♪お肉スキスキ

♪お肉スキスキ

最近肉が食えない。
いや、まったく食えないわけじゃないんだけど、
あの若き日のすべての肉を食いつくさんばかりの
ケモノのような獰猛な勢いがなくなってしまいました。
これはなんというかしみじみとトシを感じますねえ。
人生のたそがれ時って感じですよねえ。

今、目の前にすっげー脂の乗った高級なステーキを
ドーンとか出されたら、もう見ただけでうんざり、
ちょっと食べただけでうぇとなりそうです。
そんなもの出されるんだったら、
だしのきいた味噌汁と漬物なんか出されたほうが
よっぽど箸が進みます。
何でこのトシまでカラシれんこんの上手さに気づかなかったのだろうと、
この頃人生を後悔し始めてますからねえ。
カラシれんこん最高です。

十代後半の僕はもうかなりの肉好きで、
肉をおかずに肉を食うような生活を送っていました。
まあうちもそんな裕福な家庭ではないですから、
親も僕にそんないつも肉を食らわすわけはいかなったけれど、
当時の僕はできるならばいつも肉が食いたかった。
朝から肉、3食全てが肉、おやつも肉。肉肉肉肉。
もうホント♪お肉ニクニク、お肉スキスキ~。(by石川さん)
という感じでした。
油断すると額に肉とマジックで書き込まんばかりの勢いでしたね。
「屁のツッパリはいらんですよ」
すいません。

だからそういう時はやっぱり焼肉食べ放題に行っておりました。
だいたい1980円ぐらいでアイスと果物なんかがついてたりしてね。
当時の僕からしてみればもう夢のようなところですよ。
僕の大好きな肉が食べても食べても同じ料金なわけですから。
だいたいこういうところはバイキング方式だから、
そりゃあもう皿に山盛りにしてもってきます。
こぼれんばかりの肉をがっぽり持ってきます。
僕たちのグループが通り過ぎたあとには、
店員があわてて肉を補充していくさまがよく見られたもんです。
もちろん肉の質はだいぶ悪かったですよ。
でも野獣と化した僕らにはそんなことは関係ないんです。
味より量。
まさにこれでした。
制限時間ぎりぎりまで食って食って食いまくって、
もう米一粒も入らないといった、
吐く一歩手前のところまで肉を食いまくって店をあとにしておりました。
って言うか何度か帰り道にコゲロを道端に残して
いったことが何度かありましたけどね。

でもここのところはそんな焼肉食べ放題とはご無沙汰をしてました。
だって普通の安楽亭とか焼肉屋さかいとかで普通においしく食べても、
1000円ちょいぐらいですみますからねえ。
もう消化機能の衰えた僕にはムリして食べ放題で
吐きそうになりながら食べて1980円より、
よっぽどこっちの方が有意義だしお金も安く済むんですよ。
それに僕ももう25歳になったし、
いい加減ゲロしそうになりながら肉食べるのも
どうかと思うじゃないですか。
大人なら大人らしく、
友人や彼女なんかとおしゃべりを楽しくしながら
スマートにしっとりと食事をしたいじゃないですか。

まあでも最近はけっこうそういう意識が強くなってきましてね、
ほんとにそういうところに行ってないし、
食べすぎて吐くようなこともなくなりました。
うん、おかげさまでやっと僕も大人になりました。
大人万歳!

でもそんなことをしれっと書きながらも、
僕は今日焼肉食べ放題に行ってきました。
もちろん僕はいきたくなかったんですけど、
学校のお友達がどうしても行きたいということで、
一緒に行くことにしました。
付き合いもたいへんです。
ちなみにメンツは男二人、女二人です。
よく考えるとダブルデートみたいな感じですが、
ただの大食い、肉好きが集まっただけなんで、
誰一人としてこの中で恋愛感情を持っている人はいないでしょう。

焼肉食べ放題店に到着すると、
二十歳そこそこの友人達は
一斉に肉をむさぼりあうようにして取ってきました。
その姿はまさにサバンナで獲物をとったライオンの
ようなすさまじさでしたよ。
女の子二人もその細くはないけど、
まあなんと言うかややぽっちゃり気味の身体のどこにそれを
詰め込むつもりなんだというぐらいの量の肉を持ってきておりました。
ああ、若さがうらやましい。

僕はというと生野菜やサラダなんかを持ってきました。
なんというかもう普通の食事っていう感じで。
友人達はみんな
「何で食べ放題にきて野菜を食べるんだ」
と文句を言っていたけど、
僕はむしゃむしゃとそれをおいしく食べてました。
友人達は一気に肉をいれ、網を肉で埋め尽くすと、
生焼けなんじゃないかと思うほどの赤い肉を我先にとばかりに
パクパクと無言のまま食べてました。
僕は栄養の偏りがないようにちゃんとご飯も食べて野菜も食べて、
たまに肉も食べるといった、
見事なまでのバランスのよい大人な食事をしていました。

