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赤々と燃える薪ストーブの向こう鉄瓶から足したお湯で割った湯気立つ焼酎を飲みながらお父ちゃんはちんまりすわってお茶で付き合うお母ちゃんと「明日は向山の伐採だとよ」と話したちいさなわたしは横から はさまり「ばっさいってなあに?」と聞いたりっぱな木がもっとでっかくまっすぐ育つよに細っこい木を切っちまっておひさまをあてるんだみんなでてをいれるんだと二人は言った夜になってきょうだい4人で枕を並べて寝むるときわたしは「ばっさい」をおもいだしたもし このなかでだれか「ばっさい」されるかっちゅうとやっぱり あたしだべなだってあたしはおねっちゃん だけんどもからだっこ よわくてぜんぜん がっこうさ いけん二十五年後ちいちゃんが自宅で包丁を何度も何度も腹に刺して自殺したときわたしは「ばっさい」を思ったちいちゃんは自分で自分を伐採しちゃったのかなだって ちいちゃんのお父様と お母様はお金が とってもあるけれどいつも 物騒に 喧嘩ばかり してたもの日の当たらない暗がりを悲しんで細っこい木みたいだったちいちゃんは自分で自分をばっさいしちゃったんだなのに わたしは運が良くてばっさいされても仕方のない子だったけれどもうちのお父ちゃんも お母ちゃんも金はなくとも あったかかったからわたしは逆に温室にいれてもらえた苗木のように陽だまりという愛の中ゆっくりおおきくここまで育ったいま ちいちゃんの墓に立って子供と一緒に花を上げ 線香のけむりのなかでてをあわせるときわたしはいつもおもいだすいっしょに手をあわせたこの子がまだ産まれたばかりの赤んぼでした育児孤独にて苦しんでいた私の肩にちいちゃん あなたはそっと 無言でまっしろな平たい手をさしのべてくれたちいちゃん あなたは自分では きづかずに 他人へ 陽だまりをあげる人でした哀しい目をした やさしいひとでしたちいちゃんのりっぱなお墓は二月の暖かい陽だまりの中でおだやかにしづかに よこたわっているちいちゃんあなたは しなないとひだまりがあたらなかったのかしら?とわたしはちいちゃんのやさしいおかおを思い出して焦れる子どもをあやしながらつめたい墓標があの日の手のようで自分と息子の手のひらを重ねずにはいられないリンクフリーご利用は計画的に従妹の 絶ち日でしたちいちゃんに 献詩します
Feb 15, 2009
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太宰治 I can speak... を読んで走り書き 太宰氏が凝っていた「歌」をやめて、小説を書き出した頃の初期の思い出が、現実とも、虚構とも判断のつかぬままの彼独特のつぶやき方法で、この短編は書かれています。 甲府へ行ったときと書いてありますので、甲府へは新しい奥さん連れで行っているのが当時の現実、太宰さんの本当の姿なのでありますが、この短編の書き方の中には、そのような所帯じみた雰囲気は微塵も感じられません。 この辺の半分現実に即した、けれどもふうわりと精神だけが浮き出てしまった「心の浮遊」が文章になると、もう太宰ワールドは無敵です。「生活のつぶやき」を書いてゆくことが「自分の文学のすすむべき路(みち)」と、直感して書き進めることを密かに決意し「すこしずつ、そのおのれの作品に依って知らされ」「昨年、九月、甲州の御坂(みさか)峠頂上の天下茶屋という茶店の二階」で日頃から腹案していたことを実行して百枚程度書いた太宰さん。 「とにかくこれを完成させぬうちは、東京へ帰るまい、と御坂(みさか)の木枯(こがらし)つよい日に、勝手にひとりで約束した。一人で思案し一人で勝手に決め事を作って迂闊に自分を拘束することは太宰さんの性分です。 さて、そんなふうにほそぼそと一人で出筆活動をしている下宿と小路ひとつ距(へだ)てた製糸工場からわかい女の合唱が聞えて来ます。その合唱のなかに「鶏群の一鶴」といったふうな「際立っていい声が」ある。 太宰氏はその見たことの無い声の主に、ほのかに憧れを抱きます。生まれ乍らにもっているロマンティックのために「ここにひとり、わびしい男がいて、毎日毎日あなたの唄で、どんなに救われているかわからない、あなたは、それをご存じない、あなたは私を、私の仕事を、どんなに、けなげに、はげまして呉(く)れたか、私は、しんからお礼を言いたい。そんなことを書き散らして、工場の窓から、投文(なげぶみ)しようかとも思った。」とまで思い込んで悶々とします。笑。 まったく太宰さんらしい思い込みのありようですが、誰にでも経験のあることなので思わず笑ってしまうし、ちょっとこそばしくって、まったく太宰さんだなあ、と失笑もしてしまうのであります。 そんなエピソードを置きまして「二月、寒いしずかな夜」「酔漢の荒い言葉が、突然起った」のです。 「・・・おらあ笑われるような覚えは無(ね)え。I can speak English.・・・だけども、さ、I can speak English. Can you speak English? Yes, I can. いいなあ、英語って奴は。姉さん、はっきり言って呉れ、おらあ、いい子だな、な、いい子だろう? 」 その酔漢は、製糸工場に勤める女工さんの弟らしき人で、酔っ払っているからか、やたらと覚えたての英語を使います。それが、聞いていた太宰氏の心を撃つ。その酔った弟君の着ていた白のレインコートを太宰氏は「白梅かと思った。」と、これまた彼らしいロマンティックな書き方をしています。酔った弟君の発した2月の寒い夜の I CAN SPEAK ENGLISH...「はじめに言葉ありき。よろずのもの、これに拠りて成る」文学というものに憑かれた人間しかわかりえない感動の一幕が、さらりと書いてある。 太宰氏の言葉に対する特異な瞬発力がここに見え隠れしているなあ、と私は思うのでありました。リンクフリーご利用は計画的に
Jan 30, 2009
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