島流れ者 - 悪意なき本音

島流れ者 - 悪意なき本音

とんでもない隣人 其の二



次なる登場人物は、アパート#6のイラン人夫婦。旦那はコンピューター関連のコンサルタントをしていて、フリーな時間が多く、ちょくちょく昼間に家に帰ってきてはまた出て行くという生活をしていた。妻は専業主婦で、5歳の女の子と3歳の男の子を面倒見ていた。まず問題だったのがこの女の子がうるさいのなんの。それはそれはかわいい顔をしているんだが、自分中心で(子供は往々にしてみんなそうだが彼女の場合はもっと酷かった。)いつも大声で大人の注意を引こうとする。外で遊んでいても、家の中にいても、四六時中、“Look, look what I did!" “Jack, Jack, I got this!!" “Excuse me! I did....." と聞こえてくる。それがい所に多く、たまりかねて窓を閉めると、キンキラキンの彼女の声は窓を突き抜けて私の耳をつんざくのだった。

私は子供を容赦なく大人同様扱うので、(特にこういった餓鬼に対しては)彼女の目障りなほど傲慢さがたまらなく、パティオで出くわしても敢えて目を合わせないようにしていた。しかし、子供をあやすのが得意なジャックはもちろん即座に彼女の餌食となり、姿を現すや否や、"Jack,Jack," と彼女の攻撃に会い、30分ぐらいは逃れることが出来なかった。げんなりして帰ってきたジャックに、“だから言わんこっちゃない。あのガキにいい顔するとどんどん付け上がるんだから。今度は切りのいいところでさっさと逃げて来るんだよ。”と何度言ったことか。その後ジャックが少々冷たくなったら今度は第二の餌食を見つけた彼女は毎日うちの隣のナタリーの部屋をノックしていた。

ガキのすることに罪は無しと気を取り直して、問題はこの夫婦の、公共の場を自分の物と勘違いしている無神経さだった。彼らの部屋は入り口に面していて、アパートを訪れる人の一番最初に目に付く場所だった。にも拘らず、バルコニーには子供のおもちゃや要らなくなった家具、マットレスなどのガラクタが山済み。誰も注意しないので其の山はどんどん膨れ上がっていった。しかし幸いなことに自分達でかたずけてくれたのでいいが、その片付けというのは、それらのガラクタを単に別の場所に移動しただけであった。その新たな放置所となったのは、またしても、共同のパティオだった。ああ、一難去ったらまた一難。奴らはもともとだらしなく、自分達の駐車場に子供が散らかしたごみを平気で何ヶ月も片付けない。が、ダニーとマリアのとんでもない迷惑行為がそんなことは屁じゃないほど酷かったので、彼らが出て行くまではそこまで気にならなかった。

あるときこのイラン人妻が、自分の家のバルコニーに花瓶を幾つか置き始めた。はじめは小さいのから始まって仕舞いには、大きな鉢植えを乗せるようになった。問題は、そこには何の支えも無く、何かの拍子でそれらの鉢が一気に下へ落ちてく可能性がある。もしも誰かがたまたま通りがかったときにそれが起きたらどうするつもりだ?実際に彼らのわんぱく少女がそのバルコニーからいろんな物を故意に落としているのを何度となく発見していたので、これは大変だと、大家に報告した。

始めの数ヶ月はその鉢を取り除いておとなしくしていたが、暫くするとまた鉢が一つ二つと増えていったのだ。あきれた私はぶつぶつ文句ばかり言っても仕方ないと、思い切って#6のドアを叩いた。出てきたのはイラン旦那。早速溜めておいた怒りをぶつけて、“そこの鉢植えを何とかして欲しいんだけど。”と言うと、“ワイフの物だから勝手に片付けられない”と言う。そこで、“そのバルコニーに何の柵もないからもしもお宅の子供が誤って落としてしまったら、誰かの頭に当たるでしょ。そうなったらあなた、訴えられるかもしれないのよ!”すると返ってきた言葉が、“うちは’96年からここに住んでもう長いんだよ”と、あたかも長く住んでいたら何をしても言いと言うようなことをほざいている。あきれ返って、“あんたが何年住んでいようとこのアパートのオーナーになるんじゃないのよ。アパートの住人として他人とスペースを共有するにはそれなりのマナーが必要でしょ!”と一気にやって、彼をねじ込めた。もうこうなったら宣戦布告である。

その数日後イランワイフが嫌々バルコニーの(故意にか?)ぎりぎり端に置いてある10個ほどの鉢植えを片付けるのを確認して取り合えず荒かった鼻息を沈めるのだった。

ある日隣のナタリーからの朗報で私とジャックは手と手を取り合って大喜びした。それは、イラン人カップルが家を買って引越しを近々すると言う物だった。それから何ヶ月か経ってもまだ出て行く様子がないのでどうしたのかと思ったら、その買う予定だった家のオーナーとの間で交渉トラブルがあり、その話はおじゃんになったと言うのだ。その後彼らは暫くは家は買わず、気楽にやると宣言していたので、私達は家を買えなくなった彼ら以上にその話に落胆したのであった。

幸いそうこうしているうちに私達が家を見つけたため、彼らよりも先にこのアパートから出て行くことになったのだった。後から聞いた話によると、イラン旦那が最近職を失ってしまい、マイホームどころではなくなってしまったそうだ。ああ、なんと言う... それを聞いて今まで厳しくあったっていた自分を反省したのだった。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: