「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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JEDIMANの瞑想室
第3章 生への疾走<1>
時は深夜。
ジャングルの天蓋が空を覆い、明かりがまるで無い。
その発狂しそうな無限の闇の中で、無数の人影が動いていた。
口からうめき声をもらし、よたよたと歩く彼らは、さながらゾンビのようであった。
―――突如、閃光が閃いた。
耳をつんざくような音と共に、銃撃がゾンビ達を襲う。
「もう弾薬が無くなるぞ!?」
ジェイクは先を進むマイクに声をかけた。
しかし、黒人の戦士はそれを無視し、なおも敵に対して銃を撃ちまくった。
ゾンビの声が地を這う。
その場にいた3体のゾンビは、皆、地面に倒れ伏した。
「ふぅ……」
マイクが息をつきながら弾を装填する。
「おい、マイク、聞いてんのか?」
返事無し。
ジェイクは会話を諦め、背負っているティアの顔を見た。
その顔は今なお痛みに歪んでいる。
さもあらん、麻酔も射たずに左腕を肩から切り落としたのだ。
ジェイクは彼女の小柄な体をしょいなおすと、先をスタスタと歩くマイクを必死に追った。
既に辺りは真っ暗だ。
頼りになる灯りは、マイクの持つ懐中電灯だけだった。
「う……………」
突然、ジェイクの背中でティアが動いた。
「ティア?気がついたか?」
ジェイクは首を後ろに回しながらティアに訊いた。
ティアはゆっくりと目を開いた。
「ジェイ……ク?」
「大丈夫か?」
「うん、たぶん」
ティアはそう言うと、顔についた泥を拭おうと体を動かした。
しかし、そこで気がついた。
左腕が無い。
唐突に、卒倒する直前の記憶がフラッシュバックした。
のし掛かり、左腕に噛みついてくるグール。
その腐臭。
左腕を切断した壮絶な痛み。
「う………く……」
ティアは辛そうに左肩に巻かれた布に手をやった。
腕を失ったという、言い様の無い喪失感が彼女を襲う。
ジェイクは、背中でティアがすすり泣くのを感じながら、ただ黙々と歩みを進めた。
マイクは相変わらずザンザンと速いペースで歩いている。
「ちょっ……まっ……マイク!待ってくれよ!」
ジェイクは必死にマイクの後を追いながら、彼を呼んだ。
いかにティアが小柄で軽いからといって、人を背負えばスピードは当然遅くなる。
「マイク!」
ジェイクは再び叫んだ。
途端に、マイクが足を止めた。
彼はそのままくるりと振り返り、ライフルをジェイク達に向けた。
「なっ……!」
ジェイクは絶句した。
「や、やめろ!マイク!」
「うるさい!」
マイクは怒鳴り返した。
「お、俺が悪いなら謝るよ。だからその銃を下ろし……」
「黙れ!」
マイクがいらいらと言った。
「静かにしろ。感じないか?」
ジェイクは口をつぐみ、感覚を研ぎ澄ませた。
次第に、うなじにピリピリとした感じがしてきた。
殺気だ。
「後ろか?」
マイクが頷く。
「数は………20?」
「だいたいそのくらいだろう」
ジェイクは振り返った。
闇の中に、いくつもの赤い眼が浮かんでいる。
荒い息も聞こえてきた。
「ヒュウッ」
ジェイクは口笛を吹いた。
「こりゃまたたくさんのワンちゃんだこと」
次の瞬間、グール・ウルフのボスが狩りの咆哮をあげた。
グール・ウルフ達が駆け出す。
「36計逃げるにしかず、だな」
ジェイクはそう言うと走り始めた。
マイクのライフルが火を噴く。
銃声がジャングルにこだました。
「な、なに?なんなの?」
背中で揺られながらティアが混乱した声をあげる。
「ウイルスに感染した狼だ!」
ジェイクは走りながら叫んだ。
「狼!?南国に狼なんているの!?」
「知るか!」
「無駄口を叩くな!走れ!」
マイクが彼らの前を走りながら怒鳴る。
言わずもがな。
ジェイクは足を速めた。
しかし、やはりティアを背負っているゆえに、どうにも足が遅くなりがちだ。
グール・ウルフ達の唸り声がすぐ後ろで聞こえる。
その時、ティアがジェイクの耳元でソッとつぶやいた。
「捨てて。そうすればあなたは逃げれる」
「捨てない」
ジェイクは即答した。
「仲間を敵前に置いていくような真似はしないさ」
「でも、このままだと………」
「心配するな」
ジェイクは荒い息をつきながら言った。
「施設が見えた」
ティアが顔を上げると、いつの間にかジャングルは開け、前方の砂浜に、白い施設がそびえていた。
壁は汚れて黒ずみ、ツタが這っている。
しかし、避難場所としてはまだまだ使えた。
ジェイクの足音が変わった。
地面が土からコンクリートに変わったのだ。
施設まではあと30メートル。
しかし、ここで彼らの運が尽きた。
ジェイクは背後から飛びかかったグール・ウルフによって、もんどりうって倒れた。
コンクリートの地面に顔をしたたかにぶつける。
「いっ!」
ジェイクは痛みに思わず言葉を発しながらも、慌てて周りを見回した。
ティアは!?
