「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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JEDIMANの瞑想室
第3章 決死の罠 <1>
フィアの本格的なアジア侵攻が始まった。
ハワイを拠点としたフィアは、九十九里浜に艦隊を差し向け、日本がそれの対応に躍起になっている間に、東京、名古屋、四国、北海道、新潟、そして静岡を突いたのだ。
結果として、東京は壊滅。
最悪の虐殺劇となった。
東京は焼け野原になり、生き残ったわずかな人間がゾンビのようにさ迷い歩いている状態だ。
名古屋もしかり。
名古屋は名古屋港より侵入したフィアやグールの大軍によって蹂躙され、翌日にはフィアが掌握していた。
四国、北海道にも敵が上陸。
フィアは街を呑み込みながら勢力を広げていた。
新潟柏崎の原発は自衛隊の必死の抵抗で辛うじて死守されたものの、これ以上の使用は危険であると判断され、放棄された。
そして、最も痛烈な打撃は、フィアによる東名高速、東海道新幹線の寸断だった。
日本はこれによって東西に分裂された。
しかも、悪い事はさらに起きた。
フィア艦隊が横浜を攻撃し、これを制圧したのだ。
この事により、緊急総本部の置かれた富士自衛隊基地は、完全に孤立する形になった。
フィアは明らかにそれを狙っていた。
さらに、フィアはアジアへと深く侵入していく。
11月10日、ニュージーランドとオーストラリアの連合軍がフィアに敗れ、ニュージーランドはフィアの支配下に置かれた。
11月12日、黄海海戦で中国、韓国連合軍がフィアに大敗北。
フィアは航空戦闘機の大部隊を発し、南京、上海、香港など、海岸沿いの主要都市を全て破壊した。
状況は刻々と絶望を増していた………。
「東京と名古屋は壊滅し、東名高速と東海道新幹線は寸断。それにより、緊急司令本部の置かれた富士自衛隊基地は孤立、か………」
<せつな>のブリッジで、川口は物憂げにつぶやいた。
自衛隊は、九十九里浜の戦いにて敗北した。
しかも、自分達は囮部隊に負けたのだ。
そして敵は、各地から同時に日本を攻撃した。
自衛隊ではとても対処しきれず、首都東京さえ焼け野原となった。
その戦略は、見事とさえ感じる。
こちらが油断していたのがたたったのもあるだろうが。
交通の要衝を突き、守りの手薄な北海道や四国を攻める。
完璧だった。
フィアは更に勢いに乗り、オーストラリアや中国にも侵攻を開始した。
日本海から中国に向かった敵艦隊は、黄海にて中国と韓国の連合軍を完膚無きまでに叩きのめし、海沿いの大都市に爆撃部隊を送り込んだ。
南京はまさに虐殺だったようだ。
ニュージーランド沖でもオーストラリアとニュージーランドは見事に敗北。
ニュージーランドはフィアが制圧した。
「だが、あきらめるわけにはいかない」
川口は自らを奮いたたせるように言った。
<せつな>は九十九里浜から逃走して房総半島と伊豆半島を迂回し、駿河湾に到達していた。
まだ、空を埋め尽くすサイクロプスも、立ち上る黒煙も見えない。
フィアによる富士基地への攻撃はまだのようだった。
11月15日、富士自衛隊基地
「さて、弱点を探すと言ったが………」
アーサーは富士基地の薄暗い研究室の中で腕を組んだ。
辺りにはリアナとリードがいる。
「どうしよ?」
リアナはずっこけた。
「なにがどうしよ?ですかーーっ!!」
「冗談だ。さて、リアナ、フィアの特徴をあげてくれ」
「こほん。では、気を取り直して………」
リアナは咳き込むと、手にした資料を読み上げ始めた。
「フィアは超高度な頭脳を持ち、技術開発、戦略等、かなりのものと言われています。彼らは規律的行動をし、けんか等の目撃情報はありません」
「それが気になるな……」
「へ?」
顎をポリポリとかきながらつぶやいたアーサーに、リアナは思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。
「高度な生物となると、個々に思想、感情、理性というものを持ち始める。それのぶつかりあいがけんか、つまり戦争だ。人類が立派な例だな。しかし、フィアは全くそのような行動がない。しかも、気持ち悪いほど調和の取れた規律的行動や戦闘……。彼らにほんとうに個々の意思があり、個性というものがあるなら、こんな事はありえないと思うんだが………」
「……そう言われればそうですね」
リアナは頷いた。
確かに、フィアは集団行動ができすぎている。
まるで、自分の意思など無いように……。
「……まあいい。続けてくれ」
アーサーの言葉にリアナは頷き、再び読み上げ始めた。
「フィアはグール等、他のUウイルス・クリーチャーを支配しているようです。また、Uウイルス・クリーチャーは『生きている』仲間を喰らいません。しかし、『死んだ』仲間は平気で食らいます」
「………これもわからないな………」
アーサーは頭を抱えた。
「なぜフィアはヴィシスのような全く種類の違うUウイルス・クリーチャーを従わせられる?人間が猛獣を飼っているようなもんだぞ?」
「ペットなんじゃないですか?」
リアナがひょこんと首をかしげる。
「かもしれないな。だけど……なーんかしっくりこないんだ…」
アーサーは首を捻った。
「それに、知力のかけらもないグールが、食ってはならない『生きている』味方と、食っていい『死んでいる』味方を分けているのも………。奴らにそんな理性が………」
「………謎だらけだね」
リードがポツリとつぶやいた。
「そして、謎の巨大発光体」
リアナはそう言うと写真を取り出した。
