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2007年01月12日
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「太平洋戦」戦記マンガ。乾いた描写に感動。

 この作者、才能ある。
 全部で八話収録。独立した短編なので、どこからでも読めるが、凡そ(「真夏の赤蜻蛉」以外)太平洋戦争初期~終戦という時間軸に沿った収録順番となっている。

 全編、“情緒(お涙頂戴のおセンチ)”を排除し、 淡々とした描写 によって物語は語られていく。
 そのためにかえって、戦争の非情さや人間の尊厳が読者に深い感銘を与える作品集となっている。

 各話短評。

第一話「大陸基地航空隊」
 舞台は南京陥落前後の支那。主人公は新米パイロット。初陣の緊張と戦友のあっけない死。

 p20「慣れろとは言わん。」アドバイスする歴戦の上官「いずれ平気になる。」言いながら、うつむいている上官。
 p21「大貫(主人公)は飛行兵になりたかったか?それとも飛行機に乗りたかったのか?」「飛行機に乗りたかったのであります。」「そうか・・・・じゃあオレと一緒だな。」------“戦争”という状況下と個人の運命(平和時ならば二人は)。
 p24 疲れた------ 
   空を夢見て、ここまで、来たんだったな。

 (うん、この作品集ズバリ“文学作品”だね。少なくとも作者の志向性はそうじゃなかったかな)

第二話「複葉艦戦隊」
 敵米兵パイロットとの淡い淡い心の交流(大空で一瞬、目が合って敬礼されただけ)。「淡い」が故の“深さ”。
 この話、両国航空兵の兵士としての“技術”が話の土台となっている。「敵味方」を超えて共感しあう、プロ意識。
 p47「今日オレは死ぬだろう。お前(米兵)と同じ目をした、たくさんの若者達と一緒に。小さななぐさめは-----、空で死ねるということだけだ。」

 通常、人間の“尊厳”を語る場合、“人権”がらみのみの視点で語られてしまう。
「生まれながらの」権利。裏を返せば、単に生きてさえいれば、どんなに自堕落に生きていても“人権”があって、故に“尊厳”がある。


 ある種の(例えば職業上要求される)能力向上(修練、修行ね)が、その人の“人格”を向上させる、その人に尊厳を与える、という事があるのではないか。
 それは、“人権”意識と同様、国籍等を超えた普遍的なものだろう。
 “戦争”の根絶は難しいとしても、“戦争”時に敵兵に“尊厳”を感じることは可能ではないか。

 (重要ポイント。ミサイル「ボタンでポン」式では無理)

第三話「海鷲の落日」


 何気ない会話が静かに、だが深く“家族愛”を浮き上がらせる(家族がいない、作らないという「家族の不在」によって逆説的に浮かび上がる“家族愛”)。

 日本の戦争ものに多い、うんざりさせられるステレオタイプ描写(例「あなたぁ~~~!!必ず生きて帰ってきて~~~!!」オイオイオイと号泣する若妻「ナントカカントカ死ぬなぁ~~!!」絶叫する戦友。「戦争反対だぁ~、反戦だ~」のプロパガンダ屋は実は、自分の組織を拡充したい、自己満足したいだけなんじゃないのか)とこの作品は無縁。
 “反戦”プロパガンダから無縁だからこそ描きえた戦争の非情さ。

第四話「蒼こうの銛手」
 p88貧しい農家出身の男「私は地ベタの上にいい思い出がありません。海軍に入れば海でも空でも地ベタから離れられると思ったのです。」
 当時の「貧しい農家」は本当に貧しかった。多くの貧しい若者にとって(今では想像し難い事ではあるが)“軍人”は憧れの職業ですらあった(こうした貧しさが実は日本軍の強さの秘密であったりしたのでは)。
 p94「生まれて初めて地ベタの上から、きれいな夕陽を見た。」死に際の言葉。

第五話「最後のト連送」
 特攻を頑なに拒み続ける歴戦の勇士「雷撃の鬼」。
 p110「魚雷は一日で補給できるが、搭乗員の補給には二十年もかかる。だから、かならず帰投して、反復攻撃を繰り返す。」p111「反復攻撃は私の信念であります。」
 (“人権”思想からではない、“人命尊重”の精神。その可能性)
 だが、命令に素直に従わない彼を疎んだ司令部は、彼にある悲惨な命令を与える。
 ある種の滑稽感(なんと複葉機だぜ。96艦攻)すら漂う、最後の出撃。「滑稽感」すらあるからこその壮絶感、悲壮感。

第六話「明けの彗星」
 これも特攻を頑なに拒否する部隊の話。血気に逸り、特攻を望む若いパイロットに、部隊長は黙々と“技術”を修得する事の大切さを教える。
 我が身をはって。
(「モデルは有名な芙蓉部隊」と、あとがきにあるが、その部隊の説明が欲しかったな)

第七話「真夏の赤蜻蛉」
 (これだけ異質。且つ疑問あり)
 終戦の日当日の、あるパイロットと少年達の交流。
 パイロットの“乾いた”諦念、明るい虚無感が漂う作品。

 (だけど、疑問があるんだよね、設定に。いわゆる「浮浪児」って終戦後の事じゃないのかな。いくら親兄弟が空襲で死んだからって、あちこちふらふらして、「かっぱらい」してたら、お巡りさんや憲兵さんに捕まると思うのだが、戦争中は。戦中と戦後の風俗を混同している人って結構いるしね)

第八話「闇の誘導路」
 米国の技術力に比べ、格段の差がある日本。あざ笑うかの如きB29、レーダー妨害専用機「ヤマアラシ」。対する日本人パイロットと電探(レーダー)技術者。圧倒的な技術力の差によって、片目を失うパイロット。技術者はある奇策を以って対抗しようとする。p188「必ずもう一度あんたを、B29に会わせてやるぜ!」
 パイロットと技術者、両者の意地と技術とプライドをかけた「反発と信頼」の男のドラマ。

 この話、少し「プロジェクトX」風。ドラマ化するのなら、八篇中これが一番良いと思う。話の山場に向け、ストーリー的にも最も良くまとまっている。

 昭和20年5月25日までに、東京は50%以上を既に焼尽し都市機能は消失したと米軍に見なされた為、東京は爆撃リストから外された。その最後の東京防空戦であった事が最後のコマの説明文にある。
 つまり、蟷螂の斧。
 この点からみると主人公達の努力は、まさに空しい。
 だが、にもかかわらず感じられる「魂の高揚感」。

 時代時代の状況と、しかし、そうした事と別に存在しえる「“充実”した生、人生」。



 八篇全て“悲惨”な話だが、 “悲惨” さの中に “人間”の栄光と「“充実”した生」 が見える。

 翻って、今の日本社会、どうなのか。
 “悲惨”さと無縁である“平和(という事になっている)”な社会。
 でも「“悲惨”さと無縁である事、無縁であらねばならぬとする事」がより大きな(メタレベルでの)“不幸”を生み出している、という事はないだろうか。
 「不幸」を完全に消滅させようとすると“幸福”も存在できなくなるんじゃないだろうか(「不幸でない」という事は、“幸福”という事ではないという事)。
 さらに言えば、「不幸」であっても“幸福”という事はあるのではないか。
(この辺になると意味がわかんないでしょ(^^:ゞ)とりあえず謝っとくか)

 m(_ _)m
明けの彗星





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最終更新日  2007年01月12日 06時44分02秒
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