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みなさんこんばんは。 アニメ『ちびまる子ちゃん』でまる子を演じ続けてきた声優のTARAKOさんが3月4日未明に亡くなられましたね。今日は様々な綽名を持つ王についてのエッセイを紹介します。王の綽名佐藤賢一日経BP 日本経済新聞出版今も伝わる55人の王につけられた綽名を紹介。中には、それ綽名じゃなく明らかに悪口だろ?ていうものもある。サトケンにしたらえらくナンパな企画だなぁと思ったら日経BP社だった。禿頭王 西フランク王 シャルル2世いや身体的特徴を綽名につけるのはさ、どう?だってみんな年取ったらはげるでしょう。ましてや、肖像画を見ると髪フサフサだったそうで、本人怒るでしょう。一時的に剃髪(フランシスコ・ザビエルカット)したからだとか。青歯王 デンマーク王 ハーラル1世だから身体的特徴を綽名にするのは…って、虫歯まみれだったらしい。まあ、昔の衛生事情はひどかったので。合羽王 フランス王 ユーグ・カペーえっ、合羽?あの黄色い?かわいすぎる。というか随分と王の威厳のないコスプレだ。いえいえ、僧服らしいですよ。ちなみにカペー朝はフランス革命まで続きました。ルイ16世がただの人になった時、ルイ・カペーになったので。獅子心王 イングランド王 リチャード1世これは最も有名ですよね。ライオンハート。『ロビン・フッド』に登場する勇ましくかっこいい王。映画ではショーン・コネリーが演じていました。ただ、国民に言わせると、やたら他国に攻め入るのが大好きで、国内放ったらかしだったとか。映画『冬のライオン』にも出てきます。欠地王 イングランド王 ジョン1世失地王とも言います。理由はその通り、領土を失ったから。獅子心王リチャードの弟で、映画では兄のいない隙に悪事を働く悪役設定。吉田鋼太郎さんのシェイクスピア劇でも最後でした。賢王 フランス王 シャルル5世頼りない王が、同じくだらしないベルトラン・デュ・ゲクランと出会って、最強王国フランスを築いていくサトケンの小説双頭の鷲の一方の主役。狂王 フランス王 シャルル6世シャルル5世の息子でシェイクスピア劇『ヘンリー5世』の時代のフランス王。勝利王 フランス王 シャルル7世シャルル6世の息子で『ヘンリー6世』で王太子シャルルとして登場。豪華王 ロレンツォ・デ・メディチこの方だけ王侯ではない。人民の王という感じ。メディチ家隆盛の頃、フィレンツェの事実上の支配者。総領冬実さんの漫画『チェーザレ』でも大絶賛。雷帝 ロシア皇帝 イヴァン4世息子を殺してしまうあの有名なおっかない皇帝です。血塗れ女王 イングランド女王 メアリー1世ここも有名ですね。いわゆるブラッディ・メアリ。カソリックに染まっていたエリザベス女王の異母姉。処女王 イングランド女王 エリザベス1世“女王の時代にイングランドは栄える”の法則を作った人。処女王かどうかは…ごにょごにょ。小王 フランク王 ピピン1世敬虔帝 フランク皇帝 ルートヴィッヒ1世禿頭王 西フランク王 シャルル2世肥満帝 フランク皇帝 カール3世単純王 西フランク王 シャルル3世美髪王 ノルウェー王 ハーラル1世捕鳥王 東フランク王 ハインリヒ1世殉教王 イングランド王 エドワード聖大公 キーウ大公 ウォロディーミル1世征服王 イングランド王 ウィリアム1世文人王 ハンガリー王 カールマーン勇敢王 カスティーリャ王 アルフォンソ6世戦士王 アラゴン王 アリフォンソ1世修道士王 アラゴン王 レミーロ2世赤髭帝 神聖ローマ皇帝 フリードリヒ1世尊厳王 フランス王 フィリップ2世入植王 ポルトガル王 サンシュ1世熊侯 ブランデンブルク侯 アルブレヒト1世詩人王 ナバラ王 テオバルド1世黒女伯 フランドル女伯 マルグリット2世長脛王 イングランド王 エドワード1世美男王 フランス王 フィリップ4世フランスの雌狼 イングランド王妃 イザベラ金袋大公 モスクワ大公 イヴァン1世大口女伯 チロル女伯 マルガレーテ残酷王 ポルトガル王 ペドロ1世黒太子 イングランド王太子 エドワード良王 フランス王 ジャン2世悪王 ナバラ王 カルロス2世突進公 ブールゴーニュ公 シャルル平和公 サヴォイア公 アメデオ8世ドラキュラ公 ワラキア公 ヴラド3世航海王子 ポルトガル王子 エンリケ不能王 カスティーリャ王 エンリケ4世カトリック両王 カスティーリャ女王 イザベル1世&アラゴン王 フェランド2世狂女王 スペイン女王 フワナ1世慎重王 スペイン王 フェリペ2世待望王 ポルトガル王 セバスティアン1世助平ジジイ フランス王 アンリ4世殉教王 イギリス王 チャールズ1世太陽王 フランス王 ルイ14世最愛王 フランス王 ルイ15世解放皇帝 ブラジル皇帝 ペドロ1世市民王 フランス王 ルイ・フィリップ さあ、あなたはどれだけご存じですか?王の綽名 [ 佐藤賢一 ]楽天ブックス
March 28, 2024
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みなさんこんばんは。まだ石川県で余震と見られる地震が続いていますね。今日も鹿島茂さんの著書を紹介します。ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815 鹿島茂講談社学術文庫 二十世紀は、性欲と物欲という二大情念に捕えられている人間をどうすれば解放できるか?というテーマにマルクスとフロイトが挑んだ。両方を完全に満たした人間とは、つまりはプレイガール&プレイボーイだ。では、彼らは二十一世紀において幸福な人間と言えるのか? マルクスにユートピアの概念を与えた十九世紀シャルル・フーリエは情念=パッションが満たされた時、初めて人類は幸福に到達できると述べた。情念も様々で、今回取り上げたのは、高位置の洗練的四情念が満たされたのは、フランス革命からワーテルローの会戦にかけての時代だった。その時代といえば、ずばりナポレオンが活躍した時代である。 ジョセフ・フーシェは陰謀情念、移り気情念はタレーラン、熱狂情念はナポレオン。バルザックはナポレオン最大の失敗は、タレーランとフーシェという二つの偉大な才能を使いこなせなかったことだと断定している。お互いに異なる情念の持主なのだから、適材適所で生かせばいいものを、引力よりも斥力が働いて、ナポレオン帝国は瓦解したとみる。 まるで小説みたいに楽しめるのは、常勝で鳴らしたナポレオンが、ロシア攻めだけは失敗して、奥深くに入り込んで貴重な兵力を悉く失ってしまう件と、負けた国の大臣であるにもかかわらず、ウィーン会議でタレイランが暗躍する件である。フーシェはきっと未来でフーヴァー長官に転生したに違いない。ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815 (講談社学術文庫) [ 鹿島 茂 ]楽天ブックス
January 8, 2024
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みなさんこんばんは。写真家篠山紀信さんが亡くなりましたね。今日も鹿島茂さんの著書を紹介します。蕩尽王、パリをゆく―薩摩治郎八伝鹿島茂新潮選書 細かいが、散財と蕩尽は意味が違う。蕩尽= 財産などをつかい果たすこと。すっかりなくすこと。費やし尽くすこと。散財=不必要なことに金銭をつかうこと。また、いろいろなことで金銭を多く費やすこと。 蕩尽は使い果たす、全て無くしてしまうまで使うことだ。普通、人はそこまで思い切りよく金は使えない。ましてや、倹約好きのちまちました日本人は、できない。 しかしやってのけた日本人がいる。木綿で巨利を得た貿易商の家に生まれた薩摩治兵衛だ。ちなみに三代目である。「売り家と唐様で書く三代目」を地で行ったことになる。バロン・サツマと呼ばれたが、男爵ではない。遊びっぷりがそれくらい豪快だったということだ。 昭和初期、まずはロンドン留学。次に全盛期のパリに移り、イザドラ・ダンカン、ラヴェル、藤田嗣治ら著名文化人と交流する。結婚した千代子夫人に上流階級教育を施し(もちろん金をたんまりかけて)ファッションはパリ中の注目の的となり、メディアにも掲載された。さらに、フランス政府にパリ日本館の建設費まで寄贈し、「東洋のロックフェラー」と呼ばれた。中途半端に残すのではなく、きれいさっぱり使い切ったことで、一種の美学と称賛された。 但し家族はたまったものではなかったろう。生まれた頃は戦勝国としてフランスフランよりも強い円で豪遊できたが、最後は太平洋戦争で日本は最貧国に転落する。少しの金でもあった方が、生活の足しになったはずだ。先のことを見越す癖が身についていれば、最後の方で少しは考えたろう。但し、普通の人ならば。 アーサー・コナン・ドイルやアラビアのロレンスとも出会ったと本人は書いているが、あいにく肝心な日時まで記載されていない。書かれた内容を元に具体的な日を絞っていくが、どうにも辻褄の合わない箇所もあるためご用心。蕩尽王、パリをゆくー薩摩治郎八伝ー(新潮選書)【電子書籍】[ 鹿島茂 ]楽天Kobo電子書籍ストア
January 7, 2024
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みなさんこんばんは。韓国の最大野党のイ・ジェミョン(李在明)代表が2日午前、訪問先で凶器を持った男に襲われました。韓国の警察によりますと、イ代表は病院に搬送される際、意識はあったということで、警察は男を拘束して詳しく調べています。今日から三日間鹿島茂さんの著作を紹介します。明日は舞踏会 (叢書メラヴィリア)鹿島茂作品社氏は、大学の講義で「限られた金額で十九世紀のパリで生活して体験談を書くこと」という素敵な課題を出した。貯金してお金はそのままの人もいれば、賭博で有り金をすってしまったという人もいた。その際「舞踏会でダンス経験」がかなり共通要素としてあった事を契機に『馬車を買いたい!』女性版を出そうと思ったそうだ。男性は馬車、女性はドレスに装飾品にお金をかけるのがステータス。 フローベールの『ボヴァリー夫人』バルザックの『二人の若妻の手記』『ゴリオ爺さん』が登場。『ボヴァリー夫人』では、舞踏会の経験が忘れられず、地味な田舎医師に嫁いだエンマが、次第に借金地獄にはまっていく。舞踏会が罪作りな存在に。『二人の若妻の手記』は修道院で暮らした親友二人が、対照的な生涯を描く様を書簡体で描く。舞踏会での出会いが素敵な結婚に発展…とまるでシンデレラストーリーのような生涯を送るヒロインが登場。『ゴリオ爺さん』では持参金の重要性が結婚の鍵を握るが、舞踏会は、持参金なしのヒロインがいい結婚相手を見つけるための絶好の機会なのだ。手練手管に長けたものだけが成功を手にする。しかし、『人間喜劇』のバルザック、ただのシンデレラストーリーで終わらないのはお約束。 それにしても、結婚が恋愛のゴールにならないのはさすがおフランス。奥様には午後に秘密の二時間(二時間というのがラブホの休憩時間だ)を持ち、チュイルリ公園がデートスポット、シャンゼリゼはランデブーの場所。あらオサレ!絵柄が多くて楽しめる。【中古】 明日は舞踏会 (叢書メラヴィリア)AJIMURA-SHOP
January 6, 2024
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みなさんこんばんは。国民民主党の山尾志桜里衆院議員が、政界を引退する意向を示しましたね。今日は中野京子さんのエッセイを紹介します。名画で読み解く プロイセン王家12の物語中野 京子光文社新書ハプスブルグ家、ブルボン家と同じくプロイセン王家にも姓はある。ホーレンツォレルン家といい、ホーレンは高いという意味だ。有名人はフリードリヒ大王とビスマルク。前者は国王、後者は鉄血宰相である。 フリードリヒ大王の肖像画、どんぐり眼が可愛いが、眼差しは鋭い。視線の先は亡き父親か。大王は妻帯したが同性愛者である。若き日に彼氏と逃亡を図ったがあっけなく捕まり、本人は塔に幽閉されたまま恋人の処刑を見せられる(が、正視できず本人失神)。いやいや父王、スパルタが過ぎる。怯んで心を入れ替える事を狙ったのだろうが、性癖は簡単に変えられない。むしろ恨みが募る。 仮面夫婦はいたが、妻を殺すような君主はいなかった。近臣結婚で血を絶やすこともなく、他の王家に比べて地味という印象だが、話題がないのはそれだけ真面目に国を富ませる事に集中したと言える。さすが質実剛健のゲルマン魂。鯨飲馬食した君主もいたが、国を傾けるようなヴィッテルスバッハ家や悪い賭けに乗るハプスブルグ家の失敗をよそに、ドイツ帝国誕生までひたすら駆け抜けた。中世の軛から抜けられないヨーロッパ諸国をよそに勢力を伸ばし、地図を次々と書き換えたのは、いつか大国になることを夢見るゲルマン魂だった。明治維新当時の日本もお手本としているので国民気質が似ていたのだろう。 しかし快進撃もここまで。ビスマルクが国際舞台から退場すると、彼の予言通りの末路を辿る。末裔が戦犯として裁かれなかったのがせめてもだ。上り詰めるまでは時間がかかるのに、落ちるのはあっという間の217年(うるうる)。名画で読み解く プロイセン王家12の物語 (光文社新書) [ 中野京子 ]楽天ブックス
September 14, 2021
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みなさん、こんばんは。NTTまで接待を受けてたんですね。総務省ずぶずぶですね。群ようこさんの小説を紹介します。無印おまじない物語群ようこ角川書店「どうせなら、不幸よりしあわせなほうがいいと思いませんか」(『義理の妹』より)なんて、人に言われるまでもない。誰でも幸せになりたい。でも、幸せになる確実な方法なんてないのだ。そう知っていながらも、つい心が弱った時には、藁だろうが何だろうが、すがりたくなる。本作は、そんな中で幸いにも(?)信じるものを見つけた人達が登場する、どこにでもいる普通人達の行状録「無印」シリーズである。しかしこんなにたくさん幸せになる方法があるとは、世間は本当に広い。懸賞にはまった妻のために、夫が望まぬセックスを強いられてしまう『ジンクス』には、笑いつつも夫に同情を禁じえないが、同じ体を使ったおまじないでも、『明るい未来』には爆笑した。通りすがりに呼び止められたおばさんに、はずみで失恋を告白してしまった主人公は、部屋に連れて行かれ、珍妙な体操をしながら、「わっははーい」「るりるりるーん」という意味不明の言葉を言うよう命じられる。奇天烈なかけ声の文字を見た途端に吹き出してしまった。そして笑い終わった後、こんなおまじないをちっとも信じていない主人公が、あり金全部渡すのでなく、千円をふところに残す図々しさを顧みて、「これから何があってもふてぶてしく生きていけるような気がした」くだりを読んで、人間って結構タフだなぁといたく感心してしまった。【中古】 無印おまじない物語 /群ようこ(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
March 16, 2021
