全733件 (733件中 201-250件目)
< 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ... 15 >
みなさんこんばんは。紀子さまのお父さんが亡くなりましたね。そういえば具合悪くて見舞いに行ってましたね。今日はモテまくる殺し屋が主人公のフィルムノワールを紹介します老いた殺し屋の祈りマルコマルターニ訳飯田亮介ハーパーコリンズ・ジャパン 組織のためどんな非道な事もしてきた最強の殺し屋オルソが、たった一度堅気に戻ろうとしたのは、天使のようなアマルに出会い娘グレタをもうけた時だった。しかしオルソに執着するボスのロッソ(フランス人なのにこの名前か)が、「おめえ、堅気になったら妻と娘がどうなるかわかってんだろうな」(ありがちだ)と、やや嫉妬めいた脅しをかけたため、二人の前から姿を消す。ところが還暦を過ぎて心臓発作を起こしたオルソは、再び妻子への思い捨てがたく、一目会いたいと願うが。 妻子といっても随分離れているため、とてもじゃないがオルソを待っているとは考えられない。それどころか、彼が向かうことで二人に危険が及ぶかもしれないのはわかりきっているのに、命のリミットが目の前に来た途端殺し屋の理性が吹っ飛んでしまった。もちろんその道行がスムーズにいくわけもなく、次々とオルソの前には殺し屋やトラブルが。有名な彼を殺して名を挙げたい男たちが現れるのは、これまでのオルソの業でもある。オトシマエを付けないと前には進めないのだ。とはいいつつ、辛く苦しい事ばかりではない。還暦を過ぎているというのに、オルソは幅広い年齢層の男女にモテまくる。件のボスは何だかんだ言ってオルソを裏切らないし、妻子一筋のはずなのに、据え膳は食い、濃厚ベッドシーンを披露(心臓に悪くないのか+笑)。 還暦越えてもこんないい事があるかも?という夢の話かと思いきや、やはりブーメランのように戻ってくるのは自分自身のオトシマエ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』を監督したルッソ兄弟の映画製作会社が映画化権を購入。さて、かっこよすぎるモテ男の還暦殺し屋は誰が演じる?老いた殺し屋の祈り (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H149) [ マルコ・マルターニ ]楽天ブックス
November 6, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。小池百合子都知事が過度の疲労で入院だそうですよ。今日もカリン・スローター作品を紹介します。開かれた瞳孔 BlindsightedハーパーBOOKS カリン・スローター 小さな町のレストランのトイレで、大学教授の女性が腹部を十字に切り裂かれて殺害された。偶然にも第一発見者となった検死官サラは、迷いのない切創と異様な暴行の痕に戦慄を覚える。しかも犯人は被害者の習慣を熟知した人物。ならばこの町に暮らす顔見知りに違いない。捜査が難航するなか、第二の事件が発生。犯人の影はサラに忍び寄っていた。 体だけでなく心に負った傷を抱えながら、サラやレナなど女性たちは懸命に任務を務めようとするが、サラの元夫ジェフリーやレナの叔父ハンクは、彼女達を支えようとするものの、女性や薬に逃げる。男たちが持つレイシズムやマチズムに女性達が苦しめられる構図だ。女性達が戦う相手は事件のトラウマといった個人的なものに留まらず、女性らしさを押し付けようとする社会である。 ウィル・トレントシリーズのヒロインかつ本シリーズの主人公サラと後々までいがみあうジェフリーの部下レナとの言い合いシーンが随所にみられる。本質的にこの二人は合わないことがよくわかる。更にサラにとっては、愛情を残しつつも復縁に踏み切れない元夫ジェフリーが、レナにとってはいろいろと問題がある自分を引き立ててくれる理想の上司でもあることから、二人の感情の縺れは更に複雑になり、後のジェフリーの死後まで引きずっていく。 カリン・スローター作品は女性が容赦なく酷い目にあう事件が扱われる。主人公も例外ではなく、過酷な出来事は主人公が乗り越える試練として物語上は扱われる。描写や被害が痛ましいと常々感じていたが、実は第一作から続いていた。「あまりにグロすぎる」と思った読者はここでリタイアしただろう。リトマス試験紙のような第一作だ。開かれた瞳孔 (ハーパーBOOKS 131) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
October 29, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。長らくドイツを率いてきたメルケル首相が政界を去りますね。さて今日から二日間、カリン・スローター作品を紹介します。スクリームThe Silent Wifeカリン・スローター訳鈴木美朋ハーパーコリンズ・ジャパン ウィルにもサラにもかつて人生のパートナーがいた。ウィルには同じ傷をなめ合うようにして一緒になったアンジー、サラには声望の高い前グラント郡警察署長ジェフリー。ましてや後者は亡くなっているので、正に“死んだ恋人には勝てない”パターンだ。かてて加えてウィルには虐待の過去などいろいろ厄介な問題もある。それでも著者の「ウィルにジェフリーを乗り越えさせたい」思いは強かったらしく本作で挑戦している。 刑務所内の暴動中に起きた殺人事件の捜査にあたるウィルは、服役中の男から犯人を教える代わりに8年前の連続殺人事件を再捜査するよう取引を持ちかけられる。不正捜査によって男を逮捕したという人物は、ウィルもよく知る人物だった。時を置かず当時と同じ異様な手口で傷つけられた女性の遺体が発見され。本シリーズに限らず『羊たちの沈黙』でクラリスがハンニバル博士に聞きに行くように、容疑者の所に刑事が訪ねていくパターンが最近多い。そして大抵、聞きにいく当の相手も一癖も二癖もある相手なので一筋縄ではいかない。今回も衝撃の事実を提示される。ウィルにとっては恋敵の―それも反論できない―旧悪を暴くことになるので複雑な心境だ。それでなくてもサラとのコミュニケーションは、サラがかなり譲歩して成り立っているだけに、秘密を抱えたウィルとの仲はぎくしゃく。なるほど高いハードルだ。 メインの事件は相変わらず陰惨で必ず女性が酷い目に遭う。それほどの残虐性を持っている男性が多いわけではないが、心身ともに傷つけられた女性の哀しみは深い。リアルタイムではなかなか被害者が声をあげることが少なく詳細も見えてこない。フィクションという形で犯罪の惨さを伝えるのもまた、凶悪犯罪を防ぐ一助となろう。スクリーム (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H156) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
October 28, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。もう“様”をつけなくていい小室夫婦の会見ですね。でも質問NGNGなんですって。ならやらなきゃいいのに。今日はチェスタトンの短編集を紹介します。裏切りの塔The Tower of Treason and Other StoriesG・K・チェスタトン創元推理文庫イギリスで教育を受けたアイルランド人の大地主ヴェインの土地には、人を食う樹としておそれられる三又の樹があった。庭師は不吉な樹だから切ってしまうよう進言するが、ヴェインは迷信だと言ってはねのける。彼に招かれたイタリアに住むアメリカ人批評家シブリアン・ペインター氏は、アフリカの話として樹に関する伝説を披露。地元民の迷信に悩まされたヴェインは、樹に上る賭けをする。ところがヴェインの姿が何日経っても現れず、あろうことか…。 すわホラーもの?と思わせて人間消失ミステリになっている『高慢の樹』。しかし著者が本当に言いたかったことは、人間の矛盾に満ちた思考である。「あなた方は自分の合理主義にしがみつく。そしてあなた方の合理主義とは、何千という人間が真だと思った故に、そのことは虚偽に違いない―多くの人間の眼が見た故に、それが存在するはずはないというものだったのです」薔薇が好きな医師夫人が謎の死を遂げる。話し相手として雇われた女性にある男性が言う「中へ入る前に、外のことを憶えておいてくれ。僕のことじゃなく、君のことをだ。雲一つない空と、あらゆる平凡な美徳と、風のように澄んだ強いものをだ。信じてくれ。結局はそういうものが現実なんだ。この呪われた家にかかっている雲よりも現実なんだ。それにしがみついていてくれ。神様の風と洗い流す川が実在するんだと自分に言い聞かせてくれ。少なくとも、この部屋の中にある物と同じくらい実在するんだとね」というセリフが清涼剤だった『煙の庭 』決闘で息子が死んだと聞いてやってくる父親に、スコットランドヤードの警部が真相を明かす『剣の五 』えっ探偵が真相を明かさずに亡くなる?そんなのあり?の架空の国トランシルヴァニアの事件を扱った『裏切りの塔The Tower of Treason 』ファンタジーを信じる姉と超現実主義者の弟のために後見人の公爵が呼び寄せた相手とは?本編中唯一の戯曲で殺人事件が起こらない『魔術 Magic』 原題は『The man Who Know Too Much And Other Stories』で、『知りすぎた男』の訳書から漏れた「Other Stories」を一冊に纏めた。裏切りの塔 G・K・チェスタトン作品集 (創元推理文庫) [ G・K・チェスタトン ]楽天ブックス
October 26, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。人間国宝の落語家・柳家小三治さんが、心不全のために亡くなられたとか。今日もダナ・タート作品を紹介します。シークレット・ヒストリー〈下〉 (扶桑社ミステリー)The Secret Historyドナ・タート吉浦 澄子 訳 バニーを殺害したヘンリーたち5人は、アリバイをつくるため奔走する。4月にしてはめずらしい大雪のおかげでバニーの死体はなかなか発見されない。音信が途絶えた息子の身を案じたバニーの父親は、彼を捜し出した者に5万ドルの礼金を支払うと新聞に告知した。警察、FBI、マスコミをはじめ、ハンプデンの町中がバニー捜しに躍起になる。一方、バニーを殺したという罪悪感からヘンリーたちの精神は蝕まれ、固い絆で結ばれていたはずの友情はもろくも崩れていく。 上巻はシダを餌にバニーを誘い込む場面で終わっており、決定的なその行為については意図的に飛ばされている。誰が何をどのように分担したのかは、その後の彼らの反応によって明かされる。酒に溺れたり、友人たちの間で疑心暗鬼に駆られたり、邪魔者を排除して楽園を形成したはずなのに、彼らは地獄にはまり込んだ。ならば地獄から救い出してくれるのは、頼れる大人しかいない。ところが、神のように崇め彼の言葉を信じてギリシャ風の祭りまで行ったのに、あっけなく教授に逃げられてしまう。ある程度年齢のいった読者ならば、ジュリアンの薄っぺらさに気づいていたろうが、ただでさえ他の学生から隔てられ、まるで自分たちが特権階級のようにふるまっていたメンバーは、意外に脆かった。 それにしても彼らが思い悩むのは、あくまでバニーの死であって、彼の死を招くことになった第一の死については一切苦しんでいないようなのが、スノッブな彼ららしい。【中古】文庫 ≪英米文学≫ シークレット・ヒストリー(下) 【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
October 24, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。上皇后さま87歳だそうです。孫の結婚に頭が痛いでしょうね。今日はドナ・タートのミステリを紹介します。シークレット・ヒストリー〈上〉 (扶桑社ミステリー)The Secret Historyドナ・タート吉浦 澄子 訳冒頭、バニーという彼らの友人が死んだこと、その死には語り手たる主人公も関わっていることが明かされる。「これから物語るのは私の狂気の歴史だ」と語るのはリチャード・パーペン。現在二十八歳で、ガソリンスタンドを経営する父と専業主婦との間に生まれたリチャードが、バニーたち五人と知り合ったのは、ハンプテン・カレッジの古代ギリシア語を学ぶジュリアン・モロー教授のクラスだった。既に関係が出来上がっている中に、ヘンリーが実家がセントルイスの大金持ち、バニーは銀行副頭取の息子、フランシスが名家の出身だったため、奨学生のリチャードは臆するが、次第に彼らの仲間として迎え入れられるようになる。 語学の天才でリーダー格のヘンリー、同性愛者のフランシス、双子の妹で紅一点のカミラ、最初からリチャードに優しかったチャーリー。こう書いてきた中で、やはり仲間内には鬼っ子が必要だ。ストーリーのアクセントになるのがバニー。ある事を知ってから、バニーの仲間たちへの態度がガラリと変わり、仲間たちにとっては恐怖の的となる。決して根っからの悪人ではなく、限度を知らないで甘えてしまった事が悪意を生むことになってしまうバニーのキャラクターの匙加減が絶妙。彼らのティーンという年頃も相まって、クローズド・サークルのメンバーの思考は一つの方向に向かってゆく。 冒頭で“死んだ”と言われるバニーが、リチャード達を含める仲間たちの厄介者となっていく過程が描かれ、さぁいよいよ、というところで下巻に。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】文庫 ≪英米文学≫ シークレット・ヒストリー(下) 【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
October 23, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。第18回ショパン国際ピアノコンクールで反田恭平さんが2位、小林愛実さんが4位入賞という快挙です。今日はスノーボーダーが主人公のミステリを紹介します。寒慄【かんりつ】Shiverアリー・レナルズ訳国弘喜美代ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス ハヤカワ・ポケット・ミステリの表紙デザインは秀逸なものが多い。今回もまるで白銀の大地に描かれるシュプールのように白を背景に赤文字で原題が描かれ、その後ろに小さくボーダーが見える。 寒慄という言葉はてっきり造語かと思っていたら「ふるえおののくこと。ぞっとすること」と意味が載っていた。戦慄という言葉でもいいのに、わざわざ「寒」の文字を加えたということは、更なる寒さがその震えや恐怖に加わるということだ。 かつてのボーダー仲間が縁の場所に、仲間の名前を借りたメールで10年ぶりに招集される。以前と違うのは二人メンバーが欠けていることだ。一人はケガでボーダーをやめ、もう一人は訳ありだ。ところが集まってみると送り主に心当たりはない。ケーブルで宿泊所に向かった後、従業員たちの姿は見ないのに夕食は用意されている。やがて彼等にミッションが与えられる。どうやら過去の事件を掘り起こす狙いがあるようで…。 外は雪、ゴンドラは動かせない、一人ボーダーじゃない人がいて全員脱出は難しい等陸の孤島設定、登場人物達全てが訳あり、時間を追う事に彼等の秘密が明らかになっていく過程はアガサ・クリスティ―の『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせる。さっさと外界と連絡を取って救助に来てもらえばいいじゃないかと思うかもしれないが、携帯を取り上げられて外界とも連絡が取れない。そもそも山は電波が繋がりにくい。さあどうする? 窮地に陥った彼等の現在と、10年前が交錯して描かれる。一人称語り手だが、語り手自身が秘密を抱えているので、いわゆる信頼できない語り手である。謎の人物に急かされて10年前の事件を調査するはめになるが、それぞれ本当に真実を明らかにしたいと思っているのかも疑問だ。クローズドサークルの心理戦が展開する。作者もイギリスチームに在籍していたことがあるボーダーなので、登場人物が日本人選手のすごい技について話す場面もある。こういう所は文字の羅列で場面が目に浮かぶボーダーが読むと面白いだろう。寒慄【かんりつ】 (ハヤカワ・ミステリ) [ アリー・レナルズ ]楽天ブックス
