満員電車のつり皮にすがっていると、地上のよそ者になったような気がする、 時刻を進める、時刻を戻す――時刻表。 ※印刷が可能なPDF形式でご覧いただけます。 路線図や運賃、乗車券、定期券、お店、施設といった駅の情報 ・・・押され突かれ、もまれ、踏まれ、一体自分たちは誰だ、 前に見たときより、幾分か自分の少年時代に抱いた師走が、 よみがえる。好きだ、最後に陽がさした瞬間から膨れ上がった 闇の孕み腹。多産系。そして一体何だ、夕暮れのうつろな風、 雨粒が。顔色の悪い彼らの目鼻の形状配置を狂わせる、 それで動きが鈍くなり、巨大でぼんやりとした海光のキラメキを放って、 益々無数の火花を放って分裂する、魚、鳥、 その上をかすめて時々何かしら小さな羽虫が銀色の光を放って、 流星のように飛んで行く。I got on the train. そうだ、彼も乗っていた。何時間もの世間話や音楽のあとで、 おまえたちは赤くなっていて、表情が前に見た時より馬鹿らしく、 見えている。蜂を忘れ、その蜜を盗む者もいる。濁ったこの世に相等しい、 太陽は黒い。蛍光灯の通路は黴くさい。踏切で飛び出してくる、 人の意識の川は、溺れてもけして溢れなかった。I got on the train. 耳かきですくうような、ちっぽけな出来事でも、 難解なものの見方をせざるをえない絵でも、音楽でも、詩でも、 電車の中と同じ! とても混んでいれば、我々はだれ一人として座れない。 無事に残っているかも知れないものは、電車にはほとんど乗客がいないというだけ、 かつては席を見つけるのが簡単だった。夜我々はネコの眼になったものだ、 ロンドンの警察はいつも電車や地下鉄の爆弾を探し出すのに躍起となっている。 そうだ、どの電車も満員で、持ち物を手から放しても落ちない。 電車の中でチューインガムをかむなんてレディーにふさわしくない。 きまぐれに行ったり来たりする、思考。I got on the train. まったく、男か女か、わからないような感じで、今日はだみ声、 すばらしい鴉声を運んでいる。そしてレディーどころかジェントルマンは、 おフランス料理のあとに吉野家に入る。げすな食欲、ぶりぶりの排泄欲、 ありえない種類の天使を装う動物的本能の命令。イエッサーの合図で、 家にはカレー。みんなそうである。ダジャレを言いたいげすになりたい、 そんな暗い記憶の劇場で、展開する思考。I got on the train. 今日運んでいるものは何だろう、眠る前の静けさの中で、 スカートは膨らんだりすぼんだりを繰り返し、帽子は突風によって、 目の上高くに飛ばされる。その時、蜥蜴は尻っ尾を切る。 I got on the train.I got on the train. 問答した。入るか出るか自分次第だ。煙も早くなる、光りかがやく、 この問答を彼は捲っていく――I got on the train.