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みなさん、こんばんは。藤井聡太くんすごいですね。王位と棋聖の二タイトルを最年少獲得です。今日も米原万里さんの著作を紹介します。彼女は数少ないロシア語通訳者だったのですがエピソードをたくさん持っています。ロシアは今日も荒れ模様米原万里講談社 宮城谷昌光氏「孟夏の太陽」に収録された「隼の城」に、こんな場面がある。趙家の総帥趙鞅(ちょうおう)が、子供達を山に連れて行き、「隠してある宝の符を探せ」と言う。実はこれは後継者選びを兼ねていた。夕方になり、憔悴して戻ってきた子供達のうちで、ただ一人、「符を見つけました。」と言ったのが、妾腹の無恤(ぶじゅつ)だった。彼は、次々に項垂れる子供達の顔を見ている父を眺めて、「そろいもそろって、あなたの子はたわけではありません。」と言おうとし、前述の言葉となった。「うちの息子達はみんな駄目だ。」と気落ちする父を励ましたかったのだ。その時、無恤はどんな顔をしていたか。きっと、ぶるぶると拳を震わせていただろう。 本書を読んでいると、なぜかあの場面の無恤の表情が浮かんできた。崩壊後、元気のない旧ソ連の人々の先頭に立った米原氏が、ぶるぶると拳を震わせ、こう言っているように感じた。「そろいもそろって、ロシア人は飲ん兵衛ばかりではありません。」 とはいえ、次から次へと出てくる酒絡みの小噺の多さから察するに、事実彼等は、酒をたくさん飲むのだろう。日本人の感覚からすれば、うわばみと言われる位に。だが、一度でも冬の大陸を渡った者ならわかる。地面についている靴を伝って、這い昇ってきた寒さが、遂に頭のてっぺんに達した時の「ひゃあ! 寒い!」という感覚。半端ではない。あれだけの寒さに対抗するのには、体の中でぼうぼう火を燃やすしかないのだ。そう、酒には寒さ対策という、立派な健康上の理由もあるのだ!ほら、そう考えると、むげに「ロシア人って飲ん兵衛ばっか!」と言い捨てられないのでは?…と、言ってるそばから管を巻く某政府要人が登場!あーらら、せっかくフォローしたのに。 と、まあこんな酒絡みのエピソード以外にも、驚きのトイレ体験や、音楽家が日本で気に入ってしまった意外なもの、要人達の素顔などが収録されていて、くすくす笑ったり、呆れたり、読む側は百面相に忙しい。そしてこの中には、後の著書「真夜中の太陽」に育ってゆく、日本への批判の目(芽)、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」に育ってゆく、国家の影響を受けたごく普通の人々へ向けられた目(芽)等、後に花開き、実を結ぶ双葉がそこかしこに見受けられた。「栴檀(せんだん)は双葉より芳(かんば)し」といいますが、この双葉、ちょっとウォッカ臭い。でも、ロシアへの愛に溢れてるから、悪酔いはしないだろう、多分。我と思わん酒飲みの貴方、どうです? 試してみませんか?【中古】 ロシアは今日も荒れ模様 講談社文庫/米原万里(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
August 21, 2020
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みなさん、こんばんは。渡哲也さんが亡くなりましたね。今日から二日間米原万里さんの著作を紹介します。彼女はとにかく文章巧者でした。オリガ・モリソヴナの反語法米原万里集英社1960年。志摩の通う、ソビエト大使館付属八年制普通学校の名物と言えば彼女だった。ど派手な服装で「ああ、神様!これぞ神様が与えて下さった天分でなくてなんだろう!あたしゃ嬉しくて嬉しくて嬉しくて狂い死にしそうだね!」と天を仰ぐその人は、オリガ・モリソヴナ。ダンス教師、特技は反語法。彼女の仲良しでフランス語の先生、エレオノーラは志摩を見つけると「あなた、中国の方?」と何度でも聞いてくる典雅な婦人。そんな二人が揃って「アルジェリア」に示した反応が気になった志摩は、その謎を探る旅に出る。 私には、名物教師の記憶はないけれど、今でもそらで言える幼い頃に読んだ本の一節が、いくつかある。だから、反語法の数々を30年経った今でもそらで言える志摩にとって、モリソヴナがどんなに印象的だったかよくわかる。 唐突に遊びに来た友達。転んだ来賓。暗い目をした美少年。謎の娘。小さい頃に聞き流していた出来事の裏が次々と解き明かされてゆく中で、謎が謎を生む展開は、ミステリーとしても手応え十分。おまけに志摩が日本に帰る日は決まっている、いわばタイムリミットつきときているのだから、読んでいるこちらも「果たして間に合うのか?」と、はらはらしながらページを繰る。途中食事のシーンが入る。「ああ、食べてる場合じゃないってば!こういう時に言う、いい反語法表現はないかしらん?」と天を仰ぎたくなった。でも、良く食べるせいか、彼女のフットワークは非常に軽い。劇場、図書館、ミュージックホール、バレエ学校。言葉の壁を持たない翻訳家の彼女は、グラスノスチ以降という時代の流れも味方につけ、開かないドアも友人、知人の助けを得て、見事情報を手に入れる。 あっぱれ志摩。 志摩が、収容所の生き残りである女性から聞くスターリン時代の収容所での暮らしは、苛烈を極める。緊張と恐怖の中で、何と多くの、数え切れない程の未来と才能、そして命が押し潰されてきたことか。そしてまた何と多くの希望と善意、数え切れない程の反語法がやりとりされてきたことか。同じ人間に、ここまで酷い事ができるのが人間。それでも尚、こんなに強く、優しくなれるのも人間。人間に対する怒りと感嘆、肯定と否定。ああ、人間って、人間って。何て言っていいのやら。二つの思いを同時に言い表せる言葉が見つからない。これをすっきりさせる言葉は、やっぱりこれしかないだろう。「ああ、神様!これぞ神様が与えて下さった天分でなくてなんだろう!」オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫) [ 米原万里 ]楽天ブックス
August 20, 2020
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みなさんこんばんは。2月はコロナウィルス一色でしたね。さて、今日は電車が好きなある少年の話を紹介します。昭和電車少年実相寺昭雄ちくま文庫 駅のホームで、一番端に陣取って、カメラを構えている人達を、たまに見かける。だが、やっぱり列車は止まっているのを眺めるより、乗っている方が楽しい。子供の頃にブームだったブルートレイン、今は殆どないディーゼルカー、『青い光の超特急~時速250キロ~』なんて、歌にもなった新幹線。そして、海外に行った時は、バスよりも飛行機よりも、一番手近な交通手段として重宝した列車。それほど生活に欠かせない存在なのに、語り尽くすほどの情熱も、知識も持っていない。 そんな列車について、ウルトラマンシリーズで有名な、実相寺監督が綴ったのが本書である。「十八時間もかかる寝台列車の旅が好き」(p28)と語ったり、交通博物館への熱い思いを綴った文章を読んでいると、「人って好きなものの前では子供みたいに素直になるんだな」と思った。宇宙人がなぜか列車の中で会話している「宇宙の仇は、長崎で」なんて一篇は、「監督、遊んでるな」と微笑ましく思った。電車の形式の説明や、その頃の周りの様子なども描かれているので、鉄道ファンや、監督と同世代の人達にはとても懐かしいだろう。昭和電車少年 ちくま文庫 / 実相寺昭雄 【文庫】HMV&BOOKS online 1号店
February 29, 2020
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みなさん、こんばんは。古本はお好きですか?小説家の角田光代さんは古本がお好きみたいですよ。古本道場角田光代&岡崎武志ポプラ文庫引っ越したり職場を変わった時に、まず探すのが図書館と書店だった。なのに今は、実際行って本がないとイヤなので、なるべく無駄を無くそうと「ネットで調べればいい。そしてあったら、ネットで買えばいい」と考える。「古本道を究めた師匠・岡崎氏の指令を受けて、作家・角田氏が実際の書店を訪れ、依頼された本を探す」という本作の企画は、こうした発想とはまるで逆だ。体験記から自然と浮かび上がるのは、「本とは何か」「書店とは何か」ということと、便利さの代わりに我々が失ったもの。「(書店で)棚から棚を見ていくうち、忘れていたいろんなことがぽろぽろぽろぽろ勝手に思い出(p21)」された経験。「とおりいっぺんの現実とはべつに、時間の沈殿する不思議に静かな空間を、その魅力を、知って大人に(p108)」なっていった学生時代。鎌倉の古書店を訪ね、今は亡き米原万里さんを訪問した、なんてエピソードもある。意外だったのは、幕張メッセに行くための通過駅や、出張で新幹線に乗る出発地点としか見ていなかった東京駅構内に、古書店があったこと。せかせかした日常から離れたくなった時、訪れてみようっと。古本道場 (ポプラ文庫) [ 角田光代 ]楽天ブックス
December 20, 2019
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みなさん、こんばんは。今日は何の日か知っていますか?朝、目覚めると、戦争が始まっていました方丈社編集部、武田砂鉄方丈社 男女が表紙写真で新聞を広げている。男性は微妙だが、女性は微笑んでいる。表に踊っている見出しは“米英に宣戦を布告”。昭和16年12月8日朝である。運命の日は、こんなふうに穏やかに始まった。本編はラジオニュース(午前七時)から始まり、ラジオニュース(午後九時)で終わる。今ほどテレビが普及していなかった時代だ。頼りになるのは声しかないし、限られた情報である。午前十二時・東條英機首相演説から九時まで五回にわたって放送が行われた。 東條英機首相演説では「東亜全曲の平和はこれを念願する帝国のあらゆる努力にもかかわらず、遂に決裂のやむなきに至った」「遂には帝国の存立をも危殆に陥らしむる結果となる」と言い訳が並ぶ。そして「自存自衛を全うするため(中略)立ちあがるのやむなきに至った」と結ばれる。 「ペルリによって武力的に開国を迫られた我が国の、これこそ最初にして最大の苛烈極まる返答であり復讐 維新以来我ら祖先の抱いた無念の思いを、一挙にして晴すべきときが来た」と捲土重来を果たそうと燃えている者もいれば、わかりやすくラジオに向かって「ばかやろう!」とどなった者もいる。「もっと強くこの戦争に反対することができていたなら」と悔やむ者もいる。 誰が言ったかは特に書かない。結果から12月8日の言動を見れば二通りの判断ができるが、実はそれは後出しじゃんけんのようで、あまり意味がない。それにここには戦争に兵士を送り出す側の女性の声がない。しかし男性だけでも、これだけ意見のばらつきがあったのだ。誰もが一億火の玉になって進んでいったわけでもなければ、“打ちてし止まん”と竹槍を勇ましく抱えたわけでもない。そんな人達を一つの方向に無理やり向けさせてしまうのが、戦争という最も大きな暴力である。 太宰治の小説『十二月八日』の主人公は一家の主婦だ。夫は小説家だというので太宰本人を模しているのかもしれない。戦争が始まったらラジオが要るから、新しいのを買ってもらえるかな?とか、国民服どうしよう、とか、身近な心配をしている。それは町の様子が「平生とあまり変わっていない」からだ。とはいえ、ラジオは軍唄のオンパレード、演習でなくなった灯火管制など、少しずつ非日常が侵食している様子も描かれる。何事もない一日だが、何かが変わりゆく一日。そして人々は変化に気づきながらも、その先の大きな変化に思いを馳せるはずもない。変化はこのように訪れ、やがて火だるまになる。私達の周りに、今、くすぶる熾火はないだろうか。朝、目覚めると、戦争が始まっていました [ 方丈社編集部 ]楽天ブックス
December 8, 2019
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みなさん、こんばんは。今日は、イギリス在住で「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー 」で本屋大賞第2回ノンフィクション本大賞を受賞したブレイディみかこさんの作品を紹介します。女たちのテロルブレイディみかこ岩波書店金子文子の事を最初に知ったのは映画「金子文子と朴烈」。関東大震災で朝鮮人を巡る流言飛語が飛び交い、不穏分子として捕らえられた文子は朴烈と共に圧倒的不利な裁判を戦い抜く。 彼女は無籍者として育ち、実の祖母や叔母には女中替りにこき使われた。13歳の彼女を突き動かしたのは復讐心だった。「けれど、けれど、世の中にはまだ愛すべきものが無数にある。美しいものが無数にある。私の住む世界も祖母や叔母の家ばかりとは限らない。世界は広い。」「そう思うと私はもう、「死んではならぬ」とさえ考えるようになった。そうだ、私と同じように苦しめられている人々と一緒に苦しめている人々に復讐をしてやらねばならぬ。そうだ、死んではならない。」 だが、復讐心を抱き続けながら生きるのは厳しい。やり切るのは、よほど大きな相手でないと。彼女たちが相手にしたのは国であり、社会だった。 映画「未来を花束にして」では完全な脇役だったエミリー・ディヴィソン。映画では名優メリル・ストリープがサフラジェット(参政権を女性にも与えるよう主張する活動)のリーダー、エメリン・パンクハーストを演じており、皆を平等に鼓舞していた。しかしマッド・エミリーという二つ名までもらったエミリーは、史実ではその行動があまりにも過激すぎるとして、エメリンとその娘から忌避されていた。ポストに爆弾を投げ込んだりした過激なサフラジェットの彼女は、国王の馬の前に身を投げる。この映像はYouTubeで今でも見られるそうだ。恐ろしくて見られないが、少しも迷いがなくすたすたと歩いていたらしい。皮肉な事に、死んで初めて彼女はサフラジェット活動の役に立つ。彼女の葬儀は壮大なイベントとして、世にサフラジェット達の活動を広く知らしめた。 もう一人はアイルランド独立運動の一つ、イースター蜂起で活躍したスナイパー、マーガレット・スキニダー。三人のうち彼女だけが病死という(三人の中では)穏やかな最期を迎える。一方で、これだけ「死んではならぬ」と繰り返していた金子文子が自殺という結果も納得がいかない。 本編は百年前に生きた三人の女性達の生涯を交互に綴る。章タイトルはついていない。前の章の最後の言葉が、次の章で繰り返され、三人に共通の要素があったことを窺わせる。テロルという名称は物騒で、確かに過激な行動もここには書かれている。しかし、“以前よりはましになった”が“♯MeToo”や“職場でのハイヒール”など、未だに女性だけが不自由を感じたり理不尽を味わわされている機会は枚挙にいとまがない。女たちのテロル [ ブレイディ みかこ ]楽天ブックス
November 19, 2019
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みなさん、こんばんは。イラストライターであり、映画監督でもある和田誠さんが亡くなってしまいましたね。さて、今日は医療に焦点を当てた世界史についての本を紹介します。世にも危険な医療の世界史Quackery:A Brief History of the Worst Ways to Cure Everythingリディア・ケイン ネイト ・ピーダーセン文芸春秋 最初から成功する手術も薬もない。治験やら大学病院のような所で手術をするなど、何にでも初めてはある。しかしその初めてが治療でなく、人の命を縮めるようなものだったとしたら? 現代で有名なのは、アメリカ一有名なあの一族の女性が犠牲になったことでも有名なロボトミー手術。人の脳をいじくり回すなんて、何て恐ろしい! 近世で有名なのは瀉血。かのモーツァルトもやられていた。悪いものが入っている血をただ外に出せばいいなんて!そのかわりに新しい血が入っていくわけではないから、どんどん体から血液が失われていくというのに。有名人がなぜ?と思うかもしれないが、有名人だからこそこのような対応が取られたのだ。 「悪いものは体から出せばいい」という発想で行われた方法が多い。水銀は下から、アンチモンは口から悪いものを出すという発想から生まれたが、そもそも飲んだもの自体が毒なのだから治癒できるはずがない。 「老人がなかなか死ななくなったから少子高齢化の日本は大変」などとやや嘆き節のように語られる現代の日本医療事情だが、本編を読めば、必ず現代に生きていてよかったと思うはず。家族にとっても、自分にとっても。世にも危険な医療の世界史 [ リディア・ケイン ]楽天ブックス
November 9, 2019
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みなさん、こんばんは。台風でもないのに、千葉の被害がひどかった模様ですね。今活躍している年代の青春時代はどんな時代だったか、覗いてみませんか?ハイスクール1968四方田犬彦新潮社 日本の若者が最も熱かった1968年に、高校時代を送った氏の自伝。昭和生まれといっても、ビートルズも、三島由紀夫も、毛沢東も、映像資料や書籍で知る事の方が多い世代から見れば、本書の内容は、同世代の出来事というより、歴史の一部みたいな感覚の方が強い。同じ時代を舞台にしていても、村上龍の自伝的小説『69』に登場する明るく楽しい高校生の方が、より身近に感じられる。 距離感が違う理由は、文章から受ける印象だ。まるで日本全体が熱病にかかったかのような時代なのに、それを伝える文章は非常に冷静で、堅い。「随分大人びた高校生だな」と感じるが、人によっては、その「大人びた印象」が、「スカしている/偉そう」というマイナスイメージに繋がりかねない。本書が「当時高校生だった自分の視点」ではなく、「高校生だった自分を含めて、時代を俯瞰している大人の自分の視点」で描かれているからだ。本書が『批評的自伝』と呼ばれる所以だろう。時代のエネルギーをダイレクトに感じたい人は、文章から感じる距離感ゆえに、物足りなさを感じるかもしれない。【中古】 ハイスクール1968 /四方田犬彦(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
October 27, 2019
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みなさん、こんばんは。大雨は九州地方だけでなく中国地方まで広がったんですね。そして死者も出ました。ところでみなさんが思い浮かべる名作って何でしょう?でも名作以外の作品もたくさん生まれているんですよね。「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本山下泰平柏書房 明治時代というのは様々な混沌が発生したようで、日本史の勉強で言文一致体だとかお札になった文豪とかの話はしたものの、本編に載っている書籍の事は誰も話してくれなかった。 例えば弥次喜多アレンジ版。何とリアル弥次喜多がBLだったってホント?ススんでるねぇ、江戸時代。その話はまあいいや。東海道を旅したのがオリジナルなら、二次創作ものは何と二人が宇宙に行く。えっその時代にもうロケット?と思うなかれ。彼等は大砲の弾丸にへばりついて月へ行くのだ。いや、だって燃えるじゃん!!無重力状態だし衝撃で大砲から離れちゃうよね?そして二人は月ではなく無闇矢鱈世界という所にたどり着く(ちゃんと地図もある)。で、すんなり宇宙に来られた割には途中で空気がないため半死半生の態に。何だこりゃ。 明治といえば日清日露戦争があった。忠義の物語が好まれたらしく、江戸の一心太助みたいなキャラクターの信州小僧というのが大活躍する。実在の人物である星亨が彼を助けたりする件なんかは今でいう山風っぽい。しかしキャラクターが定まらない。壮士にして書生、侠客にして軍人の卵ってこちらも何だこりゃ。どれか一つのキャラにしないと性格が破綻する。案の定「聞かれて名乗るもおこがましいが…」みたいな赤城の山っぽい名乗りになっている。 「面白くて売れりゃいいじゃん」と「娯楽上等!」の精神で書かれた著作が紹介されている。粗筋をざっと読んだ所、突っ込み処は満載ながら読んでみたいと思うものが一つもないのが素晴らしい。ところで、なんでこんな長いタイトルに?図書館の書籍名枠に入らなくて、何度も聞かれてしまった!「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本[本/雑誌] / 山下泰平/著CD&DVD NEOWING
August 30, 2019
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みなさん、こんばんは。一世を風靡したディープ・インパクトが安楽死…。しみじみ。さて、今日ご紹介する佐藤賢一さんの書籍では、フランス最後の王朝を紹介します。ずいぶんと知っている名前もあるのでは?ブルボン朝佐藤賢一講談社現代新書表紙の色がブルボン朝は赤、ヴァロア朝は白、カペー朝は青で横に並べるとフランス国旗のトリコロールになっている。 マリー・アントワネットの悲劇、そしてアレクサンドル・デュマの『三銃士』でこれほど知られている王朝もない。王政復古ははさむものの、文字通りフランス最後の王朝になる。 TVドラマ『クイーン・メアリー』で少しだけ描かれたように、「おみせやさんのむすめ」と呼ばれた『黒王妃』ことカトリーヌ・ド・メディシスは多くの子を産みながら次々と病死。『赤毛のアン』のヒロインを演じていたミーガン・フォローズが『クイーン・メアリー』ではイタリアのボルジア家みたいな策士カトリーヌを演じていたが、実際の彼女も政治家としてなかなかの力業を発揮していた。折しもフランスは旧教と新教の対立が激化し、大陸続きの他国も危なげなフランスに興味深々。性格も危なげな息子達の代わりに辣腕を振るったカトリーヌがいなければ、ヴァロア朝はもっと早くに滅びていたはずだ。 最後に残った王は何と暗殺されてしまい、窮余の策として王母カトリーヌ・ド・メディシスが後継者に選んだのは娘マルゴの婿ナヴァラ王アンリだった。というより、女系の継承が認められていないフランスでは彼しかいなかった。その時既に35歳。56歳で自らも暗殺で亡くなるのだから治世は短い。 続いてのルイ13世はアレクサンドル・デュマが『三銃士』で世界的に有名にしてくれた。ルイ14世は太陽王として彼を脇役とした映画も多い。ルイ16世は『ベルばら』で日本で最も知られた王になった。ヴァレンヌ逃亡がバレて捕らえられてからの国王夫妻がまるで別人で、人材など環境が違っていれば、イギリスのような立憲君主も夢でなかったのでは。「16世紀はスペインの時代 17世紀はフランスの時代 18世紀はイギリスの時代」と言われたように、どの国も最強の駒を揃えた時代があった、もちろん日本も。だがいずれも“ほどほど”で止めることができずに、もっと、もっとと突っ走り凋落へ。ことほど左様に人間の欲望は果てがない。ブルボン朝 フランス王朝史3 (講談社現代新書) [ 佐藤 賢一 ]楽天ブックス
August 2, 2019
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みなさん、こんばんは。世の中には恥を知らない議員もいるのですね。何と言いますか…あいた口がふさがりませんよ。自分の言葉で語って欲しいもののです。ところでみなさん、『三銃士』 を知っていますか?主人公の名前はダルタニャン、何と実在の人物です。でも本当の彼はどんな人だったのでしょう?ダルタニャンの生涯 史実の『三銃士』 岩波新書佐藤賢一 デュマのダルタニャンは王妃の首飾りを無事取戻し、王妃づきの侍女と恋に落ち、悪女ミレディや枢機卿の陰謀に仲間達と立ち向かう。フランス史上の謎、鉄仮面伝説にも登場する。何度も映画や本で見たイメージというのはそんなところだ。 しかし現実は違う。王族でも最高権力者でもない人間が、歴史の表舞台に出っ放しなんてあり得ない。出世のために金持ちの未亡人との結婚に踏み切り、出世のために職を買おうとする。一番近いイメージは佐藤氏の近著「二人のガスコン」に登場する密偵をやっていた、というくだりだ。そして、ダルタニャンも年を取ると変にこだわってしなくてもいい喧嘩をしたり、手紙で言い付けたりするようになる。正義感あふれる、国王に忠誠を誓うダルタニャンのイメージはぐらぐらと崩れてゆくようだ。 仕方がない。やはり現実の人間は物語の人間とは違うのだ。そして現実世界も物語世界より煩雑で、まさに現実的なのだ。それでもあるエピソードに目が止まる。「出世と金と領地」そればかりが大事かと思っていたけれど、そうでもなさそう。もしかしたらこの事があって彼は「三銃士」のダルタニャンのモデルとして選ばれたのでは?何とはなしに、そう思った。そうだ、全く何の魅力もない人間をわざわざモデルに選ぶまい。そして佐藤氏のラストのダルタニャン論ともいうべき一章が、さらに気分を上向きにするのに役立った。現実の男は、現実の中で男気を発揮することができるのだ。【中古】 ダルタニャンの生涯 史実の『三銃士』 岩波新書/佐藤賢一(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
August 1, 2019
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みなさん、こんばんは。梅雨空けしましたね。佐藤賢一さんが書いた評伝を紹介します。ずっと時代は下って近代になります。ドゥ・ゴール佐藤賢一角川選書 イギリスやアメリカは「おアメリカ」「おイギリス」とは言わないのに、フランスだけは「おフランス」と言う。そこには何か揶揄のような気持ちが込められていて、日本人のフランス観が窺い知れる。大統領でも恋愛関係は派手でそれを隠そうともしない点や、美しい町パリ&ヴェルサイユという観光地としての面が強すぎるのか。しかし、かつてフランス革命で国王の首を落とした大胆な国であり、その後のぐだぐだな革命を乗り切りながら世界を相手に回して戦った経験もある。強いアメリカが今や世界の認識だが、強いフランスの時代もあったのだ。 近年第二次大戦をテーマに据えた映画で頻繁に登場するのが、ヴィシー政権と抵抗するレジスタンス勢力だ。わかりやすいように、ヴィシー政権はナチスドイツに迎合して降伏した悪者、レジスタンスは正義の味方という色分けがされている。一方のレジスタンスを率いたのがシャルル・ドゥ・ゴール、今ではフランスのパリの玄関口の空港の名前としての方が通りが良い。ジョン・F・ケネディ空港と共に、その名にちなんで玄関口の空港名が名づけられるからには理由がある。祖国フランスを追われ、イギリスの二枚舌の名人チャーチルを時に頼り、時に牽制しながら、大国アメリカを利用しつつも核の傘のもと守られようなど思わず、自国の舵取りを譲らなかった。国とも国民とも離れ、頼りはBBC放送のみという最も弱い立場にいながら、一歩も引かず物申せた男-イギリスがもめながらもEU離脱を選び、ヨーロッパの雄ドイツも首相が辞任を発表した。EUがごたごたしている今こそ、登場して欲しい人物だ。 裏を返せばそれだけ気が強い証拠でもあり、敵も多く選挙で敗北も経験した。しかしフランスが困った時には、第二次大戦の栄光とカリスマを忘れぬ国民によって担ぎ上げられた。国葬クラスの要人なのに「国葬は不要。勲章等は一切辞退。葬儀はコロンベで、家族の手により簡素に行うように」という遺言に沿って、葬儀は極めて簡素に行われた。 評伝でありながら時に小説を読んでいるような感覚もあり、いつドゥ・ゴールが独白をやりだすのかと身構えたが最初から最後まで評伝。ドゥ・ゴール [ 佐藤 賢一 ]楽天ブックス
July 31, 2019
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みなさん、こんばんは。アーサー王物語を知っていますか?実は、昔アニメで放送されたこともあったんですよ。いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか〈ガウェイン版〉: 変容する中世騎士道物語岡本広毅、小宮真樹子昭和の頃、日曜夜のTVはメカもの、戦隊ものの天国だった。6時は科学忍者隊ガッチャマン。そしてマジンガーZも放送された日曜夜7時に「円卓の騎士物語 燃えろアーサー」が放送された。声優陣は以下の通り。アーサー - 神谷明ランスロット - 玄田哲章トリスタン - 井上真樹夫ギネビア - 潘恵子ケイ(アーサーの兄) - 田中秀幸 ガスター/ラビック - 内海賢二オープニング「希望よそれは」を歌っていたのはささきいさおさんエンディング「花のなかの花」を歌っていたのは堀江美都子さん(どうですこの黄金布陣‼) これがアーサー王伝説との出会いだった。アニメの内容はオリジナルとはかなり異なるが、多くの人の関心を引くやり方としては面白い。但し続編「燃えろアーサー 白馬の王子」ではアーサーが正体を隠して国中を旅したり(黄門様か!)、櫂とプロペラによる人力で飛行するザイキングシップ(ネーミングがメカものっぽい)、口笛を呼べば武器装備で現れるペガサス(天国って物騒な武器を持ってるのか?平和だと思ってたのに!)などサブカルに寄せようとして失敗していた。視聴率は振るわず、続編を持って東映動画枠が消滅した。 インターネットの発達もあり、素材の料理法もかなり選択肢が広がった。まずゲームの世界で騎士ものは便利だ。魔術師、魔女、王、王女など基本的なアイテムは揃っているし、購入する武器によって騎士たちをキャラクタライズしやすい。アーサー王の女性化までは予測していなかったが、宝塚を身近に感じている世代ならば違和感はないのだろう。 王になるまでは貴種流離譚だがなってしまうと途端に魅力を失うのがアーサー王の辛い所だ。彼が間違いを犯さない絶対の存在でなければならないからだが、弱さを持つ人間とはかけ離れた存在になる。そうした弱さを補う要素として騎士たちが登場し、極めつけがランスロット。王の信頼も厚く最強で万年モテ期なのによりによって主君の妻と不倫という大スキャンダルを起こし王国を崩壊に導く。トリスタンもランスロットと同じ道を辿るが、こちらは愛に殉じるという女性陣落涙の運命に分けられていて実に良く考えられたキャラ分けだ。 昭和のアニメから始まって映画、ゲームへ発展したアーサー王伝説は、新たな時代にどんなアイテムに生まれ変わるのか。いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか〈ガウェイン版〉 変容する中世騎士道物語 [ 岡本 広毅 ]楽天ブックス
July 11, 2019
