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詩小説:香鳴裕人さん ツイッター:香鳴裕人/am 創作スイーツ&フォト:鯨 勇魚。さん 「Shunrin 春鱗」 ※琥珀糖/シロップ漬けオレンジ/オランジェット画像 「Shunrin 春鱗」について 『陽気なこまどり』ひかりがおちていくひとひらの、ふりそそぐせかいをあなたはどんなふうにさえずる?ねえ、cheerful robinおしえてほしい|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||光が弾けて巡る世界にその身を溶かしていくひととせの移り変わりに過ぎない気温の高まりに触れるたびにあの日に何か忘れ物をしてきたのだというおぼろげな欠落感がにじむ何かを置き忘れたその日がいつのことなのかもわからない不変の真理のごとくに、世界は熱をひそめない曖昧な過去に転がっている僕の中にあったはずの何かはいったいどんなものであるというのだろうそもそも、それを僕は本当に手に入れていただろうか忘れたままに打ち捨てて季節に身を任せても何も失いはしないけれど||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 梅雨が終わろうというのに、暑熱に溶け込む心づもりがまるでないというのでは、いささか不作法が過ぎるだろう。自分の内側で完結するはずの写像はぼやけ、それが何であるか定義することさえ難しい。そのイメージがきみであることを願う僕をどこかで疎み、どこかで歓迎しながら、息をひとつ吐く。その間も世界は変革を続ける。こうも様変わりしてしまっては、銀杏の木を見上げていた日々からどれくらい遠くまで来たのか、その距離を数えるのも馬鹿らしくなる。流れゆく時の、どこに自分がいるのか、判然としなくなる。 せせらぎのように軽やかに、確実に、思い出すべき標石の数はこれからいくらでも増えるだろう。ひとつふたつ距離を数えてみても、どうにもなるまい。どのみち、仮に僕が夏から零れ落ちてしまったとしても、それが死を招いたりはしない。秋になれば、きっと僕はそ知らぬふりでレールに乗っているはずだ。 寝室への引き戸が遠慮がちに開けられ、寝間着姿のらゝが、お気に入りの羊のぬいぐるみを片手で抱きながら現れた。三十半ば過ぎの大人が、いつまでもぬいぐるみを大事にしているのは恥ずかしいようで、らゝはそのことを外で話さない。僕だけしか知らないとなれば、今こうして目の前にいるらゝへの愛しさも増す。僕の知らない頃を起点として、月日が過ぎるうちにぬいぐるみは三代目となったが、今までのいずれも羊であることは変わらない。それはらゝが、眠ることをいまだに怖れていることを意味する。 暗い寝室から蛍光灯の下へ出てきて、大げさにまばたきをしたらゝは、「仕事でもしてたの?」と、聞いた。「仕事というほどではないかな」と、僕は答える。らゝが寝ている深夜に仕事をしていることはままあるが、さっきまで僕がしていたことは、仕事とも言い切れなかった。「名前を探していたんだ」と、僕が付け足すと、「ああ、名前」と、らゝは納得してくれた。この2Kのアパートにらゝと住み始めてから数年が経つ。僕が、作品で使えそうな人名をストックしていることも知っている。 小さなあくびをひとつしてから、らゝは、「少し、起きてようかな」と、言った。「仕事は?」と、尋ねると、「明日は、いや、もう今日か。とにかく、ビルに清掃が入るからお休み」と、返ってきた。ついでのように、らゝは「夢を見たんだ」と呟いた。「姫路が出てきて、もう、怖がらなくていいよって言ってた」ぬいぐるみの名前は姫路と言う。 夢の持つ意味も、それを語るらゝの真意もはかりかねた。夢で見たことに賛するのも文句をつけるのも、野暮に思えてならなかった。ふと思い立って「二十年前、何をしてたか覚えてる?」と、別な話を切り出した。「二十年前って、高校生?」らゝは特に驚いたふうでもなかった。「らゝは、そうだろうね」と言うと、らゝは、「その言い方は、年齢差を意識させて私を苛むやつだ」と拗ねる。大げさな言い方をするらゝを愛でたくなる。「言い方も何も、事実、その時オレは小学生だからね」つい余計なことを言ってしまう。