ストレンジャー(放浪者)

桜の贈り物



ドン!
と衝撃が体にはしった。

僕は勢いで尻餅を付いて、正面を見ると女性が同じように尻餅を付いていた。

どうやら女性のほうも上を見ながら歩いて、僕とぶつかってしまったようだ。

僕はすかさず架けていたメガネをはずして、ポケットにねじ込んだ。

ベルク(どうもすみません、大丈夫ですかお怪我は在りませんか?)
女性(えぇ大丈夫です、平気です)と、顔を上げた女性の顔を見ると、美しい。
メガネをはずしていても確認できるほど、美しい・・・
僕は心の中で舌なめずりをした。

ベルク(ああよかった、どうもすみません)と、立ち上がって頭を下げた、と、次の瞬間(あれ!)と、叫んでうずくまる。
女性は驚いて(どうしました、怪我しましたか!)
ベルク(いや怪我は平気なんですが、コンタクトが取れちゃったみたいなんです)と、歩道にしゃがみ込んで地面を手探りした。
女性(マァ、大変だわ!)と、一緒に探してくれた。

しばらく一緒に探したが、コンタクトは見つかるはずもない。

ベルク(もういいですよ、これだけ探して見つからないんですから諦めましょう。でも困ったなコンタクトが無いと何も見えないんです、申し訳在りませんが駅まで送って頂けませんか)と、尋ねた。
女性(ええ、いいですよ)と、笑顔を返してくれた。

僕はポケットにねじ込んだメガネを、右手で抑えて顔に出さずに笑った。

麻布駅まで並んで歩いた、僕はフラフラと歩いて時々片手を、前に出して障害物が無いか確認しながら(ご面倒をお掛けします、時間は大丈夫ですか?)
女性(大丈夫ですよ、ひとりで暇してましたから。あなたはどちらかに行く予定だったんでわ?)
ベルク(ははは!僕もひとりで暇でしたから、ヒルズの展望台に登って桜を見ようと思ってました。でもきょはもう無理ですね)と、訝しげに空を見上げた。

駅に向かう道すがら、余りにもフラフラと歩いているもんだから女性は、僕の手を取って歩いてくれた。
握ってくれた手に力を入れて握り返すと、その手は拒んではいなかった。

ベルク(展望台には登れませんでしたがお茶ならできますよ、だってコーヒーは目で飲むものじゃないですから、口なら元気に動きますから)
女性はコロコロ笑って(そうですね折角来たんですものね、このまま帰るのもシャクだわ)と、言って2人は来た道を手をつないで戻り歩き出した・・・

等と妄想して上を見て歩いていたら。

ドン!
と衝撃が体にはしった。



僕はメガネを外して、シメシメと尻餅を付きながらヘラヘラしながら(大丈夫ですかぁ~)と、相手を見たら五分咲きの桜の木だった・・・



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