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みなさん、こんばんは。俳優の渡辺裕之さんが66歳で亡くなりましたね。今日はYA小説を紹介します。ジェイミーが消えた庭Creepersキース・グレイ野沢佳織訳徳間書店 成績もぱっとせず、スポーツ万能でもない、いわゆるどこにでもいる平均点タイプの男の子、「僕」。でもたった一つ自慢できる事がある。1列に並んだ家々の裏庭を一気に駆け抜けるスリル満点の遊びクリーピングだ。僕とジェイミーは最高のコンビだ。そう、あの難ルートと呼ばれるダーウェント・ドライブに挑むまでは…。物語の後半部分では、「消えた」ジェイミーが再び現れる。SFに詳しい人でなくても、現れた理由については早晩見当がつくだろうし、物語もその部分を追求するのが主意ではない。主眼は、ジェイミーと僕、そしてもう一組の少年少女の関係に置かれている。二人ならば、平気なのだ。かつてボコボコにされたいじめっ子への復讐や、再度の挑戦も。二人だから、楽しいのだ。クリーピングにせよ、何にせよ、塀よりも遥か高い身長を持つ大人達から見れば、「それが出来たからってどうした?」と怪訝な顔を向けられる事も。同じ背丈で物を見て、同じ目線で話せる親友どうしだった二人が、平気ではなかったのは、たった一つ。永遠に喧嘩別れしたままでいること。二人の思いはとても強かった。とっても不可能だと思われた、一つの奇跡を起こせるほどに。男の子っていいなぁ。羨ましい。女の子に対して、こういう冒険談がめっぽう多いから。だから、ルースが羨ましくてならない。ジェイミーと僕を応援する年長者達として登場する、年上の不良っぽい女の子ルースと、僕の「大きいおにいちゃん」カール。彼等は、ジェイミーと僕の成長した姿。まだ完全に大人になりきっていない、子供と大人の境界(マージナル)に立つ存在だからこそ、僕とジェイミーの試みを、「馬鹿な事」と一笑せず、サポートする。子供時代、ジェイミーのような、かけがえのない友達と、頼れるアニキやアネキ達が傍にいてくれれば、一度きりの子供時代を泳ぎきるのに、どんなに心強かっただろう。小学校低学年の頃、面倒を見てくれたのは、近所の小学校高学年の少年少女だった。少し年上の年長者の後をついてまわり、私は何でも真似をした。遊んでいる最中に「おやつよ。」と呼ばれると、「誰々ちゃんは?」と必ず口にした。「誰々ちゃんは別の家の子だから、おやつは別に食べるのよ。」 と言われても、私は今ひとつ納得のいかない顔をしていた。昔は、「近所のおにいちゃんとおねえちゃん」が、ちっとも恐くなかったし、親達も信頼していた。事件での全く見ず知らずだった子供達の関係と、顔見知りだった私と近所の子達の関係を、同じ目線で見る事には無理がある。それはわかっているが、少子化が進み、以前よりも、近所のお姉さんお兄さん達と遊んでいる子を見かけなくなった事に気づくと、「私達の子供の頃とは、随分違ってしまったんだな。」と寂しく思う。少年が幼児を突き落とす事件が起こるなんて、あの頃は予想もしていなかった。再び、「近所のおにいちゃんとおねえちゃん」を信頼する時代が来るのだろうか。いや、来るはずだ。そうでなくては。デビュー作でガーディアン賞にノミネートされた作品。この時21才。どうりで、物語と文章に勢いがある。ジェイミーが消えた庭 [ キース・グレイ ]楽天ブックス
May 15, 2022
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みなさん、こんばんは。パンダの赤ちゃんが産まれましたね!無事に育ってほしいです。つぶれずに。昨日に引き続き草野たきさんの作品を紹介します。メジルシ草野たき『ハチミツドロップス』の著者、草野さんの作品。 両親の離婚を前に、父親の希望で家族で北海道旅行に出かける中学生・双葉が、物語の主人公。『ハチミツ~』では、主人公の妹が「或るモノ」を食べるシーンがさりげなく出てくる。そしてこの「或るモノを食べる行為」が、家族の秘密と繋がっている。『メジルシ』でも、『ハチミツ~』と同じく、主人公がこだわっている「或るモノ」が冒頭からさりげなく出て来て、家族の秘密と繋がる。好意を素直に表す父・健一と、感情を表に表せない母・美樹。夫の好意を鬱陶しく感じる美樹も、受け入れてもらえない健一も、どちらの心も痛い。 「好きな人に喜んでもらいたい」という思いと、「喜んでもらって、自分を好きになってもらえればいい」という気持ちを線引きするのは、とても難しいから。祖母と母・美樹と双葉、母娘三代の関係は、よしながふみさんの漫画『愛すべき娘たち』の最終話を彷彿とさせた。【中古】 メジルシ /草野たき【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 13, 2017