「こんなやつとは別れる、と言いたいところだけど、この歳で独り身になったら崖っぷちすぎるからさっさと責任取れ」諸々の事情が落ち着いた今となっては、責任を取る腹づもりはあるのだが、それはもっと雰囲気のある時に話したい。 二十年前の今日、僕は何をしていただろうか。「小説を書いてみたいと思ったんだ」二十年前の今日、らゝは何を思っていただろうか。「二十年前のオレとらゝが、出会って、恋に落ちる物語」僕が面倒な事情を抱えず、そして、らゝがもっと自然な気持ちでぬいぐるみを愛せるようになる、そんな未来を描くための物語。ありふれた夏に、あるがままに飛び込む、そんな景色がそこにはあって。|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||きみという恩恵に浴しても日々が拙く過ぎることには変わりなくその中で見つけた情緒は拾いきれずほとんどが取りこぼされるうっすら泣けるような気配がしてもそれが何のための涙なのか判然としない本当ならたったの一文で済むところをそれを表すためだけに百や千の文字が必要になる壮大な長編を書きたいわけではないからやぶれかぶれでまとめておくよきみのせいだ、と|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||記憶の中で爆ぜた光が真明かに描きあげるものがもし、きみであれば世界が降り注ぐきみへと||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 梅雨が終わるか終わらないかという頃なのに、酷暑と言わんばかりの暑さだった。昨日が雨だったせいか、歩くたびに空気が絡みついてくる。制服の布地がはりつく。思考が回転する。ぬいぐるみの淡河を、うっかり出窓のところに置いて出てきてしまった。家にいる淡河が直射日光を受ける必要はないのに。私は自分に苛立ち、淡河の肌が焼けることを憂い、家に引き返したくなるが、最寄り駅まで来ておいて目的地に立ち寄らないのはどうなのか。 左右に茶畑が広がる狭い道を歩きながら、駅前の自販機で買った缶ジュースで喉を湿らせる。安っぽいオレンジの香気は、夏を手招く地面の匂いの中では、ひどく異質なものに感じる。連れがいないなら、ウォークマンでも持ってくればよかった。先週、友達からもらったカセットテープは、まだ全部聞いていない。 裏門を抜けて部室棟の前まで来ると、二階にある文芸部の部室のドアがいっぱいまで開いているのが見えた。これだけの暑さだ。せめて風通しを良くしなければ、部室にはいられまい。ところどころ錆びた金属の階段を鳴らして二階に上がり、部室の中を覗き込むと、そこには見慣れた友人の姿と、見知らぬ少年の姿があった。 茜はこちらを見て「ごめんね、変なの連れて来ちゃって」と、苦笑しながら言い、隅に座り込んでいる少年はそれを聞いて、「変なの、じゃない」とむくれた。説明を求めると、茜は、「弟なの。母さんは違うんだけどね」と当たり前のように言った。「親が離婚するって話はしたでしょ? 本当なら弟は、母さんに引き取られるはずだったんだけど、事情が変わって、私と一緒に暮らすことになったんだ」そう言う茜に、安易な同情はできず、弟と暮らすことが茜にとって喜ばしいかもわからず、私はただ、「へえ」と返した。 茜はひとりで編集作業を進めていたらしい。広げられた原稿には、ワープロで作られたものがずいぶん増えた。「ねえ、子供は好き?」出し抜けに聞かれて、戸惑いながら、「まあ、わりと好きな傾向ではあるかもしれない」と、歯切れの悪い返事をした。「少し、弟の相手をしてあげてくれない? 家にひとりでいても退屈だから、って言ってついて来たんだけど、結局ここでこうしてても退屈みたい」時間はかかるかもしれないが、編集作業は茜ひとりで何とでもなるだろう。 少しだけ、窓辺にいる淡河のことが頭をかすめた。 部室の隅に座り込んでいた少年は、いつの間にか立ち上がっていて、「お姉ちゃん、名前は?」と尋ねてくる。積極的に相手をしたかったわけではないけれど、拒む理由もない。私は少年に向かって、「らゝだよ。湊谷らゝ。よろしくね」と、名乗った。