石坂千穂つれづれ日記

石坂千穂つれづれ日記

田中知事の不信任に反対の討論



  「田中知事不信任案」に反対の討論

 今回提案の知事不信任案に反対の討論を行ないます。
 まず申し上げなければならないことは、知事は、県議会が選んだのではなく、県民が直接選挙で選んだのです。その知事が、公共事業見直しの自らの公約を守り、実行しているさなかに、あくまでダム建設に固執し、任期半ばで不信任にすると言うこと自体が広範な県民への挑戦であり、まれに見る暴挙です。全国的にも、汚職や犯罪以外で知事を不信任にしたところは無く、かつての岐阜県知事が、知事室で1億円もの賄賂を受け取ったために書類送検され、不信任にいたった事例は論外として、公約を実行しているのがいけないと、長野県議会が数の力で知事不信任を押しとおすことは、都道府県レベルでは、まさに全国初の暴挙となります。連日わが日本共産党県議団に寄せられる膨大なメールや電話、はがきには、「こんなことで知事不信任とは、長野県の恥だ。」「長野県人として情けない。県議会の皆さんに猛省を促したい。」と言う声が満ち満ちています。

 開会に先だつ去る6月7日、約1年間の議論と検討を経た長野県治水・利水ダム等検討委員会が、浅川および砥川にたいするダムによらない治水・利水の「答申」を出したばかりであり、この「答申」を受けて、開会日の提案説明で、知事は、「答申を尊重し、その趣旨をふまえ、浅川および砥川の治水・利水対策を実施してまいりたい、そしてひとつひとつの課題に関して、解決への見通しを把握し、長野県公共事業評価監視委員会にもおはかりしたうえで、最終的な判断を行ない、確実な治水・利水対策を実施してまいりたい。」と述べた上で、「答申」後に始まった浅川・砥川に関する現段階での関係部局との協議のうえでの「枠組み」を示しました。
 議員提案の条例によって設置された長野県治水・利水ダム等検討委員会は、宮地良彦元信州大学学長を責任者として、市町村長や公募の賛否両論の住民参加による部会の設置や、県議会各派の議員も専門家や市町村議会、町村長の代表とともに参加すると言うかつてない多様な構成で精力的な議論と検討が重ねられてきました。すべてが公開で、傍聴者にも資料配布が行なわれ、県民の関心もかつてなく高まり、この全過程こそが、まさに新しい長野県の民主主義のプロセスと言えるものです。
 だからこそ、県民の多くは、検討委員会の「答申」を妥当と判断しており、ダムに寄らない河川改修を求めています。
「住民の命と安全を無視している」などの論議は全くあたりません

 これらの経過から、知事不信任の理由としてこの議会で大合唱となった、「ダムの中止を表明したのに代替案が具体的でなく、無責任だ。」と言う主張は、まさに、言いがかりとしか思えません。本会議での私の質問に対する土木部長の答弁でも明らかなように、すでに全国で70をこえるダム建設の計画が中止になっていますが、ダム中止決定時には、全国どこでも詳細な代替案は無く中止後に具体的な検討に入るのは、どこでも同じ手順です。
 この6月県議会の初日に2つのダムの中止を表明した岡山県では、国直轄の柳井原堰については、これから国と協議していくと言うだけで具体的な代替案は無く、県が造る大井原川ダムについては、県議会終了後から具体的な検討に入ると県議会に説明されています。
 昨年12月に中止を決めた山梨県の笹子ダムは、付け替え道路まで建設し、利水計画が下方修正されて中止になりましたが、建設目的の9割は砂防目的ですが、代替案は河川改修をするというだけでいまだ具体的でなく、事業費の試算も当然ありません。
 中止から2年たつ宮城県新月ダムは、治水利水検討委員会の答申は基本高水を1000m3/sから870m3/sに引き下げると言う結論だったが、県としての基本高水の結論はまだ出ておらず、現在河川整備計画基本方針を策定中であり、利水についてはまだ対応策が見つかっておらず、今後の見極めに時間がかかっているとのことです。
 どこでも実情に合わせて、必要な時間をかけてのダムに変わる代替案、具体策が検討されているのですから、長野県の現時点での「枠組み」が無責任呼ばわりされる筋合いは無く、これが不信任と言うならば、他県のダムを中止したところの知事は、みんな不信任になってしまいます。

 先ほどの土木住宅委員長の報告中、委員会として国土交通省の見解の確認に出かけたことの報告がされましたが、国土交通省の見解は基本的には「河川整備基本計画が策定されたら検討する。」と言うものであり、策定作業がこれからと言うときに、はじめから、「認可はとれないのではないか。」「補助金が出ないのではないか。」と言う予想の話には答えられない、すべては、河川整備基本計画を見てから、というスタンスです。当然のことです。また、あたかも多額の国への補助金返還の義務が生じるのではないか、業者への契約解除に伴う賠償金が13億円にも及ぶのではないか、などという議論も、藤沢議員への答弁や委員会審議の中で、全国でダム中止になったところで補助金を返還したところはひとつも無いことや、13億円に何の根拠もないことも明らかになりました。もちろん、提案説明や望月議員の討論にあったダムをやめれば河川改修に1000億円かかる、という独自試算にも、何の根拠もない、ためにする積み上げの試算であることを残念ながら指摘させていただきます。


