ふゆゆん亭

ふゆゆん亭

私が読んだ本・6



「イノセンス 女性刑事ぺトラ 上・下」 
ジョナサン・ケラーマン著
北澤和彦=著 講談社文庫









■あらすじ

母と2人でトレーラーに住んでいる
ウィリアム・ブラッドリー・ストレート(12歳)は

生活保護を受けながら
酒に溺れジャンキーの母が連れ込んだ

ボーイフレンドに虐待を受け
殺される危険を感じて家出をした。


あちこちの公園に基地を作り
路上生活を続けていたビリーは

ある夜公園で男性が
女性を無残に殺す所を目撃してしまった。

恐怖におののき、
逃げ出したビリーに次々に問題が降りかかる。



一方、
公園で殺されたリサの事件を担当する事になった
女性刑事ぺトラ・コナーは

現場近くに残されていた本や
食事の後を見つけて
目撃者がいたのではないかと考えた。

上司からの圧力や同僚の問題、
自身の思いを抱えつつ事件に当たるぺトラは

壁を少しずつ崩して行き
真実に迫って行く。



その間ビリーは
放浪を続けながら危険をかいくぐり
必死で生きていた。



ぺトラとビリーが交差する時
事件の真相が明らかになる。





■感想

中古店で見つけた50円の「イノセンス 下」は
とても面白そうだった。

「上」を探しても無いので
どうしても読みたくて
図書館で借りた「イノセンス 上」。



ビリーは小柄だが
賢くて知恵のある少年で

危険を察知しては
逃げ回って生きながらえた。

守ってくれない母をそれでも愛し、
誰にも救ってもらえない非情な事態でも

欲を言わずに必死で生き抜くその健気さと
誠実な性格に胸が痛んだ。



ぺトラにも事情があり、
癒されない思いを抱いて日々を生きている。


相棒のストゥーと家庭。
同僚のウィル。

リサの元夫の三流映画スターのラムジー。
ラムジーの幼馴染でマネジャーのバルチ。

ビリーが知り合うサム。
土産物売りのズカノフ。

母のボーイフレンドのモラン。


登場人物の生活や感情
その生き様や思いが丁寧に綴られている。


一人一人がしっかりと息づいており
とても奥行きのある
読み応えのある話だった。



最近、
読書に熱中できなかったのが嘘のように
この本を読み始めたら夢中になって読んだ。



面白かったです。
しっかりしたプロット。


騙された~~~と言う
うれしい悲鳴( ̄ー ̄)☆





ケラーマンの小説は「大きな枝が折れる時」と
「プライヴェート・アイ」を読んだだけだが、

この2冊ともアレックスシリーズで
私はアレックスより
ぺトラの方が面白いと感じた。


これはケラーマンが
作家として充実して来たからかもしれないし

私の感じ方が変ったのかもしれないけど、
ぺトラシリーズを是非読みたいと思った。



充実度満点だった。








●読んだ本●


「二つの月の記憶」 岸田今日子著 講談社







女優、岸田今日子の短編集。

●オートバイ
●二つの月の記憶
●K村やすらぎの里
●P婦人の冒険
●赤い帽子
●逆光の中の樹
●引き裂かれて



■感想

薄氷を踏んでいるような、
危ういエロティシズムが潜んでいる気がした。

ちょっと足を踏み外すと
引き返せないエロスの世界に

真逆さまに落ちて行くような
もろくて繊細な危うさ。

毎日の生活の中には、
ドアの向こうに

子供が知らない得体の知れない
何かが潜んでいるような、

でも実は子供だって
持ち合わせているのかもしれないような。


それでいて
ニヤリとしてしまう余裕があって、

するすると読みやすくて
解り易い文章と流れがとても面白かった。


何かすれすれの所に踏みとどまっているような
ちょっと怪しげで
キラキラした短編集だった。




女優岸田今日子が
こんな味と翳りのある小説を書く人だなんて
知らなかった。

面白い人だなぁ。
でも亡くなってしまったんだなぁ。

残念。










●読んだ本●


「月長石の魔犬」秋月涼介 講談社






■あらすじ(本当に荒い筋)

