『セ。』


僕は歩む。
通り風に惑わされず。
足早に。
確実に。

置いてきたものはなんだろう。
見ないことにした、花。
散る葉にも、目は留めず。
僕は前を、凝視する。
引き伸ばされた、前を。

鳥の音。陽の声。
縮む影と、さようなら。
さようなら、僕。
片手を挙げて、振り返らず。

歩む。

コツコツコツと、聞こえたような気がしたけれど、
僕は落とさず、逃げず、
アスファルトを、ただ前に。
前に進んでいるのか、戻っているのか。
チクタクと時計。
カタカタと、ねじ。

近づいて、遠ざかっていく、人影。
いくつかの、自転車。
手を開いて、掴む、
空気の光、宝物。

ひゅるりと鳴ったよ。
知らないよ。

あの橋の向こうまで、
向こうの向こうまで、
それでも僕は止まらないよ。
歩くよ。

追い抜いたもの、
すれ違ったもの、
横切ったもの、
降ってきたのも、
でも僕は、一方向、
遅くなく、淡々と。

たんたんと。
均一。

やがてオレンジが射す。
そろそろ帰る時間かな。
でも、いいさ。
こっちだよ。こっちだよ。

囁くものに、目もくれず。
優しいものに、目もくれず。
冷たいものに、目をくれず。
前へ。前へ。前へ。

前へ。

目標なんて上にはない。下にもない。
熱い思いなんて前にもない。後ろにもない。
僕に必要なものはこれだけだから。
だから。

歩く。

さぁ行こう。
前へ。

とつとつと。




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