「ローグが撮影した、巨大発光体です。リオデジャネイロにあるフィアの基地の地下に、厳重に管理されていたみたいです」
「…………なんだ、これは?ドラゴンか?」
アーサーは写真を見て、発光体をかき抱くようにして眠っているドラゴンを指さした。
「ドラゴンはおそらく、Uウイルス・クリーチャーの一種でしょう。ローグの話だと、この発光体は脈打つように白光を放っていたそうです」
「…………これが、君の言っていたフィアの神、か………」
「ええ。この発光体を見ている時のリードの感情脳波が明らかに………」
2人はちらりとリードを見た。
リードがこくりと頷く。
「うん。なんかすごく発光体が偉く感じる」
「フィアの血が薄い彼ですら、発光体をあがめたいという衝動を持っているんです」
リアナはアーサーに言った。
「教授、この発光体………」
「………ああ、これがキーだな」
アーサーは頷いた。
「とれすぎている調和……異常な知能……そして巨大発光体……」
アーサーは難しい顔をし、ゆっくりと頷いた。
「さっぱりわからん」
「さじ投げた!?」
中国東洋艦隊、台湾にてフィアに敗北。
この報せは中国全土を揺るがした。
東洋の眠れる獅子は、トカゲもどきの猛攻を受け、かなりの打撃を受けていた。
「………それで、中国の陳民首相が東京条約の加盟許可を条件に、援軍を要請しているのか」
富士基地の司令室で、森内は報告を聞いていた。
「冗談じゃない!日本は今、かなりまずい状況なんだ!援軍など出せない!」
安田がわめく。
「アメリカも無理です」
アローも頷いた。
「沖縄のアメリカ軍の大部分は、インドネシアの救援に出払いました。残存部隊では、沖縄を守衛するのがせいぜいです」
森内は腕を組み、考え込んだ。
確かに、日本はピンチだった。
今この時にも、日本各地でフィアが暴れている。
ただでさえ、東京の壊滅という最悪の事態にあるのだ。
「………そうだな」
森内は頷き、暗い顔をした。
アジアは、フィアにどんどん侵食されていた。
ローグ達は、沈んでいた。
マージョラムとマットが、死んだ。
その悲しみは、場を包み込んでいた。
停泊している<せつな>に駿河湾の波が寄せてはかえしている。
静かに、だが雄弁に自然は哀歌を奏でていた。
「いったい……何人の仲間がこれまでに死んだかな……」
ローグはぼそりとつぶやいた。
南アメリカでは、たくさんの友を失った。
ロサンゼルスでもドイルが死に、そしてまた、九十九里浜でマージョラムとマットが逝った。
「もう、これ以上仲間が死ぬのを見るのは、嫌だよ……」
次に死ぬのは、自分かもしれない。
場にいる全員が思った。
「…………おびえるな」
突然、スコットが口を開いた。
「呼吸を失う事に、仲間を失う事に、そして自分を失う事に。人は必ず死ぬ。それが早いか遅いかだけだ。フィアをおそれるな。死をおそれるな。それをおそれたその時は、お前達の仲間が死ぬ時だ。俺はそう思う」
「…………そうだな。スコットの言う通りだ」
クロウは頷いた。
「俺達は戦士だ。軍人だ。そしてお互いにかけがえのない仲間だ。仲間を自分のミスで殺したくなければ、敵に対して尻込みするな。愛する者を失うのはとてもつらい。特に、それが自分の責任の時にはな」
クロウは妻であるティータを絞め殺した自らの手の平を見つめた。
「だから、戦え。この戦争に逃げ場は無い。あるのは修羅のみ。戦うんだ」
皆、頷いた。
空気が軽くなった。
吹っ切れたのだ。
「甲板に行こうぜ」
ネイオが場の空気をさらに軽くするために言った。
「風が気持ちいいはずだ」
「気持ちいいーーーっ!」
ローラナが笑顔で叫んだ。
甲板には、心地よい潮風が吹き渡っていた。
「ほんと、いい風ですね」
カトリーナが潮風に髪をなびかせながら言う。
冬の空は、澄んでいた。
青く、果てしない空が頭上に広がっている。
「やあ、君達も生きていたか」
突然、彼らに声がかけられた。
「安心したよ。同胞があの戦いで大量に死んだからな」
ブライドンだった。
気難しい顔をゆるめ、微笑んでいる。
「ブライドン副艦長!生きてたんですか!」
ドミニクが安心したように言う。
「………ひどい戦いの連続だ」
クロウがぽつりとつぶやいた。
ブライドンが歩み寄り、頷く。
「神が鉄槌を下しているのかもしれんな。傲慢な人類に」
「神も酷い試練を課すもんだ」
クロウは寂しげに微笑した。
「オレの仲間や親友、妻までもを殺し、それだけじゃあきたらず、人類まで根絶やしにしようとするんだもんな」
「これは言わば、人類に対する試練です」
突然、カトリーナが口を開いた。
「傲慢な人類が自らを見つめ直し、神のもとで平和と友情を謳歌するための………」
「旧約聖書のノアの大洪水や、ソドムとゴモラの滅亡はどうだ?神はどちらも悪人を救うのではなく、滅ぼした」
シュナイダーが反論した。
彼はアメリカ人には珍しく、キリスト教を信じていないらしい。
「神からの救いの手は必ずさしのべられます!」
敬虔なクリスチャンであるカトリーナが反論した。
「そこまでだ。神がいようといなかろうと、この状況をどうにかしないといけないのは事実だ」
クロウは2人を制すると、柵にもたれかかった。
「ま、オレも『奇跡』を待望してるがな………」
夜。
シュナイダーは1人、まだ甲板に残っていた。
月が水面に寂しく映っている。
彼はそれを見つめながら、昔に思いを馳せていた。
「あ、アメリカ野郎だ」
突然、声がした。
振り返ると、そこには2人の日本人がいた。
「な、長嶋、なにいきなり話しかけてんだよ」
「別に話しかけたわけじゃないさ、隼人」
「だいいち!アメリカ野郎なんて失礼な事言うなよ!」
「大丈夫さ。どうせ日本語は通じな―――」
「俺はわかるぞ、ジャパン野郎」
シュナイダーはにやにやしながら、流暢な日本語で言った。
彼は日本で数年間暮らした事があるのだ。
2人の自衛隊員、長嶋と隼人がビックリした顔をする。
2人のマヌケ面に、シュナイダーは思わず吹き出した。
「おいおい!その顔、まるでアホ面のモンキーだぜ?」
「悪かったな。ドンキーで」
「モンキーだよ」
長嶋に素早く隼人がツッコんだ。
シュナイダーはますます笑った。
「君達、いい性格してるな。気が合いそうだ。俺はシュナイダー。君達は?」
「僕は松崎隼人。こっちは長嶋博人です」
「マツザキにナガシマだな。よろしく」
3人は手を握りあった。
レイは悶え苦しんでいた。
<マザー>が記憶に侵入し、先ほどから同じ映像を何度も何度も見せてくる。
それは、アランがヴィシス達に貪り喰われる瞬間だった。
アランがレイに助けを求める。
しかし、レイは動けなかった。
助けに走りたかったが、足が動かなかった。
彼の目の前で、アランは何度も何度も死んだ。
血が飛び、内臓が地面に転がり、ヴィシスが肉を貪り喰う音とアランの絶え間ない悲鳴が耳に響く。
レイは涙を流し、耳をふさいだ。
しかし、悲鳴は小さくなるどころか、圧倒するように大きくなっていった。
「やめてくれ!」
レイは耐えきれなくなり、悲鳴のように叫んだ。
「もう見せないでくれ!」
―――弱き心、見つけたり―――
<マザー>の声がした。
次の瞬間、レイの脳の最奥に、一気に思念体が侵入してきた。
改造されたUウイルスの情報が流し込まれていく。
―――終わった、か―――
<マザー>は自分の前に立つ、2体の怪物に言った。
怪物は強力な爪や牙を持ち、背中からは大量の触手がうねうねとのびている。
<マザー>は人間である彼らの記憶に侵入し、その記憶の痛みから弱さを引き出し、一気にこの怪物へ改造したのだ。
しかし、彼らの内の1人、クレイジーの精神は予想を遥かに上回る抵抗をし、最終的にはかなり強硬的に改造した。
そのため、理性を完全に失っているはずだ。
レイも、おそらく。
思った通り、怪物2体は暴れ始めた。
頑丈な爪が床をえぐり、壁に叩きつけられた触手が壁を粉砕する。
怪物達―――かつてクレイジーとレイだった2体は、意味不明の悲鳴をあげ、暴れまくった。
フィア・メタルが粉砕され、瓦礫が落ちてくる。
<マザー>は急いで光の触手をのばした。
光の触手が怪物達の額に突き刺さり、侵入する。
光は実体ではないので、傷はない。
だが、<マザー>はこの光の触手を使って相手の脳に侵入できるのだ。
怪物達は自らの脳と<マザー>の精神体が直結したのを感じると、逆に光の触手を通じて<マザー>に侵入しようとした。
だが、<マザー>は圧倒的なパワーを持っていた。
<マザー>は光の触手からさかのぼってきた怪物達の思念体を蹴散らすと、容赦なく相手の脳に侵入した。
怪物達が悲鳴をあげる。
―――私に、従え!!―――
<マザー>は圧倒的な思念体を持って、彼らを従わせた。
11月21日、日本、富士自衛隊基地近隣の農村―――
アーサーとリアナ、そしてリードは、山道を散策していた。
遠くに棚田や畑が見える。
彼らは頭脳を振り絞ったが、結局フィアの謎はなんら解明されていなかった。
そこで、アーサーの意見により、近くの農村に散策にきていたのだ。
散策すればリラックスでき、いいアイディアも浮かぶかもしれない。
彼らはあぜ道を歩き、和気あいあいと会話しながら歩いていた。
澄んだ空気が清々しい。
「あんれま。外人さんが珍しい」
突然、声がかけられた。
農村の住人である老人だった。
「お前さんたち、どっから来なすった?」
リアナにはちんぷんかんぷんだったが、アーサーは日本語でスラスラと答えた。
「アメリカですよ。よいまちです。ここ」
老人はおかしそうに笑った。
「ここは街なんかじゃないぞ。しなびた村じゃ」
「…………oh!まち、むら、まちがえた!」
アーサーは笑いながら答えた。
「おじいさん、このむら、いい場所」
老人がアーサーの言葉に嬉しそうに頷く。
「おお、いい場所だとも。なんか最近じゃ、フィアとかなんとかでうるさいが、この村はいつまでも平和じゃよ」
アーサーは黙りこくった。
この老人は、この地が既に安全ではない事を理解していない。
「…………おじいさん、にげたがよい。いま、にほん、あぶない」
「はっは、無理じゃよ。故郷を捨てられるもんかい。この村はしなびているが、いいところもたくさんあるんじゃ。養蜂でも有名だしの」
「ヨーホー?」
「なんじゃ、知らんのか。蜂を育てて、蜂蜜をとる産業じゃよ」
「はち……はちみつ……。oh!ようほう!Alright!I see!」
「………なにゆうとるのかわからんが………」
老人はそう言うと、近くの木箱を指さした。
「ほれ、それが養蜂に使う木箱じゃよ。その中に女王蜂が巣をつくり、子供をたくさん産むんじゃ。言わば母親じゃな。子供達は絶対に女王蜂には逆らわない。ひたすらに働き、女王蜂につくすんじゃよ。それこそ、他の巣との戦争とかな。だから、蜂は女王蜂を殺された場合、自分達をまとめあげていたリーダーを失ったことにより互いに殺しあうんじゃ」
老人にとっては、なにげない言葉だった。
しかし、アーサーは電撃に打たれた気がした。
まさか、全ての謎を解く鍵がここにあったとは。
「おじいさん!ありがとう!」
アーサーはそう言うやいなや身を翻し、村はずれに置いてきた車まで走り出した。
「ちょっ!?教授!?」
リアナとリードは慌てて彼の背中を追った。
数時間後、富士自衛隊基地総司令部―――
アーサーは扉を勢いよく開けた。
地図を見ていた森内や安田、そしてアローが驚いて顔をあげる。
「中国に伝達を!」
アーサーは息を整えながら言った。
