いつか見た青い空

いつか見た青い空

発動、神気降臨、悲しみは海の彼方へ



できるのだが、今回は、七人刀の霊気が強すぎる為に、洋子の頭上に現れた錆びた刀の動きを

一時的に止めるのが精一杯だった。

「洋子、光ちゃん、」

そう叫びながら、美帆が二人の上に覆い被さった。すると、紀子が起き上がり

台所から塩が入った容器を持って来て塩を両手に握った。

「おばあちゃん、二人を助けて。こうすればいいのよね。一番始めは 一ノ宮
二は 日光の東照宮、三は 佐倉の惣五郎、 四(し)は 信濃の善光寺、五(いつつ)は 出雲の大社(おおやしろ)、六(むっつ) 村村 鎮守様、七(ななつ)は 成田の不動様、八(やっつ)八幡の 八幡宮、九(ここのつ)高野の 弘法様、十(とお)で 東京招魂社、悪鬼退散!」

そう叫びながら両手の平で数え歌を歌いながら何度も握り締めていた塩を二人に向かって投げつけた。

すると、一時的ではあるが、七人刀の強い霊気から開放された。直樹が精神統一を始めて

直樹が持つ最高の能力を発動させる為に一子相伝の祝詞を唱えはじめた。

「よし、今しかない。我を守護する金山彦之命様に御願い奉る。遠く西方の聖地、神聖な伊吹山の神気に守護されし南宮大社よ、今こそ、我が、意識に共鳴せよ。この場所、この者達を守護する為に、その神気をここに寄せませ。神気降臨!」

そして、直樹は岐阜県不破郡垂井町にある南宮大社に意識を飛ばした。

「させまいぞ、させまいぞ。我が恨み、はらそうぞ、殺す、殺す、殺す。」

再び、洋子達の頭上に錆びた刀と共に血だらけの装束を着た女性の霊が現れた。

その顔は、両目は大きく見開き、鼻から口にかけては腐って落ちている。

紀子が再び、塩を握ろうとすると、どんぶり茶碗が飛んできて紀子の両手首に激しくぶつかった。

手首の骨が折れた音がした。紀子が倒れながらもその霊に訴えかけた。

「どうしてこんな事をするの。光には関係ないでしょう。もう貴方を殺した一族はとっくの昔に滅びて存在しないの。あなたも女性でしょう。子供が可愛いと思うでしょう。だったら、こんな事、しなさんな。」

「悔しい。苦しい。冷たい。寒い。痛い。私は悪くない。一生懸命、言われた通りにした。逆子だったのは主が妻を蹴り上げたからなのに・・・へその緒が首に絡まったのは偶然なのに・・・私は刺された。斬られた・・・あんたになんかわからない。刺されて斬られた痛さ、子供さえいなければ・・・私は・・・私は・・・」

しばらく、黙り込んだ女性の霊は再び、目を見開き、刀を振り上げた。

「口うるさい女め。おまえから殺してやる。おっ、なっ、何だ、この気は・・・体が動かない・・苦しい、畜生・・・誰だ・・・苦しい・・・」

直樹が目を開いて女性の霊に話しかけた。

「おまえも私と同じ能力者なら判るはずだ。この霊気が何なのか。私を守護する南宮大社の神聖なる霊気、この神気の前におまえの怒りに満ちた霊気は全てが無に帰った。もはや、おまえには自由に訴える事すらできないはずだ。金山神の御威光の前にひれ伏すがいい。」

直樹は再び拍手を打った。その響きは神聖な森林を響き渡っているかのように気持ちいいものだった。

七人刀は苦しみはじめた。

「神よ、なぜ・・・なぜ・・・私を守護してくれなかった・・・。毎日、祝詞を捧げ、祭ってきた。殺されてから、長く苦しんだ。長く、長く、封印されたままだった・・・」

すると、直樹の表情が変わった。守護霊が直樹の体に入った。

「我は直樹の守護霊、藤原不比等の末裔なりて名を藤原新五朗公清と言う者なり、沖津家守護神、金山様の命令により、汝の魂、迎えに来た。神に仕えし汝が何という悪行の数々、これ以上の悪事を神は決して許すまじ、今、長く続いた因果より神の御威光を持って開放し、霊界へ連れて行く。神の裁きを受けるがいい」