October 22, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。今度の選挙で引退する政治家も結構いるんですね。麻生さんはやめないんですかそうですか。今日はミステリを紹介します。囁き男The Whisper Manアレックス・ノース小学館文庫表紙絵は木の間から除く二つの穴。おそらく目と見まごうようにデザインされている。ここから受けるイメージはホラーだ。 愛する妻を突然喪い、幼い息子ジェイクと二人、取り残されたトム。内向的で周囲に馴染めないジェイクの父親として、親子の関係をうまく築くことが出来ずに悩むトムは、心機一転、新たな町に引っ越し、生活をやり直そうと決意する。しかしそこには、20年前に起きた連続児童殺人事件の犯人で、現在は服役中の「囁き男」の影が色濃く残されていた。やがて、当時の事件を彷彿させる事件が起きる。 連続児童殺人事件の捜査を担当し、5人中4人の死体を発見したものの、どうしても5人目が見つからなかったことを20年間悔やんできたピート・ウィリス警部補ら警察の視点も交えながら、トムのパートだけ一人称で綴られる。もちろんそれには理由があり、一人称でトムの心情を描く事が物語のもう一人の登場人物の因縁に繋がる。 ピートは見つからない5人目の手がかりを探して、事件の容疑者として拘留中のフランク・カーターに会いに行くが、利用するのではなく翻弄されている。それにしても、最近作品ではベルナール・ミニエのセルヴァズ警部シリーズといい、容疑者と刑事が刑務所で会って前者が後者を翻弄するパターンが多い。ハンニバルシリーズのレクター博士の人気故か。作品中でジェイクが読んでいるのがダイアナ・ウィン・ジョーンズの『呪われた首輪の物語』。2020年イアン・フレミング・スチール・ダガー賞最終候補作、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の監督・ルッソ兄弟による映画化も進行中。囁き男 [ アレックス・ ノース ]楽天ブックス
October 17, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。嵐・櫻井翔&相葉雅紀が結婚するそうですね。今日もダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品を紹介します。呪われた首環の物語Power of Threeダイアナ・ウィン・ジョーンズ佐竹美保絵野口絵美訳徳間書店 折からのジョーンズブームで、1976年に本国で出版され、ガーディアン賞候補になった作品が日本でも刊行。異なる種族が呪いを解くという共通の目的のために、首輪をあるべき所に戻そうと協力する話。どこかで聞いた事があると思ったら、トールキンの『指輪物語』の指輪が首輪になっただけ。そういえば、ジョーンズはトールキンに師事していたのだから、初期の作品が似通っていても不思議はない。但し、全くのファンタジーではなく、現実の環境問題が入ってくるのはジョーンズのオリジナル。 既存の作品を読んでいたので、ある種の先入観を持って読んでいったが、近作とはかなり違っている。ファンタジーのセオリーにかなり忠実なので、毒気を期待していると肩透かしをくらう。また、ど派手な魔法も出てこず、原始的な呪文が出てくるのみ。《人間》の子オーバンが「よいドリグは死んだドリグだけだ。」と言う。これはアメリカ人の台詞「良いインディアンは死んだインディアンだけだ。」を想起させる。後に『ダークホルムの闇の君』で、あからさまにディズニーを揶揄したキャラクターが出てくるが、本作では現代社会への皮肉という意味で使ったのではないと思う。つまり、この作品、ジョーンズ作品にしては、すこぶる素直なのだ。 とはいえ、彼女の特徴もちゃんと出ている。まず、名前は大地を意味するガイアから取られた のだろう主人公・ゲイアのキャラクター。先見=予言者の姉、遠見や人の心理を動かす能力を持つ弟に挟まれて、目立たない存在である事を恥じていた少年が、物語の鍵を握る存在となってゆく過程で自信を得てゆく物語の骨格は、「クレストマンシー」シリーズに受け継がれている。 また、もう一つ。今回表紙には、沼の底で目だけがこちらを見ている謎の存在のみが描かれていて、人物がない。人物紹介もなかったが、中盤あたりでその謎が解ける。挿絵でも単独で人物を登場させたり、複数の種族を登場させる時には、近景と遠景で配置して、もともとの大きさを認識させないように気を配っており、物語に配慮した挿絵に驚く。異端、はぐれものと人は言うが、それはあくまで言っている側をスタンダードとした時の見方。では、視点を変えてみればどうなのか? この後『グリフィンの年』でもう少し入り組んで伝えられるメッセージ「みんなそれぞれ違っていても、うまくやっていく事はできるよ」が、とっても素直にストレートに打ち出された作品。【中古】 呪われた首環の物語 / ダイアナ・ウィン・ジョーンズ, 佐竹美保, 野口絵美 / 徳間書店 [単行本]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
October 16, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。衆議院解散しましたね。今日から2日間ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品を紹介します。魔法がいっぱい―大魔法使いクレストマンシー外伝Mixed Magicsダイアナ・ウィン・ジョーンズ徳間書店最も美しく、最も恐ろしく、最強。そしてクール。ひと昔前の魔法使いのイメージは、ジョーンズ作品には当てはまらない。何せ、このシリーズ中最強の魔法使いとされるクレストマンシーでさえ、流感にかかって冴えないパジャマ姿で呼び出されるのだから。ジュリアン・サンズ演じる魔法使いと同じ名を持つ「なんでも屋の魔法つかい」もまた最初から、魔力を取られ、次に犯罪で食べていく事を考えるしょぼくれた奴として登場し、早々とこの定説を覆してくれる。盗もうと思った車に乗っていた、こまっしゃくれた少女、図体の大きな犬、果ては車のナビゲーターまでが、魔法使いをコケにする。とんだ車を選んでしまった魔法使いが運命の歯車に散々にいたぶられる物語「妖術使いの運命の車Warlock at the Wheel」をはじめ、「自分の立場をわきまえておらず、ひとところに落ち着いていることができないし、底が知れなくて何をしでかすかわからない」と人間を散々にこき下ろしたあげくに、人間界にやっかいを持ち込む神々の話「見えないドラゴンに聞けThe Sage of Theare」新参者のトニーノ(トニーノの歌う魔法―大魔法使いクレストマンシー)に対して人間並みに焼もちをやくキャット(「魔女と暮らせば」)の冒険を語る「キャットとトニーノと魂泥棒Stealer of Souls」ディズニーに続いて、映画製作者か、映画監督のパロディ?と思われる『夢見師』キャロルの物語「キャロル・オニールの百番目の夢Carol Oneir's Hudreth Dream」収録。とりわけ、「見えないドラゴンに聞け」は、親の方針でギリシア神話を読まされて、嫌で嫌でたまらなかったジョーンズのうっぷん晴らしとも言える神々の皮肉っぽい描写に大笑い。佐竹さんの、どこかデフォルメした挿絵が、普通でないジョーンズ・ワールドにはよく似合う。『中古』魔法がいっぱい—大魔法使いクレストマンシー外伝KSC
October 15, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。上皇さまが2日、誕生からの日数が3万2031日となり、史実がはっきりしている歴代天皇で最長寿だった昭和天皇(1901~89年)の生涯日数と並んだそうですね。今日も韓国小説を紹介します。声をあげます (チョン・セランの本 3)斎藤真理子訳亜紀書房SF小説を書く者なら誰でも一度は扱いたい地球滅亡、或いは管理が徹底した未来社会。チョン・セランの短編集にももちろん前者が登場。地球自ら地球温暖化等で滅びていくパターンと、外敵により滅びていくパターンがあり、後者は派手なドンパチが描ける。さて、チョン・セランが描く地球を滅ぼす相手とは意外で…。『リセット』地球滅亡、今回の場合は何と空から巨大ミミズが降ってきた!ミミズといえば食物連鎖の最下位に位置し、鳥やモグラに食われる運命にあるのに、地球を滅ぼすほどの力があるとはおみそれしました!いや、そもそも土を食うのに人間を滅ぼせるのか?いきなり肉食獣化?にしてはあのビジュアルのまま?さて、そんなミミズはどこからやってきたのか?答えはWEBで、じゃなくて本作で。『七時間め』大絶滅時代を経た近未来のお話。現代の風習のあれこれが、ここではえっらく気持ち悪がられている。そしてウィルス登場。全世界に広がるまでにそれほど長くかかりませんでした。最多の死亡者を出したアジアの独裁国家がWHOに対して発生を隠していたことも状況を悪化させましたおいおいおい。『メダリストのゾンビ時代』オリンピックがコロナ禍で大変な事になっているが、こっちの世界でもゾンビが出没し大変な事に。メダリストを目指す弓ガールだったジュンユンは、ツナ缶を食べながらゾンビ化したかつての恋人スンフンの攻撃を躱している。しかしそれもいつまで続くか。やがてジュンユンの体力が尽きた時現れるのは救済かそれとも。『新・感・染』か『ウォーキング・デッド』。『十一分の一』病気理由で辞表を出したユギョンが、本当の理由を打ち明けたい相手へジョンに書いた書簡体が小説になっている。かつて大学のサークルで紅一点だったユギョンには、憧れの先輩ギジュンがいた。しかし大学院に入った頃にギジュンの癌が再発して学校を辞め、サークルは空中分解する。そして変わり果てたギジュンとサークルの先輩たちに会ったユギョンは…。ベースとなっているのは白鳥に変わった兄を救うために健気な妹エルザが奮闘する童話『エルサと白鳥の王子』。ユギョンも自身をエルザに例えているということは、可愛いという自覚があるということだ。先輩社員がやたらユギョンのタメ口を咎めるのは、日本よりさらに年齢へのこだわりが強い韓国ならでは。本作は、著者が大学生の時に女性部員が全員脱走したサークルに残ってしまった経験がもとになっているらしい。物語もさることながら、女性部員が逃げ出す何をやったのか知りたいぞ男性部員。『 声をあげます』特殊能力を持つ仲間たちと共に収容所に入れられているスンギュンが主人公。彼の武器は声であり、殺人者を目覚めさせてしまうらしい。所長は声帯除去手術を勧めるがスンギョンは拒否。そんな時ヨンソンという新たなメンバーがやってきて彼の決心が揺らぐ。アレクサンドル・ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』にインスパイアされたという。さあどの辺が?と思うかたは是非。『地球ランド革命記』なんだか健康ランドみたいなネーミングだが、れっきとしたテーマパーク。それも惑星全体がというからそのスケールたるや。なぜかというと、オリジナル地球がおっそろしく汚れちまった哀しみだから(そうは書いてない)。そんな第二地球に天使が登場するがトレードマークの羽に問題発生!神の領域の問題を人間が解決できるのか?他『小さな空色の錠剤』『ミッシング・フィンガーとジャンピング・ガールの大冒険』収録。声をあげます/チョンセラン/斎藤真理子【1000円以上送料無料】bookfan 2号店 楽天市場店
October 10, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。「Wの悲劇」の監督・脚本、「麻雀放浪記」の脚本などを手掛けた 澤井信一郎監督もなくなりましたね。今日も韓国小説を紹介します。サハマンションSaha Mansionチョ・ナムジュ斎藤真理子訳筑摩書房 名前は韓国風だが韓国とは特定していない近未来のどこかの国の物語。トギョンが死んでいるスーを置いて逃げる。トギョンの姉ジンギョンはスーパーから戻ってきてニュースでスーが死んだことを知る。トギョンを心配するジンギョンに、サハマンションの管理人が「やめとけ!」と鋭く言う。さあ、一体何が起こったのか? 最初の【姉弟】の章の次【サハマンション】にて物語の世界観が説明される。なぜかいち企業が国家を作ってしまった。その名は「タウン」で各分野に秀でた七人の総理が統治する体制をとっている。一見合議制のようだが議員はおらず、テレビラジオも一本化されて一局のみで新聞は統廃合、休日に三人以上の成人が集まる際は事前に許可が必要、等々事実上の独裁国家の態である。モデルは異なるが、現在じわじわと追い詰められているアジアの島を想起させる。 タウンでは専門技術或いは知識を持ち居住権を持つLと、二年間期間限定で居住権を持ち、引き続き権利を得るために検査を受け続けなければならないL2という国民のランクがある。正規社員と契約・派遣社員のようなものだ。更にその下位にランク付けされているのが、サハという。サハマンションにやってくる人達は皆訳ありだが、サハとは住人だけを指すのではない。誰もが厭がる仕事をこなし、蔑まれ、どう扱われようと、タウンの他の人達は気にもしない種の人々だ。住人たちの何人かの過去が後の章で明かされる。中心人物は【姉弟】の章の取り残された姉ジンギョンだが章の中には【現在】ではない時制も含まれジンギョンが知らない事実もある。 とことんまで虐げられた民衆の反攻に日本の小説よりも断然説得力がある。『82年生まれ、キム・ジヨン』 と同じ作者とは思えないハードボイルドSFだった。サハマンション [ チョ・ナムジュ ]楽天ブックス
October 9, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。「はらぺこあおむし」などの絵本で知られるエリック・カールさんが亡くなりましたね。今日から韓国の小説&映画を紹介します。まずは小説からです。誘拐の日 (ハーパーBOOKS)The Day of Kidnappingチョン・ヘヨンハーパーBOOKS物語は1989年4月24日、病院で妻子を失った男から始まる。「軍事独裁打倒を叫んで街路で火炎瓶を投げたこともある」という記述から、民主化運動真っただ中が青春だったことがわかる。彼は院長に切りつけるはずだったが、はずみで院長が連れていた少女を傷つけてしまう。 ここから物語は2019年に飛び、表紙の冴えないパーカーを着ている男ミョンジュンが、やはり何かを決意した場面で始まる。彼もまた白血病の娘のために病院長の娘を誘拐するところだった。とはいえ小心者の彼が計画を立てたわけではない。娘を生んだのち、あっさり離婚した元妻ヘウンが立案者だ。ところが車で飛び出してきた誘拐相手のロヒを轢いてしまい、ロヒが記憶喪失に(きたよ韓ドラ定番!)。彼女に父親だと宣言して家に連れてくるものの、贅沢になれたロヒは、あれこれ文句を言ってミョンジュンを困らせる。電話だけの指示でヘウンの計画に乗ったり、ロヒに翻弄される描写から、間違いなくミョンジュンはヘタレ主人公設定だ。誘拐犯とはいえ「逃げたら殺すぞ」と脅す風もないことから、彼の人の好さはたとえ記憶喪失でもロヒには駄々洩れだ。ドラマ化決定しているらしいが、おそらくミョンジュンにはイケメン枠を当ててくる。 物語は疑似家族と化していくミョンジュンとロヒの道行と、全ての計画を立てたヘウンの目的が明かされる過程を並行して描く。金持ちにない情が貧乏人にありあまる韓国人情ドラマのようなミステリ。送料無料【中古】誘拐の日 (ハーパーBOOKS)ブックサプライ