「『フィアを駆逐するいい考えがある。まずは富士自衛隊基地に迫っているフィアを撃退すべく、援軍の派遣を要請する』、とお伝えください!」
「なにを言っとるんだ、お前は!」
安田が怒鳴った。
「確かに我々は例え1兵でも援軍が欲しいが、中国にそんな物を出す余裕など―――」
「教授、何かわかったのか?」
アローが穏やかに訊いた。
場が静まりかえる。
アーサーは息を整えると、言葉を絞り出した。
「あくまでも仮説にすぎませんが、フィアに関する重大な発見をしました。この発見を利用すれば、戦局を好転させられるかもしれません」
「…………好転させられる可能性は?」
「…………5……いえ、1%です」
「ふざけるな」
安田がいらいらと叫んだ。
「そんなわずかな確率で―――」
「静かにしたまえ、安田君」
森内の言葉に、安田は押し黙った。
「…………」
アーサーの言葉に、アローはしばらく考え込んでいたが、やがて頷いた。
「我々はどう動くべきだ?」
「まずは、この基地に迫ってくるであろう敵の撃退です。そのために、ぜひ中国艦隊の力が必要なのです」
「…………わかった。中国の事は私に任せろ」
アローの言葉に、場にいた全員が息を呑んだ。
アーサーまで驚いている。
「大丈夫だ。必ず中国を説き伏せるさ」
アローは強ばった笑みで言った。
フィア、大軍を動員し、横浜を発つ。
その報せを受けた富士自衛隊基地は騒然としていた。
「おおー、ここが日本軍の基地か」
富士自衛隊基地のヘリポートに着床したヘリから降りた男性が、辺りを見回し、英語でつぶやいた。
「なんだか騒がしいな」
「たりめーだ、ドミニク。フィアの大軍がこっちに向かってるんだとよ」
続いてヘリから降りた男、リッドが、コンとドミニクの頭を小突いて言った。
「またもや俺らはトカゲもどきとドンパチやらなきゃいけないわけだ。呪われてるんじゃないか?」
「ほんっとにな」
シュナイダーが荷物を担ぎながら降りてくる。
「こちとら、南アメリカから戦い続きだっての」
「それを言うなら俺達の方が長いぜ!」
スコットがなぜかいばりながら言う。
「リッカー事件のあたりから、ずっと戦いづくめだ」
「いいから運べ!」
「ふぎゃ!」
スコットはネイオに背後から頭を荷物で殴られ、悲鳴をあげた。
「はいはい、コントなんかやめて降りた降りた」
ビッドがタバコを吸いながら、ネイオの後ろで言った。
「さっさとしてくれよ。後ろはつまってるんだ」
「とりあえず………タバコやめて……」
ローグがほんとに辛そうに言う。
ヘリの中はタバコの煙で充満していた。
…………ずっと吸っていたらしい。
「禁煙って言葉を知らないの!?このヘビースモーカー!」
ローラナが語気荒く叫ぶ。
「臭いがついちゃうじゃない!」
「タバコは百薬の長だよ、サディストガール」
ビッドがけだるそうに答えた。
「百薬の長は酒!タバコはただの弊害だっつの!それにあたしはサドじゃなーいっ!」
「いや、どうみてもそうとしか」
リッドがそう言った瞬間、彼は顔面にローラナの飛び蹴りを受けて昏倒した。
「黙ってなさい!この※※※※※※※※※※※※※※※※で※※※※※の※※※※※※※がっ!!」
ローラナがリッドの死体………もとい、肢体を踏んづけながら言う。
カトリーナが青い顔をして言った。
「ろ、ローラナ、女の子がそんな下品な言葉を使っちゃ………」
「大丈夫。ちゃんと上品な※でカバーしたから」
※がはたして上品なのかは置いといて、リッドが死にそうだ。
「ああっ!ローラナ!リッドの頭を踏んじゃダメーッ!」
「いいのよ、カトリーナ。こんなクズ」
「あきらかにサディストだよな………」
ビッドがいまだにタバコをふかしながらつぶやいた。
「だから………タバコ……やめ……」
窒息寸前のローグが、息も絶え絶えに言う。
「お、悪い」
ビッドはそう言うと、タバコの副流煙をローグの顔に吹きかけた。
ローグ、ダウン。
「ちょ、ローグーーッ!」
カトリーナが慌てて看護に向かった。
「心肺機能、停止してます!」
「副流煙つええ!」
「うるさいな、ごちゃごちゃと」
クロウがヘリから降りてきた。
ネイビーグリーンの軍服を着て、背中にはスコープを装備したライフルを背負い、腰には2丁の拳銃、さらには数本のナイフまで持っている。
「………本格的な装備だな、クロウ」
シュナイダーのぼやきに、クロウは笑顔で頷いた。
「日本とやらは、軍系萌えという人種がいるらしいからな。それっぽくしてみた」
「とりあえず作者がそうでない事を祈るぜ………」
「大丈夫。作者は自衛隊が使ってる銃の名前もしらないような奴だから」
「それは安心」
「なに言ってるんだ?シュナイダー、ローラナ」
「「なんでもない☆」」
「ちくしょう!こんな大軍、相手にできるか!」
安田は頭に手を当てて叫んだ。
おびただしいグールが富士自衛隊基地に向けて、東名高速を進撃しているらしい。
亡者の行進はかなりの長蛇のようだ。
「これは………どうしようもないか……」
森内がつぶやいた次の瞬間、オペレーターが振り返った。
「首相、中国から連絡が………」
数分後―――
「し、信じられん……」
森内は呆然とつぶやいた。
「中国が南洋艦隊のほとんどをこちらに送ると言ってきた………」
皆、息をのんだ。
海岸部を全て破壊された中国が、まさか援軍を送るなど………。
アーサーはアローの顔をちらりと見た。
アローの表情は、ぴくりとも動いていなかった。
だが、アーサーにはわかった。
裏機関か。
アーサーは心の中でつぶやいた。
アメリカの裏勢力が中国政府のどこまで食い込んでいるかしらないが、こんな大それた決定をさせるということは、そうとうな権力のポストにアメリカの手先がいるという事になる。
