「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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島流れ者 - 悪意なき本音
最悪健康保険システムに辛抱強いアメリカ人
ご存知の向きも多いが、先進国のトップリーダー的な存在のこのアメリカには国民保険なるものはない。多くの人は雇用主が支給する健康保険に入ったり、自営業者は個人で高い保険料を払っている。その金額は、年齢によってスライド式に高くなってゆくので、50歳以上になると、なんと月に$500以上もする。現在無職の私は個人で入るしかないが、まともな保険に入ろうとすると毎月$150ほどする。ジャックの妻ということで彼のに入れてもらう手もあるが、何しろ彼の会社は小さいのであまりいい保険制度を支給していない。例えばうちの場合、本人に加えてにさらに私が入ると値段がぐんと上がって、現在の毎月$21が$350くらいに跳ね上がる。どちらにしても高すぎるので病気や怪我をしないように祈りながらの無保険状態である。
保険の種類もいろいろあるが、大きく分けるとHMOとPPOとある。まずこのHMOは、加入している会社に登録されたメンバーの医者の中から選ばないと一切カバーされない。保険料が安いが、その代わり、いつでも混んでいて予約を取っていても待たされたりすることもある。一方PPOは、自分の好きな医者を選べるが、それもどの医者でも良いのではなく、その保険会社に登録している医者であれば80%カバーされるがそれ以外だと50%しかカバーされないとか言う制限があったりする。
そしてまずくだらないのは、多くの保険会社が加入者にメインのドクター(多くは内科専門)を持つことを義務付けて、それを通してでないと別の科専門のドクターに会えないことになっている。例えば、膀胱炎の気があるとする。そこでまずするのはメインドクターにあって、症状を説明し、そこから紹介される泌尿器専門のドクターに会いに行く。
緊急医院以外ほぼ全てのドクターは予約制なので、まずはこのアポイントメントをとる段階で問題にぶち当たる。多くのドクターは、いつも予約がいっぱいで、すぐに見てもらうことは出来ない。症状がかなりひどいときは救急に行けばいいが、その救急でも加入している保険会社がカバーしてくれるかを調べなくてはならない。
あるとき調子がおかしくなって会社を休んでいるジャックは、ちょっと気管支炎の気があると心配してドクターに会いに行くために医者に電話をかけ始めた。この町に引っ越してから、医者に掛かっていない彼は、とりあえず電話帳に乗っている医者を探してかけて、症状を説明する。そして、その医者が彼の入っている保険を受け付けてくれるかを聞くと、どんな保険でも受け付けるが、その会社に登録された医者ではないという。そこで、保険会社に電話してこの医者に掛かった場合、いくらかでもカバーされるのかと聞くとその医者の税金ナンバー(個人であろうと企業であろうと全ての納税者はこの番号を持つことを義務付けられている)を聞かれる。もちろんそんなもの知るわけないので、いったん切ってもう一度その医者に電話して番号を聞く。それからまた保険会社に電話すると当然のことながら長々と自動の電話システムにつながって、もう一度自分の電話番号や税金ナンバーをプッシュホンで入れる作業を強いられる。ようやくカスタマーサービスにつながって、じかに人間と話せると思ったら、分からないから今度は別の部署に電話しろといわれる。それで教えてもらった別の電話番号にかけるとまた自動電話システムにつながる。
始めに掛けた医者が登録メンバーのドクターでなく、この保険は利かないということで、緊急クリニックを探した。そこで、今度はこのクリニックに掛かった場合の医療費がカバーされるかどうかを調べるためにまた同じことを繰り返す羽目になった。そうして何度もいろんなところに電話をかけているうちになんと1時間もたっていた。
なんとたった一つの簡単な情報、彼が掛かろうとしている医者に行ったら保険が利くかということを調べるのにもこんなにまでしなくてはならないのに横で見ていた私は10分もしないうちにいらいらし始めた。しかし、当人のジャックは病気でぐったりとしているのにもかかわらず辛抱強くこの一連の作業を‘予想していたとおり’といって驚くほどに冷静なのだ。
結果として、このクリニックは緊急なため、通常の時間は空いておらず、午後の4時から朝の8時の開業時間だということを知らされたジャックはそれまで待って様子を見ていた。夕方になってかなり良くなったからといってもう医者に掛からなくて良いと言う。そこで、あれほど苦労したのだから大事を見て行ってこればいいのにと言うと、大したことないのに医者に診てもらって、“よく休養とって体にいいものを食べるように”という素人でも分かることを言われるだけにCo-Payを払うのも馬鹿らしいとのこと。(Co-Payとは保険に入っていても医者に会うたびにその場で払う$10~50の請求額。それから薬もまたCo-Payを払って買う。)まあそうだけど、本当に馬鹿らしいのはこのアメリカの保険システムのくだらなさだ。
毎回毎回新しい大統領に代わるたびに国民保険システムを導入するをでかい事を言うが、実際にこれを果たした大統領は一人もいない。爆弾の一つや二つを落とすのに掛かる費用だけで、どれだけ多くの国民が必要最低限の健康保険を持つことが出来ることか。アメリカの医療は世界でもトップレベルでいろんな国の人々が自国では直せない難病を抱えてやって来ては素晴らしい治療を施されて帰っていく。これは、その最高技術を持った医師団の高額な医療費を屁でもないと言うお金持ちの人ばかりである。一方、本国では病気に掛かっても保険がないために小さな病気が悪化してしまうケースも多い。これを皮肉と言わずして何という。
数年前に日本から出る直前に見た、やけに現実じみた夢にこんなのがあった。なぜか私は西部劇に出てくるようなアリゾナかテキサスのような場所にいて、格好もそれなりのカウボーイスタイルの私はどんぱちとやっている中に巻き込まれてしまった。建物の陰に隠れていたが、どこからともなく飛んできた玉が私の腹部に命中した。どっと倒れて意識朦朧としながら空を見上げていると誰かがやってきて私を覗き込み、一言聞いた。“健康保険に入っているか?”
そこで夢は覚めたが、これがあまりにも本当のことを予測したものだったため、今でもはっきり覚えている。こうしてアメリカにいるとあのときの夢は夢じゃなく本当は現実ではなかったかという錯覚に陥るのである。
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