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みなさん、カサノヴァって聞いたことありますよね?でも彼のモテ男っぷりは知っていても生涯を通じては知らないのでは?鹿島茂さんの評伝を紹介します。カサノヴァ 人類史上最高にモテた男の物語 上下Casanova鹿島茂 ドン・ファンはモーツァルトの『フィガロの結婚』に出てくる架空の人、カサノヴァは自ら生涯について書いた『回想録』がある実在の人だが、いずれも名前がモテ男、プレイボーイの代名詞になっていて、イメージがごっちゃになる。 架空の人物はともかくとして、「女性にもてる」という特技だけで、一生遊んで暮らせるのだろうか?加齢という避けられない問題があり、容姿のみならず肝心な能力も衰えるはず。 9歳で早くも年上女性に失恋したカサノヴァは、その後失恋とアバンチュールを繰り返す。この時代避妊の方法はあるものの安全ではなく、よく作ったなと思うくらい、あちこちに娘や息子がいる。危うく娘と結ばれそうになった事も隠さず書いてあり、これはさすがに笑えない。また、よく死ななかったなと思うくらい、恋多き男につきものの病気に何度もかかっている。何度痛い目にあっても懲りない所は恋愛も同じらしい。喜劇俳優ガエタノ・カサノヴァと靴屋の娘ツァネッタ・ファルシとの間に生まれた彼は、裕福な生まれではなく、有力な親戚もいない。しかし、それを引け目に感じるどころか「金がない」事を言い訳にして結婚から逃げ続けていたというから抜け目がない。 星の数ほど恋愛を経験してきた彼だからこそ言える数々の名言も収められている。元になるのは自ら書いた『回想録』なので、果たして書かれているうちどこまで本当かは怪しい。世界各国が領土拡張に鎬を削る中で、「ヨーロッパの宮廷のどれかに取り入ってアバンチュールを楽しみたい」というカサノヴァの望みはあまりにも暢気すぎる。どこかで堅実な生き方に舵を切るのかと思いきや、彼は最後まで変わらない。法律の縛りもあって、カサノヴァみたいに生きられないゲンジツの男たちが、本書を最後まで読んで、羨ましいと思うのか。また、女性達が「結婚出来なくてもこんな男性と知り合いたい!」と思うか。今のニッポンを鑑みると、どちらもイエスと言えないような。 月刊「プレイボーイ」で連載が始まり、紆余曲折の末完成した鹿島氏のライフワーク作品。【中古】 カサノヴァ(上) 人類史上最高にモテた男の物語 /鹿島茂(著者) 【中古】afb【中古】 カサノヴァ(下) 人類史上最高にモテた男の物語 /鹿島茂(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 18, 2019
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みなさん、こんばんは。シャンシャンが2歳ですね。かわいいです。今日から2日間鹿島 茂 さんの著書を紹介します。怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫)鹿島 茂 「ヘーゲルはどこかでのべている、すべての世界史的な大事件や大人物はいわば二度あらわれるものだ、と。一度目は悲劇として、二度目は茶番として、と。かれは、つけくわえるのをわすれたのだ。ダントンのかわりにコーシディエール、ロベスピエールのかわりにルイ・ブラン(中略)叔父のかわりに甥。」カール・マルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』 茶番と評されているのがナポレオン三世、叔父とはナポレオン・ボナパルト。ナポレオンの初婚相手ジョゼフィーヌの連れ子、オルタンスが彼の母、ナポレオンの弟が父なので、彼はナポレオンの甥であり血の繋がらない孫でもある。母オルタンスは、池田理代子さんの漫画『エロイカ』では可愛らしい娘として描かれていたが、実は結構奔放だったらしい。 英雄と評されがちな叔父に比べてマイナス評価されがちな甥だが、実は結構したたかで、本心をなかなか見せず、ぼんくらと思われている間に無血クーデタなんていうものをしらっとやってしまっている。また、彼が信じていたのはインテリ層ではなく民だった。民衆はあらゆる党派の中で最も強く、最も正しい。民衆は隷属と同じように行き過ぎを嫌悪する。民衆を篭絡することはできない。民衆はおのれにふさわしいものをつねに感じとる皇帝になろうとしたのは、自分が推し進めようとしていた民のための政策をスムーズに進めるためだ。ブローニュの森の整備、パリ大改造、社会福祉制度の充実など、国民に手厚い政策を次々と打ち出している。但し、もともとの生まれが生まれなので、額に汗して働いた自分の金でそれらを行おうなんて考えはみじんもないし、私生活における華やかな女性関係もまた、庶民とは縁遠い。ドイツ統一を狙う老獪なビスマルク、伝統的に対外戦争の準備が下手だったフランス軍隊など、戦争が彼を躓かせ、廃位に追い込まれてしまう。戦上手は叔父の才能を受け継がなかったようだ。 タイトルに「怪」がつくといかにも胡散臭げな人物のような印象を与えるが、怪しげな趣味を持っていたわけではなく、スフィンクスと呼ばれた得体の知れなさを表現した語句である。鹿島氏の「いろいろ欠点はあるものの、彼はもっと評価されていい!」というナポレオン三世愛に溢れた評伝。怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫) [ 鹿島 茂 ]楽天ブックス
June 17, 2019
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みなさん、こんばんは。元号が決まりましたね。ところで皆さんはパリに行ったことがありますか?子午線を求めて堀江敏幸 講談社文庫 海外に行くと、路面電車や地下鉄に乗ってみたくなったあなたは、本書を読んでぎょっとするかもしれない。パリの地下鉄について、「汗でぐっしょり濡れた背広も皺くちゃのドレスも?コールタールと石炭酸がぷんぷんにおう階段を雪崩をうって転がり落ち、まっ暗闇に吸い込まれていく(p101)」なんて書かれているのだから。花の都といったって、日本のラッシュ時とあまり変わらない。 第一章は、そんなパリの街角にこっそり置かれている円盤を探す過程を描いている。今でこそ子午線はイギリスのグリニッジと決まっているが、以前はパリを通過する経線が子午線とされていた。円盤はその頃の名残で、天文学者アラゴーの名と南北を表すNSを刻んであるそうだ。第二章?第四章は文学の紹介で、時折映画の話題も混じる。書評家志望の人達にとっては、文章の構成や内容紹介の仕方など、参考になる所が多いかもしれない。うまいな、と思ったのは「美しい母の発見」。ただ、文学や映画に全く関心のない人にとっては、文章が堅くてとっつきにくいかもしれない。子午線を求めて [ 堀江敏幸 ]楽天ブックス
April 3, 2019
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みなさん、こんばんは。自民党三期生にはろくな人がいませんね。犯罪者といってよいような人まで。豊田議員なんて映像が出て来て思い出してしまいましたよ。今までに一度くらい痩せたいと思ったことがあるでしょう。『はい、泳げません』の著者、高橋さんの奥様もその一人だったようです。やせれば美人 新潮文庫高橋秀実【著】 『はい、泳げません』の著者、高橋さんが再登場。 前作では、カナヅチの高橋さんが、遂に泳げるようになるまでが描かれた。さて、本作の主人公は高橋さんの妻だ。彼女が倒れて救急車で運ばれ、ダイエット宣言するところから物語は始まるが、『泳げません』と決定的に異なるのは、その終わり方。それもそのはず、彼女は目標達成に向かって、努力をするのが大嫌い。見かねた周囲の助言、あまりの重さに壊れる体重計など、「これでもか」と目の前に立ちはだかる現実にも、彼女の気持ちは動かない。 でも待てよ。ダイエットには、特別な技術なんて要らない。もともとの体質があったとしても、要は、適切な食事と適度な運動をしていれば、そんなに太らない。そもそもそんなに意思が強いのなら、その気持ちをダイエットに向ければいい。それなのに、なぜ太ったままなのか? さあ、そこが人の心の不思議なところ。 今度は筆者が当事者でなく、傍観者となったことで、いくぶん冷静な描写がふえ、そのためか、読者との間に若干距離がある印象をうけた。【中古】 やせれば美人 新潮文庫/高橋秀実【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
February 23, 2019
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みなさん、こんばんは。今年もスターウォーズ映画が話題になりました。ところで、ジェダイ騎士のモデルになったとも言われている騎士たちについて書かれた書籍を紹介します。テンプル騎士団佐藤賢一集英社新書映画『ダ・ヴィンチ・コード』で一躍名が知られたテンプル騎士団。本書は彼等が一斉に逮捕される場面から始まる。聖地エルサレムへの巡礼者護衛の目的で自然発生的に結成されたテンプル騎士団が、なぜ時の権力者から敵視される存在になったのか。 三部構成から成り、一部と三部は本の上での現在―テンプル騎士団逮捕劇―が扱われ、二部でテンプル騎士団の歩み―過去―が紹介。護衛目的なのだから優れた、それも専門職の騎士が集められる。日本では織田信長が目指した常備軍に近い。次に騎士たちの「常備」のための容れ物―建物が創られる。すると国を越えて形成されたネットワークが注目され、こんどはそれを活用した金の流通が始まる。ドラマのように、一人の権力者が意図して作り上げた一大勢力ではなく、「仕事を頼まれているうちに、次々引き受けていたら、こうなった」という、原因が結果を生む自然な流れに見える。誰からも重宝されていた騎士団が、憎まれる契機となったのは、戦争だ。とはいっても、キリスト教を信じる騎士が、戦費を使う国王たちに平和を説いたからではない。もっと実際的な理由である。金を貸さなかったからだ。一旦憎めば今まで利点と考えていた全てが、敵に回った時の恐ろしさに変換されていく。『ダ・ヴィンチ・コード』では追う側に回った怖い印象の彼等だが、強かさでは、やはり現役の国王や教皇達にはかなわなかったということか。テンプル騎士団 (集英社新書) [ 佐藤 賢一 ]楽天ブックス
December 27, 2018
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みなさん、こんばんは。オリンピックの記録映画は河瀬直美監督が担当するそうですね。ドキュメンタリー出身だから向いてるのではないでしょうか。さて、森鴎外の娘をご存知ですか?今日は彼女の評伝を紹介します。贄沢貧乏のマリア群ようこ角川書店美内すずえ氏漫画「ダイナマイト・みるく・パイ」で、父親が娘の事を、こう評する。「お上品なフランス(現物がないので記憶曖昧。御存じの方訂正乞)パイに、ダイナマイトをぶちこんだようなものだからな。」本書の森茉莉氏は、まさに『ダイナマイト・みるく・パイ』だ。読んだ当初は「一目で令嬢育ちとわかるマリア」や「中老の御婦人には違いないが、中身は少女で、十三、四の心境」という表現に戸惑った。他人が言うのならわかるが、なぜこの人は、自分をこうも誉められる?自分からは、こういう事は言わないものでしょう。やっぱりこの人、普通じゃない。謙譲を美徳とする教えを叩き込まれた身は、ため息をつく。普通じゃない、という評価。普通に育った人が、前述のような言い方をすれば、きっと正しい。ところが、彼女の育ち方は、〝普通〟ではなかった。「友だちの御木本商店(今のミキモト)」で大粒真珠を買うのは序の口。戦前のパリで、現地購入した衣装(おそらく、プレタポルテ)を身に纏う。映画で描かれる所のハイソサエティそのものの、贅沢な暮らしぶり。それが日常だった。また、父、鴎外から与えられた愛情も半端ではない。父親は娘を可愛がる。大概娘は男親に似るからだ。しかし、「父の体は大きな樹で、父の顔は葉むれ。葉の間にある花から滴る蜜を私の唇は上を向いて呑み下す」(文章そのままではない、要約)(文章そのままではない、要約)という、いささか性的な意味合いを感じるこんな文章を娘に書かせる父親は、そういまい。〝普通〟でない育ち方をした人に、〝普通〟の物差をあてるのは、どだい間違っている。最初から〝森茉莉氏のスタンダード〟を受け入れておけばいい。ところが、ハイソな認識を受け入れて読み始めた、彼女の後半生は、甘い夢の世界ではなかった。 年を取れば、人は丸くなる。一つは、「衝突があるけど、いつも自分が勝つわけじゃない。」という現実を知るため。もう一つは、怒るエネルギーが枯渇するため。それが、〝普通〟に年を取るという事だ。だが彼女はとことん、〝普通〟を突っぱねる。時には、こう自分に言い聞かせて。「私はだから憎まれても平気である。ほんたうは平気ではないのだが、書いて行くためには平気でなくてはならないのである。」出来過ぎたコメントをするTVのアナウンサー、出来過ぎたコメントをするTVのアナウンサー、意地悪な質問をする作家、常識以外はわかってくれない消防署の署員。過去において、自画自賛を躊躇しなかった彼女は、彼等に対し、激しい怒りの感情をあらわにする事をも、またためらわない。時代がどんなに変わろうと、終始一貫して、肩で風切る『ダイナマイト・みるく・パイ』だった人、森茉莉。天晴れな人。そして、ある意味幸せな人。もう一度、ため息をつく。さっきとは別の意味をこめて。贅沢貧乏のマリア【電子書籍】[ 群 ようこ ]
November 1, 2018
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みなさん、北海道初冠雪らしいですね。さて、平林たい子さんという作家を知っていますか?今日は彼女の評伝を紹介します。妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子群ようこ まず平林たい子の一般評価を書いてみる。 「生活の貧しい農家の出身であることや、小学校のときロシア文学を読んだ事が、後の活動に影響を与えた。アナーキストグループと近づいて朝鮮半島や中国東北部を放浪、結婚。昭和初期からプロレタリア文学作家として執筆を開始。病と貧しさに耐えながら、反戦の意思を貫いた。」 どうです?ぴしっと一本筋の通った作家の生き方が見えてきませんか?でも、実情は大違い。満州を放浪したのは、食うに困って恋人の義兄を頼っていっただけ。居場所を求めてアフリカを彷徨ったランボオとは大違い。そして男性との付き合い方においては、筋が通っているどころか、行き当たりばったり。 ワザと変な笑い方をしてまで、嫌われようとした相手なのに、「えい、面倒くさい。こんなにうるさくつきまとってくるなら、この男の所に泊まってやろうじゃないか。どちらにしろ、女の貞操なんて大したものでありゃしない。」と、あっさり寝てしまう。多くの異性とつき合う事に目くじらたてる訳じゃない。最終的に自分に似合った相手を見つけられれば、それでいい。だが少しは選べばどうか。そう言いたくなる位、見境がないのだ。大体、「面倒くさい」って、たい子さん、恋愛ってそもそも面倒くさいもんなんだってば。 男運悪過ぎの彼女は、「自分の女房くらい食わせられない男は、男じゃありませんよ」という台詞に、呆気なくクラッ。現代ならば「何言ってんの」と剣突をくらいそうな台詞だが、たい子には、ウェディング・ベルをBGMにした、待ってましたのプロポーズ。とまれ、これでどうやら一件落着。 しかし現実は「そして二人はいつまでも幸せに」のお伽噺とは違うのだ。右を向けば病、左を向けば貧乏、とことんまで追い込まれた彼女は、遂に「むかでのように這いよってくる」「犬のようにうごめいている」男達を書く。相手もトホホな男だが、それとつきあう自分だって、要は見る目がないって事を暴露してるようなもの。自分のイメージを大切にする作家は、こんな小説絶対書けない。一見人の良さそうな肝っ玉母さんのどこに、こんなふてぶてしさと、冷静な観察眼が隠されているんだろう?写真にじぃっと見入って考える。この視線の先にいるのは妖精か、妖怪か、はたまた二つのミックスか?ちょっぴり楽しみで、ちょっぴり怖いが、この本をとばぐちに、作品、伝記と読んでみたくなった。【中古】 妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子 /群ようこ(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
October 31, 2018