中国は実質、アメリカに操られているのかもしれない。
11月28日、富士自衛隊基地司令室―――
「ミスター・ブライドン。必勝の策があるというのは本当か?」
アローは椅子に深く腰かけ、腕を組んでブライドンに訊いた。
すぐ側に座った森内や安田も、興味のこもった目でブライドンを見ている。
ブライドンは頷き、デスクに広げられた地図を示した。
「現在、敵は我々の前哨基地、小田原にまで迫っています。敵は<ゴリアト>と呼ばれる巨大兵器を1体動員し、たくさんのヴェノムやUウイルス・クリーチャーを武器に進撃しています。対する我々は、食糧も尽きかけ、各地の戦力も各個撃破され、富士基地にもほとんど重車両がありません。アメリカ軍の支援は不可能。自衛隊員の士気は低く、まとまりもありません」
「そんな事はもはや百も承知だ!我々はいったいどうすべきなのだ?」
安田がいらいらしながら訊いた。
「私に全軍の指揮権を譲ってください。人類の力を、あのトカゲもどき達に見せつけてやります」
ブライドンは言った。
12月1日、静岡県小田原―――
フィアの大軍が、東名高速を進撃していた。
地を埋め尽くすようなグールに、多数のヴェノム、そしてフィア。
ゴリアトも1機、大地を揺るがしながら歩いていた。
『将軍!前方にニンゲンの前哨基地を確認しました!』
ゴリアトの高い位置にある司令室から大軍を眺めていたフィアの将軍は、部下の言葉に頷いた。
はるか先に、ニンゲンの小規模な砦が見える。
彼らの言葉でいう、オダワラ格納基地だろう。
『踏み潰せ』
将軍はそうとだけ言った。
この大軍は、フィアがアジア方面に投入した陸軍のほとんどだ。
その戦力はそうとうな物。
ゴリアトだけでも、あの小さな砦なら破壊できるだろう。
『我らの狙いはフジ自衛隊基地。進撃を、止めるな』
将軍はそう言うと、羽織った黒マントを翻らせながら振り返った。
装着した漆黒の装甲服が、光をギラリと反射する。
『破壊せよ』
攻撃開始の合図だった。
オダワラ基地は一瞬で壊滅した。
ゴリアトの圧倒的火力の前に、ニンゲンは為す術も無かったのだ。
自衛隊は一瞬の内に全滅していた。
『進軍を続けよ。奴らを粉砕するのだ。行け、誇り高き戦士達よ!<マザー>のために!』
『『『<マザー>のために!!!』』』
部下達が一斉に復唱する。
ゴリアトは再び歩き出した。
11月30日、御殿場―――
『将軍、前方に敵です』
『なに?』
部下の言葉を聞いた将軍は、ビューポートから進路の先を見た。
指令室はゴリアトの最上部にあり、ビューポートから戦場を一望できる。
確かに、ニンゲン達が東名高速を封鎖していた。
しかし、大した数ではない。
『蹴散らせ』
将軍は冷たく言い放った。
ローグは手にした銃をしっかりと掴み、身震いした。
隣でシュナイダーが緊張したように呼吸している。
ネイオとスコットも、黙りこくっていた。
ゴリアトが歩みを進めるたびに、地面が揺れる。
鉄条網や戦車でつくられた防衛線に身を潜めた自衛隊員達からも、恐怖が凄まじい勢いで放たれている。
この防衛線の守備には、約500名の自衛隊員がついていた。
そして、ローグ、シュナイダー、ネイオ、スコットもだ。
「………クロウ達は、もう位置についたかな?」
ローグは隣のシュナイダーに囁いた。
「さあな」
シュナイダーがそっけ無く返す。
彼の額には、玉のような汗が浮いていた。
東名高速を、グールがどんどん迫ってくる。
その背後には、たくさんのヴェノム。
そして、ゴリアト。
「作戦が成功するかどうかは、俺達にかかってんだ、ローグ。やってやろうぜ」
ローグはべたべたした唾液を、渇いた喉に無理やり流し込みながら頷いた。
グールがうめき声をあげ、よたよたと迫ってくる。
その顔は崩れかかってはいるものの、間違いなく日本人のそれだった。
「俺達、ほんとゾンビと縁があるんだな……」
スコットがぼそりとつぶやいた瞬間、自衛隊の反撃が始まった。
鉄条網や遮蔽物の陰から、自衛隊員達がめちゃくちゃに銃を撃ちまくる。
迫撃砲が次々に砲弾を放ち、戦車が主砲をぶっぱなす。
グールの内の何体かは、一瞬で銃弾に引き裂かれ、弾け飛んだ。
しかし、彼らは何発もの銃弾を受けようとも、平気でよたよたと歩いてきた。
「ローグ、撃て!」
シュナイダーに怒鳴られ、ローグはようやく自分が突っ立っていた事に気がついた。
「―――くっ……」
ローグは銃を構え、銃撃を開始した。
「遠慮する事はない!相手は亡者だ!」
ローグにはちんぷんかんぷんだったが、自衛隊員の誰かが日本語で叫んだ。
銃の発砲音が鼓膜を揺さぶる。
爆発が立て続けに起き、大量のグールが一瞬で消滅した。
地雷だ。
しかし、グールは仲間の死骸を喰らいながら、新鮮で血の通った肉を求めて、絶え間なく溢れだしてくる。
ローグはマガジンを素早く入れ換え、さらに銃弾を放った。
銃声が耳をつんざくように鳴り響く。
「怯むな!中村、バズーカを持って―――」
次の瞬間、命令を下していた指揮官格の日本人は、焼滅していた。
耳が引き裂かれるような轟音と共に爆風が吹き荒れ、ローグは吹っ飛ばされた。
地面に身体が叩きつけられ、凄まじい痛みが身体を貫く。
「う………」
やっとの事で起き上がったローグの目に飛び込んできたのは、もうもうたる粉塵と、地面に大きく穿たれた穴だった。
バラバラ死体があちこちに散らばり、肉の焦げた臭いが場に充満している。
ゴリアトの砲撃だ。
「う、あ、あ………うわあああああああああ!」
ローグは恐怖にかられ、叫んだ。
まるで、地獄のようなありさまだった。
「しっかりしろ、ローグ!」
突然、ローグの言葉を遮る者がいた。
シュナイダーだ。