直樹が合掌していた手を180度開くと、そこに神気を集め、

直径20センチくらいの光の玉を作り出した。

「神気降臨」

直樹がそう叫ぶと、その光の玉は強い光を放出し、弾けとんだ。

あまりの眩しさにこの部屋にいた人は誰も眼を開けている事ができなかった。

この家を包んでいた女性の霊、七人刀の霊気は消し飛んでいた。神気降臨により、

澄んだ綺麗な空間がこの家を包んでいた。

「一体、何が起きたの・・・直樹、もう全てが終わったの・・・」

直樹が洋子と光に覆い被さっていた美帆に近づいて抱きしめた。

「ああ、終わった。全てが終わったよ。」

洋子が紀子の異変に気づいた。紀子は気を失って倒れていた。光も恐怖のあまり,失神していた。

光は洋子に体を激しく揺らされて気がついたが紀子は気を失ったままだった。

すぐに救急車を呼んで渥美病院に搬送された。家に残った直樹と美帆、光は家を片付けていた。

「ねえ、お姉ちゃん、おばあちゃんと、お母さんは救急車でどこの病院に行ったの。」

「二人はねえ、渥美病院に行ったの。さっき、お母さんから連絡があってね、もうすぐ、帰ってくるって言ってたよ。いい子にしてないと、ケーキなしだってさ」

「えー。光もお片付け手伝う。靴、並べてくるね。」

光は玄関に走っていった。3時間ほどして紀子と洋子が帰ってきた。

「ただいま~紀子姫と洋子姫が帰ってきました。」

「居間でテレビを見ていた光が玄関まで走っていった。

「おかえりなさい。ケーキはどこ。」

洋子は買ってきたケーキを後ろに隠した。

「光、ちゃんとお片付けしてた?直樹さんと美帆のお手伝いした。」

「したよ。光が玄関の靴、並べたんだよ。本当だよ」

「よ~し。みんなでケーキ食べようか!」

洋子が買ってきたケーキを光に渡すと、一目散に居間まで走っていった。

「おかえりなさい。」

美帆と直樹が玄関まで出迎えた。

「おばさん、今回は大変でしたね。入院にならなかっただけでも幸いでしたね。」

「直樹さん、今回はご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございました。これで孫の光の体に傷ができなくなると思います。」

横にいた洋子も頭を下げていた。

「気にしないでください。私の宿命なのです。約束通り、今夜は泊めて頂きたいのですが、よろしいでしょうか。」

「当然です。手料理は作れませんが、泊まって行って下さい。」

「料理なら大丈夫よ。私達二人がご馳走を作るわ。ね~洋子」

美帆がやる気満々だった。が、結局、出前を頼んだ。しばらくして、出前が来た。

美帆だけ、テレビを見ていた。洋子が話しかけた。

「美帆、早く食べないと、うな丼、冷めちゃうわよ。」

美帆は手料理をまずいから作らせてもらえなかったと思って、すねている。

しかし、え~っ と言ってしまったのは直樹である。

「直樹さん、そんなに美帆の手料理ってまずいの?」

洋子が小声で聞いた。

「まずいというより・・・あまり美味しくない、の方が正しいかな?」

「私に任せて」

紀子が二人に言ったかと思うと、こんな事を言った。

「あ~洋子、美帆ちゃんのうな丼、食べちゃだめよ。」

すると、美帆が振り向いた。

「食べればいいじゃん。どうせ、私の手料理はまずいですよ~だ」

紀子と洋子は吹き出した。そして、直樹も笑い出した。

光が美帆に後ろから抱きついた。

「お姉ちゃん、ご飯食べないと、大きくなれないよ。光と一緒に食べよう」

「美帆ちゃん、いい加減になさい。食べなさい」

「光ちゃんが言うなら食べようかな~」

光の横で冷めたうな丼を食べ始めた。

「まだまだ、美帆って子供みたいね、直樹さん」

直樹に話しかけた洋子を美帆がジロッと見た。

「直樹に何か用なの、洋子!」

「なんでもありましぇ~ん」

美帆と光以外はみんな笑っている。順番にお風呂に入り、直樹と美帆は二階の部屋で休む事にした。

「ねえ、直樹、七人刀の女性って、可愛そうよね。悪い事なんかしてないのに切り殺されて、海に投げ落とされたなんて・・・私もそんな事されたら怨霊になってしまうかもね。子供さえ殺さなかったら、普通に村人達に供養されていたら・・・よかったのにね。」