 「脱ダム宣言」後の県民世論は、ご承知のように、どの時期に、どのマスコミが世論調査を行なっても、県民の多数は「ダムはいらない。」「ダムなし支持」が多数を占めています。流域住民は「ダムはいらない。」と言っているのに、県議会多数派と市町村長らが、検討委員会の「答申」後も、知事の中止決定後も、あくまで「ダム建設促進」の立場を取り続けるのは、いかにも異常な事態です。住民の声や思いにこたえることこそ、議員の本来の役割ではないでしょうか。
 こうした事実が明らかであるにもかかわらず、あくまでダムに固執し、今ならまだダム建設に間に合うということで、知事を辞めさせようというのは、あまりに道理がないと言わざるを得ません。

今県議会の開会日に、日本共産党県議団は、各会派の皆さんに、道理の無い知事不信任に私達は反対であり、長野県治水・利水ダム等検討委員会の「答申」が出されたばかりのダム問題の議論だけにとどまらず、不況の中での景気対策を中心に今県議会に提案されている約8億円余の補正予算の審議をはじめ、さまざまな切実な県民要望実現のための建設的で活発な議論を交わすことをこの議会の最大の任務にするように呼びかける申し入れを行いました。
 しかし、残念ながら、今県議会を巡る事態は、私達の申し入れとも、多くの県民の思いとも逆行する展開となってしまいました。まず先に「不信任ありき」――不信任案をいつ出すのか、不信任案を出せるかどうか、そんな県民不在の駆け引きが、マスコミまでも動員して大掛かりに行なわれ、不信任案の理由作りに明け暮れる不毛の議論の日々が続く結果となったことは、県政にとっても、県民にとっても大きな不幸です。
 不信任案をちらつかせてのこの議会は、残念ながら、県民にはおよそ理解の得られない、無理難題を突きつけてのあいつぐ審議中断など、県政史上に大きな汚点を残す異常な議会運営がまかり通ってきました。
 「枠組み」にそって、多くの課題を解決しながらの本格的な検討が、まさにこれから始まろうと言うその時に、「概算でも試算が示されなければ審議できない。」「答弁が食い違っていると思われるので議事録を精査してほしい。」「知事の意見が変わらなければ議論できない。」等とさまざまな理由をつけての審議中断が、要求した議員の言いなりにあいつぎました。
 そればかりか、ダム問題に関する知事の答弁の最中に、節度を超えた野次、怒号をこそ、本来制止するべき議長が、こともあろうに知事の答弁を制止し、知事がわずか1分45秒答弁したところで、答弁を一方的に中断させようと「暫時休憩」を宣告して、マイクの電源まで切ってしまいました。答弁を続ける知事を無視して、日本共産党県議団以外のすべての議員がこの運営に抗議もせずに退席してしまいました。全国まれに見る、議会制民主主義の否定、前代未聞の暴挙ではないでしょうか。
 休憩時間の後、知事が謝罪をする意向と議長から告げられたとき、私は議長に、「答弁を途中で中断してしまった議長こそ横暴。ことの真相がわかれば、県民の批判はむしろ議長に向きますよ」と指摘しました。

 提案説明では、不信任の理由はダムだけではない、とされましたが、私の所属する土木住宅委員会で、ダム問題以外の質問をしたのは、私だけでした。ダム問題ありき、不信任ありきの議論ではないとどうして言えるのでしょうか。
 ダム建設にとりわけご熱心な議員のみなさんが、多くの障害のある子どもたちが、そして関係者が長年開校を心待ちにしている長野県初の知的障害児、肢体不自由児の併設モデル校、稲荷山養護学校の改築を事実上お金がかかりすぎると、いけないことのように主張する、まったく本末転倒です。節約に努めた設計にもいいがかりをつけ、4基のエレベーターを2基にしたらどうか、などの発言は人権問題でもあり、障害児教育の何たるかも理解しない悲しい発言です。ダムよりも河川改修が、大型事業より養護学校の建設が、地元建設業者の仕事と雇用を増やすことも明らかです。

 本日提案されました「田中康夫知事不信任決議(案)」では、「一部の意見のみを重んじ、独善的で」「県政の停滞と混乱を招き」等としています。本当にそうでしょうか。
 今月の15日と16日、浅川と砥川の両岸100mの流域住民を上流から下流まで軒並訪問した地元SBCの世論調査では、今までの河川行政に住民の意見は「反映されていなかった。」は、実に55.8%にのぼり、「反映されていた。」はわずか12.2%となっています。
 これからの河川行政のあり方をさぐる、治水・利水検討委員会の1年余の議論と、多くの人たちの協力を得て、長い間眠っていた県民の自治の意識が、田中県政の誕生と環境の世紀にふさわしい「脱ダム宣言」によって、行政まかせでは無い県民自らの問題としてとらえられ、発展し始めている、新しい息吹が感じられます。
 始まった県民参加の新しい流れに対して、あくまでも住民に否定されたダム建設を押し付けて、流れを後戻りさせようとする動きを、私達は決して許すわけには行きません。

 野次と怒号、議長の制止とマイク切断と言う異常事態の中、知事は、「脱物質主義の時代に生きる私達は今、できうる限りコンクリートによるダムを造らないという大きな転換点に立っています。『脱ダム宣言』において示した私達が歩むべき道を後戻りさせることはできないのであります。」と決意を述べています。

 変わり始めた県政の新しい流れを歓迎し、この流れをさらに大きく発展させていく私たちの決意を込めて、矛盾に満ちた、理不尽な不信任決議案に反対の討論とさせていただきます。








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