132. 【冷-令+土】 高知県高岡郡窪川町に[冷-令+土]の川(ぬたのかわ)がある。窪川町税務課及び町民課で聴取により調査した結果によると、辞書などにある「汢ノ川」はこの地名の誤りであることがわかった。この情報は、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』にも反映していただいたが、漢和辞典等で、このことを書いているものはない。
270. 【垉】 『龍龕手鑑』に「歩交反」とあるが義未詳であり、『漢韓最新理想玉篇』には「掘也」とあるが典拠が示されていない。『名義抄』・『字鏡鈔』・『字鏡抄』・『字鏡集寛元本』など日本の古字書にも「歩交反」と反切を示すものがあり、中国の影響と考えられるが、『漢韓最新理想玉篇』の意味と一致するものはない。『音訓篇立』に「ツカル カフル」とある。愛知県豊田市東保見町に字垉六(ほうろく)がある。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「従来知られていなかったが、この地名から1978JISに採用されたものである。『国土行政区画総覧』は1979.04に「[圦-入+包]六」に1993.10に「抱六」にかえられたが、役所のオンラインでは「[圦-入+包]六」となっているという」とある。
302. 【墸】 「躇」の異体字とされるが典拠を示してあるものはなかったが、『集韻』の一本に「墸」があることを笹原宏之氏からご教示された。ただ止偏の誤刻と考えられ、別本にはないそうである。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に詳しい。
312. 【壥】 「廛」の異体字とされることが多いが、典拠が示してあるものはなかった。『米沢文庫本倭玉篇』に「[圦-入+(壥-黒〈旧字体〉+黒)] テン イル イチクラ」とあり、初めて典拠が発見できた。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。日中ともに「纒」が「纏」の異体字であることからしても、和製異体字とは考えられない。『米沢文庫本倭玉篇』の例は、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』にも採用されたが、完全には同じ字形ではない。『明朝体活字字形一覧』の「博文四号1914年」に「壥」の活字がある。
327. 【妛】 苗字に妛芸凡(あきおうし)がある(丹羽基二著『苗字 この不思議な符牒』(丹羽基二編『日本苗字大辞典』は[山*女]芸凡とする)。[山*女]の字は、『中華字海』が魏時代の墓誌に見られる文字として「同安」とする。苗字の例も「安」の異体字と考えられる。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「従来[妛-山+屮]の異体字とされていたが、原典とした『国土行政区画総覧』で滋賀県犬上郡河内通称[山*女]原(あけんばら)の[山*女]の字の作字をした際に紙の影が写り、JIS選定時に「妛」と誤認され転写されたのである」とある。『字鏡鈔』・『字鏡抄』・『字鏡集寛元本』に「妛」の字で、「シ 之 アサムク」とあり、この場合は[妛-山+屮]の異体字であろうか。また[山*女]の字で、『名義抄』などに「アサムク」、『温故知新書』に「アケヒ」とある。その他実例は笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に詳しい。
435. 【岾】 大岾(おおはけ)・岾野(はけの)は埼玉県所沢市大字南永井の小字、岾(はけ)は同市大字坂ノ下の小字(所沢市役所にて調査)。JISの原典典拠の京都市左京区浄土寺広岾町(じょうどじひろやまちょう)は『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「現在では広帖町(こうちょうちょう)に改められている」とある。『世尊寺本字鏡』に「コ音 古都反 [岬-甲+己]也 无草山」、『篇目次第』に「テウ反ヤマ」、『法華三大部難字記』に「タカシ」とある。[岬-甲+古]などの異体字であろうか。国字といわれることもあるが、嶺の意の地名用字として永郎岾・楡岾寺が韓国にあり、即断はできない。音をセンとつける字書があるが、典拠はあるのだろうか。
544. 【恷】 多くの漢和辞典で音義未詳とされたり、類推音が付けられたりしている文字である。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「JISの原典典拠は日本生命人名表。ただし、用例は不明。NTT固有名に恷志(ヤスシ・ヨシユキ)など19件の用例がある」とある。このことから「烋」の異体字と考えられる。『新刊節用集大全』に行書体で「烋 さいハひ」、楷書体で「恷」とある。それぞれ「述」の字のように右肩に点がつくが、手書き時にはよくおこることで、「烋・恷」と同字と考えられる。「烋」の字の[烋-休]を「心」の崩れたものと考え、楷書化する際に「恷」の字を作ってしまったという歴史は、1600年代まで300年も遡る可能性が大きくなったといえよう。10世紀の中国の書籍を元に作られた『楷法辨體』に「煎」の俗字として[恷-休+前]があることを考慮すれば、中国でもこのような変化が起きる可能性は否定できないが、中国の辞書などに発見できないので、現時点では「烋」の和製異体字としておく。『大漢語林』に「音義未詳。烋の誤字か。」とあるのは、誤った類推ではなかったことがわかったといえる。漢和辞典などで「キュウ」という音や「もとる」という訓がつけられたりすることがあるが根拠があるのだろうか。
637. 【挧】 『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「『日本地名大辞典』の福井県には「挧谷」があるが、現地の役所によれば「栩谷」(トチダニ・トッタニ)」とある。『中華字海』に「音羽、苗字」とあるが、JIS漢字との関係はないだろう。
720. 【暃】 音義未詳とされることが多い文字である。『法華三大部難字記』に「罪」の意味で使われているところがあるが、個人的な書き癖であろう。[暗-音+非]の異体字とする説もあるが根拠はない。「恷」と同様に国字といえるほどの文字ではない。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「NTT固有名に6件の用例がある」とあり、芝野耕司編著『JIS漢字字典』にその一例「一暃(かずあき)」がある。旺文社漢和辞典は「音ヒ、日の色・(一説に腓の誤り)避ける」などと解説するが、典拠が明らかにできなければ第六版では音義未詳とする旨の回答が編者からあった。その後、第六版ではないものの編者の内二名が編集の中心となった『旺文社漢字典』では、「(一説に腓の誤り)避ける」の部分は削除されたが、「音ヒ、日の色」は残され、「(罪の俗字)つみ」という解説が加えられた。『五十音引き講談社漢和辞典』には、「音ヒ。意味未詳。解字未詳。一説に罪の異体字とする。」とある。「罪」の意で用いるのは、『法華三大部難字記』のみで、俗字とか異体字というレベルにはなく、誤字または、誤用とすべきである。なお、類推音をつけたり、動用字であろうと類推して根拠のない解説を付けることは、正しい知識を漢和辞典に求める読者に対する冒涜であり、厳に謹むべき事である。
756. 【膤】 笹原宏之著『JIS漢字と位相』に「熊本県水俣市の地名に膤割(ゆきわり)がある」とある。のち同氏によって、これがJISの典拠であったことが確認され、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「JISの典拠は『国土行政区画総覧』にある熊本県膤割(ゆきわり)。膤割(ゆきわり)の読みは現地の役所に確認済。」と書かれた。
827. 【椦】 『玄應一切經音義』に「[村-寸+卷]律文作椦非體」とある。『字鏡鈔』に「ちきり」とある。この場合は漢字と同義である。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「群馬県前橋市[村-寸+勝]島(ぬでじま)町が『国土行政区画総覧』に現れながら未採録であり、おそらくこの“ヌデ”字の誤写であろう」とある。『玄應一切經音義』の典拠は、私が発見し、通産省に送ったことから『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に暗合としてのったものであるが、これ以前にも「ちきり」と解説したものはあった。『玄應一切經音義』・『字鏡鈔』以外の典拠をご存知の方はご教示をお願いします。
897. 【橸】 『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「原典典拠の『国土行政区画総覧』には発見できないが、『日本地名大辞典』にある静岡市石橸(いしだる)は市役所の大字・小字名集成でも確認できる」とある。
1294. 【穃】 笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「JISの典拠は『国土行政区画総覧1974.06』の沖縄県中頭郡美里村古謝小字穃原(ようばる)である。1995年現在、沖縄市役所の固定資産税課によると、ここは「榕原」と書くもので、現存している1983年の土地台帳、公図でも同様という。」とある。
1387. 【粐】 粐薪沢(ぬかまきざわ)は秋田県秋田市の地名。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「『国土行政区画総覧』にあるこの地名がJISの原典典拠」とある。「すくも」と読む辞書もあるが、「粭」の読みをあてただけで、根拠のないものであろう。
1392. 【粭】 粭島(すくもじま)は山口県徳山市の地名。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「『国土行政区画総覧』にあるこの地名がJISの原典典拠」とある。『難訓辭典』に「周防國都濃郡粭島(すくもじま)村」とある。
1393. 【粫】 『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「『国土行政区画総覧』にある福島県の粫田(うるちだ)がJISの原典典拠。ただし、現地(白河市)の役所によれば糯田(もちだ)」とある。「糯」は苗字では「うるち」とも「もち」とも読まれる。「粫」が誤字としても「糯田」が「うるちだ」と呼ばれた時期がある可能性は否定できない。
1407. 【糘】 『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「JISの典拠は広島県の祇園町西山本糘尻(すくもじり)」とある。『日本地図帖地名索引』に同県の糘地(すくもじ)、『国字の字典』に岡山県久米郡久米町大字桑下字糘山(すくもやま)がある。
1904. 【軅】 笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、JISの典拠として『国土行政区画総覧』から「福島県白河市(大字なし)通称白坂字軅飛(たかとぶ)」が引かれている。同書に「この地名は「国土調査により字名変更」があり、「鷹飛(たかとび)」になっている。従来漢和辞典やワープロ漢字辞典のほとんどすべてが「軈(やがて)」の異体字としていた。しかし「軅」は「鷹」の動用字ないし篆書体に基づく字体[鳥+(應-/心)]がさらに崩れたものであった」とある。「軈」の異体字とした辞書の編者は何を典拠としたものであろうか。また同氏により、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』にも『国土行政区画総覧』から同様の解説が付けられた。その後二年あまりを経て出版された『旺文社漢字典』が「やがて 〔軈〕の俗字」と解説するのは、理解に苦しむ。ただ次の文字は、「軈」の異体字であると考えられる。[射-寸+応]は、「明治期の小説家の手稿に「[射-寸+応]て」と見え、文脈からして、「軈(やがて)」の意に使われているのは間違いない」と、笹原宏之氏からご教示を受けた。『明朝体活字字形一覧』の「築地五号1894年・1913年」にもこの文字がある。広い意味で[射-寸+応]は国字だが、使用位相が狭く、ほとんど手書きのみで、活字化されることが希であった文字であろう。
2248. 【靹】 『大漢和辭典』・『中文大辭典』などで音義未詳とされるが、『篇目次第』などに「同[靹-革+韋]」とある。『漢語大字典』は、『大漢和辭典』が引く『呂氏春秋』のほか、『札[込-入+多]』から「靹,當為[靹-革+韋]」、『農政全書』から「堅者耕之,澤其靹而後之」と引いて、「柔軟的(土壌)」とする。これがJIS漢字の典拠ではないが、「鞆」の異体字とする典拠もそれほど明確なものではない。『JIS X 0208:1997附属書6(規定)漢字の分類及び配列』に「ドウ,ノウ」とあるが、典拠は明示されていない。芝野耕司編著『JIS漢字字典』に「靹谷(トモタニ・姓)」とある。『和製漢字の辞典』の「鞆」参照。