JEDIMANの瞑想室

JEDIMANの瞑想室

第1章 インフェルノ<灼熱地獄> <2>


フィアが鉄条網を乗り越え、手にしたブラスターから死の雨を放つ。
シュナイダーは自らに襲いかかってきたグールを蹴倒すと、フィアに向かって銃を連発した。
しかし、銃弾はいずれも急所をそれた。
フィアがシュナイダーに気づき、ブラスターを向ける。
「おっと」
シュナイダーがつぶやいた次の瞬間、赤いレーザー弾が向かってきた。
シュナイダーはとっさに近くの瓦礫の陰に飛び込んだ。
瓦礫にレーザーが次々に炸裂する。
「ああ、くそ!」
シュナイダーは近くの石を手に取ると、瓦礫の外に放った。
フィアの注意が一瞬そちらにそれる。
その瞬間、シュナイダーは瓦礫から飛び出し、フィアを撃ち倒した。
「邪魔邪魔邪魔ぁ!」
ローラナがグールを背負い投げするのが見えた。
投げ飛ばされたグールがフィアを巻き込み、もんどりうって倒れる。
「いいぞ!ローラナ」
シュナイダーはそう言うと振り向きざまに銃を連射した。
背後から来たグールが穴だらけになって倒れた。
「よし、やったぞ!」
スコットが叫んだ。
シュナイダーが辺りを見回すと、確かにグールはもはや少なかった。
フィア達が逃げていく。
「守りきったんだ!」
ドイルが腕を振り上げた。
「いや、まだだ」
クロウは通りの先を見ながら言った。
「第2波だ!くるぞ!」
確かに、通りの先をたくさんのグール、フィアが少し、そして3機のヴェノムが突き進んで来ていた。
「守備隊長!防衛体勢を整えろ!」
クロウは怒鳴ると、ローグとドイル、そしてカトリーナを手招きした。
「なんです?」
ローグが首をかしげる。
クロウは壮絶な微笑みを見せた。
「奴らに地獄を見せてやるのさ」



「FIRE------ッ!」
守備隊長の声と共に、封鎖線のバリケードからアメリカ兵達が銃を放った。
グールがよろよろと前進し、その後ろからフィアやヴェノムが射撃している。
「あれ?クロウは?」
ネイオが辺りを見回した。
「さあな、知らん」
リッドがバリケードに身を潜めながら言った。
「あーあ、ロサンゼルスじゃなくてデトロイトに行けば良かったな」
マージョラムが遮蔽物に炸裂したレーザーに狼狽しながら言った。
「まさか地獄に巻き込まれるとは思わなかったぜ」
戦車がシェルを放つ。
爆発がグールを粉砕した。
しかし次の瞬間、戦車はヴェノムから放たれたミサイルを食らって大破した。
「ちくしょう!増援はまだか!?」
スコットが爆発した戦車から飛んでくる破片に気をつけながら叫んだ。
「そんなものを送る余裕が果たして司令部にあるかな!?」
ドミニクが銃を撃ちながら叫んだ。
「とにかくやるしかない!」



クロウはビルの窓から、眼下を進軍するヴェノムを見てにんまりした。
「どうするんだ?クロウ」
ドイルが訊いた。
クロウは先ほどの壮絶な笑みを見せた。
「ついてこい」
次の瞬間、クロウは窓から身を投げた。
「めちゃくちゃだ!」
ドイルが喘ぐ。
「と、とにかく行きましょう!」
カトリーナが続いて窓から飛び出した。
「あーもう!南無三!」
ローグがさらに続く。
「くそっ!クロウ、命預けたぜ!」
ドイルも渋々飛び出した。



クロウは華麗に先頭のヴェノムのコクピット上部に飛び乗った。
流線型のキャノピーの奥でフィアがクロウを見て驚いた顔をする。
クロウはナイフを取り出すと、キャノピーに叩きつけた。
刃がかけた。
「おっと」
クロウはつぶやくや否や、後方に飛び、ヴェノムの足の1つに着地した。
先ほどまでクロウがいた場所を後方のヴェノムから放たれたレーザーガトリング弾が通過する。
フィアが右前足の上に立つクロウを殺そうとガトリングをそちらに向ける。
だが、クロウの反応は素早かった。
彼はガトリングが唸りをあげる前に手榴弾をガトリングの銃口に突っ込み、ヴェノムから飛び降りた。
手榴弾が爆発し、ヴェノムのコクピットの半分が吹き飛んだ。
ヴェノムがよろめき、轟音をあげて倒れる。
しかし、地面に転がったクロウに後方のヴェノムがガトリングを向けた。
「ちぃっ!」
クロウは急いで体をゴロゴロと転がした。
彼の後を追うように、レーザーが道路に炸裂する。
その時、ローグが手榴弾をヴェノムの足下に投げた。
爆発が起き、ヴェノムがバランスを崩す。
その隙にドイルがクロウを助け起こした。
「まったく!むちゃすんな!」
ヴェノムは体勢を立て直すと、再びガトリングをクロウらに向けた。
「ッ! まずい!」
「大丈夫だ」
ドイルが余裕そうに言った。
「カトリーナがいる」
次の瞬間、ヴェノムのコクピットに強力なレーザーが炸裂した。
ヴェノムがよろける。
さらにもう一発。
その攻撃はヴェノムのキャノピーを粉砕した。
「大丈夫?」
カトリーナがレーザー・ランチャーを肩に構えながら言った。
「お前、そんなものどこから………」
クロウの問いにカトリーナは肩をすくめた。
「フィアの死体から」
「よし、最後の奴だ!」
ドイルはそう言うと、倒れたヴェノムの陰に隠れ、最後尾のヴェノムに向かって銃撃を浴びせた。
カトリーナがレーザー・ランチャーにエネルギーを充填し、構える。
次の瞬間、ゴリアトから放たれたミサイルが彼らの近くに着弾した。
「ぬあっ!」
クロウは慌て伏せた。
ミサイルの破片が凶器となって飛んでくる。
「きゃあっ!?」
「カトリーナ!?」
クロウはカトリーナの悲鳴に顔をあげた。
カトリーナが肩を押さえている。
指の間から血が溢れだしていた。
破片が肩をかすめたようだ。
近くでレーザー・ランチャーが真っ二つに切り裂かれている。
「大丈夫か?」
クロウはカトリーナに駆け寄ると、自らの上着を脱いで噛み裂き、カトリーナの傷を止血した。
「おい、そのランチャーがないと………」
ドイルが狼狽しきって言った。
「あいつをぶっ飛ばせない!」
確かに、レーザー・ランチャーが無ければ、ヴェノムの装甲に打ち勝てるのは手榴弾ぐらいしかない。
ローグが遮蔽物の陰から銃を撃ちまくっているが、ヴェノムはびくともしていなかった。



「くそっ!クロウ達がやばいぞ!」
ネイオは銃から弾倉を落とし、新しい弾倉を取り付けながら言った。
グールの大軍の向こうで、ヴェノムにクロウ達が苦戦しているのが見える。
グール達はもはや封鎖線のすぐ側に来ていた。
「こっちもくそまずい状況だぜ!?」
マージョラムが叫ぶや否や、ついにグールがバリケードに取りついた。
グールがのっそりとバリケードを乗り越えてくる。
「うわあああああ!」
マットが目の前のグールに銃撃を浴びせまくった。
グールに次々に銃弾が炸裂した。
グールがのけぞる。
マットは安心のため息をついた。
しかし、グールは持ち直し、マットに飛びかかった。
マットの絶叫が響き渡る。
しかし、グールは凄まじい蹴りを受けて吹っ飛んでいた。
「ふー、大丈夫か?」
ネイオがマットに言った。
だが、マットは恐怖に目を見開いた。
「後ろ!」
ネイオは殺気を感じ、とっさに横へ跳んだ。
ネイオがつい今さっきまでいた場所に、フィアがブラスターを棍棒のように振り下ろした。
「なろっ!」
ネイオはフィアにエルボーを食らわせ、息をつく暇もなく間接技を極(き)めた。
フィアがどさりと地面に倒れる。
「ふう、これで安全―――」
次の瞬間、近くの地面にゴリアトから放たれたミサイルが着弾し、大量のアスファルトの破片を吹き飛ばした。
「…………とは言いがたいな」
ネイオはアスファルトの破片から腕で顔を庇いながらつぶやいた。