|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||それは夢であるし匂やかな希望でもあり小夜時雨を破ることでもある雑音と安堵をない交ぜにして甘受と諦念を編み込んで笑いながら僕はなぜ情緒など求めてしまったのだろう寝汗に澱む布団から這い出るために?月夜の向こうにあるものを知りながら私はなぜ詩情など求めてしまったのだろう世界との接点を見つけたくて?僕は願い、そして祈って可惜夜のさなかに誓うきみが嘆くのならばきみとともに揺れ落ちよう霖雨が注ぐ海に打ち寄せる波になろうきみが幸せに打ち震えるならきみと一緒になって移ろいたいもう一度始めるためにまた、新しい物語に生きたいそれは恋なのかもしれないけれどあるいは生命なのかもしれないけれど私は息をひとつしてなかったことにする違う答えを得るためにもう一度問いかけてみようか一秒前とは違う自分になってそしてきみとずっと一緒にいる僕はなぜ情緒など求めてしまったのだろう私はなぜ詩情など求めてしまったのだろうきみと僕が重なるために?きみと私が別の生き物でいるために?息をひとつして一秒前とは違う自分になっていつか迎える幕引きの時まできみとずっと一緒にいる||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 「そろそろだね」何が?「茜の命日」ああ、オレとらゝが付き合い始めた日がね。「この際だから、結婚記念日にもしちゃおうか」これ以上その日に何か乗っけるのはさすがにどうなのか。「そうだね。私たちが出会った日でもあるし」まあ、そういうこと。 「あの日、きみは大変だったよね。わんわん泣いてる私を、病院の外に引っぱっていって、それから長々と、思い出話を聞かされて」まあ、それが不幸中の幸いと言うか。「そうだね。会えてよかった」それもそうなんだけど、どっちかって言うと、悲しんでいるらゝを慰められたことが幸い。「これ以上惚れさせても何も出ないぞ。むしろ婚約指輪を出せ。結婚指輪ならなおいい」焦りすぎ。「今さらだけど、よかったのかな。その日初めて会った女のために、茜とはろくにお別れもしないで。弟としてはさ」結局、どう言い訳したところで、ずっと離れて暮らしていた姉に、何も思うところがないのは本当のことだから。 「私、詩を書こうかな」どうしたの、いきなり。「私の詩、読んだことなかったよね?」姉さんの遺品の中に、文芸部の冊子もあったから、見たことあるよ。「そういう、彼女の過去を無理に暴くみたいなの、どうかと思う」どうもこうも、その時はまだ付き合ってなかったし。「何でそういうこと、言ってくれないかな」らゝの詩が、良すぎたから、かな。「良すぎるって?」すごくいい映画を見た後とか、何も言えなくなるでしょ。自分の拙い言葉で評したら、全て台無しになってしまう、そんな感じ。 「それが最大級の賛辞であるなら、私はもう、きみの作品を読んでも何も言わない」それとこれとは別。「同じ。なんでわざわざ、大好きな作品にけちをつけなきゃならないのか」明日、婚約指輪を買ってくるから、それでどうにか。「結婚指輪なら応じる」じゃあ、そっちで。「安物にしてくれないと嫌だよ」普通、逆のことを言わないかな。「相手がきみだからこそ、私は安くもらわれるんだよ。その証になるほうがいい。本当はただでもいいってことなんだけど」宝飾店に行くより、駄菓子屋に行ったほうがいいかもな。 「私、詩を書いてみるよ」それは楽しみだ。「きみか、茜か、あるいは私か、それとも出会いか、私が何によって突き動かされるのかはわからないけど、書いてみる。あの日に捧げる詩を、ね」ぜひ読みたいよ。読んでも何も言わないだろうけど。「今ちょっと、一瞬、愛を疑ったよ」どこをどう聞いても最大級の賛辞だと思うけど。「ねえ、婚姻届けを出すのはさ、やっぱりあの日にしようよ」あの日って。「そう。七月十三日。きみと私が、初めて出会った日」|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||聞こえてる?ねえ、cheerful robinあなたのさえずりがわたしに溶けていのちの在りかをすべて知らしめてわたしの中にある、いくつものいのちがすべての身をもって一斉に鳴きはじめるこだまする、いたわりとも言えないささやかな音色がねえ、cheerful robinあなたに届いてる?