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滝警部の事件日記






「現場の状況は?」
 私は横を歩く、部下の
猿渡 さるわたり に尋ねた。
「ガイシャは三好しのぶ、20歳です。職場から帰宅したところ、背後から刺されたようです」
「目撃者は?」
「このマンションの一階に住む主婦が昨夜8時頃、三好が帰宅して来るところを目撃しております」
「そして、発見が2時間前の早朝の4時だったわけだな」
「そうです」
 おかげでこちらは、寝ているところを叩き起こされた。
「発見当時、玄関には鍵とチェーンが掛けられていました」
「チェーンだって?」
「ええ、通報して来た恋人の男と駆け付けた警察官に確認されています」
「その男はどうやって室内をチェックしたんだ?」
「台所上にある格子付きの小窓の鍵が開いていたので、そこから室内を覗い
たところ、死体を見つけたそうです」
「なるほどね。警察官もそこから見たわけか」
「チェーンは棒状のストッパータイプで、第一陣はバーナーでチェーンを焼き切って現場に入りました」
 それを聞いて安心した。
「それじゃ、犯人は確保したんだな」
 私がそういって引き返そうとすると、猿渡は慌てて私の肩に手を掛けた。
「あ、警部。それがまだなんです」
「まだ?部屋にチェーンが掛けられていたのなら、掛けた本人が中にいたことになる。まさか死体が掛けるはずも無いわけだから、当然中に犯人がいたのだろう?」
「いえ、それが…」
「じゃあ、取り逃がしたのか?」
 これだから、所轄の刑事は役に立たん。私はタバコを取り出して、火をつけた。
「違います。中にはもともと、ガイシャだけでした。正確にはいたんですが、そいつには絶対に犯行は不可能なわけでして…」
「そういった、思い込みが捜査を混乱させるんだ。現場にはガイシャと誰がいたんだね?」
「はぁ、それが、ガイシャが飼っているペットのトカゲでして。これくらい
の」
 猿渡は手で大きさを示した。20cmくらいだろうか。
「トカゲだって?ここはペット禁止のマンションじゃないのか」
「管理人も知らなかったようです。たびたび住民から苦情が出ていたので、怪しいとは思っていたようですが、まさかトカゲとは考えていなかったようです」
 確かにトカゲに殺人が行えるとは思えない。となると、誰がチェーンを掛
けたのだろう。
「これは、警部お得意の密室殺人ってやつですよ」
「別に得意じゃない。たまたま多いだけだ」
 殺人だというのに、猿渡の顔はニヤついていた。一体何を考えていることやら。
 私は現場を見回した。確かに玄関のチェーンは切られている。玄関に血痕
はない。死体は玄関から少し入ったところにある、キッチンにあったようだ。白いテープで形が取られている。そこには血痕がある。そこで背後から
刺されて、うつぶせに倒れて、そのまま亡くなったのか。
「そのトカゲはガイシャのペットで間違いないんだな?」
「ええ、隣りの部屋に籠もありましたし、戸棚の中にもトカゲの餌のような
缶詰が大量にありました。なによりそのトカゲは首輪をしておりました」  トカゲに首輪とは。私には考えられん趣味だ。
「警部。僕こんなの考えました。ガイシャは外で刺されて、慌てて室内に逃げ込む。再び刺されないように…」
「鍵とチェーンを掛けた?」
「はい。どうです?」
「玄関に血は無かったし、キッチンまで逃げる体力があるなら、助けを呼んでる。今は携帯があるからな」
「それが、警部。三好は今時に珍しく、携帯を持っていなかったんです」
「なに?今はじいさん、ばあさんまで持ってる時代だぞ」
「そうなんですが、死体が身に付けていた衣服や鞄、部屋からも携帯電話は見つかりませんでした。三好の親に聞いたところ、親が支払っていたわけではないので、分からないという事でした」
「それにしたって、持っていれば番号くらいは親に教えただろう?」
「そう思ったんですが、自宅の番号しか知らなかったそうです」
 私は部屋の隅に置かれた電話機を見た。何か光っているようだ。
「おい、あの電話何か光ってるぞ」
「あ、そうみたいですね。留守番電話でしょうか?」
「確認してないのか?」
「すいません。今警部に言われて気付きました」
 私は近寄って、手袋をはめた手で再生ボタンを押した。
 テープが巻き戻る音がして、ピーという音に続いて声が聞こえて来た。
『あ、しのぶ?俺だけど、今仕事が終わったから、そっち行くわ』 第一発見者の彼氏だろうか。
 ピー。
『わたくし、サナダ運輸の真田と申します。先ほど荷物のお渡しに伺ったのですが、留守のようでしたので、玄関に電話番号を書いた紙を貼っておきました。ご都合のよろしい日にご連絡ください』
 ピー。
 これはかなりの手掛かりだ。
 彼氏が電話して来た時間は、午後7時過ぎ。運送屋が電話したのは、午後9時半。
おや?
「これはおかしくないか」
「何がです?」
「ガイシャは8時頃に帰宅するところを目撃されたわけだよな?」
「そうです」
「ではなぜ、9時過ぎに来た運送屋に出なかったんだ?」
「言われてみれば、そうですね。あ、風呂に入っていたとか」
「あるいは、すでに死んでいたか。死亡推定時刻は?」
「まだきていませんが、見たところ昨夜の8時から9時前後のようだと鑑識が」
「となると、運送屋が来た時に犯人が室内にいた可能性が高いな」
「それに、7時過ぎに電話で行くと言っていた、彼氏も怪しいですね。ガイシャと彼氏は最近浮気問題でもめてたようですし」
 ならば私はタイミング的に見ても、彼氏が犯人だと思うが。チェーンの謎かある。鍵は合鍵で閉めたかもしれないが、チェーンはどうやって掛けたのだろう。
「猿渡、発見当時トカゲはどこに?」
「玄関を開けて5mくらいのところにいました」
「ほかに室内に変わった点は?」
「そういえば、この真夏にもかかわらず暖房が付いていたみたいに暑かったですね」
 私はエアコンのリモコンを見た。表示は暖房になっている。タイマーで切れるように設定されているようだ。
「トカゲの首輪に散歩紐は付いていたね」
「どうしてそれを?僕そんな事言いましたっけ?確かに付いていましたが」
「なるほど。そういうことか」
「なるほどって。まさか警部、分かったんですか犯人がどうやってチェーンを掛けたか?」
 私は振り向いて言った。
「一応ね。犯人はその彼氏だろう」
「でも、やつだとしてもどうやってチェーンを?」
「まずやつはトカゲの散歩紐を、引っ張ればほどけるようにチェーンに軽く結んでおく。ストッパータイプだから、比較的簡単だろう。次に暖房をつける。これはタイマーで止まるように設定しておく。トカゲは変温動物だから、室内が温まれば動きが盛んになる。そして部屋を出て、鍵を掛ける。あとは勝手にトカゲが動いてストッパーが掛かる」
「あ、なるほど。確かにそれなら簡単にチェーンが掛けられる」
「運送屋が鳴らしたインターホンに反応しただろうから、きっとトカゲは動いただろう」
「運送屋はドアも激しく叩く時がありますからね」
「あとはその彼氏を問い詰めて吐かせればいいだけだ」
 いい終わると、私は部屋を出た。後から猿渡がついてくる。
「さすが滝警部。やっぱり得意じゃないですか」
「考えればすぐ分かる。それにしても、ガイシャの部屋は女っ気が無い部屋だったな」
「あれ、僕言わなかったですか?ガイシャは男ですよ」
 私は彼氏が浮気したくなるのも分かる気がした。

終わり






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