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みなさん、こんばんは。支持率が下がってきたからあわてて政府が加計学園の調査を始めましたね。見苦しい。さて、こちらの小説はとある学校の部活がテーマです。ハチミツドロップス 講談社文庫草野たきなんとも甘い名前のタイトルは、とある中学のソフトボール部の別名。「試合に出て勝ちたい」だの「ソフトボールの腕を磨きたい」なんて目標を持たず、「ただお気楽にやってられればいいな~」と思ってる女の子達の集まり。 その筆頭が、キャプテンに選ばれたカズこと水上果豆子(かずこ)。BFもいるし、出張中の父と母と妹と平凡に暮らしている。このまま3年生になって、何となく引退という道筋が出来ていたのに、熱心な妹チカがソフトボール部に入部してきたことから、平凡な暮らしが崩れ始める。おや、どこかで読んだようなストーリー。例えば、日常に無自覚だった働く女性が、会社のリストラやら組織改編で、自分を見つめ直す…なんて、平安寿子さんの小説にありそうだ。 「自分らしさ」と「本当の自分」の狭間で悩む姿は、古今東西、いつでも、どこでも、同じこと。やせ我慢も意地悪も、悲しみさえも、みんな自分の肥やしにしてゆくオンナノコの逞しさは、こんな頃から培われてゆくんだなぁ。【中古】 ハチミツドロップス 講談社文庫/草野たき【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 12, 2017
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みなさん、こんばんは。オリンピック終わってしまいましたね。台風で帰れましたか?東京は散々でした。こちらはハワイに行った少女のひと夏の物語です。ちなつのハワイ 大島真寿美大島さんの作品が扱っているのは、一貫して「家族の崩壊と再生」。そして再生のために、或いは傷を癒すために、ヒロインは旅をする。『香港の甘い豆腐』では、高校生になりたての彩美が父に会うため香港に旅立ち、『水の繭』では奔放な瑠璃が家出を繰り返す。 本作のヒロイン、ちなつもやはり旅に出る。行き先はハワイ。でも彼女はまだ小学生で、一人で旅行はできない。家族と一緒だから、自分をじっくり見つめ直したりはしないが、代わりに家族を別の側面から見るようになる。手助けをするのは、菅沢にいるはずのおばあちゃん。日本にいるはずの人が海外にいて、しかもそれが、ちなつにしか見えないとくれば、その正体は、皆さんご想像の通り。 でも、「な~んだ、子供だましじゃない」と興ざめはしない。「海外でも仕事、仕事のお父さん」「家族の幸せにこだわるお母さん」という両親の年に近いため、自然と彼等の心情に寄り添えるからだろう。読み終わった後、あなたも、誰かに「マハロ(ありがとう)」と言いたくなるかもしれない。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ちなつのハワイ [ 大島真寿美 ]楽天ブックス
August 23, 2016
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みなさん、こんばんは。昨日は遅くまでテレビで選挙関連のニュースばかりでした。さて、こちらはありふれた毎日の素晴らしさをうたった絵本です。マルスさんとマダムマルスささめやゆき 鴨長明は、こう詠んだ。ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの流れにあらず。 今、朝のラッシュの光景も、やはり一つの川である。JRの通路を歩く。段差があるので、遥か彼方からずっと先の改札口へ、同じ方向に向かって動いてゆく人の頭が見える。頭だけ見ていると、一定の早さで寄せてゆく一つの大きな波のようだ。数カ月前、同じ時間に、私はこの流れの中にいなかった。あの時と、今と、時間は同じように流れているのに、どうしても今の方が、早い流れに思えてならない。 時間の長さは、世界同じであるはずなのに、ノルマンディ半島の小さな海辺の村に滞在したささめやさんや、大家さんのマルスさんとマダムマルス(シモーヌ)のまわりでは、ゆるやかに時間が流れているようだ。かつての時間が、懐かしくなる。けれど、彼等の時間も特別ではない。決して時間は止まらないし、二度と同じ時間は流れない。遠くから見た人の波の一つ一つが、決して昨日と同じではないように。マルス夫妻のまわりでも、結婚、出産、死別など、昨日と違う出来事が起こる。いずれはこの村を離れる事がわかっているささめやさんはかけがえのないひとときを、一枚一枚絵に残してゆく。 いくつもの時間の流れの中に、埋もれてしまわないように。 記憶の底に、沈まぬように。マルスさんとマダムマルス [ ささめやゆき ]価格:1512円(税込、送料無料)
July 11, 2016
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みなさん、こんばんは。旅行から戻ってきてあっという間に一週間がたちました。早いですね。働いているからかな。さて、とっておきの絵本を紹介します。ぐりとぐら こどものとも傑作集 21中川 李枝子「私が子供を産んだら、絶対にこの本を読んできかせるんだ。」昼食時に、そう言ったのは、私より9才年下の女性。「うーん、その気持ちわかるなぁ。」と言うと、「あ、それそれ、知ってます。」ともう一人、年下の女性が加わる。「確か、卵でホットケーキつくるんですよね。」「そ、それは『ちびくろさんぼ』だよ。」「え、オムレツじゃないの?」多少の記憶のすりあわせ作業ののち、再び会話がはずんだ。野ねずみぐりとぐらが森の中で大きな卵を見つける。彼等はその卵で、カステラを作ろうと考える。「そうそう、あのふんわりしたカステラ、おいしそうだったよねぇ?」妹・山脇百合子さんの挿絵によるカステラは、本当にふかふかしていておいしそうだった。子供の頃見た黄色い巨大カステラは、大人になった今でも、元少女達に強烈な印象を残していた。印象に残っているといえば、七五調で、何かの呪文みたいな、この言葉。ぼくらがいちばん すきなのはおりょうりすること たべることぐり ぐら ぐり ぐら元の絵本は、今はもう、誰一人持ってなかったけれど、みんな間違えずに暗証できた。食べた後の卵の殻も、捨てないでちゃんと利用している所も「えらいよねぇ。」と一同感嘆。初版は1963年。今年で出版以来何52年。この分ならば、半世紀、いや永遠のベストセラー。今までも、そしてこれからも、最も愛される子供の絵本の一つ。ぐりとぐら (ぐりとぐらの絵本) [ 中川李枝子 ]楽天で購入
