちに、ガイドが俺の方を向いた。
 決めかねて座っている東洋人の俺に矛先を向けてきた。
 一人でも多くホテルへ誘導しようと言う魂胆らしい。
 ホテルから客一人に対してバックがあるんだろうか。
    ガイド「あなたはどうするの?」
 俺に決断を迫ってくる。
    俺  「バスの中で眠りたいんだけど。」
    ガイド「あ~~~~あ!あんたまでも!」
 ガイドは大げさに天を仰いだ。

  十五分ぐらいの口論の末、どうしてもダメだ!という、ガイドの執念に負けた。
    毛唐「駅へ行くから、駅への道を教えてくれ!」
 我々貧乏旅行者たちは、寝床を確保する為駅へ向かった。
 真夜中の貧乏旅行者達の行軍が始まった。
 男十名ほどに、女が五名のヒッピーらしき集団が、静かに駅へ向けて歩き出した。

  白く薄いガスのかかった靄があたりを包んでいる。
 外灯が薄ボンヤリと、我々の歩く通りを照らし我々を導いてくれている。
 歩く事15~20分、駅が現れた。

  駅前は幾分明るく、何台かの車も停まっている。
 駅はひっそりとしていた。
    毛唐「ダメだ!閉まってる。」
 残念なことに、駅は閉められていた。
 ヒッピー達を構内に入れないようにしているのだ。
 駅構内で寒さを凌ごうという我々のもくろみは、失敗に終わってしまったようだ。

  暖房の効いた駅構内のベンチで眠れるとい、儚い夢が崩れ去り、駅の外で眠る事に決まった。
 誰も強制はしない。
 今からでもホテルへ行って、暖かいベッドで眠る事も出来るのだが、誰も戻ろうと言う者はなかった。
 さすがに寒さが身にしみる。
 バスの中での、あのむせ返るような暑さが、今となっては懐かしい。

  駅前に停まっていた数台の車の一台からイタリア野郎が出てきて、ミュージックを聞かせてやると、車のステレオをガンガン鳴らし始めるではないか。
 シュラフを持っている奴らは、それに潜り込み暖かさを確保し始める。
 そしてとうとう、シュラフを持っていない野郎たち数人が、寒さに我慢できず駅前のホテルへと消えていった。

  一人の女は、男のシュラフに潜り込み、イタリアのおじさんは寒さで眠る事も出来ず、駅の壁にもたれ掛かり、同じイタリア野郎にタバコを貰いなにやら談笑し始めた。
 この寒さでは、眠ると凍死してしまうかも知れないから、朝まで起きていようと言うことにしたのだろうか。
    俺「あ~~あ!シュラフをバスの腹の中にしまうのではなかった!」
後悔するが・・・・しかたない。

  俺はアフガンで買った唯一の冬着である、毛皮で寒さを凌ぐ。
 寒さのせいで眠れない。
 駅の壁にもたれ、うずくまり、毛皮のコートの中に身を潜める。
 ジッとして動かない。
 目だけが、暗い景色の中で動く物だけを次々とらえて行く。
 寒さへの辛抱が始まった。

  そんな情景が二時間も続いただろうか。
 朝が近いのか、イタリア人達が少しずつ駅に集まって来始める。
 バスが何台か駅前を通りすぎていく。
 バスの中の乗客たちも少しずつ増えて行くのがわかる。
 後四時間もすれば朝だと思いながらも、寒さへの辛抱は辛いものだ。

    俺  ”なんでシュラフと言う命の次に大事な物を、バスの腹の中へしまいこんでしまったのか!?それもこれもヨーロッパだと言う安心感からかも知れない。これでは、アフガニスタンの半砂漠のバスの中での、シュラフをしまいこんで失敗した時の苦労が、生かされていないのではないのか。油断だ!”

  AM3:30、いきなり駅前に灯りが灯った。
 駅前で眠っている仲間のうちの一つのシュラフの中に、男と女が入り込んでいるの見つけて、イタリア野郎共が騒ぎ出した。
 シュラフの中に入っている女は、ふてくされた顔でイタリア人野郎をにらみ返している。

    女    「この野郎、なんか文句あるンか!」
    イタリア人「・・・・・。」
    女    「あっちへ行ってろ!覗くんじゃねーやい!」

                *

  AM4:00近く、駅の門がやっと開いて待合室へ転がり込む。
    俺「助かった!」
 駅の待合室には、スチームが入っていて暖かくまさに天国である。
 床には眠れず、長椅子に座って安心して、睡眠をむさぼった。
 深く眠れると思っていたが、何度も目を覚ました。
 やはり、あの寒さが神経を高ぶらせているのかも知れない。

  AM5:30、始発列車がついて、一人の日本人が俺のいる待合室に入ってきた。
 乗客たちも増えてきた。
    彼「やー!コンニチワ!」
    俺「こんにちわ。」
    彼「日本の方ですよね。」
    俺「そうです。」
    彼「今の列車に乗ってきたんですか?」
    俺「いえ、昨日夜行バスでこの街に着いたんですが、ホテルに泊まるお金が勿体無いんで、ここへ来たんですけど駅の待合室に入れたのがついさっきなんですよ。」
    彼「野宿ですか!」
    俺「そう。哀れなもんです。」
    彼「そりゃ、大変でしたね!」
    俺「あんたは、何処から?」
    彼「ストックホルムから、今の列車で・・・。」
    俺「・・・・・。」
    彼「北は寒くて・・・。」
    俺「そうですね。冬のヨーロッパがこんなに厳しいとは認識不足でした。」
  眠るのを忘れて、話し込んでしまった。


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: