2月23日(金)
旅と自己表現 岡井隆
鑑賞:角川春樹句集「補陀落の径」(19)
角川雑誌「短歌」(昭和60年3月号)より
5.自己表現と先蹤性(2)
虚として居住地の東京がみられている、ということをはじめに言ったが、虚としてみられているのは、東京だけではない。現実のすべてが一塊として虚の様相をたたえてみえる。「鳥葬の國」という一連があり、一圧巻である。二グレン風にいえば、エロースの旅である。それなのに、ここには淡々たるチベット風俗の句が、さらりさらりと、五・七・五のひびきに従って閉じ込められていく。旅のモチーフの濃厚さと、句の表情の淡白さと。この矛盾には、ユートピアの一つが、非ユートピアへと移行するさびしさもあろう。しかし、
鳥葬といふ暗がりに蟻地獄
馬市の 糶 られ残りが 嘶 くよ
には、流され白鳥の残響がある。「補陀落といふまぼろし」の果てに、次のユートピアが、夏雲のようにせり上がって来るのを、わたしたちは期待すべきなのであろう。
(この項終り)
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