「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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フラムの日々
クロノス小説~決意~
決意
あの祭壇から抜け出して何時間が経ったのか。
城は夕焼けに照らされて、城の周りを囲む川の旋律と空を飛ぶ鳥の鳴き声が重なって聞こえる。
ルシアは前と同じ部屋に運び込まれていた。
陽が落ちて輝いているのが窓から射し込みルシアの顔を照らす。それに気づくとルシアはむくっと体を起こした。
シュレイダーに突き刺されたはずの右胸に手を当ててみたが何も傷は無い。神団のヒーラーによって治されたのか。
そしてぼんやりと自分自身の掌を眺めると強く唇を噛み締めて枕に顔を埋める。
その埋めた枕から微かな嗚咽が毀れるとルシアは自分の拳が白くなるくらいまでに握り締める。
(守れなかったんだ。。。)
タダイの姿が消えた瞬間が脳裏に蘇る。
自分が殺してしまったのか、守れなかったのか。そんな気持ちが交差し、今、自分を支えられるのは唯、顔を埋めて泣くだけしかなかった。
すると、ドアが開く音がする。ルシアはそれすら気づかなかったのか。まだ顔を埋めたままだった。
「ルシア君。起きてますか?」
ヴァレンの声だ。間違いは無い。
ルシアは声にもならないような声で「はい。」と唸った。
ヴァレンは肩を落とすように深く溜息を付くとベッドの近くにある紅茶の置いてあったテーブルの椅子に腰を掛けてポットから紅茶をカップに注ぐ。
「とりあえず。顔を上げて、紅茶でも飲みなさい。」
ルシアは涙で濡れた顔を上げると静かに頷いて紅茶を受け取る。
ヴァレンも自分の分の紅茶を注ぐと、ポットを置く。
ルシアはカップの中にある紅茶で自分の顔でも見るかのように覗き込んでいる。
するとルシアはいきなり口を開いた。
「俺、生きていたんですか・・・」
ルシアは全く眼をヴァレンには向けずにそのまま言った。
「えぇ、覚えてますか?あのダイヤを右胸のポケットに入れていたのを。あれだけが砕けていたんです。」
奇跡とでも呼べる現象に対してもルシアは「そう・・・ですか。」と紅茶を覗きながら口だけ動かす。
「やっぱり。タダイのことでまだ考えてるんですか?」
ヴァレンにそう言われるとルシアは一瞬眼を見開く。しかし俯いたまま頷くと紅茶を少しだけ口へ運ぶ。
しばらく二人の間に沈黙が生まれる。
「やっぱり、俺は・・・俺には人を守れる力なんて無いから・・・」
ルシアが言いかけるとヴァレンが口を開く。
「コエリス神団を辞める・・・とでも?」
ルシアは眼をあらぬ方向へと向けてカップを持った手に力を入れる。
「辞めるなら辞めるで結構ですよ。貴方はここまでの人だったと言う事ですから。」
ヴァレンは飲みかけのカップをテーブルに置くと立ち上がり部屋を出ようとした。
しかしそれに気づいたルシアが彼を止める。
「待って下さい!ヴァレンさん!!」
ヴァレンは足を止めると振り返ることなくその場に立ち止まる。
「ヴァレンさんも・・・人が、仲間が目の前で死んだことがあるんですか・・・」
ヴァレンは前髪を横に払うと振り返ることなく言う。
「えぇ、ありますよ。何十人もね。」
彼の平然とした答え方にルシアは戸惑いを覚える。
「一緒に食事をした仲間もいたし、友人も居た。けれど彼らの死があったからこそ、今の僕があるのではないかと思うんです。」
ルシアはそう話したヴァレンをジッと眺めた。
「貴方だって、彼の死によって得たものはあったでしょう。沢山、ね。」
「はい・・・」
ヴァレンはやっとこちらを振り返ると言う。
「『俺、自分の力がどんなものなのか。そしてどれだけのことが出来るか。試したいんです。このコエリス神団で。』貴方はこう言いましたよね。」
「!!」
「その試すと言うのが1度で終わりですか?自分の力が無かったから、終わりですか?」
「・・・・・・」
ルシアは固まったようになると微かに呟いた。
「少しだけ・・・・・・考えさせてください。」
ヴァレンは肩を落として首をちいさく横に振った。
すると、ヴァレンは医務室に行くと言って部屋を出た。ルシアは紅く照らされた部屋の中、独りだった。
ヴァレンは教会の地下にある医務室へと向かった。
シュレイダー戦で毒を受けて倒れた者が何人もいると言う。
地下へと向かう階段を下りていると見覚えのある黒髪が階段から上ってきた。
「アーネスト、彼らの調子はどうですか?」
ヴァレンが足を止めると、彼も足を止めて冷たく鋭い視線を向けて言う。
「あぁ、さっき毒に侵されて2人死んだ。」
彼の眼つきにはヴァレンは慣れた様子で見ると、口元に手を当てて言う。
「そうですか、後何人助かるか・・・・・・」
そうするとアーネストは口を開いた。
「ところで。あの素人野郎はどうした?」
素人に対してはこの口の聞き方なんだな。とヴァレンは思う。
「えぇ、何とか起き上がりましたよ。ですが・・・・・」
ヴァレンは言葉を止めると、アーネストが鼻を鳴らして笑う。
「あぁわかるさ。どうせタダイのことだろう?」
ヴァレンは深く頷いた。
「分かった、明日の朝に南橋まで来いと言っておけ。」
ヴァレンは軽く首を傾げたが、彼のことだろう。説教みたいなことでもするのだろう。思うと、分かりましたよ。と軽く返事をする。
「あぁ、それと・・・シュレイダーの言っていた事ですが・・・」
あぁ、とアーネストは少し黒い前髪を払うと言った。
「あれなら、ケタース神殿、聖堂共に探索部隊をやった。建築物自体が巨大だからな。何か見つかるとしてもかなりの時間を要するだろうな。」
「ふむ。分かりました。」
ヴァレンがそういうとアーネストは何も言わず階段を上っていった。
もう医務室に入ることも無いだろう。ヴァレンも階段を上るとルシアの部屋へと歩いた。
ヴァレンが2,3回ドアをノックするとルシアの返事が来ない間にドアを開ける。
「ルシア、アーネストが明日の朝に南橋まで来いと言ってましたよ。」
ルシアは頷くだけで何も答えはしなかった。
「それでは、失礼。」
ヴァレンが部屋を出て行くのを見るとルシアはテーブルの近くにあるクローゼットの中を開けて、適当な服を着る。
「医務室があるんなら・・・もしかして・・・」
ルシアは嫌な予感を感じ、首を横に振った。
あれからは意識が無かった彼は一緒にパーテイを組んでいた仲間がどうなったのかは分からなかった。
ルシアは誰か、タダイ以外にも犠牲者が出たのではないかという不安が胸の奥に広がった。
皆無事でいてくれればいい・・・・・・唯、そう思うしかなかった。
ルシアは隠れているようにそっとドアを引くと外の様子を覗った。誰もいないのを確認すると静かにドアを開けて部屋を出る。
階段を下りて一階に着くと、フロアの案内のようなものを見つけてそれを見上げた。
「一階:管理室 二回:休憩所 三階:武器庫 地下:医務室」
と書かれていた。そして地下へ行くための階段を下りる。階段の周りはレンガで囲まれていて上に長い蝋燭が一本一本希に吊るしてある様なもので少し薄暗い。
階段を下り終わると、扉の前に一人の兵士が立っており、彼に呼びかける。
「あの・・・キャロルさんと、エタンさんと、ヨエルさんにロイスさん。この人たちは医務室にいますか?」
兵士はえっと・・・と言うと扉の横に紐で吊るしてあるカルテを取り、指でなぞる様に名前を探した。
「えっと、キャロルさんとエタンさんですか。二人は現在医務室にいます。」
「あ、あの・・・・・・ヨエルさんとロイスさんは?」
ルシアは彼らはどうなったのか、不安で溜まらなかった。しかし兵士はこう言った。
「ヨエルは・・・医務室に来た形跡がありませんね。うん、無事でしょう。ロイスは医務室で患者を診ているので無事ですよ。」
ルシアは安堵のため息をついて肩を落とす。
しかし、キャロルとエタンが医務室にいるというのは変わりは無い。
ルシアは兵士に頼んで医務室の中へと入った。
医務室の中は一人一人ガラスで区切られている部屋だった。
ルシアは一人のパラディンに目を向ける。
そのパラディンは左頬が溶けているようになっていて、ある程度の処置は受けているものの、傷口は塞がってなかった。