霧島悠璃は、
早く先生に殺されたいと
いつも思っている。


鴇冬静流は、
石細工師の風桜青紫に一目ぼれして
「青紫堂」に押しかけ手伝いをしていたが、

静流の軽率な行為によって
猟奇殺人事件に巻き込まれてしまう。


相次いで見つかった
二人の若い女性の遺体の頭部は切り取られ
犬の頭部が縫い付けられていた。


静流は青紫をも巻き込み
犯人探しをさせられるはめに陥り
深みにはまっていった。


メフィスト賞受賞作品。








■感想


舞台設定は凝っていて面白いけれど
女性達が余りにも短絡な人間なのに
ちょっと呆れました。

著者の女性像は
なじり合いや罵りあいのケンカをしている
低学年の小学生男子みたいです。


女性は感情的だと思っているのでしょうが、
それにしても

主要人物の女性が何人も
幼いやり取りをしていて、

すぐに激昂したり
言葉に反応していきり立ったり

空威張りしたり
乗せられて調子に乗ったり

魅力的じゃない女性ばかりが
沢山出てくるのは何でしょうか。

ストーリーを
台無しにしている気がしました。



殺されたいと願っている悠璃について
一番深く書いてあるのかもしれません。



女性達の人間性の幼さのせいで
話しが薄っぺらに感じてしまいました。


異常とは?正常とは?
と問いかける大きな問題提起をしているのに

最後には何事も無かったように
元の生活に戻るのは納得が行かなかったです。

シリーズ化するためなのでしょうか。


メフィスト賞がどんなものか
知らないで読んだのですが、

賞を取っているのだから
ある程度のレベルに達してると思って借りたわけで。


もったいないです。

人間一人一人に
もっと深みがあると

とても充実した物語になったろうと思われ
ああ惜しいと思いました。



その後、
著者がどう成長したかを知るために
最近の著作を読もうかと思います。


(ちょっと偉そうかな。
 でもほんとにもったいない)