「ドイル、援護してくれ!僕がなんとかヴェノムにグレネードを取りつける!」
ローグが瓦礫の陰に身を潜めながら叫んだ。
「むちゃくちゃだ!」
ドイルが喘いだ。
爆発音が響き、2人は思わずよろめいた。
「やらないと、ヴェノムがみんなを殺してしまう!」
「だからって!」
再び爆発音。
瓦礫が吹っ飛んで来て、2人は首をすくめた。
「行くなら早くしろ!」
クロウがカトリーナを看ながら、周囲の爆音に負けないように叫んだ。
「ローグ、手榴弾はヴェノムの背中にあるエネルギー・プラントに設置するんだ!」
「了解!」
ローグはそう言うと、ヴェノムまでの距離を素早く目測した。
およそ30メートル。
行くしかない。
「ドイル!Cover me!」
「ああくそっ!どうなっても知らないからな!」
ドイルは叫ぶや否や、ヴェノムに向かって銃撃を開始した。
ヴェノムの注意がそちらにそれる。
「GO!」
ローグは瓦礫に満ちた道路を走り始めた。
ヴェノムがローグに気づき、ガトリングをそちらに向ける。
「やばっ!」
ローグはとっさに瓦礫の陰にヘッドスライディングした。
レーザー弾が瓦礫に次々に炸裂する。
「ローグ、走れ!」
ドイルが叫び、グレネードを放った。
グレネードがヴェノムのまん前で破裂する。
光の洪水が起きた。
フラッシュ・グレネードだ。
瓦礫のおかげで閃光を直視せずにすんだローグは、光が収まるのを待って瓦礫から飛び出した。
ヴェノムは挙動不審によろめいている。
フラッシュ・グレネードのせいで、パイロットのフィアの視力は数秒間回復しないだろう。
よし!
ローグはつぶやき、瓦礫ばかりの悪路を疾走した。
あと20メートル………15メートル……
次の瞬間、ローグの足下でミサイルが炸裂した。
フィアが視力の回復しないまま、適当に撃ったのだ。
ローグは凄まじい衝撃を受け、一気に吹っ飛ばされた。
瓦礫に体が叩きつけられる。
一瞬後、壮絶な痛みが彼を襲った。
肋骨の2、3本は折れただろう。
「ゴホッ!」
ローグはその場で咳き込んだ。
少量だが、血が口から飛び出す。
「ちっくしょ…………ここで死ねるかよ!」
ローグは叫ぶと、ベルトから手榴弾をむしり取り、ヴェノムへ向けて走り出した。
視力の回復したフィアが正確にローグを狙う。
だが、ローグは火事場の馬鹿力を発揮していた。
彼はヴェノムからレーザー弾が放たれると同時に、瓦礫を足場にしてジェダイ顔負けの跳躍をした。
レーザーが虚しく空を切る。
ローグは華麗に着地すると、腰のスモーク・グレネードを地面に叩きつけた。
煙が一気に噴き出し、辺り一面に溢れていく。
ヴェノムはその煙に明らかに狼狽しながらローグの姿を捜した。
しかし、煙が濃くてなかなか見つからない。
と、その時、フィアは、煙の中に人影を見つけた。
ズタボロの軍服。
間違いない、ローグだ。
フィアは勝利の雄叫びをあげ、ヴェノムのガトリングを撃ちまくった。
人影に次々にレーザーが炸裂する。
しかし、しばらくしてフィアは気づいた。
ローグだと思ったのは、軍服を被せた瓦礫だった。
「バーカ。僕は―――」
ローグがヴェノムの背後の煙の渦から飛び出した。
彼はそのままヴェノムの足を駆け上がると、ヴェノムの背中のエネルギー・プラントに手榴弾を押し込んだ。
「こっちだっつの!」
ローグはヴェノムから飛び降りた。
手榴弾が爆発した。



「守りきったぞ!」
ドミニクが高らかに宣言した。
彼らが守備していた封鎖線は持ちこたえていた。
クロウ達も封鎖線に帰ってきた。
「他の守備ポイントはどうなってるのかな」
ドイルがつぶやいた。
「さあな」
マージョラムが答え、丘の稜線からミサイルを撃っている2機のゴリアトを仰いだ。
「あのばけもんがいる以上、勝利は難しいけどな」
「…………暗くなってきたな」
スコットが空を見上げた。
「夕食は配給されるの?」
ローラナが弾薬箱に座りながら訊く。
その瞬間、ゴリアトからの攻撃を受けてビルが傾き、ジャンクションにあった重迫撃砲陣地に倒壊した。
迫撃砲の砲弾が次々に暴発し、瓦礫に兵士が押し潰されていく。
「………OK。大丈夫。答えわかった」
ローラナはうんざりしたように言った。
「増援は無し。補給もなし。そのうえ、迫撃砲の援護も失ったか……」
ビッドがため息をついた。
「だけど、退却するわけにはいかない」
ローグはそう言うと、手にした銃をリロードした。
「でも、第3波がきたら耐えられるでしょうか……」
カトリーナが肩の傷を痛そうに押さえながら言った。
傷に巻いたクロウの服が赤く染まっている。
その時、ゴリアトから放たれたミサイルが彼らに向かってくるのが見えた。
「おいおいおいおい、来るぞ!」
シュナイダーが叫んだ。
ミサイルは他のミサイルより2回り近くも大きく、先端が尖っている。
まるで先端が鋭く尖ったバドミントンのシャトル(球)のようだ。
「伏せろ!」
ビッドが叫んだ瞬間、封鎖線から50メートル程先にシャトル・ミサイルが突っ込んだ。
尖った先端がアスファルトを砕貫した。
アスファルトの破片が飛び散る。
しかし、シャトルのようなミサイルは爆発しなかった。
「…………不発……か………?」
ドイルが恐る恐る顔を上げながらつぶやく。
もうもうと巻き上がっていた土煙が収まっていく。
シャトルのようなミサイルは、杭のように道路に突き立っていた。
「不発弾か?」
ドミニクが頭をかく。
ネイオが頷いた。
「そうみたいだな。あれに近寄るなよ。危な―――」

ガシュウ………

空気が抜けるような音が響き、シャトルの中腹部分が開いた。
「なっ、なんだ!?」
シュナイダーが慌て銃をあげながら叫ぶ。
囁くような声が聞こえてくる。
「嫌だ……」
カトリーナがいやいやと言うように首を振りながら後ずさる。
「嫌な感じがする……」
「俺もだ……」
リッドがゾッとしたように言った。
「あの囁くような音……。寒気がする……」
囁くような音はどんどん大きくなっていく。
と、急に音が消えた。
「音が……」
「消えた?」
マージョラムとローラナがつぶやく。
次の瞬間、全員が殺気を感じた。
「来るぞ!」
クロウがライフルを構えた。
次の瞬間、何千万体もの、牙を持った巨大なダンゴムシがシャトルのドアから溢れだしてきた。



「守備ポイントB、突破されました!」
「シャイニンズ・ストリートに転進中だった第4機甲中隊、突出してきた敵部隊により壊滅!」
「ええい、くそっ!」
司令官はドカッとデスクを叩き、背後に立つアローに向き直った。
「副大統領、ここが陥落するのも遠くありません。ここから最寄りの軍港に、<サラマンダー>という戦艦が停泊しています。それに乗り、太平洋に避難してください。この男が<サラマンダー>の副艦長、アーノルド・ブライドンです」
司令官の隣に立っていたブライドンが頭を下げた。
アローはすぐに頷いた。
「よし、ではすぐに向かうとしよう」
「はい。ヘリにご案内します」