ルシアは手を口に当てて眼を背ける。
話を聞くと、ここの人たちはシュレイダーの毒によってやられたと聞く。
特に直接浴びたものは、殆ど皮膚が溶けたようになり、皆死んでしまったと。
ルシアはあの時シュレイダーにやられてなければ自分もこんな風になっていたのかもしれない。。。と肩を震わせる。
本当の意味で自分は運が良いのかもしれない。
しばらく歩くとルシアはキャロルとエタンがいるガラス部屋を見つけ、その部屋を覗き込む。
二人は顔が真っ青になっており、死んだように動かない。
「ごめん・・・」
口から微かな言葉が漏れガラスに手を当てながらその手を握りこぶしへと変えた。
生半可な覚悟でこれは、このコエリス神団は生き延びれないのだ。それが現実だった。
自分の憧れていたものが裏でこんなにも犠牲が出ていると言うのだ。いっそ神団なんて辞めてしまったほうが良いのではないかと思う。
しかし、ルシアの故郷であるマイヤー島の港町も最近は物騒になっている。
故郷を守るためにルシアは船旅をし、貨物車でクロノス城へとやってきたのだった。
でも彼は自分自身思っていた以上に非力だった。
自分は本当にここまでなのかもしれない。ここまでの人間だったのだ。
ガラス越しの二人を眺めていると後ろからロイスが話しかけてきた。
「ルシア、だっけ。」
「え・・・あ、うん。」
ロイスは両手を白衣のポケットに入れるとキャロル達のいるガラスを見て言う。
「彼らも毒にやられたらしくてね・・・解毒剤は使っているんだが、後は彼らの生命力に賭けるしかないんだ。」
ロイスはためらい首を振った。
ルシアは言葉が出なくなり、ただ、ガラス越しの彼らを見ていた。
そして僅かの間だったが、長く感じた静寂の間を払う様にルシアは言う。
「死んだ人は・・・死んだ人は蘇らせることはできないんですか?」
ロイスはルシアに顔を向けると深くため息をついた。
「マイナーヒーリングは人間の体内にある生命維持能力を一時的に高めて傷を治癒する方法なんだ。生命活動が絶えたものは維持ってものがないからね・・・それは無理なんだ。」
「やっぱり・・・駄目なんですね。」
ルシアは俯きながら微かに溢した。
ロイスは無口であったが、話してみるとヴァレンと同じような感覚で話している感じがする。
それともタダイのことがあったから気にかけてくれているのだろうか。
「やっぱり、辛いだろ?目の前で人が死んだんだ。俺も、実戦経験は少ないけどね。自分で守れなかった人がいると悲しいよ。」
ルシアは無言で頷いた。
こんな思いをしたのは自分だけじゃない。ロイスも、ヴァレンもしているのだろう。
ルシアは考え決意した。
「あはは・・・俺って、馬鹿だよなぁ・・・・・・」
笑い声が漏れているがその眼には涙が滲んでいた。
「自分だけだと思ってた。こんな思いをしたのは・・・・・・って。だけど人の話を聞いて見るとさ・・・ヴァレンさんもロイスさんも。同じ思いをしたことがあるんだよな・・・・・・」
ロイスは驚いた表情でこちらを見ていた。
しかし、ルシアは何一つためらい無く喋って行く。
「だから本当は、本当は俺はタダイさんの分まで。いや、この戦いで死んでいった人たちの分も戦わなきゃいけねぇんだよな。だから俺は・・・・・・これからも戦い続けるよ!そして、いずれ故郷を守るんだ!」
ルシアは腕を振るうとロイスにありがとう!と一言残し、キャロルたちを目で見送ってから医務室を後にした。
「ルシア・・・底抜けに明るくて、あんなに早く開き直る奴・・・か。ふふ、面白いじゃないか。」ロイスは一人微笑した。
早朝、教会の窓から微かに陽が差し込んだ。それがルシアの瞼を照らすと顔を顰めた。
それに気づくとルシアは自分にかかっていた毛布を振り払うようにした。
「そうだ、アーネストさんに会いに行かなきゃいけないんだ。」
ルシアは小声で呟くと、昨日着ていた服をクローゼットから取り出した。
服を着ると壁に立て掛けてあったセルキスソードを見る。
ヴァレンさんにも言って置かないと。ちゃんと・・・・・・
