Hug育(はぐはぐ) 育児は育自

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●フィリピン旅行記


「ボーッ、ボーッ」
長い沈黙を破ってやっと船が出る。
夜のとばりにすっぽりと覆われた高浜観光港。
見送りの家族や先生方の姿がしだいに小さくなっていく。
私たちいっこうはいつまでも手を振って別れを惜しんだ。
だが、もう心はフィリピンのことでいぱいだった。

松山から神戸へ船中で1泊。
そしてあす(12月20日)の昼前には、私たちは大阪から空路、マニラへと飛び立つのだ。

船に乗り合わせた他のお客さんたちの目には、
私たちは時期はずれの修学旅行の一行と映ったかもしれない。
だが、私たちは、修学旅行よりもはるかに目的地の遠い外国へ行くのだ。
私は他のお客さん1人1人に
「外国に行くんよ」「フィリピンまでちょっとね」
と、誇らしげに触れてまわりたい気分だった。
山積したスーツケースも見せびらかしたくて仕方がなかった。

思えば、フィリピン訪問の決まった半年前から、この日をいくたび夢みたことか。

目的・・・それは私たちのまだ見ぬ国フィリピンを舞台とした親善交流であり、観光でもある。
要するに、私たちの未知への大いなる挑戦でもあるわけだ。

マスコミなどで報じられるところによると、
最近の日本人は海外ではつとに評判がかんばしくない。
エコノミック・アニマルだと思われているうえに、
金のため、自分のために、人をだましたり、殺したり・・・
特にフィリピンを舞台にした悲しく暗いニュースが続いたのは事実ではある。

第二次世界大戦中、日本はフィリピンに多大の迷惑をかけたという。
ところが、日本の方はフィリピンに負い目を意識するどころか
「こわい所だ」「いやだねぇ、フィリピンは」なんて言い出す人が少なくない。
日本人のフィリピン観は、その視座がどこかズレているのではないかなと、つくづく思う。

私たち一行のフィリピン訪問は「親善」がまず第一だが、
それはとてもたいへんな大役なのだ。
向こうの人に「逃げたり、だましたり、殺したりするだけが日本人じゃない」
ということを、行動でもって理解してもらわねば・・・。

そして、真のフィリピンの姿を私たちの目、耳でじかにしっかり受け止め、
両国の間に何とはなしに存在する誤解を解かなければならない。
大げさに言うなら、私たち1人1人の行動は日本を代表していることになるわけだ。
十分気を引き締めておかねばなるまい。

といって、変にかたくなってもまた困る。
いつも心に太陽を、顔はほほえみに満ち!がモットーだし、
それが最大の私たちのチャームポイント。
何事によらず、チャレンジ精神を前に出そう!と、私たちは誓い合った。

ところで、問題になるのは私たちの語学力だ。
ペラペラとまではいかないまでも、
何とかこちらの思っていることを伝えたいし、相手の気持ちも知りたい。

服装、食べもの、機構、習慣など、全く異なる人たちだが、同じ人間。
言葉が通じなくても「心」が通い合えばいい。

今まで学校では、テストのための覚え込む勉強ばかりしていた私たちだったが、
こんどのフィリピン訪問に備えて、実用的な勉強を重ねてきた。
英語も、あいさつから始まって、いらない文法なんていちいち考えなかった。
その結果がどう出るにせよ、
こうした実用的な勉強は、記憶一辺倒の勉強とは違って、自分で納得できる「何か」がある。
そして、わずかながら自身めいたものもついてきた。

さて、日本からしばらく離れるわけだが、
この旅行で私はどう成長し変身するだろうか。

アジアの隣国フィリピンでの滞在を通じてせひともその証(あかし)を得たい。

「ボーッ、ボーッ」
ヤミをつんざくような汽笛の音が、私たちの「出発(たびだち)」を祝福してくれているようだ。
船は夜の海を静かに神戸へと進む。
すべてはあすからだ。

あす私たちは別世界に入る。
ちょっぴり不安がもたげてくるが、人類みな兄弟、やってやれないことはなかろう。
あしたはあしたの風が吹く。
なるようになるさ。

さっきまで、にぎやかに話し合っていた仲間たちも、いつしか夢路をたどりはじめた。

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