『present 2』～１～ | ひとりで夜遊び

202970

『present 2』　～１～

　　イッキに酔いが醒めた。

　　　「挨拶しといたほうがいいんじゃないか？」

　　冗談半分で言った友達の視線を辿っていくと、
　　オヤジのファッション雑誌を意識したみたいな男が
　　女の子を抱き寄せて煙草を吹かしていた。

　　放送作家から転身した脚本家らしい。
　　名前はなんとなく聞いたことがあったけど、
　　顔が売れてるワケじゃないし、
　　わざわざ挨拶しに行くつもりもなかった。

　　　「ちょっと売れるとあんな若い子にもモテるんだなぁ～。」

　　友達の一言に少し笑いながら視線をはずそうとしたその時、
　　思いがけないものが目に入った。

　　人違いかもしれない・・・。
　　それだけ、いつものあいつとは雰囲気が違っていた。
　　でも・・・。
　　顔をくしゃっとさせる笑い方で確信した。

　　奈緒・・・。

　　しばらく会ってなかったけど、間違いない。

　　なんで？
　　なんでこんなとこに？
　　いや、それよりなんであんなヤツにくっついてるんだよ・・・。

　　まるで・・・、
　　なんか、

　　愛人みたいだ・・・。

　　　「おい！　聞いてんのかよっ！！」

　　　「えっ？」

　　　「なんだよ、ボ～ッとして・・・。
　　　　だからそんなに気になるんなら行ってこいよ！」

　　　「んなワケねーだろ・・・。」

　　鼻でわらいながら、でも内心うろたえながら、
　　意識は完全に遠くのテーブルに飛んでいた。

　　話に集中できない・・・。
　　そんなこと考えてしまうこと自体、おかしい。
　　笑ってても、愛想笑いのような気がして、
　　友達に見透かされてるんじゃないかと、また気になる。

　　見てるわけじゃないのに、すべてが見えていた。
　　悪酔いしたみたいに、胸がムカムカしていた。

　　限界だ・・・・・。

　　そう思った時、視界の端のふたりが立ち上がった。

　　近づいてくる・・・。
　　不自然に顔をそむけてやり過ごした。

　　気持ちが楽になるかと思ったら逆だった。
　　動悸がして、居ても立ってもいられなくなる。

　　何も言わずに席を立った。
　　誰も気に掛けるヤツはいなかった。

　　何やってんだろう。
　　自分でもワケわかんないまま・・・。
　　エレベーターホールへと向かった。

　　・・・・・いた。

　　オヤジに肩を抱かれて、足元をふらつかせてる。
　　髪、伸びたな・・・。
　　どうでもいいことを思ったりしていた。

　　ドアが開く。

　　先に乗り込んだふたりが、こっちに向き直る。
　　ひと呼吸置いて、後に続いた。

　　壁にもたれて顔を上げる。

　　目があった。

　　一瞬だけ・・・。

　　まったくの他人みたいに、すぐに視線をはずした奈緒。
　　でも、浮ついたような表情は消えていた。

　　エレベーターを降りて、通りでタクシーに乗り込むふたりを見送る。
　　一度もこっちを見ることなく行った・・・。

　　自分でもわからなかった。
　　何がしたかったのか。
　　何も言うつもりはなかったし・・・。
　　でも、身体が勝手に動いた。
　　どうでもいいことなはずなのに・・・。

　　ひとり、歩道に立ち尽くしていた。
　　もう、店に戻る気にもなれなくて、友達に電話した。

　　　「悪い。　帰るわ。　次、オゴるからさ・・・。」

　　奈緒を見かけてからの自分に、嫌気がさしていた。
　　意味のない行動をした自分に・・・。

　　少し、顔が細くなってた。
　　キレイになってた。
　　でも、なんか作られた感じがした。

　　ふと、髪をふわふわさせてマンションの廊下を走って行った、　
　　後姿を思い出した。

　　あれから、もうすぐ1年。

　　ガラスの犬を夜景にかざして泣いてた奈緒。
　　静かな気持ちで抱き合った、春の夜。

　　ハタチの誕生日には、イイオトコに祝ってもらえよって言ったよな。

　　関係ないけどさ。
　　オレには・・・・・。

　　そう、関係ないことなんだよな。

　　酔ってるからだ。
　　こんな風にいろいろ考えて、ヘンな気持ちになるのは。

　　たまには早く帰って寝ろよ。
　　自分に言い聞かせた。

　　携帯を開いて、電源を切った。

　　誰ともしゃべりたくなかったし、
　　携帯が鳴ることさえ、鬱陶しかった。

　　もうすぐ3月か・・・・・。

　　そう思った瞬間、急に寒さを覚えて
　　店にジャケットを置いてきたのを思い出した。

　　でも、もうどうでもよかった。

　　戻ってくる時は戻ってくるだろうし、
　　そうでなけりゃ、それでもいい。

　　すべてが面倒になってた。

　　タクシーに乗り込んで行き先を告げるのも面倒で、
　　とりあえず歩き出した。

　　ダラダラ流れる人波を縫うように追い越しながら、
　　気持ちが落ち着いていくかと思ってたのに、
　　無性に腹が立っていく自分に戸惑っていた。

　　誰に？　　

　　奈緒に？　　あのオヤジに？

　　違う。

　　自分にだ・・・・・。

　　ワケわかんない動きをしてる自分に・・・。

　　頭がおかしいのは、引きずってんのかな。
　　フラレたばっかだしな・・・。

　　とっくにわかってたよ。

　　他に好きなヤツがいるって。

　　でも、言えなかった。

　　自分から切り出せなかった。

　　認めたくなかった。

　　写真週刊誌が発売される前日、
　　彼女から電話があった。

　　　「ごめんなさい・・・。」

　　そのひとことだけだった。

　　どんな返事をしたのか、もう覚えていない。
　　何も言わなかったのかもしれない。
　　気が付いたら、携帯を閉じていた。

　　きっと、彼女と奈緒をダブらせてるんだ・・・。
　　だから、腹が立つんだ。

　　彼女に、できなかったことをやったんだ・・・。

　　それこそ、サイテーじゃないかよ・・・。

　　ダメだ・・・。

　　歩いてると、いろんなこと考えすぎて・・・。

　　植え込みを乗り越えて、
　　停まってるタクシーの窓を叩いた。

つづく　　　　05,June 2006

　はじめに・・・。

　　『present』の続編です。
　　タイトル、もちっと考えてみたいと思ってます。（笑）
　　続編は、最初っから意識してたんだけど、
　　なんか突然、もよおして（爆）アップしました。
　　1年経ったので、ちょっとオトナの内容にしたいと考えてます。
　　ハードな、人妻とのランデブーものに到達するまでの訓練として・・・な～んちって(^_^;)

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