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みなさん、こんばんは。家からは富士山が見えるのですが雪が見えます。寒いのでしょうね。樋口一葉を知っていますか?しげしげとお札を眺めてみたことはありますか?彼女の評伝を紹介します。一葉の口紅 曙のリボン群ようこタイトルは、樋口夏子(一葉、以下一葉)、新札切り替えへのコメントです(予測)。まあ、普通2回くらいはこの言葉を口にするでしょうが、さすがに3度目は「三顧の礼」って事で受けるんではないですか。ところが、5、6回くらい、下手するとそれ以上コメントしそうなんですな、本編のヒロインである一葉は。ただ、えんえんと聞いてる側はどう思いますかね。「私達があなたの事を、『お札の肖像になるような人じゃない』って思ってるって、そう言いたいわけ?。」もしくは「もしかして、こう言って欲しいのかな?『いや、あなたこそ、ふさわしい』って。」だんだん、ムカムカしてきません?私はしますね。こう言いたくなります。「空気を読めば?」って。言った後でもまたムカムカしそう。なぜなら、彼女は私に似ていたから。書く人によって印象が随分違うものですなぁ、いや、びっくりしました。前に読んだ「女性の歴史」シリーズものの中に登場してきた一葉は、『家が貧しいため学業を辞め、作品を発表しながら母と妹の生活を支え、半井桃水に淡い想いを抱くも行き違いから成就せず、若くして病死した薄幸のヒロイン』で、自分との共通点は見当たりませんでしたが、今回はありました。裁縫より読書や勉強が好きな所。何かあっても、それを人に言うよりも家に帰って自分で日記をつけていた所。頭痛で肩凝りする所まで似てるんだから笑ってしまいます。できれば良い所が似てくれればよかった、というのもまた感想です。坪内佑三氏の著作「慶応三年生まれ七人の旋毛曲り」の登場人物達と同時代を生きながら、一葉も曙も彼等のような旋毛曲りにはなれませんでした。ふたりは「女」で、明治は女性が自分の進む道を行きたいと主張できる時代ではなかったから。肩凝りするはずです。とっても窮屈な時代だったのですから。もし現代に彼女が生きていたら、作家になっていたか?なってなかっただろうというのが私の予測です。逆に時代の窮屈さがあったからこそ、自分が好きな事であり、得意な事である唯一の『書くこと』への思いがどんどん募っていき、窮屈な時代というハンデを『書くこと』を持続させるパワーにしていったのだと思います。だから、お札の肖像なんてと固持し続ける一葉に、やっぱり私は苦笑しつつもこう言うでしょうね。「いや、あなたこそ、ふさわしいんですよ。」【中古】 一葉の口紅 曙のリボン ちくま文庫/群ようこ(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
October 30, 2018
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みなさん、こんばんは。下を向いて歩くと何かにぶつかりますよね。でも下を見ないとわからないものもあるんです。例えばこの本で扱われているような…。マンホール 意匠があらわす日本の文化と歴史 (シリーズ・ニッポン再発見)ミネルヴァ書房石井英俊 「前を向いて歩く」のは「をを、前向き発言!」と礼賛されるが下を向いていると「何かにぶつかる」「人生も下向きみたい」とやたら評判が悪い。しかし下を向かないと見られないものもある。マンホールだ。 基本は人に踏まれてしまうものなので色あせているが、幸い写真に映っているものはさほど色が落ちていない。静岡と山梨は断然富士山が多い。見えれば使っていいという決まりでもあるのか、なぜか埼玉県三芳町のマンホールにも富士が顔を出している。但し静岡県富士市や静岡市では、富士山はでん!とセンターにいるのに、三芳町のそれは左側に、それも飛びあがっている水の精(みらいくん、だそうだ)の背景という位置づけだ。それでも出したいのか富士山。 函館は五稜郭、最近「陸王」効果でたいそうな経済効果を挙げた行田市は「のぼうの城」こと忍城がデザインに採用されている。広島県広島市はカープ愛が溢れているし、高松市は那須与一の扇の的だ。伝統産業としてこけしを採用している所もあるが、有名どころの鳴子市がエントリーされていない不思議現象も起きている。一体誰がデザインを決めるのだろう。応募だろうか。 このように、ふと下を見ると、様々な情報&デザインが溢れていてちょっと得した気分になる。尚、本書を読んで下を向いて歩くようになっても、当局(どの?)は一切責任を持たないのでそのつもりで。【楽天ブックスならいつでも送料無料】マンホール 意匠があらわす日本の文化と歴史 (シリーズ・ニッポン再発見) [ 石井英俊 ]楽天ブックス
July 17, 2018
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みなさん、こんばんは。新学期が始まって自殺する生徒が増えていますね。みなさんは大丈夫ですか?職場や学校に慣れていますか?さて、こちらは大正時代スキャンダラスに生きた人達の事件簿です。命みじかし恋せよ乙女 大正恋愛事件簿 (らんぷの本) 中村 圭子 朝の連続ドラマ『花子とアン』で主役カップルよりも注目を集めた仲間由紀恵&吉田鋼太郎演じる伊藤伝右衛門と柳原白蓮は、白蓮が若い男に走り、新聞紙上で夫宛ての絶縁状が公開されたことで大スキャンダルに。伝右衛門が「一度は惚れた女じゃ 手出し無用」と抑え込み、男ぶりをあげたエピソードはドラマでも描かれた通り。 明治と昭和の間にはさまれた大正時代、驚くほどの恋愛スキャンダルが紙上を賑わせた。二つの戦争の世紀の間で、人々に許されたわずかな自由な空気が、これほどの事件を生んだのか。 佐藤春夫&谷崎潤一郎&谷崎千代の妻譲渡事件や、師を慕って後追い自殺した松井須磨子など、一度は聞いたことのある女性達が登場。佐藤春夫は潤一郎が千代の妹と関係を持っているのを非難して絶縁状態になるが、その後千代に同情するうち自分も不倫関係に陥ったから「ごめん。あの頃僕は若かった」と仲直りって何だそりゃ。 中でも興味深かったのは女優の岡田嘉子。なんと二度も逃避行をしている。よっぽど逃避行が好きなのか。そして「あの性格では情死しそうだ」と彼女の所属先の日活が琵琶湖付近を警戒したとか。相手役の俳優が彼女より若く、ちょうど演じていたのが『椿姫』だったことから役柄と被り「椿姫事件」と報じられている。彼女の二度目の逃避行先はロシアで「雪の国境越え」と報じられた。別れた相手はロシアに心酔していたにも関わらず獄死していたそうで、何とも罪作り。【楽天ブックスならいつでも送料無料】命みじかし恋せよ乙女 大正恋愛事件簿 (らんぷの本) [ 中村 圭子 ]楽天ブックス
September 7, 2017
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みなさん、こんばんは。今速報で金沢で警官が二人刺されたと入ってきました。怖いですね。今日も暑いです。そう言えば最近中年って言葉聞きませんね。高齢者と言う言葉の方が多そうです。いつから、中年? 酒井順子 「四十にして惑わず」と言うけれど、「こうなるはずではなかった人生」について、惑いが完全に消えたとは言いきれない。じゃあ、他の皆は迷いが消え、自分に自信が持てているんだろうか?迷っているのは、私だけ?本作を手に取る人の多くは、そんな迷える大人達なのでは?そして彼女の意見を読んで、「ああ、こういう所はおんなじだ。」「こういう見方はしないな。」と感じて納得し、或いは反発するかもしれない。 『怒る女上司、泣く男部下』では、「管理職は苦労してるんだなぁ」と、今になってある女性の心情に思いを馳せる。『断定回避世代の総理が誕生』では、安倍首相の言葉尻まで捉えての人間観察はすごいな、と感心するばかり。「もっと観察力を磨くと、惑うことも少なくなるかも!」と意気込む。というより、観察力って、長く生きていく上で絶対必要だな、と再認識した。同世代だけじゃなく、幅広い世代に是非読んでもらって、感想を聞いてみたい一冊。『週刊現代』連載の単行本化第3弾。【中古】 いつから、中年? /酒井順子【著】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
August 28, 2017
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みなさん、こんばんは。7月ですね。福原愛ちゃんおめでたですね。かわいいお母さんになりそう。ところで夏目漱石の『三四郎』を読んだことはありますか?今日紹介する作家はその中に登場します。アフラ・ベーン 「閨秀作家」の肖像Aphra Behn福岡利裕彩流社夏目漱石の「三四郎」で、タイトルロールの三四郎が学校の図書室に行くと、本の中の文章に線が引いてある。三四郎が、ある本を開くと「またここにも線が!」とうんざりする。その‘ある本’こそが『オルノーコ』である。アフラ・ベーン自身と著作について「英国の閨秀作家だ。十七世紀の」と説明する件もあるが、正直話の筋にはあまり関わりのない所なので、印象に残っていない読者もいるだろう。 そもそも『オルノーコ』とはアフリカの王国の王子の名前だ。彼が絶世の美女イモインダと恋仲になるが、老王がイモインダに目をつけていたため彼女は売り飛ばされてしまう。オルノーコも騙されてイギリスの奴隷船の船長に捕まってしまう。南アメリカのスリナムのプランテーションでイモインダと再会。ここまでならハッピーエンドだが、イモインダが妊娠。自分の子供が奴隷になることを憂えたオルノーコは皆に反乱を呼び掛ける。反乱は失敗し、オルノーコは厳しい拷問を与えるバイアムを殺して自分も死のうとする。しかし自分の死後イモインダが辱めを受けることを憂えて彼女を殺してしまう。イモインダは愛する夫に喜んで殺されていくが、残されたオルノーコは、逃げればいいのに茫然としていたため簡単に捕まえられ、手足を切断されて死んでしまう。 「ストウ夫人の『アンクル・トムの小屋』よりも遥か昔に尊厳を持つ奴隷を描いた」とあるが、作品自体は奴隷制を否定していない。そして、ざっと書いた粗筋からも、オルノーコが少なくとも現代の感覚からすれば、少しもヒーロー的ではないのがおわかり頂けるだろうか。かなり場当たり的に反乱を決め、仲間達が「自分達だけなら逃げるが、妻も子供もいて逃げられない」と訴えたのに対して、かなり自分勝手な論理を振り回している。よくこれで人がついてきたものだ。そして妊娠している妻を「殺そう」と判断し、妻が嬉々として死んでいく…という件も現代感覚では受け入れ辛いだろう。 アフラ・ベーンも謎が多く、「ベーン」は結婚相手の姓だ。かなり年の離れた夫だったらしく、繰り返し「望まぬ結婚をするよりも、愛に生きた方がいい」というテーマの作品を書いている。「オランダでスパイをしていた」という噂もあるが、彼女は繋ぎに過ぎない。何かと問題があった男性と恋愛関係にあったアフラに白羽の矢が立ち、何度か手紙を国王に送っているが、よその土地に入るにもかかわらず資金援助がなく、最後は借金をしてイギリスに帰って来る。それでも我慢できたのは彼女がガチガチの王党派だったからだ。 面白く紹介しようという意図よりも、同じような表現が何度も登場し、研究発表の趣が強い。 なお、『オルノーコ』は2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」に選出されている。アフラ・ベーン 「閨秀作家」の肖像/福岡利裕【2500円以上送料無料】
July 1, 2017
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みなさん、こんばんは。皆さんも沢山ベストセラーを読んできましたよね?でもベストセラーだからって、常に名作と言われるとは限らない!名うての書評家二人が名作ぶったぎり!百年の誤読岡野宏文(著者),豊崎由美(著者) 雑誌ダ・ヴィンチで連載が始まった時、ぱっと見て「何だか堅そうなタイトルだなぁ」と思い、正直全く読む気が起きなかった。ところが、第二回の冒頭に挙げられた岩野泡鳴『神秘的半獣主義』の引用箇所を読んで、目が点になってしまった。例えるならば、打とうと思っていたらいきなり魔球が飛んできてびっくりしたアニメ『侍ジャイアンツ』の打者とでも言おうか(ああマニアックな)。「な、何なんだこれは。」次に思ったのは「何でこんなのがベストセラーなんだ? わけわからん。」更にわけの分からぬ怒りまで湧いてきた。「こんなのがブンガクか? こんなので作家やれたのか? この時代の人は、一体何を考えていたんだ!」そして次に来たのが興味である。「他にどんなのがベストセラーだったんだ?」 こうなるともう止まらない(といっても連載は月に一回2ページなのだが)。1. その時代のベストセラーの概要2. 自分の読書傾向(個人の嗜好)とベストセラー(社会の嗜好)との距離感を知るために、雑誌を購入したら先ず読み、しかる後にページを必ずスクラップしておいた。 全ての連載を読み終えて、意識したわけでもないのに、つくづく自分がベストセラーを読まない傾向にあった事がわかった。実力と人気は、必ずしもイコールでない。それでも好きな作家達が皆不人気なのかと暗くなっていたら、連載第九回で中島敦の『山月記』が取り上げられていた。その年のベストセラーであり、著者両名の評価も高い。畏れ多いが、何だか不遇の息子を褒められたような気分になって、連載に一層の好感を抱いた。第16回で取り上げられた1974年以降からは、自分でも何となく覚えがあり、「そういえばそうだったなぁ。」と『あの時代』を追体験するような思いも加わった。取り上げる箇所がそれぞれ絶妙で、おかげで今まで「不朽の名作」というラベルがまぶしかった作品の数々も、随分と近しい存在となった。ネタばれが巧妙に避けられているのも好感が持てた。「これは読むまでもなかろう」と思った作品もある一方で、「是非読んでみたい」と思った作品も一つではない。読書世界で壁に行き詰まっている人や、名作という呼び名に怯んだ事のある人だけでなく、自分の読書眼を信じてらっしゃる方にも、是非読んで頂きたい一冊である。【中古】 百年の誤読 /岡野宏文(著者),豊崎由美(著者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
May 22, 2017
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みなさん、こんばんは。ルイ14世は有名ですね。彼には意外な癖がありました。太陽王ルイ14世 ヴェルサイユの発明者Louis XIV Roi-Soleil L’Inventeur de Versailles鹿島茂KADOKAWAルイ14世と言えば、まず多くの人々が思い浮かべるのが太陽王というニックネームだ。72年もの在位期間はフランス史上最長で、フランス王朝の最盛期を築いた。そして死後も彼の名声をとどろかせているのが、パリ郊外に建てられ、今なお世界遺産として多くの観光客が訪れているヴェルサイユ宮殿だ。漫画『ヴェルサイユのばら』は、多くの日本女性を虜にした。例えばこれが『モン・サンミッシェルのばら』『ルーヴルのばら』だったら、あまり華やかさは感じられなかっただろう。 さて、権勢を誇ったルイ14世であるが、最初から絶対的な王だったわけではない。わずか5歳で即位した彼が政を行えるはずもなく、リシュリューの後継者であるマザランと摂政を務める母が実権を握っていた。幼少時に寝室まで押し掛けられトラウマとなったフロンドの乱が起こったり、アレクサンドル=デュマの『鉄仮面』に描かれたような出生の謎が噂されたりしたが、精神的にタフだったようだ。 そのとばっちり?を受けたのが王弟フィリップだ。古来から王のすぐ下の弟は王位を狙えるポジションにおり、実際過去に陰謀も企まれた。「そんなことになっちゃまずい!」と思った母親が考えたのは、弟に女装をさせることだった。「普段から女性として扱えば、謀反を起こす気になるまい」というアイデア自身は悪くないが、これは彼女が期待した以上の結果をもたらした。さて、それは何だろう? ルイ14世は女性関係も華やかで、初恋こそ破れたものの、その後は狙った女性は全てゲット(まあ、王様ですから…)。禁じられた恋のカモフラージュのために、つきあっているフリをするだけだったはずのカノジョの侍女にも心を動かすなど、ミイラ取りがミイラになる展開も。つきあっていた彼女の好みにあわせてあれこれとヴェルサイユ宮殿のリフォームに励む点は「国王にしては意外とカノジョ思い」と親近感を抱くかもしれないが、それには大層なお金がかかる。その費用のしわ寄せは誰にくるかと言えば、今も昔も変わらぬ民衆へ。彼女が出来た時にルイ14世が「やりたい!」と思ったもう一つのものこそ、国民にとって大いなる迷惑であった。さて、それは何だろう? …というように、太陽王が照らさなかった部分、見ようとしなかった部分を、平易な文章でユーモアを交えて綴っている。「歴史書は難しくて…」と二の足を踏んでいた方たちにお勧めしたい評伝である。太陽王ルイ14世 ヴェルサイユの発明者 [ 鹿島 茂 ]楽天ブックス【あす楽】【送料無料】【花粉症対策スプレーフェアリール150ml 】花粉症対策グッズスギ花粉症花粉病pm2.5対応花粉メガネ子供花粉スプレーにも安全【13時までのご注文であす楽対応】