October 8, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。ノーベル物理学賞が5日に発表され、日本出身でアメリカ国籍の真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員らが選ばれました。真鍋氏は二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化に影響するという予測モデルを世界に先駆けて発表した人物です。さて今日は蜂視点で書かれたSF小説を紹介します。蜂の物語The Beesラリーン・ポール 早川書房 蜂の世界にも階級がある。もちろんトップは女王蜂だ。働きバチは全て雌で、蜂の社会では雄蜂は巣の中では働き蜂に餌をもらう以外特に何もしない。ただ女王蜂との交尾が終わると雄蜂は速やかに死亡し、新女王蜂はこの死体をぶら下げてしばらく飛翔する。やがて交尾器がちぎれて雄蜂の死体は落下する。童貞脱出の一瞬後は死。これぞ至福のエクスタシー。雄蜂は一瞬に命を賭けて消えていく花火。交尾に成功しなかった雄蜂は生き永らえるかと思いきや、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出される粗大ごみと化して死に絶える。 果樹園の蜂の巣で、最下層の蜂として生を享けたフローラ七一七。女王を崇めて労働を称える教理により厳重に管理される蜂社会で、フローラはほかの蜂とは異なっていた。育児室の世話をし、花蜜を集めることになった彼女は、巣の存続の危機が迫るなか、女王にのみ許される神聖な母性を手にした。卵を産めるのだ。これがどれくらい特別な事かというと、普通働きバチは女王蜂の分泌するフェロモン(女王物質)の作用で卵巣が萎縮するので産めない性となる。要は「あんたはじっこ歩きなさいよ」と言われて心身ともに遠慮するわけだ。ところがフローラは違った。 同じ種類の蜂の中でキャラクター分けをどうするか。作者は摘んでくる蜜に由来して、サルビア族などの名前を付けた。ヒロインはフローラ族。Flora=雑食食いという意味で、極上の花の蜜をとれないから最下位扱いなのだろう。 蜜蜂の実際の生態をもとにして蜂の巣の全体主義的社会を描き、『侍女の物語』になぞらえて評された。「受け入れ、したがい、仕えよ」「われらが母よ、汝は子を産むものなり」等、謎のマントラを唱える所がその理由だ。人間を含めた自然界の脅威が、蜂にとってはこんな風に見えるのか。物語を読むために蜂の身になってあんなことやこんなことをイメージするのは新鮮な読書体験であった。蜂の物語 [ ラリーン・ポール ]楽天ブックス
October 7, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。フランス1部のマルセイユを退団したサッカー日本代表DF長友佑都が、古巣のFC東京に11年ぶりに電撃復帰するそうです。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。これもフレンチが警視になってからの話です。フレンチ油田を掘りあてるFrenchi Strikees OilF・W・クロフツ創元推理文庫井上勇訳邦題では、まるでフレンチ警視が警察をやめて石油成金になって暮らすかのようだ。いや、あの庭仕事が趣味の彼が?ないない。原題は英語の慣用句で「うまい儲け口にありつく」という意味と実際に石油を掘り当てる話とを両方踏まえている。 ロドニー・ヴェールは弁護士として働くはずが、出征して勲章をもらったことから、平凡な日常に物足りなさを覚えていた。常に冒険を追い求めている彼に持ち込まれたのが石油採掘だ。しかし一攫千金の賭けに身を投ずるなら、辺り一帯を買占め、当人たちも別の場所で生活する必要がある。家長でありロドニーの父親サー・リーは合議制で決めようと提案。賛成したのはサー・リーの甥ジョージ、次男のルパート、反対したのは、長男モーリス。中立の立場にいるのが、サー・リーとジョージの妻ポーリン。モーリスは申し分のない長男だが、それだけにお堅い。ルパートは出征したが、弟のロバートより階級が下で、ポーリンに言わせると“一家の黒い羊”らしい。そして数日後、モーリスの死体が踏切で発見。自殺か事故か、はたまた他殺か。 本来警視になっているフレンチが自ら乗り出す事件ではないのだが、副総監が「風邪ひいてるみたいだから転地療養みたいな感じでちょっと行ってくれば?」と言われ、いそいそと出向く。なんていい上司だ。本来倒叙方式なので、先に事件の真相が明かされ、フレンチ警視が後追いするパターン。ところが本編ではモーリスが死んだ事のみが明かされ、読者はフレンチ警視と同様、何か隠しているらしい関係者の秘密を探っていく。フレンチもいつものこつこつ捜査で「この人が犯人では?」という相手を早々に見つけるが、能力、動機、状況証拠があっても決定的な目撃証言がないためラスト直前までもつれる。さて、あなたはフレンチより先に犯人を見つけられるか?
September 28, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。プロ野球、日本ハムでチームメートに暴力をふるい出場停止の処分を受けた中田翔選手が巨人に無償でトレードされましたね。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。ただしこの作品では警視になってますけどね。フレンチ警視最初の事件Silence for the murdererF・W・クロフツ創元推理文庫リデル弁護士はダルシー・ヒースの奇妙な依頼を反芻していた。裕福な老紳士が亡くなり自殺と評決された後に他殺と判明して真相が解明される、そんな推理小説を書きたい。犯人が仕掛けたトリックを考えてくれという依頼だ。何だかおかしい、本当に小説を書くのが目的なのか。リデルはミス・ヒースを調べさせ、ついにはスコットランドヤードのフレンチ警視に自分の憂慮を打ち明ける。サー・ローランド事件の再捜査が始まると、検視審問の評決が覆る。 この話の前に、まずダルシーが熱愛してやまないフランクを迎える所から始まる。このフランク、ダルシーも充分自覚しているように「話に乗せられやすく、自分のものと他人のものの区別がきちんとできない」「ひと目見て気に入るとくだらない物でもむやみに買ってしまう」典型的なだめんずだ。しかし恋は盲目、ダルシーにとっては全ての欠点が「彼には私がいなくては」という強烈な動機になり、ずるずると彼の詐欺に加担することに。やがてフランクが玉の輿の縁を手にしたため縁遠くなったにも関わらず、一途に彼を思い続ける。 まあ本作の登場人物たちの優しいこと!どんなにだめんずでも、自分を捨てていこうとする男でも変わらず愛し続けるダルシーを筆頭に、彼女とフランクを一度雇っていた医師のバートやその患者たちも、二人に多大なる迷惑をかけられたにも関わらず許してしまう。何でそんなに優しい?初犯だから?心に余裕がある人達だ。もうちょっと二人にはお灸をすえてほしかった。
September 27, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。体操の白井健三さんが引退を表明しましたね。今日もF・W・クロフツのフレンチ警部シリーズを紹介します。山師タラントJames Tarrant adventurerF・W・クロフツ創元推理文庫本シリーズは倒叙形式のため、我らがフレンチ警視が登場するのは、いつも物語の序盤以降だ。本編でも同様である。そのため「タラントは金がー金と贅沢と、なににもまして、金がもたらす権力がほしかったのである。金のためなら、もし、それが満足するだけ得られるものなら、よろこんで魂とひきかえただろう。」という記述にもあるように、途中までは野望を持った男性がのし上がっていくピカレスク小説のようでもある。手元不如意のタラントが眼をつけたのは、銀行に金を持ち、看護師で薬製造の責任者として適任な女性・マールだった。「娘たちはすすんで、喜んでタラントに拠れこみ、じっさい、時にはそれがあまり手軽すぎて、とまどいさせられるほどたった。タラント自身は、彼女たちに気はなかったーいずれにせよ、たいしては。」と書かれているタラントだから、彼女の篭絡などお手のものだ。彼女はタラントの思惑も知らず、たちまち彼に夢中になる。「ついに求婚だ。マールはそれ以外には、なにもありえないと感じた。ふたりの間には、ほかになにものも、いままで話したり、当面したりしていたなにものもなかった。そうだ、長いあいだ待ちに待ったものがついにやってきたのだ―彼女の生涯の最大の日が。」彼女の協力を得て詐欺まがいの商法で顧客を増やし、既存医薬会社との攻防に至る過程は、企業小説のようだ。そして終幕には裁判が登場し、さしずめ法廷劇である。p192にしてようやくフレンチ警部登場。庭で「してはいけないと知っていることをしていて、ある程度の危険を犯そうとでもしているように見えた」と何とも物騒な登場の仕方だが、要は妻のいないうちに芝を掘り起こそうとしていただけだ。そこに事件捜査の電話が入る。ラスト、フレンチ警部が上司に「終わりよければすべてよしだよ」と慰められる。ををシェイクスピアだ。フレンチ警部に何が?
September 26, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。真子様ととかく噂のあった小室圭さんが年内結婚されるとか。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。死の鉄路Death On The WayF・W・クロフツ創元推理文庫「停止! 停止! 線路上に何かある!」複線化工事に従事する見習技師パリーの乗った機関車が停まったときには、すでに黒い塊を轢いたあとだった。そしてそれは彼の上司アッカリーの無残な死体だったのだ。翌朝の検死審問では事故死の評決が下されるが、フレンチ警部が捜査に乗り出すや、事件の様相は一変する。 クロフツが、作家になる前鉄道技師をしていた事はよく知られている。本作はその強みが生かされた。グリンズミード事件(『二重の悲劇』)直後のフレンチ警部は、ブリュッセルに行くことになっていたが、レッドチャーチの轢死事件を調査するよう依頼される。 ロンドンだけでない事件を解決するために“何かと理由をつけて”地方の事件に引っ張り出されるフレンチだが、地方はスコットランドヤードが出張ってくることを、必ずしも快くは思っていない。そのため地元警察との反発を避けるために、いろいろとフレンチは気を遣う。例えばこんな知らない振りも。「フレンチはていねいに応じたものの、腹のなかでは笑っていた。地方からの依頼で捜査に出向くと、きまってこういう調子の前口上を聞かされる。地元の職員が捜査に取り組んだのだが、とても歯が立たないことがはっきりした、と打ち明けられた例はなかった。他の事件で手がふさがっていて、お願いした件には専念できない状態にある、というのがきまり文句なのだ。まあしかし、それは人間としては避けがたいことだ。その点に関して、フレンチは常に地元の人の顔を立てることにしていたし、このやり方はご利益があった。」 しかし地元警察に気を遣っても、それ以外の所から綻びが出てくることもある。活躍を書いてくれるワトソン博士がいないにも関わらず、フレンチ警部は地方では有名人らしい(クチコミ効果?)。チャールズ・ユーイングという貝類学者が、事件に関係する自転車を見ていたことをフレンチに打ち明けにくる。その時にフレンチを有名人扱いしたため、地元のレッドチャーチのロード警視がちょっとむっとする場面があり、フレンチもその事に気づく。 とはいえ、地元警察の捜査が往々にして稚拙であることも確かで、フレンチ警部は密かにこんな事を思っていたりもする。例えば地方警察が見落としていた証拠を見つけた時は「わたしのおこなったこの実地検証の見事さはどうだ!地元の捜査官など遠くおよぶところではない。エメリーがこの梁を調べていないことに、かなりまとまった金を賭けてもいい。かりに調べていたとしても、それが物語っていることに気づかなかったのだ。それに、わたしばかりでなくロードや署長も灯りのことを知っているのに、彼らはその重要性に気づくだけの頭を持っていないのだ。因果なことに地方の警官には、想像力がまるでない!連中がスコットランドヤードに助けを求めるのも無理からぬことだ。」をを、ちょっと自慢気? そうかと思えば「うん、こいつは警告だ。このところわたしは、あまりにも調子にのりすぎていた。その結果がこのざまだ。」と自己嫌悪に陥る。今回のフレンチ警部は、心の葛藤がいろいろと忙しい。
September 25, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。林遣都くんがAKB48の大島優子さんと結婚しましたね。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。フレンチ警部と紫色の鎌The Purple Sickle MurdersF・W・クロフツ創元推理文庫 コナン・ドイルの『赤毛連盟』やクリスティの『料理人の失踪』は、一見犯罪とは関係のなさそうな出来事が、後に大事件に繋がっていく。本編も同様である。 映画館の切符売りをしている女性がフレンチ警部を訪ねてくる。誘われるままに深入りした賭け事で借金を作ってしまい、返済のために怪しげな提案をのまざるを得なくなった彼女は、紹介された男の手首に紫色の鎌形のあざを見つけて、変死した知り合いの娘が残した言葉を思い出したというのだ。彼女は更に「最近友達が亡くなったが、実は殺されたのではないかと思っている。そして私も殺されるのでは?と思っている」と言い出すので、妄想が過ぎるのではないかと軽く聞いていたフレンチだが、次第に彼女の話に興味を持つ。 紫色の鎌が凶器?と思わせる邦題だが、犯人の特徴に過ぎない。もっと他の邦題でもよかったのでは。 本編では珍しくフレンチが訴えてきた相手をみすみす死なせてしまい、のっけから後悔にさいなまれる。倒叙ではないので読者にも犯人たちの狙いがわからず、糸口が見つからないフレンチはつい弱音を吐くが、そんな時に彼を励ますのが頼れる奥様だ。別作品ではクルーズに連れていってもらっているが、内助の功の積み重ねを考えると、そんなご褒美では足りないのでは(その時もご褒美ではなく仕事だったし)。 いざという時の切符売りの女性モリーの勇気ある行動といい、本編は女性の強さが目立った。「妻がいなければプロポーズしてたかも」とフレンチ警部が彼女に言う場面も。
September 24, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。NHKの桑子アナと小沢征悦さんが結婚しましたね。今日もクロフツ作品を紹介します。フレンチ警部の多忙な休暇Fatal Venture.W.クロフツ中村能三訳 旅行会社の事務員ハリー・モリソンは、行った事がないのに客の質問には何でも答えられるペーパー添乗員。ある時社員のピンチヒッターとしてチャンスが回ってきた旅行先で、イギリス周遊の観光船企画を持ち掛けられる。新規事業なので資金が必要だが、そこでハリーが目をつけたのは「ありとあらゆる旅行をしてきた」と豪語する事業家ジョン・M・ストットだ。幸いストットはハリーを気に入っており、出資に意欲を示す。ところが周遊船の計画はいつしか賭博室を設けた観光船運航になり、完成したエレニータ号によって、アイルランド沿岸の名所めぐりが始まった。モリソンはストットの姪マーゴットに夢中になり、彼女もまた好意を抱くが、一方でストットには不満が溜まっていた。そんな時殺人事件が起こる。 「第一部の語り手ハリーがおバカすぎる」という書き込みが散見された。確かに自分の会社に就職している状態で、有力顧客を他社の出資計画に誘うなんて明らかな裏切り行為である。また、彼は被害者を偶然見つけてしまうが、すぐに通報しない。自分が被害者に悪感情を抱いていたのを知っている人がおり、容疑者になるのを避けるためだ。更に、死体からある人のボタンを取ってきてしまうという怪しい行為を重ねてしまう。うーんやっぱりおバカかも。 今回遂にフレンチ警部の妻が登場!なんと夫と一緒にクルーズ旅行に!えっ、ご褒美旅行?そんなに暇かフレンチ警部。世界は平和なのか。いや、これもちゃんと捜査の一環。というか、妻を引っ張り出すなんてワーカホリックが過ぎるフレンチ警部。「仕事は仕事、プライベートの旅行は旅行!」とちゃんと断ろうよ。エレニータ号はイギリスを周遊しながらも国籍はフランスにしてあるため、限定的にしかイギリスの司法権が及ばない。かねてから賭博船の存在をいまいましく感じていた政府筋から依頼を受けたフレンチ警部が、別人としてエレニータ号に乗り込む。するとそこで事件に遭遇し、結局もとのフレンチ警部に戻る。さあ、フレンチ警部は殺人事件の解決と賭博の阻止、二つのミッションを成し遂げられるのか?
September 23, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。今夜は中秋の名月でしたね。今日もクロフツ作品を紹介します。マギル卿最後の旅Sir John Magill's last journeyF・W・クロフツ東京創元社 本作はフレンチ警部シリーズでも一、二を争う“代表作”らしい。とあって、著者も煽る煽る。「ジョン・マギル卿事件は、フレンチが今までに取組んだ難解な事件中でも最大の難解な事件と言ってよかった」「長いあいだその例を見なかったほどの陰惨な悲劇の、開幕を告げるベルが鳴りだしたわけなのだ」 ところが、当のフレンチ警部はこの事件に乗り気ではない。時系列としては『フレンチ警部と紫色の鎌』から13か月経過という設定。大変な事件をこなしてきたばかりだ。 上司のミッチェル主席警部に呼ばれたフレンチ警部は、ベルファスト駐在のアルスター警察署の部長刑事アダム・マクラングから協力を頼まれる。ロンドンの富豪マギル卿が息子の工場へ出向くといって邸を出たまま、消息を絶ってしまった。北アイルランド警察の捜査では卿の帽子が見つかっただけだった。アイルランドでいなくなったんだからアイルランド警察が探せばいいじゃん!とフレンチ警部は何度も固辞するが、なぜかアイルランド警察は退かない。マクラング警部「われわれの知りたがっていることは、たいていロンドンで探れるのではないかと思います。」アルスター警察署長レイニイ警視「イングランドで計画し、イングランドの悪人どものやった、イングランドの犯罪だよ!ぼくが前にも言ったとおりではないか?」「きみにはロンドンで努力してみてもらう必要がある。ジョン卿の家から、あの男の足どりが辿れるかもしれない。」「“問題はぼくの一番最初の理論に帰ってくることになる―つまり、完全な解答は、ロンドンで見出せるはずだ”という」あくまで謎の中心はロンドン説を唱える。 上司にも言われて渋々捜査したフレンチ警部だが「だいたいに、彼はなじみのない警察と協力して仕事をするのは嫌いだった。常に、こちらは招かれて行っているにもかかわらず、嫉妬が生じた。彼が仕事を手伝ってやっている人たちが、鼎の軽重を問われているように思うらしかった。従って、しばしば暗黙の敵意に当面させられ、それを征服するために、エネルギーの半分をつかわせられるしまつだった。それだけではなく、どんなに好意を持っていてくれたにしても、なじみのない人からは、平成自分の訓練した部下から絵ているような助力は、頼めるものではなかった。」という優秀な刑事故の悩みに加えて「一方フレンチ警部はこの事件の謎の解決はアイルランドにひそんでいると、彼は信じていただけでなく、ロンドンで調べる必要のあることはもうこれで片づいたという気がした。」「フレンチは首を振った。自分には、ロンドンで探り出せることはもうないように思う。そりゃ悦んで引き返して、もう一度やってはみるが、その結果にはほとんど希望が持てない、と彼は言った。」鍵はアイルランド!という考えが消えない。この問答が作中かなりのボリュームで登場。いや、どっちでもいいから早く事件解決を!そもそもイングランドとアイルランドは歴史上の対立もあったので、その辺りを意識しているのかもしれない。『中古』マギル卿最後の旅 (創元推理文庫)KSC
September 22, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。海の向こうで大谷選手の活躍が止まりませんね。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。サウサンプトンの殺人Mystery of Southampton WaterF・W・クロフツ創元推理文庫大庭忠男訳セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、経営危機に陥った会社を救うためにライバル会社の工場に忍び込む。セメントの新製法を盗み出そうとしたのだが夜警につかまり、殴り殺してしまう。自動車事故を偽装して死体を始末するが、主席警部フレンチが立ち上がる!ジョイマウント社は近頃業績不振に悩んでいた。というのもライバルであるチェイル社のセメントの方が、遥かに品質がよく、かつ安価なのだ。技術者ならばライバルに負けない製品を作る方に注力すれば良いものを、最初から社長の飲み物に一服盛って鍵を手に入れようとしたり、やり方がおよそ技術者らしくない。切羽詰まっているとはいえ、他人の技術を盗んでそれで満足なのか。大体ライバル社が気づかないとでも?売り出した製品は勝手に調査できるから、同じ成分だったらあっさりばれてしまう。技術競争するよりも、偽装したり盗んだりと犯罪に傾きがちなジョイマウントの社風が大いに心配だ。 さて、今回クロフツは主席警部昇格直後である。出世志向が強かっただけに喜んでいるかと思いきや、元同僚との間に壁を感じて落ち込んだり、なかなか事件の糸口が見つからずカーターに八つ当たりする(こらこら)。というのは、ジョイマウント社、結構頑張るのだ。まんまと秘密を手に入れたと思いきや、やはりあっさりバレて今度は恐喝されるが、それでも何とかして企業存続のために力を尽くす。“企業存続に奔走する”と書いたら池井戸潤作品みたいでいい話のように映るが、そもそもの出発点が間違ってるから!『中古』サウサンプトンの殺人 (創元推理文庫)KSC
September 21, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。アグネス・チャンが48年ぶりに映画出演するそうですね。今日から9日間クロフツのフレンチ警部シリーズを紹介します。クロイドン発12時30分【新訳版】The 12:30 From CloydonF・W・クロフツ創元推理文庫「モーリーは初めて飛行機に乗った。父と祖父、祖父のお世話係が一緒だ。パリで交通事故に遭った母の許へ急ぐ旅であることも一時忘れるくらいわくわくする。あれ、お祖父ちゃんたら寝ちゃってる。―いや、祖父アンドルー・クラウザーはこときれていた。自然死ではなく、チャールズ・スウィンバーンに殺されたのである。」 えっ 何 その裏表紙のノリ?明らかに本編第一章だけ『孫娘、初めてのヒコーキに興奮す』みたいな。「とうとう飛行場だ!」「待ちに待った瞬間が来た!」等々、やたらとビックリマーク登場。子供が第一発見者でこの子の視点で殺人事件を追うのはキツイなぁと思っていたら、第二章から犯人視点に。あれ、いいの?犯人そんなに早く語っちゃって。 いいんです。いわゆる本作は倒叙方式。最初から犯人がわかっている刑事コロンボスタイル倒叙ミステリ三大名作らしい。おや、では犯人が凄腕?絶対ばれない完全犯罪を目論んでるとか? その通り。そりゃ捕まる前提で犯罪なんか犯しません。動機はまあ、所詮読者が共感できるものではないのです。いや、共感したら大変だってば。ただですな。強烈な動機となる結婚したい彼女だが、男が思っているほど脈があるとは思えない。それとも脈ありと思い込む事も男の性格描写の一部なのか。 にしてもフレンチ警部の登場が遅い。第二章『チャールズ資金繰りに悩む』から第二十二章『チャールズ己の運命を悟る』までずっとチャールズが主役。チャールズ日記かこれは!シリーズものだとわかっている読者は第二十三章と第二十四章まで待てるだろうが、お初の人はどうだったのだろう。クロイドン発12時30分【新訳版】 (創元推理文庫) [ F・W・クロフツ ]楽天ブックス
September 20, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。「ズッコケ三人組」シリーズで知られる作家那須正幹さんが亡くなりましたね。今日はカンボジアの歴史が一家に与えた影響を描いた小説を紹介します。誕生日パーティーDas Geburtstagsfestユーディト・W・タシュラー浅井 晶子 (翻訳)集英社オーストリアの田舎に暮らす、カンボジア移民のキムは、受け入れ家庭の娘イネスと結婚し三人の子供に恵まれて五十歳の誕生日を迎えようとしていた。その誕生日の祝いの席に突然現れた女性テヴィは、少年の頃にポル・ポト政権下のカンボジアを共に逃れた妹のような存在であり、同時にキムが最も会いたくない人物だった。 キムの息子ヨナスがテヴィに出したメールから物語が始まる。「あなたのお父さんは私が来ることを知っているのか」など明らかに乗り気でない反応が文面からも感じられ、誕生日パーティという祝いの席に早くも不穏な空気が漂う。 誕生日に招かれたテヴィが家族の前で「今日があなたの誕生日ではないって誰も知らなかったの?」と暴露する。衝撃を受ける妻、ついに暴露されたと呆然とするキム、様々な思いが渦巻いているであろうテヴィ、何もわからず両親を見つめる子供たちなど、映像が目に浮かぶようだ。ドラマ化すれば間違いなく第一話ラストになる。こっそりと、ではなくわざわざ家族の前で自分だけが知っている事実を暴露するのだから、テヴィには悪意がある。過酷な子供時代を過ごし共感できる所もあるはずで、二人とも大人なのだから、自分の行動の結果が予測できるはずなのに、なぜ言ってしまったのか。 本編は「キムとテヴィの間に何があったのか」というメインの謎を中心に、第一作同様複数の語り手や手段を用いながら、キムとテヴィ、キムとイネスの過去を明かしてゆく。それはただあった事実だけを掘り起こしていくのではなく、折々の彼等の心理状態を掘り起こすことにもなる。特定の個人だけが知っている事実もあり、全てを知るのは俯瞰できる読者のみだ。キムの回想でつづられる過去パートでは、同国人同士で殺戮を行ったクメール・ルージュ時代のカンボジアを抜きにして語れない。作中では断片的にしか触れられていない当時のカンボジアについては、巻末に丁寧な説明がついているので、読了後、読了前どちらかで読んでおくと良い。誕生日パーティー [ ユーディト・W・タシュラー ]楽天ブックス
September 11, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。かつて一人っ子政策を取っていた中国が3人目までの出産を許可しましたね。今日はちょっと不思議な物語を紹介します。ふしぎの国のレイチェルPig Might Flyエミリー・ロッダあすなろ書房Dickory, dickory, dare,The pig flew up in the airThe man in brown soon brought him down,Dickory, dickory, dare.これは、「豚が空に飛んでいったら男があわてて引き戻した」という意味のマザーグースの歌ですが、本当に豚を飛ばしてしまった人がいます。「リンの谷のローワン」シリーズの作者、エミリー・ロッダです。誰でも、退屈だなぁと思う時がありますが、その日は条件が整いすぎていました。1.学校のない土曜日であった事。2.雨が降って遊べなかった事。3.上の二つの条件がなくても、レイチェルが風邪を引いていた事。だから彼女は思ったのです、特に深く考える事もなく。「何か起こるといいのにな。」だって、世界にはレイチェルと違って、面白い事ばかりに遭遇する、看板屋のサンディみたいな人がいるんですもの。これじゃああまりに不公平。そんなサンディの「頭の中で思い描ける事なら、絶対ありえないなんて言えない」という考えに、ふらっと来たせいなのか、レイチェルがある日目覚めた時には、ユニコーンの背中に乗っており、まわりにはなんと飛ぶ豚の集団が!オーストラリアの作家なのに、羊にしなかったのは、毛が飛び散って困るからでしょうか?丸々太った豚が悠々と大空を飛ぶなんて事が現実に起こったら、誰しも表紙のレイチェルのように、口をぽかんと開けて見守るしかないかもしれません。杉田比呂美さんの、とぼけた絵の感じも、物語によくあっています。ブタ嵐の季節に起こる「エブリディ・マジック」の数々は、大人が読んでも面白く、「よくもまあこういう事を、考えつくものだなぁ」と作家の持つ想像力に、ただただ感動するばかり。「Pigs On The Wing」=「豚は空を飛ばない」という英語の諺は、「絶対にそんな事あり得ない」という意味です。でも、この絵本のタイトルは全く逆の事を言っています。「Pig Might Fly」=「豚だって、空を飛ぶかもよ(意訳)」。絶対あり得ないなんて決めつけるのはつまんない。想像する事を、やめないでおこうよ、ね? 作者の、こんなつぶやきが聞こえてくるようです。送料無料【中古】ふしぎの国のレイチェルブックサプライ
August 22, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。しかし政府が国民に「自分の身は自分で守れ」って言うなんて異常事態ですね。今日はシャーリィ・ジャクソンの小説を紹介します。ずっとお城で暮らしてるWe Have Always Lived In The Castleシャーリィ・ジャクソン創元推理文庫 タイトルだけ聞けば、深窓のお嬢様が主人公の、優雅なロマンスものとも思える。だがその想像は、冒頭そうそうに打ち砕かれる。なぜならば、主人公のメアリ・キャサリン(愛称メリキャット)・ブラックウッドが好きなのは、所謂お嬢様が好きそうなドレスや男の子達ではなく、「妻を毒殺した噂のあるリチャード・プランタジネット」「毒キノコ」そして「一家を毒殺したとされる姉コンスタンス」なのだから。皆が恐れる「毒」を怖がらないメリキャットが恐れるのは、村の子供達や、子供達の後ろにいる大人達の、笑顔の下の悪意だ。目に見えない悪意に対抗するメリキャットの武器は想像力だ。 さて、ここで問題がある。語り手がメリキャットである以上、読者は彼女の言葉を全面的に信用して読み進めるのが決まりだが、想像力豊かな彼女が見ているものは、「現実」なのか、或いは「こうあって欲しい仮想現実」なのか、段々判然としなくなってゆく。コンスタンスは寡黙で、ぎょっとするような発言をするジュリアン叔父は、訪ねてきた甥を別の名で呼ぶような、現実と虚構を行き来する危なげな部分がある。平明な言葉につい誘われて、奇妙な世界に引きずり込まれた読者は、案内人を失った迷い人のように、廃墟とも楽園ともつかぬ場所で、ただ、ぐらぐらと揺れるしかないのだ。ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫) [ シャーリー・ジャクソン ]楽天ブックス