April 3, 2015
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みなさん、こんにちは。インフルエンザが流行の兆しですね。私は今日ワクチン接種してきましたよ。みなさんはお済みですか?さて、今回は最近新作を発表した大島さんのティーンズ向け作品を紹介します。香港の甘い豆腐大島 真寿美進学か就職かという進路は、否が応にも見えてくる十八才。高校生になりたての十六才。二つの間の十七才は、どうにも中途半端だ。とうてい将来の姿なんて思い浮かべられないのに、大人達は、「あと一年なんてすぐなんだから勉強しなさい。」「ちゃんと将来の事考えなさい。」とせっつく。それも、自分達がその頃どうだったかなんて、すっかり忘れた口ぶりで。 「そんな事言われても、スタートラインもゴールも見えないのに、何に向かってどこを走るっていうのよ。」 主人公・彩美も、やっぱりモヤモヤした思いを抱いていた。親の小言に「しょーがないなぁ。でも、あーやっぱりノラない。」とボヤきつつ、机に向かうのが、こういう時の無難なやり方。だけどあいにく彩美には、伝家の宝刀とも言うべき一言がくすぶっていた。「これを言ったら、母さんは絶対何も言い返せない。」と確信を持てる、この言葉。 「どうせ父親も知らない私ですから」 効果は抜群。母親は口をぱくぱくさせて沈黙。ところが、この先が予想とは違っていた。 母親は、銃口をつきつけるように彩美にパスポートとチケットを握らせ、一緒に香港に旅立つ。 「銃口をつきつけるように」とは、穏やかでない。並々ならぬ決意が見てとれる。「お母さんは、さぞかしあれこれ思い悩んだ末に出かけたのだな」と思ったが、後に明らかになる経緯からすると、これが的外れ。かなり行き当たりばったりの選択だったようだ。但し、いざ「これだ!」と決めた後の勢いはある人だ。行き先が香港で良かった。ヨーロッパだったら、これほどフットワークは軽くあるまい。 母親の母親-つまり祖母も、かなりユニークな人だ。 何せ、まだ見ぬ父親にこれから会うという彩美に対する最初のアドバイスが、 「どついて、蹴りたおして、成敗しておいで。」なのだから。 そんな二人の遺伝子が入っている彩美だから、どうしてなかなかたくましい。おろおろする母親を尻目に、ホームステイを決め、香港の言葉や食べ物に、どんどん馴染んでいく。行った所がまた、良かったんだろう。遠慮が美徳の日本とは違って、狭い領土に沢山の人が住んでいる香港では、皆「怒ってんのか?」って勢いで自己主張している。そうしないと自分が埋もれてしまうのだ。ホームステイでは、カルチャーショックを受けて萎縮する場合もあるが、彩美の場合はプラスに働いたようだ。日本にいる時は気になっていた母親や祖母の言い争いも、コントとして聞き流せるようになり、もやもやしていたスタ−トラインも見つけてしまう。 醤油と鰹節、または味噌汁。日本料理なら豆腐の定番料理はこれ。でも、中国に行けば、また違った豆腐の味が楽しめる。 人だって、おんなじだ。 「自分の世界は、目に見えるここしかない。自分のキャパは、これしかない。」そう決めつけてしまう前に、すぐ側にある甘い豆腐に、ちょっと箸をつけてみませんか? 香港の甘い豆腐 (小学館文庫) [ 大島 真寿美 ]楽天で購入送料無料☆ スペルガ スニーカー キャンバス 2750 COTU クラシック SUPERGA 2750-COTU 50代 30...価格:5,490円(税込、送料込)
December 2, 2014
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2015年1月に映画が公開される大島さんの作品チョコリエッタ を紹介します。チョコリエッタ 大島真寿美高校二年生の宮永知世子には、もう一つの名前がある。チョコリエッタ。両親が好きだったフェリーニのミューズ、ジュリエッタ=マシーナにちなんでつけられた名だ。だが今では誰もその名前で彼女を呼ばない。一緒に育った雑種犬ジュリエッタが死に、知世子、そして家族にもそれぞれ変化が訪れようとしていた。『香港の甘い豆腐』『水の繭』のように、本作もまず「後追い自殺しそうな勢いで嘆き悲しんだ」愛犬ジュリエッタの死という喪失から始まる。ヒロインの年齢は『香港…』と同じ十七才。大人に向かおうとしている部分と、子供でいたい部分とが、引っ張り合いっこをしている、中間の時代。しかし喪失から抜け出られないのは、何も十七才だけじゃない。母の死から未だに立ち直れない父。知世子が出会う高校の先輩・正岡正宗も「永久浪人を目指す」と宣言するが、どこにも属せない自分をもてあます内心のイライラを見抜かれる。唯一向かうべき未来を持っていた叔母・霧湖は、知世子にこう言わずにはいられない。「人が変わるっていうのは、悪い意味だけじゃない。成長したってだけで変化はともなうものでしょ。そういう時はしがみついているべきじゃない。変わればいいのよ。どんどん変わっていけばいいのよ。」喪失を実感する前に、「わけのわからない影にすっぽり覆われてしまった」知世子。家の事を霧湖に任せて、外に出てばかりいる父。傷に触れまいとする互いの配慮が、かえって傷を修復せずに、長引かせてしまう。そんな閉塞した空間に突破口を開けるのは、外部からやってきた人間にしかできない。正宗に対しては祖父が、知世子に対しては正宗がいた。言い方は乱暴だけど、味のあるキャラクター、正宗と知世子の、恋愛の一歩手前のような関係が、さっぱりしていていい。全てが新しく始まる春という季節に、足踏みしていた彼等が、季節が進むにつれて、少しずつ再生へと向かってゆく姿を描いた佳品。【楽天ブックスならいつでも送料無料】チョコリエッタ [ 大島真寿美 ]楽天ブックス