「ティア!」
ジェイクは必死に呼んだ。
しかし、それは彼にグール・ウルフが飛びかかってきた事で途切れた。
「ぬぁっ!」
暗くてよく見えないが、目の前にグール・ウルフの剥き出しになった口が迫るのがわかった。
「なろっ!」
ジェイクは拳を繰り出した。
右拳がグール・ウルフの顔にめり込む。
間髪いれずに左拳も繰り出された。
グール・ウルフがよろよろと後ずさる。
ジェイクはすかさず腰のハンドガンを抜くと、4、5回引き金を引いた。
ドンドンと重い音が響く。
グール・ウルフはどさりと倒れた。
しかし、たくさんのグール・ウルフがわずか10メートルの位置にいた。
赤い眼がらんらんと光っている。
ジェイクは思わず覚悟を決めた。
と、その時、ライフルの銃声が響き、グール・ウルフの悲鳴が聞こえた。
マイクだ。
「ジェイク!」
いつの間にかティアが彼の側に立ち、右手で彼の腕を掴んでいた。
「早く!」
我にかえったジェイクは、慌てて施設へ向けて駆け出した。
前方でマイクが施設の扉を開け放ち、飛び込むのが見えた。
後方でグール・ウルフの吼え声が響く。
ジェイクは必死だった。
恐怖が背後から迫り、彼を押し潰さんとする。
あと少し。
ジェイクは疲れきった足を無理矢理前に出し、施設に飛び込んだ。
「ドアを!早く!」
ティアが右腕で両開きの扉を示す。
ジェイクは急いでドアを押した。
両開きの扉が閉まっていく。
ズドン!
突然、扉が揺れた。
凄まじい唸り声と共に、扉に体当たりを浴びせたグール・ウルフが、わずかに残った扉の隙間に頭を押し込んできた。
ティアが悲鳴をあげる。
「下がれ!」
突然、声がしたかと思うと、強烈な銃撃音が鳴り響き、グール・ウルフの頭が吹き飛んだ。
「マイク!」
ティアが嬉しそうに言う。
彼らの後ろには、ショットガンを構えたマイクがいた。
「扉を閉めろ!」
マイクが銃口を下げながら怒鳴る。
ジェイクは慌てて扉を閉め、二重のロックをかけた。
金属製の扉にグール・ウルフ達が体当たりを食らわせているのか、扉が揺れた。
「ふぅ……」
ジェイクはため息をつき、ドサリと床に尻をついた。
「大丈夫か」
「ああ………」
ジェイクは自らの体を見てみた。
傷は無い。
まだ感染はしていないという事だ。
「ところで、そのショットガン、どこにあったんだ?」
「ああ、これか?」
マイクは弾薬を装填しながら言った。
「そこらにいくらでも落ちてるぞ」
言われてから、ジェイクはようやく気がついた。
辺りには、争った形跡がたくさんあった。
壁には弾痕や焦げ痕、そして血飛沫が大量に残っている。
床には武器や破れた服などが落ちていた。
グールが大挙して押し寄せた際、実験施設の職員が必死に抵抗した名残だろう。
ただ、それを使っていた者の死骸は無かった。
「マイク、灯りを」
「ああ」
マイクはそう言うと壁についた電力スイッチを入れた。
部屋全体が明るくなる。
彼らのいる場所は玄関エントランスで、左右に通路があり、前方には大きな両開きの扉があった。
「ほら、ジェイク」
マイクがジェイクにライフルを放ってよこした。
「ああ、サンキュ」
ジェイクはそれを受けとると、素早く整備した。
6年前のシロモノだが、まだまだ使える。
と、その時、唐突に電気が切れた。
「キャッ!」
ティアが短く叫び、ジェイクにしがみつく。
「どうやら電力発生装置はお疲れみたいだな」
マイクがつぶやく。
「あとジェイク、鼻の下を伸ばすのはやめろ」
ジェイクは慌てて顔を引き締めた。
辺りは非常灯の不気味な光で浮かび上がり、恐怖がかきたてられる。
―――パリン
突然、正面の扉の向こうで、軽いガラスが落ちたような音がした。
瞬間的にそちらに銃口を向けるマイクとジェイク。
2人はゴクリと息を飲み、互いの顔を見ると頷きあった。
2人は銃に取り付けられたライトを点けると、静かに扉に歩み寄った。
扉の向こうからは、何も聞こえない。
マイクが扉に張りつきながらショットガンを構え、ジェイクを見て頷く。
ジェイクはマイクに頷き返すと、扉のちょうつがいに手を伸ばした。
ゾッとするような冷たさが、ひんやりと彼の手のひらを包む。
ジェイクは力を込め、ちょうつがいを捻り、一気に扉を開けた。
マイクが突入する。
何も起きなかった。
ジェイクは慎重にマイクに続いた。
ティアがジェイクの服を握り、恐る恐るついてくる。
部屋は、広い実験室だった。
縦長の部屋で、真ん中を通路が貫いており、左右にたくさんのディスプレイやコンピューター、実験器具が置いてある。
やはり電気は消え、非常灯が青白い不気味な光を空中に投影している。
ジェイクは素早く周りを確認した。
銃口につけられたライトがライフルの動きに合わせて移動する。
敵影は無かった。
ただ、闇と虚が広がっているばかり。
ジェイクは歩みを進めた。
部屋の奥は暗がりになっており、まだ油断はできない。
「この部屋、嫌……」
ティアがジェイクの背後で小さくつぶやいた。
マイクが彼らの前を歩きながら、頭をかいた。
「なにもいないな。さっきの音は聞き違いだったかも―――」
カサッ
即座にマイクとジェイクは銃を構えた。
「………聞こえたか」
「ああ」
「……どうする、背中合わせで行動するか、それとも散開するか」
「背中合わせだと一撃で全滅。散開だと各個撃破されて全滅」
「嫌な事言わないで下さい!」
ティアがジェイクに小声で叫んだ。
「どっちにしろ、この部屋はヤバイな」
マイクの言葉に、ジェイクは頷いた。
「マイクの言う通り―――」
突然、ジェイクはバッと後ろを振り向いた。
ティアが不思議そうな表情をしてジェイクを見つめる。
「どうしたの?」
「………いや、気のせいだ」
ジェイクは再び前を向いた。
嫌な感覚が背筋を走ったのだ。
「ん?なんか奥で動いてないか?」
「マイク、あんまり深入りするなよ」
ジェイクはずんずん先へ進むマイクに言った。
「さっきから悪寒が―――」
―――ッ!
