会計:固定資産(2)

2. 取得価額の範囲
2.1 取得価額の範囲

 固定資産を取得したときに、どの範囲の支出まで資産の取得原価に含めるべきか、逆にいえば、どの支出は期間費用として費用処理できるか、が大きな問題となってくる。
 通常、棚卸資産がその定型性・没個性や反復性によって標準原価を用いた総合原価計算で原価差額を簡易に配賦できることと比べると、固定資産はその非定型性・個性に着目して個別原価計算が要求され、非常に厳格に判断が要求されているように見える。これは、固定資産の取得価額は、比較的長期にわたって償却されるため、それがすべて期間費用として処理される場合に比べてその差異が大きく、課税ベースにも大きな影響を及ぼすことが考えられるからであろう。
 では、一般論として、取得の形態によってどのようなものを取得価額に含めなければならないか?法人税施行令(以下、令)54条1項によると、下表の通り。
購入 その資産の購入の対価
(本体価格+付随費用)
付随費用とは、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(附帯税を除く)、その他その資産の購入のために要した費用。

その資産を事業の用に供するために直接要した費用
建設 建設の為に要した原材料費、労務費、経費

その資産を事業の用に供するために直接要した費用
成育 成育させるために取得した牛馬等の取得の態様に応じた金額 購入)
牛馬等の購入の対価
合併による受入)
被合併法人がその合併の日の属する事業年度においてその牛馬等の減価償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額
出資による受入)
牛馬等の受入価額
贈与、交換、代物弁済)
その取得時における牛馬等の取得のために通常要する価額

牛馬等の種付費及び出産費の額並びにその牛馬等の成育の為に要した飼料費、労務費及び経費

成育させた牛馬等を事業の用に供するために直接要した費用
成熟 成熟させるために取得した果樹等の取得の態様に応じた金額 購入)
果樹等の購入の対価
合併による受入)
被合併法人がその合併の日の属する事業年度においてその果樹等の減価償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額
出資による受入)
果樹等の受入価額
贈与、交換、代物弁済)
その取得時における果樹等の取得のために通常要する価額

果樹等の種苗費の額並びにその果樹等の成育の為に要した肥料費、労務費及び経費

成育させた果樹等を事業の用に供するために直接要した費用
合併 被合併法人がその合併の日の属する事業年度においてその資産の減価償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額

合併法人がその資産を事業の用に供するために直接要した費用
出資 その資産の受入価額
(本体価格+付随費用)
付随費用とは、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(附帯税を除く)、その他その資産の受入のために要した費用。
受入価額が受入時の時価を超える場合は、その価額に相当する額。

その資産を事業の用に供するために直接要した費用

 抽象的な表現だらけですが、要するに、"取得する資産の最も合理的な本体の評価方法"と"取得の為に必要な、つまりそれがなければ取得できない費用"というのを判定のポイントと考えればよいでしょう。
 また、取得価額の特例としては、以下のものが定められている。

建設等の場合  法人が自ら建設等をした減価償却資産につき算出した建設等原価の額が税務上の取得価額と異なる場合であっても、その原価の額が適正な原価計算に基づいているときは、法人が算定したその原価をもって税務上の取得原価とすることができる。(令54②)
 つまり、資産計上のときの原価計算が適切であれば、実績原価との原価差額の調整をせずにその取得価額をそのまま税務上の取得価額として差し支えない、ということである。それにしても、適正って???
圧縮記帳  法人税法や租税特別措置法による圧縮記帳の適用を受けた資産の取得価額は、圧縮記帳後の金額とする。(令54③等)
 100百万円で購入した資産に対して、700百万円の圧縮記帳損を損金算入したら、取得価額は300百万円である。
資本的支出  資本的支出の金額は、その本体の取得価額に含める。(令55)
リースによる取得  リース期間終了後に賃借人がそのリース資産を無償で譲受した場合、売買があったとみなされる。(令136の3①)
 取得価額は原則として支払リース料の合計額だが、契約書による区分表示がある場合、それによることもできる。(基通12の2‐2‐15)
交際費  交際費が固定資産の取得価額に含まれ、その交際費が税務申告上で損金不算入とされている場合、その相当額を取得価額から減額できる。(措通61の4(2)‐7)
 2重課税を回避する目的。

 なお、取得価額の範囲に関する判例の抜粋を下に例示したので、参考までに。

◇土地と建物を一括取得した場合の区分
 各別の取得価額は全体の取得価額を各別の固定資産税評価額の比により按分した金額によることが合理的。
◇土地の仲介手数料の取得原価性
 令54は資産の取得に要した仲介手数料についてこれを一律に資産の取得価額を構成してるものというべき。
◇紛争和解金の取得原価性
 (借地権を消滅させるための和解金は)土地の価額を増加させる部分に対応する支出であって土地の取得価額を構成するものというべき。
◇競売手数料の取得原価性
 (第三者に競売されるのを防止するための競売手数料は)資産の購入のために要した費用として取得価額に包含される。
◇耐用年数経過の中古資産の取得価額
 (耐用年数経過の中古資産の取得価額は)購入の為に現実に要した費用額によって算定すべき。
◇温泉利用権
 無形固定資産。
◇ゴルフ会員権
 支出時に返還されないことが確定していたとしても、譲渡性を有し、ゴルフ場の利用を中心とするところから、一般のゴルフ入会金同様資産計上すべき。





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