宇宙航海日誌

宇宙航海日誌

第四章(4)


少女は頷く。
「研究所に侵入した目的は魔石の指輪だな?」
しばらく間を置いて少女は再び頷く。その状態のまま、暫く沈黙が続いた。
「・・・あんたは魔石が自分のものだって言ったな?あれはあんたにとって大切なものなんだな?」
少女は頷く。
「あの魔石には何か大きな力があるんだな?あんたが命をかけて手に入れようとするほどの」
少女に反応はない。ただ、潤んだ瞳で真っ直ぐロキを睨む。核心に近づく質問には何も答えない。また暫く沈黙が続く。ロキは溜息をついた。
「今日はこんなもんでいいだろう。だいたいこんな無理矢理なの俺の趣味じゃないしな」
ロキはあっさりと少女の手首と口から手を離し、ベッドから降りた。少女は目を丸くし、困惑の表情を浮かべる。
「こんなところにいつまでもいたら気が滅入るだろ?」
少女はただぽかんとロキを見つめる。
「ここを出るぞ」
「・・・・・・?」
「だから出るぞ!」
「!?」
ロキは少女の腕を掴み、無理矢理起き上がらせた。そのまま部屋の外に引っ張り出して行く。廊下で待機していた二人の衛兵が、突然の魔女の出現に驚く。
「ロ、ロキ様!!いったい何を!?」
だるそうにロキは衛兵を見返す。
「あーお前ら、黙っておかねぇと殺す」
「え、えぇ!?ちょ、ちょっと待って下さい、ロキ様。何をなさろうと・・・」
ロキは空いている左腕で衛兵のみぞおちを殴る。衛兵は壁にずるずると崩れ落ちた。もう一人の衛兵は恐怖で後ずさる。空いてるのが右腕だったらと考えると恐ろしい。ロキはそのまま少女を引っ張って行く。少女は困惑しながら倒れた衛兵を見つめた。

 ロキはそのまま魔女を兵士宿舎まで引っ張っていった。状況を把握しきれないまま、腕を掴まれて。ロキはエアスクーターの前まで来て立ち止まった。魔女の方を振り返り、彼女の服装を眺める。
「んー・・・ちょっとこっち来い」
兵士宿舎の中に入り、ロキは自分の部屋の中に魔女を連れて行く。逃げようと思えば簡単に逃げられるだろう。ただ、盗賊の少年の破天荒な行動が、魔法使いの判断を慎重にさせていた。それに、少年の連れて行く先に少し興味が湧いてきた。
 ドアが蝶番から壊れた狭い部屋。魔女はただぽかんとして雑然とした部屋の中を眺める。
「これ着ておけ。そのままじゃ寒いからな」
ロキは魔女に白いファーの付いた茶色のレザージャケットを投げつける。魔女は突然飛んできた衣服を思わず受け止める。小柄の魔女には大きすぎてブカブカになるサイズだった。
「あとこれも」
次々と服が飛んでくる。今度は黒のレザーパンツと白いシャツだ。
「まぁ、裾を折り返せばどうにかなるだろ。外で待ってるから着替えたら来いよ」
「・・・・・・」
魔女の返事を待たずにロキはさっさと外に出て行く。何が始まるのかさっぱり分からないが、外に出られるのは間違いがないようだ。魔女はとりあえず渡された服に着替え始めた。
 少年はバイクのエンジンを噴かして待っていた。魔女はだぶついた服で歩きにくそうに宿舎の出口を降りてくる。ロキは魔女に黒縁のゴーグルのついた白いヘルメットを渡した。
「後ろに乗れ」
「・・・・・・?」
「ここに座って俺に掴まっておけばいい」
「な、何をするんだ?」
「どこでもいいからウサ晴らしに行くんだ!アンタの見張り役のせいでここを離れられないからな。ウサ晴らしするにはアンタも連れて行くしかないんだ!」
「!?」
ロキは魔女の腕を掴んで無理矢理後部座席に乗せる。
「しっかり掴まっておけよ」
ロキはテレーズ卿への腹いせとばかりにアクセルを思いっきり踏みつけた。魔女は思わずロキにしがみつく。
「な、なんなんだこれは!?」
「あん?あんたバイク乗ったの初めてか?」
「バイクとはこの鉄の塊のことか?」
「・・・・・・魔法使いって意外と世間知らずなんだな」
エアスクーターは低空飛行を続けながら夕日の沈む市街地へと向かって走っていった。

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