April 15, 2017
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みなさん、こんばんは。この評伝に書かれた女性は、貴婦人のイメージを一変させますよ!オットリン・モレル 破天荒な生涯 ある英国貴婦人の肖像Ottoline Morrell:Kife on the Grand Scaleミランダ・シーモア オットリン・モレルという名前は知らなくても、ブルームズベリー・グループの事は、文学愛好者なら聞いたことがあるかもしれない。姉妹であるヴァネッサ・ベルとヴァージニア・ウルフを中心としたケンブリッジ大学生が結成したグループは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズ、哲学者バートランド・ラッセル、伝記作家リットン・ストレイチー、画家ロジャー・フライ、オーガスタス・ジョン、ドーラ・キャリントン作家デイヴィッド・ガーネット、E・M・フォースター、オールダス・ハクスリー、キャサリン・マンスフィールド、D.H.ロレンス、詩人T.S.エリオット、ジーグフリード・サスーンら錚々たるメンバーに膨れ上がった。彼等の中にはオールダス・ハクスリーのように第一次大戦時、「良心的兵役拒否者」としての立場をとるものが多くおり、職を失った彼等に住まいと職を提供したのが、自由党下院議員フィリップ・モレルの妻である彼女だ。 映画『キャリントン』『愛しすぎて 詩人の妻』 にも登場した彼女は、英国貴族の名門ポートランド公爵家出身でありながら、風変わりな貴婦人として揶揄されてきた。既婚者で子供もありながら、バートランド・ラッセルと長く愛人関係にあり、良識ある人々の目をひそめさせたこと、ブルームズベリー・グループのメンバーが彼女をモデルに書いた小説の主人公=彼女と思われてしまい、虚像が独り歩きしてしまったことなど、理由はいろいろと考えられる。 良心的兵役拒否者達に農作業をさせるという夫妻の試みも、もともと専門家ではなかった彼等が収益をあげられるはずもなく、第一次大戦時に平和主義を標榜して夫が議員を追われたことも重なり、彼等は次第に経済的に追い詰められていった。フィリップは精神的にも妻より脆く、夫や娘と巧く関係を築けないオットリンは、プライベートの空虚さを埋めるため、文学者・芸術者達を庇護する活動に熱心になった。現代ならば、やんごとなき人々がフィクションのモデルにされると、やれ名誉棄損だ、裁判だと大騒ぎだが、評伝から見るに、彼女がさほど騒いだり、彼等と絶交宣言した様子はない。お貴族サマ特有の鷹揚さなのか、完全無視というわけでもなく、自分のやりたい事にまい進した。支援した人々は後世に名前と栄誉と作品が幅広く知られている。一方で彼女自身はといえば、ただ支援者としての肩書きしかない。だが、彼女なくして二十世紀初頭のイギリス文学・芸術の興隆はなかった。目だたないながら英国文芸に貢献した彼女の功績をまとめた著者の熱意の賜物は、大変読み応えがあった。【送料無料選択可!】オットリン・モレル破天荒な生涯 ある英国貴婦人の肖像 / 原タイトル:OTTOLINE MORRELL:LIFE ON THE GRAND SCALE (単行本・ムック) / ミランダ・シーモア/著 蛭川久康/訳CD&DVD NEOWING
April 12, 2017
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みなさん、こんばんは。ギロチンって怖いですね。フランス革命時代、何人が断頭台の露と消えたことか。その中にはルイ16世もその妻マリ―・アントワネットもいました。そんな断頭台に立ち続けた男の評伝です。死刑執行人サンソン安達正勝ヒトラーの懐刀であるラインハルト・ハイドリヒは締首人―死刑執行人―と呼ばれた。『死刑執行人もまた死す』は、彼の暗殺計画を元に制作された映画だ。このように、本来職業の一つである「死刑執行人」という言葉が、悪い比喩として用いられている。大方の者が「死刑執行人」にどういう印象を抱くか、明白である。 漫画『イノサン』で日本でもだいぶ名が知れるようになったムッシュ―・ド・パリことシャルル・アンリ・サンソンは、代々続く死刑執行人の家に生まれた四代目だ。日本でも首切り役人の家系は定まっていたが、フランスでも世襲制で、異なる職業の者との婚姻は難しかった。また、給与もパリ革命前夜までは高給であったが、その代わり、あらゆる事において世間の目は厳しかった。その一例として「一緒に食事をしたのが死刑執行人だと知って訴えたX侯爵夫人」に対する反論が紹介されている。理路整然としており、言っていることも正論だ。しかしシャルル・アンリは同時に「わかっていたのである。人間の自然の感情に対しては論理の力は無力であるということを。敵を殺した兵士は称えられ、相手を殺した決闘者は許されるけれども、処刑台で人を殺す死刑執行人は恥辱でおおわれ、忌み嫌われるのがこの世の習いなのだということを。」 「処刑する側も嫌で見ている側も嫌ならば、単純に死刑自体を止めればよい」という話になるが、当時のフランスでは処刑はライブショーだった。「処刑台の周囲に詰めかけてきた人々の中を、事件について書かれたパンフレットを売る人、食べ物や飲み物を売る人々が声を張り上げて動き回っていたのであり、人々は友人知人とわいわい騒ぎながら、今か今かと処刑がはじまるのを待ち受けていたのである。あまりに多くの観衆が集まり過ぎて処刑台の周囲で押し合い圧し合いになり、死者が出ることもあった」 さしずめSNSが普及している今ならば、残酷な光景が拡散されていたかもしれない。なんの事はない。人々の心に隠れている残虐性が大いに刺激されて、これはこれでストレス解消に一役買ったというわけだ、ひどい話ではあるが。 多く頁を割かれているのはルイ16世との関係においてである。王に任命された職を誇りに思っていたサンソンが、自ら主君の息の根を止めることになるのは、何とも皮肉である。国王であった時のルイが「どうやればギロチンの刃が切れやすくなるのか」とサンソンと言葉を交わしていたというエピソードも、末路を知る我々にとってはぞっとする話であり、翻れば、一歩先の運命など誰にもわからないという極めて当たり前の事を教えてくれる。死刑執行人サンソン [ 安達正勝 ]新しいやちむん/沖縄の陶器 やちむんの皿/プレート[一点物][サンゴ] 中皿 8寸皿 ヤチムン・珊瑚プレート(NO-27)
April 8, 2017
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みなさん、こんばんは。今年もいろいろな絵画展が開かれますね。この評伝の主人公も一風変わった画風で知られています。裸の大将一代記 山下清の見た夢 ちくま文庫 / 小沢信男 佐伯かよのさんの漫画『あき姫』の中に「御神酒(おみき)先生」という一篇がある。放浪画家として有名だった男が、立ち寄った先で、お堂の柱や神社の壁をキャンバスにして絵を描く。私生活は貧しく、ヒロインの父親に借金をしていたが、彼の死後、絵が描かれた場所は名所となる、という話だ。戦後、「放浪の画伯」として名を馳せた山下清の評伝の中にも、よく似たエピソードがある。ただ、清の場合は、有名になってからの放浪だったため、立寄り先で絵を描く事を強制された、という違いがある。 さて、「放浪」といえば、我々の世代では、山下清といえば、圧倒的に『裸の大将放浪記』というドラマでの印象が強い。だが、無垢である事を強調され過ぎていて、自分とは接点のない人間のように感じていたので、一度もドラマを見た事がない。しかし「虚実混然、うそも方便のバリエーション(p62)」で成り立っていた放浪の件を読んで、彼が「出来すぎた人物」ではない事がわかり、やっと寄り添ってみる気になれた。 清が佐渡に渡っていた同じ頃に、著者が佐渡に初めて行った時の印象について語っていたり(p246)、評伝にしては、著者について書かれた部分が多いな、と感じる方もいるかもしれない。だが、「主役・清に素直に向き合おう」という姿勢が見てとれるので、こちらも素直な気持ちで読めた。【中古】 裸の大将一代記 山下清の見た夢 ちくま文庫/小沢信男【著】 【中古】afb楽天で購入
February 24, 2017
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みなさん、こんばんは。みなさんは、〆切に悩まされた事が必ずありますよね。仕事をしていても、勉強をしていても期限はつきものです。さて、作家達はどんな風にしてこの〆切を乗り切ったのか。そして編集者はどんな風にして〆切を守らせようとしたのか。気になりませんか?〆切本 左右社原稿料は原稿のボリュームとクオリティと〆切で決まる。そのうちクオリティというのは曖昧だ。相対的にこれが百点と言えるものがない。そのため、コンスタンスに仕事がくるうちは、まあ一定の線はクリアしてるってことだろう、と思う事にしている。しかしボリュームと〆切は、不足したり遅れれば誰が見てもわかる。だからどちらも欠かせないし破れない。そうはいっても頭の中に浮かんでこない時はある。ここに掲載されているのは、そんな書けない言い訳と困った作家を待つ身が書いた文章である。 「なんだ、言い訳文じゃないか」と鼻白むなかれ。作家のセキララな感情吐露はなかなか面白い。例えばかの名作『吾輩は猫である』を執筆中の漱石センセ。「桂月が猫を評して稚気を免れず抔(など)と申して居る 恰(あたか)も自分の方が漱石先生より経験のある老成人の様な口調を使ひます」書けないで悶々としているにも関わらず、他人の批評が気になって仕方がない。そうかと思えば高浜虚子が家を新築すると聞いて「ニ階を建てるのは驚きましたね。明治四十八年には三階を建て五十八年に四階を建てて行くと死ぬ迄には余程建ちます」などとユーモアなのか嫌味なのかわからないコメントを残す。 「昼は、書いていれば用事で何かと呼ばれるし、ご飯だと言われれば食べなきゃいけないし(もちろん上げ膳据え膳)、それに昼間っていろいろ事件もあるんだよね。」と、全編言い訳なのが泉鏡花センセ。「ちなみに春とか秋とかより、すごーく暑かったりすごーく寒い方が筆が進むんだよね」と書いているが、恋情のために麻酔を断る『外科室』の作家らしく、真性マゾですな。 次に『ノラや』『阿房列車』シリーズの内田 百間センセ。年越ししたいが金がない。そこで「原稿書くから」と原稿料を前借して〆切を年末に設定するが書けない。すると「一体、原稿を書くということを、小生は好まないのである。自分の文章をひさいで、お金を儲けるとは、なんという浅間しい料簡だろう」 「原稿書いてなんて言う相手が悪い!」と、すっかり他罰モード。いやあ、あなたはそれでお金を儲けてきたんでしょうずっと!とツッコミを入れたくならないだろうか。 つらつら読んでいくと、よほど作家が苛められているようにも感じるが、ちょっと待った。〆切を設定されているということは、その作家は作品を「待たれている」ということだ。「別に何でもいいから書いて下さい。期限いつでもいいですから。」と言われるのは、よほどの大家を除いて、当てにされてないということかもしれない。だから作家は苦しみつつも、ブッ壊れたコメントをまき散らして、何かのスイッチが入った拍子に、期待に応えて我々が「名作だ!」と感動するような作品を世に出す。また、編集者もそうした作品の第一の読者となれる喜びを独占できる。実はこの苦しみの記録は、この上なく至福の記録と言える。【楽天ブックスならいつでも送料無料】〆切本 [ 左右社 ]楽天ブックス
January 28, 2017
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みなさん、こんばんは。だいぶ涼しくなりましたね。自分が書いている文章って意識した事ありますか?この本を読めば文章の書き方がかわるかも?文章読本さん江 斎藤美奈子 世に出ている文章読本について、斎藤美奈子氏が物申す! 一文で内容を説明するなら、こんな処だろうか。「権威なんて、全然意味がないのに、褒めそやされてる。イマイマしい!」なんて思っている人──例えば、『文学賞メッタ斬り!』シリーズなどをよく読む方々ならば、大いに楽しめるだろう。 それにしても、世に出ている文章読本がこれほどデタラメを教えているとは、驚きだ。「プロのもの書きの文章には、自分が心から『書きたい!』と思って書いたものが非常に少ない」なんて、全然不思議に思わない。なぜならば、「他社(者)に依頼された仕事を遂行する」のがプロなのは、もの書きに限らずどこの業界でも同じなのだから、「書きたいと思って書いたもの」がすんなり仕事として通用するのが稀である事なんて、わざわざ批判する必要すらない。むしろ「全人格を傾けて書いたものがめったにない」などと仕事内容を決めつける事こそ、プロに対する侮辱ではなかろうか。 さてさて、こんな風に、文章読本の全てが正しい訳ではないので、「自分は文章がヘタだ」と思っている皆様は、自信回復のために、是非ご一読を。【楽天ブックスならいつでも送料無料】文章読本さん江 [ 斎藤美奈子 ]楽天ブックス【プリザーブドフラワー】あす楽 送料無料 手作り 結婚祝い 記念日 ギフト プレゼント 結婚記念日 フォトフレーム 写真立て ウォールフレーム 壁掛け フォトスタンド 敬老の日
October 12, 2016