「わ、ワームだ!」
「ワーム!?」
ローグがサブマシンガンを撃ちまくりながら訊く。
「キモくてバカでかいダンゴムシだな!」
牙を持ち、小型か中型犬程もあるダンゴムシが地を埋め尽くすような数で迫ってくる。
ワームの足と足が触れあい、囁くようなゾッとする音をたてる。
「くそ!撃て、撃つんだ!」
シュナイダーが叫び、銃を撃ち始めた。
周りのアメリカ兵も必死に銃撃を開始した。
しかし、ワーム達は止まることなく、津波のように押し寄せてくる。
「だめだ!防ぎきれない!」
リッドが叫んだ。
「諦めるな!」
ドイルは手榴弾を手に取り、投げた。
爆発が起き、ワームの引きちぎれた体が飛ぶ。
しかし、ワーム達は尽きる事なくざわざわと迫ってくる。
「くそっ!」
シュナイダーがハンドガンを手に、いたたまれない思いでつぶやく。
ワームの前線が、ついに封鎖線に到達した。
バリケードを乗り越えたワームが死体に食らいつき、生きた人間に飛びかかる。
たちまち、その場は修羅と化した。
「くそっ!退け!」
ビッドが足に食らいつこうとしたワームを蹴飛ばしながら叫ぶ。
スコットはワームを蹴飛ばすと、蹴られて宙に浮いたワームを撃ち抜いた。
ワームが足をひくひくさせて絶命する。
次の瞬間、命を失った仲間の骸に、別のワームが食らいついた。
「妙だな……」
クロウが首を捻った。
「グールといいワームといい、『生きている』仲間には襲いかからない……。奴らにそれほどまでの分別があるのか?」
「クロウ、ごちゃごちゃ言ってないで早く逃げろ!」
ローグが銃を連射しながら叫んだ。
「空港だ!空港に逃げろ!」
シュナイダーが叫ぶ。
クロウは身を翻し、逃げ始めた。
ゴリアトに基部を破壊されたビルが倒壊するのが見えた。
「ロサンゼルスももはや終わりだな……」
クロウはそうつぶやくと、逃げ遅れている味方を叱咤した。



「守備ポイントMで味方を収容しろ!第2機甲中隊が敵のヴェノム隊を撃破するのと同時に、ヘリ部隊による反撃を開始する!」
司令官は基地でオペレーターに叫んだ。
「守備ポイントEは撤退!守備ポイントDに合流し、防備を固めろ!」
「司令官!セクション1―4―Wのビルが倒壊しました!守備ポイントYが倒壊により壊滅!退却中だった第1機甲中隊が退路を失いました!」
「第1機甲大隊を救援に向かわせろ!」
「第1機甲大隊は敵のヴェノム隊と交戦中!足止めを食らっています!」
「ちぃ……」
司令官は爪を噛んだ。
戦況は悪化の一途をたどっている。
「第1機甲中隊からの連絡が途絶えました!全滅かと思われます!」
「司令官!守備ポイントIが突破されました!敵が西地区になだれ込んできます!」
「サイクロプスが編隊を組んでこちらに向かってきます、司令官!」
「対空砲を準備しろ!」
しばらく後、激しい砲撃音が聞こえてきた。
たくさんのサイクロプスがロサンゼルス基地に攻撃をしかけてきたのだ。
『こちら対空砲班!敵が多すぎます!高角射砲車をこちらに回し―――』
爆発音。
無線が途切れた。
「…………なんだ?」
司令官がつぶやいた次の瞬間、壁が一気に破壊され、紅蓮の炎が指令室にいた人間達を一瞬にして焼き尽くした。