August 20, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。まるで日本の梅雨のような天気で各地で土砂災害が多発していますね。今日はヒッチコック監督が映画化した作品の原作を紹介します。原野の館Jamaica Innダフネ・デュ・モーリア創元推理文庫 母が亡くなり、叔母の住むジャマイカ館に身を寄せることになったメアリー・イエラン。だが荒野のただ中に建つ館で見たのは、昔の面影もなく窶れ怯えた様子の叔母と、その夫だという荒くれ者の大男ジョシュアだった。寂れ果てた館の様子、夜に集まる不審な男たち、不気味な物音。ジャマイカ館で何が起きているのか? 本編はアルフレッド・ヒッチコック監督により映画化されている。タイトルは『巌窟の野獣』でモンスターでも飼ってるのか?といらぬ想像をしそうだ。荒くれ者は登場するが、野獣というほどワイルドには感じない。また、過去翻訳された際のタイトルは『埋もれた青春』で、これもどうも内容と合わない。 映画と異なり原作には、ジョシュアの弟で馬泥棒のジェムと地域で尊敬される牧師フランシスが登場。ワルだがワイルドな魅力のジェムと、正統派ヒーローのフランシスの双方から好意を寄せられ、メアリーを巡った三角関係になる。更に伯母の結婚相手のジョシュアすら、「もっと若けりゃ、俺はお前を口説いてたろうな、メアリー。ああ、そうとも。きっとおまえをものにして、一緒に逃げて幸せになっていたろうさ」などと彼女に語りかける場面がある。メアリーは最初から彼に反発する異分子で、秘密を知る邪魔者だからさっさと放り出せばいいのに、荒くれ者から庇う素振りを何度も見せる。こんな時なのにモテキ到来のヒロインである。 とはいえハーレクイン小説のゴールである結婚は、どうやらメアリーの望みではなさそうだ。ヒッチコック映画のイメージが強いのでホラーと記憶していたが、本作はどちらかというと冒険活劇にあたる。彼女の叔母はペイシェンス(Patience=忍耐という意味)という名前からして古い時代の女性の典型で、夫を恐れつつも逃げる勇気が持てない。しかしメアリーは「いつか伯母を連れて逃げる」という願いを抱きつつ、危機に陥れば自ら身を護る(ちなみにグーパンチだ)。強い母親に育てられたからなのか、自立心と冒険心が旺盛で「男性に守られていたい」というタイプではない。それでいて、ワルの魅力に惹かれる自分も自覚している。さあ、そんな彼女の最後の選択は?原野の館 (創元推理文庫) [ ダフネ・デュ・モーリア ]楽天ブックス
August 18, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。松坂投手は昨年、古巣の西武に14年ぶりに復帰しましたが1軍登板はなく、同7月に手術を受けました。その後、復活を目指していましたが、今季もここまで実戦登板がありませんでした。今季限りで平成の怪物引退だそうです。今日はフランスのミステリを紹介します。魔女の組曲 上下N’eteins Pasla Lumiereベルナール・ミニエハーパーBOOKS不穏な場面から始まる。雪の中で狼たちに追いかけられるセルヴァズ警部は、愛する女性マリアンヌと共に逃げるため、愛犬レックスを犠牲にする。それでも追って来る狼を振り切るために、セルヴァズは何と彼女の心臓を懐に入れて逃亡。そこで目が覚める。 マリアンヌとは前作『死者の雨』に登場し、悪名高きサディストの殺人鬼ハルトマンに殺された(とされる)セルヴァズの元カノだ。(とされる)と書いたのは、ハルトマンがセルヴァズに彼女の心臓を送りつけてきたからだ。それ故の冒頭の夢になる。こんな体験をして、セルヴァズがまともな精神状態であるはずがない。療養休職中の彼の元に送られてきたのは高級ホテルのカードキー。その客室は、何と一年前に女性写真家が凄惨な自殺を遂げた現場であり、彼の名前で予約がしてあった。セルヴァズ警部は事件の謎の深みに魅せられたかのように身を乗り出す。 一方ラジオパーソナリティのクリスティーヌにも自殺予告の手紙が届く。ちょうど婚約者の両親の家を訪ねるところだった彼女は、気になりつつもプライベートを優先。しかしその後から、謎の電話がかかってきたり、婚約者の不貞を匂わせるような写真が届くなど顔の見えない相手からの嫌がらせが相次ぐ。次第に追い詰められてゆく彼女だったが…。 セルヴァズとクリスティーヌ、二つの話が並行して進み、予想通りこの二つの流れは出会う。彼女の虐められっぷりが半端ない。確かにクリスティーヌは、思い込みが激しくヒステリー気味でイライラするヒロインではある。しかし、だからといってこんなに恨まれるほどの事をやっただろうか?と読んでいて気の毒になる。最近のフレンチミステリは、かなり残虐描写に踏み込みつつある。 第一作からとんでもないサイコパス犯人に見込まれてしまった捜査官が、心と体を痛めつけながら全身全霊で犯人に向かってゆくシリーズは、最近読んだJ・D・バーカーの猿シリーズと共通だが、但し連続してハルトマンは出てこない。本編はいわばセルヴァズのリハビリ回にあたる。とはいえ、事件の匂いを嗅ぎつけると、序盤の弱々しさが嘘のようにアクティヴモードに。周囲が「休職中なんだから」と諫めてものめりこんでいくセルヴァズの何よりのリハビリは、結局は捜査なのだ。魔女の組曲 上 (ハーパーBOOKS 129) [ ベルナール・ミニエ ]魔女の組曲 下 (ハーパーBOOKS 130) [ ベルナール・ミニエ ]楽天ブックス
August 5, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。ボクシング女子フェザー級入江聖奈選手が金メダルを獲得したそうです。金メダルは日本女子で初めてのことです。今日はドイツミステリを紹介します。咆哮Der Prinzessin Nenmorderアンドレアス・フェーア小学館文庫 咆哮とは穏やかではない。いや、彼女は叫ぶことすらできない。何せ氷の下に閉じ込められているのだから。だから咆哮するのは彼女ではない。ならば誰だろう? さて、そこに行く前に叫べない彼女に注目して見よう。単なる殺しならばスルーされる。ところが金襴緞子のドレスを着て口の中には数字のバッジがある。金襴緞子ですよ金襴緞子。日本ならば嫁に行く花嫁御寮が着るやつ。外国だからさしずめプリンセス。おや、こうなると見立て殺人か。何かを伝えたいというなら、殺人はこれ一つではおさまるまい。 発見者はその時偶々酔っ払っていたクロイトナー上級巡査。「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズ第1作というからには彼は主人公の一人だ。ヴァルナ―首席警部が捜査の指揮を執ることになるが、彼等は本当にバディなのか?メインで頑張って正統派の捜査をしているのはヴェルナーだけで、クロイトナーは「いやぁ実は俺が第一発見者でよ、でへへ」と酒場で重要情報を暴露しまくり。それでいていい所で場外ホームランをかっとばす。赤川次郎さんの大貫警部みたいなキャラクターで通すのか? 脇役で強烈なのはヴァルナ―と同居している祖父アルフレート。なぜ両親がいないかというと、まあ、いろいろあるのだよ。それはおいおいね(なのかな?)。ネットで怪しい商品を購入しているのが被害者の第一発見者としてアルフレートを調べていたヴァルナ―の部下にばれてしまう。うわ、ヴァルナ―のバツ悪~。まあ、アルフレートの「俺は女性にもてる」というのが全くの空想&妄想ではなく、そこそこもてるらしい。世の中には枯れ専がいるから、例えドイツでも。 一点普通のミステリではない構成が入っているが、これがシリーズの通常パターンになるかは続けてみないとわからない。 「弁護士アイゼンベルク」の作者のデビュー作。咆哮 [ アンドレアス・フェーア ]楽天ブックス
August 4, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。鉄道向け空調機器などで検査不正が発覚した三菱電機の杉山武史社長が2日、都内で記者会見を行い、社長を辞任することを表明しました。フィデルマシリーズ今日は下巻の紹介です。憐れみをなす者 下巻Act of mercyピーター・トレメイン創元推理文庫上巻はフィデルマのいない所で死体が発見されたり、血の付いた服が残っていたりと“さわり”だけだった殺人が、とうとう彼女の目の前に現れる。といっても彼女がフツーのお嬢様でないことは読者の方がよく知っている。船長から全権を委任されるや否や「今ここにエイダルフがいてくれたなら、話を聞いてもらって論じ合うことができるのに」と思いつつも嬉々として捜査に臨む。捜査の中心は男女の恋愛感情のもつれ(修道士&修道女の巡礼旅なのに!)で、中心にはいつも元カレがいるため、彼女は結構ピリピリ。だが、元カレキアンがなぜ修道士になったか大いに疑問のある種の煩悩だけで生きている男なので、フィデルマの熱はすぐに醒めていく。「フィデルマが惹かれたのもそこだった。彼の若さと、そして力強さに惹かれた。けっして知的というわけではなかった。」ああそれで、次に出会ったあの人の知性に惹かれたと、わかりやすいなぁフィデルマ。まあ若いから。まだ28歳だから。 というわけで「エイダルフ!船旅の間じゅう、まるで薄い影のごとく、彼のことが心から離れなかった。行く道をずっとついてくるかすかな鬼火のように。」 たとえるに事欠いて鬼火か気持ち悪い!と突っ込みたくなるが、とにかく自分にとって大事な人が誰なのかははっきりとわかったらしいフィデルマに届いた衝撃の便り!次は短編集らしいのでこの続きは更に待つことになりそうだ。憐れみをなす者 下 (創元推理文庫) [ ピーター・トレメイン ]楽天ブックス
July 13, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。体操の内村選手がオリンピック選手に内定しましたね。今日は修道女フィデルマシリーズを紹介します。憐れみをなす者 上Act of mercyピーター・トレメイン、田村美佐子創元推理文庫第七作 消えた修道士下巻レビューで「フィデルマに合うのはワイルドなタイプ」と書いていたら、そのものずばりが現れた!というか、やはりフィデルマはそういう男がタイプだった。 何の話かというと、フィデルマが十年前に辛い別れをした初恋の相手キアンがまさにそういう男だったのだ。“サックスムンド・ハムのエイダルフ”は彼女にとって、同年代の男性の中で唯一の、心から木の安まる、自分をさらけ出せる相手だった。と書いておきながらセンチメンタルジャーニーするフィデルマ。若いな!というか二十八歳なので実際に若い。十年前といえば十八歳。法律への愛一筋かと思ったら、うら若きフィデルマに女性としての悦びを目覚めさせたあげく、ほかの女に端って彼女をこっぴどく捨てた男との出会いがあったとは!?いやでもワイルドって筋肉馬鹿って意味ではないのだが。やはりエイダルフには秘密にしようねフィデルマ。ちょっとコンスラ男には刺激が強すぎる。 そうこうするうち死体はないのに船の中に血だまり発見というわけで、フィデルマのいる所事件あり。「お忍びなんだから身分は明かさないで」という願いも空しく(というかキアンが一緒の舟にいる時点で駄目だろう)あっという間に王の妹にして云々という肩書がばれて一人探偵モード。元彼への訳の分からぬ感情を抱えてフィデルマはまともに推理ができるのか?憐れみをなす者 上 (創元推理文庫) [ ピーター・トレメイン ]楽天ブックス
July 12, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。加山雄三さんが聖火ランナーを辞退したそうですね。今日も韓国の小説を紹介します。きみは知らない (韓国文学セレクション)チョン・イヒョン新泉社 冒頭、河で死体が発見される。ミステリ小説ならば、この死体の身元を巡って捜査関係者の動きが描かれたり、おそらく死体の関係者だろうと読者が推測できる人物を登場させながら、河に遺棄されるに至る経緯を明かす。 しかし本編は、その後ひとつの家族の描写に移る。父、母、娘、息子、そして最後に登場する娘が失踪することがわかる。ではその事が事件になるかと思いきや、すぐにはならない。「なぜならないのか」が、実はメインの謎になる。その後も死体の捜査は行われ、決して死者より生者が重んじられるわけではないが、作品中の比重は家族に傾く。当たり前の日常が壊れたことで、今まで平穏を保っていた家族それぞれの秘密が露になる過程を描くが、その先にカタルシスはない。理由はその先に共感がないからだ。むしろ、その先にもっと秘密があるのではないかと疑いを深める結果になる。 海の向こうにいる人と繋がったことで、自分もグローバル社会の一員となったかのような錯覚に陥る一方、依然として国にいるガイコクジンに対しては差別する旧態依然とした社会。SNS普及で簡単に承認が得られる一方、身近な人との会話は減る一方。歪な社会で、いざという時に頼りになるのは家族だと大方が思っている。そう思っていたが、実はその意見すら、今は思い込みにすぎないのだろうか。きみは知らない (韓国文学セレクション) [ チョン・イヒョン(鄭梨賢) ]楽天ブックス
July 10, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。竜電が計25回の不要不急外出で3場所出場停止処分。幕下陥落だそうです。お相撲さん、ゆるんでますね。今日もルース・レンデル作品を紹介します。こちらは別名義。煙突掃除の少年The Chimney Sweeper’s Boyバーバラ・ヴァイン(Hayakawa pocket mystery books) 小説家ジェラルド・キャンドレスは7月6日に71歳で永眠した。父の回想録の執筆をもちかけられたキャンドレスの娘サラは、自分が父の過去をほとんど知らないことに気づいた。さっそく調査に着手した彼女は出生証明書を頼りに父の親類らしき老女を突き止めるが彼女は思いがけない事を言い出す。「ジェラルドはあたしの弟よ。五歳のとき髄膜炎で死んだわ」古びた死亡証明書を前に、愕然とするサラ。父は、ジェラルド・キャンドレスではなかったのだ。では、いったいどこの誰なのか。不安を押し殺して調査を進める彼女が突き止める衝撃の事実とは。夫や父が思っていたのとは別の人物だったとわかれば、残された家族はもっと騒然となっていいはずだが、なぜか最も濃いはずの妻が淡泊な反応しか示さない。生前サラと妹は父親べったりで、母親とは距離があった。一見幸せ、しかし内幕はいびつな一家を形成したのもジェラルド。なぜ妻は夫に対して冷たいのか。なぜジェラルドは娘を溺愛したのか。本編の謎である彼の過去に答えがある。衝撃を最後に取っておくタイプのバーバラ・ヴァインが用意した、とっておきのラスト。しかしそれは妻に対する仕打ちの理由にはならない。場合によっては好きなタイプが誰もいない寒々とした家族。『中古』煙突掃除の少年 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC今だけクーポンで☆2,980円!【Ameba公式トップブロガーHanaさんコラボ!】テールカットシアーブラウス(bel-blc-4870) レディース プルオーバー 半袖 五分袖 キレイめ カジュアル 体型カバー 夏 ROOMコラボ reca レカ ネコポス発送10価格:3480円(税込、送料無料) (2021/7/2時点)楽天で購入