●読んだ本●


「風邪の効用」 野口晴哉著 筑摩書房








■解説より抜粋

風邪は自然の健康法である。

風邪は治すべきものではない、
経過するものであると主張する著者は、

自然な経過を乱しさえしなければ、
風邪をひいた後は、

あたかも蛇が脱皮するかのように
新鮮な体になると説く。

本書は、
「闘病」という言葉に象徴される
現代の病気に対する考え方を一変させる。

風邪を通して、
人間の心や生き方を見つめた野口晴哉の名著。








■感想

返してしまったので
おぼろげな記憶しかないのですが、

風邪を引くことによって
体の中の毒素を排出するので

風邪を引くと
体のリセットになるという事らしくて

読んでいてなるほど!!
と思いました。


確かに風邪を引いて寝込んだ後は
すっきりしていますね。


風邪を邪魔者扱いしていたのですが
リセットの良い機会だと

これからは大事にして風邪を
前向きに受け入れて寝込みたいです。



風邪の引き方も書いてあり、
これは買って手元に置きたいと思いました。




この本を読んでいて
人間の病気に対する考え方を
変えるべきだと思いました。


自覚は無くても
体は大事な事を知っていて

風邪や病気で教えてくれていると
つくづく思います。


誰しも体は賢くて
苦しい生き方をしていると
体が限界だよと教えてくれるんですね。


体の声に耳を澄ませば
自分らしく生きる助けになると思いました。












●読んだ本●

「翳りゆく夏」赤井三尋著 講談社



文庫本      単行本





■あらすじ

大手新聞社「東西新聞社」では
来年の入社内定者の一人、

朝倉比呂子の出自について
「週刊秀峰」に記事が出てしまう事を知り、

人事厚生局長の武藤が
社長の杉田に呼び出された。


『誘拐犯の娘を記者にする大東西の「公正と良識」』
と言う見出しだ。


朝倉比呂子の父親は
20年前に乳幼児の誘拐事件を起こし
亡くなっていた。


2才だった比呂子は
母親もすぐに病で亡くし
養女になって生きて来た。


試験の結果はトップクラスの
優秀な人材だった。


会社側は
個人情報が漏れた事を重要視し、

比呂子になるべく余波が当たらないように
動いた。


一方、
東西新聞の大株主の命令で

20年前の乳幼児誘拐事件を
隠密裏に調べ直すよう

社長の杉山から言い渡された梶は、
2年前の失態を取り返すべく

朝倉比呂子の父親が起こした事件を
調べ始める。







■感想

堅実で安定した文章で
とても読みやすくて面白かった。

小さな事実を積み上げて行く
こういう推理物が大好きなのだと思う。


読み応えのある小説に出くわすと
うれしくてにやにやしてしまう。


登場人物一人一人がしっかり生きていて
人生を歩んでいるのが伝わる。


大企業なのに人間を大事にする
誠実な会社人間が沢山登場するためか

誘拐事件と言う苦しい内容にもかかわらず
希望が残る思いで読めた。



日本の新聞社は、

親の犯罪歴よりも
本人の能力と人間性を選ぶ、

と言うのが事実なら
とてもうれしいな。

日本の将来にも
希望が持てるのではないだろうか。

本当にそうなら。




第49回江戸川乱歩賞受賞作
のこの作品は

著者が長編小説を書くのが
二作目と言うものだが

しっかり丁寧に書いてあって
赤井さんの力量が伺われる。


所々に強引さが感じられけれど
著者の良いものを書きたいと言う
誠意が感じられる作品だと思う。


ただ、
比呂子に感情移入をした
俊治と千代のその後も書いて欲しかった。

俊治はどういう生き方を選んだのだろうか?
すごく気になる。




最後に
選考員たちの選評が書いてあったのだが、

なんと不知火京介「マッチメイク」と
2作受賞であった。


「マッチメイク」は去年の5月に読んで
感想 を書いていた。

これは初めて読んだプロレス推理小説で
受賞作が2作あるという選評を読んだ記憶がある。

そのもう1作の方が
この「翳りゆく夏」だった。

なるほど対照的な2作品で
どちらも選考に残ったのは頷けた。


とても良い読書時間を過ごせた。










●読んだ本●


「からくりからくさ」 梨木香歩著 新潮社




単行本      文庫本




■あらすじ

祖母が亡くなって五十日目に
祖母の家を訪れた容子は、

家の中を綺麗に掃除して
押入れの桐の箱の中で

祖母のお浄土送りをしていた
「りかさん」を迎えに行ったが、

りかさんはまだ戻っておらず
ただの人形に見えた。


そのままでは荒んで行くし
容子の染色の場所も必要だった事もあって、

容子が祖母の家の管理人になって
女学生専門の下宿をする事になった。


すぐに容子の友人のマーガレットと、
容子が外弟子として通っている染織工房に

織糸を買いに来る美大の女子学生
内山紀久と佐伯与希子の3人が

下宿することになった。


初日に容子はりかさんの話をして
居間にいつもりかさんを座らせて
5人の生活が始まった。


それは容子が祖母から受け継いだ
昔からの知恵袋に満ちた

素朴で静かでつましくも
簡素で優しい生活だった。


紀久の機織の音。
容子が植物から染めた美しい糸。

東洋の不思議を孕んだ
与希子のキリム。

日本のあいまいさを理解したくても
理論派であるために

常にはっきりモノを言うマーガレット。
静かに座っているりかさん。


5人の生活は、
まるで横糸と縦糸による

個性的で美しい織物のような生活だった。


5人の交流はどんどん広がって行き
それぞれの物語が交差して複雑になり

思わぬ糸が手繰られる事となった。







■感想

始めは、
旧き良き日本の知恵のような

清楚で爽やかな生活を
二十代の女性4人が過ごす、

穏やかで日常的な話だと思い、
のほほんと楽しみながら読んでいた。


すると
紀久と与希子の出自や先祖の事、

りかさんや人形の件。

更には海外へと旅に出た神崎や
マーガレットの背景にあるもの。

沢山の事が少しずつ織物のように
紡がれて織込められて行き、

推理物のようであり、
手織り人の物語でもあり、

日本の女性たちの生き様であり、と
とても濃厚で重く話に広がって行き

大変驚いた。



容子達の日々の選び方や
生き方を読みながら

私は何のために生きているのか?
これからどう生きて行こうか?