ジェイクは振り向きざまに撃鉄を起こし、ライフルを連射した。
ティアの悲鳴が響く。
銃弾は彼女の髪をかすめ、彼女を背後から狙っていた者の頭脳を貫いた。
その者は悲鳴をあげ、床に落ちた。
「クモ!?」
ティアがゾッとして叫ぶ。
床に落ちたのは、中型犬程はあろうかというクモに似た生物だった。
しかし、肌はフィアや怪物ヘビと同じく灰色のゴム状で、頭部についた4つの目玉も白い濁眼だ。
クモは毛の生えた8つの足をわさわさと動かし、必死に逃げようとしている。
ジェイクは素早く銃弾をクモに撃ち込んだ。
クモの足から力が抜け、床に伏した。
「なんなんだ!?そのモンスターは」
部屋の奥でマイクが叫んだ。
「わからない」
ジェイクはクモの側に膝まづき、死骸をじっくりと眺めた。
「ただ、腹から糸を垂らして天井から吊り下がり、ティアの頭を後ろから貪ろうとしていたのは確かだな」
ティアが顔を青くする。
その時、ジェイクは気づいた。
囁くような声がする。
ティアとマイクも気づいたようだ。
しきりに辺りを見回している。
「―――ッ、まさか!?」
ジェイクはそう言うと天井に銃口を向けた。
ライトが闇を追い散らした。
ティアの恐怖の絶叫が響く。
天井は先程のクモで埋め尽くされていた。
囁くような声は、クモの体が擦れ合う音だったのだ。
クモ達は一斉に動き始めた。
光やティアのかん高い悲鳴に、神経を逆撫でされたのだ。
先程からの銃声や侵入者によって高まっていたクモ達のストレスが極限に達した。
クモ達が黒い津波のように壁を伝い降り、部屋の隅から押し寄せ、またある者は天井から飛び降りてくる。
「逃げろ!!」
ジェイクはそう言うと身を翻し、出口へ向けて駆け出した。
ティアが足をもつれさせながらもついてくる。
ショットガンの射撃音。
マイクだ。
クモが一斉に怒声とも悲鳴ともつかないような音をたてる。
部屋の壁から真ん中の通路に向けて、クモ達が押し寄せてくる。
再び銃声が鳴り響いた。
ジェイクはティアの手を引きながら、必死に出口を目指した。
あと20メートル。
クモがデスクの上を走り、実験器具やコンピューターが床に落ちた。
ザザザザザザザザザザ
クモ達の足が床を擦る音が不気味に響く。
ジェイクは足に絡みつこうとしたクモを蹴飛ばした。
あと10メートル。
クモが退路を塞ごうとする。
ジェイクは彼らを力ずくで突破した。
ジェイクに蹴り飛ばされたクモが宙を舞う。
あと5メートル。
マイクの悲鳴が響き渡った。
「ザーン、アーサー、先に行くんだ!」
クロウはそう言うと、正面の敵に軽マシンガンであるMP51を連射した。
グールが次々に弾丸を受け、バタリと倒れる。
「頼んだぞ!」
アーサーが叫び、フラフラと歩くザーンを庇いながら逃げていく。
クロウは頷き、弾倉を素早く装填した。
グール達がうめきながら、よたよたと歩いてくる。
「悪いな。お前達の仲間になる気はない」
クロウはそう言うと、再びトリガーを引いた。
銃弾が次々に吐き出され、再びグールが倒れる。
だが、クロウはそこでようやく気がついた。
―――弾切れ!?
いつの間にか、弾は尽きていた。
「チッ!」
クロウは役立たずになったMP51を投げ捨てると、グール達に背を向けた。
ハンドガンの弾はあるが、無駄使いはしたく無い。
グールの声が徐々に遠ざかる。
「さてと………」
クロウは立ち止まり、一息ついた。
「施設はどこかな………」
彼はそう言うと懐からコンパスを取り出した。
「っと、あっちか」
クロウはコンパスをしまうと、再び歩き出そうとした。
が、すぐに足を止めた。
「チッ」
いらだたしげな舌打ちが響く。
「囲まれたか」
彼は、グールに完全に包囲されていた。
「奴ら、こんな賢かったか!?」
クロウは言いながらハンドガンとナイフを抜き、それぞれ構えた。
グールはザッと見ても30体はいる。
血路を開くしかない。
「うおおおお!」
クロウは拳銃とナイフを手に、一番グールの層が薄いと思われる辺りへ向けて突進した。
先頭のグールが腕を振り上げ、彼を迎える。
だが、次の瞬間には、そのグールの腐った脳みそは拳銃の弾丸によって吹き飛ばされていた。
「次!」
クロウはそう言うと、噛みついてきた別のグールの顔にアッパーを食らわせ、体当たりで吹っ飛ばした。
最後のグールがうめきながらジェイクに組みかかる。
ジェイクは素早くその攻撃をいなすと、素早く拳銃の撃鉄を起こし、グールの顔に向けた。
「さよなら!」
クロウはそう言うとトリガーを―――
クロウは絶句した。
拳銃を向けている目の前のグールは、よく知っている男だった。
「ジョー……ジ……?」
クロウは途切れ途切れにつぶやいた。
ジョージだった物がクロウを見つめる。
その一瞬後、ジョージは大きく口を開けた。
しかし、クロウはトリガーを引けなかった。
ジョージを撃つ事など、できない。
クロウは喘ぎ、近づいてくる片足のジョージを見つめた。
ジョージの牙がクロウの首筋に近づく。
銃声が鳴り響いたのは、その時だった。
弾丸に脊髄を貫かれたジョージだった物はのけぞり、倒れた。
しかし、クロウの拳銃は火を噴いていなかった。
「クロウ!」
そう言いながら近くの茂みから出てきたのは、クレイジーだった。
手にはMP51が握られている。
「動くなよ!」
クレイジーはそう言うと再び銃を放った。