July 3, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。七月になりましたね。トランスジェンダー選手が重量挙げ女子で五輪へ出場するようですね。史上初だそうです。今日もルース・レンデル作品を紹介します。こちらは別名義。ステラの遺産(Hayakawa pocket mystery books)The Brimstone Weddingバーバラ・ヴァイン老人ホームに勤めるジェネヴィーヴが受け持つステラは、癌で余命いくばくもない。そんなステラのところへ、彼女名義の家の権利書が届く。自分の子どもにも隠している秘密の家で、いったい何があったのか?なぜかステラは、娘や息子ではなく、赤の他人のジェネヴィーヴに経緯を話し始める。何の意図があって? ステラは夫に長年愛人がいる事を知りながらも幼馴染アランの存在に慰められていた。再会した時にはアランは画家になり、映画女優の妻ギルダがいたが、二人は一気に恋に落ちる。幼い頃の想いが再燃するのは容易い。ステラに子供がいることと、アランに大した財産がないので離婚は可能に思えたが、ギルダが夫に辛く当たるものの「絶対離婚はしない」と公言するほど嫉妬深い性格なので、すぐの離婚は無理だった。まあ、現代感覚ならアランがさっさと離婚して裕福なステラに養ってもらいながら安定した仕事を見つければいいのに、と思うが当時はまだ男の甲斐性が重んじられていた。 ジュネヴィーヴはテレビ局に勤める妻子あるネッドと恋仲だ。ジェネヴィーヴも両親とも離婚しているので、離婚には抵抗がないが「ネッドの娘が酷い喘息」という事情を聞いているので耐えている。しかし彼との関係が続けば続くほど、単調な夫との生活が嫌になる。ネッドが、もう典型的な嫌な奴。毎回会う度に「“愛している”と言ってくれ」と某ドラマのような台詞を吐くのが暑苦しい。だいたいそれだけ言わせておいて、妻や娘と離婚するとは絶対に言わない。ジュネヴィーヴ、騙されてるよ!と経験豊かな読者などは言いたくなるはずだ。 ステラの知られざる恋愛と、ジェネヴィーヴが夢中になっている現在の恋愛は意図的に交錯して描かれる。ジュネヴィーヴとステラの生きてきた時代の違いと、現在に至っても続く女性への制約、ジュネヴィーヴの母が度々口にする迷信が物語を彩る。『中古』ステラの遺産 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC
July 2, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。オリックスの杉本ら3選手、遠征先ホテルに女性3人招き会食し、球団が厳重注意だそうですよ。今日もルース・レンデル作品を紹介します。求婚する男Going Wrongルース・レンデル角川文庫 毎週土曜、午後一時。レオノーラは、かつての恋人である青年実業家ガイ・カランとランチデートをするのが習慣だった。執拗によりを戻そうとするガイを納得させるために、彼女が提案した約束だ。その席で彼女は婚約者がいることを告白する。結婚式は目前に迫っていた。愛の復活を渇望し、彼女が生涯ただ一人の恋人と信じて疑わないガイは、ある一つの計画を思いつく。 ここまで書くと、ガイは「いわゆるストーカーか」と判断されそうな男だ。望みがないと何度も知らせているのに「必ず彼女は自分と結婚するはずだ」と思い込んでいる彼は、実際レオノーラの家族や恋人からすれば、怖い存在でしかない。 但し別の視点から見ると、可哀想な男である。終盤近くにガイの恋人セレステが的確に指摘している通り、きっぱりと拒絶する道を取らず、最後はだまし討ちのような形で結婚するレオノーラにも非はある。職業こそ怪しくても美形で金持ちの取り巻きを手放したくない本音を隠し、餌を与えられるだけで満足している忠犬のようにガイに接する彼女こそ悪女だ。そばにセレステのようないい女性がいるのに、青い鳥に気付くのがあまりにも遅すぎたガイがどうなるかは読んだ人のみぞ知る。【中古】 求婚する男 / ルース レンデル, 羽田 詩津子 / 角川書店 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店 毎週土曜、午後一時。レオノーラは、かつての恋人である青年実業家ガイ・カランとランチデートをするのが習慣だった。執拗によりを戻そうとするガイを納得させるために、彼女が提案した約束だ。その席で彼女は婚約者がいることを告白する。結婚式は目前に迫っていた。愛の復活を渇望し、彼女が生涯ただ一人の恋人と信じて疑わないガイは、ある一つの計画を思いつく。 ここまで書くと、ガイは「いわゆるストーカーか」と判断されそうな男だ。望みがないと何度も知らせているのに「必ず彼女は自分と結婚するはずだ」と思い込んでいる彼は、実際レオノーラの家族や恋人からすれば、怖い存在でしかない。 但し別の視点から見ると、可哀想な男である。終盤近くにガイの恋人セレステが的確に指摘している通り、きっぱりと拒絶する道を取らず、最後はだまし討ちのような形で結婚するレオノーラにも非はある。職業こそ怪しくても美形で金持ちの取り巻きを手放したくない本音を隠し、餌を与えられるだけで満足している忠犬のようにガイに接する彼女こそ悪女だ。そばにセレステのようないい女性がいるのに、青い鳥に気付くのがあまりにも遅すぎたガイがどうなるかは読んだ人のみぞ知る。
July 1, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。中尾明慶さんもコロナ感染とか。芸能人多いですね。今日から4日間ルース・レンデルの作品を紹介します。こちらは別名で書いたミステリです。階段の家The House of Stairsバーバラ・ヴァイン山本 俊子訳 角川文庫 作家のエリザベス(ベス)はタクシーの窓からベル・サンガーをみかけた。彼女は刑務所にいるはずだ。過ぎ去った日々がまざまざと甦る。 1960年代を間近にひかえたロンドン。エリザベスはやがて発病するかもしれない遺伝性の難病におびえながら、母の従姉妹コゼットを慕って訪ねていた。夫をなくしたコゼットは〈階段の家〉に住み、そこには恋愛やドラッグに翻弄される若者が集っていた。が、ベルはそんななかにあってなにかが違っていた。やがてコゼットがある男性に恋をして…。 『鳩の翼』の粗筋はこうだ。 中流階級のケイトは叔母のもとで生活しており、貧しい新聞記者マートンと交際していたが、叔母からは結婚を反対されていた。ケイトはアメリカ人富豪のミリーと知り合い、ミリーがマートンに惹かれているのと不治の病に冒されていることから、余命を楽しむためにヨーロッパへ旅立つ。ケイトはミリーとマートンを結婚させ、ミリーの財産をマートンに相続させようと企むが。 ベスがヘンリ―・ジェイムズの評論を書いていたり、登場人物が『鳩の翼』について話すシーンがあるなど、読者に『鳩の翼』を強く意識させる仕掛けが施されている。よって読者は自然に早晩同様の事態が起こること、ケイト、ミリー、マートンが作品中の誰に当たるかを推測できる。「コゼットのような性格の人―心やさしく、気前がよく、わがままでなく、忍耐強く、自分に対してなされたごく小さな事をも過大にありがたがる、そういう人々はつねに利用され、つけこまれ、そして忘れられるのだ。十九世紀の小説にはそういう人がたくさん出てくる。それを読むわたしたちは、そういう人々―そしてそういう人々の運命―は小説家の作り出したものに過ぎないという印象を受けるのだが、そういう人々は実際に存在するのだ。そういう人々は他人に与え、そして、とりわけ多く与えたものから踏みにじられるのだ。」 こんなあからさまな描写があるのだから、推して知るべし。しかしあまりに簡単に推測できると逆に不安にも。仮にもミステリ作家がそんなわかりやすい罠を仕掛けるか? リズがベルを見かけてなぜ執拗に行き先を探したのかという、語り手が隠し続けた謎もやがて明らかに。罪を犯した者は罰を受ける。しかし与える相手は、必ずしも罪を犯した相手ではない。話せるのはここまで。【中古】 階段の家 / バーバラ・ヴァイン, 山本 俊子 / 角川書店 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
June 30, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。大阪のネットカフェでたてこもり犯が女性を人質に取っていたのですが2日間で決着がつきました。よかったよかった。今日がミネット・ウォルターズ作品紹介の最後です。昏い部屋The dark roomミネット・ウォルターズ東京創元社自殺を図り、奇跡的に助かったらしい写真家の女性ジンクス・キングズレーは、昏睡から目醒めたとき、過去数日間の記憶をなくしていた。婚約者が親友と駆け落ちしたショックで自殺を図ったのだと説明されるが、どうにも納得がいかない。やがて絶望と恐怖に染めあげられた出来事が、心のどこかから甦ってくる。 よるべなき黒人女性が酷い扱いを受ける「蛇の形」とは対極の、一代で巨万の富を築いた大立者の娘という至れり尽くせりヒロイン。しかし富があるから幸福というわけではない。後妻と異母弟はとんでもないドラ息子たちで、生母がいない長女として父親から溺愛されるジンクスは、彼女達から恨まれる。そもそもジェインという名前があるのにジンクスなどという愛称で呼ばれるところが、幸せからは程遠そうだ。 タイトル“昏い部屋”とは文字通りの意味ではなく、ジェインの記憶の空白部分を指す。ジェインもまた三人称語り手の一人であり、正直とは言えない。なぜならば、医師や警察に話した事とは別の内容を、密かに友人達に電話をして確認しているからだ。彼女には彼女だけが知っている秘密があるが、あいにく病気で思い出せないのか。それともふりをしているのか。後者ならばその理由は? 後期作品から読み始めたからなのか、初期作品のウォルターズではヒロインが饒舌で、ロマンス要素が濃い。【中古】 昏い部屋 / ミネット ウォルターズ, 成川 裕子 / 東京創元社 [単行本]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
June 20, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。ほとんどの地方自治体で集団接種をやるみたいですね。今日もミネット・ウォルターズ作品を紹介します。蛇の形The shape of snakesミネット・ウォルターズ東京創元社 ある雨の晩、ミセス・ラニラは、道ばたで死にかけている隣人アニーに出くわしてしまう。警察の結論は交通事故死。だが彼女には、隣人の死に際の表情が「なぜ私が殺されなければならないのか」と訴えていたように思えてならなかった。それから二十年後、ミセス・ラニラは殺人の証拠を求め、執念の捜査を開始する。 アニーの死によってラニラ自身がダメージを受けることは何もない。にも拘わらず他人に決して知られないように二十年も強い意思を持ち続ける彼女の動機とは何なのか?最初は友人・家族・警察など自分を信じようとしなかった相手に、自分が正しかったことを証明するためと思った。結果は、正義感も確かに動機の一つではあったが、当初彼女が明かしていない事実もあった。だからと言ってラニラが悪というわけではない。 ラニラを学校教師に設定したのも捜査に役立っている。何せ近所の子供達は元教え子だ。一癖も二癖もある両親が手ごわくても、子供たちには大人になってもラニラを信じ、素直に頼みを聞いてくれる素地が整っている。 決して国民全てに優しいわけではない国は、何もアメリカだけではない。アニーの境遇は、セーフティネットから零れ落ちた人達が多数いる、現代日本の我々の方がより身近に感じられる。病気によって周囲からは変人と決めつけられ、子供達からも馬鹿にされる。本当は迫害を受けている身なのに、警察は見た目まともな近所からの苦情の方を受け入れる。家族がいないので、最後の最後まで誰も彼女の側に立ってくれようとしない。救いの手を差し伸べられないのをこれ幸いと、善人の面を被って逃げ続ける偽善者たち。もし、自分が突然アニーのように天涯孤独で自分では対処できない病になった時、誰に助けを求めればいいのかと思うとぞっとする。【中古】 蛇の形 / ミネット・ウォルターズ, 成川 裕子 / 東京創元社 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
June 19, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。自衛隊や米軍基地など、安全保障上重要な施設周辺の土地の利用を規制する「重要土地等調査法案」が可決され、成立しましたね。今日もミネット・ウォルターズ作品を紹介します。鉄の枷The scold's bridleミネット・ウォルターズ東京創元社顔には、中世の拘束具。刺草と野菊の冠を頂き、両の手首を切って、資産家の老婆マチルダ・ギレスピーは死んでいた。終のすみかに選ばれたのは浴槽。果たして自殺なのか? 家族を切り刻んで抽象画を書いたり『女彫刻家』氷室に惨死体があったり『氷の家』と、初期ウォルターズは物語開巻でおどろおどろしい場面を描く事が多い。本巻も例に漏れず。おまけに死んでいた老婆は近所の嫌われ者だった。 捜査の進展を描く【現在】の中に、マチルダの日記【過去】が挿入される。但し日記は皆に公開されているものではない。マチルダの死が果して自殺か他殺かという点がメインの謎だが、日記の持ち主は誰?という点も謎に含まれる。 作中シェイクスピアがよく引き合いに出されるが、本作自身が某シェイクスピア劇のパロディとなっている。但しネタ元がわかったからといって犯人当てが簡単になるわけではない。人の内面を一枚一枚引きはがすような描写が、かなりメンタルにぐいぐいくる一方、ヒロインセアラを巡る恋愛模様が若干コメディ調でバランスを取っている。他レビュアーにもいたが、セアラの夫ジャックが女に目がなくてどうしようもないダメ男なのに、マチルダ他女性にはモテモテで、意外な義侠心もあって面白いキャラクターに仕上がっている。 CWAゴールド・ダガー賞受賞作。【中古】 鉄の枷 / ミネット ウォルターズ, 成川 裕子 / 東京創元社 [単行本]【ネコポス発送】もったいない本舗 お急ぎ便店