しばらくの間セルキスソードを眺めていると、寝起きの茶色の髪を掻き揚げた。首を振るとセルキスソードに手を伸ばしそれを腰のベルトへと押し込む。
どこかの家で飼っている鶏の声がしてうっすらと赤みのかかった雲が空に浮かんでいる。
その景色を見るとルシアは唇に微かな笑みを浮かべて部屋を出た。
階段を下りると受付の番人がいなかった。朝早くだからだろうか?ルシアはそう思い、外へ出るためのドアを見た。
鍵は既に開いていた。先にアーネストが行っているのかもしれない。
ドアを開くとルシアはクロノス城の南橋まで向かおうとする。
最初にルシアが城外に出たときの門だった。この時間だろう。見張りの兵士はいないだろう。
朝の城はルシアは好きだった。ルシアの故郷のマイヤー島での朝は潮風がとても冷たくて、貿易のための船が波に揺れ、まれに漁に出るための船も出発しているのも見れる。
同じように朝の城は人影一つ無く、城の周囲を囲んでいる川の流れと鳥の声を聞いて歩くのが心地よい。
しばらく歩くと南門の前へとやってきた。橋の上に一人、見覚えのある黒髪が立っていた。
ルシアは無言で歩くとアーネストも気づいて首だけこちらに向けて見る。橋の上に乗ると、ルシアは口を開く。
「話って・・・・・・なんですか?」
「タダイのことはまだ何か思っているのか?」
ルシアは問われた。一瞬と惑いを見せたが直ぐに目線をアーネストへと向ける。
「思っていないと言ったら嘘になる。でも俺は・・・タダイさんに感謝しなきゃいけないんだと思った。」
アーネストは表情一つ変えずにこちらを見て聞いていた。
ルシアは少し考えてからさらに続けた。
「彼が死んだからこそ・・・これから俺が何をしていけばいいのかって・・・」
それを聞くとアーネストは憫笑し、体をルシアに向けた。
「ヴァレンと同じようなことを言うんだな。お前も。」
ルシアは一瞬身を乗り出しそうになったが、直ぐに落ち着け・・・と自分にブレーキをかけた。
「ヴァレンさんも言ってました。俺と同じようなことを・・・でも彼の言ってることは正しい。だから・・・」
アーネストは飽きれたような表情をして首を振る。
そしてとんでもないことを口に出した。
「お前みたいな何も自分で物事を考えれねぇ奴は、ここには必要無い。早く消えやがれ!」
ルシアは一瞬目を見開く。
何を言い出すんだ・・・この人は・・・!!
「俺はちゃんと判断した!ちゃんと。タダイさんの死を無駄にしないように!他の人たちだって例外にするつもりは無い!その命を背負って・・・」
ルシアが言いかけているとアーネストは怒鳴るように言った。
「死んだ奴らの命全て背負う?ハハ!お前程度が?偽善者の見本だな。お前は!」
「なんだとっ!」
ルシアはセルキスソードを抜いた。
しかし何時の間に抜き出したのか。アーネストの右手には既に剣が握られ、構えていた。
「何だ?ここでやるってのか?俺はかまわないぜ?」
アーネストは冷たい瞳でルシアを睨みつけた。
そうすると、ルシアは見えない刃でも首に突き立てられたように動けなくなった。
アーネストからは確かに殺気が感じられる。瞼一つ閉じるだけで喉元に剣を突きたてられて殺される・・・
そんな風に感じた。
「人も殺したこともないんだろうが!容易く背負うなんてことを言えたものだな!」
「俺は人なんて殺さない!殺したくもないさ!」
「どこまで甘ったれてんだ!テメェは!」
ルシアは驚いた表情で彼を見た。
彼がこんな大声で物を言うとは思ってもいなかったのだ。
しかし向けていた剣を下げると目を伏せ、こう言った。
「魔物を倒すだけが神団じゃねぇんだよ。お前は分かってないな・・・人と戦うときだってある。」
ルシアは唖然として自分も剣を下げた。
「ただな、仲間が死んで悲しむのは構わない。しかし次の戦いにもそんな気持ちを引きずっていかれると死ぬんだよ・・・命を背負うなんてそんな奴に出来るとでも思ったか?」
「それ・・・は・・・」
アーネストは剣を鞘に収めるとまた、いつもの冷たい視線でルシアを見る。
「覚悟が無いなら明後日の任務まで消えておくことだな。それ以上は命の保障は無い。」
