Get your gun

Get your gun

キョリと指輪



キョリと指輪




真っ暗な道を走る車。ムシャクシャしながらブレーキを踏み、またアクセルを踏む動作を繰り返してばかり。赤色の信号ランプが、さらに苛立ちをかきたてる。どうしてこういうときに限って、赤信号に行く手を阻まれるのか。

折角久しぶりに会ったのに。あんなに楽しみにしていたはずなのに。こんな気分を味わうために会いに行ったわけじゃない。


指輪をつけてこなかったのは、そんなにいけないことなの?故意に外してきたんじゃない。外したまま忘れてしまっただけ。そう言っても納得しないで怒り出す君を見て、私も黙っていられなくなった。

もともと指輪を好むタイプじゃなかった。指輪で愛の深さを測れるとしたら、どんなにつまらない恋愛になってしまうだろう。形で示してほしいと思う気持ちも、わからなくはないよ。お揃いの何かを持つことで、繋がっているんだって実感したいって言うのも。けど、だからって指輪に頼るその姿勢が、私はどうしても好きになれない。

それでも、君が指輪をくれたから、つけてほしいって望んだから、私なりに努力してつけていたのに。君の喜ぶ顔を見たいし、望むことはできるだけ叶えてあげたい。伸ばした髪だって…。


バタン、ガチャッ。


車から降り、玄関に向かいながら鍵をかける。何もいわずに戸をあけて自分の部屋に入ると、机の上にある、光るシルバーのリングが視界に入ってきた。一つため息をつくと、それをつまんで掌に乗せてみた。私の意志にはお構いなしに、こんな小さなものに振り回されるなんてね。


馬鹿みたい。馬鹿みたいだよ。



君に言った台詞を、もう一度つぶやいてみる。


いつもの待ち合わせ場所、お互いの近況を話して、会えなかった分を埋め合って。そう、いつもと変わらない、穏やかな時間が流れるはずだった。


「どうして今日指輪してないの?」
「急いで飛び出してきたら、つけるの忘れちゃったの。ごめんね。」


小さくふぅと吐く息の音が左側から聞こえ、少しの間沈黙が流れた。


「なぁ、それって忘れるようなものなのか?」


声のトーンが下がっている。顔を見なくたって怒っているとわかる。


「ごめんね。でも、どうしてもつけていなくちゃいけないものでもないでしょ?」
「じゃあ、俺と会うときしかつけてないのかよ?」


そんな程度の気持ちなんだ、と呟く声を聞いて、私もカチンときた。


「どうしてそう決め付けるの?あなたこそ、指輪してるかしてないかで気持ちを判断するような、そんな程度の気持ちなの?」


言ってしまったことを少し後悔しても、もう遅い。とめられない。


「俺は忘れてきたことなんか、1度もないぞ。」


横目で左手を見てみると、見慣れたリングが薬指とひとつになっている。


「もともと私が指輪好きじゃないこと、知ってるでしょ?でもあなたがして欲しいっていうからつけてたんじゃない。指輪がそんなに大事?気持ちよりも大事なの?」
「相手のこと大事に思うからこそ、指輪つけるんだろ?違うか?」
「そうまでしなきゃ、気持ちって伝わらないの?馬鹿みたい。」


帰る。そういい残してその場を離れた。これ以上一緒にいても埒が明かない気がした。もし向こうに話し合う気があるなら、駐車場までの道のりを追いかけてくるだろう。


けど、追いかけてこなかった。今頃もきっと、拗ねたままなんだろうな。


私が反発しないで、そのまま聞き入れていたら、言い合いにならずに済んだのに…。いや、違う。毎日のように会えていた頃は、会話の中からお互いの気持ちを分かり合えていた。繋ぐ手の温もりで、安心できたはずだった。譲れない夢があることも、そのためにいつかキョリがあいてしまうことも、理解していたのに。
思うように会えなくなった淋しさが、苛立ちが、2人をこんな風にしてしまったのだろうか。


立ち去ったりしないで、もっとじっくり話し合えばよかったかな。いっぱい飽きるくらい話をして、そうしたら指輪を忘れても、私の気持ちは伝わってたかもしれない。誰よりも淋しがり屋で、でも淋しいって口にできないこの2人を、安心させることができたかもしれない。


23時、いつもなら君からかかってくる、おやすみの電話。
何をどう話したらいいか整理もつかないまま、でも私は受話器を取った。



END




© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: