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「医者、用水路を拓く」
アフガンの大地から世界の虚構に挑む
中村哲 著
石風社
中村先生、好きだー。
観念をこねくり回したりしない人。
人が苦しんでいたら、助けるのは、当たり前なのである。
何の躊躇もない。
ダラエヌールへの道などは、人、の問題、誠意や誠実を妨げる諸機関と、どのように渡り合うか、というようなことが多く、人事、の大変さ、が際立っていた。
が、ここへ来て、ちがう。
明らかに違う。
立ち向かう相手は、「自然」なのだ。
ペシャワール会報を読んでいたので、大体、知っているつもりだった。
ぜんぜん、分かってなかった。
「堰上げ」「貯水池」「灌漑」-水路を作るのだろう?何かたいへんなのかな?溝掘るんだよね?
それに、いきなり聖牛だ、蛇かごだ、サイフォンだ、ッて、サイフォン、て何だ?
知らぬ用語が次々現われ説明のつかない会報、実は面食らっていたんです。
本で読んで、なぜ、それらが必要だったか。一つ一つ、経緯がある、よくわかった。
手に汗握るとは、このこと。
まー、よくこれだけ、次から次へと難題がかぶさってくること!
それを、知力、気力、人心の結集、自然の凝視、過去との対話、全体を見る目で、乗り切ってゆく。
事実は、小説よりも奇なり、真なり。
「難関」という言葉がふさわしい、いくつもの工事。
「自然」と格闘するなかで、技術を確立し、自然を見る目が出来てゆく。
ああ、人間として生まれてきたなら、誰もが憬れるであろう、この生!
以下、抜粋
この四年間は洪水、土石流、集中豪雨、地すべりなど、あらゆる自然災害との戦いに明け暮れた。
平和とは決して人間同士だけの問題でなく、自然との関わり方に深く依拠していることは確かである。
私たちが持たなくてよいものは何か、人として最後まで失ってはならぬものは何か。
淡々と日常の生を刻む人々の姿が忘れられなかった。
私たちの文明は大地から足が浮いてしまったのだ。
全ては砂漠の彼方に揺らめく蜃気楼の如く、真実とは遠い出来事である。
それが無性に哀しかった。
・・
確かなのは、漠々たる水なし地獄にもかかわらず、アフガニスタンが私に動かぬ「人間」をみせてくれたことである。
「自由と民主主義」は今、テロ報復で、大規模な殺戮を展開しようとしている。
戦時体制の国家との協調がいかに危険なものか、一国の政府が他国に軍事力を及ぼすことがいかに重大であるか、皆が深刻に事態を考えていたとは到底思えない。
他に逃れることの出来ない地方の飢餓避難民が大部分であった。
彼らは空爆があっても国外へ逃げ出せないだろう。
本当に緊急な支援が必要なのは今!アフガン国内なのだ。
九月下旬、なにものかが自分のなかでふっ切れて、指示をだした。
世界中が寄ってたかって「アフガニスタン」を論じている間にも、飢えた人々が彷徨い、病人が死んでゆく。
世界中が何かに気兼ねして、当たり前のことが公言できない雰囲気である。
あの状況下で、「院長命令で」、その大儀を堂々と掲げて実施できる、そのことに皆の気持ちが束ねられたのである。
奪われたる言葉の代わりに
おこないをもて語らむとする心を
・・かくて、「自由とデモクラシー」は死語となり、戦争の合理化の小道具に変質した。
私の意図は、目前にした事実を伝え、平和を願う意志を理屈から力に転化することであった。
観念の戦いは不毛である。
平和は戦争以上に積極的な力でなければならぬ。
空疎な主義主張の衝突や、憶測の正否、時流に流されやすい世論から距離を置き、何かをしたいが、、、と思う日本人の健全な感性を食糧配給に結び付けたかった。
信じがたい狂気の支配する時であればこそ、正気を対置して事実を伝えるべきである。
ー世界第二位の軍事予算が自衛のために必要であるわけがない。
「人道支援」を名目に姑息なやり方で自衛隊を海外に派兵することが、いかに危険で不毛な結果に終わるか、余りに浅慮だ。
しかも、それが全くの憶測や事実誤認に基づいて行なわれるなら、これほど怖いことはない。
「今緊急なアフガン問題は、政治や軍事問題ではない。
パンと水の問題である。
命の尊さこそ普遍的な事実である。」
「自衛隊派遣は有害無益、飢餓状態の解消こそが最大の問題であります。」
つまらない議論だと思った。「デモクラシー」とはこの程度のもので、所詮、コップの中の嵐なのだ。
しかし、コップの中の嵐といえども、それが一国民の命運を左右するのであるから、空恐ろしい話だとも思った。
「罪のない者を巻き添えにして政治目的を達するのがテロリズムというならば、報復爆撃も同じレベルの蛮行である。」
アフガンへの軍事的関与は、百年前の義和団事件を想起させた。
暴徒鎮圧、国際協力を名目に各国軍が送り込まれ、自分にとって都合のいい中国を作ろうとした動きに似ている。
実態は、無差別爆撃であった。ただし計画的に爆撃地区が選ばれたのは事実で、・・
罪のない子をたくさん餓死させた上、ご丁寧に爆弾を振りまいて殺傷し、いまさら教育支援だの、医療支援だのあるものか。人の命を何と思っとるんだ。
「難民帰還プロジェクト」は、かくて一種の政治的ショーとならざるを得なかった。