JEWEL

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獅子と不死鳥 1

海斗が両性具有です、苦手な方はご注意ください。

土砂降りの雨の中、ある貴族の葬儀が行われていた。

―可哀想に・・
―あの方は?
―ショックが大き過ぎて、お部屋に籠もられているそうよ。
貴族が入った棺が地中深く埋められている頃、ロンドン・イーストエンドでは一人の少年の遺体が発見された。
その少年の死に顔は、何故か天使のように微笑んでいた。
「聞いたかい?」
「あぁ、聞いたとも!何でも、死んだあの子は・・」
「しっ!誰かに聞かれでもしたらどうするんだい?」
「構いやしないさ。ここら辺の奴らは、“あの家”事は知っている。」
テムズの泥ひばり達がそんな事を話していると、そこへスコットランド=ヤードのアーサー警部補がやって来た。
「君達、何を話しているんだい?」
「あぁ、おまわりさん、あたし達が話していたのは、あの子の事だよ。ほら、一昨日見つかった・・」
「あぁ、あの子か。」
アーサーは、テムズ川で発見された、“エンジェル・ボーイ”を思い出していた。
“エンジェル・ボーイ”は、美しい身元不明の少年の遺体だった。
着衣に乱れなどなく、寧ろ、“綺麗過ぎて”いた。
美しい糖蜜色の髪は櫛で整えられていた。
「あの子、もしかしたら貴族の子供じゃないかい?」
「そうだろうね。ソックスガーターなんて、ここいらの子供はつけないからね。」
「貴族の子、かぁ・・遺留品を探れば身元が判るかもしれないなぁ・・」
アーサーは泥ひばり達に礼を言うと、スコットランド=ヤードへと戻った。
「アーサー、何処へ行く?」
「“エンジェル・ボーイ”の遺留品は?」
「“エンジェル・ボーイ”の遺留品は保管庫だ。」
「ありがとうございます!」
アーサーは早速、“エンジェル・ボーイ”の遺留品を調べ始めた。
ソックスガーターなどの衣類、懐中時計、指輪などの装身具類・・隅から隅まで調べたが、“エンジェル=ボーイ”の身元に繋がる物は無かった。
(指輪に何があればいいんだが・・)
アーサーが溜息を吐きながら指輪を調べていると、その表面には、微かに紋章のようなものが彫られている事に気づいた。
(これは、獅子と不死鳥・・まさか・・)
アーサーはその指輪を持って、紋章院へと向かった。
「この指輪に彫られているのは・・」
「あぁ、これはバーモンド子爵家の紋章ですよ。」
「そうですか。」
バーモンドといえば、アメリカ西部で金鉱を発掘した事で三年前時の人となった青年が居た。
(確か、彼の名は、アーサー・・)
アーサー=バーモンドと“エンジェル・ボーイ”の関係を探る為、アーサー警部補はバーモンド子爵家へと向かった。
「失礼、こちらにアーサー様はおられますか?わたしは、スコットランド=ヤードのアーサー=ウィード警部補です。今日こちらに伺ったのは・・」
「アーサー坊ちゃまは、お亡くなりになられました。」
「それは、いつの事ですか?」
「一週間前の事です。狩猟中の事故で・・」
「そうですか。あの、この指輪に見覚えがありますか?」
「これは・・」
「ニール坊ちゃまの物だわ!」
客間に紅茶と菓子を載せたワゴンを押して入って来たメイドが、そう叫んでアーサーが持っている指輪を指した。
「ニール坊ちゃま、とは?」
「アーサー坊ちゃまの兄上様にあたられる、レイモンド坊ちゃまのご子息です。」
「そのニール坊ちゃまは、今どちらに?」
「申し訳ありません、わたくしの口からはこれ以上申し上げる事はありません。どうぞ、お引き取り下さい。」
「ですが・・」
「どうぞ、お引き取り下さい。アン、お客様をお見送りなさい。」
「はい。」
これ以上深入りはすまい―アーサー警部補がバーモンド子爵家から出て行こうとした時、彼は一人のメイドと擦れ違った。
「あのすいません、ニール坊ちゃまは・・」
「ニール坊ちゃまは、一週間前に行方不明になりました。」
「行方不明に?」
「はい。レイモンド坊ちゃまと奥様と共に、ロンドンにある救貧院をご視察中に・・」
メイドがそう言った時、彼女は突然何者かの視線に気づいた。
「どうされましたか?」
「すいません、わたしはこれで失礼致します。」
「は、はい・・」
何かがおかしい―アーサーはそう思いながら、バーモンド子爵家から去っていった。
「あの刑事はもう出て行ったの?」
「はい、大奥様。」
「ジョン、あの男が通った所を全て掃除なさい。下賤な者の臭いが消えるまでね。」
「かしこまりました、大奥様。」
老執事は、激しく咳込む女主人にハンカチを差し出した。
「ありがとう、ジョン。」
女主人―エリザベス=バーモンドは、大好きな薔薇の香水が染み込んだハンカチで鼻と口元を覆った。
「少し疲れたわ、部屋まで運んで頂戴。」
「はい、大奥様。」
「お前は良く出来た執事ね、ジョン。」

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