June 18, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。関東梅雨入りしましたね。今日もミネット・ウォルターズ作品を紹介します。囁く谺The echoミネット・ウォルターズ創元推理文庫 ロンドンの裕福な住宅街の一角で、浮浪者の餓死死体が見つかった。取材に訪れたマイケル・ディーコンは、家の女性から奇妙な話を聞かされる。男は自ら餓死を選んだに違いないというのだ。だが、それよりも不可解なことは、彼女が死んだ男に強い関心を抱いていることだった。彼女を突き動かすものは何なのか? 詩人ウィリアム・ブレイクを名乗るホームレスは一風変わっていた。始終文学作品の一節を口にして、罪深き自分を呪っていた。何とも興味をそそるキャラクターだ。しかも彼は物語が始まった時には既にいない。彼を知る者からの話=伝聞によって、謎の人物ブレイクの正体が明らかになってゆく。 一度叫べば山に反響して様々な方向から戻って来る谺の如く、遠く離れた地で新聞記事を気にしている裕福な女性、新聞記事のような第三者視点、聴取記録などが交錯する。ばらばらに見えたピースが、やがて一つの絵を描くために集まってくる手法は最近作『悪魔の羽根』でも健在。ミネット・ウォルターズには珍しく男性視点のミステリ。ティーンのホームレステリーの強かさと不思議な魅力が印象に残る。囁く谺 東京創元社ミネット・ウォルタ-ズ / 創元推理文庫【中古】afbブックセンターいとう元八王子店
June 17, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。なんか後付けで二階さんが一億五千万の責任を自分と安倍さんだと言ってますね。ずるい。今日もミネット・ウォルターズ作品を紹介します。女彫刻家The Scluptressミネット・ウォルターズ東京創元社彫刻家というのは職業を指していない。何せ作るのは表紙に登場する粘土人形だ。つまりは周囲が揶揄して呼んでいる。 呼ばれる相手はオリーヴ・マーティン、現在、無期懲役の刑に服している。母親と妹を切り刻み再び人間の形に並べて、台所の床に血みどろの抽象画を描いた。本当に彼女がやったのか。娘を亡くしてどん底にいるジャーナリスト・ロズが頼まれ仕事で彼女に近づいた事から過去の事件が動き始める。「くれぐれも気をつけるのよ。オリーヴについてたしかなことは、彼女はほぼどんなことにでも嘘をつくということだから」「物事ってそんなものじゃありません?いったん何かを疑いはじめると、見るものすべてがその疑念を裏付ける」 「われわれにとって困難なのは、自分たちの知っている人間に、あんな恐ろしいことがやれるという事実を受け入れることなんですよ。それはとりもなおさず、自分たちの判断力がいかに当てにならないかを認めることですからね」。何と沢山の人が“素直に信じちゃだめ”メッセージを送り込んでくることよ。これじゃあ疑いを持たない方が不自然だ。刑務所の中でのらりくらりと躱すオリーヴVSなめられまいとするロズの関係は、まるで『羊たちの沈黙』みたい。外に出られないにも関わらず、常にオリーヴが優位にある。ヒロインが恋に落ちるのも第一作『氷の家』と共通。初期の頃のロマンスは結構生々しい。 アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞作。【中古】 女彫刻家 /ミネット・ウォルターズ(著者),成川裕子(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 16, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。中村蒼さんもコロナ感染したとか。若い人がかかってますね。今日からミネット・ウォルターズ作品を紹介します。氷の家The Ice Houseミネット・ウォルターズ東京創元社 十年前に当主が失踪したストリーチ邸で正体不明の惨死体が発見される。はたして彼は誰なのか?そして、村人から“三人の魔女”と呼ばれる現在の当主たち。 ミネット・ウォルターズのデビュー作だが、本作も他作品で使われてきた「語り」スタイルの使い分けが行われている。1.記事 ストリーチ邸の主人の失踪事件と捜査打ち切りの記事2.地の文登場人物達全ての三人称但し1は冒頭のみで、2が圧倒的だ。 邸の名義は失踪した男性の子供達になっている。その母フィービと学生時代の友人ダイアナとアンが現在の住人で、フィービとダイアナにはそれぞれ子供がいる。それぞれ10代で妊娠、結婚、かつ女性三人で鄙びた田舎に住んでいる事から、周囲の住人からはその性的嗜好も含めて異端視されている。邸内がいわゆるウォルターズが設定した閉鎖空間にあたる。 ここに“まれびと”としてやってくるのがスコットランド出身のマクロクリン刑事で、BBCドラマでは若きダニエル・クレイグが演じている。彼を導くのは、かつて当主の失踪事件を扱ったウォルシュ部長刑事。彼の紹介によって読者も邸の住人達の人となりを知っていく。 内と外のひりひりするような対立を予測するが、デビュー作とあってミステリよりロマンス色が強めの印象を受けた。目指したのはコージーミステリで「容疑者が極めて狭い範囲のコミュニティに属している」点からすれば勿論当てはまる。だがクリスティのマープルもののような村とは明らかにイメージが異なる。氷の家【電子書籍】[ ミネット・ウォルターズ ]楽天Kobo電子書籍ストア
June 15, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。中日の二軍コーチの失踪事件って何なんでしょうね。今日はケン・リュウの新作を紹介します。宇宙の春 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)Cosmic Spiring and Other Stories ケン・リュウゴミ山堀りをしているエイヴァ・サイドは顕現ワインを求めて逃げ出した弟ショーを探し求めるうち、二人の顕現者に会う。長い狩猟用ナイフを持ち、後に長槍を持つことになるフェイ・スウェルと、半月形の長刀を持つピニオン・ゲーツ。漢字に詳しければ音読み、ゲーム世代ならそれぞれのアイテムでもわかると思うが、二人のいずれかが関羽、張飛である。 顕現ワインなるものを読むと、人々はそれぞれ動物に変化する。最高位は勿論中国なので龍だが、勇ましい動物なら“それが本来の姿”と見なされ貴族に取り立てられる。さて、エイヴァ、フェイ、ピニオンにもそれぞれ顕現後の姿がある。答えとして邦題が思いっきりネタバレになっている「灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹Grey Rabbit,Crimson Mare,Coal Leopard」は『三国志』バリエーションだ。オリジナルでは酒飲みの乱暴者イメージがある張飛だが、本編では変化した姿が文句なしにカッコいい。劉備は残り者のアレなわけだが二人の劉備への信頼は厚い。かてて加えて主人公が全てレディースになっている。 ジェイムズ・ベルは、パートナーの死後引き取った思春期真っ只中の娘マギーと共に、惑星パオ・ベイにやって来る。長い間お互いの存在を知ることもなかった二人の相性は最悪。マギーはAIのジュリアを介して両親の歴史を辿っていくが…父娘の歴史を紐解く過程と、異星人が残したメッセージの意味を紐解く過程が二重写しになる「メッセージThe Message」というと、ばかうけのような物体が空中に浮かぶ映画の方が有名になってしまったが、こちらもなかなかいい。「映画化すれば」というレビュアーの声もあったが同感だ。ただ短編なので合間を埋めるのが難しいかも。 最後のメッセージに応えることなく姉が亡くなった。悲しみに沈む家族を襲うのは、最初はお悔みの嵐。そしていわれのない中傷だった。近未来SFとは思えないようなインターネット上の無名無数の攻撃が恐ろしい「思いと祈りThoughts and Prayers」やたらラストにむかって春節が出てくるなぁと思ったら【春節SF祭り】という企画だったらしい「宇宙の春Cosmic Spring 」「マクスウェルの悪魔Maxwell’s Demon」「ブックセイヴァBooksavr」「切り取りCutting」「充実した時間Quality TIme」「古生代で老後を過ごしましょうGolden Years in the Paleozoic」「歴史を終わらせた男―ドキュメンタリーThe Man Who Ended History:A Documentary」収録。宇宙の春 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) [ ケン・リュウ ]楽天ブックス
June 14, 2021
コメント(0)
みなさんこんばんは。有森裕子さんが聖火リレー辞退しましたね。今日はパラノーマル・ロマンスを紹介します。白い虎の月 タイガーズ・カース・シリーズ#1Tiger’s Curseコリーン・ハウック松山美保 (翻訳)ヴィレッジブックス大学進学を控えた夏休み。ケルシーは崖っぷちにいた。両親を亡くし、親戚の世話になってきたが、これからはひとりで生きていかなくてはならない。学費を稼ぐため、近所で開催されるサーカスでアルバイトを始めた。そこで青い瞳のホワイトタイガー、ディレン(レン)に出会い、心を奪われる。優雅な雰囲気の奥にどこか哀愁を感じたケルシーは、あいた時間をみつけてはレンの檻に通い続けるうちに、レンとの時間が唯一の癒しになっていく。だがある日、不思議な老紳士が現れ、レンを買い取ってインドの保護区に連れ帰るという。レンと離れがたいケルシーは、言われるままレンの移送に付き添うことを決意した。ところがインドにたどりついたある晩、ケルシーの前に謎の美青年が現れる。それは、長い時を超えた壮大な冒険のはじまりだった。 5部作らしいが、日本では第二作までしか翻訳されていないパラノーマル・ロマンスもの。冒頭に虎になった事情が明かされており「一人の女性を巡って争う兄弟」というモチーフが、現代において繰り返される(ありがちだ)。 兄レンは変身すると白い虎。正統派王子様。長男として国王となるべく育てられた模範生。弟のキーシャンは黒い虎。兄の恋人と恋に落ちたことが全ての悲劇の始まりになる。自らの罪の重さも自覚しながらも、再び兄の思い人ケルシーに惹かれていく。弟として自由に育てられたため、レンよりも感情表現が豊か。どこまで本当かわからないアプローチをしてケルシーを戸惑わせるが、ふと見せる寂しさや苦しみの表情に萌え。タイプの異なる男子に求愛される、フツーの女の子という設定は、パラノーマルロマンスでなくてもテッパン。虎になったカレに顔をうずめる場面もあり、もふもふ好きにはいいかも。 ケルシーと虎兄弟のクエスト&その先にある悪党との対決&恋愛がメインテーマ。巨万の富を築いた虎兄弟のおかげで、貧しかったケルシーがまるでお姫様のような旅行をするのもティーンの憧れ要素。 ただ途中までは元王子様にぼうっとなっていたケルシーなのに「自分とは身分違いだ」「カレを縛ってはいけない」とぐずぐずし出すのでイライラ。呪いが解ければ全然禁断の恋ではないのに、自分で垣根を設けるのは長く続けるためのフックなのだろうが、やや不自然。【中古】白い虎の月 / コリーン・ハウックネットオフ楽天市場支店
June 6, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。キューバのラウル・カストロ氏の退任が決まりましたね。カストロ政治の終わりですね。今日から二日間パラノーマル・ロマンスを紹介します。シヴァ 狼の恋人(上下)Shiverマギー・スティーフベーターソフトバンククリエイティブパラノーマル・ロマンス―実はこんな名称があることすら知らなかった。もちろん映画『トワイライト』3部作は知っている。あれ、もしかして『ドラキュラ』もそう?いや、あれは魔力で虜にするから違うのか。超常現象要素を含んだ恋愛小説の総称らしい。そして本作もこのジャンルである。 上下巻並べるように表紙がデザインされている。上巻は人間の顔が、下巻は狼の顔が色濃く出るようになっていて、話を読むと絶対にこの順番でなければならない。 邦題が思いっきりネタバレしているが、つまりはそういう話だ。二人の出会いは幼い頃、季節は雪の頃、森。グレースは狼に襲われたが、ただ一匹助けてくれた狼がいた。その“黄色い瞳”の狼が忘れられずに17歳の高校生になったグレースは、浮いた噂一つない。そんな時、地元の高校生が狼に襲われ、死体が発見されないという事件が起こる。大人達は山狩りに出かけるが、グレースは黄色い狼の事が気になってしまう。そしてある男性と運命的な出会いをする。 広く知られている狼への変身は「月に吠える」「丸いものを見ると変身する」だが本編は今までにない要素を持ち出した。その要素こそが、グレースが冬に彼と会えない原因でもある。狼である時のワイルドっぽさをどこかに漂わせながらも、人間の時はシャイで優しく、詩を愛する若者なんて、ティーンの理想の王子様そのものだ。そして禁断の恋ほど燃え上がるものはない。 惜しむらくは、三部作と発表されていたのに、下巻以降の刊行がない点だ。惜しい所で終わっているのでぜひケリをつけて欲しい。シヴァ(上) 狼の恋人 [ マギー・スティーフベーター ]シヴァ 狼の恋人(下) [ハードカバー] マギー・スティーフベーター; 橋本 恵9784797361100【中古】楽天ブックス