November 29, 2014
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みなさん、こんばんは。錦織選手凄いですね~。それにしても師走に選挙とは忙しい。さて、こちらはそんな忙しさとは対極にあるカフェの物語です。ヴァン・ゴッホ・カフェThe Van Goth Cafe シンシア・ライラント表紙の絵の上半分に原文が、下半分にはコップやポットが置かれています。 見ようによっては、壁に英文が書かれているみたい。そういえば、最近見かけるカフェショップでも、テーブルや壁に、英文が書かれています。 「何が起こっても不思議ではない」「魔法」これらの言葉が物語の中で繰り返し語られます。まるで呪文を かけてゆくように。そのうち、段々不思議な事に、いつしか「このカフェでは何でもありだ。」という暗示にかかって しまうのです。 各話は常に、次の話に繋がる終わり方をしています。1話の最後の文章は、「オポッサムがそうでした…」となっていて、2話目はオポッサムの話から始まる、という風に。 そういえば、夜になると、母はいつも、自作の物語を語ってくれました。そして決まって、いつもいい所で、物語を区切り、こう言いました。 「さあ、今日は、ここまで。明日の夜になったら、話してあげる。その時まで、あの子に何が起こったか、いろいろ考えておいて。よかったら、明日の晩に、お母さんに聞かせてくれるかな?」 私は、わくわくしながら、うんうんと頷きました。そして電気を消してからも、 「どうなったろう、あの子たち、大丈夫かな?」と気になってなかなか寝つけなかったものです。 きっとこの本を読んだ子供達も、一つ話を読んでもらう度に、 「オポッサムがどんな風になるのだろう。クララとお父さんのマークは、どうするのだろう。」と1日中、その事ばかり気になって、明日が来るのをわくわくしながら待っているだろう。 「いまになにか起こる、きっと起こると思いながらどきどきしていた」クララの ように。そして、いつか、眼を輝かせて物語の冒険に聞き入った子供達は、心の中で、こう思っているかもしれません。 「大きくなったら、私のヴァン・ゴッホ・カフェを探しに行こう。」 一つ一つのエピソードの、どれもが心暖まる話でしたが、老スターの訪ねて くる話が、特に良かったです。あなたも、それぞれのお気に入りを、どうぞ探してみてください。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ヴァン・ゴッホ・カフェ [ シンシア・ライラント ]楽天ブックス
November 14, 2014
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ルチアさん高楼 方子『もうずいぶん昔のことです。』で始まる物語は、いつの事とも、どこの国とも限定していないお屋敷に住む二人の娘スゥとルウルウが主人公である。 出久根育さんの描く人物は、いつも、まっすぐ前を向いていない。体はここに在りながら、心は別の所を見ている。そんな人の目をしている。 たそがれ屋敷と呼ばれる一軒家に住むスゥとルウルウも、 やっぱりそんな人達の仲間。とはいえ、奥さまと、 非常に分かりやすいネーミングのふたりのお手伝いさん、 エルダ(Elder)さんとヤンガ(Younger)さんとの二人暮らしは、特に逃げ出したいほど 嫌というわけじゃない。ただ二人は、時折父が持って帰ってくる水色の玉に、 訳もなく惹かれていた。 そんな時三番目のお手伝いさんとしてやってきたルチアさんに、同じ輝きを見つけてしまった事から、平凡な日々に動きが生じる。 外国暮らしの父に対して、ルチアさんは隣町から通ってくる。だから玉の輝き は場所に拠るものではない。じゃあ一体、何なのか? ヒントはこれかもしれない。 屋敷の人々は、ルチアさんの前では、「昔ああしたかったのよ。」「本当はこうしたいのよ。」と 夢を語る。いつも心をどこかに忘れてきたような眼差しで、遠くを見ている奥様までも。 大人達ならば、大抵見当のつく答えを求めて、二人の姉妹は初めての町に出かけてゆく。 お人よしの二人は、ルチアさんの娘ボビーに手玉に取られてしまうが、それでもやっぱり 冒険は楽しくて、わくわくして。 後半姉妹の行く末は、『ナルニア国物語』の『さいごの戦い』を 思わせる。『ライオンと魔女』でアスランを裏切ったエドマンドが、最後までアスランを信じ続ける一方で、模範的少女だったスーザンは、「ナルニア」の事を単なる遊びとしか捉えなくなる。同じきょうだいでも袂を分かったペペンシーきょうだい同様、スウとルゥルゥも別の人生を歩む。 かつて同じ玉を求めた仲なのに、もう二人の見ているものは同じじゃない。 けれど最後にもう一つ話を付け加えた事で、子供時代の終わりというありきたりの寂寥から、この物語は救われる。 いくつになっても、外見がどんなに変わっても、人は心に輝くものを 持つことができる。そんなメッセージを感じたが、他の読者は水色の玉から何を受けとったのだろうか。読む人によっていろいろに感じ取る事のできる作品だと思う。 ルチアさんぐるぐる王国 楽天市場店