銃弾がクロウの背後に迫っていたグールの頭蓋をぶちまける。
クレイジーは銃を撃ちまくりながら、ボーッと突っ立っているクロウの腕を掴み、脱兎のごとく逃げ出した。
グールの悔しげなうめき声が聞こえてくる。
彼らはしばらく走った後、ようやく足を止めた。
「………んのバカ野郎!」
クレイジーはクロウの顔を思い切り殴り付けた。
尻餅をついたクロウが、殴られた頬を押さえ、クレイジーをぼんやりと見上げる。
「ためらうな!かつての仲間だろうと、今じゃただのゾンビだ!」
「……………」
クロウは言い返す気力も無く、ただ従順に頷いた。
クレイジーがため息をつき、ガシガシと頭の後ろをかいた。
「既に死んだ者を撃つ事をためらう必要なんてどこにある?生きているお前の命を優先しろ。それがこの状況を生き残る最良の行動だ」
クレイジーはそう言うとクロウを助け起こした。
「ところで、お前はなんでこんなところにいる?通信は?」
「…………通信機は壊れた。だから、別の通信機を探しに島の北端の施設を目指しているんだ」
クロウの言葉に、クレイジーは頷いた。
「そういうことなら協力しよう。俺は確かに異常な性格かもしれないが、生き残りたいのは同じだ」
「マイク!」
ジェイクは振り返り、部屋の真ん中辺りで悲鳴を上げているマイクに向かって叫んだ。
マイクの両足からクモ達が這い上がり、その脇腹や膝に牙を埋め込んでいく。
マイクの絶叫が響いた。
「マイク!」
ジェイクはティアを掴んでいた手を放すと、マイクに突進した。
数えきれない程のクモが次々にマイクに取りつき、牙を突き立て、肉を貪っている。
「やめろおお!」
ジェイクは叫び、床をジェイクに向けて津波のごとく突き進んでくるクモ達に対してライフルを構え、撃った。
しかし、この大群が相手では、鉛の弾丸も焼け石に水だ。
「ジェ……ジェイク!」
マイクが苦しげに叫んだ。
既にクモ達は彼の胸まで這い登り、体を埋め尽くしていた。
「逃げろ!早く!」
「馬鹿言うな!見捨てないぞ!」
ジェイクはそう言ったが、この状況を打破するのは相当に困難だとわかっていた。
ジェイク自身にもクモがさらに押し寄せてくる。
「マイク!絶対に助けてやるからな!」
ジェイクは必死に声を張り上げた。
するとマイクは、ジェイクに向かってにこりと微笑みかけ、静かに首を振った。
クモは既に彼の鎖骨付近まで、覆っている。
さらに、彼の首を這い進み、クモが彼の顔に取りついた。
「すまんな、ジェイク。おれはここまでのようだ」
マイクはそう言うと静かに目を閉じた。
彼の顔をクモが伝い、肉に食らいついていく。
「…天の父なる我らが神よ。願わくは、その広き御胸に我の迷える魂を迎え入れ給え……」
彼はそう言うと、自分の腰についた手榴弾を起動した。
手榴弾が起動するまでのほんの数秒。
そのわずかな間に、ジェイクは見た。
マイクがジェイクに向けて微笑みかけたのを。
それは、恐怖や苦しみから逃れた者の幸せな顔だった。
マイク。
ジェイクは叫んだつもりだったが、その声は手榴弾の連鎖爆発によってかきけされた。
マイクの腰についた手榴弾が一斉に爆発し、火炎と衝撃波を辺りにぶつける。
彼の周りのクモは一瞬で焼け死に、運良く離れていたクモも衝撃波で吹き飛び、混乱した。
「マイ……ク……」
ジェイクは黒焦げになったマイクの死体を呆然と見つめながらつぶやいた。
「ジェイク!」
ティアの声が、ジェイクをショック状態から現実に引き戻した。
見ると、ようやく落ち着いたクモ達が、再び彼に狙いを定めていた。
「くっ………!」
ジェイクは慌てて身を翻すと、出口で待つティアのもとへ走り出した。
クモ達もしつこく追ってくる。
「くそっ!しっつけーな!」
ジェイクはそう言うと手榴弾の栓を抜き、途中で下に落とした。
2秒後、手榴弾が爆発し、クモを吹き飛ばした。
「ジェイク、早く!」
ティアが叫ぶ。
ジェイクは足を速めた。
しかし、左右からクモが迫り、足に絡みつこうとする。
「ティア!」
ジェイクはティアの名を叫ぶと、ヘッドスライディングで部屋から飛び出した。
ティアが頷き、すぐに扉を閉める。
扉の向こうから何かの音が聞こえてきたが、しばらくして静かになった。
「ジェイク!」
ティアはジェイクの側に膝まづき、彼の体を素早く調べた。
怪我は、無い。
「よかった……」
ティアは安堵のため息をついた。
「ティア……」
突然、ジェイクが口を開いた。
「?」
疑問符を浮かべた彼女の唇を、ジェイクは突然奪った。
余りに突飛な事に、ティアが目を白黒させる。
口づけは、永遠のようにも、一瞬の出来事のようにも思えた。
「…………もう、死んでも惜しくないや」
顔を離したジェイクが、疲れた笑みを見せながら言った。
ティアの顔が一気に赤く染まる。
「や、な、あ、いま……」
ガチャン
窓の割れる音が響いた。
2人はとっさに互いにしがみついた。
「………聞いた?」
「ああ」
「………ぞ、ゾンビ?」
「たぶん、な」
ジェイクはそう言うと手元のライフルを掴み、立ち上がった。
確か、音は食堂の方から聞こえた。
ジェイクは慎重に歩き始めた。
そのすぐ後ろをティアがびくびくしながらついてくる。
青白い非常灯に照らされた廊下。
不気味だ。
―――カシャン
またどこかで音がした。
ティアの体がびくんと震える。
「大丈夫。大丈夫だ」