そういうとルシアの横をスッと通り抜けて朝焼けの町の中へと消えていった。
それを見送るようにしていたルシアはふと剣を抜いていたことに気づき剣を鞘に収めた。
「覚悟・・・か・・・それならもう・・・できている!」
ルシアは戸惑った自分を払うように首を振りながら一人呟くと上る陽を見つめて、その場を離れた。
一旦教会に戻ったルシアは教会を出るときにはいなかった見張り兵に声をかけられ、足を止めた。
「お前、こんな時間に何しにいってたんだ?」
兵士は少し怒っている様で腕を組み、首を傾げながら言った。
ルシアは一瞬戸惑うと直ぐに返した。
「アーネストさんに呼ばれたんです。南橋に来いって。まぁ説教みたいなものでしたけど。」
ルシアは肩を落として笑う。すると兵士は驚いた表情でルシアを見た。
「ほお~アーネスト様に呼ばれるなんて小僧のくせにすごいねぇ。」
ルシアは小僧といわれたのが気に食わなかったのか、頬を少し膨らまして兵士を見ると、「ゴメンゴメン」とでも言うように両手を振る。
「アーネストさんってそんなにすごいんですか?」
ルシアが問いかけると、兵士はえぇ!っと声を上げた。
「神風(かぜ)のアーネストと言えば『神々を告ぐもの』って言われていて神団の指揮官達の一人じゃないかぁ!」
ルシアは何を言っているのか理解できず首を傾げた。
兵士は飽きれた様に肩を落として溜息をついた。
「そんなのも知らないのかい。あのな、『神々を継ぐ者』って言うのは神の力が宿る武器を持っている人のことを言うんだ。アーネスト様はルゥって言う片手剣の武器で、ウォーリアのジェラードさんがトールってうハンマーみたいな武器だ。バルキリーのルーシーさんがカーラっていう爪の武器。マジシャンのイシュメルさんはジャドっていうでっかい杖で。ヴァレンさんがアイウールっていう片手杖だ。」
ルシアはヴァレンと聞くと驚いて眼を見開いた。
「ヴァレンさんって・・・・あの??」
兵士は「ヴァレンって名前はこの神団では彼しかいないよ。」と言った。
あのヴァレンさんが・・・・・
確かに、シュレイダーと戦ったときのあの異常なほどに強い魔法。そして白く輝いていた杖。そして居ないはずの誰かとの会話をしていたのだ。
兵士はルシアが少し考え込んでるのにも関わらず、説明を続けていた。
「アーネストさんが神風、ジェラードさんが砕山、ルーシーさんが闇戮、イシュメルさんが氷帝、ヴァレンさんが焔色って神を継ぐ者には異名が付いているんだ。コレくらいは神団の基本だからね。覚えておきなさい。」
「ありがとう。」とルシアは言うと兵士が右手で敬礼し、ルシアも敬礼を返した。
ルシアは階段を上るとヴァレンの私室を探した。
彼にもこのことを話しておいたほうが良いと思ったからだった。
ヴァレンの部屋は3階にあがると直ぐに見つかった。ノックをすると内側から「どうぞ。」と声がした。
「結構朝早くから起きているんだな。」と思った。
ルシアは「失礼します。」とドアを開けると、目の前には本棚が幾つもあり、その周りには積み上げられた本があり、図書館をイメージさせた。
鼻を突くようにインク特有の臭いが部屋中に充満している。
彼のベッドや机はほんの僅かなスペースだった。
ヴァレンは手に持っていた本を指しおりをしながら閉じた。
「おや、ルシア君ですか。」
ヴァレンは振り返るとルシアを見た。
前にあんなことがあってしまっては顔は合わせづらいのかルシアは少し俯きながら喋った。
「あの・・・考えたんですけど。俺も、まだここに。コエリス神団にいたいです。根拠はあまり無いけど、俺にだって守りたいものがあるんです!」
ヴァレンは一瞬眼を見開くとルシアの眼差しをじっと見つめた。そしてヴァレンはしおり代わりにしていた指を本から抜くと微笑んでルシアを見た。
「えぇ、分かりました。じゃあ3日後のクエストまで待って下さいね。」
そういうとルシアは深く頭を下げて静かに部屋を後にした。
「彼の火に油を撒いたのはアーネスト、貴方みたいですね。」
ヴァレンは口元に微かな笑みを浮かべると再び本を開き、読み出した。