と考えされられ、
とても刺激になった。



でも、
あくまでもたおやかに優しく
物語は進むのだ。


不思議な物語だった。














●読みかけの本●


「不幸にする親」ダン・ニューハース著
― 人生を奪われる子ども ―

玉置悟=訳 講談社









「コントロールする親」
の中でも、


「条件つきの愛」
自分の損得が大事

極度の自己中心性
ステータスの崇拝

強迫観念的な要求
感情が極度に不安定

身体的な虐待をする親
大人に成長できていない


などはうちの親に当てはまり、

他の幾つかは息子を育てる時に
私たち夫婦が犯した間違いが当てはまった。



「問題をよく理解しよう」
の所で泣いてばかりいるので

なかなか進まず
苦しくなって止まってしまい、

この先の肝心な
「問題を解決しよう」まで
行き着けなかった。



ああ~~~。



図書館は延長しても1ケ月。
この本に辿りつけなかった。


子供時代と、
その影響のせいで起こったあれやこれや。

大人になって引きずって
人生をコントロール出来ないという苦しみ。


自分の人生を愛せない悲しみ。


この本に向かうには力が必要だった。




途中で降参したので
買って手元に置いて

力が満ちた時に読もうと思った。




何しろ一番大事な
これからが書いてあるのに
読めていない。




そこが読みたいのに
理解する段階で苦しくて悲しくて。




買って向き合おうと思う。







●読んだ本●


「格闘する者に○」三浦しをん著 草思社









■あらすじ(カバーから抜粋)

藤崎可南子は就職活動中。
希望は出版社、漫画雑誌の編集者だ。

ところがいざ活動を始めてみると、
思いもよらないことばかり。

「平服」でとの案内に従って
豹柄ブーツで説明会に出かけると、

周りはマニュアル通りの
リクルートスーツを着た輩ばかりだし、

面接官は
「あーあ、女子はこれだからなー」と、
セクハラまがいのやる気なしの発言。


これが会社?
これが世間てもの?

こんな下らないことが常識なわけ?

悩める可南子の家庭では、
また別の悶着が・・・・・・。


格闘する青春の日々を、
斬新な感性と妄想力で描く、

新世代の新人作家、
鮮烈なデビュー作。







■感想

ものすごくどうでも良さそうな
日常的な会話と

ものすごく大切なことが
入り混じっているので

不思議な感じがしました。



漫画好きらしくて
漫画の話がしばしば出て来ます。



出てくる男性が
ほとんど全員、
それぞれにとても魅力的でした。

友達の二木君。
弟の旅人君。

可南子がお付き合いしている
年配の書道家西園寺さん。

父と付き人の谷沢氏。
友人の忍君。

みんなそれぞれに個性的で
いい男達です。



所が女性陣は
あまりにもリアル過ぎて?

魅力的に感じませんでした。


一番の仲良し砂子は
どこにいても目立つ美人なのに

それ以上の何かが見えて来なくて。


なんだろう?
なぜなんだろう?




「格闘する者に○」と言う題と

表紙が十代の少年?少女?
が思い詰めているように見えるイラストで

その横顔にも惹かれて借りたのでしたが
何と格闘したのかな?と

読後に考えました。


格闘ってすごくぎりぎりの言葉なので
そうとう激しいものか

相当暗くて重たいものを
想定してしまったのでした。



でも、
最後まで緊張感のないまま
ふわんふわんと進んで行くわけで。



こういう所が新世代って事なのかなと
思いましたが。


文章はとても読みやすかったです。



きっと就職活動と
家の跡目相続で格闘したんですね。

でも問題は現在進行形で
終わってはいなかったです。

何も終わっていない?


