ストレンジャー(放浪者)

不幸のズンドコ!



季節は4月で桜が満開か散り際の頃だった思う。
どこへ行くにも金がなくて、車にガソリンを入れたらメシが食えなくなる、そんな野朗ふたりで6畳一間のアパートで、くすぶっていた。

友人がテレビにも飽きて余りにも暇で、なにをトチ狂ったか(ベルク競馬でも行くか?)と、ホザイタ。
折りしもNHK杯の日でもあった。

僕(でもよ、金使ったらメシはどうすんだい)
友人(だからそいつを稼ぐに行くのよ)
まさに的を得た考えだった、何もせずにくすぶってラーメンで甘んじるか、それとも勝負に出てニラレバ定食になるか、あわよくばビールのオマケまで付くかもしれない。

二人は車に飛び乗って府中競馬場に行った。
勿論金が無いから駐車場には入れられない、僕が車で待っていて友人が買ってくる。
アパートに戻って発走まではまだ時間が在るので、テレビをつけて歌番組を見ていたら「ピンクレディー」が歌っていた。
僕と友人とで、ミィーちゃんのほうが可愛い、いいやケイちゃんだナンゾと話していたら玄関をノックする音がした。
僕は立ち上がって玄関のドアを開けると「お休み中スミマセン、○○新聞ですサービスしますからとってくださいよ)と、
僕は(いらねぇーよ!新聞には用はねぇんだ!)
そこは百選練磨の勧誘員(そういわずに、ビール券も特別に付けちゃいますから)と、しつこい。
余りのしつこさに見かねた友人「友人は身長1メーター82センチ体重80キロの巨漢で、身体が巨漢なら顔も厳つい巨漢だ」が、(アニキ、どうしやした?)と、鴨居をくぐりながら出てきた。
しかもご丁寧にサングラスまで掛けてきた。
流石の勧誘員は1~2歩後退りした。
友人は(アニキ、何か面倒な事でも?ナンならアッシがナシをつけやしょうか)と、凄む。
顔面蒼白の勧誘員は(アッすみません忙しい所を、此れ使ってください。)と、ビール券3枚を置いて逃げるようにして帰っていった。
僕らは玄関先で笑い転げて、ビール券を持って小躍りした。

友人が(オイ、ベルクそろそろ発走の時間じゃないのか?)と、
僕は何故かその時某国営放送にチャンネルを合わした。
友人が(なんでNHKで見るんだい?)
僕(だってNHK杯じゃねぇか!)
友人が不思議な顔で納得した。

いよいよ発走だ。
すると再び玄関のノックする音。
僕らはそれどころでは無い、テレビを食い入るように見ている。
「ドンドン」物凄い勢いで玄関を叩く音。
僕は友人に(さっきの新聞屋が仲間を連れて、仕返しに来たんじゃないか)
友人(まさか、ベルク出てみろよ)
この友人は身体と顔は巨漢だが気が小さい。
仲間内ではホトケのアンドレと呼ばれてる「注、アンドレ・ザ・ジィアントの意」

僕が恐る恐る玄関を開けると「NHKの集金でーす」と、ジジイが笑顔で言いやがりやがった。
僕(NHKなんか見てねぇーよ!)と、しかし友人はシッカリとカブリ付きで(イケ!そこだ!マクレ!)の大騒ぎ。
ジジイ(やはりNHK杯はNHKで見ないとイケマセンよね)と、言って(カッカッカ)と、高笑いしやがり
僕はグゥーの音も出ずにいた。

挙句には競馬も僕らの予想とは裏腹の、1着3着でハズレた。

この時ばかりは、観光バスに乗った貧乏神やらナンやらが大挙して押し寄せてきて、挙句の果てに厚化粧のババアのバスガイドが旗を持って(ハ~イ、アチラに見える方たちが今日の不幸者ですよ~)と、案内しにやって来たようなものだった。

僕はハズレ馬券とビール券を握り締めている、失意呆然の友人からビール券だけを奪い取り、隣に住む会社員に事情を話して金に換金してもらい、受信料を払ったのだった。


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