October 28, 2014
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みなさん、こんばんは。未だ風邪を引きずっています。今朝の『花子とアン』の茂木健一郎さんの出演にはなんだか困惑してしまいました。だってまるっきり台詞をしゃべってるんですもの。彼の出演を決めた理由って何だったんでしょう?売れていれば何でもいいのかな?残念でした。さて、こちらは喪失感を抱えた少女の物語です。かなしみの場所 大島真寿美 離婚して実家にもどり、雑貨をつくりながら静かな生活をおくる果那。彼女は、夫と別れるきっかけとなったある出来事のせいで、自分の家では眠れないのに、なぜか雑貨の卸し先「梅屋」の奥の小部屋では熟睡することができる。梅屋で働くみなみちゃん、どこか浮世離れした両親、賑やかな親戚、そしてずっと昔、私を誘拐したらしい「天使のおじさん」。夫の失踪を若者が伝えに来た事から、果那は自分の失われた過去へと向かう。 『チョコリエッタ』『水の繭』と同じく、喪失感を抱いた人々が、再生に向かう様を描いた作品。上記二作品の主人公が喪失を自覚していたのに対し、本書のみなみと果那は、他者によって自分の喪失を知らされる点が異なる。 1.最も知っている自分という存在に欠落した部分がある事を知り 2.更に自分より先に第三者が知っていた事 で二重にショックを受け、アイデンティティがぐらつく。みなみの抱く「私の知らされていないところにまだ何があるんだろうっていう畏れ」は、やがて「確かなものなんて、あるのか」という現実社会全てへの不安へと繋がる。 果那の抱える喪失は、ある家族の抱える喪失とも密接に繋がっていた事が中盤で明かされる。彼女が喪失から再生に向かうきっかけを与えるのは、自らも同じ道程を辿った或る人物。自分の行動を後悔しながらも、「きみをさらったからこそ、新しい道に抜けられたのかもしれない。」と言う彼に後を押されるように、果那もまた、「自分がしっくりくる ぴたっと嵌る」場所を見つける。この辺の展開が、誘拐された過去を持つ主人公、その事実が、川原由美子の『観用少女』の一挿話『嵐』と似ている。さまざまなひとの、さまざまな人生が、ドラマティックにではなく、ゆっくりと描かれてゆく。 変わり者と言われながらも、人の心の機微に詳しい果那の父、喪失を知っても前へ進んでゆくみなみのキャラクターが印象深い。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】かなしみの場所 [ 大島真寿美 ]楽天ブックス
September 25, 2014
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みなさん、こんばんは。すっかり風邪をひいてしまいあひる声になってしまいました。気持ち悪い。でも仕事は行ってきました。今日行けばあと半分です。今日は日本の作家、梨木香歩さんの作品を紹介します。丹生都比売梨木香歩作品集11才の草壁皇子。父は現天皇天智帝の弟、大海人皇子。母は天智帝の娘で大海人皇子の姪でもある讃良皇女。大海人皇子は、兄が息子の大友皇子に帝位を継がせたいのを察し、僧形となり妻子を連れて吉野に逃れた。そして今、天智帝の死を迎え、時代は動こうとしていた。 何なんだろう、この静かな佇まいは。これが著者の文章から受ける印象でした。 オープニングとエンディングが殯になっているこの物語は、底辺に死というテーマが流れ続けているように感じます。パイプオルガンで最低音をずっと弾き続けている様子を想像してみて下さい。 マザーグースの一節を思い出しました。 「お父さんが私を殺した お母さんが私を食べてる」 自分の死をも客観的に見る「私」こそ、草壁皇子であるように思います。 「私を食べるおかあさん」は讃良皇女。彼女は予言を聞き、夫を鼓舞するシェイクスピアのレイディ・マクベスのようです。ただし本家よりずっとタフで、いざ事を成した後でも「この血は大海の水をもってしても洗い流せない」と錯乱することはありません。 草壁皇子は、このパワフルな両親から生まれたとはとても思えません。むしろ彼等とは対極にいる存在です。俗に対する聖というわかりやすい描かれ方をしています。 「おとうさまやおかあさまは忠誠を存分に身に受けて少しも怯む事なく光り輝いて見える。」と思いつつも、「自分にもそれができる」とは言わない草壁。誰よりも彼自身が、親達と決定的に違う事に気づいています。燕の宮殿で親に見捨てられる雛が誰であるかということも。 草壁は、周りが見ていない事に気づく少年です。 自分に神が降りてこない父の焦り、権勢を得るための母の過去の行為。いいかえればそれは、弱みがないように見える彼等のウィークポイント。それこそ、彼等もやっぱり普通の人間だったのだという証拠。最も強い人の弱みを、最も弱い立場にある人が知ることになるという皮肉。これが後半の草壁の運命への伏線といえるでしょう。 なぜ彼は従容と自分の運命を受け入れられたのだろう。彼より先に生まれ、やはり政変の中で死を遂げた有馬皇子、大津皇子。彼等と草壁とを比べると、よけいにその疑問は広がるばかり。逃れる術はいくらでもあったように思うからです。親の犯した罪を償う意志が彼にあったのか。それとも、汚れたこの世に、彼の居場所はなかったのかもしれません。丹生都比売 梨木香歩作品集 [ 梨木香歩 ]楽天で購入
