宇宙は本の箱

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終端動物ー丸田和夫



ま、そんなわけで、今やもう天下を取ったような気になって、ほんに好き勝手な、したい放題なことをしている。欲しいとなったら根こそぎ持って行かなきゃ気がすまない。それでも飽き足らずに今度は自分の都合のいいように生き物を飼育する術を編み出す。
稲、麦、ほうれん草、林檎、チューリップ、綿・・・(略)近頃はわらびも栽培しているというから、そのうち山菜の仲間から追い出されるのじゃないか。

たしかに、逃げ廻る野生動物を追いまわして抵抗もしないのに撃ち殺すのは、実に野蛮で残虐極まりない行為である。それに引き換え、広々とした牧場で牛や羊がのんびり草を食んでいる風景は如何にも閑かで平和ではないか。
「しかし、ホルスタイン君。君は何の不自由もなく草を食わしてくれる人間にどれほど感謝しているか知らないけれど、君が、我が仔専用と信じているミルクが、ごっそりピンハネされている事実をご存知か。しかも君が安んじて生きていられるのは、君のオッパイが出る間だけだと知るべきだぞ。
人間というのは、例えば、あんまり実がつきすぎて、遂にその重みで枝が折れてしまうような、そんな片輪な林檎の木をつくって、それを品種改良と称して憚らない動物なのであるぞよ。嘘と思うなら、そこいらの一寸した養鶏場に行って見給え。そこじゃ、なんのことはない、鶏はもはや機械だな。夜も煌々とライトに照らされ、昼夜を分かたず稼動している鶏卵製造機だよ。真夜中も走り回ってる大都会のタクシー。二年もすればスクラップにされるあの車みたいな。
それに自分勝手に夜更かししていながら、あのコケコッコーがうるさいと、鶏を唖にする薬をつくっているというから、君も気をつけ給えよ。あんまり大らかにモーモー言ってると変な薬を飲まされないとも限らぬぞ」

そしてまた、この人間なる暴君はその例にもれず至って気紛れである。美しいもの、可愛いものには頗る覚えがめでたく、少々悪事を働いてもお咎めがない。それに大体が判官びいきときているから、弱いものには時により損得抜きで同情したりする。
早い話が蝶々は甚だ受けがよろしいが、その子の芋虫はさっぱりである。くもの巣にかかった虫は可哀想で、小鳥が雛に餌を与える光景は微笑ましい限りと仰る。もし蛍の尻が光らなくなったら、そこいらにいるカナブン並に格下げとなるはまず疑いない。
鹿や羊は大人しそうだが、あれで結構悪さする。・・・(略)毎年毎年食い荒らすので鉄砲で撃とうというと可哀想ではないかと横槍が入る。それでいて猪を追い出す分にはそれ程文句はつかぬ。猪からすれば俺はそんなに悪い事をしているわけではないと・・・(略)

自分で絶滅の渕にまで追いやっておきながら、今になって救いの手を伸ばしにかかるのもずいぶん身勝手な話で、(略)保護してるうちにだんだん増えてきて、人間の邪魔になってきたら、きっとまたやっつけにかかるに決まってる。

ともかく人間のしていることは気紛れが過ぎて、そもそも首尾一貫しとらん。

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