「神や仏に仕えると決めた以上は、普通の人より生活が難しくなる。人を悩み、苦しみから開放して、幸せに導くのが定めとなる。自分の全てを犠牲にしろ、とまでは言わないが、ある程度は犠牲になってしまうんだ。殺された彼女は確かに可愛そうだが、だからと言って、殺人は間違いなんだ。強い能力を持つ人間は、あまり怒りという感情を持ってはいけないんだ。」

少し考えた後、美帆が尋ねた。

「殺人がいけない事はわかるけど、その考え方って正しいの?私にはわからない」

直樹は窓から見える星空を見ていた。直樹は学生の頃、能力を人に作用させてしまった事がある。

悲しい結果になった。この事を美帆は知らない。そんな直樹に美帆は抱きついた。

「ごめんね。そう言う事、聞いちゃいけない約束だったよね。直樹、キスして。」

しばらくして、二人は深い眠りについた。

翌朝、二人が一階に下りていくと、朝食の用意ができていた。

「光ちゃん、おはよう。いい天気だね。おばさん、洋子、おはよう」

みんなで朝食を食べている時に美帆が話しかけた。

「直樹、あの女性が投げ落とされた崖に行きたいんだけど、いいかな。お花を用意してお線香も焚いてあげたいんだけど・・・」

「いいよ。俺も着いて行こう。みんなで行きませんか。」

「光もですか?」

洋子が直樹に尋ねた。

「そうですね。彼女は光ちゃんを殺す気はなかったので大丈夫です。」

美帆が光に質問をした。

「光ちゃん、言葉が見えるって言ってたよね。何だっけ?」

光がパンを食べながら答えた。

「確か、とがなくしす、って言ってたよ。」

「直樹、言葉が見えるなんて事もあるの?」

「見えたというより、感じたんだと思う。子供だから表現が曖昧なんだよ。とがなくしす、を漢字になおすと、罪がなく死す なんだ。すなわち、無実なのに罪を被せられて殺された、という意味なんだよ。そのメッセージを光ちゃんは気づいてくれたから彼女は光ちゃんを殺さなかったんだと思う。」

「私も連れていってください。同じ女性として心から供養してあげたいの」

紀子は直樹に言った。

「もちろんです。おばさんの説得があったから彼女の心の中に隙ができて、私の能力も発動させる事ができたのです。私の様に戦う事より話し合う事を選んだ母親の愛に脱帽です。」

紀子が少し微笑んだ。

「私は彼女が可愛そうだと思ってしまったのです。あんな出来事さえなかったら、いずれは結婚して、子供もできたはず・・・なんて考えてしまったんです。きっと、こんな感情が母性愛って言うんですね。少し休憩したらみんなで行きましょう。」

「何処に行くの。いつも泣いてたあのお姉ちゃんのところ?」

「そうだよ。光は、ず~と見えてたんだね。泣いていたお姉ちゃんは何か言ってた?」

洋子の質問にパンを食べながら答えた。

「お姉ちゃんの事、見えるの?って聞いてきたから、見えるよ!って言ったら、光の手を握って、今度、会えたら、お姉ちゃんと遊ぼうねって言ったから、いいよ、遊ぼうって言ったの。優しそうな人だったよ。泣きながらどっか行っちゃたけど・・・」

「そうか。光ちゃんは優しい子だね。」

美帆の言葉に光はニコッと微笑んだ。

一時間ほど経って、みんなで、あの崖に花束とお線香を持って出かけた。

崖に着いてから、まず、お線香を焚いた。そして、用意した花束を崖の上から

海に向かって投げた。そして、全員で合掌した。

「これで、彼女も成仏できるね。きっと、悲しみも海が綺麗に浄化してくれるね」

美帆の言葉にみんなが無言でうなずいた。光が洋子の洋服をひっぱってこんな事を言った。

「ねえ、ママ、神様の数え歌、歌ってあげていい?」

光を抱きしめ、微笑みながら洋子は答えた。

「いいよ。ママも一緒に歌ってあげていい?」

「いいよ。ママと歌うね。一番始めは 一ノ宮、二は 日光の東照宮、三は 佐倉の惣五郎、 四(し)は 信濃の善光寺、五(いつつ)は 出雲の大社(おおやしろ)、六(むっつ) 村村 鎮守様、七(ななつ)は 成田の不動様、八(やっつ)八幡の 八幡宮、九(ここのつ)高野の 弘法様、十(とお)で 東京招魂社・・・」