旅人君だけが自己表現を
はっきりさせましたが。


うううんんん。


読みやすかったけど
私の中に何が残ったのかは
解りませんでした。


いつか解るかもしれないけど。




若者であるピー(15歳)
の感想も聞きたかったのですが

読むのに時間が掛かるからと
断られました。


ううむ。

今の若者のリアルと言う点で
新世代と言う事でしょうか。



他の本も読んでみないと
解らないですね。







●借りた本●

最近、
頭の中に出てくる景色を探しています。


それで山や里山や
田舎の本を借りました。









「美しき村へ」 淡交社

文   飯田辰彦
写真 俵純治・菅野勝美



「日本の原風景に出会う旅」
と言う副題がついています。


・宮崎県日向市東郷町「坪谷」(つぼや)

・新潟県佐渡市「竹田」(たけだ)

・山形県鶴岡市「大鳥」(おおとり)

・岐阜県飛騨市宮川町「種蔵」(たねくら)

・長崎県対馬市上県町「志多留」(したる)

・茨城県常陸大田市「持方」(もちかた)

・和歌山県古座川町「三尾川」(みとがわ)

・静岡県静岡市葵区「有東木」(うとうぎ)

・石川県穴水町「甲」(かぶと)

・高知県四万十町「里川」

・秋田県由利本荘市「百宅」(ももやけ)

・長野県大鹿村「上蔵」(わぞ)

・島根県隠岐郡隠岐の島町「都万」(つま)












「静かな山 小さな山」 石井光造著
東京新聞出版局



静かな山 小さな山 (写真がありませんでした)