「………だめだ。この道も瓦礫で封鎖されている」
クロウは汚れまみれになりながら言った。
夜空は炎上するロサンゼルスの炎で赤く染まり、実に不気味だ。
「味方はどうなったんだろう?」
シュナイダーが疲れきった様子で手ごろな瓦礫に座り込み、つぶやいた。
「さあな。他人の心配事してる暇なんてないし」
「リッド、ひどーい」
ローラナが怒ったように言った。
「他人の事はちゃんと心配するの!だからリッド、モテないんだよ?」
「かんけーねえだろ………」
リッドはうんざりしたように言うと、両手を後頭部に回した。
「だいいち、他人にちょっかいかけすぎていつも俺に迷惑かけてるの誰だよ?確かあれは去年の今頃だったな。おせっかいなどっかの誰かさんが、喧嘩してるカップルに口出しして、結局仲介した俺までカップルに嫌味を言われる始末………」
「う、うるさいわね!」
ローラナが顔を赤くしてリッドの顔にストレートを叩き込んだ。
「ローラナ………」
カトリーナが苦笑している。
ローラナはますます赤くなり、叫んだ。
「あーもう!早く空港に行くわよ!」
「いや、俺はギブアップだ」
突然、ドイルが言った。
「………は?」
ローグが呆けたように言う。
「ほら」
ドイルはそう言うと、ズボンをまくりあげた。
一行は絶句した。
ドイルの左足首には、噛みつかれた傷があった。
どろりとした鮮やかな血が、固まってどす黒くなった血の隙間から湧き出している。
「ワームに噛まれた」
ドイルは事も無げに言った。
しかし、クロウやローグ、そしてカトリーナも気づいた。
ドイルの肩はこれからの己の運命にこわばり、目の奥に恐怖がちらついている。
「だ、大丈夫さ!リアナが抗薬を作ってくれる!」
ローグが励ますように言った。
「そ、そうよ、ドイル、諦めないで!」
カトリーナも口を揃えた。
ドイルもゆっくりと頷いた。
「よし、なら急いで基地に向かおう」
クロウはそう言うと、先頭に立って歩き出した。
闇夜と火炎を切り裂き、冷たい雨が降り始めていた。



「………嘘だろ?」
ローグはどしゃ降りの中、その場に崩れ落ちた。
ズシャッと音がする。
基地は完膚なきまでに破壊されていた。
「リアナ………」
ローグはそっとつぶやいた。
「ローグ!」
声が響いた。
ローグがハッと顔を上げると、どしゃ降りの中、ブロンドの髪を振り乱しながらリアナが駆け寄ってきた。
「リアナ!無事だったのか!」
「ローグ!よかった!」
ローグは抱きついてきたリアナを抱きしめ返した。
その直後、周囲の生温か~い視線に気づき、慌てリアナを突き放した。
「無事だったか」
雨の中、2人の人物が近づいてきた。
クロウはその2人を見て目を見開いた。
「貴様ら………!」
「……やぁ、クロウ」
アーサー・ホークとネザルがそこにいた。
「………これはこれは、教授殿」
クロウは凄まじい軽蔑と怒りを込めて言った。
「未だにUウイルスの研究に熱心なようだな。貴様が基地と共に死ななかったとはまことにけっこうな事だ」
「………私は、自分のした事について、責任を痛感している」
アーサーはそう言うと頭を下げた。
「許してくれとは言わない。だが、謝罪の意志は示そう」
「ごたくはよせ」
クロウはそう言うとアーサーに背を向けた。
「リアナ、お前、抗薬は作れるか?」
クロウはそう言うと、辛そうに屈み込んでいるドイルに目配せした。
カトリーナが心配そうに介護している。
「簡単よ」
状況を察知したリアナは渋い顔をし、側で雨に打たれていたリードを抱き寄せた。
「リードに関する希少なデータと、100万ドルに近い専用機具があればね。レジスタンスの基地にはそれが偶然あったからよかったけど、ここにはもちろんそんな物はないわ」
「………つまり、作れんという事か」
クロウの言葉に、リアナは暗い顔で頷いた。
「………マジかよ」
ローグはそうつぶやくと、近くに転がっていた石ころを思い切り蹴飛ばした。
南アメリカ以来の戦友を失う事は、彼にとってもかなりの苦痛だった。
「………空港へ行くぞ……」
クロウは静かに言った。
ドイルが顔を上げた。
「クロウ、抗薬は作れるのか?」
クロウは一瞬迷ったが、ゆっくりと頷いた。
「………ああ」
「よかった」
ドイルが疲れた笑みを見せた。
「……………」
クロウはその笑顔を見ているのが辛くなり、背を向けた。
「………いいのか、あんな事言って」
シュナイダーがクロウにボソリと言った。
「死にゆく者を苦しめる必要はない」
クロウは目を閉じ、言った。
「……あいつの最期はどうする気だ」
「………ゾンビ化の苦しみの前に、俺が殺す。大丈夫だ。一撃であの世に送る。苦痛は一瞬だ。…………だが」
クロウは天を仰いだ。
「少しでも苦痛を与えたくはなかったな」
その瞳から、水滴がこぼれ落ちた。
「………泣くなよ、クロウ」
「泣いてなどいない。雨さ」
「………そうだな」
シュナイダーの瞳からもしずくが溢れた。
「雨だな………」
冷たい雨は、ますます激しくなっていった。