その後、恋路ヶ浜の食堂で食事をした後、近くにある海水浴場で遊んで赤羽根町の家に帰った。

少し休憩をして、直樹と美帆は帰ることにした。

「それじゃ、おばさん、帰るね。直樹、明日、仕事だし、洋子、メールちょうだいね。光ちゃん、また、遊ぼうね。」

「直樹さん、本当に色々とありがとうございました。約束通りに今回の現象は秘密にします。」

紀子が頭を下げているその横で洋子が話しかけた。

「また、何かあったら相談にのってください。美帆にメールを送りますので、よろしくお願いします。」

「判っています。光ちゃんも同じ能力を持っている人間がいれば心強いと思います。この家の事は、普通に生活していってください。」

「わかりました。その様にします。また、遊びに来てくださいね。」

庭に止めてある直樹の車までみんなで歩いていった。昨日とは問題にならないくらいに綺麗な空間に

なっていた。二人は車に乗り込んだ。

「じゃ、みんな行くね。また、遊びに来るね。」

美帆の言葉に光が車に駆け寄った。

「お姉ちゃん、また遊びに来てね。光と遊んでね。」

「うん、わかった。また、遊ぼうね。」

そして、赤羽根町の家を後にした。

「ねえ、直樹、今回は私が原因だったのかな?」

「それは違う。美帆の子供の頃の行動がきっかけになって、女性の霊が成仏できたんだよ。女性の霊が成仏する時が来たんだ。気にしなくていいよ。」

「そうか、そうなんだ。良かった。ねえ、直樹、今度、南宮大社に行こうよ。私にも神様が見えたりして。」

「また、みんなで行こうか。さっき、洋子さんにメルアド貰ったし。」

「ええっ、本当なの?」

笑いながら直樹は答えた。

「嘘だよ。嘘。本当に嘘だよ・・・・・・・・・・・・・・・・」

美帆が凄く細い眼で睨みつけている。するといきなり、ハンドルをつかんだ。

「うわぁ、何をするんだ。危ないじゃないか。」

「直樹、赤羽根町に戻ってよ。洋子を問い詰めてくる。」

「本当に嘘だって、信じてくれよ・・・」

「本当に本当?嘘じゃないよね・・・・」

「本当です。悪い冗談でした。ごめんなさい。」

「バック買ってよ。秋に出る新作、三越で売っているやつだけど・・・いいよね。ボーナス出たよね。服は冬でいいから、もし、買ってくれなかったら・・・岡村孝子のうたになるかも・・・さよなら~私が決めた答えだから・・・心の瞳を閉じた・・・」

「わかりました。買わせていただきます。お約束します。」

美帆の突き刺さるような視線を気にしながら豊橋の美帆のアパートに向かって走っていった。

一時間ほどで美帆のアパートに着いた。やはり、美帆のアパートの部屋の前にはおばあさんの霊が

立っていた。深く、頭を下げて消えていった。美帆は直樹の視線が気になった。

「どうしたの。また。おばあちゃんがいたの」

「いたよ。頭を下げて成仏していったよ。」

美帆は、おばあさんの霊がいた方向に手を合わせてこんな言葉を口にした。

「おばあちゃん、光ちゃんを助けてくれてありがとう。お願いがあります。直樹が浮気したら夢に出てきて教えて下さいね。」

直樹は金縛りに会ったかのように動く事ができなかった。そして、二人は部屋に入っていった。

「疲れた~、直樹、何か食べるよね!」

「はい、いただきます。即席ラーメンでいいよ。」

テレビを見ていた直樹は美帆の突き刺さる視線に気づいた。

「何でも食べます。」

「私の得意な料理は肉じゃがだけど!いいよね」

「お願いします」

「直樹、だ~いすき!」

美帆が肉じゃがを作りはじめた。間違いなく臭いだけで味が濃いと判る。

しばらくして直樹は眠ってしまった。

「直樹、できたよ。ん、あれ、寝ちゃったんだ。お疲れ様だったね。」

美帆は、ベットで寝てしまった直樹に抱きついた。

「直樹、大好きだよ。守ってくれてありがとう。」

いつのまにか、美帆も眠ってしまった。直樹が起きたのは夜の8時だった。

約4時間程、寝ていた事になる。

「美帆、起きろよ。もう遅いから今日は帰るね。」

「う~ん。眠たい。おやすみ・・・」

直樹はしっかりと戸締りをして、美帆の部屋を出た。

「まだ、暑いな、今日も熱帯夜かな?光ちゃんの事,心配だな。大きな心霊現象に巻き込まれそうな気がするけど。」

車のエンジンをかけて走りはじめた。直樹は自分の家に帰っていった。

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