September 24, 2014
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みなさん、こんにちは。GWも終わり穏やかな天気が続きますね。今日は外国の画家の一連の絵にインスパイアされて書かれた童話を紹介します。【楽天ブックスなら送料無料】ニコルの塔 [ 小森香折 ]楽天ブックスニコルの塔小森香折 ニコルは寄宿舎と授業塔を往復する、単調だけど静かな生活を送っていた。ある日ニコルは修道院長から特別な授業を受ける12人に選ばれ、塔で『地球のマントを織る』刺繍をするよう命じられる。だがニコルは気づいてしまった。「ここは何かがおかしい、わたしはニコルではない…」。 異を唱えた女子学生がいつの間にか姿を消し、ニコル以外誰もその記憶を持たない。また“オトコノコ”という概念自体がこの世界にはない、等々。恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』を彷彿とさせる陸の孤島のような修道院で、老婆やシダでできた猫の力を借りてヒロインが謎の解明に向かってゆく。 但し単なるミステリと異なるのは、冒頭の文章「あたたかな繭。このまま、ここにじっとしていたい。」にもみられるように、ニコル自身がこの世界を好ましいと思っている部分があることだ。塔のある世界での謎が解けた時にもう一つの物語の幕が開く展開には唸る。“少女が外界に出るには少年の力が必要である”という点や修道院の教えが「すべてを受けいれよ。疑問をいだくのをやめよ。考えるよりしたがうことが、わたしたちのつとめ。」という管理社会を想わせるものであるため、ニコルの脱出が単なる異世界からの脱出以上の意味を持っているようにも思える。猫の名前がサルヴァドール(ダリからの命名か?)であったり、この作品自体がレメディオス・バロの3つの絵にインスパイアされたものであったりと絵画と関係が深い内容である。『塔に向かう』は修道女と女子学生が奇妙な自転車に乗りながら塔から出てくる絵。『大地のマントを刺繍する』は塔の上で修道女が見守る中で女子学生が刺繍をする絵。『逃走』は修道院の服を来た少女と少年が二人きりで舟に乗って逃走する絵。バロが好んで題材とするのは塔や湖、森の奥などもともと童話的な世界であり、その中に機械や自転車など近代的なものが描かれているのが特徴。もしこの作品を読んで気になるようでしたらオリジナルの絵もぜひご覧を。ヒエロニムス・ボッシュの影響を受けている彼女の絵は決して可愛くはないですが印象に残る。
May 9, 2014
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みなさん、こんばんは。子供達のスポーツでやっている事が、仕事に通じるって考えたことありますか?サッカーボーイズ 再会のグラウンドはらだみずき角川文庫 ジュニアサッカーチームで、当然キャプテンにもレギュラーにもなれると思っていた遼介。しかしそのどちらも叶わず、失意のもとにいた彼の前に「サッカーを楽しもう」と言う新監督・木藤が現れる。 「ああ、少年サッカーの話か」と思ってしまうと見ずに済ませる人もいるかもしれないが、こんなシチュエーションは、会社でもあり得る。望むポジションが意外な人物の異動によって奪われたり、ふと視点を変えて見ることで、仕事が面白くなったり。「なりたい自分」と「今の自分」の間で悩んだり。つまりは舞台が違うだけのこと。 メインキャラは遼介と木暮&峰岸といえるが、その他の登場人物への描写も行き届いている。しかし逆に、物語が散漫になってしまった印象も受ける。例えば、同じスポーツ小説でも佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』ならば、もっとメインキャラクターの部分を掘り下げていたなと思う。まあ、こうした感想は、「群像劇が好き」「主人公を絞って描いた物語がいい」など、読者の好みによっても変わるのだろう。【中古】 サッカーボーイズ(1) 再会のグラウンド 角川文庫/はらだみずき【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 21, 2013
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みなさん、こんばんは。宇野亜喜良さんの描く女性は不思議です。視線があっているのか定かでない。そんな宇野亜喜良さんと江國香織さんが組んだ絵本を紹介します。あかるい箱江國香織 作宇野亜喜良 絵 宇野亜喜良さんの絵と最初に出逢ったのは、高田桂子さんの「メリーメリーを追いかけて」だった。心の底から笑っている絵ではなかった。どこか哀し気。あるいは、目がどこを向いているのかさえ、わからない。一度見たら忘れられない顔だった。その顔に、何年ぶりかで再会した。『私』は引越しをする。新しい町、新しいマンション、新しい学校との出逢いがあるが、「一番自分にとって大切なのは、島本陶太くんからの手紙」と言い切る。江國作品によく登場する恋に一途なヒロインだ。ずっと手紙を待ち続ける彼女は、恋人を待っているリリコと出逢う。二人は、どこにいるかわからない“あの人”を待って、周囲と全く馴染まず放浪する「神様のボート」の葉子の原型のようだ。彼女達の想像図で、時折南国風やイタリアのカーニバル風の明るい色彩の楽しい絵柄が時折登場するが、対照的に、相手を待ち続ける孤独への想いと、深くなり過ぎた相手への想いを吐き出す事を繰り返す彼女達の瞳は、どこかうつろで哀しげだった。92年に刊行された絵本に絵を追加して、新装増補版で復刊。江國香織作品抱擁、あるいはライスには塩を【中古】 あかるい箱 /江國香織(著者),宇野亜喜良(その他) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 14, 2013