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みなさん、こんばんは。昨日は台風の中送別会で疲れました。でも今日が休みなのでちょっと疲れが取れそうです。この本も読むと疲れがとれそうな内容です。ちいさな桃源郷池内 紀幻戯書房「さあ、私はこんな事が書けるんですよ、どうですか。凄いでしょう。」「僕はこんな文章も書けるんですよ、素晴らしいでしょう。」書かれた内容を認めて欲しいというより、書いた自分を褒めて欲しい。ページをめくった途端、こう言いたげな文章とぶつかると、読む気が失せてしまう。 けれど、池内紀氏と最初に出会った著書『二列目の人生』の文章は、その反対だった。ここに登場する「第二の宮沢賢治」「第二の南方熊楠」と称された人々は、打ちこんだ分野において、既に名が知れた一列目の人がいたために、広く語られる事がなかった。しかし、当の本人達は、その二列目というポジションを、決して嫌がっていなかった。また著者も、そんな彼等を「不運にして二列目と位置づけられたけど、健気に生きた」と美談風に綴る事をしなかった。あるがままの彼等の生き方を、何の気負いもなくすくいとった。そんな印象だったので、読んでいても、その後も、とても気分が良かった。こういう人が選ぶ文章なら、読んできっと清々しい気持ちになるに違いないそう思ったから、山の文芸誌『アルプ』に馴染みがなかったにも関わらず、氏が選んだ33篇のエッセイが収録された本書を手に取る事を、少しもためらわなかった。「人に知られず、どこかにひっそりと埋もれているつつましい山、かわいらしい山、静かな山(中略)他のどの山よりも深い愛着を抱いている山」と手放しで「カッパ山(筆者命名)」を褒める研究者の文章には、思わず笑みがこぼれ、「あむばあ」「うむばあ」という謎の生物が登場するIII章を担当した版画家の文章には、「まるで宮沢賢治の童話『やまなし』みたい!」と、かつて使った教科書を引っぱり出したくなる。『黒沢小僧の話』に出てくる「小豆ばばさ」は京極夏彦氏の『巷説百物語』に登場する「小豆洗い」のバリエーションかもしれないと想像する。後書きに氏が書かれているように、「大仰な言葉、大仰な感情、臆面もなく私情を披露したものを省いた」ため、それぞれの個性が出ていても、筆者のアクが強くて読みにくい文章は一つもなかった。子供でもその名を知っている椋鳩十から、アイヌ文化研究家、会社員。筆者それぞれの視点から、それぞれの言葉で、「自分達のとっておき」を率直に語っていた。 読み終えて、はて自らの桃源郷はと考えた時、三峡ダムで水没する前の白帝城に昇る途中で見た、満天の星を思い出した。星空の素晴らしさを訴える写真家の文章「蒼い岩棚」で筆者が書いていたように、手を伸ばせば届く所に星が見える、まるで花畠のような空だった。筆者が見た星空も、あの星空を見た山道も「文化のない文明の洪水(p184)」に飲みこまれてしまったが、一万年もほんの瞬間でしかない永劫の時間を生きる自然は、百年そこそこしか生きぬ人間よりもはるかにしぶとく、たくましい。「ボンヤリしていて、宝物が目の前に落ちていてもわからない(p86)」なんて事のないように、素直に心を開いていれば、「われわれの住むところの、ほんの少し先に(p267) 」桃源郷は、ふっと姿を現すかもしれない。ちいさな桃源郷 [ 池内紀 ]価格:2484円(税込、送料無料) (2016/8/9時点)
September 22, 2016
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みなさん、こんばんは。評伝って聞くと堅苦しいイメージを想像しませんか?でも群ようこさんの場合は、とっても読み易いんですよ。たとえば、こんな本はどうでしょう。飢え群ようこ「ヒヨコの猫またぎ」「一葉の口紅 曙のリボン」等々、群氏は、「オリガ・モリソヴナの反語法」の著者・米原万里氏と並び、優れたタイトルをつける名人だ。本のタイトルは、家の門のようなもの。森光子氏の舞台「放浪記」の存在しか知らない私は、首をひねり、次にこう言った。「ようし、開けてみよう。」 門の中には、今まで見た事のない果実のなった木があった。聞いた事はあるので、興味はあるが、表面が堅そうだ。ふと見ると、手前に煎れたてのコーヒーがある。このコーヒーは、以前試した事があるので、保証済みだ。よし、なら大丈夫。片手にコーヒーカップを持ち、もう一方の手に持った果実を、かぷ、と噛んでみる。コーヒーの名は群ようこ、果実の名前は林芙美子。 本書では、あるテーマについて、まず群氏自身の、次に林氏の体験が描かれている。「下関からパリーへ 」の項では、群氏が「アメリカ恥かき一人旅」で触れた自身の旅の経験を述べた後に、林氏のパリ旅行について語るという風に。 ところで、林氏がパリに向けて旅に出たのは1931年11月12日。シベリア経由 で、シベリア鉄道に乗ったのだ。冬に向かう季節にシベリア鉄道に乗る。昔は、暖房設備が充実していたとも思えない。女性の一人旅としては、肉体的にかなりきつかっただろう。おまけに同じ年の9月には満州事変が起きている。今なら外務省が危険度のかなり高いランクをつける。長距離の旅行は初めてだというのに、付き人がいた風にも見えない。よくもまあ、思いきったものだ。彼女は、乗り合わせた人々と、進んでコミュニケーションを取る。食事も日本料理に固執しない。彼女は、正に旅行向きの人だ。私が編集者だったら、盛り沢山な内容の、面白い旅行記を書く彼女に、どしどし旅行に行ってもらっただろう。そして彼女は、来る仕事全部を受けただろう。自分の飢えを満たすために。 食べ物がない。金がない。物質の飢えは、精神にも影響を与える。何かを楽しむ余裕も、愛情も、 プライドもすり減る。つまり精神的にも飢えてゆく。物質的飢えは目に見える物で満たされるが、精神的な飢えはそう簡単ではない。再び失う恐怖、過去に蔑まれた記憶、見えないものにおびえ続けるからだ。時に「うんざりする」と評される彼女の上昇志向は、飢えを満たそうとする思いの副産物だ。可哀想だな。そう思っても、決して彼女に告げない。それはきっと、プライドをいたく傷つける。彼女が精神的飢えと戦う時に、楯として身につけたプライドを。そして彼女を「飢え」させなかった唯一のもの、母の愛。彼女に「どんなに私の思想の入れられないカクメイが来ようとも、千万人の人が私に矢をむけようとも、私は母の思想に生きるのです。」とまで言わしめた、この愛をエネルギーに、プライドを楯に生きた彼女に瞠目し、一礼して門を閉じた。【中古】飢え / 群ようこネットオフ楽天市場支店
September 16, 2016
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みなさん、こんばんは。8月も終わりですね。台風がいってしまいとても暑くなってしまうそうです。ひええさて、こちらは規格外の人達ばかりが登場する評伝です。篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝出版社 河出書房新社 著者・翻訳者 竹熊 健太郎 まず、このタイトルを読めるか、読めないかで、読者を選ぶ作品ではないだろうか。そして帯に書かれている人物達の肩書き「虚業家/康 芳夫」「画怪人/石原 豪人」「生涯助っ人/川内 康範」「全裸芸術家/糸井 貫二」もまた、読者を選ぶ要素となろう。 さて、これらに怯まず本書を手に取った読者諸君、幸いなるかな。個性豊かな、いや、個性だけでできていると言っても良い人達のインタビュー集が、貴方達を待っている。 「糸井貫二 ダダの細道」に関しては、「そもそも、他人との接触を拒んでいる氏とのインタビューが成立し得るのか?」という、インタビュー以前の問題が浮上してハラハラさせる。周辺の人々に対するインタビュー、断りの葉書。やはり実現できずに終わるのかと思ったが、往復書簡が、かすかな糸をたぐり寄せる。インタビュアーの「聞きたいエゴ」、語り手の「語りたいエゴ」のぶつかり合いであるインタビュー。この回だけはインタビュアー押され気味、と見えたが、皆さんは果たしてどう見るか? 出版社 河出書房新社 著者・翻訳者 竹熊 健太郎 (著) 初版発行日 2007-12-04【中古】篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)KSC
August 31, 2016
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みなさん、こんにちは。北海道の子供見つかってよかったですね。自衛隊の施設に鍵がかかってなかったのはどうなの?というツッコミもありますが。さて、こちらはエッセイです。漂泊のヒーロー―中国武侠小説への道岡崎由美大修館書店 かねてから、宮城谷氏と酒見氏による三国志を切望していた身としては、酒見賢一氏が別冊文藝春秋で「泣き虫弱虫諸葛孔明」の連載を始めた時は、まさに、願ったりかなったりで、笑いが止まらなかった。 氏は、予想通り、いや、予想を遥かに越えて、私の知っていた三国志世界を豪快に壊し続けている。 元から暴れん坊だった張飛の酒とバラガキの日々は更にパワーアップし、劉備玄徳は「たれぱんだ」もどき、孔明に至っては、「ああ、よくぞここまで変な奴に描いてくれた」と三拝九拝したくなる変貌ぶりである。酒見氏描く桃園トリオは、従来『三国志』として知られてきた「義に生き義に死す」ヒーロー達のイメージとは違う。「全く彼独自の発想なのかな?」と感じたが、本書を読むと、「連載中の彼等の方が、実像に近かったのではないか?」と思えてきた。彼等は、「侠気」を重んじていた。「義」と「侠」の言葉の意味を調べると、存外よく似ていたが、「侠」の字で博徒を連想し、 暴れん坊で乱暴者というどちらかと言えばマイナスのイメージを持っていたらしい。 軍師の割には人殺しのイメージが薄い孔明が、自ら他国の使者を斬るといったくだりもある。「『ニキータ』『ダーク・エンジェル』「あずみ』の元ネタか?」と思われるような女刺客の物語も紹介されている。攫われていた何年間かに、殺人の技を身につけた彼女の上司はやはり女性。後頭部に匕首を埋め込む(どうやるのだろう?)サイボーグもどきの彼女の物語を、隣国日本がもし先に知っていたら、今頃リメイクしていたのは、フランスだったかもしれない。 思いこみが先行して、今までその手の本を読まず、映画を見ずにきた武侠ワールドが、好きな三国志とつながった。だからこれからは、奥深いこの分野に一足踏み込んでみようと思う。宮本昌孝氏の「夕立太平記」に似た小説を、ものしている日本の武侠小説家、押川春浪への言及があった事も嬉しい。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】漂泊のヒーロー [ 岡崎由美 ]楽天ブックス
June 4, 2016
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みなさん、こんばんは。地震びっくりしましたね。最近多いなぁ。さて、こちらは顔はまんまインド人なのに日本の名前を持つ女性の伝記です。インド独立の志士「朝子」 笠井亮平 つい先日、インドの独立闘争指導者、スバス・チャンドラ・ボース(いわゆる中村屋のボースとは別人)が死亡した事故で新事実が明らかになった。ボースらとともに陸軍機に搭乗していた元整備兵が、離陸直前に操縦士が交代したことを証言し、この事が墜落死に繋がったのではないか、というのだ。未だ生存説が飛び交うチャンドラ・ボースに私淑していたインド人が日本に住んでいたことや、その娘が日本名を持ち兵士として戦っていたことは、あまり知られていない。本書は彼女とその両親を中心とした評伝である。 チャンドラ・ボースに感化されて独立運動に身を投じることを決意した朝子は、1945年にバンコクに赴きバンコクにあった婦人部隊に配属されるが、日本の敗戦により活動は終了。紆余曲折を経てやっと祖国インドの地に降り立つまでが、きれぎれに描かれている。当人達が語る自伝スタイルとは異なり、本人と関係者へのインタビューや手紙や歌などが紹介され、明確でない部分(会話の詳細など)は想像で補われている。 韓国を併合し中国に傀儡政権を建てた日本は、同じアジア圏の国から侵略側として憎まれている一方だと思っていたため、未だ英領であったインドが、日本にかなり期待と好意を寄せていたことが意外だった。なるほど、別の視点から見れば、帝国主義で次々と植民地支配を進める西欧に対して、ただ一国独力で対抗できるアジアの国にも見えたわけだ。日本がインドの独立に対してどれだけ本気だったかはわからないが、東条英機首相と面会して意気投合し、インドで日本軍と共に戦っている。他国を武力で侵略することではなく、アジア諸国を支援することで、共に西欧に伍するほどの実力をつけることが出来ていれば、と実現しなかった未来が惜しまれる。【楽天ブックスならいつでも送料無料】インド独立の志士「朝子」 [ 笠井亮平 ]楽天ブックス
May 17, 2016
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みなさん、こんばんは。まだ仕事をしています。さて、こちらは実際にあった事件について述べたものです。あり得ない!と思う話も入ってます。中国ミステリー探訪-千年の事件簿から- 井波律子人の数だけ事件があるから、日本の10倍以上の人が住む中国では、数え切れないくらい事件が起こっている。殺人、不倫、詐欺、窃盗。では、現実でなくフィクションではどうなのか? 「三国志」「水滸伝」は知っていても、中国産ミステリには、馴染みがない。森福都氏が「双子幻綺行」「十八面の骰子」で中国を舞台にしたミステリーを発表しているが、「本場ミステリってどんなんだろう」と思っていた矢先に現れたのが、この本。幸い「中国文学の愉しき世界」で既に著者の文章に触れていたので、「この人ならば、きっとわかりやすい文章で説明してくれるだろう」と信頼を置いた上で、読み始めた。 いやはや、「千年の事件簿から」というサブタイトルは伊達ではない。取り上げられる時代が、古くは3世紀の六朝時代から、外国ミステリの翻訳が入ってきはじめた20世紀にまでと実に幅広い。とはいっても、初期はただ怪奇現象を綴った短編小説の類いが登場し、本格的にミステリが意識されたのは、16世紀末〜17世紀始めというから、我々がよく知る意味でのミステリとしては、歴史は浅い。 さて、書かれた時代とシチュエーションは違っても、ミステリーにはいくつか共通点がある。「怨みの縁皿」「悪漢狂騒曲」「和尚の冤罪」「逆転判決」では、事件が起こると、無実の人が捕まる。過失致死ではなく、殺す意思があった上での行為として取り調べられているのだから、自白してしまえば死刑である。それにも関わらず、皆拷問に耐えかねて、やってもいない罪を告白してしまう。死刑よりもよっぽど恐い拷問があるのだろうか? 今度はそっちも気になった。後に身の証が立てられ、「めでたしめでたし」で終わればいいが、中には問答無用で殺されてしまった人もいる。「怨みの縁皿」では、女性が処刑される直前に、「もし私が無実ならば、血は逆に流れるでしょう」と言い残す。結局その通りになったので冤罪だとわかるが、いくらなんでもそれでは遅い。 八世紀中頃の唐代伝奇「蘇無名」では、則天武后が娘に贈った財宝が盗まれる事件が載っている。則天武后は州長官に「三日以内に盗賊団を逮捕」と命じ、長官は部下の警察署長に「二日以内に逮捕」と言い、署長は部下の警官達に「一日以内に逮捕」を命じる。うわ、義務と責任をなすりつけ、いかにもお役人。こんな事で中国の司法官憲は大丈夫なのか?とフィクションながら気になったら、いた、いた。明末の公案(事件)小説に登場する、清廉潔白、全知全能の名裁判官、包拯。一人の息子をめぐって、二人の女性がいずれも母親だと主張。さて本当の母親はどちらか? ある提案で包拯が真実を見抜く、大岡越前そっくりのエピソードをひっさげて登場(「二人の母」)。ああ、よかった。一人くらい、こういう人がいてくれて。ところが、その包拯、「『黒猿』の謎」では、ある夜に黒猿が現れたから、「犯人は猿=エンという字に関係がある」と、突拍子もない推理を口にする。黒猿が喋っても驚かない包拯は、いろんなものと会話をする。「黒桶の告発」に登場するのは、何と便器として使われていた黒桶。黒桶の語りを聞いて、持ち主は包拯の所に連れてゆくが、何も喋らない。不思議に思って持ち主が聞いてみると、「裸で恥ずかしかったから」と答える。そして布をかぶせられると、包拯の前で、ハキハキと殺人事件の顛末を語るのだから、恐れ入った。恐れ入りついでにもう一つ、包拯はこの黒桶の告発を受けて、真の犯人を逮捕する。 さて、きりがないので、ここから先は、是非ご自分の目で、未知の世界、奇想天外な中国ミステリワールドを確かめ、大いにツッコミを入れて頂きたい(おいおい)。【10点購入で全品5%OFF】【中古】中国ミステリー探訪-千年の事件簿から- / 井波律子ネットオフ楽天市場支店