June 5, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。東急ハンズ池袋店が9月に閉店とか。よく行ってたのに残念です。今日はミステリを紹介します。金蠅 (ハヤカワ・ミステリ 386)The Cases of The Golden Flyエドマンド・クリスピンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス オックスフォード大学セント・クリストファ学寮の第二中庭の南側全部を占めるジャーヴァス・フェンの部屋で、妻のドリー、新聞記者ナイジェル、警察署長サー・リチャード・フリーマン、オクスフォード・レパトリー劇場で上演する芝居「詩作狂」の作者で劇作家のロバート・ウォーナーが老教授ウィルクスの幽霊話を聞いていた。学寮で男の幽霊が夜な夜な人を脅かすという。 「なにしろ、問題は人を殺すということで、それがどんな殺し方になるかということは別だ。殺人は殺人を呼ぶものなんだ。だから、いつか、なんらかの方法で」その時銃声が響き、かけつけた人の前には額の真ん中に黒い穴をあけられた女優イズー・ハスケルの姿が。列車に御用心でも列車描写が多かったクリスピン。今回も「イギリスの各地からやってくる貨物列車の線路は大混雑で、藻の海のまん中に、神話の潮流が行方不明になった船を運んできてつくる島を思わせる。」「おまけに、田舎の墓地で昔みられたヴァルプルギスの夜祭りを思わせるような、材木と金属の引き裂ける音まで聞こえる。」「そのそばで機関車は亡霊のような執拗さで動こうとしない。突発的な悲鳴をあげ、死体愛好の歓喜にうなってみせる。はげしい疼くような抑圧感が迫ってくる。」「これでは地獄へ渡る三途の川の渡し舟が流れの途中で立ち往生し、死者は冥土へ進むことも、浮世へ引き返すこともできないといった有様である。」まるで生き物であるかのような機関車とこの世でないかのような凄まじい駅の混雑が描かれる。 列車の中に英文学の教授ジャーヴィス・フェン、演出家シーラ・マックゴー、劇作家ロバート・ウォーナー、新聞記者ナイジェル、警察署長サー・リチャード・フリーマンが乗っていて殺人現場となるオックスフォードへやってくる。「あんな女は殺したって平気だよ」「いやな女。自惚れて、利己的な女。あの女さえいなければ…もし誰かがひと思いに…」 列車の中から特定の人物に対する敵意が複数人物から語られ、その通りに人が殺される筋立ては、クリスティ作品でもお馴染みだ。敵意が複数であるため、いずれも加害者になる動機を持つ。斬り込んでいくのは素人探偵ジャーヴィス・フェンで、警察署長フリーマンとはお互いの専門のことで侃々諤々議論を戦わせる間柄というのがユニーク。 兼業で映画音楽の作曲家もやっているエドマンド・クリスピンの大学在学中のデビュー作。時代が古いこともあって脱字などが目立つ点が残念。探偵が大学教授で舞台が大学であるため、シェイクスピアへの言及が多い。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【100g増量中!!】送料無料 無塩 小袋 オイル不使用 ナッツ ピーカンナッツ アーモンド ピスタチオ カシューナッツ 健康 美容 おつまみ 小分け 日本製 お中元 おやつ 素焼き・無添加贅沢4種のこのみみミックスナッツ 500g(100g増量中)価格:1000円(税込、送料無料) (2021/3/27時点)楽天で購入
June 2, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。聖火マラソンで結構陽性者が出てるそうですね。さて、今日はイタリアのミステリを紹介します。七つの墓碑 (ハヤカワ文庫 NV)La Settima Lapideイーゴル・デ・アミーチスナポリ近郊の墓地で惨殺死体が発見された。犠牲者はカモッラ・ファミリーのボス、「元帥(マレシャッロ)」ことヴィットリアーノ・エスポージト。その名が刻まれた墓碑の前に捨てられていたのだ。だが、墓碑はひとつではなかった。ヴィットリアーノ以外のものは名前と生年月日のみで、命日は記載されていない。全部で七つの墓碑が、これからの殺害を予告するかのように残されていた。警察の懸命の捜査にもかかわらず、犯人の魔手は次なる犠牲者へと忍び寄る。そのころ、七番目の墓碑に名を刻まれた男、「突撃砲(テイラドリット)」ことミケーレが二十年間の服役生活を終え、刑務所を出所する。 イタリア語で復讐はヴェンデッタと言う。いかにも粘っこい血液が滴りそうな語感だ。本編はずばりヴェンデッタの物語だ。墓堀男と名乗る謎の人物が、一人を殺して早々にあと六人の死亡をも予告する。ただ殺したいだけならば、わざわざ宣言する必要はない。名指しされた人物の中にはマフィアの実力者もいる。成功させたいならば宣言しない方が実現しやすい。他国に逃げられてしまったらどうするのか。それともやり遂げる相当の自信があるのか。その人物とは誰なのか。 事件となれば活躍するのが捜査陣だが、こちらはあまり当てにならない。マフィアが社会の中に存在するのが当たり前という世界で厳しい追及は出来ず、常に後追いになったり、悪くすれば刑事との癒着もある。そんな中で一人気炎を吐く刑事がいた。彼の苦闘は実るのか。 墓堀男がミケーレでない事は確かだ。最初の犠牲者が出た時、彼は刑務所にいた。ところがなぜか間もなく釈放される。彼は刑務所内で或る事実を知り、こちらもヴェンデッタに走る。勿論それを知った相手も返り討ちに走る。各章の前にはミケーレが影響を受けた文学作品からの引用が挿入される。ただのやくざ者が読書と獄中での体験を経て、最強の男として現れる敵を倒していく一連の彼の行動は、獄中で読んだ作品として登場する『モンテ・クリスト伯』に似ている。あまりにも彼の主役感が強く、墓堀男は彼のフェイクではないかとも感じた。しかし過去を回想するシークエンスで、彼もまたヴェンデッタされる側にあることがわかる。 二つのヴェンデッタが絡み合いながら進行し、クライマックスへ。ヴェンデッタの名にふさわしく血が滴り迸る。映像化したら映えそうだが残酷描写があるのでどうだろう。韓国映画もかなり容赦ない“身体器官ぶった切り”シーンが出てくるが、マカロニ・ウェスタンの系譜を汲むイタリア・ミステリならタメを張れるのでは。七つの墓碑 (ハヤカワ文庫NV) [ イーゴル・デ・アミーチス ]楽天ブックス
June 1, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。大規模接種が17日始まりましたね。今日もフレッド・ヴァルガス作品を紹介します。裏返しの男L’Homme A Lenversフレッド・ヴァルガス創元推理文庫冒頭はアルプスで話し合っている男二人。そのうちの一人でグリズリーと狼の研究家ローレンスは、何と狼一匹一匹に名前をつけている(シートンか)。更に禁じられていることだが、餌を獲れない狼にこっそり与えてもいる。研究対象としてもちょっと入れ込みすぎじゃないか。そんな時、羊がかみ殺される事件が相次ぎ、ローレンスはある男を狼男&犯人呼ばわりする。ちなみに狼男には毛が無いそうだ。じゃあなんで月夜の晩にあの姿になるか。それは本書でお確かめを。 さて一方、我らがアダムスベルグ警視は、その気もないのに初めての殺人をして女性に狙われる。更に、とあるテレビで忘れようとしても思い出せない元カノカミーユを見かけて以来、狼に取りつかれてしまう。そんな場合じゃない自分の身を守ろうよアダムスベルグ。そんな事を言ってもダメ。何せ彼は「アダムスベルグの考えは気体、液体、固体のどれでもない、何か判然としないものだった。ただ判然としないだけでなく、何の脈絡もなく別の考えについたり離れたりする。そして、ダングラールが研ぎ澄まされた精神で選別し、分類し、並べ替え、整然と結論を導き出すのに対して、アダムスベルグは分析を混同し、踏むべき段階を逆に踏み、一貫性などそっちのけで風と戯れ、最後には例の緩慢な動きで混沌から真実を引き出す。アダムスベルグにはアダムスベルグだけの論理があるのだろう。狂人と天才もそうだ。ダングラールはもう何年も前からアダムスベルグに対して賛嘆と混乱の両極端に引き裂かれて右往左往し、それでもかろうじて平衡を保ってきた。」だから。不憫だダングラール。なんか前夜徹夜して試験勉強した秀才の横を、爆睡した天才が満点かっさらっていくイメージ。そんなアダムスベルグの思い人カミーユもちょっとカワリモノだ。事のなりゆきで狼男&犯人説を信じる二人組と追跡行をする羽目になるが、そんな優秀な警官と知り合いなら頼んでくれと頼まれた時のカミーユのアダムスベルグ評がこれ。「もうすっかり関係なくなった過去の、命のない重いぼろっきれを動かすなんて、鬱陶しい。出がけにガス栓を閉め忘れたかなと思って引き返すときの、あのうんざりした気持。無駄な回り道、骨折り損のくたびれもうけ。焼け跡を通るときの疲労困憊の感覚。」可哀想アダムスベルグ。それでもさほどショックを受けた様子を見せず捜査にあたる彼の先にあるものは希望かそれとも。以下本巻(当たり前だ)。裏返しの男 (創元推理文庫) [ フレッド・ヴァルガス ]楽天ブックス
May 17, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。北朝鮮がオリンピックボイコットを表明しましたね。今日もフレッド・ヴァルガス作品を紹介します。彼の個人的な運命 (創元推理文庫)Sans feu ni lieu フレッド・ヴァルガス 前回の事件で世の中の犯罪にはもう関わるまいと決めた元内務省調査員ルイ・ケルヴェレールは、ビスマルク伝記の翻訳をしながらも、二週間の間に二人の女性が殺された事件が載っている新聞の見出しが気になって仕方がない。。ヒキガエルのビュフォにできることだけやっていればいいんだよと言いながら、詳細が載っている頁に手を伸ばす。 連続殺人事件の容疑者と目されるアコーデオン弾きの青年クレマンをよく知っている女性マルトは、親に捨てられた幼い彼に読み書きを教えた過去にほだされ、知り合いのルイを頼る。ルイが頼るのは通称ボロ館の住人である三聖人こと三人の歴史学者マルク、マティアス、リュシアンとマルクの伯父で元刑事のアルマンだ。 アダムスベルグ警部シリーズで知られるフレッド・ヴァルガス作品には、蘊蓄を語る登場人物が欠かせない。本編の三聖人は、それぞれ専門分野を持つ極めつけの蘊蓄の塊である。そして塊はしばしば暴走し、凡人を呆れさせる。今回も例に漏れず、第一次大戦専門のリュシアンが、興奮した面持ちでネルヴァルの詩を引用して第三の殺人現場を予言する。現実主義者&現場主義者のルイは「人生から何かを学んだらどうだ。君のいかれた戦争や、いかれた詩からだけじゃなく。学ぶんだ。詩を飾り立てるために人を殺すやつなどいない。モミの木にクリスマスの飾りをつけるみたいに、詩に飾りをつけるのに女を殺すやつなどいないんだ!これまでにそんなやつはいなかったし、これからもいない。これは理論なんかじゃない、現実なんだ。人生はそんなものだし、殺人とはそういうものだ。本物の殺人はな!その繊細な頭の中ででっち上げたものとは違って。そして、おれたちが今話しているのは、本物の殺人なんだ。形式美に溺れた装飾なんかじゃないんだよ。」立て板に水!の勢いでリュシアンを論破。だがその翌日、殺人が起きた現場の名前はリュシアンの予言通りだった。さあどうするルイ。 ヴァルガス作品は会話の妙で読ませる。例えばルイが警察の情報を得る&捜査を誘導するためにロワゼル本部長を利用しようとする件。どうやってこの話を持ち掛けるつもりだと聞かれたルイが「この事件にはなんとなく記憶を刺激されるが、何が気になるのかよくわからない、とか、そんな類のでたらめを言うよ」と言いながら、自分でもいい加減だなと思っていた。しかし実際ロワゼルに会うと、その通りの台詞を言って、まんまと情報を引き出しにかかる。いくら借りがあるからと言って一般人に情報公開しすぎだ本部長。他にもルイが容疑者を匿っているとは夢にも思わないロワゼルが、容疑者と匿っている相手についてあれこれ推理するのをルイがしらーっとした顔で聞いている場面など、俯瞰して作品を見ている読者だけが楽しめるシーンが満載送料無料【中古】彼の個人的な運命 (創元推理文庫)ブックサプライ
May 16, 2021
コメント(0)
みなさん、こんばんは。スギ薬局会長だけじゃないぬけがけ接種が増えてきましたね。今日から3日間フレッド・ヴァルガスの小説を紹介します。論理は右手にUn peu plus loin sur la droiteフレッド・ヴァルガス創元推理文庫 パリの街路樹の根もとに落ちていた犬の糞から出た人骨。元内務省調査員の変わり者・ケルヴェレールは、独自の調査を開始する。若い歴史学者マルク=通称聖マルコを助手に、彼はブルターニュの村の犬を探り当てる。そこでは最近老女が海辺で事故死していた。骨は彼女のものなのか? “三聖人シリーズ”第二弾と銘打っているが、主役はルイ(マルトに言わせるとリュドヴィグ、マルトって誰って?いやぁ…)だ。「アダムスベルグ警視に相談しに行ったら既に異動した後だった」という記述があるので別シリーズとも繋がっている。大変粘着質な性格をアピールポイントとして内務調査員として働いてきた。「地雷を除去し、冷酷な人間と悪臭を放つ思考を追跡した二十五年間。気を張り詰めた二十五年。」 かなりキツい仕事だったのだから、リタイアメントしてやれやれ、と落ち着けばいいのに性格上人間観察がやめられない。他人にとってはどうでもいい事が気にかかり、遂に隠されていた殺人事件を探し当ててしまう!をを、天は彼に味方せり! とはいうものの、読者だけは最初からこれが事件であることを知っている。なぜならば途中明らかに太字のフォントで犯人らしきモノローグが登場するからだ。「この世には考えも及ばないような馬鹿がいるものだ。必ず、そういう馬鹿が何かに気づく可能性を考えておかなくては。予測する、それが秘訣。」 犯人が備えるべき馬鹿というのが誰かは予想の通り。 馬鹿の手足となるのは、中世史を専攻するマルコをはじめとする三聖人、今回のパシリ一号はマルコだ。人間観察に余念がない馬鹿の代わりに、寒い夜に公園の決められたベンチを定点観測。何があるかわからないのに頼む方も頼む方だが、黙って従う方も相当だ。ヴァルガス作品は登場人物の噛み合わないやり取りが魅力だが、今回マルコとルイの真面目過ぎて噛み合わない会話の数々に笑いが止まらない。【中古】論理は右手に (創元推理文庫)/フレッド ヴァルガス、Fred Vargas、藤田 真利子買取王子
May 15, 2021
コメント(0)
全733件 (733件中 201-250件目)