しかしそんな大人な食事をしている僕の目の前では、
3人の男女の壮絶にがっついた食事風景が繰り広げられていました。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

おいおい、ちょっとは会話しながら食事しようぜ!
でもしょうがないか、みんなまだ子供だもんなあ。
僕も昔はこんなだった。
懐かしいなあ。
でもそんな生焼けのお肉を食べたり、
お肉しか食べないで野菜もご飯も食べないなんて、
身体にとっても悪いぞ。
しかもそんな量の肉を食べるなんて。
「腹八分目に医者要らず」
君達にこの言葉をプレゼントしたいけど、
今言っても聞く耳を持たずって感じだろうからなあ、
まあいいや。
あとで君達がゲロ吐いて苦しんでいるようだったら、
この言葉をそっと言って大人の食事とは何たるものかを
こんこんと諭してあげましょう。

20分経過・・・
友人達の食の勢いは止まり、
なんかモー娘の話とかしてました。
「もーおなかいっぱーい」
とかいってベルトを緩めて腹をかいていました。
さっきまで僕が話しかけても肉のほうを優先させてたくせに、
今となっちゃ肉よりモー娘です。
僕は別に矢口のこれからのことなんてどうでもいいって感じで、
友人達が取りすぎた肉の残骸をほそぼそと食べていました。
もう肉もいいかなと思い、
大人の食事をごちそうさまをしようとしてたところ、
友人の女の子がアイスを食べていたので、
ちょっと拝借しました。

「!!!」

これがまたびっくりするぐらいうまかった。
食べ放題のアイスとは思えないほどのうまさでしたよ。
どれぐらいのうまさかというとハーゲンダッツの濃厚さと
ガリガリ君ソーダ味のさわやかさを
足して混ぜて引いたぐらいのうまさなんですよ。
こりゃあ食わなきゃ損だと思った僕は、
それこそ山盛りにしてそのアイスを取ってきました。
僕は肉はもう脂っこくてだめでしたが、
甘いものにはかなり目がないために、
これでもかと食いましたよ。
大きなスプーンでむしゃむしゃむしゃむしゃ、
クマのプーさんがハチミツを食うがごとくの勢いでした。
だって肉で1980円分食ってませんからねえ、
元を取らないといけません。
友人達がモー娘の話をしている間中、
僕はアイスを食べておりました。
それはそれは幸せな時間でした。
なんておいしいアイス、
それがなんと食べ放題、
食べても食べても料金同じ、
ああ神様、
こんな幸せがあってもいいんでしょうか。
神様、ありがとう。

うーん満足。
さあ店を出よう、
としたその時。 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

雷の音ではありません。
そうです。もちろん僕のおなかの音です。
「あっ、俺ちょっとトイレ行ってくる」
僕はそう言い残し、顔色を青ざめさせながらトイレに向かいました。
それから30分、
僕はえぐりこむような腹の痛みと
肛門から排出される液体と格闘しておりました。
ええ、もう大激闘でしたよ。
冷や汗ダラダラ、ちょっと涙目だっと思います

神様、助けて。

そう祈った瞬間、
携帯がブルブルと振るえました。
とると一緒に来てた女の子からでした。
彼女はなかなかトイレから出てこない僕を心配したらしく、
携帯に電話してきたのだ。
さすがに未来のナースらしく心遣いが出来る。
まあでもトイレに行って30分間帰ってこなかったら
誰でも心配するか、
って言うかもっと早く電話してきてもいいもんだと思うが、
もちろんこっちもそれどころでもない。
なにせ腹が痛いのだ。
「どうしたの?」
と彼女。
僕は
「えっ、どうしたもこうしたもなくて腹がイテーんだよ」
と言い、それから今の現状をこんこんと説明し、
人生におけるかなりのピンチであることを彼女に必死に伝えた。
するとそんな瀕死な僕に彼女は、
「そんなにアイスいっぱい食べたらおなか痛くなるの分かるでしょ。
たなかくんもう大人なんだからちゃんと自分で調節しなさいよ」
とややきつめの口調でぴしゃりと言った。

焼肉屋のトイレで一人、
えぐりこむような腹痛を抱えながら、
5歳年下の女の子から冷たく説教される僕、

25歳。

あれほど大人な食事を僕はしていたのに・・・

神様、僕が今こんなひどい仕打ちにあっているのはなぜでしょうか?
中学生のときにおばあちゃんの財布から1000円盗んだせいでしょうか。
それとも兄貴のエロ本を定期的に盗み見してたせいでしょうか。
それともただのアイスの食いすぎなんでしょうか。

教えてください。





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