おしえて、cheerful robinあなたはどうして、まだゆるしを求めているの?愛しくかわいい、陽気なこまどりあなたの持ちうる罪なんてその透きとおったさえずりだけだというのにねえ、cheerful robinあなたのさえずりがわたしに溶けていくサテライトがおちていくから願いをかけるのならはやく、とママがわたしの手をひいて急かす見ひらかれたひかり鮮烈におちていくサテライトの群れがかんがえていた願いのことばとわたしがわたしであることをすっかり忘れさせるわたしをおきざりにしながらさまざまなひとのいろとりどりの願いをその身にかかえてサテライトはおちるひとつひとつ順番におちていってくれたならわたしは願いを思いだすこともできただろうただひと夜だけそのひとときだけサテライトに染まる夜空を見あげてわたしは呼吸すらおぼつかなくなって願いのことばを忘れてしまったことさえわからなくなる聞いてくれる?ねえ、cheerful robinあの日、あの時の、サテライトのひかりがもし目の前にあったなら今はもう本当に忘れてしまった願いのことばのかわりにあなたのことを願うわわたしの中にある、いくつものいのちであなたのことを祈るわ少しずるをしてわたしのことも、ひそやかにねえ、cheerful robinわたしは願っているあなたが、ゆるしなど必要ないのだとこころで知りそめる日がどうかおとずれますようにそして、その時までわたしがあなたのそばにいられますように愛しくかわいい、陽気なこまどりあなたが持ちうる唯一の罪そのさえずりをわたしに聞かせてつぐなったりしないで||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 裏門を抜けて部室棟の前まで来ると、二階にある文芸部の部室のドアが、少しだけ開かれたままになっているのが見えた。季節はまだ夏とは言いきれず、実際、今日はずいぶん涼しいし、不快な湿気も感じない。ドアをいっぱいまで開けはなつ必要はないのだろう。ウォークマンのイヤホンを外してから、ところどころ錆びた金属の階段を鳴らして二階に上がり、部室の中を覗き込むと、そこには見慣れた友人の姿があった。 茜はこちらを見て、「来ないのかと思った」と、やや怒り混じりに言い、私は頭を下げて、「これで許して」と、ここに来る途中で買ったお菓子を差し出した。|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||ねえ、cheerful robinあなたとめぐりあったのがもっと昔であったならたぶんわたしはあなたを傷つけた愛しくかわいい、陽気なこまどりあなたがそれをゆるしてもきっとわたしはあなたのさえずりを聞いては心をしばりつける||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| Dear Lala 最初にきちんと断っておくけれど、きみはこの手紙を読まない。だから、この便箋が入れられた、きみへの宛名が書かれている封筒には、切手を貼らなくていい。この手紙は、どこにも届かない。誤解しないでほしい。きみに言えないようなことを思うまま書き散らすために、この手紙を届けないのではない。もしこの手紙がきみの目に触れたとしても、僕は何ら恥じることはないだろう。きみがこの手紙を読み、たとえどんな反応をしたとしても、少なくとも僕の側から言えば、きみへの愛を深めることにしか繋がらないだろう。それなら、なぜきみが、この手紙を読まないのか。それは、きみがきみの世界を愛おしむように、僕は僕の世界を慈しみたかったからだ。難しいことなんて何もありはしない。そうして、僕が自分の世界を慈しめた時、今ここにあふれる気持ちが何なのか、はっきりとわかる気がするんだ。 デジタルの目覚まし時計に目をやると、そこには「7/12」と表示されている。時刻は、ほどなく日付が変わるところだ。もしかしたら、今の僕が抱く世界は、この目覚まし時計だけなのかもしれないと、ふと思う。そしてそれが頭になじむほど、正しい認識なのだと思えてくる。そうであれば、僕が、さしてうまくもない字で綴っているこの手紙は、自分の世界を見つけ出すための手段に過ぎず、僕の世界の全てが、目の前で時を刻んでいる限りは、手元の手紙を書き進めたところで、全くの徒労なのではないだろうか。 