「つまりこのゲートパックをシティス=テラの砂漠を超えてサンツスミコに設置しろってことですね?」
ヴァレンはアーネストと共に並び、マエルと交渉していた。
ヴァレンとアーネストはしばらく話していると深く頷きこちらへと戻ってきた。
するとヴァレンは手に持った小さい一枚の板を皆に見せると言った。
「目的は我々がサンツスミコに向かい、このゲートパックを設置し、クロノス城との通行が自由になるようにすることが目的です。」
ゲートパックはケタース神殿に向かったときに自分の倒れていたゲートの持ち運びが可能なほどに小さくなっていて、地面に設置すると大きくなるというものだった。
ケタース神殿でも昔の神団が命を賭けてあの場所へ設置しに行ったのだろう。
「最近あちらで物騒なことが起きているらしいのでね。こちらの兵士を派遣し、見張りをさせようというものです。まぁ、そのゲートもその物騒な出来事の中にも入るのでしょうね。」
ルシアはやっと分かった。いちいち危険なシティス=テラの砂漠を越えていくより、自分たちがまずゲートを設置してからあちらへと兵士たちが行けば、時間に命を失うなどのことは無いはずだ。
でも、問題は自分たちが向かう途中で何かがあったら・・・だ。
ルシアは少し気が引けたが、アーネストは構わずに地図を地面に広げ、剣を抜いてその剣を使いながら説明した。
「まず海側は避けて通ることになる。」
そういうと兵士の間にどよめきが起こり、それじゃあ水も飲めませんよ。などの声も聞こえた。
「話を最後まで聞け!いいか?海側にはフレイルアーチャーって言う弓から遠距離攻撃してくる奴がいる。大量の敵に狙われたら部隊壊滅もありうる。」
兵士たちは黙って頷く様子をアーネストは覗うと剣を鞘に収め、さらに続けた。
「多少の危険があるがこの砂漠からサンツミスコまで約4日だ。遺跡を野宿の場として行くため東方面に行き、そこから南へとくだる。じゃあ早速準備にかかれ。」
ルシアは他の兵士たちに紛れて教会の近くの物資保存庫へと向かった。
ルシアはリュックに4日分の食料と大量の水をリュックに詰め込んだ。そして腰のベルトに10本くらいのポーションをつけて、リュックにも入れた。
そして鎧と砂漠の砂と同じような色をしたフードを身に纏った。
そして外に出てみるとそこにはモンスターを馬代わりとした馬車が2つ並べてあった馬車はテントのようにジーンズの布が張ってあり、そのテントの上の甲板で弓を持ったバルキリーたちが構えていた。その中に兵士は入っていく。
ルシアもそれを見ると早足で馬車に乗り込むと一定のリズムを保ちながら馬車が揺れだした。
その馬車にはヴァレンもいて、ヴァレンはそれに気づくとルシアへと近寄ってきた。
「サンツミスコは初めてですか?」
ルシアはハッとすると答えた。
「いいえ、マイヤー島から来るときに1回だけ立ち寄りましたよ。」
「ルシア君はマイヤー島が故郷ですか。」
そういうとルシアは、はいと答えて髪の毛を少し掻き回した。
「貴方が最初に倒れていたトゥーリントの生息地帯の北に橋があるんです。そこまで馬車で行って後は徒歩ですね。」
ルシアはトゥーリントのところで倒れてしまったということを思い出して赤面した。今の自分ならあのような状況でもまだマシな戦闘ができただろう。
「あの時もヴァレンさんに助けられたんでしたっけ。まぁ、まだ1週間も経っていないですけど。」
ルシアは恥ずかし気に言うとヴァレンも苦笑した。
自分の頭上で弓を放つときのビシュっという音が絶えない。ヴァレンが言うに馬車を追いかけてくるクルーク達を撃ち倒していると言う。
少しすると馬車の揺れが止まり、馬が縄打たれ、鳴く声が聞こえた。
ヴァレンがルシアの肩に手を置くとヴァレンも外へ出た。
隣の馬車も同じ様に兵士たちが出てくる。
ルシアは目の前の碧く澄んだ海を見て、傾きかけた橋を真剣な眼差しで見つめる。
そして皆が武器を構え、歩き始めた。
砂塵を超えサンツスミコを目指し。
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