シュナイダーはローグの軍服の襟首を掴み、助け起こした。
「おびえている暇は無いぞ!」
自衛隊員達が銃を乱射し、体勢を立て直そうとしている。
しかし、彼らはゴリアトの砲撃を受け、悲鳴をあげる間も無く一瞬で消え失せた。
大地が地震のように揺れ、足元がおぼつかない。
「バズーカだ!バズーカ持ってこい!」
ネイオがわめいている。
ローグは必死に這いつくばり、バズーカを持ったまま死んでいる自衛隊員に近づくと、苦労してなんとかバズーカを手に入れた。
再び爆音が響き、地面が揺れた。
「ワーム・シューターだ!」
スコットがグレネード・ランチャーを撃ちまくりながら叫ぶ。
ローグは飛んでくるレーザーに気をつけながら、煤煙にかすんだ空を見上げた。
バドミントンのラケット(球)のような形をしたミサイルが、すごい勢いで飛んでくる。
ロサンゼルスでも見た。
あの中には、小型犬程もある肉食ダンゴムシがわんさかいるのだ。
「気をつけろ!」
ローグが声をからして叫んだ瞬間、ワーム・シューターの尖った先端が、アスファルトを砕いて地面に突き刺さった。
一瞬の静寂。
次の瞬間、扉が開き、大量のワームが津波のように湧き出してきた。
近くにいた自衛隊員が悲鳴をあげて銃を連射する。
しかし、彼らは一瞬でワーム達に食い散らされた。
ワーム達が牙を剥き出しにし、次々に自衛隊員達に襲いかかっていく。
悲鳴をあげて倒れた自衛隊員にワームが一気にむらがり、綺麗な白骨が後に残っている。
ローグは這いつくばった状態から、地面に座り込んだ体勢になると、凄まじい勢いで地面を這い進んでくるワーム達に銃撃した。
ゴリアトの砲撃で地面が激しく揺れ、とても立てる状況ではない。
「退却!退却ーーーっ!」
日本人が叫んでいたが、ローグには全くわからなかった。
「ローグ、早く逃げるぞ!」
シュナイダーが足元に群がるワームを蹴飛ばしながら叫んだ。
「ネイオ!スコット!あのジープだ!」
ネイオとスコットが、鉄条網を乗り越えてきたグールにハンドガンを撃ちまくりながら頷く。
「調達してくれ!」
「わかった!」
シュナイダーは答えると、へたりこんでいるローグを助け起こし、自衛隊のジープに乗り込んだ。
ローグが助手席に呆然と座る。
「くそっ!ローグ、しっかりしろよ!」
シュナイダーはローグに怒鳴り付けると、素早くガソリン残量や鍵を確認した。
大丈夫。
どちらも万全だ。
シュナイダーはアクセルを踏み込み、グールをはね飛ばしながらネイオ達の側へジープを走らせた。
「乗れ!」
「お、助かった!」
スコットが後部座席に飛び乗る。
ネイオは近くにきたグールを蹴飛ばすと、ジープに足をかけ、ハンドガンを連射した。
グールがさらに倒れる。
「出してくれ!」
ネイオがマガジンを入れ換えながら叫ぶ。
「ゴリアトはすぐ後ろだ!」
「了解!シートベルトつけろよ!」
シュナイダーは言うやいなや、アクセルを思い切り踏み込んだ。
後ろでゴツンという鈍い音と、スコットの、ぐぇっ、という声が聞こえた。
どうやら頭をぶつけたようだ。
ジープは滅茶苦茶になった道路を必死に走り始めた。
生き残った自衛隊は、既にかなり前方へ逃げ去っている。
最後尾のシュナイダー達は、敵に集中狙いされていた。
ジープの周りで次々にレーザー砲弾が炸裂し、ジープが危なっかしく揺れる。
シュナイダーはハンドルを切りまくり、なんとか直撃を避けていた。
「早くしろ、早く!」
スコットが後部窓から後方を見て叫ぶ。
ゴリアトのミサイルや砲弾が、道路を粉々にしている。
「ダメだ!逃げきれない!」
シュナイダーが叫んだ瞬間、ジープのすぐ後ろにミサイルが着弾し、ジープはまるでおもちゃのように吹っ飛ばされた。
ローグの視界が混沌と化す。
次の瞬間、ジープは地面に叩きつけられていた。
凄まじい衝撃がローグを襲う。
「シートベルトにこんなに感謝したの、初めてだな………」
ローグはぼそりとつぶやいた。
「み、みんな大丈夫か?」
ネイオが訊く。
「俺は大丈夫だ」
スコットが答えた。
しかし、シュナイダーの返事が、無い。
「………シュナイダー?」
ローグは恐る恐る運転席の方を見た。
シュナイダーが青い顔をして、ぐったりとしていた。
頭からは血がどくどくと流れ、割れたサイドガラスが軍服にたくさんささっている。
左腕も変な方向に曲がっていた。
「シュナイダーッ!」
ローグは慌てて脈をとった。
浅く、速い。
危険だ。
「外に出よう!」
ローグは叫ぶと、ドアを開けようとした。
しかし、開かなかった。
「な、なんで!?」
「落ちつけ、ローグ。この車は横転してるんだ。そっちは地面さ」
ローグは言われてようやく気づいた。
吹っ飛ばされたジープは道路に横転し、ローグとネイオの方が地面側に、シュナイダーとスコットの方が空側になっていたのだ。
「とにかく出よう。早く治療しないと、シュナイダーが危ない」
「そうだな。じゃ、俺が一番手だ」
スコットがそう言ってシートベルトを解除した。
彼は重力に従って下に――ネイオに向かって落ちた。
「いだっ!バカスコット!普通考えたらわかるだろ!?」
「わりぃわりぃ、すぐに出るからよ」
スコットはそう言って上のドアを開け、這い上った。
しかし、すぐにスコットの怒声が聞こえた。
「ちっ!グールだ!」
続けて銃声。
ローグからは空しか見えないが、スコットはグールとジープの近くで戦っているようだ。
「スコット、大丈夫か!?すぐ行く!」
ネイオがシートベルトを外し、素早く上のドアから外へ這い出る。
銃声がさらに激しくなった。
「ネイオ!そっちはどうなってるんだ!?」
なにも見えないローグは、もどかしくなって叫んだ。
しばらくして、シュナイダーの側のドアが開き、ネイオが顔を覗かせた。