そう言えば、僕の知己である尾山が、ついに主任に昇進したそうだよ。彼は人づきあいを捌くのが非常に不得手だから、そういったことに縁がないのではないかと、僕はひそかに心配していた。昇進祝いに何かを贈ろうかと思うのだけれど、きみのために用意した指輪よりも高くついてしまうだろうから、なんとなくためらってしまう。彼の昇進は、ぜひ祝いたいものであるから、今、僕が書き進めている小説を、きみだけしか読めない、きみへのプレゼントとして、帳尻を合わせようと思っている。楽しみにしていてくれないか。主人公が出会う少年がどうにも生意気で、笑ってしまうから。 こうやって手紙を書いていると、いつまでもこうしていたい衝動にかられるのだけれど、そういうわけにもいかない。僕の小さな世界は勤勉に時を刻み続け、もうすぐ、明日が今日になることを教えてくれている。明日という日に、またひとつ大事な意味が増える。これから僕は、その日をどう呼んだらいいのか、答えを出せないでいるよ。繰り返される一年のうち、もっとも大切な日になると確信しながらも、巡りゆく日々に紛れてしまうような、ささいな一日に過ぎない気もしている。 僕にとっての世界を、この手紙を通して、すぐに見つけ出した一方で、僕は、これだけ書いてみても、持てあますほどの気持ちに、はっきりした答えを見出せないでいる。やはり徒労だったのだろうか。当てが外れてしまったみたいだ。どうにも、時間が来るまでに、それを見つけられそうにはないので、せめて最後に僕の瑣末な願いを記して、お茶を濁しておこうか。 お互いの世界が、永遠に重ならないことを祝うなら、僕ときみが、別な生き物であるままに歩みを止めないことを、もし幸せと呼ぶなら、それなら僕は、お互いが裁かれることを望む。僕ときみが、相手にとっての、裁き手になれればいいと思うんだ。 僕は、きみを糾弾する。「きみのせいだ」と。 そしてきみは、僕を糾弾する。「きみのせいだ」と。 お互いが、全く違う意味でそれを言う。 From Your husband July 13 00:00|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||どこにいるの?ねえ、cheerful robin泣きつづける雨からのがれてどこにかくれてしまったの?あなたのさえずりが響かない景色はわたしの居場所ではないのひつじがとびこえるための柵にぬれた背をあずけて雨だれを気にしてばかりいるねえ、cheerful robinたとえば、もしあなたとわたしがすべてにおいてわかりあい愛しあっているのだとしてもあなたが軽やかに飛ぶための羽をぬらすわけにはいかないあなたを思いながらわたしはひとりで泣きぬれるたったそれだけのことがどうしようもなくうれしいたとえようもなくかなしいねえ、cheerful robinたったそれだけのことがくらべようもなくしあわせ愛しくかわいい、陽気なこまどりあなたは今、どこにいるの?わたしはただひたすらに遠くに見える雨だれの音を聞こうとしている||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| わたしは茜を見すてた。 彼女はもうこの世にはいないのだから、そうやって言いあらわすのは、まるでふさわしくないかもしれない。それは私のおごりでしかないのかもしれない。けれど、あたまを巡らせて、そこにどれだけのことばをあてはめてみても、それ以上にしっくりする言いかたは見つからない。 あの日にささげるうたのなかに、茜はちっとも出てこなかった。そこにいたのは、かわいらしく、ほがらかなこまどりだけだった。わたしは、ことばを重ねはじめてすぐに、こまどりではないだれかを、そこにうつしだそうという気には、ちっともならなくなった。 しばらくぶりに、うたをつむいだわたしは、いとしいこまどりのことだけを書いていたくて、そして、それだけで、それだけだからこそ、よろこびにうち震えることができた。 茜がきえた日にささげる、茜のためのことばは、きっともう、わたしの中にはかげもかたちもないのだろう。そのためにわたしが感じる、つみの意識は、いとしいこまどりが持ちうるそれに、どこか似ている。 