-山歩きの楽しみ-

・頂上に行けなかった山
 不動沢から鳥海山
 台倉高山
 青松葉山

・山の本の忘れられた山
 京丸から京丸山
 星尾峠と兜岩山

・名山の隣の山
 上州子持山
 黒森山

・ワンデンルグと峠歩き
 丹波天平
 三国峠旧道歩き
 碓氷峠旧道歩き

・源流の山歩き
 七時雨山と北上川源流
 上の原と高杖ケ原

・山岳信仰の山
 肘折から葉山
 高妻山と乙妻山

・頂上の湿原
 湿原の項 田代岳
 毛渡沢から平標山

・山の地形と地質
 海谷駒ケ岳と明星山
 雨飾山

・きのこの山
 井川峠から山伏岳
 里の沢から御月山

・ブナの山
 白神岳から十二湖へ
 真瀬岳

・地図にない道
 鳥ノ胸山
 羽山

・山里への思い
 常葉鎌倉岳  
 二王山












「名建築に泊まる」 稲葉なおと著 新潮社




・怪しき男爵の館で怯える 「山月」神奈川県

・西の大建築家・武田五一の邸宅が忍者ハウスに 「白河院」京都府

・お殿様の屋敷でお姐さんは大サービス 「柳川・御花」福岡県

・江戸の湯治場に学ぶ昭和モダニズム 「積善館」群馬県

・海運王の迎賓館で立ち退きを迫られる 「舞子ホテル」兵庫県

・黒柿、鉄刀木、神代杉。箱根で銘木に囲まれる 「環翠楼」神奈川県

・明治の豪邸でつっつく牡丹鍋の味 「楽々荘」京都府

・”幻の東京五輪迎賓館”で見た儀式 「十和田ホテル」秋田県

・国宝に囲まれた宿坊の以外な一日 「高野山別格本山 金剛三昧院」和歌山県

・昭和初期の洋風サロンで帝大学士気分に浸る 「学士会館」東京都



・イタリア人建築家のリゾートホテルで悶える 「リゾナーレ小渕沢」山梨県

・間越欄間の七福神が笑い、膳の上の海老が泣く 「麻野館」三重県

・朱色の欄干に囲まれた教師の楽園 「花のいえ」京都府

・大正のリゾートホテルでヅカファンを探す 「宝塚ホテル」兵庫県

・昭和のお屋敷で見た女将さんのショータイム 「京亭」埼玉県

・古建築を潰すということ 「洋々閣」佐賀県

・明治の迷宮に彷徨う人々 「金具屋」長野県

・大正の茶室で名物料理の謎を解く 「ゆうりぞうと京都・洛翠」京都府

・ヴォーリズの宣教師住宅に隠れた技 「いんのしまペンション白滝山荘」広島県

・伊達藩の御殿で裸人の不思議に迫る 「湯元不忘閣」宮城県

・「懸崖造」の急階段を下りる白い足 「麻吉」三重県

・回り続ける水車と麦藁帽子 「金湯館」群馬県



・匠の離れで教わる、お姐さんの誉め方 「村尾旅館」山形県

・シャレー風観光ホテルに揺れる心 「雲仙観光ホテル」長崎県

・金箔の貴賓室で、恋人達のメッカを思う 「朝日館」三重県

・孤高の建築家・白井晟一の遺構に響いたひと声 「稲住温泉」秋田県

・江戸の宿坊で「会長」は山伏に捕まった 「竹林院群芳園」奈良県

・アールデコの館はなぜ英国人客で埋まったのか 「小樽グランドホテル・クラシック」北海道

・建築学生憧れの和風ホテル巡礼 「東光園」鳥取県

・明治建築界の首領が遺した「旅立ちの窓」 「東京ステーションホテル」東京都









●読んだ本●


「風の影」上・下  カルロス・ルイス・サフォン著

木村裕美=訳  集英社





「風の影」HP






■あらすじ■

-上巻の説明文から抜粋-

1945年のバルセロナ。

霧深い夏の朝、
ダニエル少年は父親に連れて行かれた

「忘れられた本の墓場」で出逢った
『風の影』に深く感動する。

謎の作家フリアン・カラックスの
隠された過去の探求は、

内戦に傷ついた都市の記憶を
甦らせるとともに、

愛と憎悪に満ちた物語の中で
少年の精神を成長させる・・・。


17言語、37カ国で翻訳出版され、
世界中の読者から熱い支持を得ている
本格的歴史、恋愛、冒険ミステリー。






■感想■

10歳のダニエルが経験する
様々な出来事を共に経験し、

登場する沢山の人達の人生に
そっと寄り添い、

胸いっぱいの人々の生き様と思いを抱え、
一緒に歩いていた20年の歳月。


内戦で傷付いた都市で繰り広げられる
怪しさや恐怖や純愛や親切。


読むほどに引き込まれて
ダニエルが生きていたバルセロナの片隅に

一緒に
ひっそり生きているような気さえして来た。


ダニエルの苦しみ。
ダニエルの愛。

ダニエルの惑い。
ダニエルの懸命さ。


ダニエルは優しい少年で、
純粋で真っ直ぐだから
すぐに好きになった。


それでいて
大人と対等に渡り合う度胸も持ち、

大切な物を守る勇気も持ち、
フリアン・カラックスを追いながら成長して

バルセロナの影に潜む危険に身を晒し
それでもカラックスを追い続けずには
居られなかった。



生涯で一度だけ出逢う
素晴らしい宝物の一冊の本。

今の携帯やネットが発達した日本では
理解し難いのかもしれない。


でも小説好きな人間には
たまらない設定が盛り沢山で

『風の影』とダニエルを中心に
物語が進んでいく。


たまりませんでしたね。


登場人物一人一人を
丁寧に書いてあり、

だから小説の中では
誰しもが生き生きと動き回っている。


複雑な物語が少しずつ見え始め
最後には苦しくなって時々逃げたりしたが
何とか読み終える事が出来た。


最後の行を読み終わった時
涙が沸いて来た。


苦しかった時代を乗り越えた人々への
賞賛の思いと

苦しみの中で
のたうちながら生き永らえた人への

苦しい拍手とで
胸が詰まってしまったのだ。



とても感動して、
しばらく放心状態になった。



素晴らしい一冊に出会ったのだと
実感した。

この物語は私の胸の中に
住みついてしまったようだ。



ネタばれになるので書けないが
何もかも納得の行く終わり方だった。



生き残った人間は
幸せになろうね。


残酷な現実が待っていても
飲み込まれないように
しっかり立って見渡していようね。



あなたの一番大事なものは
何なんだろう?