ジェイクはティアを勇気づけるというよりかは、自らを説得するかのように言うと、歩みをさらに進めた。
彼らは薄暗い廊下をゆっくりと進み、ようやく角にたどり着いた。
食堂は、この角の向こうだ。
次の瞬間、ジェイクの心臓は止まりかけた。
角の向こうから、足音がする。
しかも、音の様子からして2人のようだ。
ティアが顔面を蒼白にし、ジェイクの服にしがみつく。
ジェイクは唾と緊張をまとめてゴクリと飲み下し、ライフルを構えた。
足音はさらに近づいてくる。
コツコツ、コツコツ、コツコツ………
不気味な足音が否応なしに恐怖と緊張を高めていく。
ジェイクは肝を決め、飛び出した。
驚いた声が響き渡る。
「ジェ、ジェイク!?」
「教授!?」
ジェイクは慌てて銃を下ろした。
そこにいたのは、ザーンを支えながら歩いていたアーサーだった。
「どうしてここに?」
ジェイクの言葉に、アーサーは頭をかいた。
「いや、実は通信機が使い物にならなくなってな。この施設に通信機が無いか探しに来たんだ。それより、なんで正面扉が開いてない?おかげで窓を割って入らざるを得なかったじゃないか」
アーサーの不満そうな問いに、ジェイクは頷き、答えた。
「さっき、ウイルスに感染したらしい狼に襲われたんです。おおかた、ここで実験用に飼われてた犬が感染したんでしょう」
「ふむ、そうか」
アーサーはそう言うと、ザーンの背中が壁で支えられるようにして、床に座らせた。
「……隊長?」
ジェイクはザーンの異常にようやく気がついた。
ザーンの眼は落ち窪み、血走った目を落ち着き無く動かしている。
「隊長?どうしたんですか!?」
ザーンはゆっくりとジェイクを見上げると、口をもそもそと動かした。
「感染………したんだ」
ジェイクは驚愕した。
「そんな………」
喘ぎ声しかでない。
ティアが息を呑む。
「ゾンビ化まで、そう時間は無いだろう……」
アーサーがうつむきながら言う。
「彼まで……こうなるとは……」
そう言ったアーサーを、ジェイクはハッと見つめた。
「彼まで?……そういえば、ドクは?ジョージは?それにクロウは!?」
アーサーはため息をつくと、疲れきった表情をジェイクに向けた。
「ドクとジョージは…死亡した。クロウは……行方不明だ」
「………そんな……」
ジェイクは床にくずおれた。
「そんな…………」
キツかったが、楽しかった彼らとの日々が脳にフラッシュバックする。
「…………てめええええ!!」
ジェイクは叫ぶと、アーサーの襟首を掴んで押し倒した。
「てめえがいなければっ、こんなことにはっ!!」
ジェイクはそう言うと組み伏せたアーサーの首を掴んだ。
「ジェイク、やめて!」
ティアが必死にアーサーからジェイクを引き剥がそうとする。
しかし、ジェイクの怒りは収まる所を知らなかった。
彼は獣のように唸るとティアを突き飛ばし、ハンドガンを腰から抜いて、照準を青い顔をしているアーサーの額に向けた。
「死ね!」
ジェイクは怒り狂って叫んだ。
アーサーが恐怖に目を見開き、自らの脳天を狙っている銃口を見つめる。
「やめろ!」
突然、声が響いた。
ザーンだ。
「ジェイク、今すぐ銃を下ろせ。ここで争っても、利点は何も無い!」
ジェイクは怒りに血走った目をザーンに向けた。
「だけど!」
「けどもだっても無い!お前がやっている事は、ただの衝動に任せたガキのような行動だ!」
ジェイクはしばし目を閉じると、あきらめたかのように深いため息をつき、銃を下げた。
ザーンは続けた。
「オレ達は〈SAF〉だ。その誇りを忘れ、護衛対象を殺すなんていう愚かな事をするな…」
ザーンはそう言うと目を閉じた。
「………教授、通信機を探しに行ってくれ」
「あ、ああ………」
アーサーはビクビクしながら立ち上がると、逃げるようにその場を逃れた。
静寂が降りる。
「……隊長」
突然、ジェイクが口を開いた。
「博士を護衛してきます。ここで彼に死なれては、俺達〈SAF〉の輝かしい功績に傷がつきますから」
ザーンは目を閉じたまま、満足げに頷いた。
「それでこそ、〈SAF〉だ」
「よし、通信は送った」
アーサーは通信機を置き、満足そうに言った。
「すぐに救援のヘリを送るそうだ」
「そうか」
ジェイクは頷き、一言つぶやいた。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が降りる。
やがて、アーサーが口を開いた。
「君達を巻き込んだ事に関しては……すまなく思う」
「もういい」
ジェイクは頭を振りながら言った。
「彼らは〈SAF〉として立派に戦い、殉死したんだ。みんな満足だろうよ」
彼はそう言うと、寂しげに笑った。
「クロウ、ジョージ、ドク、マイク、ナッド、レイナ………。みんな俺を置いて二階級特進しちまいやがった」
ジェイクはそう言うと、体の奥から込み上げる熱い物を必死に抑えた。
「そう……!俺だけ置いて……!」
しばらく、薄暗い室内は、すすり泣きの音に満ちた。
「………すまない」
アーサーはそうとだけ言うと、部屋を出た。
月明かりが壊れた窓から廊下に射し込んでいる。
アーサーはタバコを口にくわえると火をつけ、煙を吐いた。
白い煙が暗闇に消えていく。
「……こんなことになるとは、な」
アーサーはそうつぶやくと、吸い終えたタバコを窓の外に捨てた。
静寂が建物を包む。