「グール達はスコットが抑えてる!シュナイダーを下から押してくれ!」
「わかった!」
ローグは頷いた。
敵が迫っている。
急がなければ。
ネイオがシュナイダーの身体を、上からしっかりと掴む。
ローグはシュナイダーのシートベルトを外し、押し上げた。
「く………重い……」
ネイオが唸る。
「早く!」
ローグはシュナイダーを押し上げ続けながら言った。
「敵が―――」
デュン
音がした。
ブラスターの発射音だ。
肉を何かが貫く音がする。
スコットのうめき声。
銃声がやむ。
どさりと倒れる音。
ネイオが振り返り、信じられないという顔で叫んだ。
「スコット!」
ネイオがシュナイダーの身体を放し、一気にローグの視界から消え去った。
「スコット!」
ネイオの泣きそうな、嘆願するような声がする。
ハンドガンの銃声。
フィアの雄叫びが聞こえた。
ネイオが支離滅裂な言葉を叫び、銃声がさらに激しくなる。
しかし、ブラスターの発射音が再び鳴り響き、ネイオのうめき声が聞こえた。
銃声がやむ。
「ちくしょっ!」
ローグは落ちてきたシュナイダーの身体を必死に安定させ、下に安静に下ろすと、先ほど手に入れたバズーカを背中に回し、ハンドガンを手にすると、上のドアから飛び出した。
見ると、ネイオがジープの側でわき腹を押さえうずくまっている。
近くにはブラスターを持ったフィアが倒れていた。
折り重なるように、スコットが顔面蒼白で倒れている。
出血が酷い。
目は閉じられていた。
「スコット!?」
ローグはジープから飛び降りると、スコットに駆け寄った。
「気絶してる……だけだと思う」
ネイオが痛そうにわき腹を押さえながら、苦しげに言った。
彼のわき腹の軍服には、血がうっすらと染みている。
「早く……逃げないと……」
ローグは周りを見てつぶやいた。
たくさんのグールが、彼らにひたひたと近寄ってきている。
「ちっ………」
ネイオはうずくまったままハンドガンを構えると、グールに向けて撃ち始めた。
「俺が奴らを牽制する。ローグはシュナイダーをジープから運び出してくれ。ああ、その前にスコットの胸の傷、止血できるか?」
ローグは屈み込み、スコットの胸の傷を看た。
やはり、フィアに撃たれたようだ。
幸い、当たったのは右胸だ。
しかし、出血は相変わらず酷い。
治療が必要だろう。
死なせてたまるか。
ローグは上着を脱ぐと噛み裂き、傷にしっかりと巻いた。
「ローグ、急げ!ヴェノムでも来たら、俺らは一巻の終わりだ!」
ネイオの言葉にローグは頷き、ジープを一気に駆け登ると、助手席に置いてきたシュナイダーをなんとか引っ張り出した。
シュナイダーは相変わらず酷い状態だ。
ガラスが刺さりまくっている軍服は血に染まり、頭部からの出血も激しくなっている。
「ネイオ!あの瓦礫の山に隠れよう!」
ローグは道の隅の瓦礫の山を指さした。
「スコットを頼む!」
そう言うとローグは腰からスモーク・グレネードを取り出し、地面に叩きつけた。
大量の煙が一気に噴き出し、辺り一面が煙に覆われる。
ローグはシュナイダーを担ぎ上げると、瓦礫の山に向かった。
ネイオもスコットを引きずりながら、難儀そうに歩いてくる。
ローグは瓦礫の山の陰にシュナイダーを押し込むと、自分も潜り込んだ。
ネイオ達も同じようにしている。
ローグはシュナイダーの傷を看た。
ガラスは抜かない方がいいだろう。
抜けば、出血が酷くなる。
しかし、体内に入らないように注意しなければ。
ローグはシュナイダーの頭部の傷に自らの上着の残りを巻き、ようやく安心のため息をついた。
「青龍作戦、第一段階終了!被害は、532名中、498名が死亡、そして4名が行方不明です!」
富士基地の指令室で、オペレーターが叫んだ。
ブライドンは頷いた。
「やはり、被害は大きいな。敵は分岐点に到着したか?」
「まもなくです!」
「よし。作戦遂行部隊にそれぞれ報せよ」
フィア軍は、道が2手に分かれる地点にさしかかっていた。
道を右に行けば、富士自衛隊基地へと続く山道。
道を左に行けば、海岸沿いにある富士宮市に通じるのだ。
『よし。第10から第30隊はフジ基地へ、第31から第50隊はフジノミヤ市へ向かえ。第1から第9隊はここに待機だ』
フィアの将軍はそう指示を下した。
たくさんのグールやフィアが2手に分かれ、進撃していく。
将軍はにんまりと笑った。
「奴ら、来たぜ」
リッドは窓縁の下に隠れたまま、つぶやいた。
「了解」
近くのドミニクが返す。
「腕の見せどころだわ」
ローラナだ。
「よし。ドミニク、ヘヴィ・マシンガンはいいな?」
「ああ」
リッドの問いに、ドミニクは両手で持った重機関銃を見せた。
大量の弾薬ベルトを巻いた重機関銃だ。
リッドは満足げに頷いた。
ここは富士宮市。
この街に、住民の姿は無かった。
間もなく、この街が地図から消える予定だからだ。
リッド達は通り沿いの建物の2階にいた。
通りに面するように窓が3つあり、そこから敵を迎撃するのだ。
「わかってるな?俺らはあくまでも、中国の連中が攻撃座標を決めるまでの足止めだ。無理すんじゃねーぞ」
リッドがそう言った瞬間、爆音が響いた。
地雷。
迎撃開始の合図だ。
あちこちから銃声が聞こえてくる。
リッドは窓に駆け寄り、ガラスを叩き割ると、通りを進撃しているヴェノムに狙いを定めた。
「じゃあな」
彼はバズーカを撃った。
ポータブル・ミサイルが白い弾道を残し、すぐ下のヴェノムに向かっていく。
文句無しに命中した。
装甲が粉砕する。
ヴェノムがぐらりと揺れ、グールを巻き込んで倒れる。
直後、爆発が起き、グールやフィアを吹っ飛ばした。
ドミニクが窓縁に重機関銃を設置している。
ローラナが銃撃しているのも見えた。
