いつか見た青い空

いつか見た青い空

判って欲しい事、美帆の部屋での会話



「直樹さんは美帆の家にいるの」

「うん、もう先に着いてると思う。鍵は渡してあるから。」

少しだけ小さな声で江美は美帆に話しかけた。

「どこまで、判ってしまうんだろう。怖いなぁ」

「大丈夫だよ。直樹は必要な事だけ、言うんだって。そうしないと、自分も大変になるって言ってた。」

「緊張する・・・私、初めてこういう事、体験するから・・・」

「大丈夫だって、全く知らない人ならともかく、逢った事ある人だし、私の彼氏だし。」

しばらくして、美帆のアパートに着いた。二階建てのごく普通のアパートである。直樹の車がアパート前に止めてある。

二人は少し、足早に二階に上がっていった。

「ただいま、江美、連れてきたよ。」

「久しぶりです。直樹さん、よろしくお願いします。」

直樹は、予想していた以上に緊張している江美に話しかけようとしたが・・・明らかに 心ここに在らず と言った感じがしたので、部屋に上がってもらった。

「今、紅茶入れるから、座って。」

美帆がキッチンで湯をわかしている。

「いいよ、別に気を使わないで。クッキーもほしくなるから」

江美は少し笑いながら答えた。

「緊張していると、余計な事も話しちゃうかもよ。リラックスしてね」

二人の会話を聞きながら、直樹はすでに霊視を始めていた。別に霊的な因縁はないようだ。

「江美さん、大体の事は美帆から聞いているんだけど、やはり、霊的な事は関係してないよ。それと、最初に言っておきたいことがあるんだ。」

この言葉には美帆も息を呑んだ。

「まず、最初に言っておくけど、俺は見る力、気を感じる力は強いけど、霊の話を聴く力、霊聴能力は、そんなに強くない。あと、色々と判っても必要な事だけ話をする。関係ない事は言わないから安心してほしい。それと俺の力では、どうにもならない、俺の人生や、命、家族に被害が出る、と思ったら、断るから。」

二人はしばらく話し出せなかった。江美がそんな沈黙を破った。

「直樹さんの力って霊能者並だって美帆から聴いているんですけど手におえない事もあるんですか。」

「たくさんあるよ。俺は完璧じゃないからね。高校の時も、好きだって言ってくれた女の子いたんだけどね、可愛そうな事をしてしまったんだ。その子から霊感が強いみたいだから見てほしいって頼まれてね・・・体の一部に在ってはいけない組織が在るからみてほしいと言われて霊視したんだ・・・霊視して出てきた結果は当時の俺の能力では到底、手におえるものではなかったんだ。」

「私、初めて聴いたんだけど、別に怒ってないけどね、別に!で、結果は何だったの?」

「後ろの人達が教えてくれたんだけど・・・その結果と言うのは・・・平家の怨霊、だったんだ」

二人は絶句していた。

「平家っていえば、1000年くらい前の話でしょう。怨念ってそんなに長い間,続くものなの」

「生きている人達にとっては1000年という年月は長いけど,死んで、怒り,怨念といった感情に縛られてしまった魂にとって、時間は存在しないんだ。死んだ時のままなんだよ。悪い事をしたとは思うが、その子とはその後、連絡を取っていない。その子も言っていたけど、以前、拝み屋に見てもらってたんだって・・・結果はやはり同じで、その時は、追い出されたらしい。だから、俺に頼んだ時も,どうにもならないだろう,という覚悟はできていたみたいだ。」

「本当に凄いですね。直樹さんって」

江美のこの言葉に直樹はすぐに反応した。

「勘違いしてもらっては困るな、霊能力が使える人間が偉い、とか、凄い、なんてことはないんだ。偉い、とか凄い、とか評価をされるなら、力、そのものが偉くて、凄いんだと思う。例えるなら、ダムにとても綺麗で、美味しい水があったとする。その水を飲みたいと思ったら、まず、蛇口から水を出そうとするよね。もし、そのダムから流れてくる水道管が破れていたり、錆びていたりしたら、水量が減ったり、錆びで濁ったりするよね。それと同じ事なんだ、霊能者と呼ばれる人たちは水道管みたいな存在なんだ。力を使える人の心が汚れていたり、力の使い方を間違ったりしたら、それは、前にブームになった事と同じ結果になってしまうんだ。」

「前と同じって、スプーン曲げの事?」

美帆も初めて聴く話なので興味津々である。

「ちょっと前に リング という映画があったよね。あれは実際に起こりうる話なんだよ。」

「えー、それじゃ、貞子みたいな人が存在しているかもしれないんだ!」

「と、いうより、霊感が強い人、だけではなく、普通の人達でも充分にあり得ることなんだ。本当に怖いのは、霊ではなくて、生きている人間の、恨み、妬み、怒り・・・という感情なんだ・・・」

「正直言って、判ったようで、判らないようで・・・何だか不思議って感じです」

江美の言葉に美帆もうなずいていた。

少し関係のある話をして、いよいよ霊視結果の説明を始めた。

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