May 15, 2016
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みなさん、こんにちは。春だと言うのに鼻がぐずぐずしてます。花粉症と間違われますが風邪です。うっとうしくて早く治って欲しいものです。さて、こちらは映画絡みの話題が沢山載っています。映画狂人のあの人に会いたい蓮実重彦虹の彼方にある素敵なところ(中略) 空は青く 夢がかなう国 とジュディ・ガーランドは歌いました。 では、スクリーンの彼方には、何があったのでしょう。 1950年10月22日アメリカ映画監督協会の臨時総会。 監督セシル・B・デミルは、非米活動分子情報を調査委員会に流し、赤狩りのお先棒を担いでいた。 さらに彼は、協会長のジョセフ・L・マンキウィッツ解任を画策。 形勢はデミルに有利。明け方近く、ある男が立ち上がる。 「私はジョン・フォードと申します。西部劇を撮っている者です。」 そして、デミルに向かい、こう言った。 「心の汚れた連中は、たたき出すしかない。」 デミルは協会評議員を追われ、マンキウィッツは会長に留まる。 野球帽にスニーカーのフォード監督は、「さあ、帰って 寝よう。明日は撮影があるのだから。」 と言った。 ここでエンドマーク。観客総立ち。 まさに、申し分のないラストシーンである。 ところが、現実は映画と違う。後日談がついてくる。 旅行から帰って後、マンキウィッツは、「監督は、 全員忠誠を誓い、共産党に所属していないと所属すべきだ。」と 語り、話を振出しに戻してしまった。やれやれ、なんてこったい。 そんな話を披露してくれたのは、1953年「拳銃を売る男」完成 直後、ブラックリスト入りし、ハリウッドを去る事になったジョセフ・ロージー監督。オズをつくった映画の都は、 彼を追い出したけれど、彼は映画から去らなかった。 彼等を通じて見えてくるスクリーンの向こうの世界は、ある時は難解、ある時は妖しく、そしてある時は非情。それでもなお、七色以上の彩りを帯びて、今も多くの人をひきつけてやまない不思議なるもの。それが映画。【楽天ブックスならいつでも送料無料】映画狂人のあの人に会いたい [ 蓮実重彦 ]価格:2,160円(税込、送料込)
April 12, 2016
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みなさん、こんにちは。昨日は出社第一日。2週間もゆっくりしたつけがまわってきて疲れました。また人から教えてもらうというのも自分のペースでなくてきついですね。さて、こちらは何年か前のルポルタージュです。派遣のリアル 300万人の悲鳴が聞こえる門倉貴史「派遣切り」「年越し派遣村」などが社会現象となり、これでやっと労働条件改善への道が開けたかと思いきや、総選挙を前に改正派遣法が廃案になった。どのような職種であれ派遣期間が三年とされ、それ以降は企業への直接雇用か別の会社への派遣が選択できる。しかし、これだけ派遣の便利さが企業に浸透してしまっては、直接雇用より人を変えて雇い入れた方が安上がりだと考えるのが普通であろう。今から派遣社員は三年後を考えて戦々恐々としている。 本書は2007年に書かれているが、今同じ題材について書くとすれば、就業に関する数値は更に厳しくなっており、悲鳴は300万人では済まないであろう。派遣の総括とするならば、派遣社員、派遣会社の社員のインタビューはあるものの、直接の指揮命令者である派遣先の社員のインタビューはない。その意味では、本書は派遣の総括とはいいきれないのではないか。取材しにくいであろうし、回答も読者の反応も予測されているだろうが、それでもやはり生の声に拘るならば、取り入れても良かったのではないか。そこから、他の評者も述べているような、企業経営者側の視点が浮かび上がってくると思う。【中古】 派遣のリアル 300万人の悲鳴が聞こえる 宝島社新書/門倉貴史【著】 【中古】afb
March 15, 2016
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みなさん、こんばんは。日銀がマイナス金利ですね。企業に余剰金がたっぷりということですね。だから献金もできるんでしょう。従業員に還元すればいいのに。さて、今日は貧困についてのまじめな本です。岩波新書 新赤版 1124反貧困 「すべり台社会」からの脱出湯浅誠「お金がないなら結婚しない方が良い」という某政治家の言葉が話題になった。だが、この言葉を単独で取り上げれば、そう的外れなことを言っていない。非難されたのは、回答者が、質問者がなぜそう問いかけたかを推し量る余力を持たず、一般論で返したことではないのか。 言うまでもなく、人間ひとりひとりは、環境も性格も違う。だから、第一章「ある夫婦の暮らし」を一度読んで、「自己責任じゃないか」と結論づける人もいれば、自分に引き寄せて考える人もいるだろう。しかし「違う考えの人は永遠にわかりあえない」と結論づけてしまったら、そもそも社会生活は成り立たない。 昔は地縁社会や社縁社会が年月をかけて形成されており、自分とは違う人達が周りにいた。勿論、監視されているような息苦しさもあったが、その代わりに困った時には差し伸べられる手が今よりも多かった。しかし第二章「すべり台社会・日本」に描かれているように、現在では差し伸べられる手が公私ともに存在しなくなってきている。その救いの手がどこからも届かない時に、第三章「貧困は自己責任なのか」で語られているように、ひたすら「自分の責任だから自分で何とかしろ」と言われても、解決にはほど遠い。ここまでの第一部は現状について述べ、第二部では解決への糸口を挙げている。作業現場、公的支援の窓口などの描写から、決して自己責任のみではない複合的要因も見えてくる。ならば、明日は我が身でないという保証もない。自分がそうなるかもしれないから、という理由はフェアではないかもしれないが、『社会の溜めの必要性』『他人を理解する大切さ』を強く感じた。岩波新書 新赤版 1124反貧困 「すべり台社会」からの脱出/湯浅誠【後払いOK】【1000円以上送料無料】オンライン書店 BOOKFAN
January 31, 2016
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みなさんおはようございます。雪になると言われていましたが、朝から雨で、ちょっとちらついた以外は雨です。最近よく名画が日本にやってきますね。名画に詳しくなりたいといえばこの人の著書を読まれるといいのでは。中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇 / 中野京子『怖い絵』シリーズで名を広めた著者が、ギリシア神話に材をとった絵画を紹介しながら、それぞれの神々について物語る。1 ゼウスをめぐる物語2 ヴィーナスをめぐる物3 アポロンをめぐる物語4 神々をめぐる物語と大きく4章に分かれている。奔放な神々に対して、人間はひたすらひどい目にあわされる立場なのが悲しい。キリスト教の厳しい戒律の中で、神々を描くのならエロティックOKだということで、官能美に溢れた女性が美しく描かれている。実際に見てきたが、レンブラントの『ダナエ』は、彼にしては本当に珍しく、表情豊かな女性像が描かれている。雑誌掲載時には絵画はモノクロだったが、書籍では全てカラーになっており、説明文を読むだけでは分からなかった微妙な色遣いが鮮明になっている。更に主要絵画24点には、引き出し線が追加されているので、神々のアトリビュートについてなどの説明が分かりやすい。同じ神を題材にした絵を比較したり、同じ素材を複数の画家によって比較する楽しみもある。ギリシア神話は昔の岩波少年文庫で読んだきり、という人も、絵を通じて再び知り合ってみては? 【中古】文庫 中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇 / 中野京子【02P20Nov15】【画】【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
January 30, 2016
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みなさん、こんにちは。連休中も天気がいいですね。朝がゆったりなので風邪をゆっくり治す事ができそうです。さて、今日紹介するのは昨日紹介したエッセイの第二弾です。残酷な王と悲しみの王妃(2) 中野京子絵画を交えながら王族達の生涯を語るシリーズ第二弾でとりあげられたのは、いずれも映像化作品が残っている有名人だ。 トップバッターはバイエルン王ル―ドヴィヒ二世。先ごろ出版されたカチュール・マンデスの『童貞王』の主人公、フリードリヒ二世のモデルだ。ワグナーに突撃インタビューを行ったにもかかわらず、彼の生存中に刊行されたからなのか、モデルとなった作曲家ハンス・ハンマーはわずか1シーンの登場で、そのかわりに活躍するのがフリードリヒ。父の従姉でオーストリア=ハンガリー帝国の皇后エリザベートに憧れを抱き、その妹と婚約しながらも彼女から逃げ回る…というル―ドヴィヒの逸話は、人間関係を多少変更して『童貞王』にトレースされ、祖父ルートヴィヒ1世を魅了した踊り子ローラ・モンテスを模した肉感的美女から追いかけられるフィクションが加わっている。ところで、本書にてルートヴィヒ1世とローラの出会いが紹介されているが、みんなは王のもとに「今年は年貢が払えない」とか「村で疫病が流行して…」とかシリアスな悩みや陳情を持ちこんでいたのに、乱れた衣装で「私、劇場で踊りたい!」と談判しにいく彼女の勇気を誉めたたえるべきなのか、それをまともに取り上げた王を「なんでどす?」と問い糺せばいいのか、悩ましい。 しかし彼を主人公に据えた最も有名な映画はルキノ・ヴィスコンティ監督の『ルードウィヒ/神々の黄昏』だろう。「ル―ドヴィヒは写真でも絵画でもいつも視線をあらぬ方にさまよわせている」という中野さんの指摘がなかなか鋭い。 二番手はロシアのアレクサンドル三世妃マリア。ロシア最後の皇帝ニコライ二世の母后といった方が通りがいい。映像作品では、主役にはならないが、イザベラ・ロッセリーニがハリウッドに戻って撮った『追想』に晩年の姿が、『ニコライとアレクサンドラ』には血友病の孫が生まれた頃からの姿が登場する。 三番手はスペインのカルロス三世だが、章の主役はむしろ彼の妻スペイン王妃マリア・ルイサ。映像作品でもやはり彼女の方が多く登場する。ビガス・ルナ監督の『裸のマハ』では、スペイン王妃ルイサ、王家に勝る社交界の華カイエターナ・アルバ公爵夫人、野心家の総理大臣マヌエル・デ・ゴドイ、『裸のマハ』のモデルと言われたゴドイの愛人ペピータ・トゥドー、ゴドイの存在を快く思わない皇太子フェルナンド、当代随一の宮廷画家フランシスコ・ゴヤなど、本章の主役たちが総登場。またミロス・フォアマン監督の『宮廷画家ゴヤは見た』では、本作にも登場した絵画【マリア・ルイサ騎馬像】を描いている最中のゴヤが登場する。彼等ほど、王族としての権威もカリスマもない人物画も珍しいが、かえって目立つ。 トリはデンマーク・ノルウェー王妃カロリーネ・マティルデ。王の侍医ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセとの不倫により彼の子を妊娠・出産し幽閉される。映画『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』で本文に書かれた内容はほぼカバーされており、侍医ストルーエンセを演じたのはTVドラマでセクシーかつ危険なハンニバル博士を演じているマッツ・ミケルセン。但し、本書に紹介されている彼の処刑はかなりおぞましい。 面白いエピソードも交えながら簡潔に各人物の生涯を紹介している。絵との絡みの部分はあまりないが、表紙にも採用されている『カルロス四世家族像』については詳細な説明が付されている。本を見てから映像に走るか、映像を見てからじっくり生涯を読み解くか。さて、どうします?【楽天ブックスならいつでも送料無料】残酷な王と悲しみの王妃(2) [ 中野京子(ドイツ文学) ]楽天ブックス
January 10, 2016
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みなさん、おはようございます。新年最初の一週間はいかがでしたか?私は何だか疲れました。風邪もひいてしまいましたし…。でも来週は一日休みが多いのでこの連休中にじっくり休もうと思います。さて、こちらは中野京子さんのエッセイです。残酷な王と悲しみの王妃中野京子「…いつまでも幸せにくらしましたとさ」とは、おとぎ話のお決まりのエンディング。では、実際はどうだったのか?【怖い絵】で、絵の裏に隠された意味や事実を明かしてくれた中野さんが、今回は5人の王妃を取り上げて、肖像画も取り上げながらその実態に迫る。ここに登場するのは【スコットランド女王メアリースチュアート】【ベラスケスの『ラス・メニーナス』のモデルになった神聖ローマ帝国王妃マルガリータ・テレサ】【イワン雷帝の七人の妃】【イングランド王妃ゾフィア・ドロテア】【エリザベス女王の母アン・ブーリン】【メアリースチュアート】に関しては、デスマスクや処刑台に向かう時の彼女の演出、若い時の表情などが画像から読み取れたので新たな視点を与えられた。【イワン雷帝…】の章はもう悲惨というよりほかはない。アンリ・トロワイヤの『イワン雷帝』でも彼の行状は描かれていたが、対妻、対子供への接し方に焦点を当てると、いやもうえげつない。家庭破綻者といっていい。童話のモデルには一番なりにくいタイプだろう。【マルガリータ・テレサ】はベラスケスによって何度も描かれたため、知名度に反比例して肖像画だけが知名度がある稀有なケース。血筋を残すことと、王家のプライドを保つためとはいえ、何度も続く近親婚は、本人たちの気持ちはどうあれおぞましい。絵だけが後世に伝えられて、かえって幸福だったのではないか。映画にもなっているので知名度が割合高いのは【アン・ブーリン】【メアリースチュアート】だろう。但し、【アン・ブーリン】の生涯そのものは知っているので、絵に絡んだ話がもう少しあれば新味があり面白かったろう。やはり絵は具体的なイメージを描くには必要な要素だと思う。但し、古い時代だとなかなか難しいのかもしれない。陰謀に巻き込まれた【ゾフィア・ドロテア】は今回初めて知った。できればあまり取り上げられていない女性にスポットをあてて、絵に絡めた作品を著してもらえるとありがたい。お姫様願望を抱いている方には、現実を見つめなおすきっかけになって良いかも?ちょっと衝撃的なタイトルにひるまず、そこのお姫さま、勇気を持って読んでみませんか? 【中古】文庫 ≪日本文学≫ 残酷な王と悲しみの王妃 / 中野京子【タイムセール】【画】【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店【送料無料】 博多よかよかセットDA-11 【和菓子セット 詰め合わせ 老舗 お菓子 スイーツ ギフト 石村萬盛堂 福岡 博多 お土産 通販 おとりよせ 内祝い お祝い 誕生日 プレゼント】お歳暮 お年賀 家族 親戚 会社 送料無料 和菓子 セット 05P09Jan16価格:3,240円(税込、送料込)
January 9, 2016
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