ロサンゼルスはどしゃ降りの中、凄まじい火炎を噴き上げ、瓦礫にまみれ、かつての大都市のなごりを残していなかった。
人間達にグールが牙を向き、フィアがブラスターを放ち、ワームが群がる。
ゴリアトの圧倒的な火力がビルを崩壊させ、ヴェノムが人間の守備線をたやすく突破した。
「………まさにインフェルノ<灼熱地獄>だな」
マージョラムがつぶやいた。
「おい、空港に来たはいいけど、乗せてくれるヘリなんてあるのか?」
「わたし、<サラマンダー>に逃げろと言われたんです」
リアナが先頭を歩きながら言った。
「そのためのヘリがあるはずです」
「なら、あれじゃないか?」
ネイオが指さした。
「ブライドンだ」
確かに、ヘリの1つの側でブライドンが手を振っていた。



「早く乗れ!」
ブライドンは一行をせかした。
「<サラマンダー>に逃げるぞ!」
「アロー副大統領!?」
ヘリに乗り込んだドミニクが驚いた声をあげた。
ヘリにSPに挟まれるように座っていたのは、あの名君、アロー副大統領だった。
「どうして―――」
「今はそんな事を気にしている場合か!」
ブライドンが怒鳴った。
「早く乗れ!」
ドミニクは慌てヘリの席についた。
他の者が続く。
しかし、ドイルはなぜか乗ろうとしなかった。
「ドイル、なにしてんだ!?」
スコットがいらだったように言う。
ドイルは哀しげに首を横に振った。
「感染者が乗るわけにはいかない」
「なにを言って―――」
「抗薬は作れないんだろう?」
ドイルの言葉に、クロウは声を詰まらせた。
「リアナに教えてもらったよ」
クロウはリアナを睨んだ。
「お前―――」
「いや、リアナは悪くない」
ドイルは制すように言った。
「僕が無理やり聞き出したんだ」
「ドイル………」
「はは………。死に場所が異郷の地とはな」
ドイルは天を仰いだ。
「だけどそれも運命みたいだ」
ドイルはヘリの中から彼を見守るカトリーナを見つめた。
「カトリーナ、お前は生き延びて、イギリスで幸せに暮らせよ」
「ドイル………」
「じゃな、みんな。これでさよならだ」
次の瞬間、空港の端で爆発が起きた。
火柱が高くあがる。
フィアやグールがなだれ込んできた。
ヴェノムまでいる。
アメリカ兵が蹴散らされるのが見えた。
「早く逃げろ!」
ドイルはそう言うと、身を翻し、敵に向かって駆け出した。
「ドイル!」
涙を流しながらドイルを追いかけようとしたカトリーナを、クロウは彼自身も涙をこぼしながら抑えた。
「………パイロット、上げろ」
ブライドンが静かに言った。
ヘリがプロペラを回転させ、上昇していく。
空港が小さくなり、壊滅したロサンゼルスも小さくなっていく。
ドイルの姿は見えなくなっていた。
カトリーナがその場に泣き崩れ、ローラナが必死に慰めている。
「…………じゃあな、ドイル」
クロウは寂しげに言うと、ヘリの扉を閉めた。
雷が黒雲の間を走り、悲しみの叫びを上げた。

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