グランド・ブルテーシュ奇譚 (光文社古典新訳文庫) La Grande Breteche オノレ・ド・バルザック
「グランド・ブルテーシュ奇譚La Grande Breteche」 医師ビアンションがヴァンドームの町を歩いていると、荒れ果てた館が見えてきたので、つい入ってしまう。すると公証人に呼び止められる。屋敷は伯爵家のもので夫の死後、伯爵夫人は「自分が死亡した日から数えて50年間は死んだときの状態のまま屋敷を保存しておくこと」という不可思議な遺言を残して孤独に死んだという。興味を惹かれたビアンションが館の管理を任された公証人ルニョー、ビアンションの泊る宿屋の女将、館の元女中ロザリーと、語り手を変えて館の謎に迫ってゆく。ちなみにこの真相については、塩野七生『イタリアからの手紙』にやはり同様のシチュエーションで同様のリベンジをしてやられたケースがあった。やはり「生きながら」その行為に踏み切るという所に、行為者の静かな怒りが見える。本編でも一切表情に表さず、命令する時は断固として振る舞い、聞くべきポイントは最小限という夫の人物像が印象的だ。