アーサーはしばし目を閉じ、その永遠のような静寂に身を任せた。
その時だった。
アーサーは静寂の中に、小さなうめき声を聞きつけた。
それも、1つでは無い。
「…………?」
アーサーは感覚を研ぎ澄まし、耳を必死に傾けた。
うめき声は地を這うように聞こえてくる。
キィ………
突然、アーサーの背後の扉が開いた。
ジェイクだ。
「なんだ?この音………」
彼もうめき声を聞きつけていた。
もちろん、アーサーにもわからなかった。
2人は互いに首を傾げ、耳を澄ませた。
うめき声のような音は次々に数を増やし、次第に大きくなっていく。
次の瞬間、2人の脳に恐ろしい考えが浮かんだ。
「「まさか………っ!?」」
2人は同時に駆け出し、施設の屋上へと通じる階段を駆け上った。
階段の先は扉で塞がれていたが、ジェイクの一蹴りで錆びていた鍵が弾け飛び、勢いよく開いた。
2人は屋上に飛び出した。
そして、信じられない物を目にした。
施設は、大量のグールに包囲されていた。
海のすぐ側にあるこの施設を、グールの大群が施設から50メートル程の間を空け、半円形に囲っている。
うめき声は今や大合唱となり、地を不気味に這い進んでいた。
「…………もう終わりだ」
ジェイクはその場にへたりこんだ。
「こんなに大量のグール………相手にできるはずが………」
「…………なぜだ」
アーサーが納得できないといった感じにつぶやいた。
「グールに包囲を考えつくような知力があるか?」
「奴らですよ」
ジェイクは力無く敵の大群のまっただ中にいる連中を示した。
そこにいたのは、50体程のフィアだった。
ボウガンを構え、矢筒を背負い、カタパルトに岩を装填している。
「Oh my GOD!」
アーサーは驚きに打たれて叫んだ。
「奴らがグールを指揮してるだって!?」
「ああ、間違いない」
ジェイクはフィア達から目を離さずに頷いた。
「ジャングルでフィアがグールを指揮しているのを見た」
「……………とりあえず」
アーサーがやっとの事で口を開いた。
「ザーンとティアに報せよう」
「まずいな………」
クレイジーが茂みから施設を眺めながらつぶやいた。
「水も漏らさぬ重囲って、奴だぜ、ありゃ」
クロウは彼の隣で頷いた。
施設はグールの大群とフィア達に完全に包囲されている。
フィアは2台のカタパルトを動員し、完全に攻城戦の構えだ。
「どうする?」
「どうするもこうするも………」
クレイジーの問いに、クロウは呆然とつぶやいた。
「どうしようも無いだろ」
ジェイクがいくつかの銃を手に屋上へ再び飛び出したまさにその時、フィア達の雄叫びが響き、攻撃が始まった。
カタパルトから放たれた2つの岩が弧を描き、二階建ての施設の一階と二階にそれぞれ激突した。
施設が激しく揺れた。
窓ガラスの割れる音や、壁の崩れる音がする。
怒声と共に、3つの銃声が聞こえてきた。
アーサー、ザーン、そしてティアが窓を銃眼にし、敵を迎撃しているのだ。
「っと!俺も早くしないと!」
ジェイクは慌てて屋上の柵に近づいた。
柵は腰くらいの高さだ。
ジェイクはその柵に施設の武器庫から持ち出した固定式のマシンガンを設置し、周りを見渡した。
大量のグールが、血と肉に飢えたうめき声をあげながら施設に迫ってくる。
ジェイクはミサイル・ランチャーを担ぎ上げると、照準をグールに合わせた。
トリガーが引かれた。
ポータブル・ミサイルが弾道を残して飛び、グール達の中に着弾した。
爆発。
グール達がバラバラになって吹っ飛ぶ。
だが、その死体を踏み越え、新たなグールが迫ってくる。
ジェイクはミサイル・ランチャーを捨て、グレネード・ランチャーを取り出した。
素早く弾を込め、発射する。
放たれたグレネードは弧を描き、地面に落ちて爆発した。
火炎が飛び散り、グールの行く手を防ぐ。
「よし、もういっちょう!」
ジェイクがそう言って別の弾に手を伸ばしたその時、屋上にカタパルトから放たれた岩がぶつかった。
岩がコンクリートを砕き、破片を飛び散らせる。
「うわ!」
ジェイクは慌てて伏せた。
鋭い破片が彼の服を切り裂く。
「んなろっ!」
彼は立ち上がると固定式マシンガンを掴み、撃ちまくった。
凄まじい勢いで弾が撃ち出され、グールを薙ぎ倒していく。
その時、ジェイクは気がついた。
「……なんでグールはフィアからの命令を聞くんだ?」
次の瞬間、飛んできた岩が正面扉を破壊した。
「く………」
アーサーは茶色の帽子を抑え、這いつくばったまま顔を上げた。
周りはもうもうと白い塵が舞い上がっている。
岩が扉を押し潰したのだ。
ジェイクのマシンガンの音が聞こえた。
「ざ、ザーン!ティア!無事か!?」
アーサーは急いで立ち上がった。
返事は、無い。
「ザーン!ティア!」
アーサーは必死に周りを見回した。
舞い上がった白い塵のせいで、視界は0に等しい。
「ザーン………」
その時、アーサーは気づいた。
大量の白い塵の中に、人影がある。
「ザーン?それともティアか?」
アーサーはそう言いながら近づいていった。
「無事か?怪我は―――」
彼の声は、唐突に悲鳴に変わった。
塵の中から現れたグールが、牙を剥き出しにして彼に襲いかかったのだ。
彼はそのままグールに押し倒された。
グールが腐った目をギラギラ光らせ、暖かい血に飢えた口をいっぱいに開く。
そして目にも止まらぬ速さでアーサーの首筋に―――
ダン!