向かいの建物の窓でも、自衛隊員が眼下の敵に重機関銃を撃ちまくっている。
富士宮のあちこちで味方が戦っているはずだ。
リッドは手榴弾を手にし、ピンをくわえて外した。
「炮烙落としだ!」
リッドは高らかに叫ぶと、通りに手榴弾を落とした。
フィアの悲鳴。
一瞬後、爆発と共にフィアの身体が引き裂かれた。
ドミニクがようやく重機関銃を構え、撃ちまくり始めた。
マシンガンから凄まじい勢いで銃弾が放たれ、次々にグールを薙ぎ倒していく。
アメリカ人だったグールが、銃弾の嵐を浴びて倒れた。
「いいよ、ドミニク!もっとやっちゃって!」
ローラナがマガジンを装填しながら言う。
しかし次の瞬間、窓から何かが飛び込んできた。
球状のそれは、床にコロコロと転がった。
「………なんだ?」
リッドがつぶやく。
その瞬間、彼はボールが一体なんなのかに気がついた。
「―――ッ!伏せろ!」
リッドが叫んだ瞬間、フィアの手榴弾が爆発した。
一瞬、周りの空間のあらゆる物が、わずかに手榴弾に引き寄せられる。
空間が歪んだ。
その次の瞬間、手榴弾から放射状に凄まじい衝撃波が放たれた。
リッドは伏せていたものの、思い切り吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
激痛が全身を駆け巡る。
机の上にあったコップが吹っ飛び、勢いよく壁に当たって玉砕した。
そして、衝撃波と共に、手榴弾の中に仕込んであった大量の鋭い破片も、周囲に凶器となって飛来した。
リッドの二の腕を破片がかすめる。
一瞬で軍服が切り裂かれ、血が噴き出した。
ローラナが悲鳴をあげる。
破片は、彼女の右肩をザックリと切り裂いていた。
しかし、もっとも悲惨なのはドミニクだった。
重機関銃を撃っていた彼は、その騒音でリッドの声が聞こえず、伏せなかったため、もろに衝撃波と大量の破片を身に受けたのだ。
リッドはドミニクの背中や後頭部に大量の破片が刺さっているのを見て愕然とした。
「ドミニク!」
彼は叫び、倒れているドミニクに駆け寄った。
まだ息がある。
しかし、後頭部から血が大量に噴き出している。
そして、はみ出してはならないものまではみ出していた。
「り、リッド!それ……!」
ローラナが叫ぶ。
「ああ……。神経だ」
リッドは吐き気を堪えて答えた。
ドミニクは気絶している。
しかし、この状況でも生きていた。
「………ローラナ、脱出するぞ。重機関銃を持て」
リッドはそう言うと、傷に気をつけながらドミニクをおぶった。
ローラナは頷き、重機関銃を窓縁から外すと腰に構えた。
「一刻も早く、ドミニクを………」
リッドは決意を込めてつぶやいた。
富士基地に向かったフィア達は、山道をゆっくりと進んでいた。
両横には深い森。
ヴィシスが唸りながら地面を蛇行している。
『気をつけろよ』
フィアの一匹が仲間に言った。
『奴ら、隠れてるかも』
『グール・ウルフを連れてこれば良かったな』
仲間がつぶやいた。
『あいつらは鼻が利く。役たたずのグールよりよっぽど使えるさ』
『全くだ。グールはただの弾よけにしかなりゃしない』
次の瞬間、フィアの脳髄を何かが貫いた。
クロウは枯れ葉や下草を模した布をかぶり、顔にネイビー・グリーンを描き、スナイパー・ライフルを構えて地面に伏せていた。
布は完全に周りと同一化し、ライフルもネイビー・グリーンが施してあるため分かりづらい。
クロウは完全に景色に溶け込んでいた。
彼はスコープを覗き込み、山道を歩いている敵部隊を狙っていた。
何もしらないフィア達が、不気味な声で会話している。
「攻撃を開始する」
クロウはインカムに囁くと、引き金を引いた。
サイレンサーを装備したスナイパー・ライフルから、音もなく必殺の銃弾が放たれた。
スコープの中のフィアが、バタリと倒れる。
クロウはニヤリとほくそ笑んだ。
隣のフィアも、一瞬で倒れた。
別のフィアが警戒の声をあげ、姿無き敵を必死に捜しだそうとしている。
しかし、そのフィアも銃弾を脳天に浴びて死んでいた。
この一帯の森林には、クロウの他にビッド、カトリーナ、そして大勢の狙撃兵が潜んでいた。
ブライドンの作戦だ。
地の利を生かし、敵を罠に誘い込んだのだ。
フィア達がパニックに陥り、混乱したように叫んでいた。
グールがわけもわからない間に殺されていく。
フィアがブラスターをめちゃくちゃに撃ちながら後退しているのが見えた。
しかし、銃弾がフィアの頭を一瞬で貫いた。
『よっしゃ』
ビッドの声がインカムから聞こえる。
クロウは、瞳無き白い濁眼を怒りに閃かせながら、戦慄の咆哮をあげているヴィシスにライフルを向けた。
大量のフィアやグールが死んでいく。
フィア軍の後方でも同じ事が起きているだろう。
「ゲーム・オーバーだ」
クロウはヴィシスの濁眼に銃弾を撃ち込んだ。
ヴィシスがつんざくような悲鳴をあげる。
その次の瞬間、ヴィシスの脳髄を銃弾が貫いた。
ヴィシスがさらに怒りの声をあげる。
しかし、ヴィシスはそこで力尽き、大量の血を吐いて倒れた。
『やった………』
カトリーナだ。
『お客さんはさんざんのようだぜ?クロウ』
ビッドの声が聞こえた。
「いいのさ。あんな気持ち悪いお客さんには早く帰ってもらいたいからな」
クロウはグールを撃ち倒しながらつぶやいた。
「ほんと、最近の客は手癖が悪い―――」
その時、クロウは背後から猛烈な殺気を感じた。
「あー、くそっ」
クロウは頭をガシガシと掻き、つぶやいた。
「上客が来た」
彼の背後には、リッカーが獰猛な唸り声をあげ、たたずんでいた。
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