番外編 直樹の遠い恋の記憶
金曜日の午後４時に中部国際空港を飛び立ち、
北海道の千歳空港に無事、着陸してすぐ、ホテル直行のバスに乗り込んだ。
夕方の６時を回っていたためか、北の台地は深い暗闇に包まれていた。
１時間ほど走っていただろうか。私はある事に気づいた。
札幌に向かうバスの中から見ていた夜景の中には民家らしい光は
ほとんど見えなかった。まるで異次元の世界を走っているかのようだった。
遠くに明かりが見えはじめた。札幌に近づいたようだ｡
札幌市内を走っていると、愛知県よりコンビニの外観が綺麗だ、
という事に気づいた。札幌のネオンに負けない位にセンスがいいのだ。
しばらく、ネオンの中を走り、宿泊する札幌プリンスホテルに着いた。
おそらく、札幌の中でも、かなりハイクラスのホテルだろう。
ルームカードキーをもらい、１７階の３０号室に向かった。
部屋の中も綺麗にまとまっている。そして、大きな窓から見える
夜景の美しさにしばらく、流れる時を忘れて、見入っていた。
また、フロント前に集合して、宴会場にバスで向かった。
約、２時間ほどで宴会は終わって、ほとんどの男性社員は、すすきのの
ネオンの中に消えていった。
私たち、同じ支社の３人は、ラーメンを食べに行く事になった。
タクシーに乗り込み、ネットで探しておいたラーメン屋に向かった。
目的のラーメン屋についてすぐにラーメンを食べる事ができた。
私は、みそラーメンを注文した。北の大地のラーメンは、愛知県の
ラーメンより間違いなく美味しかった。おそらく、水がいいのだろう。
味が深く、あっさりしていた。
その後、私たちは、すすきのを歩いていた。風俗に行くつもりがなかったのだ。
３０分ほど歩いただろうか。携帯が鳴った。
社長からの呼び出しだった。待ち合わせ場所に急いだのだが、
同じような場所が多く、同じ名前のカラオケが二軒あったため、
会う事ができたのは、呼び出されてから１時間後だった。
札幌に冷たい雨が降ってきた。私たちはタクシーでホテルに帰った。
すると、ロビーで全役員に遭遇した。今から２８階にあるラウンジで
飲むという。私たち８人全員も誘われた。
一度、それぞれの部屋に帰り、ラウンジに向かった。
その時、まばたきほどの恋が、レコードの様に流れはじめた。
私は役員と同じカウンターに座れなかったので、窓側の席に同じグループの
事務員と座る事になった。私は、カクテルを頼み、
隣りの彼女もカクテルを頼んだ。
二人は、最初はぎこちない会話に戸惑ったが、カクテルが二人の距離を
近づけてくれた。お互いの支社での出来事や、同じ時期に名古屋で暮らしていた事、
お互いの趣味の話、旅行での思い出、そして、いつのまにか、恋の話になった。
彼女が綺麗な風景を見たいといい始めた。
私から今度の日曜日に静岡県奥遠州にドライブに行こう、と誘った。
彼女は窓の外に見える夜景を見つめながらうなずいてくれた。
お互いの連絡先を交換して、ラウンジを後にした。この時の彼女は
どこか、ふっきれない暗い影があった。
二日目の朝、バイキングの朝食だった。私と彼女は同じ時間の朝食だったが、
挨拶を軽くしただけで会話はなく、離れて座った。
昨日の出来事は、夢だったかのようにとても静かに二人の時間は流れていった。
二泊三日の北海道旅行は、綺麗な空気と、彼女の気配が忘れられない、
思い出になった。
そして、二日後、私から連絡をした。彼女は明らかに落ち込んでいた。
私から、会いに行く事を告げると彼女は明日、時間を作ってくれるといった。
次の日、待ち合わせ場所に駅前を選んだ。駅前で待ち合わせをする事に
憧れがあった。しばらくして、彼女は来た。
食事を済ませ、夜景を見に行く事にした。夜景を見ながら、私は付き合ってほしい、
と、告白をした。彼女は、うなずいてくれた。が、
どこか、なにかを否定しているような気がした。
３日後、彼女に日曜日の確認をしようと携帯を手にすると
彼女からかかって来た。
私は日曜日の予定を告げて切ろうとした時に彼女が話があると言いはじめた。
彼女は、本当は好きな人がいるが、かなわない恋なので寂しかったと言う。
忘れる為に恋をしてみようと思った、と告白した。
だから、私と付き合う事はできない、と話し始めた。
それでも知り合って５日間、恋が出来た事、嬉しいと思った。
また何か、相談事があったら、お互いに連絡しよう、と話をした。
携帯を切った。
私の携帯の中の彼女の気配は全て消去した。
私の心の中の彼女への想い以外は・・・すべて消去した。
心の中が静かになった。今、レコード盤から針が離れた。そんな感じがした。
そして、半年後の合コンで直樹は最愛の人である岡村美帆に出会う事になる。
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