宇宙航海日誌

宇宙航海日誌

第三章(4)


「行くのか?」
背後から声がした。テレーズ卿だ。テレーズ卿によく付き従っている軍人も控えていた。
「ジジイか。遅かったじゃねえか。侵入者が逃げちまうぞ!」
「そのバイクで追いかけるつもりか?追いつけたとしてもその銃じゃアレは撃ち落せんよ」
「アレはなんなんだ?俺のリボルバーの弾を跳ね返しちまうし。魔族か?」
「いいや。あれはガーゴイルじゃ。石でできた魔獣じゃ。ミサイルを打ち込んでも死にやせんのう」
「じゃあ、どうしろってんだ!」
「これを持って行け」
控えていた軍人が一丁の大きな筒のような銃を差し出した。
「なんだこりゃ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。銃自体はたいした物じゃない。中に魔弾が入っておる。魔力を込めた弾じゃ。まだ開発中のプロトタイプじゃが、役に立つじゃろう。威力は強いんじゃが」
ロキはテレーズ卿の言葉を遮った。
「説明は後で聞く!とりあえず追いかける!」
自前のリボルバーを外し、代わりに手渡された銃をベルトに括り付ける。ロキはアクセルを全開にして夜の街に消えていった。

 ガーゴイルは街の上を低空で飛行していた。ロキはそれを目視しながら追いかける。相手は空を飛んでいるので、気付かれたらやりにくくなる。実質、打ち落とすチャンスは一度きりだろう。
 石を敷き詰めてできた道路は時折、隙間があり、そこを通る度に車体が跳ね、反動で左手に激痛が走る。幸いガーゴイルはメインストリートの上を飛んでいる。夜中は車の通行もほとんどなく、ロキの追跡の邪魔になるものはない。ガーゴイルの飛行速度はそれほど速くないらしい。ロキはスピードを上げ、更に距離を縮めた。
「当たってくれ・・・」
テレーズ卿にもらった銃を右手で構え、照準を巨大な生物に合わせる。バイクの操作は左手と両足だけに任せた。狙うのはガーゴイルの右翼の付け根。そこなら翼を破壊した上で胴体にもダメージを与えられる。硬い引き金に人差し指で引いた。

ドォオオン!!!

銃のとてつもない反動でロキはバイクごとビルの一角に叩きつけられた。全身に激痛が走る。
「うっ・・・なんだコレ・・・聞いてねえぞ」
ロキは右手に握っているはずの銃を見た。どうやら撃った反動で完全に壊れたらしい。砲身は外れ、ロキが握っているのはグリップの部分だけだった。
「威力に銃が耐えられないのかよ・・・!」
ロキは先ほどまでガーゴイルが飛んでいた夜空を見上げた。右翼を破壊されたガーゴイルはふらふらと旋回しながら、五階建ての小さなビルの屋上に墜落した。ロキはじぶんの上に被さったバイクの車体を退かし、壊れた銃のグリップをベルトのホルダーに押し込んで走り出した。ガーゴイルは倒したが、恐らく侵入者の少女は生きている。それを捕らえないことにはロキの怒りは収まらない。
 古く寂れたビルの入口のドアを軽く蹴破ると、廊下の端に非常階段への入口があるのがすぐに分かった。そこから屋上へ行けるはずだ。全身打撲で痛んだ身体を無理に動かし、階段を駆け上がる。
 屋上のドアを蹴破り、ロキは再び、侵入者と対峙した。破壊されたガーゴイルの残骸の中から一人の少女がよろめきながら立ち上がる。ロキは急いで相手との距離を詰めた。武器も何もない今は近距離で相手を倒すしかない。
「今度は逃がさねえ!」
少女はまた右手を上げ、ロキに向かって突き出そうとする。ロキは更に走る。
「同じ手は喰わねえよ!」
ロキは走りこみながら、持ってきた壊れた銃のグリップを取り出し、少女めがけて投げつけた。グリップは見事、少女の額に命中する。ロキは相手が怯んだ隙に更に距離を縮めた。ロキがあと数歩まで詰め寄った時、少女は額を押さえながら再び右手を構えた。中指の赤い指輪が怪しく光る。
「そんなもん効かねえ!!!」
ロキはそのまま相手の懐に飛び込んだ。魔法の効力が満身創痍のロキを襲う。だが、慣性の力だけでロキは相手めがけて体当たりした。薄れ行く意識の中、ロキは勝利を確信した。初めての敗北からの初めての勝利だった。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: