島流れ者 - 悪意なき本音

島流れ者 - 悪意なき本音

消費大国アメリカ



その後、物が次第に増えていって、四年間のアパート暮らしから念願の家を買って引っ越す頃には、いったい何時こんなに物を集めたのかと言うほどになっていた。私は基本的に物に対する執着心があまりないので、コレクションなどの高尚な趣味を持ったことも無いし、事在るごとに、一年以上使わないでしまってある物は、不要品とみなして処分して極力物を溜め込まないようにしている。だからうちのガレージは、平均的アメリカ家庭にしてみれば、かなり物が少ないほうであろう。以前勤めていた会社の同僚は、ガレージが物置き場を越えて、ごみ溜め場と化していると言っていた。

こういった背景には、いろんな国から入ってくる大量の移民や、引越しを頻繁にするアメリカ人の為に、比較的安価な物が市場に溢れているという要素がある。例えば、何も無いところに引っ越すために台所用品を揃えようとする。結構しっかりした大小の鍋とフライパンの5点セットで、$20だったり、四人分の食器一式が$15と安い。そして家電製品も大きな冷蔵庫がなんと$200代で買えたりと、あまりお金が無くても取り敢えずの生活をスタートさせることが可能だ。そして物をたくさん抱えた二人が一緒に住み始めると捨てるわけにいかず、取り敢えずと置いたつもりのガレージが、車を止めるという本来の機能を失い、物置又はごみ溜め場と化すのである。尤も、不用品はガレージセールをしたり、リサイクルショップに行って寄付することが出来るので、日本でよく見かけるごみ収集所にまだ使える電化製品が捨てられているという様な事は無いからまだましではある。(リサイクルショップで使用済みの便座が売っていたのには舌を巻いたが。)

しかし、何が困ったアメリカなのかと言うと、日用雑貨の殆どが、リサイクルされていないのである。例えば、トイレットペーパーのリサイクル紙で出来たのは滅多にないし、洗剤類で容器再利用が出来る製品を見たことが無い。ある日、とある環境汚染をしない洗剤のメーカーに、メールで、消費者がプラスチックのボトルを再利用できるように中身だけをビニールにつめた物を売れば、環境保護になるからどうかと提案したところ、返事も来なかった。カリフォルニアでも市によって違うのだろうが、この辺りでは、リサイクル、環境保護という言葉を皆知っているのかと疑いたくなることが多い。例えば、勤めた会社の中には、昨日の弁当の食べ残しであろうと空き缶だろうと何から何まですべて一緒にしてしまっていた。小さなオフィスだったが、私だけが、そうしたことに気を使っているようで、ある時は、使用済みの乾電池をどうしたらいいかと同僚に聞いたところ、は~?何でそんなこと聞くの?という顔で、“そこにごみ箱あるじゃない”と素っ気無く言われたのだった。後で乾電池が如何にに環境を汚染するかを話したらあっそうとまったく関心の無い様子なのには参った。

そして、アメリカが如何に世界のエネルギーを独り占めしているかは、(世界の30%のエネルギーがアメリカだけで消費されている)一般的な日常生活を見ると一目瞭然。例えば、洗濯が終わると、必ず乾燥機を使う。この南カリフォルニアは、殆ど雨など降らず、半日でも外に干せばちゃんと乾くのに。以前の会社でのボスが、“洗濯物を外で干したいから、物干しを庭に付けて欲しいと夫に頼んだら、そんなみっともない物は要らんと言われたのよ。”とぼやいていた。またある人が外に干したら洗濯物が変な匂いがするからと言っていたのと耳にしたことがある。その家の近くに汚水処理場が在るわけでもないでしょと聞いたら、自然乾燥したその匂い自体が嫌と言っているのである。呆れ返ってその話を終わりにした。また、食器洗い機は、当たり前のようにどの家、アパートにも付いていて、多くの人がたったの数人分の食器を45分ほどかかる食器洗い機がどれだけのエネルギーを使うかを考えることも無く毎晩使っているのである。

困ったことに、そういった便利な物は、始めは抵抗があっても慣れるのには時間が掛からない。流石に二人分だけの食器の為に食器洗い機を回すことは無いが、乾燥機に関しては、当たり前のように使っていた自分を日本に帰国中の洗濯で気がついた。ああ、私もそうして困ったアメリカの一部になってしまうのだろうか...

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