重い音が響き渡った。
グールの体がビクンと震え、力を失ってアーサーの体からずるりと落ちた。
「教授、立つんだ!」
ザーンが疲れきった顔をして、アーサーに手を差しのべた。
彼の顔はもはやほとんどゾンビと変わらない。
手もところどころ腐食している。
アーサーはその手を掴み立ち上がった。
「ティアは?」
「2階へ逃げた!」
ザーンはそう言うと目を見開き、アーサーの後ろを見つめた。
「おいおいおい、ヤバいぞ!」
アーサーが振り向くと、破壊された正面扉から、グールが雪崩れ込もうとしていた。
「ちくしょう!」
アーサーは素早くライフルを構え、撃った。
先頭のグールが撃ち抜かれた首を押さえ、バタリと倒れる。
アーサーは再び狙いを定めた。
だが、次の瞬間、グール達を邪険に突き飛ばしながらフィアが飛び出し、手にしたボウガンを放った。
矢が放たれ、アーサーの脇腹に突き刺さった。
ズドッ!という音が響く。
アーサーは呆然と、自らの脇腹に突き立ち、震えている矢を見つめた。
「教授!」
ぐらりとよろめいたアーサーを、ザーンが慌てて支えた。
グール達が先を争ってザーン達に向かってくる。
ザーンはアーサーを引きずって階段を上りながらハンドガンを抜き、連射した。
グールの腐った皮膚が弾け飛ぶ。
しかし、グール達はなおもよたよたと歩いてくる。
「くそっ!このゾンビども―――」
ドグン
ザーンの心臓が激しく鼓動した。
「な………?」
ザーンは自らの体に訪れた変異に、愕然とした。
アーサーの襟首を掴んでいる手の皮膚が急激に腐り始め、筋肉が縮んでいく感覚がわかる。
意識が朦朧としてきた。
ゾンビ化の最終段階が始まったのだ。
「―――ガハッ!」
ザーンは嘔吐した。
胃の中の物が、血や痰と共に飛び出す。
「―――くそっ!」
ザーンはアーサーの襟首を掴み直すと、力を振り絞って二階を目指した。
「チャンスだな」
岩が施設の正面扉を押し潰すのを見て、クレイジーがつぶやいた。
「は?」
そう聞き返したクロウを見て、クレイジーはにやりと笑った。
「奴らに地獄を見せてやる。行くぞ!」
クレイジーはそう言うと茂みから飛び出し、雄叫びをあげた。
近くで2台のカタパルトを制御していたフィア達が驚いて振り返る。
しかし、彼らは一瞬で脊髄を撃ち抜かれ、倒れていた。
「無茶苦茶だ!」
クロウは喘ぎながら言った。
クレイジーがにやりと笑う。
「上等だ!」
彼はそう言うといならぶグール達の背中に向けて軽マシンガンであるMP51を連射しながら突撃した。
クロウもしぶしぶ続く。
撃たれたグールが振り返り、奇声をあげる。
だが、彼らはクレイジーとクロウの銃さばきの前に、次々に倒れた。
銃声が鳴り響き、腐った血が飛び散る。
ほどなく、クロウとクレイジーは細いながらも突破口をつくり、施設の中に入った。
どこからか銃声がする。
「二階か?」
「ああ」
クロウはクレイジーの言葉に頷くと振り返った。
「急ごう。死者の群れはすぐそこだ」
グール達がクロウとクレイジーに倒された味方の死体を踏み越え、施設に乱入してくる。
クレイジーは心底楽しそうに笑うと、階段を駆け上がった。
「くそっ!」
ジェイクは弾切れで使い物にならなくなった固定式マシンガンを捨て、屋上から施設の二階に駆け込んだ。
銃声が鳴り響いている。
彼は背中にくくりつけてあったライフルを手にとると、角からそっと先を覗き見た。
廊下はグールやフィア達が歩き回り、獲物を求めて次々に部屋の扉を開け放っている。
ジェイクは密かに味方の姿を探した。
ザーン、アーサー、ティア。
だが、彼らはいなかった。
廊下にはフィア達の気味悪い唸り声――驚いた事に会話のようだ――が満ちていた。
と、突然、廊下の中程にある階段の辺りで銃声が響いた。
暗がりで、閃光が走るのが見える。
フィア達が怒声をあげ、一斉にそちらへ向かった。
しめた!
ジェイクは素早くライフルを構え、近くのフィアに照準を向けた。
銃口から弾丸が飛び出し、背中を向けていたフィアの体を貫いた。
フィアが体を一瞬ビクリと震わせ、こちらに向き直る。
その時、銃を撃ちまくりながら階段から廊下に飛び出した2人を見て、ジェイクは喘いだ。
「クロウ!?」
クロウもこちらを見て喘いだ。
「ジェイク!?生きてたのか!?」
次の瞬間、ジェイクは後ろから凄い力で引っ張られ、倒れた。
一瞬前まで自分の首があった場所を矢が貫く。
「ボーッとしないで!」
ジェイクを引き倒したティアが鋭く言う。
「ティア、いつの間に―――」
ヒュン
矢が2人をかすめる。
「早く!上へ!」
ティアの言葉にジェイクは頷き、ティアに従って屋上への階段を駆け上った。
空は白み始めていた。
ジェイクは屋上で周りを見渡した。
施設は凄まじい数のグールに囲まれている。
その時、フィアが彼らを追って屋上に飛び出した。
トカゲ人間がジェイクを見つけ、ボウガンを向ける。
しかし、ジェイクのライフルが火を噴き、フィアを何度も撃ち抜いた。
フィアは撃たれる度によろよろと後退し、ついには端にまで追い詰められた。
柵に寄りかかったフィアが最後に見たのは、自らに向かってくる弾丸だった。
そのフィアは撃たれた衝撃で柵を乗り越え、下へと落ちていった。
だが、ジェイク達が息をつく暇も無く、グール達が屋上になだれ込んできた。
「くそっ!」
ジェイクはライフルを撃ちまくった。
銃弾が次々にゾンビを仕留めていく。
「はっはぁ!まだまだ殺られないぜ!」
ジェイクは調子に乗って叫んだ。
ライフルが轟音をあげて弾を繰り出していく。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
ズガキッ!