わたしのこまどりが、くちばしでくわえてはこんできた、千円札を出せば、十や二十は買えてしまいそうな、安物の、いとしい指輪をなでる。 これがわたしの、ましてやわたしたちの、答えにはならないことを知っている。 けれど、それでも、いとおしむことをやめられない、わたしのこまどりからの贈りものは、どうしてなのか、うたのなかにいたこまどりが求めていた、ゆるしにちかい気がする。|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||少しばかり言葉に身を預けて|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||┃詩は翔け鳥 四天を羽ばたき、ゆえに射られる┃┃言選りを慰めにして死に損なう きみとともにいられる最後の一瞬まで 描ききれない現し世の片隅で┃┃僕は言選りを繰り返す 詩人を気取って┃┃情緒のためでも、詩情のためでもなく 少しでも多く命を拾うために┃┃詩を綾取る 言選りを繰り返す┃┃死に損なうために┃┃雨気を振り切れない天が紅に そっと露命を預ける 雨落ちに留まって天の命を弄び 露の世を蔑む┃┃永恋を捨てられずにいるから 好音をください 思いの通い路を逆に辿ってしまう前に 僕たちの結い目が解けてしまう前に┃┃寧日を欲しながらも 心の内を哀哭の響きで満たしたくなる 黙約を反故にして行き散ることも 心魂に問えば望んでいないとは言えない┃┃絶え間ない泡影が瞬く 宵が雨を催して夕色に還る┃┃言選りを続けることだけが 僕が今生で行き着くための手掛かり┃┃零ゆる血を交尾ませて、天児のための遊糸を綯う 佞知になずさう塵の身を、拈華のごとくに貫き乱る 暁降ちに誑惑されて、月夜烏が灼たに揺く 陸離たる列列椿が芥蔕を抱き、操觚界からの逃竄を覬覦する┃┃アルファでありオメガであると言われても 何をか言わんやと切り返すしかない貧しさで 套言は続く┃┃朦朧体の偶詠が、炳乎としてきみを射るまで 詩嚢が咲殻に変わるまで┃┃いくらもしないうちに世界は夏めき 夕蝉が高らかと深愛を鳴き尽くすだろう それは僕から哀痛を奪い、泣き沈むことを許さない 青葉を染め上げる夕照を浴びて、愛恋の望むままに きみと言葉に添い遂げる┃┃僕は死に損ない続ける┃┃詩人の熱涙が、花として咲いて それが枯れるまでは 少なくとも┃|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||Will you marry with me??私と結婚してくれませんか?Yes, of course!!はい、もちろん!|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||残雨落つ夜にうら泣く対の花別ることなくひそやかに咲け|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||淡に解る赤の束ね緒結い続く汝鳥になれぬ我が身を知れど|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||愛しくかわいい、陽気なこまどりわたしがことばをうしなうほどにあなたが持ちうる、ただひとつの罪をおしえてその透きとおったさえずりをわたしに溶かしていのちの在りかを知らしめてねえ、cheerful robinことばが咲いていくわわかるでしょう?愛しくかわいい、陽気なこまどりゆるしを求めることを忘れるほど鳴きしきることばに、目をくらませてほしいそれは、わたしのさえずりわたしの恋ぶみそれが、あなたにどんなものをもたらしてもつれないふりでなにも言わないでねえ、cheerful robinいつものように、すましてかろやかにさえずっていてどうしようもなくたとえようもなくくらべようもなくしあわせねえ、cheerful robinあなたのさえずりがサテライトをおとすわあなたとわたしの願いのためにどうか、つぐなったりしないでねえ、cheerful robinあなたはいたわりこころのありかねえ、cheerful robinあなたはことばささげるいのち愛しくかわいい、陽気なこまどりわたしは生きているわあなたとはべつなたましいであなたのかげがわたしのかげと重なってともに道をすすんでいくひのしずむまで 画像加工:AVENUE編集室