私の一番大事なものは
・・・・・・・・・心かな。







●読んだ本●


「血と肉を分けた者」 ジョン・ハーヴェイ著
 日暮雅通=訳  講談社









■あらすじ

家庭での問題に傷つき
ノッティンガムシャーの警察を辞めて

コーンウォールに引退して
静かに暮らしていたエルダーは


十四年前に失踪して
行方不明のままになっている少女
スーザンの事をずっと引きずっていた。


スーザン失踪と同じ頃に、
やはり十六歳の少女ルーシーを

残忍な方法で暴行し殺人した
マッケアナンとドナルドの二人を逮捕した。

彼らがスーザンの失踪に関与していると
エルダーは考えたが
立証出来ずに未解決になったままだった。


ドナルドの仮釈放を知ったエルダーは
スーザンの行方を調べ直すために

ノッティングシャーに戻り
スーザンの周囲にいた人達に接触を図る。


凄惨な子供時代を経て
17歳で殺人事件に関与し

14年間刑務所で暮らしていたドナルドは
釈放後、
仮釈放者用の宿泊施設に向かい
何とか社会に馴染もうとするのだが。




2004年CWA賞(英国推理作家協会賞)の
シルバー・タガー賞受賞作品。







■感想

ノッティングシャー州の警察を
途中で辞めて引退した

エルダーの私生活と
遣り残した思いを引きずっていた

16歳の行方不明のスーザンの捜査が
色んな形で絡み合っている作品だった。


子供の殺人や暴行は
家庭内の方が多く、

イギリスでもアメリカと同様の
混乱の社会なのだなと思った。


エルダーの生活は
悪夢から始まり、

悪夢の元へと
引き寄せられて行くかのようだ。


そしておぞましい現実は
この日本でも人ごとではなく

嫌な事件が続いている事を
思い出す。


話はよく出来ていたが
読み進めるのが苦しい作品だった。


崩壊している家庭で育った子供は
幸せも安らぎも知らないで大人になり

自分の傷を他人に広げて
社会全体を恐怖に陥れる。

それらの悪循環について
思索させられた作品だった。


みんながある程度幸せなら
こんな目に合わずに済むのにと思ってしまった。

不平等な社会。
弱い者ほど叩きのめされる社会。

弱い者から狙われる社会。


悲しい社会だ。









●読んだ本●



「死せるものすべてに」上・下 ジョン・コナリー著

北澤和彦=訳 講談社文庫











■あらすじ


チャーリー・”バード”・パーカーは
妻と激しい口論の末

いつものように酒場で酒を飲み、
深夜に家に帰り着くと

妻と幼い娘は凄惨な状況で
殺されていた。


刑事を辞め、酒を断ったバードは
生きたまま妻と娘の顔の皮を剥ぎ

内臓を取り出した犯人を追いかけるが
総てが空回りに終わり、

時間潰しに探偵の手伝いをした事から
行方不明の少年探しを手伝う事になった。


葛藤の日々の中でバードは
事件を解決し、

そして妻子殺しの犯人を
徐々に追い詰めて行く。


2000年シェイマス賞最優秀処女長編賞
(アメリカ私立探偵作家クラブ主催)






■感想


何しろ膨大な登場人物に辟易した。
「主要登場人物」に書き切れない。


そして回りくどい文章?
やたら難しい比喩?