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みなさん、こんばんは。みなさんには兄弟がいますか?長男や長女は「おねーちゃんだから/おにーちゃんだから」我慢して、と言われたことがあるのでは?この小説にも上の子ならではの鬱屈が出てきます。ひなのころ粕谷知世中央公論文庫 大人なんて本当に勝手だ。子供の頃は、大人を気づかって言いたい事を言わずにいれば、 「手がかからなくていい」なんて思っていたくせに。高校生になってから、「あんたはほんとに、いっつもそう。何がしたいとか、どうしたいとか、ぜんぜん言わない。(p188)」なんて言われても、そう簡単に性格なんて変えられない。こんな思い、下にきょうだいのいる「長男」「長女」ならば、一度ならず体験したのでは? 本書は、そんな「長女」のひとり、風美が主人公だ。彼女は、病弱な弟、彼に手をかけがちな両親、言葉のきつい祖母と暮らす。物語は、「四歳の春」「十一歳の夏」「十五歳の秋」「十七歳の冬」と季節の流れと風美の成長を絡ませて進行する。ファンタジーは、現実を忘れさせてくれる逃げ場ではなく、側にあって、辛い気持ちをそっとくるむ、毛布みたいな存在に。新潮社の日本ファンタジーノベル大賞(第13回)受賞者ということで、もっとファンタジー色が強いものを想像していたが、意外に現実色が強かった。ちなみに、この時優秀賞を受賞したのは、『しゃばけ』シリーズの畠中恵さんだ。四つの箱が一本道に離れておいてある表紙イラストは、早川司寿乃氏が担当。帯の下にも、是非ご注目を。【中古】 ひなのころ 中公文庫/粕谷知世【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
October 7, 2012
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人形と少女の交流を綴った文庫本です。【送料無料】りかさん楽天ブックス『りかさん』 梨木 香歩 / 新潮社小椋冬美さんの漫画『Mickey』には、人形から転じた妖精シンシアが登場します。ラブコメディなので主な役どころは、はなはだ頼りない恋のキューピッドでしたが、もう一つ、彼女は大切な役目を果たしていました。「男の子みたいで恋なんか似合わない」と周囲から見られていたミッキ-の内面を誰よりも敏感に察し、時には不平不満を聞いてくれる一番の親友だったのです。だから、見かけに惑わされないグレイの登場により、彼女は役目を終えて眠りにつくのです。シンシアがミッキ-にしていた事は、本作で、ようこのおばあちゃん-麻子が言う「生きている人間の強すぎる気持ちをとことん整理してあげる」人形の役割そのものです。また、日本で古来から雛祭りと同時に行われる雛流しでは、人の代わりに人形を流すことで、罪や汚れを洗い流し、無病息災を祈ってきました。「養子冠の巻」「アビゲイルの巻」に登場する人形が抱える屈託は、人形に関わった人間の過去や感情と深く結びついています。大人の女の人が抱くと、その深層心理の底の底にある般若まで引っ張り出すりかさんは、少し恐く感じました。読んでいくうちに、私は、この人形達の為して来た事/為すべき事は、そのまま人間にも当てはめられるのではないかと思いました。濁った感情を吐露もできず、また昇華もできずにいた人に会った時、吸い取り紙のように感情の濁りの部分だけ吸い取っていくのは、人間にもできます。「相手の生気まで吸い取りすぎたり、濁りの部分だけ相手に残して、どうしようもない根性悪にしてしまう」のは、人生の修練を積んでない人間が、うまく対処できなかった場合でしょう。そして正しく大事に扱われて来た人間は、とても気立てがいい人になるでしょう。麻子が「ようこは媒染剤みたいな人になる」と言ったのは、つまりはりかさんのような人を示唆しています。そして文庫版書き下ろし「ミケルの庭」で、大きくなった蓉子は「暖かさに満ちて力強い まるでその上から何世代もの女たちの手がふわりと重なっているかのように」ある人を抱きしめ、その苦痛を取り去ります。りかさんの役割を、見事に果たしているわけです。かつて自分を襲おうとした、桜の老木に対しても、優しい心を持ち続けたようこが、確かにそこにいました。自分勝手な人が増えたと言われます。自分の言いたい事だけ言い、やりたい事だけやっていればいい。でもそれでは、望みがぶつかって、弾き飛ばされた人の思いはどこへ行くのでしょう。誰かが受け止めなければなりません。もちろん、その人の思いに、無理に全く同調する必要はないのです。基本的スタンスは、梨木さんのエッセイ『春になったら苺を積みに』のボウエン夫人の「理解はできないけど、受け入れる」、まずそこからのスタートなら、できるような気がしませんか。家族の名前やお気に入りの言葉を壁に張ったり、オリジナル表札作りの素材として。木製アルファ...価格:162円(税込、送料別)
June 6, 2012