2017年02月14日
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絵:コマさん ツイッター:コマ @watagashi4 詩小説:香鳴裕人さん ツイッター:香鳴裕人/am @zxam9リャナンシーの夜 2.きみのありか リャナンシーという妖精は 人間の男に取り憑き 精気を吸い取るかわりに その者に詩や歌声の才能を与えるという それならば僕は、 リャナンシーに取り憑かれているのではないか 何も自分が選ばれた天才だと気取るつもりはない ただの凡才であったものが 中途半端に過ぎる才能を与えられ こうして煩悶しているのではないだろうか あの島で、 夜光虫にうち震えていた おそらくは 僕にとってだけのリャナンシー あの夜の僕の鼓動を 何と綴って表そう 詩人の腕の見せどころだというのに ほどなく暁のひかりが 世界をつまびらかにして 夜の魔法が解ける 孤独なリャナンシーの 優しい呪いが あの夜を照らした 僕にさんざめいた火光は いつしか脹れあがり弾けた 目に焼きついたはずの光景は その閃耀に塗りつぶされてしまい 形姿を失って ただ心にたゆたうのみ きみが羽撃つ音を狂瀾の中に聞く 誓い言をきみに結い付けたくても 向か離く距離が 何よりもそれを許さない 少しずつ、確実に 心に残っている記憶がぼやけていく 目的を失いつつありながらも 言葉が巡るよ ラジオの雑音ほどの詩情のらせん階段 夢を食って塗りかえたものを返す夜空 恋歌の拍動は悪食で気持ちさえも呑む きみのありかに触れたいだけで紡ぐ詩 そのうち言葉さえ役目を失う夜が来る ラジオの雑音ほどの詩情がうそぶく夜 夢を食い散らして時々は返さない星芒 そのうえ恋歌にも呑まれてしまっては きみのありかに触れたいだけで紡ぐよ そのうち言葉さえ役目を失う夜が来る 僕は嫌だ リャナンシーに吸い尽くされていたい 言葉を捧げていたい ラジオの雑音ほどの詩情は 中途半端に過ぎる才能は 返さない それでいい
2015年08月10日
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絵:コマさん ツイッター:コマ @watagashi4 詩小説:香鳴裕人さん ツイッター:香鳴裕人/am @zxam9リャナンシーの夜 1.夜光虫 リャナンシーという妖精は 人間の男に取り憑き 精気を吸い取るかわりに その者に詩や歌声の才能を与えるという 私がもし男だったなら 喜んで取り憑かれるものを 無用に言葉を繰ることも いたずらにもてあそぶことも なくなるだろうに ネオンをくぐりながら/街に取り憑かれても何も起きない 夜光虫のたわいない輝き/私がそこにいたことさえ今は この夜に星はなく/昔日には星だけがある 空の星明かりを模して/海に散らばる虫の光 タイルが雑踏を反射して/不明瞭な夜空に溶ける 足を浸す星空に/ついでのように天の川が呼応する この夜に詩はなく/昔日は言葉すら役目を忘れていた 手持ちの言葉では どちらにせよ、あまりにも 叙情詩ではなく/叙景詩でもなく 叙事詩でもなく/劇詩でもない 詩のための/言葉のための 定型句のための/慣用句のための/常套句のための 主語のための/述語のための/接続語のための 言葉を用いて/言葉のために ただそれだけの詩が書けないだろうか 私はいまだに何も持たない ネオンの街はそ知らぬふりで瞬き続け あの入り江は遠すぎる 紡ぐ気持ちは見失い 描く景色はおぼろげで 現実だけが続く街にいては 空想さえ遠い 言葉を用いて 言葉のための それだけの詩が書けないだろうか 私はいまだに何も持たない 生きるための/死ぬための 切実さも持たず 幸福の中で、のうのうと生きている 私はまた道路を渡る 恥ずかしげもなく、横断歩道の上を 点滅する青信号の光は 夜光虫のそれとは似つかないのに 私は道路の真ん中で立ち止まることもせず 足早に向こう岸へ リャナンシーに見そめられるわけがない
2015年06月28日
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