何を言おうとしているのか
理解するのに難渋した。


肉付けが多いので
奥行きのある物語になったが

ノートに名前と関係を
書き付けておけば良かった

と思うほど人が出て来た。


しかもどの人物も
バードとの関係が大事なので
飛ばし読みは出来ない。



今私の脳は
普段の十分の一くらいしか働かないので

全く参ってしまって
読むのに時間が掛かってしまった。



でも「下」の方に行くと
文章に慣れたのか

関係性が見えて来て
すぐに把握出来るようになった。


そうすると今度は
登場人物各々の抱える問題の

暗い深淵をも覗き込んでしまい
深くて暗くて重たいものを

一緒に背負い込んでしまったような感じがして
1ページ1ページが
重たく突き刺さって来た。



少し前まで刑事だったバードの
一番信頼出来る友人と言うのが

家宅侵入犯のエンジェルと
殺し屋のルイスと言うあたりが面白く

刑事時代のバードが
どんな刑事だったのかと想像した。


でも誠意のある信頼関係で
この二人とバードは不思議な絆がある。


刑事だったのに
犯罪者と信頼関係が出来上がっていると言う辺りが

普通の元刑事と違う幅の広さと言うか
深さが感じられた。


このエンジェルとルイスが
私は結構好きだった。

脇役が好きと言うのは
私にしては珍しい。




しかし話は
どんどん凄絶なものになって行くので
その暴力性に慣れないものがあった。

スプラッターは苦手なんですね私(^^ゞ



バードは裏社会にどんどん切り込んで行くので
心配性の私はどきどきしっ放しで(笑)




この後バードはこの凄まじい傷跡を
どうやって癒して生きて行くかと
心配になった。


こんな経験をしても
朝起きて夜は何とか眠るんだろうな。

悪夢にうなされ、
しばしば起こされて

他人の空似に衝撃を受けたり
物音に怯えたりしながら
生きて行くんだろうな。



バードに好感は持てるけれど
友達になれるかどうかは解らない。


剃刀の刃みたいで
近くにいると傷付きそうだ。




こんな複雑で魅力的な人が出て来る話が
処女作なんて

その後が期待されるけれど
翻訳ミステリが出版されるのは少ないらしい。


細かい所は抜くと
重厚感のある読み応えのある本だった。







表現については、
戦闘シーンの文章のぎこちなさや

「編集人に会うのか」と言う文章などを見て
「編集者だろう!!」と突っ込んでしまい

ああ、これは訳者に問題ありか?
と思った。




原書を読めたら
違う感想もあったかもしれない。










●読んだ本●


「それでも警官は微笑う」日明恩(たちもりめぐみ)著 講談社









■あらすじ

頭が固くて、
思い込んだらまっしぐらの
責任感の強くて朴訥な

池袋署の刑事一課強行犯係の
巡査部長・武本正純は、

茶道家元の次男で型破りの警部補
潮崎と組んで

怪しい小銃を追っているうちに
麻薬取締捜査官・宮田剛に出会った。

宮田はある事件を
密かに追っていたのだ。

出所がはっきりしない小銃を追ううちに
武本と潮崎は

宮田が追う事件との繋がりを知り
安住課長をも巻き込んで

日本に蔓延しつつある
小銃と宮田の事件を追い始める。





日明恩のデビュー作にして
第25回メフィスト賞受賞作。








■感想


アメリカの推理小説のような題名と
カバーイラストがポップなのとで

あまり期待しないで読み始めたのだが
始まりからわくわくして引き込まれた。

見た目で侮ってはいけませんでした。
とてもしっかりした小説でした。




デリカシーや繊細さが無く
真っ直ぐで無骨で

揺らぎのない正義感の持ち主の武本と


饒舌家でオシャレで
パソコンに強くて記憶力がすごくて

お茶目で常識外れで
繊細で純粋な潮崎のコンビは

濃い組み合わせで
非常に面白かった。


権力や縦社会やコネや
規則に縛られている警察内部において

武本達刑事や麻取の取締官達は
日本警察の誠実な良心とでも言うべき存在で

頼もしく痛快で
読んでいて楽しかった。


これはドラマにしても
解り易くて面白いのではないかと思った。


デビュー作と言うのに
取材力と構成力の充実に驚いた。

すごいなぁ。
よく調べたなぁ。

と率直に思った。


犯人に関しては
ちょっとスッキリしなかったけれど。

いつか続編を書くつもりなのかな?
と思ってしまった。


キャラの濃い人が一杯出て来て
面白かった。

どの人もそれぞれに好きになった。

いいヤツが沢山出て来る警察物なんて
珍しくてうれしい事極まりない。








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