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『一瞬の風になれ』で直木賞候補になった佐藤多佳子さんの作品です。リフトから下り、コースの入り口に立つ。 ストックを一けり。滑り出す。 どんどんスピードが出る。向い風が、顔にもろに当たる。 ぱしぱし。とっても寒い。でも、風を切るのは気持ちいい。 青春という雪原を滑る時も、やっぱり同じ気持ちになるだろう。 初めて滑る彼等は、ゴーグルやマスクをつけない。無茶をして、と 大人は言う。けれど彼等は聞かない。 たくさん、深い傷跡がつき、その度に涙する。 でも、その代わり、たくさんの心地よさを直に感じる事ができるから、 喜びもひとしおだ。 本書の主人公、みのりと木島も、今雪原を転げ回っている。 けれどみのりは、バスタブに「入らない」のでなく「入れない」のだと言い換えた ように、その雪原から、やがて追い出される事を感じ取っている。 著者はみのりの叔父や木島の憧れの女性・似鳥のストーリーをもっと 盛り込む事を考えたようだが、今回の場合、若い二人に焦点を絞って 正解だったと思う。 誰かを好きになる事は、嬉しさと共に、失う事の恐怖を抱え込む事になる。著者はみのりに「世界の終わりがもう一つ増えてしまった」と言わせているが、この場面に限らず、 この世代の子供達の感情を、よくここまですくい取ってこられたものだ。 そしてすくい取ってきたまっすぐな気持ちを、実に適格に表現している。 「サマータイム」から12年、彼女はとうとう、ここまで来たのか。 初めて主人公のセックスが描かれた事もあり、ずっと見守ってきた読者としては、 感無量である。小説新潮で連載が開始された時にリアルタイムで読み始めたので、 みのりや木島と同じ順序で、互いの事を知ってゆく事ができ、とても幸せな 読み方の出来た作品だった。 黄色い目の魚(さかな) [ 佐藤多佳子 ]ローズサプリ お試し 飲む香水 (飲むバラ) 大容量 ローズサプリメント 【送料無料】 ¥1000円 1...価格:1,000円(税込、送料込)
May 26, 2012
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みなさん、こんばんは。子供の頃、自分が何を考えていたか、思い出せますか?この本を読めば、思い出せるかもしれませんよ…。十二歳椰月美智子ポートボール大会で優勝し、大喜びする「さえ」は、十二歳。でも、大喜びする皆の中で、彼女はこんな事を考える。「悔しくて流れる自分達の涙と、嬉しくて流れる相手チームの涙は同じ味なのか?」もし同い年の子供が読んだら、あれれ、と違和感を感じるかもしれない。十二歳って、まだ目の前の勝利に酔いしれるのに精一杯で、あれこれ分析する暇などないんじゃない?と。 著者デビュー作である本作は、「大人が考えて書いた子供」が、「本当に子供が考えているように見える子供」と、まだうまく同居しきれてないように見える。そうはいっても、おそらく大方の読者は大人だろうから、ささいな違和感にとらわれずとも良いかもしれない。 それよりも、本書に登場する様々な出来事を、「あの頃の自分って、何を考えていたっけ」と、自らの十二歳という季節を回想するフックとして楽しんでみて欲しい。「好きなことときらいなことがはっきりと分かれて」いない現実を、しばし忘れて。第42回講談社児童文学新人賞受賞作。【はじめての方限定!一冊無料クーポンもれなくプレゼント】十二歳【電子書籍】[ 椰月美智子 ]楽天Kobo電子書籍ストア
August 21, 2011
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児童書とティーン小説の間くらいに位置する話だと思うのですが、梨木香歩さんのファンタジー『マジョモリ』を紹介します。つばきは、「まじょもり」の住人ハナさんから、正式な招待状をもらいます。不思議な蔓に誘われて、勢いつければ、もうここは、向こう側の世界。 神の世界と、人間の世界。緑深き世界と、色とりどりの世界。 静寂と人の声。異世界は、こんなに私達の近くにあったのです。 「からくりからくさ」で庭の草を食卓に載せたように、ここでもノギクやサクラのお茶が登場します。そして、「西の魔女が死んだ」「エンジェルエンジェルエンジェル」「りかさん」など一連の梨木作品に登場した祖母と孫に代わり、今回は母と娘の関係が主になります。でも、このお母さん、「りかさん」のようこのお母さんとは ちょっとタイプが違うようです。なにしろ「まじょもりに招待された」というつばきの言葉をすんなり受け入れ、 言われるままに、ジャムや生クリームを持たせるのですから。 「まじょもりにいきたーい」 と泣きじゃくる彼女は、少女の部分を持っています。だからこそ、招待状がきたのでしょう。 異口同音をやってしまうから、似ている所も勿論ある。けれど、全く同じでないから、反発もある二人の少女。 ハナさんが、御神撰に生クリームをつけて食べる。あちこちにある、異なる2つの存在が、一緒になる。まじょもりは、そんな不思議な空間です。 早川司寿乃さんが挿絵を担当した理論社の梨木香歩の絵本シリーズ第三弾は、淡い緑を基調とした、目にも心にも優しい色調。その中に、とっても可愛い二人の少女。詳しく見ていくと、いろいろな不思議が見つかる挿絵は、手元において時折眺めてみたくなりそうです。【送料無料】マジョモリ楽天ブックス
July 26, 2011
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