「ズガキ?」
「ジャム〈弾詰まり〉よ!」
不審げな顔をしたジェイクに、傍らにいたティアが悲鳴のように叫んだ。
確かに、ライフルの廃莢穴に薬莢が詰まっていた。
これでは役にたたない。
「くっ!」
ジェイクは役たたずの銃を投げ捨て、ハンドガンを抜いた。
数秒後。
弾切れした。
「ちくしょう………」
ジェイクはいたたまれない思いで、迫りくるグール達を見つめた。
既に屋上の端に追い詰められており、もはや逃げ場は無い。
ジェイクは下をちらりと見た。
下は、小さな桟橋のある海だった。
施設は海の近くなため、裏手に出るとすぐに海なのだ。
「ティア、命を俺に預けろ」
「え?きゃあっ!?」
ジェイクは言うや否やティアの腰と背中を抱え、屋上から飛び降りた。
ティアの絶叫が響く。
ズン!
重い音と共に、ジェイクは地面に着地した。
足を凄まじい痛みが駆け抜ける。
「―――――――ッ!!」
ジェイクは痛みに声をあげそうになりながらも、すぐ目の前の海に飛び込んだ。
ティアが痛みに声をあげる。
切断した左肩に海水が染み込んだのだ。
「頼む、我慢してくれ………」
ジェイクはそう言いながら木の桟橋の下に隠れた。
息を潜め、ひたすら隠れた。
ティアは痛みに歯をくいしばり、目に涙を浮かべている。
突然、扉の開く音がした。
ジェイクはソッと覗き見た。
フィアだ。
ボウガンを手に、辺りを素早く見回している。
ジェイク達を探しているのだ。
フィアはしきりに辺りを警戒しながら、ジェイク達の隠れている桟橋に近づいてきた。
「…………もう、終わり、かな?」
アーサーはソッとつぶやいた。
ここは施設の武器庫。
たくさんの銃や火薬、そして爆弾が箱詰めされている。
鍵をかけた扉から、扉をぶち壊そうとしているゾンビ達のうめき声が聞こえた。
「教授………あんたは早く逃げろ……」
ザーンが苦しげに言った。
顔は黒ずみ、皮膚はほとんど腐っている。
「早く……。でないと、オレがあんたを殺しちまう……」
「………わかった」
アーサーはそう言うと立ち上がった。
「……すまなかったな」
アーサーのその言葉を聞いたザーンは、ゆっくりと首を横に振った。
「気にしちゃいない。特殊戦闘部隊に所属している以上、遅かれ早かれこうなるさ」
「………さよならだ、ザーン隊長」
アーサーはそう言うと、武器庫の窓を割り、外へ出た。
窓のすぐ下にはうまいぐあいに出っ張りがある。
アーサーはそれに足をかけ、施設の外側を伝い進んだ。
ザーンはそれを窓から身を乗り出して、満足げに見守った。
アーサーが施設の端にある非常階段にたどり着き、駆け上っていくのが見えた。
「………Don't worry」
ザーンは静かに口ずさみながら振り返った。
扉が内側にめり込み、バタリと倒れる。
グール達がなだれこんで来た。
「I will surely happiness」
彼は口ずさみながら、腰につけた手榴弾を抜いた。
「Don't worry」
次の瞬間、光と火炎が爆発した。
「うわあああああああ!?」
屋上でグールと戦っていたクロウは、急に揺れた足元に狼狽した。
建物の中腹の武器庫から火炎と衝撃波が飛び出し、次々に壁や床を叩き壊していく。
瓦礫が吹っ飛び、グールの焼ける臭いがする。
中腹を完全に吹っ飛ばされた建物は安定を失い、崩壊し始めた。
屋上の床にひびが走り、がらがらと崩れていく。
クロウは無我夢中で受け身をとった。
クレイジーの声やグールのうめき声がパタリと消える。
施設は崩壊した。
ズドォン!!
凄まじい破壊音と共に、建物の中腹が爆発した。
火炎が飛び出し、桟橋に迫ってくる。
フィアが混乱した声をあげたが、一瞬で炎に飲み込まれた。
ジェイクは迫りくる炎壁を見て慌ててティアを抱きしめ、海に潜ろうとした。
次の瞬間、炎が桟橋を、そしてジェイクとティアをも飲み込んだ。
「う………」
ジェイクはゆっくりと目を開いた。
白い塵がもうもうと立ち上っていた。
近くでクレイジーが倒れている。
「クソッ………いってぇ………」
クロウは体の上にのし掛かっていた瓦礫をどかしながら立ち上がった。
辺りには瓦礫が大量に転がり、その間にはフィアやグールが倒れている。
「………クレイジー、起きろ」
クロウはクレイジーの体を揺さぶった。
クレイジーが目をパチリと開く。
「う?なんだ?何が起きたんだ?」
「よくわからないけど、なんか大規模な爆発が起きて、施設が崩壊したんだ」
クロウはクレイジーを助け起こしながら言った。
「ま、当面のところ、崩壊の原因より、この場を切り抜ける事の方が重大だ」
クロウは周りを見回した。
白い塵のカーテンが徐々に晴れる。
そのカーテンの向こうから現れたのは、施設に入りきれなかった運のいいゾンビ達だった。
「…………まだ戦えるか?」
クロウはナイフを腰から抜きながら言った。
銃は崩落の際に落としていた。
「ちとキツいな。あばらを3、4本折っちまった」
クレイジーがそう言って、脂汗の浮かんだ笑みを見せる。
「…………第一、あの数を相手に2人じゃ勝ち目が無い。地獄へご招待、だ」
2人の間に絶望が漂う。
その時、クロウの耳に、グール達のうめき声とは別の音が聞こえてきた。
「おいおいおい、まさか!」
クレイジーが叫ぶ。
次の瞬間、ジャングルの向こうからプロペラの音をたてながら3機の軍用ヘリが現れた。
2機の武装ヘリのガトリングが唸りをあげる。
次々に銃弾が海岸にひしめくグールを薙ぎ倒していく。
「いいぃぃぃぃぃぃぃやっはぁ!!」
クレイジーが銃を振り上げて叫んだ。
「助かったぁ!」
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